寂しがり少女
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結局、神にも匹敵する程の力を手に入れたはずの世宇子中も雷門中学校に破れてしまった。
そんな雷門イレブンが日本一の称号を得たのも束の間、世間を騒がせるのはエイリア学園によるサッカーを用いた各地への破壊と侵略行為だった。
某総合病院へと訪れた際に設置されていたテレビにはエイリア襲来事件に関して被害状況を報じた後に、彼らの正体について自称専門家による議論番組などが流れている。
そんな音声を聞き流しながら受付の人と話した時に外したパーカーのフードを被ってとある人達の病室を目指す。
受付では赤いメッシュをつけた目つきの悪い自分を一瞬訝しげに見られたものの学校の後輩ですと丁寧に対応すればすぐに通してもらえた。……愛想笑いも上手くなったものだ。
源田幸次郎 佐久間次郎
連なっている名前は同室ということで、都合がいいなと思いながらその部屋に入った。
「失礼しまぁーす」
ノックもせずにまるで旧知の仲のような気軽さで挨拶をして後ろ手で扉を閉めつつ室内を見れば、帝国イレブンとしてデータ上でよく見ていた二名が見慣れない病院服を着てこちらを不思議そうに眺めていた。
「?」
「誰だ……?」
「誰だっていいでしょう。……にしても、なっさけないなぁ先輩方」
早く本題に入りたかった私は源田さんの疑問も流して歩き、ちょうど彼らが座るベットの真ん中に立って腕を組んで2人を見回しながらわざとらしい大きなため息をついた。
「世宇子との試合見ましたよ。あの帝国が1点も取れずにボロ負けだなんて……本当、惨めで見てられねぇ」
「っ……!」
「くっ……!」
私が作ったチームの中に入れるお父さんに指定された選手とは、世宇子に敗れた帝国学園の人間だった。表に出していないだけで今の帝国は誇りと自尊心を傷つけられ、隙だらけ。
現に私の言葉に2人の表情は固まり、悔しそうに顔をしかめるだけで碌に言い返してもこない。
「しかも頼みの綱のキャプテンは仇だなんだ言いながらそこのチームで勝ったかと思えば帰って来ない始末……こんなの弱い帝国学園を捨てましたって言ってるようなもんだよなぁ」
「違うっ!鬼道は俺達を捨てた訳じゃ……!!」
「勝利のためなら家族だって切り捨てる。そういう人だ。あの人は」
鬼道有人の名前を出しただけで過剰に反応する佐久間さんにかつての自分を一瞬だけ重ねてしまい、低い声が出てしまう。……すぐに気を取り直して笑顔を作り、佐久間さんの方へと手を伸ばした。
「そんな睨まないでくださいよ。捨てられた者同士仲良くしましょうよ、佐久間センパイ」
「ふざけるなっ!!」
握手を求めた手はすぐに叩き落とされた。
じわじわと広がる手の痛みなんかよりも、睨め付ける片目の鋭い視線は純粋な怒りを表していて、それだけで彼への信頼と尊敬を嫌でも察してしまう。
それが、無性に苛立った。
「あははっ、こわいなぁー!」
そんな心情を誤魔化すように私は大袈裟に手を広げて笑い声を上げて、再びベットの真ん中へと歩く。
「怒ってるんですか?誰に?何に?」
今こうやって喧嘩売っている私?
負けてしまった弱い自分?
自分達をボロボロにした世宇子?
一人勝利を掴んで先を行くあの人?
