寂しがり少女

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明奈
アキナ

イナズマジャパンがアメリカ代表ユニコーンに無事に勝利して一晩経った次の日の朝。

「「「えーー!!?」」」

「カッパ!?」

様子の可笑しなキャプテンの一言で食堂は騒然とした。


「ああ!昨日の夜、オレがトイレに行く途中にさ、カタンって音がしたからそっちを見たらジーッとこっちを見てるカッパが!もうびっくりしたのなんのって!」

昨晩の出来事が余程衝撃的だったのかいつもより早口で話すキャプテン。だけど周りの様子はキャプテンのその言葉に懐疑的だった。
そのことに気づいたキャプテンがさらに身振り手振りで説明するも、周りはやっぱり疑ったり呆れたり……。

「風丸、お前は信じてくれるよね?」

「えっ、ああ……」

キャプテンは座席の正面にいた風丸さんに同意を求めれば、頷きはするけれど表情は困惑一色で。
そんな反応にキャプテンめげずに他の人にも呼びかけるけれど、依然として微妙な反応を返されている。…………ここまでいくとキャプテンが不憫だな。

「不動!お前は!?」

「えっ」

そしてついに矛先が私に向いた。いつの間にかキャプテンは力説するために立ち上がっていたので、私は視線を上げて口を開いた。

「…………そもそも、かっぱってなんですか?」

「へ?」

周りの態度から知らないのは私だけだったので、言い出しにくかったけれど知ったかぶりもよくないと思って渋々と聞けばキャプテンは目を点にした。

「カッパっていうのは日本で生まれた想像上の動物だよ」

「でも、キャプテンが見たって……」

「本当にはいないものなんだよ」

私の疑問に答えてくれたのはヒロトさんだった。想像上……というワードに首を傾げるもヒロトさんは笑顔で首を横に振る。

「円堂くん。きっと、何かと見間違えたんだよ」

「ヒロト……」

それからキャプテンの隣に座っていた彼は立ち上がって説得するように肩に手を置いて笑いかける。一向に信じられてないことにキャプテンは顔をひきつらせていたけれど。

「さあ。みんな、それより練習よ」

気を取り直すように手を叩いた秋さんの言葉で私達は朝食のプレートを片付け始めた。……キャプテンだけがコップを頭に乗せたまま呆然と立ち尽くしていたけれど。


「カッパって頭にコップを乗せるの?」

「正確には皿だな。好物はキュウリだと一般的に言われている」

グラウンドへの道のりでカッパについて詳しいことを兄に聞いてみれば、すぐに答えてくれた。……皿を乗せたキュウリ好きの想像上の生き物…………言葉だけだと本当に想像しにくいな。
……というより、

「……そんなに詳しいならキャプテンの話信じてあげればよかったのに」

「あくまで架空の存在だ。実在してたなんて小学生でも信じないだろう」

大方寝ぼけていたんだろうな、と兄ちゃんは呆れを隠そうとしない声音で呟いていた。

そういうものなのか。


+++

それからグラウンドではいつも通り練習が行われた。

予選リーグ最後の相手はイタリア代表『オルフェウス』。決勝トーナメント進出のために負けられないイナズマジャパンは気合十分に全力でプレーをしている。
特にチームの要であるFW陣は次々とゴール前へと突破してシュートを撃っていた。

「よーし!朝の練習はここまでだー!」

紅白戦を何度か繰り返した後に、朝練の終了をキャプテンは声を上げて知らせる。

「次の練習は午後から!それまでゆっくり休んでねー!」

秋さんに伝えられた予定を聞きながら、私は周りと話しながら宿舎へと向かう。
その際、グラウンドから動かなかったヒロトさんにキャプテンが声を掛ければ、少し走ってから帰ると告げてそのまま宿舎と逆方向へと走って行ったのが見えた気がする。

