寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
秋さんは後半戦前に戻ってきたけれど、それに触れられる時間もなく、後半戦の開始を知らせるホイッスルをベンチに座りながら聞いた。
「いきなりサプライズだ!」
「ああ!見せてやろう!」
イナズマジャパンのキックオフだったものの、ユニコーンがすぐに攻め込み、一之瀬さんのセンタリングに合わせてマークとディランが跳躍した。
「「 “ユニコーンブースト” !!」」
「 “イジゲン・ザ・ハンド” !」
ペガサスの次はユニコーン……二人の連携必殺技をキャプテンは止めきれずに再びゴールを許してしまった。
《決まったー!ユニコーンが勝ち越しのゴォーールッ!!》
後半開始早々、再び点差が開いてしまったのは堪えたのだろう。
フィールドの選手達もユニコーンその勢いに押されてしまったのか、それとも一之瀬さんの気迫が強すぎるのか再び攻められてしまう。
彼は兄ちゃんのスライディングを躱し、空中でのセンタリング。再び弧を描いて再びマークの元へと行くかと思われたが、その前にキャプテンがゴールを捨てて前へと飛び出してきた。
一瞬何事かと思ったけど、全体を見てすぐに納得する。……相変わらず大胆な人だ。
キャプテンはボールがFWの2人へと渡る前に、ヘディングで外に出した。
それにしても……
「なんだか怖いくらいの迫力ですね。一之瀬さんもキャプテンも……」
「…………本当にね」
私が心の中で思っていたことを代弁するかのように、春奈は呟いた。
一之瀬さんだけでなく、キャプテンまで前半に比べてより一つ一つのプレーに力が入っているように感じた。
互いに全力のプレイで応えようとしている結果……なのだろうか。
「……一之瀬の奴…………」
「……?」
そんな彼らのプレーを見た響木さんが何か考えるかのようにポツリと呟いていて不思議に思った。
ユニコーンのスローイングで再開される試合。
マークに渡りそうになったところをカットしたのは染岡さんだった。
「轟け! “ドラゴンスレイヤー” !!」
「 “フラッシュアッパー” !!」
《惜しい!これはキーパーに弾かれましたー!》
「クソッ……!」
そしてゴール前で放たれた必殺技はぎりぎり弾かれてしまったけれど、ボールが弾かれたことでイナズマジャパンにコーナーキックのチャンスが巡った。
ピッチにいる選手は誰がコーナーキックをするかで話し合っていた。……吹雪さんと風丸さんの “ザ・ハリケーン” は警戒されていて繋ぐのは難しい。それに豪炎寺さんは一之瀬さんが徹底的にマークをしている。
悩んでいた選手達だったけれど、フィールドへと入った監督の指名で綱海さんがコーナーキックを蹴ることになった。
その指示にイナズマジャパンだけでなく、相手チームも驚いていた。……同じチームだった一之瀬さん達経由で情報が渡っているにも関わらず、この判断……何かあるんだろうなと私は綱海さんに見る。
「ここが海の男の見せ所……絶対に決めてやるぜ!」
「頼むぞ!綱海!」
コーナーにボールを置いた綱海さんは、いつになく緊張した様子で少し下がって蹴るために構える。
「いくぞ!」
ホイッスルが鳴り、ボールを蹴ろうとする綱海さんに上がってきたのは一之瀬さんだ。
「 “ザ・チューブ” !ここだ!!」
綱海さんのコーナーキックは誰かへのパスじゃない。新しく見る必殺技で直接、ゴールを決めに来た。
「やはりダイレクトか!……ッうわあ!」
一ノ瀬さんは勘付いていたけれど、生み出された大渦に弾き返され、キーパーもすぐに反応できずに見事にゴールネットを揺らした。
2-2。イナズマジャパンは再び同点へと追いついた。
「やった!」
「綱海さん、凄い!!」
「うん……!」
イナズマジャパンの思わぬ攻撃に大きな歓声が聞こえる中、マネージャーも嬉しそうな声を上げていた。ベンチの選手も嬉しそう立ち上がり、綱海さんに歓声送っている。
「明奈ーー!!!」
「うわっ……!?」
このまま勢いづければいいけれど、なんて考えていると大きな声で名前を呼ばれ思わず肩が跳ねる。フィールドを見れば、みんなに囲まれている綱海さんが満面の笑みでぶんぶんとこちらに手を振っていた。