佐久間さんと源田さん。それぞれの表情を交互に見ながらゆっくり丁寧に語りかける。
「どの理由だっていいんだよ、だってその怒りは正しいものだから!!」
バッと私は手を広げて声を上げる。反論の隙なんて一切与えてやらない。
「センパイ方悔しいでしょ、あんなズタボロに負けてさぁ……!!」
それから胸に手を置いて彼らに畳み掛けるように話しかけた。
「その悔しさを胸に刻めッ!血が逆流するほどに!!そうすれば貴方達はもっと強くなる……!!」
「つよ、く……」
「……っ」
源田さんが呟いた声も、佐久間さんの瞳が揺れたのを見て私は笑みがこみ上げる。
ああ、流石お父さんが選んだ人達だ。しっかり素質を持っている。
そう確認してから私は自分の胸の真ん中、ちょうどペンダントがある位置に手を置いてその力を“使った”。
「そう!強く!!誰よりもっ、あの鬼道有人よりも強く!!この世の誰よりも強くなって見返したいと思っている!!……だろ?」
瞬間、ペンダントから紫色の光が漏れ出した。
「強くなるためなら何でもする。悪魔に魂を売ってもいい。……そうだろ?」
「くっ……!!」
「っ……!」
その光が、2人を呑みこむのにそう時間はかからなかった。
「詳細はこのメモに書いてある。後日、迎えを出す」
あれから放心状態の佐久間さんの枕元に前もって用意していたメモを置きながら一応声を掛ける。どうせ返答がないことは分かってるので私は反応を待たずに同じように源田さんの枕元にも同じメモを置くために手を伸ばした。
瞬間、その腕を掴まれた。
「あ?」
「ち、がう……」
驚いた。
気絶していると思っていた源田さんはまだ尚、抗おうとしていた。
「ずいぶんな忠誠心なこって……」
やっぱり直接ペンダントを握らせるべきだったか。なんて思いながら舌打ちをしていると、
「お前、入学式で会った……鬼道の、妹……だろ……」
「は?…………っ!」
そう考えていると源田さんは今にも気絶しそうなくせに私の顔をじっと見ていた。そこで私は自分の顔を隠していたフードがいつの間にか外れていることに気づいた。……ペンダントを使った時に外れたのだろうと急いでフードを握るけれど、
「アイツは……FFで優勝して、2人の妹を迎えに行く、と……だから……お前を……見捨ててなん、か……」
そんな言葉に手が、思考が――止まった。
どさり、という音にハッとして顔を上げれば、源田さんの腕はもうベットに落ちていて。本格的に気を失ったのかピクリとも動かない。
「え……?」
だけど私はそんなことよりも、源田さんが何を言っているのか分からなかった。
数分間、呆然と立ち尽くしていたけれど病室の騒ぎを聞きつけたのか廊下が騒がしくなる音が聞こえて、私は反射的に空きっぱなしの窓から木へと飛び移って病院を抜け出した。
それからしばらく走った。
走って走って
走って走って走って走って
辿り着いたのはブランコと一本の大木ぐらいしかない寂れた公園。
私はその木に手をついてやっと息を整える。それでも心臓はばくばくと鳴り続けて、次第にずるずるとその場に座り込んでしまった。
お父さんから指定された選手の引き込みはできた。命令はこなせたはずなのに達成感なんてまるで感じない。
脳内で繰り返されるのは、源田さんの言葉ばかり。
FFで優勝して、2人の妹を迎えに行く?
「し、知らない……」
そんな話、知らない。
だって、お父さんは鬼道家の為に兄は私達を切り捨てるって言っていた。そして、兄は春奈だけを選んで……だから、
でも、でも……
私がお父さんに言われていたみたいに、兄も私達への接触を禁止されていたとしたら?
FFの優勝をすれば、私達と話してもいい、そんな条件を出されていたとしたら?
そんな仮定を裏付けるように思い出すのは妹の言葉。彼女はあの時、感謝を伝えていた。
その理由が、兄が自分達を忘れず想ってくれていた事を知って、それに対する感謝の言葉だったとしたら?
勝手な憶測でしかないはずなのに、考えつく2人の行動は私が良く知る彼らとぴたりと当てはまっていた。
「はっ……はっ…………」
ガタガタと体が震え、呼吸だってうまくできず、酸欠のせいか頭の奥が痛んで、私はその場に蹲ってしまう。
こんな苦しみ、兄妹に切り離された日以来だった。いや、そもそも……
「……ぁ……あ…………」
それだって、私の“勘違い”だった、なんて…………
「あぁぁぁッ……!!!」
溢れ出る感情のまま、私は地面に爪を立ててがりがりと掻きむしる。爪が割れようが、血が出ようが、関係なかった。
「なんでっ、なんで…………なんで今更!!」
なんで、今知ってしまったんだろう。
今更、それを知ったところで……!!
私はどうすればいいんだよ!!!
兄が自分のために頑張ってくれたかもしれないFFの時に何をした?
お父さんに命じられるまま神のアクアを手渡し、そして惨敗した兄に対していい気味だと嘲笑った!!
