寂しがり少女
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「だったら、今度行こうよ」
私達のやり取りを見守っていたヒロトさんの提案に、私と木暮くんは揃って目を丸くしてしまう。
「えっ、ホントに!?」
「うん。円堂くんたちも誘ってさ。この島ならキャンプできそうなとこ、たくさんありそうだし」
「わぁ……楽しそう…………」
イナズマジャパンのみんなとキャンプ……想像するだけで、楽しそうで頬が緩む。
「じゃあ俺、ご飯炊く係!飯ごうとか使ってさ!」
木暮くんも同じ気持ちなんだろう、嬉しそうに立ち上がり、やりたいこと口にする。
「うん。でもあれは、なかなかコツがいるからね。最初は焚き木拾いからだよ」
「えぇ~、焚き木拾い~?」
ヒロトさんが説明する役割はイメージと違うのか不満そうだったものの「キャンプもサッカーと同じ、不要なポジションなんてないんだ」なんて説かれていた。
「明奈ちゃんは?」
「え?」
そんなやり取りを楽しい気持ちで聞いていると、ヒロトさんに話を振られた。
「えっと…………さっきのヒロトさんみたいに火を熾してみたいです」
私は少し考えて、丸太の上で膝を抱えながら答えた。
「熾した火でマシュマロとかさつまいも焼くとか、楽しそうだなって…………」
「マシュマロを焼くなら……スモア作りが定番だよ」
キャンプの経験がない私はたまたまテレビで見たことのある映像を口に出せば、ヒロトさんの口からそんな言葉が出た。
「すもあ?」
「焼いたマシュマロにチョコとビスケットを挟んだおやつだよ」
「何それ、おいしそう!」
私はもちろん、木暮くんも知らないそのおやつに関して教えれもらえばたちまち目を輝かせて楽しみにする。
「俺がコツを教えるから任せてよ」
「!ありがとうございます」
そう言ってくれたヒロトさんに私は礼を言いながら、私も内心キャンプがさらに楽しみになる。
「それでっ、そのあとはみんなでゲームしたり、歌を歌ったりして遊ぶんだよね!」
「うん。火を囲んでね」
「わぁ~。楽しそうだな~……」
「早く行きたいね……!」
「うん!」
その後も遊ぶらしく、ヒロトさんの話を聞けば聞くほどいつか来るかもしれないイナズマジャパンみんなとのキャンプを想像して、木暮くんと一緒に期待に胸を膨らませて笑い合った。
「……そういえば、歌って何を歌うんですか?」
「何って普通の定番曲だよ……?」
それから少し雑談をしながら過ごしていて、その延長線で質問をすればヒロトさんは首を傾げながら答える。
「もしかして、不動って歌うの下手だったり~?」
わざわざ歌に対して反応した私に、隣の木暮くんにニヤニヤとした笑みを浮かべられた。
「下手っていうか…………そもそも歌う機会が幼少期しかなかったから……分かんない」
幼少期の思い出なんて今となってはだいぶ朧気で……私が主に覚えているものなんて、勉学のために聴いた歌詞のないクラシック曲ばかりで歌うことなんてしばらくやっていない。
だからキャンプに定番曲あるんだったら勉強しとこうかなと聞いたけれど……
「だったら今歌ってみようよ」
「え?」
少しだけ静かになって、空気を悪くしたかもしないなんて不安に思っているとヒロトさんにそんな提案をされて、私は目を丸くしてしまう。
「小さい頃は歌ってたんだろ?何の歌なんだよー」
「えっと……きらきら星、とか…………」
隣の木暮くんも気を取り直したように笑って、私は少し呆気にとられながらも曲名を挙げる。……そこで2人が私が今から歌うことを待っていることに気づいて慌てて首を振った。
「えっ、いや……辛うじて歌詞を覚えているレベルだし、ちゃんと歌える保障なんてなくて……!」
