寂しがり少女
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「うーん………………」
備え付けの鏡で自分の姿を見て、思わず頬を掻く。
せっかく春奈が選んでくれたものだけど……とりあえずに直接言うべきだろう。
「春奈……やっぱり私には似合わない気が…………」
シャッとカーテンを開けて、試着室の前で待っているであろう妹に話しかけようと顔を上げる。
「あ、噂をすればお姉ちゃん出てきましたよ!」
妹は誰かと話していたようで、先にその話し相手と目が合った。
「っ!?………ごっ……!!?」
「ご?」
イナズマジャパンのエースストライカー、豪炎寺修也さんと。
普通に出会うのなら、特に私だって驚かなかった。だけど、今の自分の格好を思い出すとそうも言ってられない。
「わぁ、お姉ちゃんかわいー!」
「は、春奈!人がいるなら言ってよ……!!」
固まっていたけれど、春奈の声にハッと私は意識を取り戻して慌てて試着室のカーテンを閉めた。
「大丈夫!お姉ちゃんのワンピース姿似合ってたから!!ね、豪炎寺さん!夕香ちゃん!」
「私が大丈夫じゃない……!!」
春奈が同意を求めるかのように呼びかける名前に聞きなれない名前も聞こえたけれど、それを気にする余裕もなく、私はすぐにいつものジャージに着替えて、春奈に選んでもらった服を片手に試着室を出た。……着慣れた服の安心感が凄すぎる。
午前練習を終えて、体を休む事を目的とした午後からの時間に春奈が熱望していた買い物をするため、デパートへ引っ張られたのだ。
そして服屋で春奈におすすめされるがままの服を着たはいいけれど、自分には可愛すぎないか?と思いながら確かめてもらおうと試着室のカーテンを開けたときに豪炎寺さんと鉢合わせた。
「春奈お姉ちゃんのお姉ちゃん、かわいかったね!」
「えへへっ、ありがとう夕香ちゃん」
外に出れば、豪炎寺さんだけでなく、豪炎寺さんと手を繋いでいる茶髪の三つ編みの女の子がいて春奈が話していた。
「あ、お姉ちゃん!」
何となく見覚えがあるような女の子を見ていると、春奈がこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「ほら、夕香ちゃんとははじめましてなんだから自己紹介しないと!」
「えっ、ちょっと……?」
それから試着した服を持ってくれたかと思えば、腕を掴んで豪炎寺さん達の前へと引っ張られた。
「夕香、彼女は同じチームの仲間なんだ。挨拶できるな?」
「うん!」
豪炎寺さんの方でもその女の子に合宿所にいる時よりもずっと優しい声で話しかけていて、元気よく頷く女の子は慌てる私に対してにこっと笑みを浮かべた。
「こんにちは!豪炎寺夕香です!」
「ごうえんじ……」
もしかして、とは思ったけれどその名乗ってくれた名前を聞いて、この子は豪炎寺さんの妹なんだと理解した。……そういえばファイアードラゴンとの試合でも応援に来ていた気がする。だから見覚えがあったのか。
「えっと……こんにちは、不動明奈です」
私はその場で屈んで、夕香ちゃんと目線を合わせて自己紹介をした。……近所に住むあの子よりも少し年上、なのかな。いやそれにしても。
「はじめましての人に挨拶できるのすごいね」
「夕香すごい?えへへ、ありがとう!」
この歳の時なんて兄の背中に隠れてばっかりだった記憶があるので最近の子どもはちゃんとしているなぁと思いながら素直に褒めれば、夕香ちゃんは嬉しそうに笑ってパタパタと豪炎寺さんの方へと走っていく。
「お兄ちゃん!夕香すごいって褒めてもらえたー!」
「元気に挨拶できたもんな、偉いぞ夕香」
そして嬉々として兄である彼に報告すれば、豪炎寺さんは夕香ちゃんの頭を撫でる。
「豪炎寺さんと夕香ちゃん。本戦でしばらく家に帰れないから、一緒にお買い物してたんだって。で、お姉ちゃんが試着室に入ったときにばったり鉢合わせたの」
「なるほど?」
豪炎寺さんってクールなイメージが強かったけれど、妹にはこんなに優しいんだと立ち上がりながら少し驚いていると、春奈が出会った経由を教えてくれた。
「で、どうせならお姉ちゃんの可愛い格好も見てもらおうかなって!」
「なんで?……っていうか!」
