寂しがり少女
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何度も誤字脱字がないか携帯の画面とにらめっこした後に、響木の名を使ったメールを雷門の監督へ送信完了して大きく息を吐いた。……携帯電話の操作、やっぱり慣れないな。
それから数時間後に、私は小脇にサッカーボールを抱えて地上へと降りた。
真・帝国学園の拠点にするのは愛媛の海。近くには様々な工場が建ち並んでいる工場地帯で、限られた人間しか出入りしないから選んだんだろう。
……それでもあれだけ大きな潜水艦だ。地元の人間に度々影を目撃されたのか海坊主が出たなんて噂もされている。警察に見つかるのも時間の問題だ。
私が指定した場所であるコンビニへと近づけば、情報と一致しているキャラバンを見つけた。響木が来るまで休憩時間でも設けているんだろう。コンビニに入って買い物をしたり、車の外で思い思い話している雷門ジャージを着た人間の姿が見える。
私はコンビニ裏で通話をしている様子の雷門生を見つけて、被っていたパーカーのフードを外し、これ見よがしにリフティングを始めた。
しばらくすれば、なあ、君もサッカー、と話しかける声が耳に入り、
「はっ……!」
「っ!?」
私はその人間にボールを蹴り込んだ。
驚きながらも両手でボールを掴むその人の顔は見覚えがあった。といってもデータ上で、だけど。
雷門イレブンのキャプテン、円堂守だった。
「おせぇ」
「円堂くん!?」
「何だよ、いきなり!」
騒ぎを聞きつけたのだろう、マネージャーの2人が来た後にぞろぞろと他の選手まで集まってくる。
「……明奈?」
その中で聞こえた小さな呟きは聞こえなかったふりをして、私は腕を組んだ。
「愛媛まで時間が掛かりすぎじゃね?ってこと」
「君、真帝国学園の生徒ね」
なんだアイツ、と呟くピンクの坊主頭の選手の背後から現れたのは黒髪の女性……今の雷門中の監督である吉良瞳子だ。
「え?」
「そっちこそ遅いんじゃない? 人を偽のメールで呼び出しておいて、今頃現れるの?」
メールなんて、響木に直接連絡して確認を取れば真偽なんてすぐに分かる。なのになぜすぐに分かる嘘をついたのか、という追究も想定通りだったので素直に答えた。
「私の名前でメールしたらここまで来たのかよ?響木の名前を騙ったから、いろいろ調べて愛媛まで来る気になった。違うか?」
そういえば、私はまだ自分の名前を言っていないなと思い出し、組んでいた腕を解いてにこりと笑いかけた。
「そういや、自己紹介がまだだったな。私の名前は」
「不動明奈」
「あ?」
「……そうだろ、明奈」
私が名乗る前に、固い声で私の名前を呼んだその人は青いマントを翻して目の前まで着た。……相変わらずのマントとゴーグル。でもそのゴーグルのおかげで、彼の目はよく見えない。それをいいことに目線だけを合わせて笑みを作った。
「意外。私のこと、まだ覚えていたんだ」
「ッ……!!明奈!」
その言葉に弾かれたように声を上げて、私の肩を掴んだ。
「なぜお前がこんなところにいるんだ……!影山に、何をされたんだ!!」
「……離せよ」
鬼道さんの問いに一切答えず、彼の腕を掴んで放した。
「テメェが最初に切り捨てたんだろ、今更兄貴面すんなよ」
「……ッ!」
最後にポツリと呟けば、息を吞む音が聞こえて彼は押し黙る。やっと静かになってくれた鬼道さんを横目に私は瞳子さんへ目線を向ける。
「で、あー。まだ聞くことある?」
「……そうね、貴女の目的は何かしら」
瞳子さんは押し黙る鬼道さんを一瞥したのちに、先に疑問を解消することを優先させたのか、そんな質問をした。
「案内だよ、案内。真・帝国学園はちょっとめんどくさい場所にあるから。私が直々に招待してやろうってな」
そんな彼女に乗じて平然と答えればそう、と短く答えて何か考える素振りを見せてから再び私に視線を向けた。
「最後に、貴女は鬼道くん達とはどういう関係なのかしら」
結局聞くのかよ、と思わず舌打ちをしてしまった。
「さぁ?人違いとか「鬼道有人の妹で、私の双子の姉、だよ」
