寂しがり少女
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酷く倦怠感を感じながらベンチに座り、頭にタオルをかけて周りに見えないように目を開いた。
そして手をやるのは胸の中央部分、先程まで薄っすらと光っていたペンダントは治まっていて、うんともすんとも言わない。
……私の意思に反してこの力を使ってしまった。前半終了の間際で、自分が何をしたのかもぼんやりとしか思い出せずに思わず舌打ちをする。
「石にも舐められるのかよ……」
タオルで汗を拭きながら呟いていると、その目の前に小鳥遊さんがやってきた。
「……雷門が試合の棄権を申し出たらどうすんの」
律義に言いつけを守ってくれているので表情は素っ気ないけれど、視線を向けるのは禁断の技を使って息も絶え絶えで汗を流している佐久間さんと源田さん。
……本当は用意してた医務班に応急手当をさせるつもりだったけれど「そんな情けない姿見せる気はない」と佐久間さんに一蹴されたので、耐えてもらうしかない。
今だって彼らは傷ついているのに、鬼道有人への復讐心に囚われて歪んだ闘気をみなぎらせている。
「しねぇよ。……あいつらに選択肢なんざない」
私は雷門側のベンチを一瞥しながらハッと鼻で笑って腕を組む。
「二兎を追う者は一兎をも得ずってな……」
それから一人でポツリと呟く。
私を救い出すなんて、思わなくてもいい。
……アンタが救うべきなのは彼らだけだ。
なんて、引き込んだ元凶が思うのもおかしいなとタオルを外していると、
「通してください!」
凛とした声が私の耳へと入る。
目線を向ければ、春奈……音無さんがいて、遮るように比得さんと目座さんが立っていた。
「私は姉と……不動明奈と話がしたいんです!」
「って言ってるけど、どうするキャプテン」
声を上げる音無さんに振り向いて確認を取ってくる比得さん。
「…………いいぜ、通せよ」
私は手に持ったタオルをベンチに放り投げながら音無さんを通した。
それから周りに声が聞こえないようにベンチから離れて、音無さんと対峙した。
「時間は有限なんだ。手短に頼むぜ、音無サン」
「春奈だよお姉ちゃん!」
音無さんの訂正を求める声に対して無視をすれば、耐え切れないといった様子で口を開いた。
「あのね、お兄ちゃんには言わなくていいって言われたけど、それでもちゃんと伝えたかったの」
こんな私の態度にも、春奈は愛想尽かずにぎゅうとスカートの裾を握りながら真っ直ぐと私を見る。
「お姉ちゃんは、誤解してるんだよ!お兄ちゃんがお姉ちゃんや私に冷たかったのは、私達のためだったんだよ!」
それから春奈が一生懸命に言葉を選びながら説明する内容は答え合わせだった。
義理の父とFFで三連勝すれば私達姉妹を鬼道家に迎え入れてくれるって約束を果たすことも。
そのために話しかけたくても話しかけられなかったことも。
自分が怖くて調べられなかった事実の、丁寧な答え合わせ。
「私も勘違いしてた!でも違う、お兄ちゃんはいつも私達の事を大切に……」
「だから何だよ」
ドクドクと速くなる鼓動を誤魔化すように腕を組んで、私は彼女の言葉を遮った。
大切に思ってくれている、なんて今日再会してから何度も痛感したことだ。
だって、兄ちゃんも春奈も、私に怒りの感情ひとつも見せてくれない。2人とも、私の変化にひたすら戸惑っていて、心配している。
ああ……何でもっと早く気づけなかったのだろう。
「……知った所で私はアンタみたいになれない。もう、手遅れなんだよ」
「手遅れなんてそんな……!」
「私はッ!アンタとは違うんだよ!!」
私は春奈みたいに兄ちゃんを信じきれなかった。待てなかった。
その結果が、これなんだ。
双子のはずなのに本当に似てない。
