寂しがり少女
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「お……お邪魔します」
「おう、入れ入れ」
予定通り退院をした私はそのまま不動さんが住むマンションに転がり込む形になった。
最近引っ越しをしたらしく、入った室内は物が少なく綺麗で、私は不動さんから各部屋の説明を聞いて、最後に案内されたのは私の部屋だった。
扉を開けると、机とベットにクローゼットというシンプルだけど、家具が揃えられていることに驚いて思わず不動さんの顔を見る。
「……家具。わざわざ揃えてくれたんですか?」
自分が住みやすいような部屋にしてくれたことが意外に思う気持ちと、金額面からの申し訳なさになんて言うか迷っていると不動さんははぁ、とため息をついて私から目線を逸らす。
「ガキがそんな事考えなくていいんだよ。自分だけの部屋があってラッキーぐらいに思っとけ」
荷物置いたらリビングに来いよ、とぶっきらぼうに伝えて廊下の先を歩いて行ってしまった不動さんは誰の目から見ても不機嫌に映るだろう。
……そんなに失礼なことを言ってしまったのか。
不機嫌の理由も分からず首を傾げたけれど、いつまでも立ち尽くしている訳にはいかないので、私はその部屋へ足を踏み入れた。
「木の家具久々だ……」
机の上に荷物を置きながら、久々の木材の暖かみに触れてポツリと呟く。
影山が用意した部屋なんて、鉄に囲まれた無機質な部屋だったから仕方ない。
私は自分の唯一の荷物であるスポーツバックを開けた。潜水艦と一緒に海に沈んだと諦めていたけれど、真帝国のみんなが持ち運んでくれていた。
中に入っているのは、退院祝いに真帝国のみんなに貰ったお菓子や本等を除けば普段からスポーツバックに常備していたものが入っていた。
真・帝国学園のユニフォームと練習着のシャツとジャージ。
選手のデータをまとめたノート。
そして……サッカーボール。
私はそれを手に取ってジッと見る。
持ってきたはいいけれど、自分が再びボールを蹴るかどうかなんて分からないくせに捨てられなかったもの。
しばらくサッカーボールを眺めていたけれど、不動さんを待たせてることを思い出し、私はそれを鞄に入れてさっさと部屋を出た。
リビングに行くと、机に何かを置いている不動さんの姿が見えた。ちらりと私を見た彼の機嫌はもう戻っていて、内心ほっとしながら軽く頭を下げた。
「今日は忙しかったからな。手抜きでも文句言うなよ」
不動さんが机に向かい合うように置いていたのは緑色のラベルのプラスチック容器……もしかして。
「これ、カップ麵ですか?」
「あ?早速文句か」
「初めて見た……」
「……マジかお前」
私は片方の席に座って、カップ麵をまじまじと見てしまう。……噂は比得くんとかから聞いてたけど、実物を見るのは初めてだ。
「……いただきます」
「……おー」
数分後に食べれるようになったらしく、蓋を開けて手を合わせる。
ラベルの文字通りならうどんらしいけれど、幼少期に施設で作ったうどんとは全く別物だなと思いながら食べて見れば、意外にも美味しくて、すぐに完食できた。
「ごちそうさまでした。カップ麵って美味しいんですね」
「いや、こんなんに味占めんな」
「えっ」
出してくれた物を美味しいと褒めたのに、とっくに食べ終えてる不動さんは何故か微妙な顔をしていた。
「お風呂、先に失礼しました」
「んー」
あれから数時間後、風呂から出てきた私はリビングへと戻ると不動さんはソファーの肘掛けに肩肘をついてテレビを見ていた。
やたら騒がしいテレビはバラエティー番組がかかっているようだったけど、不動さんはテレビそっちのけで何かを考え込んでいるように眺めているだけだった。同時にその横顔に既視感を感じた。
「……何の番組?」
「俺のガキの頃からやってる長寿番組。お前見たことねぇの?」
「……知りません」
それには触れずに、テレビの事を聞けばそう尋ねられる。
テレビなんて昔ならともかく今なんて、ニュースぐらいしか見なかったので素直に首を横に振れば、知らねぇことばっかだなお前は。と笑われた。
「すみません」
馬鹿にするニュアンスではなかったので、曖昧に謝るだけに留める。
だけど、そんな反応は不動さんからしたら面白くなかったのか、じとりとした視線を向けられる。
「お前さぁ、それやめろよ」
「それ?」
「その妙に畏まった敬語。一応妹ってことになってんだからタメで話せ」
「…………そう、だね」