「いいからいいから、歌ってみてよ!」
「そうだね、キャンプの予行練習だ」
まさかこんな事になるなんて思っていなかったものの、木暮くんもヒロトさんも期待に込めた目でこちらを見てくるものだからつい折れてしまう。
「……音痴でも、文句言わないでくださいね」
歌うなんて、何時ぶりなんだろうと思いながら私は一度深呼吸をして、歌うためにスッと息を吸った。
「~きらきら光る お空の星よ――……」
正確な音程もうろ覚えながらに、何とか歌い切った私はとりあえず安堵の息をついた。
周りはいやに静かで、パチパチと焚き火の木が燃える音だけが響いた。……いや、静かすぎないか?木暮くんも少しぐらいからかってきそうなのに…………
「あっ」
不思議に思った私はすぐ隣へと視線を向けて思わず声が漏れる。
「寝てる……」
木暮くんは丸太に凭れ掛かってすうすうと穏やかな寝息を立てていた。
「明奈ちゃんの歌が子守唄になったみたいだね」
前を見ればヒロトさんは薪をくべながら小さく笑う。
「歌、素敵だったよ」
「…………お世辞はやめてくださいよ」
「お世辞じゃないよ」
ヒロトさんは褒めてくれたけれど、自分でも上手いとは思えなかったので、つい捻くれた返答をするもヒロトさんは首を横に振る。
それから立ち上がったかと思えば木暮くんとは反対側の私の隣へと腰掛ける。
「上手い下手とは関係ない。……俺は明奈ちゃんの歌声好きだよ」
木暮くんも安心できたから寝ちゃったんだろうね、なんて優しく微笑まれれば何も言えなくて……少しだけ恥ずかしくて思わず顔を俯かせる。
「……ありがとう、ございます」
「うん」
だけど、何とか礼だけは絞り出した。
+++
「ええっ!?」
朝、木暮くんの驚きの声で眠っていた意識が覚醒していった。
「ふ、不動!ヒロトさん!」
「……んん……?」
「どうかしたのか……?」
「見て!」
飛び起きた木暮くんが私とヒロトさんを揺さぶるものだから何事かと目を開けば、そこにいたのは昨日出会ったヒロトさんのファンである亀崎さんと……髪の色ぐらいしか違いのないそっくりな少年が並んで佇んでいた。
「こっち」
人数増えたことに驚いているこちらを置き去りにして昨日と同じようにサッカーボールを抱えた亀崎さんは一方を指差したかと思えば駆け出し、再びこちらを見てついて来るように促してくる。
「こっち来いって……?」
「もしかしたら出口を知ってるかも!」
「森から出られるってことですか……!」
やっと宿舎に帰れる予感に私達は顔を見合わせて笑う。だったら選択肢は決まっている。
「行こう!」
私達は亀崎……兄弟?について行くため走り出した。
意外にも素早い彼らに何度か見失いそうになりながらも、必死に追いかける。だけど予想に反して案内されたのは―森に囲まれたサッカーコートだった。
グラウンドに降りた亀崎兄弟に続いて降りれば、ボールをセンターサークルに置いてから亀崎兄はライン外にある手作りの黒板に何か書きこんでいた。
「ああ。俺たちとサッカーしたいんだ!」
「うんうん」
それが得点板だと分かった木暮くんがそう納得すれば、亀崎さんも正解だと笑顔で頷く。その際に黒板で描かれた絵を見れば……
「ふっ……!」
亀崎兄弟とヒロトさんの簡易的な似顔絵の中に、更に簡単に描かれた木暮くんがいて私は思わず吹き出してしまった。
「なんで俺の絵だけいい加減なんだよ!」
「と、特徴は捉えてると思うけど……ふふっ」
「ツボるなー!!」
「アハハ……」
さらに木暮くんを怒らせてしまったけれど、耐えきれなかったので仕方ない。苦笑いするヒロトさんの隣で何とか気持ちを落ち着かせていると。
「ん!」
「くくっ…………え?」