私は怒鳴られて、顔を青くする春奈に対してわざと舌打ちを聞かせてくるりと背中を向ける。
「兄に代わって恨み言の一つや二つ吐くかと思えば、ガッカリだ。……話は終わりだ。さっさと自分のとこのチームの面倒見てやりなよ、マネージャーさん」
それから一方的に話を打ち切り、ベンチへ戻ろうと歩こうとすれば。
「!!」
「……っ!」
音無さんが私の片腕に抱きつくように両腕を絡めた。
「放せよ……」
「……」
「おい……」
私が言葉を発する度に腕の力は強くなっていく。……もちろん圧迫感なんてない。きっと私が思いっきり腕を降ればほどくことはできる。
なのに、体はちっとも動かず顔を俯かせながら私の腕に縋るようにひっつく彼女を見る事しかできない。
「ずっと……」
ポツリと春奈が喋り、顔を上げた。
「ずっと、お姉ちゃんに会いたかったんだよ」
久しぶりに至近距離で見た春奈の瞳からポロポロと雫が溢れて頬をゆっくりと伝っていく。
そんな様を見ながら私は理解した。
春奈が、泣いた。
私が、泣かしたんだ。
背中に冷たい汗が流れる。
何かを言おうにも、口を開けば余計なことを口走りそうで咄嗟に空いている手で口を覆った。
動くに動けない。何も言えない。
時間だけが進む中、助け舟は唐突だった。
「音無……」
遠慮気味に音無さんの名前を呼ぶ声に、金縛りにあったみたいに動けなかった体はようやく意思を取り戻した。
ちらりと声の方を向けば青髪のポニーテールをした雷門の選手の姿が見えた。……確かDFの風丸一朗太だ。
「そろそろ、時間だ。……ベンチに戻れ」
「っ……でも、」
同じ学校の先輩に呼ばれたにも拘らず、音無さんは困ったような表情で私を見る。
……私に助けを求められても、何もできないよ。
「……さっさと行けよ」
なんていう事を言えるわけなく、私はやっと腕を振り払って、しっしっと手で追い払うようなジェスチャーをするだけに留めた。
まだ目元はまだ赤いけれど、涙はとっくに止まっている音無さんはその手と、私の顔を見た後に、何かを耐えるように口を一文字に結んでからキッと私を睨みつけた。
「嘘つき……!!」
それからそんな捨て台詞を言い捨ててからベンチへと走って行く。
春奈が言う噓つきがどれに対してのものか、分らなかった。
……ついた噓が多すぎる。
ため息をつきそうになったものの、まだ誰かの気配がしたので飲み込んでそちらを見れば、春奈を呼びに来たはずの風丸さんが何故か立ち尽くしていた。
とっくに付き添って戻ったと思っていたから驚いていると、
「……お前が首に下げている石が強さの秘訣なのか」
「は?……ッ!」
音無さんに話しかけた時より暗い声が耳に入った。そこで風丸さんの視線が私の胸元に向けられていることに気づく。
そこにあったのはユニフォームの下に下げていたはずのペンダントだった。音無さんとのやり取りの最中に外に出てしまったのだろう。
これの存在は彼らにバレてはいけないので、すぐにペンダントを服の中に入れながら誤魔化し方を考えていると。
「羨ましいよ。お前が」
「……え?」
風丸さんはペンダントに関して一切追究せずに、ふいに私から目線を逸らしてどこかをぼんやりと眺めた後にそのままベンチへと歩いて行った。
そんな彼の背中を見て、それから風丸さんが先程見ていた方向を向く。そこにあったのは、私が前半終了間近にボールを蹴り当てた壁だった。鉄板の一部が歪み、ボールだって破裂してしまって萎んだゴムがすぐ傍に落ちている。
……ペンダントの力で普通の女子があんな力を出せるのか、と当事者のくせにまるで他人事のように考えてしまう。
そして、あの人はそんな力を羨ましいって……一瞬しか見れなかったけれど、ぼんやりとした暗い顔で言っていた。
「…………意味が、分からない」
