寂しがり少女
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《こちら、クジャクスタジアムは超満員!日本代表『イナズマジャパン』対アメリカ代表『ユニコーン』の試合が、アメリカのケイン大統領が見守る中、始まろうとしています!!》
私はアルゼンチン戦は出れなかったので、試合会場であるクジャクスタジアムの観客席から聞こえるたくさんの歓声と熱気を久々に肌で感じることになった。
両チームのスターティングメンバーが並び、それから各ポジションへと移動するのを今日もベンチから眺めていた。
ついさっきのアップの時間、なぜかユニコーン側の注目選手である一之瀬さんと土門さんがいなかった。
そして、それと同じ頃に秋さんの姿もなかった。
雨の日に話した後では彼女は「もう一度、一之瀬くんに連絡をしてみるね」とは言っていたけれど、連絡はちゃんと取れたのだろうか…………いいや、今は試合が優先だ。秋さんにもそう言ったのに。
集中するようにぎゅっと目を閉じ、試合開始のホイッスルが鳴ったタイミングで私は目を開いた。
ユニコーンのキックオフで試合が開始され、FWからパスを受け取った一之瀬さんは鮮やかなプレーで選手を抜いていき、気づけばもうイナズマジャパンのゴール前へ。
「いくよ 円堂!」
「来い!!」
キャプテンが構える中、一之瀬さんは必殺技を放つ。
「これが俺の必殺技……! “ペガサスショット” !!」
ペガサスすらも味方につけた強力な必殺技は、キャプテンの “イジゲン・ザ・ハンド” でボールを逸らすことができずに、ゴールへと突き刺さった。
開始早々、先制点を取られてしまった。
先日の試合中継で見たものよりもスピードもパワーも上がっている。雷門の人達は一之瀬さんの成長を肌で感じて驚いていたけれど、キャプテンだけは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「まだ試合は始まったばかりだ!オレ達も見せてやろうぜ、レベルアップしてるってとこを!」
それから気合の入った声でチーム全体にそう呼びかければ、先取点を取られたもののすぐにチームの士気も戻ったようだ。
試合再開のイナズマジャパンのボール。始まって早々にすぐに一之瀬さんに取られてしまう。
それからマーク・クルーガーへとボールが渡り、ディラン・キースを囮に使えば、ノーマークになった一之瀬さんへ再びボールが戻った。
「風丸!」
隙のない連携をするユニコーン。一之瀬さんのマークのため走ったのは風丸さんだった。
「俺たちだって、世界を相手に戦ってきたんだ!甘く見るな!」
「君のスピードにどれだけ磨きが掛かったのか、見せてもらうよ!」
一之瀬さんはスピードを上げて振り切ろうとするものの、風丸さんは持ち前の瞬足で追いついて、ボールを奪い兄へとパスを出した。
「よしっ反撃だ!」
兄の号令に合わせて走るのは、豪炎寺さんと染岡さんのダブルFW。
“真イリュージョンボール” でユニコーンのDFを突破した兄ちゃんは豪炎寺さんへとパスを出した。
「 “爆熱スクリュー” !!」
「レベルアップしたのは一之瀬だけじゃないぜ!」
兄ちゃんが豪炎寺さんへとボールを出した時にはもう動いていたんだろう。豪炎寺さんの必殺技の前に待ち構えていたのは土門さんだ。
「 “ボルケイノカットV2” !」
土門さんの繰り出したブロック技により威力が大幅に削がれた必殺シュートは、ユニコーンのGKビリー・ラピッドに簡単に取られてしまった。
「今日は、負けられないんだ!」
「俺達も、負けるつもりはない!」
元雷門イレブン同士での激しいぶつかり合い。一之瀬さんだけでなく土門さんも全力だと一目で分かる。
だからなのか……フィールドの気迫はいつも以上にすごいものに感じた。
「あいつら、メチャクチャ強いよ」
「ああ。ほんの少しの隙も逃さず、ゴールに襲い掛かって来る!」
ベンチからフィールドの様子を見守っていた木暮くん、立向居くんはユニコーンの強力な攻撃に声を上げる。
「やはり一之瀬くんの力ですね……。彼を封じることが勝利への鍵でしょう」
