寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
イナズマジャパンは来たるアメリカ戦のため練習に取り組もうとしていたものの、その日の朝。ライオコット島では珍しく雨が降り練習は中止になり、選手たちは宿舎で各々の時間を過ごすことになった。
秋さんは午後から出掛ける用事があるらしく、雨の中出ていったのを見送り(一人だったから付き添おうかと提案したけれど、待ち合わせをしているからと断られた)、私はMRのテレビで本戦でのユニコーン試合映像を視聴していた。過去の試合映像に関しては録画したDVDを目金さんに借りたものだ。
「パソコンの使い方も覚えないとなぁ……」
くるりとペンを回しながら呟く。
春奈のパソコンでも同じように試合データを見れるものの、もし壊してしまったらと考えると流石に一人では操作できない。操作は兄に任せて一緒に見るか、春奈に教えてもらいながらしか使えてないのは……我ながらちょっと情けない気がする。
……まあとりあえず、今はユニコーンの試合に集中だ。
前もって兄ちゃんに一之瀬さんや土門さんのプレーは教えてもらったものの、映像で実際に見ると一之瀬さんのあの巧みにボールを操る “フィールドの魔術師” と呼ばれているプレーには惹かれるものがある。
土門さんだってDFとして完璧なアシストで確実にボールを繋いでいた。壁山くんのような大柄な選手ではない代わりにテクニックで勝負しているプレイヤーなんだろう。
もちろん、新たに加入した2人の力を最大限に活かしているキャプテンの技量や、エースストライカーの確実な得点だって強力なものだけど…………やっぱり一番手強いのは一之瀬一哉といえる。
どこか鬼気迫るプレーをするからこそ、そう脅威に思えるのかもしれない。
「あっ……」
一之瀬さんのプレーを見ながらノートへと書き込んでいれば、ふと出入口の方から声が聞こえて私は顔を上げる。
「あ、秋さん。おかえりなさい」
「っ……た、ただいま」
そこにいたのは秋さん。挨拶をすればじっとテレビ画面を見ていた秋さんはそこでやっと私に気づいたように返事を返した。
「……秋さん?」
私は一度テレビの映像を止めてから、心ここにあらずといった様子の秋さんの元へ歩いた。
いつもイナズマジャパンのサッカーを支える暖かな笑顔を浮かべてくれていた秋さんは、困ったように眉を下げて再びテレビ画面を見ている。
止めたテレビ画面、一面に映るのは一之瀬さんで……秋さんは彼を見て憂いていることに気づいた。
「……一之瀬さんがどうかしたんですか?」
「!えっと……」
その表情が、対戦相手として手強いと恐れているものとは違う、一之瀬さん個人に向けられている気がして思わず聞いてしまったけれど、秋さんは目を見開いてそれから目を逸らす。
「……いえ、出過ぎた真似をしましたね」
そんな秋さんの反応に無暗に聞くものじゃないと判断した私は首を振って再び秋さんを見る。
雨の中外で待ち合わせ相手とやらと会ったのか、湿気で髪もいつもよりしんなりしているように感じる。
「雨で冷えてそうですし、食堂で暖かいもの飲みましょうか」
「えっ、でも……」
そんな秋さんを見た私は話を変える意味も込めてそう提案しながらノートを閉じて、テレビの電源を手早く落としてから彼女を食堂へと誘った。
私がデータ収集をしていた事がノートで分かったのか申し訳なさそうにする秋さんだったけれど私は気にせずに彼女の手を取って食堂へと目指した。
秋さんを先に座らせて、厨房からマグカップを二つ、それと小鍋をそれぞれ取り出し冷蔵庫の扉を開いた。
「どうぞ。温まりますよ」
「……ありがとう」
私はマグカップを両手に持って一つは秋さんの目の前に、もう一つは自分が座る向かい側の席へと置いた。