そこでハッと試着室を出てから言いたかった事を思い出して、私は豪炎寺さん達に聞こえないように彼女に耳打ちをする。
「そもそも、この服は自分には可愛すぎるって……!もうちょっと大人しめがいいっていうか、なんていうか……!」
「えー、大丈夫だよ。お姉ちゃんの白い肌を魅せれるブルーグレーのワンピース!うん似合うよー!」
「ええ……本当?」
具体名を出せるほど服の知識がないのであやふやな言い方だったけれど、断ろうとしているのは伝わったのか春奈はそう言って腕にかけていた試着していた服を広げて、私に重ね自信満々な笑みを見せる。
「私を信じて、ね?」
「ず、ずるい言い方するなぁ……!」
それから可愛らしく小首を傾げて上目遣いで言うもんだから、これ以上断るなんて私にはできなくて……。
「夕香も明奈お姉ちゃんのワンピースかわいいって思ったよ!ね、お兄ちゃんもそうでしょ?」
「えっ」
「ああ、そうだな」
「ちょっ」
さらに満面の笑みを浮かべた夕香ちゃんや夕香ちゃんに聞かれた豪炎寺さんにまでそう言われたら完全に逃げ場を無くす訳で。
(豪炎寺さんは、夕香ちゃんが言ったから頷いただけの気がするけれど)
「そ、そこまで言うなら……買うよ」
結局、私はそのワンピースを再び手にとった。
「付き合わせて悪いな、不動」
「いえ……さっきの礼ということで」
服屋を見ていたからか、夕香も服を見たい!と夕香ちゃんの言葉で、小学生向けの服屋へと行くことになった。
私と春奈も一緒に行っているのは、女子が好きそうな服に無知だから一緒に見てくれると助かる、と豪炎寺さんに直々に頼まれたからだ。
……まぁ専ら詳しいのは春奈の方なので、主に彼女が夕香ちゃんの手を握って服を選んでいるけれど。
その傍らで私なりに夕香ちゃんに似合いそうな服を探していると、豪炎寺さんと合流して苦笑交じりの笑みを浮かべられたので、首をすくめてそう返した。
「……少し意外だった」
「え?」
「お前が音無に振り回されているの」
それから流れで一緒に夕香ちゃんに似合う服を探していると、そう呟かれた。
「サッカーをしている時と、雰囲気が違って見えるな」
「……よく言われます」
それは真帝国のみんなをはじめとした友人によく言われることで、私は頬を掻きながら苦笑をする。
「まぁ、今の自分はサッカーぐらいしか強気に出れるものがないっていうか……自信ないっていうか………これでも小さい頃は、私が春奈を引っ張ってたんですよ?」
影山によって故意に作られたあの孤独な環境は、当時は何も思わなかった。
けれど、不動家に戻って普通の暮らしをするにあたってどうしても自身の世間知らずなところを思い知ってしまう。
明王さんにお世話になるまで料理のりの字も知らなかったなんて言われたら驚かれるかも。
そんな自分からしたら、妹はすっかり頼もしく育ったなと思うわけで。
「兄から聞きましたが、春奈、雷門サッカー部ではデータ集めをしてチームに貢献していたって聞いてすごいなぁって…………これじゃあどっちが姉か分かりませんね」
実際は双子だったから、春奈が姉で私が妹っていうこともありえたんだろうなぁと呟きながら冗談交じりに笑うけれど、豪炎寺さんはいつものクールな表情で真っ直ぐと私を見ていた。
「それでも音無にとってお前は姉だろ」
そんな真剣な表情からすぐに小さく笑みを浮かべて、優し気な視線をこちらに送った。
「妹が喜ぶと思ったから、自分があまり着ない服に挑戦しようと思ったんだろ?」
「そ、れは……そうですが…………」
その目が……少しだけ兄ちゃんに似ていてなんだか誤魔化しきれずに私はこくりと頷いた。
「音無だって相手がお前だから、全力で甘えているように見えるしな」
「……………そっか」
私よりもサッカー部マネージャーの音無春奈を知っている豪炎寺さんからもそう言ってもらえるなら、きっと本当なんだろうと思って私はほっと息をつく。
幼少期のようには戻れないし、別の形でめいいっぱい春奈を可愛がろう。そう思えた。
「あぁ、それと……」
豪炎寺さんに励まされた私は気を取り直して夕香ちゃんの服を見ていると、同じように服を見ていた豪炎寺さんに再び声を掛けられる。
「さっきのワンピース、本当に似合っていた。明奈」
「えっ」
それは、私が購入したワンピースを褒める言葉で。