目金さんの言う通り、ユニコーンの攻撃の中心は一之瀬さんだ。辛うじて点は入れられていないものの、イナズマジャパンは防戦一方の戦いを強いられている。
「…………」
そんなやり取りの声だけを聞きながら、私は口元を手で抑えながらフィールドから視線を外さずに見続けた。
「 “ペガサスショット” !!」
「ッ…… “イジゲン・ザ・ハンド” !!」
再びゴール前へと突破した一之瀬さんが放ったのは一度目は得点を許した必殺。だけど、キャプテンは気迫で防ぐことができた。
時間を見ればもう前半終了まで残り僅か。リードされたままで終わるのは選手のメンタルにも影響する。
だからこそ、イナズマジャパンは攻撃のために攻め込む選択肢を取った。
ディランとマークが上がろうとするところをヒロトさんがインターセプトでボールを奪い、虎丸くんへとパスを出した。
「そこだ!一気に攻めろ!」
虎丸くんはショーン・ピアースのスライディングをボールごとジャンプをして躱す。
「ドモン!ゴールに近づかせるな!」
「オウッ!」
戻りながら指示を出すマークに、土門さんがすぐに飛び出すも虎丸くんはボールを誰もいない左側にスピンをかけて転がし、自分が土門さんを抜かした時にボールが戻ってくる、という天才小学生らしいトリッキープレーで抜いた。
「よし!」
「行かせるか!」
「うわあ!」
DFの要を抜かしたゴール前の手前、いつの間にか戻っていた一之瀬さんがスライディングをしてボールをライン外へ出した。
一度攻めることができたからか勢いづいただろうイナズマジャパン。スローイングでボール受け取った吹雪さんはドリブルで攻め上がれば、一之瀬さんが並んだ。
風丸さんほどではないけれど、吹雪さんだってスピードは上がっている。それもアジア予選の時よりずっと磨きがかかっていた。
一之瀬さんをかわした吹雪さんは後ろから走ってくる風丸さんへと笑いかけた。
「風丸くん!」
「!ここで……『あれ』をやる気か?」
「うん!」
「よしっ!」
前を走っていた吹雪さんが一之瀬さんの指示で止めようとしたDFを抜き、その後ろを風丸さんが疾風の如く駆け抜ける。
「今だ!」
「「 “ザ・ハリケーン” !!」」
その間に吹雪さんはボールを凍らせたその周りを風をまとわせた風丸さんによって作られた竜巻が覆い、風丸さんが姿を現したと同時に蹴りつけ……氷と風が纏 った凄まじい威力を持つ必殺技がユニコーンのゴールへと向かい…………
「 “フラッシュアッパー” !……ぐあぁっ!!」
見事ビリーの必殺技を破った。
《ゴォ――ルッ!!吹雪と風丸の連携シュートが決まったー!イナズマジャパン同点!!》
「やったぞー!吹雪!風丸!」
新必殺技を編み出し、ユニコーンにも同点に追いつくことができた。真っ先に嬉しそうに声を上げたのはキャプテンだった。
ベンチでも思い思いに喜びの声が上がっていて、私だって例外ではなく自分の頬が緩むのを感じた。
風丸さんと吹雪さん。2人のスピードに特化した選手だからできた必殺技…………やっぱり一朝一夕では彼らのスピードには追いつけない。だからこそ、
「……私も、頑張らないと」
地道な努力を重ねるしかない。
そして前半の終了を知らせるホイッスルが鳴り響いた。
「みんないいぞ!後半もこの調子でいこう!!」
ハーフタイム、キャプテンは元気な声でそう言ってから話題になるのはやはり一之瀬和哉のことで。
「やっぱり……一之瀬はすごいな」
「ああ。確かにあの気迫……今までに感じたことがない」
チーム全員が一之瀬さんの凄まじい気迫を感じ取っている。さらにユニコーン側は彼の気迫が後押しとなっているようで一筋縄ではいかないだろう。
そんなこともあって不安な空気が流れるものの、キャプテンは物怖じしなかった。
「気迫には気迫でぶつかるんだ!それが戦うってことだ!!」
むしろそんな好戦的な姿にチーム全体の士気が高まるのを感じた。
「ユニコーンが一之瀬さんなら、こっちはキャプテンが気迫で後押ししてるね」
「違いないな……」
私の言葉に兄は小さく笑い頷いた。
もちろん、仲良く談笑するために並んだ訳じゃない。情報提供をするためだ。
「明奈、何か気づいたことあるか?」