私が作ったのはミルクで作ったホットココアだ。我が家のアレンジ方法で出せば、木野さんはその香りにすぐに気づいた。
「いい匂い……これってシナモン?」
「はい。シナモンって体を温める作用があるので。リラックス効果のあるココアとの相性もいいんですよ」
教えてもらった事をそのまま伝えてから秋さんの隣に座る。
……本当はマシュマロも入れたかったけれどなかったから、今回はなしだ。買い物に行く機会があったら買おう。
「……おいしい」
口には出さなかったけれど、やっぱり寒かったのか秋さんはココアをゆっくりと飲んでからほっと息を吐いて笑みを浮かべた。
帰ってからずっと困ったような顔をしていた秋さんの笑顔に私も安堵しながら私もココアに口をつける。先程まで頭を使っていたので甘さが身に染みた。
「……明王兄さんがよく作ってくれたんです。その時に作り方も覚えました」
「明奈ちゃんのお義兄さんが?ちょっと意外かも。……あっ、ごめんなさい!」
雑談として私がココアを作れるようになった経由を話せば、秋さんはおかしそうにくすくす笑ってたけれど、すぐに慌てて謝られた。だけどその気持ちは分かるので首を横に振って笑い返した。
「ギャップありますからね。私だってココア持った明王兄さん見た時は驚きましたよ」
不動家に引き取られて間もない頃の、一番身内への罪悪感に苛まれていた頃に出してくれたことを思い出す。
自分が飲むからついでに作った、なんて甘い物が得意でもないくせに下手な嘘までついて。
韓国戦や空港でしか明王兄さんを見ていないなら尚更、彼の不器用な優しさに驚くのも納得だと秋さんに同意するように笑いかけた。
「落ち着いたようで、よかったです」
「え?」
私もあの時の明王兄さんみたいに、少しは秋さんを安心させれたかな。
そう考えながら窓の外を見る。まだ空は暗かったものの昼よりも小雨になっていることから、きっと夕方頃には雨は上がっているだろう。
「明奈ちゃん」
明日グラウンドも乾いていたらいいんだけどな、なんて考えていると秋さんが私の名前を呼ぶ。
「ココア、ありがとう」
それからマグカップを両手に持ちながら秋さんは小さく笑った。まだどこか無理をしているようだけど、帰ってきたばかりの時よりは少し顔色が良くなった気がする。
「いえ……これぐらいいつでもご馳走しますよ」
いつも自分達選手の事を考えた食事を作ってくれるマネージャーの礼としては足りない気がして私はそんなことを伝えた。
「……今日、私を呼び出したのは一之瀬くんだったの」
「えっ」
ぎゅっとマグカップを持つ手に力を入れながら雨の中、外に行った理由を話す秋さんに思わず声を上げた。
それは話し相手が自分でいいのか、という困惑だった。それに対して秋さんは「聞いてくれるだけでいいの」と困ったように笑うので何も言えずに私は話を聞く。
聞けば、アメリカ代表の一之瀬さんと土門さんは秋さんがアメリカにいた時の幼なじみだったらしい。そんな幼なじみの一人である一之瀬さんは今日、秋さんを呼び出して話をした。
「プロのユースチームに入るって聞いて、仲間として嬉しいと思ったし、やっぱり一之瀬くんは凄いなって思ったの」
幼なじみの躍進を嬉しそうに話す秋さん。だけど、ふと表情を曇らせた。
「だけど、その時の一之瀬くん。いつもと違うように見えて…………その姿が……なんでか分からないけれど、不安になっちゃって」
いつもと違う。
それはキャプテンや兄が一之瀬さんのサッカーを見て言っていた言葉と一緒だった。秋さんも一之瀬さんと実際に話してそう思っているのなら、きっと気のせいではないのだろう。
とはいえ、私にはサッカー以外の一之瀬さんの事なんて分からないので秋さん以上に原因が分かるわけない。