なんて白々しく誤魔化そうとした矢先に、青髪のショートヘアーの女子が歩いてきて、鬼道さんの横に立った。
……この子との対面は、8年ぶりだった。
「私達のこと、忘れちゃったの?お姉ちゃん……」
顔は青ざめていて、眉を下げて困惑した様子なのに私を真っ直ぐと見つめてくる青い瞳は幼少期の頃から何一つ変わっていなくて。
「どいつもこいつも被せてくんじゃねぇよ……」
そんな片割れに対して、私は目線を逸らしながら悪態をつくことしかできない。
「お姉ちゃん!」
「……ハッキリ言わねぇと分かんねぇの?知らねーよ!テメェらなんて!!」
「っ!」
「!やめろ明奈……!」
お姉ちゃん、なんて呼ばれる資格なんてない。
だから怒鳴りつければ、音無さんは怯んだように後ずさり、そんな彼女を鬼道さんは守るように手を広げて静止の声を上げた。
そうだ、これでいい。さっさと嫌ってしまえ。
「……私の事はいいんだよ。それよりも鬼道有人サン。うちにはさ、アンタにとってのスペシャルゲストがいるんだぜ?」
「スペシャル、ゲスト……?」
その勢いで私は笑顔を作って、鬼道さんへ顔を向けて話しかける。私がこの場にいることが余程予想外だったのか、聞き返す彼の態度は何とか冷静さを保とうとしているようだった。
「かつての帝国学園のお仲間だよ」
そんな彼に私は追い打ちをかけた。
「なっ!?」
ついには動揺を隠せずに声を上げる鬼道さん。それから拳を握って一言、ありえない……と零した。
共に影山総帥から離別した信頼のおける仲間達だったんだろう。それは対戦をした雷門側も同じで、有り得ないだとか、嘘をつくなとか口々に否定の声が上がる。
……煩い。
「えー?だったら私の目がおかしいのかなぁ?」
「明奈」
気分は下がるばかりなのに口にするのは小馬鹿にしたような言葉だけ。その中で私の名前を呼ぶあの人の声はハッキリ聞こえた。
「誰が……誰が、いるんだ……」
そして、ただただ切実な質問をぶつけられる。
「……着いてからの、お楽しみ」
にこり、と笑顔を作ってはぐらかした。
移動のためキャラバンに乗れば、空いている席は鬼道さんの隣しかなくて……偶然にしろ意図的にしろ最悪だと思いながら運転手に手書き地図を手渡して乱暴にシートに座った。
鬼道さんからの痛いほどの視線を感じたり、後ろの席では兄妹ということもあってか、自分を見て何かこそこそ話している声が聞こえる。
私は周りに聞こえるように大きな舌打ちをしたのちに、全て遮断するように目を閉じた。
……本当は、不動明奈だと名乗ることを最後まで迷っていた。
けれど変装や偽名を使って誤魔化すなんてその場しのぎでしかない。何よりそんな逃げ、許される訳がない。
私は、彼らに自分の意思でここにいる悪人だと見せつけなければいけない。
勝手な逆恨みで兄妹を裏切って、彼らの大切なものを傷つける人間だと、知ってしまえば彼らだって私をちゃんと嫌ってくれるはずだ。
…………いっその事、忘れてくれていたらよかったのに。
少し前に抱いていたものとは真逆の感情を持ちながら目を開いて窓の外を見れば、見慣れた道が見えて私は運転手に声を掛けた。
「そこの門から入って」
目的の工場へ入るように促せばキャラバンはそれに従う。辿り着いたのは工場地帯の船着き場。先程までは晴れていたはずの空はいつの間にか鉛色になっていて、目の前に広がる海の色も黒く淀んでいた。
「どこにも学校なんかないじゃないか」
周りを見渡しながら指摘する円堂さんに続いて、やっぱり俺たちを騙したのか!と声を上げるのは先程からやたら語気が強いピンク坊主の人……思い出した。雷門のもう一人のFWの染岡さんだ。
「短気な奴だなぁ。真・帝国学園だったら……ほら」
怒鳴られ慣れていない私は彼の態度に辟易しながら海へ向けて指を差した瞬間、地響きと共に海面から潜水艦が姿を現した。
私は見慣れているけれど、周りはそんな巨大な潜水艦に圧倒されていた。その間に海上へと出た潜水艦は真・帝国学園の旗をはためかせながら、潜水艦の中央が開いてグラウンドを表へと出した。