佐久間さん達を止めようとしている側の人の言葉にはとても聞こえなくて、私はポツリと零した。
そして手をやるのは胸の中央部分、先程まで薄っすらと光っていたペンダントは治まっていて、うんともすんとも言わない。
……私の意思に反してこの力を使ってしまった。前半終了の間際で、自分が何をしたのかもぼんやりとしか思い出せずに思わず舌打ちをする。
「石にも舐められるのかよ……」
タオルで汗を拭きながら呟いていると、その目の前に小鳥遊さんがやってきた。
「……雷門が試合の棄権を申し出たらどうすんの」
律義に言いつけを守ってくれているので表情は素っ気ないけれど、視線を向けるのは禁断の技を使って息も絶え絶えで汗を流している佐久間さんと源田さん。
……本当は用意してた医務班に応急手当をさせるつもりだったけれど「そんな情けない姿見せる気はない」と佐久間さんに一蹴されたので、耐えてもらうしかない。
今だって彼らは傷ついているのに、鬼道有人への復讐心に囚われて歪んだ闘気をみなぎらせている。
「しねぇよ。……あいつらに選択肢なんざない」
私は雷門側のベンチを一瞥しながらハッと鼻で笑って腕を組む。
「二兎を追う者は一兎をも得ずってな……」
それから一人でポツリと呟く。
私を救い出すなんて、思わなくてもいい。
……アンタが救うべきなのは彼らだけだ。
なんて、引き込んだ元凶が思うのもおかしいなとタオルを外していると、
「通してください!」
凛とした声が私の耳へと入る。
目線を向ければ、春奈……音無さんがいて、遮るように比得さんと目座さんが立っていた。
「私は姉と……不動明奈と話がしたいんです!」
「って言ってるけど、どうするキャプテン」
声を上げる音無さんに振り向いて確認を取ってくる比得さん。
「…………いいぜ、通せよ」
私は手に持ったタオルをベンチに放り投げながら音無さんを通した。
それから周りに声が聞こえないようにベンチから離れて、音無さんと対峙した。
「時間は有限なんだ。手短に頼むぜ、音無サン」
「春奈だよお姉ちゃん!」
音無さんの訂正を求める声に対して無視をすれば、耐え切れないといった様子で口を開いた。
「あのね、お兄ちゃんには言わなくていいって言われたけど、それでもちゃんと伝えたかったの」
こんな私の態度にも、春奈は愛想尽かずにぎゅうとスカートの裾を握りながら真っ直ぐと私を見る。
「お姉ちゃんは、誤解してるんだよ!お兄ちゃんがお姉ちゃんや私に冷たかったのは、私達のためだったんだよ!」
それから春奈が一生懸命に言葉を選びながら説明する内容は答え合わせだった。
義理の父とFFで三連勝すれば私達姉妹を鬼道家に迎え入れてくれるって約束を果たすことも。
そのために話しかけたくても話しかけられなかったことも。
自分が怖くて調べられなかった事実の、丁寧な答え合わせ。
「私も勘違いしてた!でも違う、お兄ちゃんはいつも私達の事を大切に……」
「だから何だよ」
ドクドクと速くなる鼓動を誤魔化すように腕を組んで、私は彼女の言葉を遮った。
大切に思ってくれている、なんて今日再会してから何度も痛感したことだ。
だって、兄ちゃんも春奈も、私に怒りの感情ひとつも見せてくれない。2人とも、私の変化にひたすら戸惑っていて、心配している。
ああ……何でもっと早く気づけなかったのだろう。
「……知った所で私はアンタみたいになれない。もう、手遅れなんだよ」
「手遅れなんてそんな……!」
「私はッ!アンタとは違うんだよ!!」
私は春奈みたいに兄ちゃんを信じきれなかった。待てなかった。
その結果が、これなんだ。
双子のはずなのに本当に似てない。
私は怒鳴られて、顔を青くする春奈に対してわざと舌打ちを聞かせてくるりと背中を向ける。