「ヒロトさん、迷わないといいけど……」

「お前と違うんだから、大丈夫だろ」

「は?」

宿舎へと向かいながら心配すれば、隣にいたらしい佐久間さんにからかい交じりに言われたので思わず睨んでいると、

「染岡さん!」

「ん?」

やたら畏まった同級生の声が聞こえて私は振り返った。
見れば、木暮くんが宿舎の門のそばでボールを持っていつになく真剣な表情を浮かべていた。

「練習に、付き合ってくれませんか?」

「練習?おぉっ、ちょっとはやる気出したみたいだな。よし!」

名指しで呼ばれた染岡さんは、練習に意気込む姿勢を見せる木暮くんに笑みを浮かべて承諾し木暮くんの元へと向かった。

「付き合ってやる……どわぁっ!?」

だけどその途中、急に視界から消えた。その光景に木暮くん以外のみんなが驚いた声を上げる。

「っ…つつ……がっ……」

「やーいやーい!引っかかった引っかかった!」

木暮くんの目の前には落とし穴が出来上がっていて……染岡さんがまんまと落ちたようだった。いつの間に作ってたんだ……。

「木暮ぇ!!」

「うわぁ!」

「ゴラァーーッ!!」

イタズラが成功して喜ぶ木暮くんだったけれど、落とし穴から這い上った染岡さんに怒鳴られれば、ボールも放り出し慌てて逃げてしまう。
それから怒り心頭な染岡さんはすぐに追いかけて行ってしまった。

「全く木暮は相変わらずだな……」

「アハハハ……」

そんな姿に兄ちゃんは苦笑をしながら呟いて他の人達も苦笑いを浮かべていた。

私も仲良くなってから何度かイタズラを受けることがあったけれど……染岡さん相手にもするなんて度胸あるな、なんて思う。

怒った染岡さん、怖いしなぁ……仕方ない。

「ランニングがてら木暮くん達の様子見てくるよ。同級生のよしみとして」

「お姉ちゃんが?」

まだ少し体を動かしたかった気持ちもあったので、春奈にそう言えば小首を傾げられる。

「うん、任せて」

「おい、不動。やめといたほうが……」

やる気を見せる私に対して、止めたのは先程私の方向音痴をバカにした佐久間さんで。私はそんな彼に成長を見せるために一瞥して、胸に手を置いて笑みを浮かべる。

「私、もうジャパンエリアで迷ったりしないので……!」

そうハッキリと告げて、私は彼らの後を追いかけて走り出した。
お昼までには帰って来てねー! はーい。と妹とそんなやり取りをしながら。


「あんなに綺麗にフラグ立てる子、初めて見た…………」

「佐久間……」

「…………すまん」

私の背中を見送りながら吹雪さんがポツリと呟き、その傍で兄と佐久間さんがそんな話をしていた事も知らずに。


+++


「……おかしいな…………」

目の前で覆われている緑に私は立ち止まって、腕を組んで首を傾げる。
染岡さんの怒鳴り声が聞こえた森周辺まで来たはいいものの、2人ともいなくて……だったら森に入ったのではと足を踏み入れれば、何故か周りに霧が出始めた。
天気もいいこんな時間帯に霧が出るなんておかしいなと思いながら歩き進めていくうちに…………自分の場所がどこか分からなくなった……かもしれない。

「…………携帯、宿舎だ」

しかも自分はユニフォーム姿で……連絡を取ろうにも携帯はジャージのポケットの中。カタール戦前のデジャヴかよ……。

「い、いや!迷ってないし!!木暮くん探しているだけだし!!」

焦る気持ちを私は頭を振りながら、自分を奮い立たせるように声にして目的を再確認する。
そもそも迷わないなんて大見得を切って飛び出したのに、結局迷子だなんてまた佐久間さんにバカにされてしまう。意地でも自力で帰ってやる……!!