それも驚いたけれど、急に名前を呼ばれた事に思わず顔を上げれば、何故か呼んだ豪炎寺さん自身もぽかんとしていた。それからすぐに申し訳なさそうに小さく唸りながら片手で顔を覆った。
「……すまん。虎丸や鬼道がよくお前の名前を呼んでいたからうつった」
「あぁ……。いえ、別に呼ばれ方に特に拘りはないですし、大丈夫ですよ?」
アジア予選の時は私が距離を置いてへんな意地を張っていた自覚はあれど、今は特にどう呼ばれても気にしない。
“不動”も“明奈”もどっちも好きな名前だし。
「だったらもういっそ、名前で呼んでいいか?」
「はい、大丈夫ですよ」
わざわざ確認を取るなんて律儀だなと思いながら私は二つ返事で頷いた。それからふと、思い浮かんだ事を口にする。
「………私も名前で呼んだ方がいいですか?」
「明奈も?」
「……修也さん……とか?」
「……………………いや」
たっぷりの沈黙の後に私の提案した呼び方に豪炎寺さんは首を横に振った。
「鬼道に怒られるから、豪炎寺のままで大丈夫だ」
「?私が豪炎寺さんを名前を呼んで、なんで兄ちゃんが怒るんですか……?」
好きな方でいい、とかでもなく完全なる拒否。
しかも理由がよく分からずに首を傾げるも、曖昧な笑顔を返されるだけだった。なんでだ。
「夕香ちゃんに似合いそうな服は見つかりましたか?おにーさん」
話してくれないことを追究しても仕方ないか。と今度こそ気を取り直して私達は夕香ちゃんの服を選んだ。
それから改めて夕香ちゃんの実兄へと尋ねれば、豪炎寺さんはフッと自信ありげな笑みを浮かべて持っている服を見せた。
「夕香、くまのぬいぐるみが好きだから喜ぶと思うんだ」
「あ、いいですね。かわいい」
豪炎寺さんが持つのはくまのイラストがプリントされたシャツだった。くまが好きなら喜びそうだなと私は素直に頷く。ちゃんと女の子が好きそうなピンク色だし。
「くまじゃないけれど、夕香ちゃん気に入りますかね?」
「うさぎか。センスいいな」
私も夕香ちゃんのために選んだ服を見せれば、豪炎寺さんに褒められた。その服はうさぎのキャラクターとにんじんがプリントされた水色のパーカーだった。
よしよし、実兄の太鼓判を押されたしきっと夕香ちゃんも気に入るだろう。
それから服も決まったことだしと、二人の所へ合流をすれば、
「くまさんは好きだけど、服にかかれてるのは違うのー!」
「………お姉ちゃん。夕香ちゃんはもう小学生の女の子なんだよ?」
「「…………」」
お互い妹達に散々な評価を貰ってしまった。
備え付けの鏡で自分の姿を見て、思わず頬を掻く。
せっかく春奈が選んでくれたものだけど……とりあえずに直接言うべきだろう。
「春奈……やっぱり私には似合わない気が…………」
シャッとカーテンを開けて、試着室の前で待っているであろう妹に話しかけようと顔を上げる。
「あ、噂をすればお姉ちゃん出てきましたよ!」
妹は誰かと話していたようで、先にその話し相手と目が合った。
「っ!?………ごっ……!!?」
「ご?」
イナズマジャパンのエースストライカー、豪炎寺修也さんと。
普通に出会うのなら、特に私だって驚かなかった。だけど、今の自分の格好を思い出すとそうも言ってられない。
「わぁ、お姉ちゃんかわいー!」
「は、春奈!人がいるなら言ってよ……!!」
固まっていたけれど、春奈の声にハッと私は意識を取り戻して慌てて試着室のカーテンを閉めた。
「大丈夫!お姉ちゃんのワンピース姿似合ってたから!!ね、豪炎寺さん!夕香ちゃん!」
「私が大丈夫じゃない……!!」
春奈が同意を求めるかのように呼びかける名前に聞きなれない名前も聞こえたけれど、それを気にする余裕もなく、私はすぐにいつものジャージに着替えて、春奈に選んでもらった服を片手に試着室を出た。……着慣れた服の安心感が凄すぎる。
午前練習を終えて、体を休む事を目的とした午後からの時間に春奈が熱望していた買い物をするため、デパートへ引っ張られたのだ。
そして服屋で春奈におすすめされるがままの服を着たはいいけれど、自分には可愛すぎないか?と思いながら確かめてもらおうと試着室のカーテンを開けたときに豪炎寺さんと鉢合わせた。
「春奈お姉ちゃんのお姉ちゃん、かわいかったね!」
「えへへっ、ありがとう夕香ちゃん」
外に出れば、豪炎寺さんだけでなく、豪炎寺さんと手を繋いでいる茶髪の三つ編みの女の子がいて春奈が話していた。