目の前の亀崎さんにいつの間にか彼が持っていたチョークを握らされていた。
「……審判役ってこと?」
「「うんうん」」
得点板も私の絵はなかったし、確認のために聞いてみれば兄弟揃って頷かれた。
「「やろうやろう!」」
「仕方ないね……。ちょっとだけ付き合ってあげようか」
「フンッ」
それから無表情ながらもやる気満々な2人に断れずに、思わぬ場所でサッカーをすることになった。
最初はファンとの交流だと思って軽い気持ちで審判兼観戦をしていたけれど認識を変えなくてはいけないと思ったのは、必殺技を使って日本代表を翻弄している姿を見てからだった。
「「スーイスススイのスイ~!」」
得点を決めるたびにお披露目される2人のダンスを見ながら、私はチョークで得点を書き換える。亀崎兄弟の3点目の得点だった。
その後も彼らは得点を重ねて……ついに彼らの得点は二桁になり私は対策考えるため、亀崎さん達を見ていたけれど……
「……明奈ちゃん」
ずっと走っていて息も上がっているヒロトさんが私の名前を呼んだ。
「もし試合を見てて何か気づいても……伏せたままにしてくれないかな」
「え?」
「自分の力で、突破したいんだ」
いつになく真剣な表情をするヒロトさんは自分の立ち塞がる壁を壊すため奮起しているようで。
「……分かりました」
そんな彼を見て意見なんて野暮だなと私は笑みを浮かべて頷いた。
亀崎さん達はヒロトさんのファンだ。こんなに高い実力を持つサッカープレーヤーという点から……きっとヒロトさんが自分達を突破してシュートを撃つ事を期待しているんだろう。
だとしたらヒロトさんだって思う存分挑戦できる。このゲームだからこそできることだと感じて、試合を見守ることにした。
「 “流星ブレードV2” !!」
それから何度もヒロトさんは挑戦を重ね……ついに亀崎さん達を躱し無人のゴールへ必殺シュートを決めた。
「やったやった!まずは1点だ!」
基山木暮ペアの方に1と得点を書けば、木暮くんも得点板の方へと走って来て、嬉しそうに飛び跳ねていた。
「明奈ちゃんっ」
「ナイスです。ヒロトさん」
こちらにやって来たヒロトさんに手を上てパチンとハイタッチをして入った1点を一緒に喜んだ。
「……俺を信じてくれてありがとう」
「当たり前ですよ」
自分の成長に繋げられた、とヒロトさんが爽やかな笑みを浮かべたので私も素直に頷いた。
ピューイ、ピューイ。
丁度その時、試合終了を知らせるような指笛がなって、私達3人は顔を見合わせた。
「えっ、終わり?なんでいきなり終わりなんだよ~」
「やっぱりヒロトさんのシュートが見たかったんだろうね」
「え、俺の?」
反撃だと気合を入れていた木暮くんは苦笑していて、ヒロトさんは私が試合の理由を口にすればきょとんとしていた。
とりあえず、そんな2人の背中を押して私は整列を促す。
「礼」
互いに並んで礼をする4人。木暮くんは不満そうだったものの、ヒロトさんは清々しい表情をしていた。
その後、亀崎さんは再びとある方向を指差した。
そこにはキュウリが実ったツタをまとった木が道となって続いていた。……木暮くんが絡まっていたのキュウリのツタだったのか……。
「そうか。あの胡瓜を辿って行けば、森を抜けられるんだね」
「「スイ」」
ヒロトさんの考えに亀崎さん達は頷いて、思わず私と木暮くんは顔を見合わせれば段々と笑顔になっていく。
「じゃあ俺達帰れんの!?」
「うん、帰れるんだっ」
「行こう不動っ!」
「わっ」
帰れるという気持ちから木暮くんは嬉しそうに私の手を取って駆け出した。亀崎さん達の挨拶はヒロトさんが後ろでしているのが聞こえた。