それから潜水艦の入り口から階段が降りてきて船着き場へと設置される。その先に、お父さんはいた。
「か、影山……」
「久しぶりだな。円堂、それに鬼道!」
「影山ァァァ!」
私の相手にしていた時とは違う、怒りに満ち溢れた怒号を上げる鬼道さん。
そんな彼に「もう総帥とは呼んでくれんのか」お父さんは首を振るだけで真意はまるで読めない。
私に分かることは、影山総帥は鬼道さん……兄に執着しているという事だった。直接指導して最高の選手に育て上げたんだ……かける思いもそれだけ重くて大きい。
……鬼道有人の妹だからこそ、私も拾われた。それが答えだ。
それから瞳子さんがお父さんとエイリア学園との関与を気にしていたけれどお父さんは何も答えず、すぐに背中を向けた。
「さぁ、鬼道。昔の仲間に会わしてあげよう」
「待て影山!」
俺も行く!と、鬼道さんに続いて円堂さんがお父さんの後に続いて階段を駆け上がっていく。
「円堂が行くなら私も!」
「おいおい、野暮なことすんなよ」
続けて駆けだしそうな雷門生を見つけて私は遮るように立った。
「感動の再会にぞろぞろついて行ってどうすんの?デリカシーがあるならここで待ってな」
ピンク髪の女子選手……FFの時にはいなかったからデータはないけれど、キャラバンの旅で加入した選手だろう。
彼女から睨まれる視線は感じながらも平然を装い、私も潜水艦の中へ向かおうとしたけれど、ぐいっと袖の生地が伸びた感覚に足が止まる。
「……」
「……んだよ」
首だけをそちらに向ければ、顔を俯かせながらも手だけは私のパーカーの袖を握りしめている音無さんがいた。
あんなに怒鳴りつけたのに、まだ私に構うの?
……また、酷いこと言わないといけないの?
「……お姉ちゃん」
ーお姉ちゃん……
「ッ……!!」
顔を上げた春奈は今にも泣きそうな顔をしていた。
そしてその姿が幼い頃の、転んでしまい泣きながら私に手を伸ばす幼い頃の春奈と重なって見える。
ああダメだ。ずっとここにいたらダメになってしまう。
じくじくと痛む頭の痛みを誤魔化すように拳を握り込み、私は無言で彼女の手を振り払って無機質な鉄製の階段を昇った。
後ろは振り向けなかった。
それから数時間後に、私は小脇にサッカーボールを抱えて地上へと降りた。
真・帝国学園の拠点にするのは愛媛の海。近くには様々な工場が建ち並んでいる工場地帯で、限られた人間しか出入りしないから選んだんだろう。
……それでもあれだけ大きな潜水艦だ。地元の人間に度々影を目撃されたのか海坊主が出たなんて噂もされている。警察に見つかるのも時間の問題だ。
私が指定した場所であるコンビニへと近づけば、情報と一致しているキャラバンを見つけた。響木が来るまで休憩時間でも設けているんだろう。コンビニに入って買い物をしたり、車の外で思い思い話している雷門ジャージを着た人間の姿が見える。
私はコンビニ裏で通話をしている様子の雷門生を見つけて、被っていたパーカーのフードを外し、これ見よがしにリフティングを始めた。
しばらくすれば、なあ、君もサッカー、と話しかける声が耳に入り、
「はっ……!」
「っ!?」
私はその人間にボールを蹴り込んだ。
驚きながらも両手でボールを掴むその人の顔は見覚えがあった。といってもデータ上で、だけど。
雷門イレブンのキャプテン、円堂守だった。
「おせぇ」
「円堂くん!?」
「何だよ、いきなり!」
騒ぎを聞きつけたのだろう、マネージャーの2人が来た後にぞろぞろと他の選手まで集まってくる。
「……明奈?」
その中で聞こえた小さな呟きは聞こえなかったふりをして、私は腕を組んだ。
「愛媛まで時間が掛かりすぎじゃね?ってこと」
「君、真帝国学園の生徒ね」
なんだアイツ、と呟くピンクの坊主頭の選手の背後から現れたのは黒髪の女性……今の雷門中の監督である吉良瞳子だ。
「え?」
「そっちこそ遅いんじゃない? 人を偽のメールで呼び出しておいて、今頃現れるの?」
メールなんて、響木に直接連絡して確認を取れば真偽なんてすぐに分かる。なのになぜすぐに分かる嘘をついたのか、という追究も想定通りだったので素直に答えた。