「お前のアドバイス役立ったぜー!ありがとよー!!」
「アドバイスって……」
綱海さんの言葉で思い出すのは、先日のアドバイスを求められた日のことで。『攻撃は最大の防御』なんて言った自分の言葉からこの必殺技を生み出した、という事だろうか…………。
…………すごいのはそれで本当に必殺技を生み出せる綱海さんでは。
そう思いながらもニカッと明るい笑顔を浮かべて手を振り回す綱海さんにわざわざ言いに行くのも変だと思い、軽く手を振り返すだけに留めた。それはそうとして……。
「…………あんな大声で名前呼ぶのやめてほしい」
「うししっ」
「あはは……」
サッカーのプレーで目立つならともかく、こんな形で注目を集めるのは正直恥ずかしい。
熱くなる顔を手で隠しながら文句を呟けば、木暮くんは楽しげに笑われ立向居くんは苦笑された。
再びの同点で再開される試合。ユニコーンは新しい動きを見せた。
「ディラン、ミケーレ!GO!」
一之瀬さんとドリブルで攻め上がるマークの合図に、ディランとミケーレ=ジャックスがイナズマジャパンへと攻め込み……前線の選手達がペナルティエリアを囲んできた。
「いくぞ!必殺タクティクス!」
警戒するイナズマジャパンを他所に、一之瀬さんがシュートを撃てば、綱海さんは足でボールをカットして弾く。
「マーク!」
すかさずその跳ね返ったボールを一ノ瀬さんの指示でマークさんが蹴れば、今度は壁山くんが弾くも跳ね返ったボールの先にはディランが。
ディランのシュートは綱海さんがヘディングで何とかカットをした。
ディフェンスがクリアしたボールの先には必ずユニコーンの選手がいて、絶え間なくシュートを連打してくる。
その傍ら、守備に参加しようとする選手を他の選手が徹底的にガードすることで動けない状態を作り上げていた。
「圧倒的スピードで、相手ディフェンスよりも数的優位の状況を作り、雷鳴が轟くように激しく攻撃する。……それが “ローリングサンダー” だ!」
……これがユニコーンの必殺タクティクスか。
ベンチで全体を見れるからこそ冷静に観察できるけれど、中にいる選手達にはプレッシャーだし、DFの負担だって相当だろう。
予想通り、間もなく同じシュートに反応してしまった綱海さんと壁山くんは衝突してしまい、そのボールを拾ったのは一之瀬さん。
円堂さんへのゴール前は……がら空きだった。
「マーク!ディラン!」
「いくぞ!」
「ビックサプライズだ!」
「「「 “グランフェンリル” !!!」」」
一之瀬さんの号令で2人は動き出した。
中心のマークがフェンリル(神話の狼)の遠吠えと共にボールを蹴り上げ、それを追ったディランと一之瀬さんが挟み込みながらさらに蹴り上げれば、ボールには強力なオーラをまとった。そして、最後には再びマークがシュートを撃つ。
そんな3人の強力な必殺技にキャプテンの必殺技は破れ、再びユニコーンに追加点を許してしまった。
「…………」
それから、試合が再開されるもののユニコーン側が “ローリングサンダー” を発動されてしまえばDFの2人はそんな攻撃の嵐に翻弄され体力が限界を迎えようとしていた。キャプテンだって先程のように迂闊に動けない状態だ。
………… “ローリングサンダー” の仕組みはだいたい分かった。その弱点も。
後は、どうやってボールを奪えばいいか……。
「壁山の奴、かなり疲れてるよ……」
「ああ……。綱海だってこれだけ休みなく狙われたら、体力が保たねぇぞ」
フィールドを見て心配そうに呟いたのは木暮くんと土方さん。
チームで一番の小柄と、力がある人…………か。
「……ふふっ」
ふと、笑みが零れた。
「私の言う通りにすれば、ローリングサンダーもグランフェンリルも攻略できますよ」
私は周りに伝えるように声を出せばベンチにいる選手達が驚いたようにこちらを見る視線を感じた。
「攻略できるんですか!?」
「本当に?」
「気がついたようだな、不動」
フィールドを見ている久遠監督もとっくに気づいているんだろう。
ピッチではローリングサンダーの猛攻が止まらなかったけれど、綱海さんが転倒しながらもなんとかボールをクリアしたことで選手交代することができた。