「誰か~!」

「!」

そう意志を固めたところで、聞き覚えのある声が聞こえた。しかもそれが助けを求めるような声だったので走ってその場所へと向かう。

「木暮く、ん……?」

そこにはその声通り、木暮くんがいた。……だけど、

「何してんの?」

「えっ、不動!?」

何故か木に巻き付いていたツタに絡まって身動きが取れない、というよく分からない状態だった。

「なんで不動が……」

「染岡さんへ一緒に謝ってあげようと思って。怒った染岡さん怖いし」

自業自得だけど、なんて呟きながらも私は彼の前に屈んで、ツタを解くために手を動かす。

「……だって、俺のことバカにするから…………」

「染岡さんは木暮くんをバカにしたわけじゃないよ」

午前の練習中に、染岡さんと木暮くんが何か話していたなと思い出しながらも誤解をしている彼にそう伝える。

「……ところで木暮くん」

丁度ツタも解けたところで、私は木暮くんと目を合わせてある質問を投げかける。

「ここ、どこか分かる?」

「…………終わった……」

「ちょっと……!?せっかく探しに来てあげたのに!酷くない?」

「探しにきた奴が迷ってたら意味ないだろー!」

瞬間、木暮くんはあまりにも絶望的な表情で呟くものだから、思わず言い返すも頭を抱えられた。

「なんで方向音痴のくせに探そうとするんだよー!まだ壁山の方がマシだったってー!」

「そ、そんな悲観的にならなくていいだろっ!合流できたんだし、一緒に歩けばいつか森抜け出せるって!!」

「……ちなみに不動って迷った時、自力で目的地に辿り着いた事あるの?」

私が慣れないなりに何とか元気づけようとするも木暮くんはふと静かになり、じとりと私を見ながらそんな事を聞いてきて。
私は今までの経験を思い返して………

「……………………あ、ある……し」

………………

「うわぁーん!助けて誰かー!!」

そう言えばいつも誰かに助けられてきた気がする事を思い出すも、ここで正直言うのも彼の不安も煽るだけだと思って誤魔化したものに、全くの逆効果だったらしく木暮くんの悲痛な叫びが森へと響いた。

「木暮くん!……って明奈ちゃんも?」

「ヒロトさん!?」

それから足音が聞こえたかと思って、顔を上げればヒロトさんがこちらを見て驚いていた。

+++


「そういうことなら、俺も一緒に謝ってあげるよ」

森にいた経由を説明すれば、木暮くんのイタズラには苦笑したもののヒロトさんはそう笑ってくれた。

「じゃあ一緒に帰ろうか」

「うん!……わぁあ!?」

私はともかく、ヒロトさんは木暮くんにとって心強いのだろう。元気よく頷いて帰るために立ち上がる。だけど、すぐにヒロトさんの後ろを指差して悲鳴を上げた。

「なに!?」

「カッパ!」

「……えっ」

野生動物か何かかと警戒するものの、木暮くんの言葉に一気に緊張が抜けた。
今、なんて?

私は木暮くんが指差す方向を見れば、正面の木の陰からサッカーボールを持った男子がこちらの様子を伺っていた。
……確かに、頭の上の皿は兄が言っていた特徴の一つだけど…………。

「落ち着いて、木暮くん。相手は人だよ」

「え?あ……本当だ」

人を指差し続けるのはよくないなと私は彼の背中をとんっと叩いてそう伝えれば、木暮くんも気づいたのかほっと息をついた。
ちゃんと見れば皿風の帽子をつけただけの少年で、熱心にこちらを見つめている視線の先は専らヒロトさんだ。

「何か、用かな……?」

突然現れた少年に対して、警戒して恐る恐るとヒロトさんが尋ねれば、少年はスタスタとこちらへと近づいてきた。

「くれ」

それから、ヒロトさんへ色紙とサインペンを突き出した一言そう告げる。
それに反応した木暮くんが色紙を手に取り、自分達のサインが欲しかったのかと喜んだけれど、少年が欲しいのはヒロトさんだけのサインらしく、問答無用で色紙を没収されていた。