今だって彼の大切な友人達を、彼が離反した影山総帥の元へと引き込んだ。自分にはどうすることもできない強大な力を使って。
そんな自分が、今更どうやって兄や妹に会えるというんだ。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……」
兄ちゃん、なんて呼ぶ資格なんて到底私にはなくて、はくはくと口だけが動かすことしかできず、項垂れることしかできない。
涙は、でなかった。
そんな雷門イレブンが日本一の称号を得たのも束の間、世間を騒がせるのはエイリア学園によるサッカーを用いた各地への破壊と侵略行為だった。
某総合病院へと訪れた際に設置されていたテレビにはエイリア襲来事件に関して被害状況を報じた後に、彼らの正体について自称専門家による議論番組などが流れている。
そんな音声を聞き流しながら受付の人と話した時に外したパーカーのフードを被ってとある人達の病室を目指す。
受付では赤いメッシュをつけた目つきの悪い自分を一瞬訝しげに見られたものの学校の後輩ですと丁寧に対応すればすぐに通してもらえた。……愛想笑いも上手くなったものだ。
源田幸次郎 佐久間次郎
連なっている名前は同室ということで、都合がいいなと思いながらその部屋に入った。
「失礼しまぁーす」
ノックもせずにまるで旧知の仲のような気軽さで挨拶をして後ろ手で扉を閉めつつ室内を見れば、帝国イレブンとしてデータ上でよく見ていた二名が見慣れない病院服を着てこちらを不思議そうに眺めていた。
「?」
「誰だ……?」
「誰だっていいでしょう。……にしても、なっさけないなぁ先輩方」
早く本題に入りたかった私は源田さんの疑問も流して歩き、ちょうど彼らが座るベットの真ん中に立って腕を組んで2人を見回しながらわざとらしい大きなため息をついた。
「世宇子との試合見ましたよ。あの帝国が1点も取れずにボロ負けだなんて……本当、惨めで見てられねぇ」
「っ……!」
「くっ……!」
私が作ったチームの中に入れるお父さんに指定された選手とは、世宇子に敗れた帝国学園の人間だった。表に出していないだけで今の帝国は誇りと自尊心を傷つけられ、隙だらけ。
現に私の言葉に2人の表情は固まり、悔しそうに顔をしかめるだけで碌に言い返してもこない。
「しかも頼みの綱のキャプテンは仇だなんだ言いながらそこのチームで勝ったかと思えば帰って来ない始末……こんなの弱い帝国学園を捨てましたって言ってるようなもんだよなぁ」
「違うっ!鬼道は俺達を捨てた訳じゃ……!!」
「勝利のためなら家族だって切り捨てる。そういう人だ。あの人は」
鬼道有人の名前を出しただけで過剰に反応する佐久間さんにかつての自分を一瞬だけ重ねてしまい、低い声が出てしまう。……すぐに気を取り直して笑顔を作り、佐久間さんの方へと手を伸ばした。
「そんな睨まないでくださいよ。捨てられた者同士仲良くしましょうよ、佐久間センパイ」
「ふざけるなっ!!」
握手を求めた手はすぐに叩き落とされた。
じわじわと広がる手の痛みなんかよりも、睨め付ける片目の鋭い視線は純粋な怒りを表していて、それだけで彼への信頼と尊敬を嫌でも察してしまう。
それが、無性に苛立った。
「あははっ、こわいなぁー!」
そんな心情を誤魔化すように私は大袈裟に手を広げて笑い声を上げて、再びベットの真ん中へと歩く。
「怒ってるんですか?誰に?何に?」
今こうやって喧嘩売っている私?
負けてしまった弱い自分?
自分達をボロボロにした世宇子?
一人勝利を掴んで先を行くあの人?