その後、木暮くんが採ったキュウリを頂きつつも歩いて行けば、途中ヒロトさんが自主練習で使っていたボール見つけて、さらに進み……森を抜けた高台に出た。
「見て、不動!ヒロトさん!」
「うん……!」
「さっ、帰ろう」
そこには見慣れたイナズマジャパンの宿舎とグラウンドが見えて、木暮くんと頷き合っているとヒロトさんも微笑んだ。
「あ~あ。怒られるだろうな……無断外泊だし……」
「う……だよなぁ……」
私達は宿舎に無事帰れた事に安堵したものの、連絡ができない状況だったとはいえ一晩帰らなかったのは事実だ。当然心配もかけただろうし、説教もされるだろう。
しかも私なんて、迷子にならないなんて言いながらこの体たらく。
「風丸さんにまた怒られるなぁ……」
出ていく事は言ったけども、心配性の彼の顔が思い浮かんで小さくため息をつきながら宿舎へと向かった。
「ごめんなさい!」
宿舎に辿り着き、みんなが集まっているであろう食堂の扉をヒロトが開けて、開口一番に木暮くんが頭を下げた。
だけど、中にいる人達はキョトンとした表情で私達を見るだけで。
「あれ?怒ってない……?」
「ほらほら、木暮くんも座って。早くしないとなくなっちゃうわよ」
そんな反応に驚ていると春奈は至って普通の様子でおにぎりが乗った大皿を机の上に置いた。私もヒロトさんもその光景に思わず顔を見合わせる。
「……怒ってないの?」
「怒るって、何を?」
その間も木暮くんは早口で状況を説明するも、春奈はまるでピンとしていない顔で首を傾げた。
「森の中?何言ってるの?さっきまでみんなで練習してたじゃない」
「みんなで……?」
「変なの」
「どうなってんだ……?」
「嘘をついてるようには見えないけど……」
自分達は一日森の中で過ごしたはずなのに、春奈はさっきまで練習をしていたと言っていてひたすら困惑している最中、美味しいとおかかおにぎりを食べる壁山くんを見て、私はある事を思い出した。
……確か、昨日の昼に春奈はおかかおにぎりを作ったと言っていたけれど……今日、出されているってことは……もしかしてこっちじゃ一日も経ってないのでは?
「……いやいや」
なんでそんな不思議体験をしているんだ、と浮かんだ仮定を否定しようと首を横に振っていると、
「木暮ぇ!見つけたぞ!」
「まだ怒ってる!?」
私達の後ろから、染岡さんが現れた。しかも昨日の昼と変わらず木暮くんにご立腹なようで、木暮くんは慌てて反対側の扉から逃げ出し、再び染岡さんは追いかけて行った。
「……すごい体験しちゃったね、俺達」
「……ですね」
本当にこちらでは一日も経っていないらしい。
ヒロトさんも同じ考えなのか目が合えば苦笑を浮かべたので、私も頷いて笑い返した。
「ヒロトと合流したのか?」
「え?あ、はい……木暮くん見つけた後に…………」
それから席の方へと行けば先におにぎりを食べていた風丸さんに話しかけられたので頷きながらも私も席に着く。……そういえば木暮くんを探すために森に行ったんだな、と今更ながらに思い出す。
「よく迷子にならなかったな」
「は、はは……」
風丸さんの隣では昨日……ではなく、今日の昼前に私の方向音痴をからかってきた佐久間さんから帰ってこれたことから、意地悪な笑みを浮かべられるも自分としては強気に出られる結果ではないので思わず笑みが引きつった。
「?」
そんな私を見て風丸さんと佐久間さんが不思議そうに首を傾げて、顔を見合わせている間に、ヒロトさんがおにぎりを頬張っているキャプテンの傍へと近寄る姿が見えた。
そして……
「円堂くん」
「ん?」
「やっぱりカッパはいたんだよ」
「はっ?」
「やっぱり、カッパはいたんだよ」
「…………?」
「狐じゃなくて、河童に化かされたのかなぁ……」