「三人共、いいな」
「はい」
「わかってます!」
「任せといてください!」
久遠監督から詳しく指示を受けて、私達はそれぞれ交代する選手とハイタッチをしてフィールドへと入った。
息も絶え絶えな綱海さん、壁山くんと交代してDFへと入るのは土方さんと木暮くん。
「頼むぞ」
「はい」
私が交代するのはずっと走っていて体力を大きく消耗している風丸さんだ。その際にそう声を掛けられて、私は頷きながらパチンと手を合わせた。
交代した私達3人はゴール前へに行き、キャプテンや兄と少しだけ話す。
「見かねて出てきちゃったよ」
「ああ、悪いな。明奈」
「何か作戦があるのか?」
「はい」
肩をすくめながら冗談めいた口調で話しかければ兄ちゃんは小さく笑った。そんな私達のやりとりにキャプテンは首を傾げるけれど、私は頷くだけにとどめて詳細は伏せておく。
それからこちらを警戒したような視線を送るユニコーンの選手を見れば、一之瀬さんと視線が合った。
……フィールドの魔術師か。だけど、どんな魔術にだって種がある。
その種さえ暴ければ……
「あはっ」
キャプテン達をあんなに熱くさせる選手と戦えると思うと楽しみで自然と口角が上がる。
好戦的な笑みを浮かべていたからか、こちらを見る一之瀬さんの目は警戒の色をしていた。
ユニコーンからのスローイングで再開され、一之瀬さんにボールが渡ればすかさずローリングサンダーを仕掛けてくる。確かにこれじゃあ身動きはとれそうにもない。だけど今の自分の役割は動くことじゃない。
ディフェンス側を見れば、指示通りに木暮くんと土方さんはボールを持っているミケーレに向かって駆けだした。
サイドがガラ空きな状態を相手は見逃す訳なく、ミケーレは中央にいるマークへとパスを出せば、すぐに必殺技を撃つ体制に入った。
「「「 “グランフェンリル” !」」」
それから先程見た通り、マークが蹴ったボールを両サイドの選手がさらに上へと蹴り上げる。
そこに隙は確かにあった。
「いくぞ木暮ぇ!」
「おうっ!」
そのタイミングで打ち合わせ通り土方さんは木暮くんの頭を掴んで、空中へ向かって投げ飛ばした。
木暮くんは空中で回転しながら勢いをつけ、最後にシュートを撃つマークさんに行き着く前に、ボールを弾くことに成功する。
「「「なっ!?」」」
「やったー!」
「よっしゃー!」
「よーし!」
ユニコーンの大技を完封され、驚く三人の傍らで木暮くんと土方さん、キャプテンは喜びの声を上げる。
「……まずはグランフェンリルだ」
だけど弾いたボールを拾ったのは土門さんで、再びマークへとボールが渡った。
「先にディフェンスを崩すぞ!」
「オウッ!」
すぐに立て直した一之瀬さんの指示に了承するユニコーンの前衛選手達。そしてマークはボールを蹴り上げるのをこの目で捉え――左か。
「吹雪さん!」
マークのシュートを木暮くんが弾き、跳ね返ったボールの先にはディランがいたけれど、指示を出していた吹雪さんがカットしてパスを送る。
「鬼道くん!」
だけど兄ちゃんにボールが渡る前に、テッド・ブライアンにパスカットをされて再びボールは一之瀬さんへ。その勢いで一之瀬さんがシュートを撃った。
「飛鷹さん!」
それも土方さんがヘディングで弾き、ミケーレに渡ろうとするも前もって指示を出した飛鷹さんがそのボールをカットした。
「飛鷹、戻せ!」
そしてキャプテンの指示により、ボールはキーパーの彼の手元へ。
「ローリングサンダーも不発……と」
相手方は必殺タクティクスが不発だったことに驚きを隠しきれていないようで、私はゆっくり口角を上げながら一之瀬さんの背中に視線を向けた。
「魔術の種は見破った」
「っ!?」
一之瀬さんは驚きながら振り向いた。
「アンタらは跳ね返りを計算して蹴っていた。そこへ先回りすればいいだけだ」
跳ね返りの法則に気づけば、この必殺タクティクスの原理を理解するのに然程時間はかからなかった。
「そうか……蹴り方で跳ね返る位置を!」
「その通り。さすが兄ちゃん」
「ッ!」
兄ちゃんも気づいたようで、笑顔で頷けばその目の前で一之瀬さんは悔しそうに歯を食いしばる。……私が気がついたのはそれだけじゃない。