……だいたいなんで一之瀬さんはプロユースなんて誇らしいニュースを、仲がいい雷門イレブンの人達じゃなくて秋さん個人に伝えに会いに行ったのか…………個人に伝える理由か。
「……それって一之瀬さんが秋さんだけに会った事も関係あるんじゃないんでしょうか」
「え?」
「例えば、秋さんにだけに他にも伝えたい事があった、とか……?」
彼女個人に伝えたい事って何だ?と私も言いながら首を傾げてしまう。家族ならともかく、幼なじみと話すのなら土門さんだって同伴するものだと思うし……
「伝えたい事……?あっ……」
私の言葉に思い当たる節があったらしく声を上げる秋さん。だけど、すぐにぶんぶんと首を横に振った。その頬は何故か赤く染まっていて。
「う、ううん。そのことはきっと関係ないわ!うん!」
「?何言われたんですか……?」
明らかに動揺する秋さんに思わず尋ねれば、彼女はプロユースに行く話をされた後に、一之瀬さんは消え入りそうな声でポツリと呟いたらしい。
アメリカに一緒に来てくれないか、秋―……と。
自分がプロとして活躍する舞台に、一緒に来てほしい。その言葉はまるで……
「……なんだか、プロポーズみたいですね」
「!……ッそんなんじゃないよ!」
「っ!?」
よく恋愛ドラマで聞くやり取りだな、なんて軽い気持ちで呟いた所秋さんに声を上げられ、しばし呆けてしまった。
「あっ、ご、ごめんなさい……」
「……いえ、こちらこそ軽率でした」
私がポカンとしている間にも秋さんはハッとした顔をして、すぐに申し訳なさそうに謝られて、私も倣って頭を下げる。
「一之瀬くんにはプロとして最初の試合に招待してくれただけだよ。……そんなんじゃないよ。だって私には…………」
なんて、俯きながら呟く秋さんはまだ頬が赤いのに表情はどこか悩まし気で……まるで自分に言い聞かせているように感じた。
それはまるで、一之瀬さんからプロポーズされるのは困るみたいで…………。
―秋さんには一之瀬さんじゃない、好きな人がいるんですか?
「……ごめんね」
なんて、指摘をするにはあまりにもプライベートな事だと思って口を噤んでいると再び秋さんに謝られた。
「え?」
「明奈ちゃんは一之瀬くんのこと知らないのに色々話しちゃって……アメリカ戦も控えているのに」
秋さんは一之瀬さんについての不安を吐き出したことを後悔しているようだった。そのことで私が試合中に気にしてしまうかもしれない、なんて思っているようで。
「……秋さん」
私はとっくに飲み終わったマグカップを机の上に置いて、立ち上がり挟んでいる机を横切って彼女の目の前へと向かった。
「私は一選手として、一之瀬さん側にどのような事情があれど手を抜くなんて事はしません。だから、安心してください」
キャプテン達があんなに燃えている戦いなのだから、尚更だ。
「そ、そうよね……みんな、サッカーに一生懸命だもんね」
私の意思を伝えれば秋さんは、目を丸くしてそれから俯いて首を横に振った。……まるで、そんな事を考えてしまった自分を恥じるように。
「……ただ」
選手としての意思を伝え終えた私は続けて秋さんの手を握って、まだ困ったような表情をしている彼女と目を合わせる。
「不動明奈として、そんな顔をする秋さんは心配なので……不安が解消されることを願ってます」
それが、何も知らない私のできる精一杯だろう、と秋さんに伝えると、少しの間をおいて秋さんは私が握っていた手にきゅっと力を入れた。
「……明奈ちゃんは優しいね」
なんて、静かに微笑む秋さんはやっぱりまだ悩んでいるし、それを解消できるのは当人である一之瀬さんだけだと痛感してしまう。
それでも、私の言葉を受け入れてくれる彼女は優しい人だ。
「…………秋さん達が優しくしてくれたからですよ」