よく分からない一日だったなと私はヒロトさんを見ながら頬を掻いて呟いた。
私達のやり取りを見守っていたヒロトさんの提案に、私と木暮くんは揃って目を丸くしてしまう。
「えっ、ホントに!?」
「うん。円堂くんたちも誘ってさ。この島ならキャンプできそうなとこ、たくさんありそうだし」
「わぁ……楽しそう…………」
イナズマジャパンのみんなとキャンプ……想像するだけで、楽しそうで頬が緩む。
「じゃあ俺、ご飯炊く係!飯ごうとか使ってさ!」
木暮くんも同じ気持ちなんだろう、嬉しそうに立ち上がり、やりたいこと口にする。
「うん。でもあれは、なかなかコツがいるからね。最初は焚き木拾いからだよ」
「えぇ~、焚き木拾い~?」
ヒロトさんが説明する役割はイメージと違うのか不満そうだったものの「キャンプもサッカーと同じ、不要なポジションなんてないんだ」なんて説かれていた。
「明奈ちゃんは?」
「え?」
そんなやり取りを楽しい気持ちで聞いていると、ヒロトさんに話を振られた。
「えっと…………さっきのヒロトさんみたいに火を熾してみたいです」
私は少し考えて、丸太の上で膝を抱えながら答えた。
「熾した火でマシュマロとかさつまいも焼くとか、楽しそうだなって…………」
「マシュマロを焼くなら……スモア作りが定番だよ」
キャンプの経験がない私はたまたまテレビで見たことのある映像を口に出せば、ヒロトさんの口からそんな言葉が出た。
「すもあ?」
「焼いたマシュマロにチョコとビスケットを挟んだおやつだよ」
「何それ、おいしそう!」
私はもちろん、木暮くんも知らないそのおやつに関して教えれもらえばたちまち目を輝かせて楽しみにする。
「俺がコツを教えるから任せてよ」
「!ありがとうございます」
そう言ってくれたヒロトさんに私は礼を言いながら、私も内心キャンプがさらに楽しみになる。
「それでっ、そのあとはみんなでゲームしたり、歌を歌ったりして遊ぶんだよね!」
「うん。火を囲んでね」
「わぁ~。楽しそうだな~……」
「早く行きたいね……!」
「うん!」
その後も遊ぶらしく、ヒロトさんの話を聞けば聞くほどいつか来るかもしれないイナズマジャパンみんなとのキャンプを想像して、木暮くんと一緒に期待に胸を膨らませて笑い合った。
「……そういえば、歌って何を歌うんですか?」
「何って普通の定番曲だよ……?」
それから少し雑談をしながら過ごしていて、その延長線で質問をすればヒロトさんは首を傾げながら答える。
「もしかして、不動って歌うの下手だったり~?」
わざわざ歌に対して反応した私に、隣の木暮くんにニヤニヤとした笑みを浮かべられた。
「下手っていうか…………そもそも歌う機会が幼少期しかなかったから……分かんない」
幼少期の思い出なんて今となってはだいぶ朧気で……私が主に覚えているものなんて、勉学のために聴いた歌詞のないクラシック曲ばかりで歌うことなんてしばらくやっていない。
だからキャンプに定番曲あるんだったら勉強しとこうかなと聞いたけれど……
「だったら今歌ってみようよ」
「え?」
少しだけ静かになって、空気を悪くしたかもしないなんて不安に思っているとヒロトさんにそんな提案をされて、私は目を丸くしてしまう。
「小さい頃は歌ってたんだろ?何の歌なんだよー」
「えっと……きらきら星、とか…………」
隣の木暮くんも気を取り直したように笑って、私は少し呆気にとられながらも曲名を挙げる。……そこで2人が私が今から歌うことを待っていることに気づいて慌てて首を振った。
「えっ、いや……辛うじて歌詞を覚えているレベルだし、ちゃんと歌える保障なんてなくて……!」
「いいからいいから、歌ってみてよ!」