先程不動さんに感じた既視感と、告げられた言葉に当の昔にあった記憶を少しだけ思い出すには十分だった。
ー『子どもがそんな敬語を使わなくていいのよ。明奈ちゃん』
……それはそうか。実の息子だもんな。
「何、明奈ちゃん。俺の顔見て」
「いや……なんでも」
「……アイツと似てるって言いてぇの?」
ハッと鼻で笑った後に、一段階低くなった声に肩が跳ねた。
テレビの電源を消した不動さんはソファーから立ち上がって、私の前に立つ。背後の照明のせいで不動さんの顔はよく見えない。
ただ、怒らせたことは分かった。
当たり前だ。不動さんは理由は知らないけれど、家出したぐらいには両親と不仲だったんだ。そんな彼に母と似てる、なんて不愉快でしかないだろう。
「お前……」
「……ッ」
ぬっと不動さんの手がこちらに向けて伸ばされるのを見て、私は反射的に目を瞑って、くるべき衝撃に備えていると、
「おらぁっ!」
「は……わぁぁっ!?」
急に体が宙に浮いた。地に足がつかない感覚に目を白黒させていると、すぐ近くで吹き出すような笑い声が聞こえた。
「くくっ、わぁぁって……!!お前っ……!」
その音はすぐ横に見えた不動さんが笑い声で、そこで私は不動さんに抱き上げられていることに気づいた。ひとしきり笑った後に私の視線に気づいた不動さんはまだニヤつきながらも私に話しかける。
「面白かったぜ?怒られる~ってビビり散らかす明奈ちゃんの顔」
「は……」
付き合いが長いとは言えないけれどそう笑う不動さんは私が知っている不動さんで。
そこで私はからかわれた、ということが分かった。
「~~っ!!降ろせっ!」
「手を離したら降りれるぜ?頭から」
「普通に、降ろせよっバカ!」
不動さんから見た私の情けなさに顔に熱が集まるのを感じながら、暴れるも不動さんは腕を外そうとしない。
「おいおい、口が悪いなぁ」
さらに口端を上げられて悪い笑みを浮かべる不動さんに、嫌な予感がして止めようとするも間に合わなかった。
「ちょっ、まっ……きゃあああ!?」
ぶんっと不動さんは私を抱き上げたままその場を回り出した。浮遊感だけじゃなくてグルグル回る景色なんて初めての感覚に、余裕をなくした私は抱きついて情けなく声を上げるしかなくて、不動さんのゲラゲラと笑う声も一緒に聞こえた。
テレビはとっくに消したはずなのに、しばらくリビングは騒がしかった。
「おう、入れ入れ」
予定通り退院をした私はそのまま不動さんが住むマンションに転がり込む形になった。
最近引っ越しをしたらしく、入った室内は物が少なく綺麗で、私は不動さんから各部屋の説明を聞いて、最後に案内されたのは私の部屋だった。
扉を開けると、机とベットにクローゼットというシンプルだけど、家具が揃えられていることに驚いて思わず不動さんの顔を見る。
「……家具。わざわざ揃えてくれたんですか?」
自分が住みやすいような部屋にしてくれたことが意外に思う気持ちと、金額面からの申し訳なさになんて言うか迷っていると不動さんははぁ、とため息をついて私から目線を逸らす。
「ガキがそんな事考えなくていいんだよ。自分だけの部屋があってラッキーぐらいに思っとけ」
荷物置いたらリビングに来いよ、とぶっきらぼうに伝えて廊下の先を歩いて行ってしまった不動さんは誰の目から見ても不機嫌に映るだろう。
……そんなに失礼なことを言ってしまったのか。
不機嫌の理由も分からず首を傾げたけれど、いつまでも立ち尽くしている訳にはいかないので、私はその部屋へ足を踏み入れた。
「木の家具久々だ……」
机の上に荷物を置きながら、久々の木材の暖かみに触れてポツリと呟く。
影山が用意した部屋なんて、鉄に囲まれた無機質な部屋だったから仕方ない。
私は自分の唯一の荷物であるスポーツバックを開けた。潜水艦と一緒に海に沈んだと諦めていたけれど、真帝国のみんなが持ち運んでくれていた。
中に入っているのは、退院祝いに真帝国のみんなに貰ったお菓子や本等を除けば普段からスポーツバックに常備していたものが入っていた。
真・帝国学園のユニフォームと練習着のシャツとジャージ。
選手のデータをまとめたノート。
そして……サッカーボール。
私はそれを手に取ってジッと見る。
持ってきたはいいけれど、自分が再びボールを蹴るかどうかなんて分からないくせに捨てられなかったもの。
しばらくサッカーボールを眺めていたけれど、不動さんを待たせてることを思い出し、私はそれを鞄に入れてさっさと部屋を出た。