アジア予選の時の自分に対して、優しい笑顔で私に接してくれたマネージャーだからこそ、私だって仲良くなりたいと思うし、力になりたいと思うんだ。
秋さんは午後から出掛ける用事があるらしく、雨の中出ていったのを見送り(一人だったから付き添おうかと提案したけれど、待ち合わせをしているからと断られた)、私はMRのテレビで本戦でのユニコーン試合映像を視聴していた。過去の試合映像に関しては録画したDVDを目金さんに借りたものだ。
「パソコンの使い方も覚えないとなぁ……」
くるりとペンを回しながら呟く。
春奈のパソコンでも同じように試合データを見れるものの、もし壊してしまったらと考えると流石に一人では操作できない。操作は兄に任せて一緒に見るか、春奈に教えてもらいながらしか使えてないのは……我ながらちょっと情けない気がする。
……まあとりあえず、今はユニコーンの試合に集中だ。
前もって兄ちゃんに一之瀬さんや土門さんのプレーは教えてもらったものの、映像で実際に見ると一之瀬さんのあの巧みにボールを操る “フィールドの魔術師” と呼ばれているプレーには惹かれるものがある。
土門さんだってDFとして完璧なアシストで確実にボールを繋いでいた。壁山くんのような大柄な選手ではない代わりにテクニックで勝負しているプレイヤーなんだろう。
もちろん、新たに加入した2人の力を最大限に活かしているキャプテンの技量や、エースストライカーの確実な得点だって強力なものだけど…………やっぱり一番手強いのは一之瀬一哉といえる。
どこか鬼気迫るプレーをするからこそ、そう脅威に思えるのかもしれない。
「あっ……」
一之瀬さんのプレーを見ながらノートへと書き込んでいれば、ふと出入口の方から声が聞こえて私は顔を上げる。
「あ、秋さん。おかえりなさい」
「っ……た、ただいま」
そこにいたのは秋さん。挨拶をすればじっとテレビ画面を見ていた秋さんはそこでやっと私に気づいたように返事を返した。
「……秋さん?」
私は一度テレビの映像を止めてから、心ここにあらずといった様子の秋さんの元へ歩いた。
いつもイナズマジャパンのサッカーを支える暖かな笑顔を浮かべてくれていた秋さんは、困ったように眉を下げて再びテレビ画面を見ている。
止めたテレビ画面、一面に映るのは一之瀬さんで……秋さんは彼を見て憂いていることに気づいた。
「……一之瀬さんがどうかしたんですか?」
「!えっと……」
その表情が、対戦相手として手強いと恐れているものとは違う、一之瀬さん個人に向けられている気がして思わず聞いてしまったけれど、秋さんは目を見開いてそれから目を逸らす。
「……いえ、出過ぎた真似をしましたね」
そんな秋さんの反応に無暗に聞くものじゃないと判断した私は首を振って再び秋さんを見る。
雨の中外で待ち合わせ相手とやらと会ったのか、湿気で髪もいつもよりしんなりしているように感じる。
「雨で冷えてそうですし、食堂で暖かいもの飲みましょうか」
「えっ、でも……」
そんな秋さんを見た私は話を変える意味も込めてそう提案しながらノートを閉じて、テレビの電源を手早く落としてから彼女を食堂へと誘った。
私がデータ収集をしていた事がノートで分かったのか申し訳なさそうにする秋さんだったけれど私は気にせずに彼女の手を取って食堂へと目指した。
秋さんを先に座らせて、厨房からマグカップを二つ、それと小鍋をそれぞれ取り出し冷蔵庫の扉を開いた。
「どうぞ。温まりますよ」
「……ありがとう」
私はマグカップを両手に持って一つは秋さんの目の前に、もう一つは自分が座る向かい側の席へと置いた。
私が作ったのはミルクで作ったホットココアだ。我が家のアレンジ方法で出せば、木野さんはその香りにすぐに気づいた。