「そうだね、キャンプの予行練習だ」
まさかこんな事になるなんて思っていなかったものの、木暮くんもヒロトさんも期待に込めた目でこちらを見てくるものだからつい折れてしまう。
「……音痴でも、文句言わないでくださいね」
歌うなんて、何時ぶりなんだろうと思いながら私は一度深呼吸をして、歌うためにスッと息を吸った。
「~きらきら光る お空の星よ――……」
正確な音程もうろ覚えながらに、何とか歌い切った私はとりあえず安堵の息をついた。
周りはいやに静かで、パチパチと焚き火の木が燃える音だけが響いた。……いや、静かすぎないか?木暮くんも少しぐらいからかってきそうなのに…………
「あっ」
不思議に思った私はすぐ隣へと視線を向けて思わず声が漏れる。
「寝てる……」
木暮くんは丸太に凭れ掛かってすうすうと穏やかな寝息を立てていた。
「明奈ちゃんの歌が子守唄になったみたいだね」
前を見ればヒロトさんは薪をくべながら小さく笑う。
「歌、素敵だったよ」
「…………お世辞はやめてくださいよ」
「お世辞じゃないよ」
ヒロトさんは褒めてくれたけれど、自分でも上手いとは思えなかったので、つい捻くれた返答をするもヒロトさんは首を横に振る。
それから立ち上がったかと思えば木暮くんとは反対側の私の隣へと腰掛ける。
「上手い下手とは関係ない。……俺は明奈ちゃんの歌声好きだよ」
木暮くんも安心できたから寝ちゃったんだろうね、なんて優しく微笑まれれば何も言えなくて……少しだけ恥ずかしくて思わず顔を俯かせる。
「……ありがとう、ございます」
「うん」
だけど、何とか礼だけは絞り出した。
+++
「ええっ!?」
朝、木暮くんの驚きの声で眠っていた意識が覚醒していった。
「ふ、不動!ヒロトさん!」
「……んん……?」
「どうかしたのか……?」
「見て!」
飛び起きた木暮くんが私とヒロトさんを揺さぶるものだから何事かと目を開けば、そこにいたのは昨日出会ったヒロトさんのファンである亀崎さんと……髪の色ぐらいしか違いのないそっくりな少年が並んで佇んでいた。
「こっち」
人数増えたことに驚いているこちらを置き去りにして昨日と同じようにサッカーボールを抱えた亀崎さんは一方を指差したかと思えば駆け出し、再びこちらを見てついて来るように促してくる。
「こっち来いって……?」
「もしかしたら出口を知ってるかも!」
「森から出られるってことですか……!」
やっと宿舎に帰れる予感に私達は顔を見合わせて笑う。だったら選択肢は決まっている。
「行こう!」
私達は亀崎……兄弟?について行くため走り出した。
意外にも素早い彼らに何度か見失いそうになりながらも、必死に追いかける。だけど予想に反して案内されたのは―森に囲まれたサッカーコートだった。
グラウンドに降りた亀崎兄弟に続いて降りれば、ボールをセンターサークルに置いてから亀崎兄はライン外にある手作りの黒板に何か書きこんでいた。
「ああ。俺たちとサッカーしたいんだ!」
「うんうん」
それが得点板だと分かった木暮くんがそう納得すれば、亀崎さんも正解だと笑顔で頷く。その際に黒板で描かれた絵を見れば……
「ふっ……!」
亀崎兄弟とヒロトさんの簡易的な似顔絵の中に、更に簡単に描かれた木暮くんがいて私は思わず吹き出してしまった。
「なんで俺の絵だけいい加減なんだよ!」
「と、特徴は捉えてると思うけど……ふふっ」
「ツボるなー!!」
「アハハ……」
さらに木暮くんを怒らせてしまったけれど、耐えきれなかったので仕方ない。苦笑いするヒロトさんの隣で何とか気持ちを落ち着かせていると。
「ん!」
「くくっ…………え?」
目の前の亀崎さんにいつの間にか彼が持っていたチョークを握らされていた。