「そしてこの必殺タクティクスは…………カウンターに弱い!」
「いきなりサプライズだ!」
「ああ!見せてやろう!」
イナズマジャパンのキックオフだったものの、ユニコーンがすぐに攻め込み、一之瀬さんのセンタリングに合わせてマークとディランが跳躍した。
「「 “ユニコーンブースト” !!」」
「 “イジゲン・ザ・ハンド” !」
ペガサスの次はユニコーン……二人の連携必殺技をキャプテンは止めきれずに再びゴールを許してしまった。
《決まったー!ユニコーンが勝ち越しのゴォーールッ!!》
後半開始早々、再び点差が開いてしまったのは堪えたのだろう。
フィールドの選手達もユニコーンその勢いに押されてしまったのか、それとも一之瀬さんの気迫が強すぎるのか再び攻められてしまう。
彼は兄ちゃんのスライディングを躱し、空中でのセンタリング。再び弧を描いて再びマークの元へと行くかと思われたが、その前にキャプテンがゴールを捨てて前へと飛び出してきた。
一瞬何事かと思ったけど、全体を見てすぐに納得する。……相変わらず大胆な人だ。
キャプテンはボールがFWの2人へと渡る前に、ヘディングで外に出した。
それにしても……
「なんだか怖いくらいの迫力ですね。一之瀬さんもキャプテンも……」
「…………本当にね」
私が心の中で思っていたことを代弁するかのように、春奈は呟いた。
一之瀬さんだけでなく、キャプテンまで前半に比べてより一つ一つのプレーに力が入っているように感じた。
互いに全力のプレイで応えようとしている結果……なのだろうか。
「……一之瀬の奴…………」
「……?」
そんな彼らのプレーを見た響木さんが何か考えるかのようにポツリと呟いていて不思議に思った。
ユニコーンのスローイングで再開される試合。
マークに渡りそうになったところをカットしたのは染岡さんだった。
「轟け! “ドラゴンスレイヤー” !!」
「 “フラッシュアッパー” !!」
《惜しい!これはキーパーに弾かれましたー!》
「クソッ……!」
そしてゴール前で放たれた必殺技はぎりぎり弾かれてしまったけれど、ボールが弾かれたことでイナズマジャパンにコーナーキックのチャンスが巡った。
ピッチにいる選手は誰がコーナーキックをするかで話し合っていた。……吹雪さんと風丸さんの “ザ・ハリケーン” は警戒されていて繋ぐのは難しい。それに豪炎寺さんは一之瀬さんが徹底的にマークをしている。
悩んでいた選手達だったけれど、フィールドへと入った監督の指名で綱海さんがコーナーキックを蹴ることになった。
その指示にイナズマジャパンだけでなく、相手チームも驚いていた。……同じチームだった一之瀬さん達経由で情報が渡っているにも関わらず、この判断……何かあるんだろうなと私は綱海さんに見る。
「ここが海の男の見せ所……絶対に決めてやるぜ!」
「頼むぞ!綱海!」
コーナーにボールを置いた綱海さんは、いつになく緊張した様子で少し下がって蹴るために構える。
「いくぞ!」
ホイッスルが鳴り、ボールを蹴ろうとする綱海さんに上がってきたのは一之瀬さんだ。
「 “ザ・チューブ” !ここだ!!」
綱海さんのコーナーキックは誰かへのパスじゃない。新しく見る必殺技で直接、ゴールを決めに来た。
「やはりダイレクトか!……ッうわあ!」
一ノ瀬さんは勘付いていたけれど、生み出された大渦に弾き返され、キーパーもすぐに反応できずに見事にゴールネットを揺らした。
2-2。イナズマジャパンは再び同点へと追いついた。
「やった!」
「綱海さん、凄い!!」
「うん……!」
イナズマジャパンの思わぬ攻撃に大きな歓声が聞こえる中、マネージャーも嬉しそうな声を上げていた。ベンチの選手も嬉しそう立ち上がり、綱海さんに歓声送っている。
「明奈ーー!!!」
「うわっ……!?」
このまま勢いづければいいけれど、なんて考えていると大きな声で名前を呼ばれ思わず肩が跳ねる。フィールドを見れば、みんなに囲まれている綱海さんが満面の笑みでぶんぶんとこちらに手を振っていた。
「お前のアドバイス役立ったぜー!ありがとよー!!」