「いい匂い……これってシナモン?」
「はい。シナモンって体を温める作用があるので。リラックス効果のあるココアとの相性もいいんですよ」
教えてもらった事をそのまま伝えてから秋さんの隣に座る。
……本当はマシュマロも入れたかったけれどなかったから、今回はなしだ。買い物に行く機会があったら買おう。
「……おいしい」
口には出さなかったけれど、やっぱり寒かったのか秋さんはココアをゆっくりと飲んでからほっと息を吐いて笑みを浮かべた。
帰ってからずっと困ったような顔をしていた秋さんの笑顔に私も安堵しながら私もココアに口をつける。先程まで頭を使っていたので甘さが身に染みた。
「……明王兄さんがよく作ってくれたんです。その時に作り方も覚えました」
「明奈ちゃんのお義兄さんが?ちょっと意外かも。……あっ、ごめんなさい!」
雑談として私がココアを作れるようになった経由を話せば、秋さんはおかしそうにくすくす笑ってたけれど、すぐに慌てて謝られた。だけどその気持ちは分かるので首を横に振って笑い返した。
「ギャップありますからね。私だってココア持った明王兄さん見た時は驚きましたよ」
不動家に引き取られて間もない頃の、一番身内への罪悪感に苛まれていた頃に出してくれたことを思い出す。
自分が飲むからついでに作った、なんて甘い物が得意でもないくせに下手な嘘までついて。
韓国戦や空港でしか明王兄さんを見ていないなら尚更、彼の不器用な優しさに驚くのも納得だと秋さんに同意するように笑いかけた。
「落ち着いたようで、よかったです」
「え?」
私もあの時の明王兄さんみたいに、少しは秋さんを安心させれたかな。
そう考えながら窓の外を見る。まだ空は暗かったものの昼よりも小雨になっていることから、きっと夕方頃には雨は上がっているだろう。
「明奈ちゃん」
明日グラウンドも乾いていたらいいんだけどな、なんて考えていると秋さんが私の名前を呼ぶ。
「ココア、ありがとう」
それからマグカップを両手に持ちながら秋さんは小さく笑った。まだどこか無理をしているようだけど、帰ってきたばかりの時よりは少し顔色が良くなった気がする。
「いえ……これぐらいいつでもご馳走しますよ」
いつも自分達選手の事を考えた食事を作ってくれるマネージャーの礼としては足りない気がして私はそんなことを伝えた。
「……今日、私を呼び出したのは一之瀬くんだったの」
「えっ」
ぎゅっとマグカップを持つ手に力を入れながら雨の中、外に行った理由を話す秋さんに思わず声を上げた。
それは話し相手が自分でいいのか、という困惑だった。それに対して秋さんは「聞いてくれるだけでいいの」と困ったように笑うので何も言えずに私は話を聞く。
聞けば、アメリカ代表の一之瀬さんと土門さんは秋さんがアメリカにいた時の幼なじみだったらしい。そんな幼なじみの一人である一之瀬さんは今日、秋さんを呼び出して話をした。
「プロのユースチームに入るって聞いて、仲間として嬉しいと思ったし、やっぱり一之瀬くんは凄いなって思ったの」
幼なじみの躍進を嬉しそうに話す秋さん。だけど、ふと表情を曇らせた。
「だけど、その時の一之瀬くん。いつもと違うように見えて…………その姿が……なんでか分からないけれど、不安になっちゃって」
いつもと違う。
それはキャプテンや兄が一之瀬さんのサッカーを見て言っていた言葉と一緒だった。秋さんも一之瀬さんと実際に話してそう思っているのなら、きっと気のせいではないのだろう。
とはいえ、私にはサッカー以外の一之瀬さんの事なんて分からないので秋さん以上に原因が分かるわけない。
……だいたいなんで一之瀬さんはプロユースなんて誇らしいニュースを、仲がいい雷門イレブンの人達じゃなくて秋さん個人に伝えに会いに行ったのか…………個人に伝える理由か。
