寂しがり少女
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「すまなかった。お前達の気持ちを考えず……自分だけの考えで行動してしまった。何度でも謝る……!だから影山に従うのはやめてくれ!!」
「遅いんだよぉぉ!!」
感動の再会、とやらは早々に物騒なものだった。
潜水艦に入るまで少し時間を取られたので、遅れてグラウンドへと向かえばもう佐久間さんと源田さんは鬼道さん達の前にいた。
そして彼らは鬼道さんの謝罪を、ボールを蹴り込むという行為で、突き放したところだった。
そのサッカーボールが目の前に転がってきて、私は自分がちゃんといつもの表情をできているのかさりげなく顔に手を当てて確認しながらそのボールを佐久間さんの方へと転がした。
「敗北の屈辱は勝利の喜びで拭うしかないんだよ」
佐久間さんは淡々と吐き捨てて、再び鬼道さんへとボールを蹴り込む。止めようとする円堂さんにこれは俺たちの問題だと手を振り払う鬼道さん。
「そうそう。手は出さない方がいいぜ?」
「~っ!お前は鬼道の妹なんだろ!?何でこんな事するんだよ!!」
それに対して同意して再びボールを回せば、今度は円堂さんがこちらへ詰め寄ってきた。……この反応を見るに、私が彼らを引き込んだ張本人という事はバレているらしい。
「…………うぜぇ」
だったら疑問なんか持たずにただ素直に酷い奴と受け止めたらいいのに。私は彼の訴えに対して私は目を逸らして舌打ちをする。
その間にも佐久間さんと源田さんは鬼道さんを責め立て、攻撃する。そのシュートが顔面に入るのを止めたのは、円堂さんだった。
「見せてやるよ、本当の俺たちのサッカーを!」
影山総帥から勝つために戦う、と真っ直ぐな目でこちらを見て拳を突きつけてそう言い放った。
苦手だな、という本音を押し殺して私は「せいぜい、頑張るんだな」と嗤った。
佐久間さんと源田さんの最終調整をしている間、私はトイレの洗面台の前に立って、じっと鏡に映る自分を見る。
「……私は雷門と戦って、勝つ」
自分に言い聞かせるようにそう、呟いた。
『そうそう。どんな手を使ってでも、勝たねぇとな』
一瞬紫色の目をした私がそう嗤ったけれど、瞬きをすればいつもの自分の姿だった。
「…………ッ」
ぎゅうとユニフォームの上からペンダントを握って私はその部屋から出た。
それからグラウンドまでの道のりである暗い廊下の先に人影を見つけて、足を止める。
私の存在に気づいたのか壁に凭れ掛かっていたその人は体を起こして、笑みを浮かべた。
「やぁ、不動さん」
相変わらず読めない表情を浮かべて、グランさんは笑った。思い出すのは腕を簡単に掴まれた苦い記憶だったけれど、態度には一切出さないように奥歯を噛みしめて、目を合わせる。
「応援に来たよ。試合、頑張ってね」
「……白々しい。テメェのお気に入りは雷門だろ」
「それだけじゃないよ。ちゃんと不動さんの事も気にしてる」
漫遊寺中の試合にわざわざ出向く辺り、彼が雷門の事を気にしているのは察したので指摘するけれど、心外と言わんばかりに肩をすくめられた。
「ねえ、もしもこの試合に負けちゃってひとりぼっちになったらさ」
ひとりぼっち。
嫌な言葉が聞こえて咄嗟に睨みつけるも、グランさんは気にすることなく私へと手を伸ばした。
「俺が君を飼ってあげようか?」
「…………は?」
…………彼は私と会う度に突拍子のない台詞を言わないと気が済まないのだろうか。
思わず彼の顔を見るけれど、グランさんは冗談だと訂正する素振りも見せずににこりと笑みを浮かべている。……ここまで温度差が酷いと感じるのは初めてだった。
「…………ふざけんな」
否定の意思を示すようにその手を叩き落せば、パンッと乾いた音が廊下へと響いた。
前にうさぎ云々言っていた延長線の話だろうか……だとしたら趣味が悪いな。
内容が内容なだけに怒鳴るのも億劫だし、試合前に余計な体力消費をする訳にはいかないから、私はそれだけ吐き捨ててグランさんの横を通り抜けた。
「ウチは負けねぇよ。必ず雷門をこの手で倒す。……その次に潰すのはテメェだよ、グラン」
「……楽しみにしてるよ」