「兄に代わって恨み言の一つや二つ吐くかと思えば、ガッカリだ。……話は終わりだ。さっさと自分のとこのチームの面倒見てやりなよ、マネージャーさん」
それから一方的に話を打ち切り、ベンチへ戻ろうと歩こうとすれば。
「!!」
「……っ!」
音無さんが私の片腕に抱きつくように両腕を絡めた。
「放せよ……」
「……」
「おい……」
私が言葉を発する度に腕の力は強くなっていく。……もちろん圧迫感なんてない。きっと私が思いっきり腕を降ればほどくことはできる。
なのに、体はちっとも動かず顔を俯かせながら私の腕に縋るようにひっつく彼女を見る事しかできない。
「ずっと……」
ポツリと春奈が喋り、顔を上げた。
「ずっと、お姉ちゃんに会いたかったんだよ」
久しぶりに至近距離で見た春奈の瞳からポロポロと雫が溢れて頬をゆっくりと伝っていく。
そんな様を見ながら私は理解した。
春奈が、泣いた。
私が、泣かしたんだ。
背中に冷たい汗が流れる。
何かを言おうにも、口を開けば余計なことを口走りそうで咄嗟に空いている手で口を覆った。
動くに動けない。何も言えない。
時間だけが進む中、助け舟は唐突だった。
「音無……」
遠慮気味に音無さんの名前を呼ぶ声に、金縛りにあったみたいに動けなかった体はようやく意思を取り戻した。
ちらりと声の方を向けば青髪のポニーテールをした雷門の選手の姿が見えた。……確かDFの風丸一朗太だ。
「そろそろ、時間だ。……ベンチに戻れ」
「っ……でも、」
同じ学校の先輩に呼ばれたにも拘らず、音無さんは困ったような表情で私を見る。
……私に助けを求められても、何もできないよ。
「……さっさと行けよ」
なんていう事を言えるわけなく、私はやっと腕を振り払って、しっしっと手で追い払うようなジェスチャーをするだけに留めた。
まだ目元はまだ赤いけれど、涙はとっくに止まっている音無さんはその手と、私の顔を見た後に、何かを耐えるように口を一文字に結んでからキッと私を睨みつけた。
「嘘つき……!!」
それからそんな捨て台詞を言い捨ててからベンチへと走って行く。
春奈が言う噓つきがどれに対してのものか、分らなかった。
……ついた噓が多すぎる。
ため息をつきそうになったものの、まだ誰かの気配がしたので飲み込んでそちらを見れば、春奈を呼びに来たはずの風丸さんが何故か立ち尽くしていた。
とっくに付き添って戻ったと思っていたから驚いていると、
「……お前が首に下げている石が強さの秘訣なのか」
「は?……ッ!」
音無さんに話しかけた時より暗い声が耳に入った。そこで風丸さんの視線が私の胸元に向けられていることに気づく。
そこにあったのはユニフォームの下に下げていたはずのペンダントだった。音無さんとのやり取りの最中に外に出てしまったのだろう。
これの存在は彼らにバレてはいけないので、すぐにペンダントを服の中に入れながら誤魔化し方を考えていると。
「羨ましいよ。お前が」
「……え?」
風丸さんはペンダントに関して一切追究せずに、ふいに私から目線を逸らしてどこかをぼんやりと眺めた後にそのままベンチへと歩いて行った。
そんな彼の背中を見て、それから風丸さんが先程見ていた方向を向く。そこにあったのは、私が前半終了間近にボールを蹴り当てた壁だった。鉄板の一部が歪み、ボールだって破裂してしまって萎んだゴムがすぐ傍に落ちている。
……ペンダントの力で普通の女子があんな力を出せるのか、と当事者のくせにまるで他人事のように考えてしまう。
そして、あの人はそんな力を羨ましいって……一瞬しか見れなかったけれど、ぼんやりとした暗い顔で言っていた。
「…………意味が、分からない」
佐久間さん達を止めようとしている側の人の言葉にはとても聞こえなくて、私はポツリと零した。