「私の名前でメールしたらここまで来たのかよ?響木の名前を騙ったから、いろいろ調べて愛媛まで来る気になった。違うか?」
そういえば、私はまだ自分の名前を言っていないなと思い出し、組んでいた腕を解いてにこりと笑いかけた。
「そういや、自己紹介がまだだったな。私の名前は」
「不動明奈」
「あ?」
「……そうだろ、明奈」
私が名乗る前に、固い声で私の名前を呼んだその人は青いマントを翻して目の前まで着た。……相変わらずのマントとゴーグル。でもそのゴーグルのおかげで、彼の目はよく見えない。それをいいことに目線だけを合わせて笑みを作った。
「意外。私のこと、まだ覚えていたんだ」
「ッ……!!明奈!」
その言葉に弾かれたように声を上げて、私の肩を掴んだ。
「なぜお前がこんなところにいるんだ……!影山に、何をされたんだ!!」
「……離せよ」
鬼道さんの問いに一切答えず、彼の腕を掴んで放した。
「テメェが最初に切り捨てたんだろ、今更兄貴面すんなよ」
「……ッ!」
最後にポツリと呟けば、息を吞む音が聞こえて彼は押し黙る。やっと静かになってくれた鬼道さんを横目に私は瞳子さんへ目線を向ける。
「で、あー。まだ聞くことある?」
「……そうね、貴女の目的は何かしら」
瞳子さんは押し黙る鬼道さんを一瞥したのちに、先に疑問を解消することを優先させたのか、そんな質問をした。
「案内だよ、案内。真・帝国学園はちょっとめんどくさい場所にあるから。私が直々に招待してやろうってな」
そんな彼女に乗じて平然と答えればそう、と短く答えて何か考える素振りを見せてから再び私に視線を向けた。
「最後に、貴女は鬼道くん達とはどういう関係なのかしら」
結局聞くのかよ、と思わず舌打ちをしてしまった。
「さぁ?人違いとか「鬼道有人の妹で、私の双子の姉、だよ」
なんて白々しく誤魔化そうとした矢先に、青髪のショートヘアーの女子が歩いてきて、鬼道さんの横に立った。
……この子との対面は、8年ぶりだった。
「私達のこと、忘れちゃったの?お姉ちゃん……」
顔は青ざめていて、眉を下げて困惑した様子なのに私を真っ直ぐと見つめてくる青い瞳は幼少期の頃から何一つ変わっていなくて。
「どいつもこいつも被せてくんじゃねぇよ……」
そんな片割れに対して、私は目線を逸らしながら悪態をつくことしかできない。
「お姉ちゃん!」
「……ハッキリ言わねぇと分かんねぇの?知らねーよ!テメェらなんて!!」
「っ!」
「!やめろ明奈……!」
お姉ちゃん、なんて呼ばれる資格なんてない。
だから怒鳴りつければ、音無さんは怯んだように後ずさり、そんな彼女を鬼道さんは守るように手を広げて静止の声を上げた。
そうだ、これでいい。さっさと嫌ってしまえ。
「……私の事はいいんだよ。それよりも鬼道有人サン。うちにはさ、アンタにとってのスペシャルゲストがいるんだぜ?」
「スペシャル、ゲスト……?」
その勢いで私は笑顔を作って、鬼道さんへ顔を向けて話しかける。私がこの場にいることが余程予想外だったのか、聞き返す彼の態度は何とか冷静さを保とうとしているようだった。
「かつての帝国学園のお仲間だよ」
そんな彼に私は追い打ちをかけた。
「なっ!?」
ついには動揺を隠せずに声を上げる鬼道さん。それから拳を握って一言、ありえない……と零した。
共に影山総帥から離別した信頼のおける仲間達だったんだろう。それは対戦をした雷門側も同じで、有り得ないだとか、嘘をつくなとか口々に否定の声が上がる。
……煩い。
「えー?だったら私の目がおかしいのかなぁ?」
「明奈」
気分は下がるばかりなのに口にするのは小馬鹿にしたような言葉だけ。その中で私の名前を呼ぶあの人の声はハッキリ聞こえた。
「誰が……誰が、いるんだ……」
そして、ただただ切実な質問をぶつけられる。
「……着いてからの、お楽しみ」
にこり、と笑顔を作ってはぐらかした。
移動のためキャラバンに乗れば、空いている席は鬼道さんの隣しかなくて……偶然にしろ意図的にしろ最悪だと思いながら運転手に手書き地図を手渡して乱暴にシートに座った。