「……審判役ってこと?」
「「うんうん」」
得点板も私の絵はなかったし、確認のために聞いてみれば兄弟揃って頷かれた。
「「やろうやろう!」」
「仕方ないね……。ちょっとだけ付き合ってあげようか」
「フンッ」
それから無表情ながらもやる気満々な2人に断れずに、思わぬ場所でサッカーをすることになった。
最初はファンとの交流だと思って軽い気持ちで審判兼観戦をしていたけれど認識を変えなくてはいけないと思ったのは、必殺技を使って日本代表を翻弄している姿を見てからだった。
「「スーイスススイのスイ~!」」
得点を決めるたびにお披露目される2人のダンスを見ながら、私はチョークで得点を書き換える。亀崎兄弟の3点目の得点だった。
その後も彼らは得点を重ねて……ついに彼らの得点は二桁になり私は対策考えるため、亀崎さん達を見ていたけれど……
「……明奈ちゃん」
ずっと走っていて息も上がっているヒロトさんが私の名前を呼んだ。
「もし試合を見てて何か気づいても……伏せたままにしてくれないかな」
「え?」
「自分の力で、突破したいんだ」
いつになく真剣な表情をするヒロトさんは自分の立ち塞がる壁を壊すため奮起しているようで。
「……分かりました」
そんな彼を見て意見なんて野暮だなと私は笑みを浮かべて頷いた。
亀崎さん達はヒロトさんのファンだ。こんなに高い実力を持つサッカープレーヤーという点から……きっとヒロトさんが自分達を突破してシュートを撃つ事を期待しているんだろう。
だとしたらヒロトさんだって思う存分挑戦できる。このゲームだからこそできることだと感じて、試合を見守ることにした。
「 “流星ブレードV2” !!」
それから何度もヒロトさんは挑戦を重ね……ついに亀崎さん達を躱し無人のゴールへ必殺シュートを決めた。
「やったやった!まずは1点だ!」
基山木暮ペアの方に1と得点を書けば、木暮くんも得点板の方へと走って来て、嬉しそうに飛び跳ねていた。
「明奈ちゃんっ」
「ナイスです。ヒロトさん」
こちらにやって来たヒロトさんに手を上てパチンとハイタッチをして入った1点を一緒に喜んだ。
「……俺を信じてくれてありがとう」
「当たり前ですよ」
自分の成長に繋げられた、とヒロトさんが爽やかな笑みを浮かべたので私も素直に頷いた。
ピューイ、ピューイ。
丁度その時、試合終了を知らせるような指笛がなって、私達3人は顔を見合わせた。
「えっ、終わり?なんでいきなり終わりなんだよ~」
「やっぱりヒロトさんのシュートが見たかったんだろうね」
「え、俺の?」
反撃だと気合を入れていた木暮くんは苦笑していて、ヒロトさんは私が試合の理由を口にすればきょとんとしていた。
とりあえず、そんな2人の背中を押して私は整列を促す。
「礼」
互いに並んで礼をする4人。木暮くんは不満そうだったものの、ヒロトさんは清々しい表情をしていた。
その後、亀崎さんは再びとある方向を指差した。
そこにはキュウリが実ったツタをまとった木が道となって続いていた。……木暮くんが絡まっていたのキュウリのツタだったのか……。
「そうか。あの胡瓜を辿って行けば、森を抜けられるんだね」
「「スイ」」
ヒロトさんの考えに亀崎さん達は頷いて、思わず私と木暮くんは顔を見合わせれば段々と笑顔になっていく。
「じゃあ俺達帰れんの!?」
「うん、帰れるんだっ」
「行こう不動っ!」
「わっ」
帰れるという気持ちから木暮くんは嬉しそうに私の手を取って駆け出した。亀崎さん達の挨拶はヒロトさんが後ろでしているのが聞こえた。
その後、木暮くんが採ったキュウリを頂きつつも歩いて行けば、途中ヒロトさんが自主練習で使っていたボール見つけて、さらに進み……森を抜けた高台に出た。
