寂しがり少女
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ピィィィーッ!!と得点を知らせるホイッスルの音がフィールドに響いた。
佐久間さんの秘策である“皇帝ペンギン1号”はいとも簡単に雷門から先取点を奪った。
「ハハッ、いいねぇ……!」
雷門の奴らに向けて大げさに喜べば、白々しいと言わんばかりに小鳥遊さんから鋭い視線を貰う。
けれど、それよりも【禁断の技】を放った佐久間さんに対して止めるように訴える鬼道さんの声に周りの注目は集まった。
「二度と打つな! あれは禁断の技だ!」
「怖いのか?俺ごときに追い抜かれるのが!」
鬼道さんの必死の説得に佐久間さんは耳を傾けない。今の彼はただただ鬼道有人をも凌ぐ力をに手に入れた事を喜んでいる。
「敗北に価値はない」
その強さが正しいものかなんて関係ない。
傷ついた体を引きずるように歩きながら佐久間さんは鬼道さんの横を通り過ぎた。
そんな佐久間さんの背中を見ていた鬼道さんは歯を食いしばり、潜水艦の上部……総帥がいる席を睨みつけた後に、状況を吞みこめていない他の雷門の選手達に説明している様子が見えた。
雷門ボールで試合が再開されて早々に鬼道さんが攻め込み“皇帝ペンギン2号”を放つ。人数を割くことで各々の負担を減らした1号の改良版……確か彼自身が考案した必殺技。
だけど、
「 “ビーストファング” !」
それも、もう一つの禁断の技の前では無力だった。
ボールを取った代償に、呻き声を上げて膝から崩れ落ちる源田さんの姿を眺めてから鬼道さんを見れば、冷や汗を流していた。
シュートを打たせてはいけない。シュートを打ってはいけない。
禁断の技を使わせないための制約は雷門の動きを十分にぎこちなくさせて、動きも簡単に分かる。
「郷院センパイ!」
今も染岡さんはシュートを打とうとするけれど、源田さんの構えに躊躇った後にバックパスを出した。郷院さんに指示をしてブロックを入れて、そのボールを受け取った。
「らぁ……!!」
「ッ “ゴットハンド” !」
そして決めたシュートも必殺技によって弾かれたボールは雷門DFの土門さんによって外に出された。
「目を覚ませ!自分の体を犠牲にした勝利になんの価値がある!佐久間!源田!」
それからこっちボールで試合は再開されるが、その間にも鬼道さんは佐久間さんと源田さん2人に必死に呼び掛けていた。
私はそのボールを貰っても先程のように攻め上がることはせずに彼らのやり取りを眺める。
「分かってないのはおまえだよ。鬼道!」
「勝利にこそ価値がある。……俺達は勝つ!どんな犠牲を払ってでもなぁ!」
勝利に憑りつかれている今の彼らにはもちろん彼の言葉は届かなかった。……これ以上は時間の無駄だ。
「説得なんて無理無理」
私はボールを転がしながら鬼道さんの目の前まで歩いた。
「センパイ達はさぁ、心から勝利を望んでいる。勝ちたいと願っているんだ」
「明奈……!」
私はポンッと鬼道さんの足元へボールを転がして嗤った。
「シュート、してみろよ」
「…………ッ」
ボールを見て、私の顔を見る鬼道さん。こちらを見つめる表情は険しいのに、握り拳を作ったまま決して動こうとしない。
「…………ふざけんなよ」
いつまで経ってもボールを蹴らない鬼道さんに痺れを切らしたのは私の方だった。
「佐久間さん達から私が何をしたか聞いたんだろ!?憎いだろ、許せねぇだろ?……その怒りをぶつけろって言ってんだよ!!」
「ッできるわけないだろ……!!」
声を上げたものの、その言葉に怒りは一片も感じない。
「俺はこんな風にお前と戦いたくない……!」
ただただ、私がここにいるのが不可解で仕方ないといった悲痛な叫びだった。
「明奈、教えてくれ……!影山に何をされたんだ?!」
私を救い出すと言ってくれた言葉にきっと噓偽りはないのだろう。
だけど、そんな優しさは今の私にはどうしても苦しくて、頭を搔きむしりたい衝動を抑えるために拳を握りこんだ。
それから何を言うべきかと考えて、考えて……
「……ああ、そっか」
これ以上話を聞かない、という選択肢をとった。
「怖いんだぁ……!佐久間さん達だけじゃなくて、切り捨てた妹にまで負けるのがさぁ!!」
にこりと笑って鬼道さんを見てから、私はすぐにボールを奪って「だったらずっとそこで突っ立ってろ!!」なんて啖呵を切って走った。
「明奈!」
すぐに鬼道さんが追いついてきて、ボールを取ろうと動く。それから足元では攻防しながらも鬼道さんは私を見て必死に語りかけてくる。
「俺はお前を切り捨ててなんかいない!」
「ハッ、どの口が……!自分の発言に責任持てよ、鬼道有人ォ!!」
「分かってる!」
互いに引けない状況で、ボールを取るために向かい合わせて蹴り合ったボールは衝撃を受け止めきれず、勢い余って真上へと高く飛んだ。
だけど、私はボールよりも、鬼道さんの方へと顔を向けてしまった。
「あの日……入学式の日にお前を傷つけた。すまなかった……!」
鬼道さんは顔を俯かせながら、私に向かって謝っていたから。
やめて、やめて……謝らないでよ。
今謝られたらますます私の行動の釣り合いが取れなくなる。
お願いだからっ、こんな馬鹿な奴さっさと嫌ってよ!!!