リビングに行くと、机に何かを置いている不動さんの姿が見えた。ちらりと私を見た彼の機嫌はもう戻っていて、内心ほっとしながら軽く頭を下げた。
「今日は忙しかったからな。手抜きでも文句言うなよ」
不動さんが机に向かい合うように置いていたのは緑色のラベルのプラスチック容器……もしかして。
「これ、カップ麵ですか?」
「あ?早速文句か」
「初めて見た……」
「……マジかお前」
私は片方の席に座って、カップ麵をまじまじと見てしまう。……噂は比得くんとかから聞いてたけど、実物を見るのは初めてだ。
「……いただきます」
「……おー」
数分後に食べれるようになったらしく、蓋を開けて手を合わせる。
ラベルの文字通りならうどんらしいけれど、幼少期に施設で作ったうどんとは全く別物だなと思いながら食べて見れば、意外にも美味しくて、すぐに完食できた。
「ごちそうさまでした。カップ麵って美味しいんですね」
「いや、こんなんに味占めんな」
「えっ」
出してくれた物を美味しいと褒めたのに、とっくに食べ終えてる不動さんは何故か微妙な顔をしていた。
「お風呂、先に失礼しました」
「んー」
あれから数時間後、風呂から出てきた私はリビングへと戻ると不動さんはソファーの肘掛けに肩肘をついてテレビを見ていた。
やたら騒がしいテレビはバラエティー番組がかかっているようだったけど、不動さんはテレビそっちのけで何かを考え込んでいるように眺めているだけだった。同時にその横顔に既視感を感じた。
「……何の番組?」
「俺のガキの頃からやってる長寿番組。お前見たことねぇの?」
「……知りません」
それには触れずに、テレビの事を聞けばそう尋ねられる。
テレビなんて昔ならともかく今なんて、ニュースぐらいしか見なかったので素直に首を横に振れば、知らねぇことばっかだなお前は。と笑われた。
「すみません」
馬鹿にするニュアンスではなかったので、曖昧に謝るだけに留める。
だけど、そんな反応は不動さんからしたら面白くなかったのか、じとりとした視線を向けられる。
「お前さぁ、それやめろよ」
「それ?」
「その妙に畏まった敬語。一応妹ってことになってんだからタメで話せ」
「…………そう、だね」
先程不動さんに感じた既視感と、告げられた言葉に当の昔にあった記憶を少しだけ思い出すには十分だった。
ー『子どもがそんな敬語を使わなくていいのよ。明奈ちゃん』
……それはそうか。実の息子だもんな。
「何、明奈ちゃん。俺の顔見て」
「いや……なんでも」
「……アイツと似てるって言いてぇの?」
ハッと鼻で笑った後に、一段階低くなった声に肩が跳ねた。
テレビの電源を消した不動さんはソファーから立ち上がって、私の前に立つ。背後の照明のせいで不動さんの顔はよく見えない。
ただ、怒らせたことは分かった。
当たり前だ。不動さんは理由は知らないけれど、家出したぐらいには両親と不仲だったんだ。そんな彼に母と似てる、なんて不愉快でしかないだろう。
「お前……」
「……ッ」
ぬっと不動さんの手がこちらに向けて伸ばされるのを見て、私は反射的に目を瞑って、くるべき衝撃に備えていると、
「おらぁっ!」
「は……わぁぁっ!?」
急に体が宙に浮いた。地に足がつかない感覚に目を白黒させていると、すぐ近くで吹き出すような笑い声が聞こえた。
「くくっ、わぁぁって……!!お前っ……!」
その音はすぐ横に見えた不動さんが笑い声で、そこで私は不動さんに抱き上げられていることに気づいた。ひとしきり笑った後に私の視線に気づいた不動さんはまだニヤつきながらも私に話しかける。
「面白かったぜ?怒られる~ってビビり散らかす明奈ちゃんの顔」
「は……」
付き合いが長いとは言えないけれどそう笑う不動さんは私が知っている不動さんで。
そこで私はからかわれた、ということが分かった。
「~~っ!!降ろせっ!」
「手を離したら降りれるぜ?頭から」
「普通に、降ろせよっバカ!」
不動さんから見た私の情けなさに顔に熱が集まるのを感じながら、暴れるも不動さんは腕を外そうとしない。
「おいおい、口が悪いなぁ」
さらに口端を上げられて悪い笑みを浮かべる不動さんに、嫌な予感がして止めようとするも間に合わなかった。
「ちょっ、まっ……きゃあああ!?」
ぶんっと不動さんは私を抱き上げたままその場を回り出した。浮遊感だけじゃなくてグルグル回る景色なんて初めての感覚に、余裕をなくした私は抱きついて情けなく声を上げるしかなくて、不動さんのゲラゲラと笑う声も一緒に聞こえた。
テレビはとっくに消したはずなのに、しばらくリビングは騒がしかった。