「見て、不動!ヒロトさん!」
「うん……!」
「さっ、帰ろう」
そこには見慣れたイナズマジャパンの宿舎とグラウンドが見えて、木暮くんと頷き合っているとヒロトさんも微笑んだ。
「あ~あ。怒られるだろうな……無断外泊だし……」
「う……だよなぁ……」
私達は宿舎に無事帰れた事に安堵したものの、連絡ができない状況だったとはいえ一晩帰らなかったのは事実だ。当然心配もかけただろうし、説教もされるだろう。
しかも私なんて、迷子にならないなんて言いながらこの体たらく。
「風丸さんにまた怒られるなぁ……」
出ていく事は言ったけども、心配性の彼の顔が思い浮かんで小さくため息をつきながら宿舎へと向かった。
「ごめんなさい!」
宿舎に辿り着き、みんなが集まっているであろう食堂の扉をヒロトが開けて、開口一番に木暮くんが頭を下げた。
だけど、中にいる人達はキョトンとした表情で私達を見るだけで。
「あれ?怒ってない……?」
「ほらほら、木暮くんも座って。早くしないとなくなっちゃうわよ」
そんな反応に驚ていると春奈は至って普通の様子でおにぎりが乗った大皿を机の上に置いた。私もヒロトさんもその光景に思わず顔を見合わせる。
「……怒ってないの?」
「怒るって、何を?」
その間も木暮くんは早口で状況を説明するも、春奈はまるでピンとしていない顔で首を傾げた。
「森の中?何言ってるの?さっきまでみんなで練習してたじゃない」
「みんなで……?」
「変なの」
「どうなってんだ……?」
「嘘をついてるようには見えないけど……」
自分達は一日森の中で過ごしたはずなのに、春奈はさっきまで練習をしていたと言っていてひたすら困惑している最中、美味しいとおかかおにぎりを食べる壁山くんを見て、私はある事を思い出した。
……確か、昨日の昼に春奈はおかかおにぎりを作ったと言っていたけれど……今日、出されているってことは……もしかしてこっちじゃ一日も経ってないのでは?
「……いやいや」
なんでそんな不思議体験をしているんだ、と浮かんだ仮定を否定しようと首を横に振っていると、
「木暮ぇ!見つけたぞ!」
「まだ怒ってる!?」
私達の後ろから、染岡さんが現れた。しかも昨日の昼と変わらず木暮くんにご立腹なようで、木暮くんは慌てて反対側の扉から逃げ出し、再び染岡さんは追いかけて行った。
「……すごい体験しちゃったね、俺達」
「……ですね」
本当にこちらでは一日も経っていないらしい。
ヒロトさんも同じ考えなのか目が合えば苦笑を浮かべたので、私も頷いて笑い返した。
「ヒロトと合流したのか?」
「え?あ、はい……木暮くん見つけた後に…………」
それから席の方へと行けば先におにぎりを食べていた風丸さんに話しかけられたので頷きながらも私も席に着く。……そういえば木暮くんを探すために森に行ったんだな、と今更ながらに思い出す。
「よく迷子にならなかったな」
「は、はは……」
風丸さんの隣では昨日……ではなく、今日の昼前に私の方向音痴をからかってきた佐久間さんから帰ってこれたことから、意地悪な笑みを浮かべられるも自分としては強気に出られる結果ではないので思わず笑みが引きつった。
「?」
そんな私を見て風丸さんと佐久間さんが不思議そうに首を傾げて、顔を見合わせている間に、ヒロトさんがおにぎりを頬張っているキャプテンの傍へと近寄る姿が見えた。
そして……
「円堂くん」
「ん?」
「やっぱりカッパはいたんだよ」
「はっ?」
「やっぱり、カッパはいたんだよ」
「…………?」
「狐じゃなくて、河童に化かされたのかなぁ……」
よく分からない一日だったなと私はヒロトさんを見ながら頬を掻いて呟いた。