寂しがり少女
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どさり、と佐久間さんが倒れると同時に試合終了のホイッスルが鳴った。
得点板を見れば、1-1と表示されている。試合は引き分け。……でも影山総帥からしたら、それは敗北と同じだ。
「佐久間……佐久間……!」
フィールドには三度も禁断の技を使い、気絶した佐久間さんを支えて何度も名前を呼ぶ源田さん。
その“皇帝ペンギン1号”を最後には体を張って止めた染岡さんも倒れたまま動かない。
…………私はこれだけの人を傷つけておいて、結局何も果たせなかった。
試合中にあんなに必死だったはずなのに、今の自分の頭の中は冷め切っていた。
目の前の光景をぼんやりと眺めていると、ふと感じるのは小さな揺れ。
海上だから、ではない感じたことのない揺れに、私はすぐ近くにいた目の前の惨状に顔を歪ませている同じチームの選手に声を掛けた。
「非常口の場所は前に教えただろ」
「はぁ?」
「…………巻き込んで、悪かったな」
「お、おい……!」
弥谷さんの返答を待つ気はない。私は一言それだけ伝えて背を向けて歩き出す。
その時、潜水艦が大きく揺れた。
「きゃっ!」
その揺れと共に目の前で、雷門のマネージャーが転びそうになっているのが目に入った。
ーああ、転んだら泣いちゃう。
咄嗟に私は彼女が転んでしまわないように、背中を支えた。
痛みに備えてぎゅうと目を閉じていたその子は何の痛みもやって来ない事に不思議そうにを開けて、それから私の存在に気づいて目を丸くする。
「おねえちゃ、」
「……すぐ後ろの通路の奥に救命ボートがある。それで脱出できる」
彼女が自分で立てれたことを確認して私は手をすぐに離した。反射とはいえ触れるのが申し訳なかった。
「傷つけて、ごめんなさい」
結局、ろくに妹の顔を見れないまま、謝罪だけをして私は彼女に伝えた真逆の通路へ走って行った。
爆発音が聞こえる中、私が向かったのは潜水艦の上部よりさらに上の屋上部分。
「不動か」
目的であるその人は風に煽られながらも立っていて、こちらを一瞥することなくかけられた冷たい声。
名前を呼んでくれないことにもうチャンスはないんだな、なんて思ってしまって、まだ期待してしまう自分がいることに呆れてしまった。
「……一つだけ、教えろ」
私は思いを断ち切るように首を振って、影山を見据えた。
「アンタは鬼道有人が私を引き取ろうとしていたことを知っていたのか。知っていて、伏せたのか」
「お前は孤独であるべきだった」
それが答えだと言わんばかりの口調だった。
「孤立させることで孤独を恐れ、さらに貪欲に強さを求める。そう考えたからそうしたまでだ」
「ッ……!!」
私を強くするため、と影山は言った。そして私はその通りに勝手に勘違いして、勝手に兄を恨んだ。
影山は私の方へ体を向けて、サングラスを直しながら見下ろす。
「しかし……お前には失望したよ、不動」
呆れたようにため息をつきながら影山は言葉を続ける。
「私が手を回したにもかかわらず、兄弟との縁を断ち切れず同情した」
「ッ同情なんてしてない!私は本気だった!!」
「なら何故お前は私が与えた力で、禁断の技の改良を計った」
「!」
びくりと肩が跳ねる。そんな私の様子にサングラスの奥の目が睨みつけられた気がした。
「表向きは自身も必殺技を取得したいからという理由だったが、私の目を誤魔化せると思ったか。それとも、それを口実に雷門側に取り入ろうという算段か」
「あんな事をしといて、できる訳ないだろ……!!」
私は拳を握りながら、影山を睨みつけた。
改良、なんて言うほどではない。私がペンダントの力を使ってできた事なんて体への負担を軽減するぐらいで、それを彼らに教えた。
だけど、結局彼らのサッカー人生がどうなるかなんて分からない。
罪滅ぼしになるなんて、一ミリも思っていない。
ー本当に?
「お前が集めたチームも所詮二流。もちろん、お前含めてだ。鬼道の実妹だからこそ私はお前を傍に置き育てたが……時間の無駄だったな」
「……んなの当たり前だろ。あの人、は……」
私なんかと違う、と口に出そうとしてできなかった。
ー私は、その兄に何をした?