「うん……一之瀬さんの気迫はベンチでも感じた。だけど、得点も決められたし勝てない相手ではない。ただ…………」
前半戦、一之瀬さんの活躍はめざましいものがあった。彼だけでなく、土門さんも。
「FWがいやに大人しかったのが気になるな。……後半、さらに攻撃を仕掛けてくると思う」
特にユニコーンのエースストライカーであるディランさん。
見た試合映像の中では見れなかったものの、彼だって世界レベルのプレイヤーなんだ。なのに攻めることはせずに前半は一之瀬さんのアシストばかりしていた印象を持つ。
後半のための温存だと考えるには十分だ。
現状、私はまだ控えだし試合に出られるか分からない。
だけどそのことを悲観している暇なんてなくて、私はフィールドの外から見て気づいたことを、できるだけ詳しく兄ちゃんに知らせた。
頭の回転の早い兄なら私の抽象的な意見もすぐに試合に役立つよう、戦略を考えられるだろうから。
「私の出番がないことを願ってるよ。天才ゲームメーカーさん」
「ああ…………任せとけ」
何時ぞや兄に言った同じような言葉を言ったけれど、あの時とは状況も心情も全く違うもので、それは兄ちゃんも同じで得意気に微笑んでくれた。
「……ん?」
そのあとFWと連携についての見直しをする兄を見送ったところで、ふと秋さんの姿がないことに気づいて首を傾げていると。
「明奈ちゃん」
「?吹雪さん、風丸さん」
つい先程得点を決めた吹雪さんに名前を呼ばれ、振り返れば風丸さんの姿もあった。タオルを首に掛けて汗を拭いていたようだ。
「どうだった?僕たちの新しい必殺技」
「え?……ああ……!スピードを活かした凄く強力なシュートでしたね、凄かったですよ!」
まさか自分に新必殺技 “ザ・ハリケーン” の感想を求められているとは思わず、一瞬呆けてしまったけれどすぐにあの時の盛り上がりを思い出して、思わず語尾を強めてしまう。
「そっか。遅くまで練習した甲斐があったよ。ね、風丸くん」
「あ、ああ…………そう、だな」
「?」
成程。最近練習終わりに二人でいることが多いと感じていたけれど、新必殺技の特訓をしていたのか。吹雪さんに話を振られた風丸さんは少しだけ顔を赤くしてこくりと頷いていた。
不思議に思ったけれど、あれだけ走ったのだから体温も上がって顔だって赤くなるかと納得した。
私はアルゼンチン戦は出れなかったので、試合会場であるクジャクスタジアムの観客席から聞こえるたくさんの歓声と熱気を久々に肌で感じることになった。
両チームのスターティングメンバーが並び、それから各ポジションへと移動するのを今日もベンチから眺めていた。
ついさっきのアップの時間、なぜかユニコーン側の注目選手である一之瀬さんと土門さんがいなかった。
そして、それと同じ頃に秋さんの姿もなかった。
雨の日に話した後では彼女は「もう一度、一之瀬くんに連絡をしてみるね」とは言っていたけれど、連絡はちゃんと取れたのだろうか…………いいや、今は試合が優先だ。秋さんにもそう言ったのに。
集中するようにぎゅっと目を閉じ、試合開始のホイッスルが鳴ったタイミングで私は目を開いた。
ユニコーンのキックオフで試合が開始され、FWからパスを受け取った一之瀬さんは鮮やかなプレーで選手を抜いていき、気づけばもうイナズマジャパンのゴール前へ。
「いくよ 円堂!」
「来い!!」
キャプテンが構える中、一之瀬さんは必殺技を放つ。
「これが俺の必殺技……! “ペガサスショット” !!」
ペガサスすらも味方につけた強力な必殺技は、キャプテンの “イジゲン・ザ・ハンド” でボールを逸らすことができずに、ゴールへと突き刺さった。
開始早々、先制点を取られてしまった。
先日の試合中継で見たものよりもスピードもパワーも上がっている。雷門の人達は一之瀬さんの成長を肌で感じて驚いていたけれど、キャプテンだけは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「まだ試合は始まったばかりだ!オレ達も見せてやろうぜ、レベルアップしてるってとこを!」
それから気合の入った声でチーム全体にそう呼びかければ、先取点を取られたもののすぐにチームの士気も戻ったようだ。