叩き落した手を眺めていたグランさんに向けて宣言をするも、まるで気にする様子もなくいつもの笑みを浮かべるだけだった。
「舐めやがって」
しばらく歩いて一人きりになってからポツリと言葉を漏らした。
格下相手は眼中にもない、という事なんだろう。
だから変な冗談だって言うし、潰すという言葉にも笑顔を浮かべられるんだ。ぶり返してきた苛立ちに任せて、ガンッと廊下の壁を殴りながら私は再度舌打ちをする。
いや、いつまでもグランさんの事を気にするのはよくない。
今からあの雷門と戦って、私は兄妹に自分が悪だと、嫌われないといけないんだから。
「……負ける訳にはいかねぇんだよ」
自分の優先させる目的を思い返しながら湧き上がる感情を何とか押さえつけて、グラウンドへと歩き出した。
「キャプテンのお前が一番遅いのってどーよ」
「うるせぇ」
グラウンドへと出れば私以外の選手はもう、集まっていてポジションに着こうとしているところだった。
まだベンチにいた比得さんが私に気づき、キャプテンマーク片手に呆れた風に見下ろしてくる。それに悪態をつきながらキャプテンマークを奪い取るように手に取って付けていると、また別の視線を感じた。
「……んだよ」
その視線の招待である小鳥遊さんを見れば、彼女が私がキャプテンマークを付けている手を見ていることに気づいた。
「……なんでアンタの手はいつもこんなにボロボロになのよ」
「は?意味分かんねぇこと言ってねぇで、てめぇもさっさとポジションに付け」
試合前に何言ってんだ、と確かめる気にもならず、私は顎でフィールドを差せば納得はしていないながらも歩いて行った。
「明奈」
潜水艦の上部の部屋で観戦しているだろう総帥を見ていると隣から名前を呼ぶ声が聞こえた。顔を向ければユニフォーム姿の鬼道さんが立っていて、その表情は最初に再会した時の困惑した様子から一変、覚悟を決めた顔つきだった。
「佐久間や源田だけでない。……お前も救い出してみせる」
「……ふぅん」
そんな決意表明を聞いても、私は素っ気ない返事を返すことが精一杯ですぐに彼から背を向ける。
……私は、佐久間さん達と並んで心配してもらえるような人間でない。
この試合で、それを見せつけるんだ。
「遅いんだよぉぉ!!」
感動の再会、とやらは早々に物騒なものだった。
潜水艦に入るまで少し時間を取られたので、遅れてグラウンドへと向かえばもう佐久間さんと源田さんは鬼道さん達の前にいた。
そして彼らは鬼道さんの謝罪を、ボールを蹴り込むという行為で、突き放したところだった。
そのサッカーボールが目の前に転がってきて、私は自分がちゃんといつもの表情をできているのかさりげなく顔に手を当てて確認しながらそのボールを佐久間さんの方へと転がした。
「敗北の屈辱は勝利の喜びで拭うしかないんだよ」
佐久間さんは淡々と吐き捨てて、再び鬼道さんへとボールを蹴り込む。止めようとする円堂さんにこれは俺たちの問題だと手を振り払う鬼道さん。
「そうそう。手は出さない方がいいぜ?」
「~っ!お前は鬼道の妹なんだろ!?何でこんな事するんだよ!!」
それに対して同意して再びボールを回せば、今度は円堂さんがこちらへ詰め寄ってきた。……この反応を見るに、私が彼らを引き込んだ張本人という事はバレているらしい。
「…………うぜぇ」
だったら疑問なんか持たずにただ素直に酷い奴と受け止めたらいいのに。私は彼の訴えに対して私は目を逸らして舌打ちをする。
その間にも佐久間さんと源田さんは鬼道さんを責め立て、攻撃する。そのシュートが顔面に入るのを止めたのは、円堂さんだった。
「見せてやるよ、本当の俺たちのサッカーを!」
影山総帥から勝つために戦う、と真っ直ぐな目でこちらを見て拳を突きつけてそう言い放った。
苦手だな、という本音を押し殺して私は「せいぜい、頑張るんだな」と嗤った。
佐久間さんと源田さんの最終調整をしている間、私はトイレの洗面台の前に立って、じっと鏡に映る自分を見る。
「……私は雷門と戦って、勝つ」
自分に言い聞かせるようにそう、呟いた。
『そうそう。どんな手を使ってでも、勝たねぇとな』