「……それって一之瀬さんが秋さんだけに会った事も関係あるんじゃないんでしょうか」
「え?」
「例えば、秋さんにだけに他にも伝えたい事があった、とか……?」
彼女個人に伝えたい事って何だ?と私も言いながら首を傾げてしまう。家族ならともかく、幼なじみと話すのなら土門さんだって同伴するものだと思うし……
「伝えたい事……?あっ……」
私の言葉に思い当たる節があったらしく声を上げる秋さん。だけど、すぐにぶんぶんと首を横に振った。その頬は何故か赤く染まっていて。
「う、ううん。そのことはきっと関係ないわ!うん!」
「?何言われたんですか……?」
明らかに動揺する秋さんに思わず尋ねれば、彼女はプロユースに行く話をされた後に、一之瀬さんは消え入りそうな声でポツリと呟いたらしい。
アメリカに一緒に来てくれないか、秋―……と。
自分がプロとして活躍する舞台に、一緒に来てほしい。その言葉はまるで……
「……なんだか、プロポーズみたいですね」
「!……ッそんなんじゃないよ!」
「っ!?」
よく恋愛ドラマで聞くやり取りだな、なんて軽い気持ちで呟いた所秋さんに声を上げられ、しばし呆けてしまった。
「あっ、ご、ごめんなさい……」
「……いえ、こちらこそ軽率でした」
私がポカンとしている間にも秋さんはハッとした顔をして、すぐに申し訳なさそうに謝られて、私も倣って頭を下げる。
「一之瀬くんにはプロとして最初の試合に招待してくれただけだよ。……そんなんじゃないよ。だって私には…………」
なんて、俯きながら呟く秋さんはまだ頬が赤いのに表情はどこか悩まし気で……まるで自分に言い聞かせているように感じた。
それはまるで、一之瀬さんからプロポーズされるのは困るみたいで…………。
―秋さんには一之瀬さんじゃない、好きな人がいるんですか?
「……ごめんね」
なんて、指摘をするにはあまりにもプライベートな事だと思って口を噤んでいると再び秋さんに謝られた。
「え?」
「明奈ちゃんは一之瀬くんのこと知らないのに色々話しちゃって……アメリカ戦も控えているのに」
秋さんは一之瀬さんについての不安を吐き出したことを後悔しているようだった。そのことで私が試合中に気にしてしまうかもしれない、なんて思っているようで。
「……秋さん」
私はとっくに飲み終わったマグカップを机の上に置いて、立ち上がり挟んでいる机を横切って彼女の目の前へと向かった。
「私は一選手として、一之瀬さん側にどのような事情があれど手を抜くなんて事はしません。だから、安心してください」
キャプテン達があんなに燃えている戦いなのだから、尚更だ。
「そ、そうよね……みんな、サッカーに一生懸命だもんね」
私の意思を伝えれば秋さんは、目を丸くしてそれから俯いて首を横に振った。……まるで、そんな事を考えてしまった自分を恥じるように。
「……ただ」
選手としての意思を伝え終えた私は続けて秋さんの手を握って、まだ困ったような表情をしている彼女と目を合わせる。
「不動明奈として、そんな顔をする秋さんは心配なので……不安が解消されることを願ってます」
それが、何も知らない私のできる精一杯だろう、と秋さんに伝えると、少しの間をおいて秋さんは私が握っていた手にきゅっと力を入れた。
「……明奈ちゃんは優しいね」
なんて、静かに微笑む秋さんはやっぱりまだ悩んでいるし、それを解消できるのは当人である一之瀬さんだけだと痛感してしまう。
それでも、私の言葉を受け入れてくれる彼女は優しい人だ。
「…………秋さん達が優しくしてくれたからですよ」
アジア予選の時の自分に対して、優しい笑顔で私に接してくれたマネージャーだからこそ、私だって仲良くなりたいと思うし、力になりたいと思うんだ。