「なんで俺じゃダメなんだよ!」

「ヒロトさんの、ファンらしいね」

ヒロトさんがサインを書いている間に私は文句を言っている木暮くんを宥めていると、サインを書き終わったヒロトさんが少年―亀崎河童と名乗った―にサイン色紙を渡した。

「はい」

ヒロトさんからのサインを受け取れば亀崎さん?は無表情であるものの嬉しそうに頬を染めていて、喜んでいるようだった。

「ん」

「えっ……キュウリ?」

それから亀崎さんは懐からキュウリを取り出し、サイン色紙のようにヒロトさんの目の前へと突き出した。
よく分からないままヒロトさんがキュウリを受け取れば亀崎さんは私達から背を向けて独特なスキップをしながら去って行く。その時に背中を見たけれど……まるでカッパのような甲羅まで背負っていた。


+++


それから3人で森を歩くものの、一向に来た道に戻らずひたすらに歩いていた。ちなみに貰ったキュウリは三等分にするのは大変そうなので、私は断ってヒロトさんと木暮くんが半分にして食べてもらった。
少し開けた川が流れる場所に着いたところで、もう日も暮れ始めているしこれ以上歩くのは危険だとヒロトさんに言われ、今日はこのまま野宿することになった。

「あーあ。夜になっちゃった……」

「月明かりがあるのが救いかなぁ……」

「仕方ない。円堂くんたちには心配かけることになるけど、今日はここで野宿しよう」

野宿の準備をするらしく森に戻ったヒロトさんを待ちながら満月と周りに散らばる星々を眺めていると、薪を両手で抱えたヒロトさんが帰ってきた。

「これ以上進むと迷うかもしれないからね」

「もう迷ってるよ!」

「確かに」

「アハハハ……」

薪を地面に下ろしながら言うヒロトさんに対して、涙目で正論を突き付ける木暮くんに私も頷けば、苦笑を返された。


「ヒロトさん、何をしているんですか?」

「ん?火をおこそうと思ってね」

それからヒロトさんが岩に座って、何かしているのに気づいて尋ねれば聞き覚えのない言葉を出された。

「火を……?」

「おこす……?」

木暮くんも気づいたらしいけれど私と同じで意味が分かってないらしくて思わず顔を見合わせて、もう一度ヒロトさんを見る。
ヒロトさんは目の前に敷いた木の皮の上に数枚の葉を乗せ、枝を両手でひたすら擦り合わせていて、それを2人で見守っていると…………落ち葉に火が点いた。

「わっ!」

「点いた!」

それから集めた薪を入れれば火はたちまち燃え移り、数秒もすればいわゆる焚き火が出来上がっていた。

「スッゴい!そんなことできるんだ!」

「ああ。お日さま園のみんなとキャンプに行ってて、そのとき覚えたんだ」

「キャンプに……?」

「うん」

自分で火をつけるなんて発想がなかった私達にとって、焚き火を作るなんて驚きしかなくて興奮気味の木暮くんの質問にヒロトさんは穏やかに答えた。

「キャンプかぁ……楽しそうだなぁ……。俺も一回でいいからキャンプとか行ってみたかったんだよなぁ……」

「行ったことないのか?」

「えっ、う、うん……。なんかさ、行く機会がなくてさ……」

火を見つめながらいつになく穏やかな表情をしていた木暮くんだけど、ヒロトさんに尋ねられれば少しだけ困ったように笑った。


本人に直接聞いた訳ではないけれど……木暮くんの過去は平穏じゃなかったことは今までの付き合いで察していた。だから、隣でどこか寂しそうな彼を見て口を開く。

「私もキャンプに行ったことないよ」

「えっ」

「木暮くんと、お揃い」

単純にキャンプの経験がないだけでないと表情を見て察したんだろう、木暮くんはそっか、と相槌を打って小さく笑った。
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