「けれども俺は、お前を忘れたことなんて一度もなかった……大切な、もう一人の妹なんだ……だからッ」
「……ッ!」
悲痛な表情で吐露する鬼道さん。
私の予想と真逆な事ばかりな展開にぐわんぐわんと頭が揺れる感覚に襲われる。
同時に疑問が沸いた。普段の私なら思わないような幼稚な疑問。
私のことを忘れたことない?大切に思ってた??
「ふざけんじゃねぇよ……!!」
だったらなんで!!なんで!!なんで!!なんで!!
「だったらなんで……!!!」
私を探してくれなかったの?
帝国学園を転校したことは、知っていたはずなのに。
一瞬、自分が何を口走ったのか分からなかった。周りの時間が止まったような錯覚に陥って、真っ先に目に入ったのは愕然とした表情でこちらを見ている兄ちゃんで。
一気に体温が下がるのが分かった。
「……っ」
「ちがうッ!!!」
口を開いて何か言おうとする兄ちゃんを見て、私は咄嗟に耳を塞いで声を張り上げた。
「ちがう、違う違う違う……!!……兄ちゃんのせいじゃないっ、私が、私が弱かったから……信じられなかったから……だから……!!」
自分でも何を言っているのかよく分からなかった。
じわりと視界が滲む感覚にますます自分の弱さを晒していて、追い込まれていくのが分かる。
チカチカとする目で、今の自分の状態が上手く認識できないまま、一歩、一歩その場から後ずさる。
ふと、足元に何かが当たった。
「違うッ!!!!」
私はどうにか逃げたくて、訳が分からないまま足元にある何かーサッカーボールを蹴り上げた。
闇雲に蹴り上げたボールにコントロール性なんてまるでない。ゴールとは真横のフィールドの壁にぶつけただけだった。
そこで前半終了のホイッスルが鳴り響いた。
「明奈……」
「……名前を、呼ばないでよ」
俯いて呟くことしかできなかった。
佐久間さんの秘策である“皇帝ペンギン1号”はいとも簡単に雷門から先取点を奪った。
「ハハッ、いいねぇ……!」
雷門の奴らに向けて大げさに喜べば、白々しいと言わんばかりに小鳥遊さんから鋭い視線を貰う。
けれど、それよりも【禁断の技】を放った佐久間さんに対して止めるように訴える鬼道さんの声に周りの注目は集まった。
「二度と打つな! あれは禁断の技だ!」
「怖いのか?俺ごときに追い抜かれるのが!」
鬼道さんの必死の説得に佐久間さんは耳を傾けない。今の彼はただただ鬼道有人をも凌ぐ力をに手に入れた事を喜んでいる。
「敗北に価値はない」
その強さが正しいものかなんて関係ない。
傷ついた体を引きずるように歩きながら佐久間さんは鬼道さんの横を通り過ぎた。
そんな佐久間さんの背中を見ていた鬼道さんは歯を食いしばり、潜水艦の上部……総帥がいる席を睨みつけた後に、状況を吞みこめていない他の雷門の選手達に説明している様子が見えた。
雷門ボールで試合が再開されて早々に鬼道さんが攻め込み“皇帝ペンギン2号”を放つ。人数を割くことで各々の負担を減らした1号の改良版……確か彼自身が考案した必殺技。
だけど、
「 “ビーストファング” !」
それも、もう一つの禁断の技の前では無力だった。
ボールを取った代償に、呻き声を上げて膝から崩れ落ちる源田さんの姿を眺めてから鬼道さんを見れば、冷や汗を流していた。
シュートを打たせてはいけない。シュートを打ってはいけない。
禁断の技を使わせないための制約は雷門の動きを十分にぎこちなくさせて、動きも簡単に分かる。
「郷院センパイ!」
今も染岡さんはシュートを打とうとするけれど、源田さんの構えに躊躇った後にバックパスを出した。郷院さんに指示をしてブロックを入れて、そのボールを受け取った。
「らぁ……!!」
「ッ “ゴットハンド” !」
そして決めたシュートも必殺技によって弾かれたボールは雷門DFの土門さんによって外に出された。
「目を覚ませ!自分の体を犠牲にした勝利になんの価値がある!佐久間!源田!」
それからこっちボールで試合は再開されるが、その間にも鬼道さんは佐久間さんと源田さん2人に必死に呼び掛けていた。
私はそのボールを貰っても先程のように攻め上がることはせずに彼らのやり取りを眺める。
「分かってないのはおまえだよ。鬼道!」
「勝利にこそ価値がある。……俺達は勝つ!どんな犠牲を払ってでもなぁ!」
勝利に憑りつかれている今の彼らにはもちろん彼の言葉は届かなかった。……これ以上は時間の無駄だ。