「あ、お姉ちゃん!」
何となく見覚えがあるような女の子を見ていると、春奈がこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「ほら、夕香ちゃんとははじめましてなんだから自己紹介しないと!」
「えっ、ちょっと……?」
それから試着した服を持ってくれたかと思えば、腕を掴んで豪炎寺さん達の前へと引っ張られた。
「夕香、彼女は同じチームの仲間なんだ。挨拶できるな?」
「うん!」
豪炎寺さんの方でもその女の子に合宿所にいる時よりもずっと優しい声で話しかけていて、元気よく頷く女の子は慌てる私に対してにこっと笑みを浮かべた。
「こんにちは!豪炎寺夕香です!」
「ごうえんじ……」
もしかして、とは思ったけれどその名乗ってくれた名前を聞いて、この子は豪炎寺さんの妹なんだと理解した。……そういえばファイアードラゴンとの試合でも応援に来ていた気がする。だから見覚えがあったのか。
「えっと……こんにちは、不動明奈です」
私はその場で屈んで、夕香ちゃんと目線を合わせて自己紹介をした。……近所に住むあの子よりも少し年上、なのかな。いやそれにしても。
「はじめましての人に挨拶できるのすごいね」
「夕香すごい?えへへ、ありがとう!」
この歳の時なんて兄の背中に隠れてばっかりだった記憶があるので最近の子どもはちゃんとしているなぁと思いながら素直に褒めれば、夕香ちゃんは嬉しそうに笑ってパタパタと豪炎寺さんの方へと走っていく。
「お兄ちゃん!夕香すごいって褒めてもらえたー!」
「元気に挨拶できたもんな、偉いぞ夕香」
そして嬉々として兄である彼に報告すれば、豪炎寺さんは夕香ちゃんの頭を撫でる。
「豪炎寺さんと夕香ちゃん。本戦でしばらく家に帰れないから、一緒にお買い物してたんだって。で、お姉ちゃんが試着室に入ったときにばったり鉢合わせたの」
「なるほど?」
豪炎寺さんってクールなイメージが強かったけれど、妹にはこんなに優しいんだと立ち上がりながら少し驚いていると、春奈が出会った経由を教えてくれた。
「で、どうせならお姉ちゃんの可愛い格好も見てもらおうかなって!」
「なんで?……っていうか!」
そこでハッと試着室を出てから言いたかった事を思い出して、私は豪炎寺さん達に聞こえないように彼女に耳打ちをする。
「そもそも、この服は自分には可愛すぎるって……!もうちょっと大人しめがいいっていうか、なんていうか……!」
「えー、大丈夫だよ。お姉ちゃんの白い肌を魅せれるブルーグレーのワンピース!うん似合うよー!」
「ええ……本当?」
具体名を出せるほど服の知識がないのであやふやな言い方だったけれど、断ろうとしているのは伝わったのか春奈はそう言って腕にかけていた試着していた服を広げて、私に重ね自信満々な笑みを見せる。
「私を信じて、ね?」
「ず、ずるい言い方するなぁ……!」
それから可愛らしく小首を傾げて上目遣いで言うもんだから、これ以上断るなんて私にはできなくて……。
「夕香も明奈お姉ちゃんのワンピースかわいいって思ったよ!ね、お兄ちゃんもそうでしょ?」
「えっ」
「ああ、そうだな」
「ちょっ」
さらに満面の笑みを浮かべた夕香ちゃんや夕香ちゃんに聞かれた豪炎寺さんにまでそう言われたら完全に逃げ場を無くす訳で。
(豪炎寺さんは、夕香ちゃんが言ったから頷いただけの気がするけれど)
「そ、そこまで言うなら……買うよ」
結局、私はそのワンピースを再び手にとった。
「付き合わせて悪いな、不動」
「いえ……さっきの礼ということで」
服屋を見ていたからか、夕香も服を見たい!と夕香ちゃんの言葉で、小学生向けの服屋へと行くことになった。
私と春奈も一緒に行っているのは、女子が好きそうな服に無知だから一緒に見てくれると助かる、と豪炎寺さんに直々に頼まれたからだ。
……まぁ専ら詳しいのは春奈の方なので、主に彼女が夕香ちゃんの手を握って服を選んでいるけれど。
その傍らで私なりに夕香ちゃんに似合いそうな服を探していると、豪炎寺さんと合流して苦笑交じりの笑みを浮かべられたので、首をすくめてそう返した。
「……少し意外だった」
「え?」
「お前が音無に振り回されているの」
それから流れで一緒に夕香ちゃんに似合う服を探していると、そう呟かれた。