佐久間さんと源田さん。それぞれの表情を交互に見ながらゆっくり丁寧に語りかける。
「どの理由だっていいんだよ、だってその怒りは正しいものだから!!」
バッと私は手を広げて声を上げる。反論の隙なんて一切与えてやらない。
「センパイ方悔しいでしょ、あんなズタボロに負けてさぁ……!!」
それから胸に手を置いて彼らに畳み掛けるように話しかけた。
「その悔しさを胸に刻めッ!血が逆流するほどに!!そうすれば貴方達はもっと強くなる……!!」
「つよ、く……」
「……っ」
源田さんが呟いた声も、佐久間さんの瞳が揺れたのを見て私は笑みがこみ上げる。
ああ、流石お父さんが選んだ人達だ。しっかり素質を持っている。
そう確認してから私は自分の胸の真ん中、ちょうどペンダントがある位置に手を置いてその力を“使った”。
「そう!強く!!誰よりもっ、あの鬼道有人よりも強く!!この世の誰よりも強くなって見返したいと思っている!!……だろ?」
瞬間、ペンダントから紫色の光が漏れ出した。
「強くなるためなら何でもする。悪魔に魂を売ってもいい。……そうだろ?」
「くっ……!!」
「っ……!」
その光が、2人を呑みこむのにそう時間はかからなかった。
「詳細はこのメモに書いてある。後日、迎えを出す」
あれから放心状態の佐久間さんの枕元に前もって用意していたメモを置きながら一応声を掛ける。どうせ返答がないことは分かってるので私は反応を待たずに同じように源田さんの枕元にも同じメモを置くために手を伸ばした。
瞬間、その腕を掴まれた。
「あ?」
「ち、がう……」
驚いた。
気絶していると思っていた源田さんはまだ尚、抗おうとしていた。
「ずいぶんな忠誠心なこって……」
やっぱり直接ペンダントを握らせるべきだったか。なんて思いながら舌打ちをしていると、
「お前、入学式で会った……鬼道の、妹……だろ……」
「は?…………っ!」
そう考えていると源田さんは今にも気絶しそうなくせに私の顔をじっと見ていた。そこで私は自分の顔を隠していたフードがいつの間にか外れていることに気づいた。……ペンダントを使った時に外れたのだろうと急いでフードを握るけれど、
「アイツは……FFで優勝して、2人の妹を迎えに行く、と……だから……お前を……見捨ててなん、か……」
そんな言葉に手が、思考が――止まった。
どさり、という音にハッとして顔を上げれば、源田さんの腕はもうベットに落ちていて。本格的に気を失ったのかピクリとも動かない。
「え……?」
だけど私はそんなことよりも、源田さんが何を言っているのか分からなかった。
数分間、呆然と立ち尽くしていたけれど病室の騒ぎを聞きつけたのか廊下が騒がしくなる音が聞こえて、私は反射的に空きっぱなしの窓から木へと飛び移って病院を抜け出した。
それからしばらく走った。
走って走って
走って走って走って走って
辿り着いたのはブランコと一本の大木ぐらいしかない寂れた公園。
私はその木に手をついてやっと息を整える。それでも心臓はばくばくと鳴り続けて、次第にずるずるとその場に座り込んでしまった。
お父さんから指定された選手の引き込みはできた。命令はこなせたはずなのに達成感なんてまるで感じない。
脳内で繰り返されるのは、源田さんの言葉ばかり。
FFで優勝して、2人の妹を迎えに行く?
「し、知らない……」
そんな話、知らない。
だって、お父さんは鬼道家の為に兄は私達を切り捨てるって言っていた。そして、兄は春奈だけを選んで……だから、
でも、でも……
私がお父さんに言われていたみたいに、兄も私達への接触を禁止されていたとしたら?
FFの優勝をすれば、私達と話してもいい、そんな条件を出されていたとしたら?
そんな仮定を裏付けるように思い出すのは妹の言葉。彼女はあの時、感謝を伝えていた。
その理由が、兄が自分達を忘れず想ってくれていた事を知って、それに対する感謝の言葉だったとしたら?
勝手な憶測でしかないはずなのに、考えつく2人の行動は私が良く知る彼らとぴたりと当てはまっていた。
「はっ……はっ…………」
ガタガタと体が震え、呼吸だってうまくできず、酸欠のせいか頭の奥が痛んで、私はその場に蹲ってしまう。
こんな苦しみ、兄妹に切り離された日以来だった。いや、そもそも……
「……ぁ……あ…………」
それだって、私の“勘違い”だった、なんて…………
「あぁぁぁッ……!!!」
溢れ出る感情のまま、私は地面に爪を立ててがりがりと掻きむしる。爪が割れようが、血が出ようが、関係なかった。
「なんでっ、なんで…………なんで今更!!」
なんで、今知ってしまったんだろう。
今更、それを知ったところで……!!
私はどうすればいいんだよ!!!
兄が自分のために頑張ってくれたかもしれないFFの時に何をした?
お父さんに命じられるまま神のアクアを手渡し、そして惨敗した兄に対していい気味だと嘲笑った!!
今だって彼の大切な友人達を、彼が離反した影山総帥の元へと引き込んだ。自分にはどうすることもできない強大な力を使って。
そんな自分が、今更どうやって兄や妹に会えるというんだ。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……」
兄ちゃん、なんて呼ぶ資格なんて到底私にはなくて、はくはくと口だけが動かすことしかできず、項垂れることしかできない。
涙は、でなかった。