一瞬紫色の目をした私がそう嗤ったけれど、瞬きをすればいつもの自分の姿だった。
「…………ッ」
ぎゅうとユニフォームの上からペンダントを握って私はその部屋から出た。
それからグラウンドまでの道のりである暗い廊下の先に人影を見つけて、足を止める。
私の存在に気づいたのか壁に凭れ掛かっていたその人は体を起こして、笑みを浮かべた。
「やぁ、不動さん」
相変わらず読めない表情を浮かべて、グランさんは笑った。思い出すのは腕を簡単に掴まれた苦い記憶だったけれど、態度には一切出さないように奥歯を噛みしめて、目を合わせる。
「応援に来たよ。試合、頑張ってね」
「……白々しい。テメェのお気に入りは雷門だろ」
「それだけじゃないよ。ちゃんと不動さんの事も気にしてる」
漫遊寺中の試合にわざわざ出向く辺り、彼が雷門の事を気にしているのは察したので指摘するけれど、心外と言わんばかりに肩をすくめられた。
「ねえ、もしもこの試合に負けちゃってひとりぼっちになったらさ」
ひとりぼっち。
嫌な言葉が聞こえて咄嗟に睨みつけるも、グランさんは気にすることなく私へと手を伸ばした。
「俺が君を飼ってあげようか?」
「…………は?」
…………彼は私と会う度に突拍子のない台詞を言わないと気が済まないのだろうか。
思わず彼の顔を見るけれど、グランさんは冗談だと訂正する素振りも見せずににこりと笑みを浮かべている。……ここまで温度差が酷いと感じるのは初めてだった。
「…………ふざけんな」
否定の意思を示すようにその手を叩き落せば、パンッと乾いた音が廊下へと響いた。
前にうさぎ云々言っていた延長線の話だろうか……だとしたら趣味が悪いな。
内容が内容なだけに怒鳴るのも億劫だし、試合前に余計な体力消費をする訳にはいかないから、私はそれだけ吐き捨ててグランさんの横を通り抜けた。
「ウチは負けねぇよ。必ず雷門をこの手で倒す。……その次に潰すのはテメェだよ、グラン」
「……楽しみにしてるよ」
叩き落した手を眺めていたグランさんに向けて宣言をするも、まるで気にする様子もなくいつもの笑みを浮かべるだけだった。
「舐めやがって」
しばらく歩いて一人きりになってからポツリと言葉を漏らした。
格下相手は眼中にもない、という事なんだろう。
だから変な冗談だって言うし、潰すという言葉にも笑顔を浮かべられるんだ。ぶり返してきた苛立ちに任せて、ガンッと廊下の壁を殴りながら私は再度舌打ちをする。
いや、いつまでもグランさんの事を気にするのはよくない。
今からあの雷門と戦って、私は兄妹に自分が悪だと、嫌われないといけないんだから。
「……負ける訳にはいかねぇんだよ」
自分の優先させる目的を思い返しながら湧き上がる感情を何とか押さえつけて、グラウンドへと歩き出した。
「キャプテンのお前が一番遅いのってどーよ」
「うるせぇ」
グラウンドへと出れば私以外の選手はもう、集まっていてポジションに着こうとしているところだった。
まだベンチにいた比得さんが私に気づき、キャプテンマーク片手に呆れた風に見下ろしてくる。それに悪態をつきながらキャプテンマークを奪い取るように手に取って付けていると、また別の視線を感じた。
「……んだよ」
その視線の招待である小鳥遊さんを見れば、彼女が私がキャプテンマークを付けている手を見ていることに気づいた。
「……なんでアンタの手はいつもこんなにボロボロになのよ」
「は?意味分かんねぇこと言ってねぇで、てめぇもさっさとポジションに付け」
試合前に何言ってんだ、と確かめる気にもならず、私は顎でフィールドを差せば納得はしていないながらも歩いて行った。
「明奈」
潜水艦の上部の部屋で観戦しているだろう総帥を見ていると隣から名前を呼ぶ声が聞こえた。顔を向ければユニフォーム姿の鬼道さんが立っていて、その表情は最初に再会した時の困惑した様子から一変、覚悟を決めた顔つきだった。
「佐久間や源田だけでない。……お前も救い出してみせる」
「……ふぅん」
そんな決意表明を聞いても、私は素っ気ない返事を返すことが精一杯ですぐに彼から背を向ける。
……私は、佐久間さん達と並んで心配してもらえるような人間でない。
この試合で、それを見せつけるんだ。