「アドバイスって……」
綱海さんの言葉で思い出すのは、先日のアドバイスを求められた日のことで。『攻撃は最大の防御』なんて言った自分の言葉からこの必殺技を生み出した、という事だろうか…………。
…………すごいのはそれで本当に必殺技を生み出せる綱海さんでは。
そう思いながらもニカッと明るい笑顔を浮かべて手を振り回す綱海さんにわざわざ言いに行くのも変だと思い、軽く手を振り返すだけに留めた。それはそうとして……。
「…………あんな大声で名前呼ぶのやめてほしい」
「うししっ」
「あはは……」
サッカーのプレーで目立つならともかく、こんな形で注目を集めるのは正直恥ずかしい。
熱くなる顔を手で隠しながら文句を呟けば、木暮くんは楽しげに笑われ立向居くんは苦笑された。
再びの同点で再開される試合。ユニコーンは新しい動きを見せた。
「ディラン、ミケーレ!GO!」
一之瀬さんとドリブルで攻め上がるマークの合図に、ディランとミケーレ=ジャックスがイナズマジャパンへと攻め込み……前線の選手達がペナルティエリアを囲んできた。
「いくぞ!必殺タクティクス!」
警戒するイナズマジャパンを他所に、一之瀬さんがシュートを撃てば、綱海さんは足でボールをカットして弾く。
「マーク!」
すかさずその跳ね返ったボールを一ノ瀬さんの指示でマークさんが蹴れば、今度は壁山くんが弾くも跳ね返ったボールの先にはディランが。
ディランのシュートは綱海さんがヘディングで何とかカットをした。
ディフェンスがクリアしたボールの先には必ずユニコーンの選手がいて、絶え間なくシュートを連打してくる。
その傍ら、守備に参加しようとする選手を他の選手が徹底的にガードすることで動けない状態を作り上げていた。
「圧倒的スピードで、相手ディフェンスよりも数的優位の状況を作り、雷鳴が轟くように激しく攻撃する。……それが “ローリングサンダー” だ!」
……これがユニコーンの必殺タクティクスか。
ベンチで全体を見れるからこそ冷静に観察できるけれど、中にいる選手達にはプレッシャーだし、DFの負担だって相当だろう。
予想通り、間もなく同じシュートに反応してしまった綱海さんと壁山くんは衝突してしまい、そのボールを拾ったのは一之瀬さん。
円堂さんへのゴール前は……がら空きだった。
「マーク!ディラン!」
「いくぞ!」
「ビックサプライズだ!」
「「「 “グランフェンリル” !!!」」」
一之瀬さんの号令で2人は動き出した。
中心のマークがフェンリル(神話の狼)の遠吠えと共にボールを蹴り上げ、それを追ったディランと一之瀬さんが挟み込みながらさらに蹴り上げれば、ボールには強力なオーラをまとった。そして、最後には再びマークがシュートを撃つ。
そんな3人の強力な必殺技にキャプテンの必殺技は破れ、再びユニコーンに追加点を許してしまった。
「…………」
それから、試合が再開されるもののユニコーン側が “ローリングサンダー” を発動されてしまえばDFの2人はそんな攻撃の嵐に翻弄され体力が限界を迎えようとしていた。キャプテンだって先程のように迂闊に動けない状態だ。
………… “ローリングサンダー” の仕組みはだいたい分かった。その弱点も。
後は、どうやってボールを奪えばいいか……。
「壁山の奴、かなり疲れてるよ……」
「ああ……。綱海だってこれだけ休みなく狙われたら、体力が保たねぇぞ」
フィールドを見て心配そうに呟いたのは木暮くんと土方さん。
チームで一番の小柄と、力がある人…………か。
「……ふふっ」
ふと、笑みが零れた。
「私の言う通りにすれば、ローリングサンダーもグランフェンリルも攻略できますよ」
私は周りに伝えるように声を出せばベンチにいる選手達が驚いたようにこちらを見る視線を感じた。
「攻略できるんですか!?」
「本当に?」
「気がついたようだな、不動」
フィールドを見ている久遠監督もとっくに気づいているんだろう。
ピッチではローリングサンダーの猛攻が止まらなかったけれど、綱海さんが転倒しながらもなんとかボールをクリアしたことで選手交代することができた。
「三人共、いいな」
「はい」
「わかってます!」