試合再開のイナズマジャパンのボール。始まって早々にすぐに一之瀬さんに取られてしまう。
それからマーク・クルーガーへとボールが渡り、ディラン・キースを囮に使えば、ノーマークになった一之瀬さんへ再びボールが戻った。
「風丸!」
隙のない連携をするユニコーン。一之瀬さんのマークのため走ったのは風丸さんだった。
「俺たちだって、世界を相手に戦ってきたんだ!甘く見るな!」
「君のスピードにどれだけ磨きが掛かったのか、見せてもらうよ!」
一之瀬さんはスピードを上げて振り切ろうとするものの、風丸さんは持ち前の瞬足で追いついて、ボールを奪い兄へとパスを出した。
「よしっ反撃だ!」
兄の号令に合わせて走るのは、豪炎寺さんと染岡さんのダブルFW。
“真イリュージョンボール” でユニコーンのDFを突破した兄ちゃんは豪炎寺さんへとパスを出した。
「 “爆熱スクリュー” !!」
「レベルアップしたのは一之瀬だけじゃないぜ!」
兄ちゃんが豪炎寺さんへとボールを出した時にはもう動いていたんだろう。豪炎寺さんの必殺技の前に待ち構えていたのは土門さんだ。
「 “ボルケイノカットV2” !」
土門さんの繰り出したブロック技により威力が大幅に削がれた必殺シュートは、ユニコーンのGKビリー・ラピッドに簡単に取られてしまった。
「今日は、負けられないんだ!」
「俺達も、負けるつもりはない!」
元雷門イレブン同士での激しいぶつかり合い。一之瀬さんだけでなく土門さんも全力だと一目で分かる。
だからなのか……フィールドの気迫はいつも以上にすごいものに感じた。
「あいつら、メチャクチャ強いよ」
「ああ。ほんの少しの隙も逃さず、ゴールに襲い掛かって来る!」
ベンチからフィールドの様子を見守っていた木暮くん、立向居くんはユニコーンの強力な攻撃に声を上げる。
「やはり一之瀬くんの力ですね……。彼を封じることが勝利への鍵でしょう」
目金さんの言う通り、ユニコーンの攻撃の中心は一之瀬さんだ。辛うじて点は入れられていないものの、イナズマジャパンは防戦一方の戦いを強いられている。
「…………」
そんなやり取りの声だけを聞きながら、私は口元を手で抑えながらフィールドから視線を外さずに見続けた。
「 “ペガサスショット” !!」
「ッ…… “イジゲン・ザ・ハンド” !!」
再びゴール前へと突破した一之瀬さんが放ったのは一度目は得点を許した必殺。だけど、キャプテンは気迫で防ぐことができた。
時間を見ればもう前半終了まで残り僅か。リードされたままで終わるのは選手のメンタルにも影響する。
だからこそ、イナズマジャパンは攻撃のために攻め込む選択肢を取った。
ディランとマークが上がろうとするところをヒロトさんがインターセプトでボールを奪い、虎丸くんへとパスを出した。
「そこだ!一気に攻めろ!」
虎丸くんはショーン・ピアースのスライディングをボールごとジャンプをして躱す。
「ドモン!ゴールに近づかせるな!」
「オウッ!」
戻りながら指示を出すマークに、土門さんがすぐに飛び出すも虎丸くんはボールを誰もいない左側にスピンをかけて転がし、自分が土門さんを抜かした時にボールが戻ってくる、という天才小学生らしいトリッキープレーで抜いた。
「よし!」
「行かせるか!」
「うわあ!」
DFの要を抜かしたゴール前の手前、いつの間にか戻っていた一之瀬さんがスライディングをしてボールをライン外へ出した。
一度攻めることができたからか勢いづいただろうイナズマジャパン。スローイングでボール受け取った吹雪さんはドリブルで攻め上がれば、一之瀬さんが並んだ。
風丸さんほどではないけれど、吹雪さんだってスピードは上がっている。それもアジア予選の時よりずっと磨きがかかっていた。
一之瀬さんをかわした吹雪さんは後ろから走ってくる風丸さんへと笑いかけた。
「風丸くん!」
「!ここで……『あれ』をやる気か?」
「うん!」
「よしっ!」
前を走っていた吹雪さんが一之瀬さんの指示で止めようとしたDFを抜き、その後ろを風丸さんが疾風の如く駆け抜ける。
「今だ!」
「「 “ザ・ハリケーン” !!」」