「説得なんて無理無理」
私はボールを転がしながら鬼道さんの目の前まで歩いた。
「センパイ達はさぁ、心から勝利を望んでいる。勝ちたいと願っているんだ」
「明奈……!」
私はポンッと鬼道さんの足元へボールを転がして嗤った。
「シュート、してみろよ」
「…………ッ」
ボールを見て、私の顔を見る鬼道さん。こちらを見つめる表情は険しいのに、握り拳を作ったまま決して動こうとしない。
「…………ふざけんなよ」
いつまで経ってもボールを蹴らない鬼道さんに痺れを切らしたのは私の方だった。
「佐久間さん達から私が何をしたか聞いたんだろ!?憎いだろ、許せねぇだろ?……その怒りをぶつけろって言ってんだよ!!」
「ッできるわけないだろ……!!」
声を上げたものの、その言葉に怒りは一片も感じない。
「俺はこんな風にお前と戦いたくない……!」
ただただ、私がここにいるのが不可解で仕方ないといった悲痛な叫びだった。
「明奈、教えてくれ……!影山に何をされたんだ?!」
私を救い出すと言ってくれた言葉にきっと噓偽りはないのだろう。
だけど、そんな優しさは今の私にはどうしても苦しくて、頭を搔きむしりたい衝動を抑えるために拳を握りこんだ。
それから何を言うべきかと考えて、考えて……
「……ああ、そっか」
これ以上話を聞かない、という選択肢をとった。
「怖いんだぁ……!佐久間さん達だけじゃなくて、切り捨てた妹にまで負けるのがさぁ!!」
にこりと笑って鬼道さんを見てから、私はすぐにボールを奪って「だったらずっとそこで突っ立ってろ!!」なんて啖呵を切って走った。
「明奈!」
すぐに鬼道さんが追いついてきて、ボールを取ろうと動く。それから足元では攻防しながらも鬼道さんは私を見て必死に語りかけてくる。
「俺はお前を切り捨ててなんかいない!」
「ハッ、どの口が……!自分の発言に責任持てよ、鬼道有人ォ!!」
「分かってる!」
互いに引けない状況で、ボールを取るために向かい合わせて蹴り合ったボールは衝撃を受け止めきれず、勢い余って真上へと高く飛んだ。
だけど、私はボールよりも、鬼道さんの方へと顔を向けてしまった。
「あの日……入学式の日にお前を傷つけた。すまなかった……!」
鬼道さんは顔を俯かせながら、私に向かって謝っていたから。
やめて、やめて……謝らないでよ。
今謝られたらますます私の行動の釣り合いが取れなくなる。
お願いだからっ、こんな馬鹿な奴さっさと嫌ってよ!!!
「けれども俺は、お前を忘れたことなんて一度もなかった……大切な、もう一人の妹なんだ……だからッ」
「……ッ!」
悲痛な表情で吐露する鬼道さん。
私の予想と真逆な事ばかりな展開にぐわんぐわんと頭が揺れる感覚に襲われる。
同時に疑問が沸いた。普段の私なら思わないような幼稚な疑問。
私のことを忘れたことない?大切に思ってた??
「ふざけんじゃねぇよ……!!」
だったらなんで!!なんで!!なんで!!なんで!!
「だったらなんで……!!!」
私を探してくれなかったの?
帝国学園を転校したことは、知っていたはずなのに。
一瞬、自分が何を口走ったのか分からなかった。周りの時間が止まったような錯覚に陥って、真っ先に目に入ったのは愕然とした表情でこちらを見ている兄ちゃんで。
一気に体温が下がるのが分かった。
「……っ」
「ちがうッ!!!」
口を開いて何か言おうとする兄ちゃんを見て、私は咄嗟に耳を塞いで声を張り上げた。
「ちがう、違う違う違う……!!……兄ちゃんのせいじゃないっ、私が、私が弱かったから……信じられなかったから……だから……!!」
自分でも何を言っているのかよく分からなかった。
じわりと視界が滲む感覚にますます自分の弱さを晒していて、追い込まれていくのが分かる。
チカチカとする目で、今の自分の状態が上手く認識できないまま、一歩、一歩その場から後ずさる。
ふと、足元に何かが当たった。
「違うッ!!!!」
私はどうにか逃げたくて、訳が分からないまま足元にある何かーサッカーボールを蹴り上げた。
闇雲に蹴り上げたボールにコントロール性なんてまるでない。ゴールとは真横のフィールドの壁にぶつけただけだった。
そこで前半終了のホイッスルが鳴り響いた。
「明奈……」
「……名前を、呼ばないでよ」
俯いて呟くことしかできなかった。