鬼道さんからの痛いほどの視線を感じたり、後ろの席では兄妹ということもあってか、自分を見て何かこそこそ話している声が聞こえる。
私は周りに聞こえるように大きな舌打ちをしたのちに、全て遮断するように目を閉じた。
……本当は、不動明奈だと名乗ることを最後まで迷っていた。
けれど変装や偽名を使って誤魔化すなんてその場しのぎでしかない。何よりそんな逃げ、許される訳がない。
私は、彼らに自分の意思でここにいる悪人だと見せつけなければいけない。
勝手な逆恨みで兄妹を裏切って、彼らの大切なものを傷つける人間だと、知ってしまえば彼らだって私をちゃんと嫌ってくれるはずだ。
…………いっその事、忘れてくれていたらよかったのに。
少し前に抱いていたものとは真逆の感情を持ちながら目を開いて窓の外を見れば、見慣れた道が見えて私は運転手に声を掛けた。
「そこの門から入って」
目的の工場へ入るように促せばキャラバンはそれに従う。辿り着いたのは工場地帯の船着き場。先程までは晴れていたはずの空はいつの間にか鉛色になっていて、目の前に広がる海の色も黒く淀んでいた。
「どこにも学校なんかないじゃないか」
周りを見渡しながら指摘する円堂さんに続いて、やっぱり俺たちを騙したのか!と声を上げるのは先程からやたら語気が強いピンク坊主の人……思い出した。雷門のもう一人のFWの染岡さんだ。
「短気な奴だなぁ。真・帝国学園だったら……ほら」
怒鳴られ慣れていない私は彼の態度に辟易しながら海へ向けて指を差した瞬間、地響きと共に海面から潜水艦が姿を現した。
私は見慣れているけれど、周りはそんな巨大な潜水艦に圧倒されていた。その間に海上へと出た潜水艦は真・帝国学園の旗をはためかせながら、潜水艦の中央が開いてグラウンドを表へと出した。
それから潜水艦の入り口から階段が降りてきて船着き場へと設置される。その先に、お父さんはいた。
「か、影山……」
「久しぶりだな。円堂、それに鬼道!」
「影山ァァァ!」
私の相手にしていた時とは違う、怒りに満ち溢れた怒号を上げる鬼道さん。
そんな彼に「もう総帥とは呼んでくれんのか」お父さんは首を振るだけで真意はまるで読めない。
私に分かることは、影山総帥は鬼道さん……兄に執着しているという事だった。直接指導して最高の選手に育て上げたんだ……かける思いもそれだけ重くて大きい。
……鬼道有人の妹だからこそ、私も拾われた。それが答えだ。
それから瞳子さんがお父さんとエイリア学園との関与を気にしていたけれどお父さんは何も答えず、すぐに背中を向けた。
「さぁ、鬼道。昔の仲間に会わしてあげよう」
「待て影山!」
俺も行く!と、鬼道さんに続いて円堂さんがお父さんの後に続いて階段を駆け上がっていく。
「円堂が行くなら私も!」
「おいおい、野暮なことすんなよ」
続けて駆けだしそうな雷門生を見つけて私は遮るように立った。
「感動の再会にぞろぞろついて行ってどうすんの?デリカシーがあるならここで待ってな」
ピンク髪の女子選手……FFの時にはいなかったからデータはないけれど、キャラバンの旅で加入した選手だろう。
彼女から睨まれる視線は感じながらも平然を装い、私も潜水艦の中へ向かおうとしたけれど、ぐいっと袖の生地が伸びた感覚に足が止まる。
「……」
「……んだよ」
首だけをそちらに向ければ、顔を俯かせながらも手だけは私のパーカーの袖を握りしめている音無さんがいた。
あんなに怒鳴りつけたのに、まだ私に構うの?
……また、酷いこと言わないといけないの?
「……お姉ちゃん」
ーお姉ちゃん……
「ッ……!!」
顔を上げた春奈は今にも泣きそうな顔をしていた。
そしてその姿が幼い頃の、転んでしまい泣きながら私に手を伸ばす幼い頃の春奈と重なって見える。
ああダメだ。ずっとここにいたらダメになってしまう。
じくじくと痛む頭の痛みを誤魔化すように拳を握り込み、私は無言で彼女の手を振り払って無機質な鉄製の階段を昇った。
後ろは振り向けなかった。