その間に吹雪さんはボールを凍らせたその周りを風をまとわせた風丸さんによって作られた竜巻が覆い、風丸さんが姿を現したと同時に蹴りつけ……氷と風が
「 “フラッシュアッパー” !……ぐあぁっ!!」
見事ビリーの必殺技を破った。
《ゴォ――ルッ!!吹雪と風丸の連携シュートが決まったー!イナズマジャパン同点!!》
「やったぞー!吹雪!風丸!」
新必殺技を編み出し、ユニコーンにも同点に追いつくことができた。真っ先に嬉しそうに声を上げたのはキャプテンだった。
ベンチでも思い思いに喜びの声が上がっていて、私だって例外ではなく自分の頬が緩むのを感じた。
風丸さんと吹雪さん。2人のスピードに特化した選手だからできた必殺技…………やっぱり一朝一夕では彼らのスピードには追いつけない。だからこそ、
「……私も、頑張らないと」
地道な努力を重ねるしかない。
そして前半の終了を知らせるホイッスルが鳴り響いた。
「みんないいぞ!後半もこの調子でいこう!!」
ハーフタイム、キャプテンは元気な声でそう言ってから話題になるのはやはり一之瀬和哉のことで。
「やっぱり……一之瀬はすごいな」
「ああ。確かにあの気迫……今までに感じたことがない」
チーム全員が一之瀬さんの凄まじい気迫を感じ取っている。さらにユニコーン側は彼の気迫が後押しとなっているようで一筋縄ではいかないだろう。
そんなこともあって不安な空気が流れるものの、キャプテンは物怖じしなかった。
「気迫には気迫でぶつかるんだ!それが戦うってことだ!!」
むしろそんな好戦的な姿にチーム全体の士気が高まるのを感じた。
「ユニコーンが一之瀬さんなら、こっちはキャプテンが気迫で後押ししてるね」
「違いないな……」
私の言葉に兄は小さく笑い頷いた。
もちろん、仲良く談笑するために並んだ訳じゃない。情報提供をするためだ。
「明奈、何か気づいたことあるか?」
「うん……一之瀬さんの気迫はベンチでも感じた。だけど、得点も決められたし勝てない相手ではない。ただ…………」
前半戦、一之瀬さんの活躍はめざましいものがあった。彼だけでなく、土門さんも。
「FWがいやに大人しかったのが気になるな。……後半、さらに攻撃を仕掛けてくると思う」
特にユニコーンのエースストライカーであるディランさん。
見た試合映像の中では見れなかったものの、彼だって世界レベルのプレイヤーなんだ。なのに攻めることはせずに前半は一之瀬さんのアシストばかりしていた印象を持つ。
後半のための温存だと考えるには十分だ。
現状、私はまだ控えだし試合に出られるか分からない。
だけどそのことを悲観している暇なんてなくて、私はフィールドの外から見て気づいたことを、できるだけ詳しく兄ちゃんに知らせた。
頭の回転の早い兄なら私の抽象的な意見もすぐに試合に役立つよう、戦略を考えられるだろうから。
「私の出番がないことを願ってるよ。天才ゲームメーカーさん」
「ああ…………任せとけ」
何時ぞや兄に言った同じような言葉を言ったけれど、あの時とは状況も心情も全く違うもので、それは兄ちゃんも同じで得意気に微笑んでくれた。
「……ん?」
そのあとFWと連携についての見直しをする兄を見送ったところで、ふと秋さんの姿がないことに気づいて首を傾げていると。
「明奈ちゃん」
「?吹雪さん、風丸さん」
つい先程得点を決めた吹雪さんに名前を呼ばれ、振り返れば風丸さんの姿もあった。タオルを首に掛けて汗を拭いていたようだ。
「どうだった?僕たちの新しい必殺技」
「え?……ああ……!スピードを活かした凄く強力なシュートでしたね、凄かったですよ!」
まさか自分に新必殺技 “ザ・ハリケーン” の感想を求められているとは思わず、一瞬呆けてしまったけれどすぐにあの時の盛り上がりを思い出して、思わず語尾を強めてしまう。
「そっか。遅くまで練習した甲斐があったよ。ね、風丸くん」
「あ、ああ…………そう、だな」
「?」
成程。最近練習終わりに二人でいることが多いと感じていたけれど、新必殺技の特訓をしていたのか。吹雪さんに話を振られた風丸さんは少しだけ顔を赤くしてこくりと頷いていた。
不思議に思ったけれど、あれだけ走ったのだから体温も上がって顔だって赤くなるかと納得した。