「任せといてください!」
久遠監督から詳しく指示を受けて、私達はそれぞれ交代する選手とハイタッチをしてフィールドへと入った。
息も絶え絶えな綱海さん、壁山くんと交代してDFへと入るのは土方さんと木暮くん。
「頼むぞ」
「はい」
私が交代するのはずっと走っていて体力を大きく消耗している風丸さんだ。その際にそう声を掛けられて、私は頷きながらパチンと手を合わせた。
交代した私達3人はゴール前へに行き、キャプテンや兄と少しだけ話す。
「見かねて出てきちゃったよ」
「ああ、悪いな。明奈」
「何か作戦があるのか?」
「はい」
肩をすくめながら冗談めいた口調で話しかければ兄ちゃんは小さく笑った。そんな私達のやりとりにキャプテンは首を傾げるけれど、私は頷くだけにとどめて詳細は伏せておく。
それからこちらを警戒したような視線を送るユニコーンの選手を見れば、一之瀬さんと視線が合った。
……フィールドの魔術師か。だけど、どんな魔術にだって種がある。
その種さえ暴ければ……
「あはっ」
キャプテン達をあんなに熱くさせる選手と戦えると思うと楽しみで自然と口角が上がる。
好戦的な笑みを浮かべていたからか、こちらを見る一之瀬さんの目は警戒の色をしていた。
ユニコーンからのスローイングで再開され、一之瀬さんにボールが渡ればすかさずローリングサンダーを仕掛けてくる。確かにこれじゃあ身動きはとれそうにもない。だけど今の自分の役割は動くことじゃない。
ディフェンス側を見れば、指示通りに木暮くんと土方さんはボールを持っているミケーレに向かって駆けだした。
サイドがガラ空きな状態を相手は見逃す訳なく、ミケーレは中央にいるマークへとパスを出せば、すぐに必殺技を撃つ体制に入った。
「「「 “グランフェンリル” !」」」
それから先程見た通り、マークが蹴ったボールを両サイドの選手がさらに上へと蹴り上げる。
そこに隙は確かにあった。
「いくぞ木暮ぇ!」
「おうっ!」
そのタイミングで打ち合わせ通り土方さんは木暮くんの頭を掴んで、空中へ向かって投げ飛ばした。
木暮くんは空中で回転しながら勢いをつけ、最後にシュートを撃つマークさんに行き着く前に、ボールを弾くことに成功する。
「「「なっ!?」」」
「やったー!」
「よっしゃー!」
「よーし!」
ユニコーンの大技を完封され、驚く三人の傍らで木暮くんと土方さん、キャプテンは喜びの声を上げる。
「……まずはグランフェンリルだ」
だけど弾いたボールを拾ったのは土門さんで、再びマークへとボールが渡った。
「先にディフェンスを崩すぞ!」
「オウッ!」
すぐに立て直した一之瀬さんの指示に了承するユニコーンの前衛選手達。そしてマークはボールを蹴り上げるのをこの目で捉え――左か。
「吹雪さん!」
マークのシュートを木暮くんが弾き、跳ね返ったボールの先にはディランがいたけれど、指示を出していた吹雪さんがカットしてパスを送る。
「鬼道くん!」
だけど兄ちゃんにボールが渡る前に、テッド・ブライアンにパスカットをされて再びボールは一之瀬さんへ。その勢いで一之瀬さんがシュートを撃った。
「飛鷹さん!」
それも土方さんがヘディングで弾き、ミケーレに渡ろうとするも前もって指示を出した飛鷹さんがそのボールをカットした。
「飛鷹、戻せ!」
そしてキャプテンの指示により、ボールはキーパーの彼の手元へ。
「ローリングサンダーも不発……と」
相手方は必殺タクティクスが不発だったことに驚きを隠しきれていないようで、私はゆっくり口角を上げながら一之瀬さんの背中に視線を向けた。
「魔術の種は見破った」
「っ!?」
一之瀬さんは驚きながら振り向いた。
「アンタらは跳ね返りを計算して蹴っていた。そこへ先回りすればいいだけだ」
跳ね返りの法則に気づけば、この必殺タクティクスの原理を理解するのに然程時間はかからなかった。
「そうか……蹴り方で跳ね返る位置を!」
「その通り。さすが兄ちゃん」
「ッ!」
兄ちゃんも気づいたようで、笑顔で頷けばその目の前で一之瀬さんは悔しそうに歯を食いしばる。……私が気がついたのはそれだけじゃない。
「そしてこの必殺タクティクスは…………カウンターに弱い!」