思い出すのは世宇子での事、佐久間さん達の病室を訪ねた事、そして真・帝国学園での事。
「…………あっ」
じくりじくりと蝕む罪悪感に体は耐え切れずに、私は足元から崩れ落ちて、髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「わ、私……私…………」
嫌われるため、なんて言いながら嫌われる事が怖かった。嫌だった。
だから下手くそな技の改良や、救命ボートの位置を教えたりとか、ちぐはぐな言動をしてしまったんだ。
何一つ、割り切れてなかった。
「…………なさ、い」
その自覚も持てなかったせいで、私は周りを中途半端に傷つけて、捨てられることに絶望している。
「……ごめん、なさい」
ひとりは嫌だ。嫌だからあんなことをした。
だけど、結局…………
ごぉんと下から響く爆発の音がこちらまで響いた。潮風と火薬が混ざった匂いを感じながら、私はそのまま目を閉じようとした時だった。
「明奈ッ!!」
声が、聞こえた。
得点板を見れば、1-1と表示されている。試合は引き分け。……でも影山総帥からしたら、それは敗北と同じだ。
「佐久間……佐久間……!」
フィールドには三度も禁断の技を使い、気絶した佐久間さんを支えて何度も名前を呼ぶ源田さん。
その“皇帝ペンギン1号”を最後には体を張って止めた染岡さんも倒れたまま動かない。
…………私はこれだけの人を傷つけておいて、結局何も果たせなかった。
試合中にあんなに必死だったはずなのに、今の自分の頭の中は冷め切っていた。
目の前の光景をぼんやりと眺めていると、ふと感じるのは小さな揺れ。
海上だから、ではない感じたことのない揺れに、私はすぐ近くにいた目の前の惨状に顔を歪ませている同じチームの選手に声を掛けた。
「非常口の場所は前に教えただろ」
「はぁ?」
「…………巻き込んで、悪かったな」
「お、おい……!」
弥谷さんの返答を待つ気はない。私は一言それだけ伝えて背を向けて歩き出す。
その時、潜水艦が大きく揺れた。
「きゃっ!」
その揺れと共に目の前で、雷門のマネージャーが転びそうになっているのが目に入った。
ーああ、転んだら泣いちゃう。
咄嗟に私は彼女が転んでしまわないように、背中を支えた。
痛みに備えてぎゅうと目を閉じていたその子は何の痛みもやって来ない事に不思議そうにを開けて、それから私の存在に気づいて目を丸くする。
「おねえちゃ、」
「……すぐ後ろの通路の奥に救命ボートがある。それで脱出できる」
彼女が自分で立てれたことを確認して私は手をすぐに離した。反射とはいえ触れるのが申し訳なかった。
「傷つけて、ごめんなさい」
結局、ろくに妹の顔を見れないまま、謝罪だけをして私は彼女に伝えた真逆の通路へ走って行った。
爆発音が聞こえる中、私が向かったのは潜水艦の上部よりさらに上の屋上部分。
「不動か」
目的であるその人は風に煽られながらも立っていて、こちらを一瞥することなくかけられた冷たい声。
名前を呼んでくれないことにもうチャンスはないんだな、なんて思ってしまって、まだ期待してしまう自分がいることに呆れてしまった。
「……一つだけ、教えろ」
私は思いを断ち切るように首を振って、影山を見据えた。
「アンタは鬼道有人が私を引き取ろうとしていたことを知っていたのか。知っていて、伏せたのか」
「お前は孤独であるべきだった」
それが答えだと言わんばかりの口調だった。
「孤立させることで孤独を恐れ、さらに貪欲に強さを求める。そう考えたからそうしたまでだ」
「ッ……!!」
私を強くするため、と影山は言った。そして私はその通りに勝手に勘違いして、勝手に兄を恨んだ。
影山は私の方へ体を向けて、サングラスを直しながら見下ろす。
「しかし……お前には失望したよ、不動」
呆れたようにため息をつきながら影山は言葉を続ける。
「私が手を回したにもかかわらず、兄弟との縁を断ち切れず同情した」
「ッ同情なんてしてない!私は本気だった!!」
「なら何故お前は私が与えた力で、禁断の技の改良を計った」
「!」
びくりと肩が跳ねる。そんな私の様子にサングラスの奥の目が睨みつけられた気がした。
「表向きは自身も必殺技を取得したいからという理由だったが、私の目を誤魔化せると思ったか。それとも、それを口実に雷門側に取り入ろうという算段か」
「あんな事をしといて、できる訳ないだろ……!!」
私は拳を握りながら、影山を睨みつけた。
改良、なんて言うほどではない。私がペンダントの力を使ってできた事なんて体への負担を軽減するぐらいで、それを彼らに教えた。
だけど、結局彼らのサッカー人生がどうなるかなんて分からない。
罪滅ぼしになるなんて、一ミリも思っていない。
ー本当に?
「お前が集めたチームも所詮二流。もちろん、お前含めてだ。鬼道の実妹だからこそ私はお前を傍に置き育てたが……時間の無駄だったな」
「……んなの当たり前だろ。あの人、は……」
私なんかと違う、と口に出そうとしてできなかった。
ー私は、その兄に何をした?
思い出すのは世宇子での事、佐久間さん達の病室を訪ねた事、そして真・帝国学園での事。
「…………あっ」
じくりじくりと蝕む罪悪感に体は耐え切れずに、私は足元から崩れ落ちて、髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「わ、私……私…………」
嫌われるため、なんて言いながら嫌われる事が怖かった。嫌だった。
だから下手くそな技の改良や、救命ボートの位置を教えたりとか、ちぐはぐな言動をしてしまったんだ。
何一つ、割り切れてなかった。
「…………なさ、い」
その自覚も持てなかったせいで、私は周りを中途半端に傷つけて、捨てられることに絶望している。
「……ごめん、なさい」
ひとりは嫌だ。嫌だからあんなことをした。
だけど、結局…………
ごぉんと下から響く爆発の音がこちらまで響いた。潮風と火薬が混ざった匂いを感じながら、私はそのまま目を閉じようとした時だった。
「明奈ッ!!」
声が、聞こえた。