「サッカーをしている時と、雰囲気が違って見えるな」
「……よく言われます」
それは真帝国のみんなをはじめとした友人によく言われることで、私は頬を掻きながら苦笑をする。
「まぁ、今の自分はサッカーぐらいしか強気に出れるものがないっていうか……自信ないっていうか………これでも小さい頃は、私が春奈を引っ張ってたんですよ?」
影山によって故意に作られたあの孤独な環境は、当時は何も思わなかった。
けれど、不動家に戻って普通の暮らしをするにあたってどうしても自身の世間知らずなところを思い知ってしまう。
明王さんにお世話になるまで料理のりの字も知らなかったなんて言われたら驚かれるかも。
そんな自分からしたら、妹はすっかり頼もしく育ったなと思うわけで。
「兄から聞きましたが、春奈、雷門サッカー部ではデータ集めをしてチームに貢献していたって聞いてすごいなぁって…………これじゃあどっちが姉か分かりませんね」
実際は双子だったから、春奈が姉で私が妹っていうこともありえたんだろうなぁと呟きながら冗談交じりに笑うけれど、豪炎寺さんはいつものクールな表情で真っ直ぐと私を見ていた。
「それでも音無にとってお前は姉だろ」
そんな真剣な表情からすぐに小さく笑みを浮かべて、優し気な視線をこちらに送った。
「妹が喜ぶと思ったから、自分があまり着ない服に挑戦しようと思ったんだろ?」
「そ、れは……そうですが…………」
その目が……少しだけ兄ちゃんに似ていてなんだか誤魔化しきれずに私はこくりと頷いた。
「音無だって相手がお前だから、全力で甘えているように見えるしな」
「……………そっか」
私よりもサッカー部マネージャーの音無春奈を知っている豪炎寺さんからもそう言ってもらえるなら、きっと本当なんだろうと思って私はほっと息をつく。
幼少期のようには戻れないし、別の形でめいいっぱい春奈を可愛がろう。そう思えた。
「あぁ、それと……」
豪炎寺さんに励まされた私は気を取り直して夕香ちゃんの服を見ていると、同じように服を見ていた豪炎寺さんに再び声を掛けられる。
「さっきのワンピース、本当に似合っていた。明奈」
「えっ」
それは、私が購入したワンピースを褒める言葉で。
それも驚いたけれど、急に名前を呼ばれた事に思わず顔を上げれば、何故か呼んだ豪炎寺さん自身もぽかんとしていた。それからすぐに申し訳なさそうに小さく唸りながら片手で顔を覆った。
「……すまん。虎丸や鬼道がよくお前の名前を呼んでいたからうつった」
「あぁ……。いえ、別に呼ばれ方に特に拘りはないですし、大丈夫ですよ?」
アジア予選の時は私が距離を置いてへんな意地を張っていた自覚はあれど、今は特にどう呼ばれても気にしない。
“不動”も“明奈”もどっちも好きな名前だし。
「だったらもういっそ、名前で呼んでいいか?」
「はい、大丈夫ですよ」
わざわざ確認を取るなんて律儀だなと思いながら私は二つ返事で頷いた。それからふと、思い浮かんだ事を口にする。
「………私も名前で呼んだ方がいいですか?」
「明奈も?」
「……修也さん……とか?」
「……………………いや」
たっぷりの沈黙の後に私の提案した呼び方に豪炎寺さんは首を横に振った。
「鬼道に怒られるから、豪炎寺のままで大丈夫だ」
「?私が豪炎寺さんを名前を呼んで、なんで兄ちゃんが怒るんですか……?」
好きな方でいい、とかでもなく完全なる拒否。
しかも理由がよく分からずに首を傾げるも、曖昧な笑顔を返されるだけだった。なんでだ。
「夕香ちゃんに似合いそうな服は見つかりましたか?おにーさん」
話してくれないことを追究しても仕方ないか。と今度こそ気を取り直して私達は夕香ちゃんの服を選んだ。
それから改めて夕香ちゃんの実兄へと尋ねれば、豪炎寺さんはフッと自信ありげな笑みを浮かべて持っている服を見せた。
「夕香、くまのぬいぐるみが好きだから喜ぶと思うんだ」
「あ、いいですね。かわいい」
豪炎寺さんが持つのはくまのイラストがプリントされたシャツだった。くまが好きなら喜びそうだなと私は素直に頷く。ちゃんと女の子が好きそうなピンク色だし。
「くまじゃないけれど、夕香ちゃん気に入りますかね?」
「うさぎか。センスいいな」
私も夕香ちゃんのために選んだ服を見せれば、豪炎寺さんに褒められた。その服はうさぎのキャラクターとにんじんがプリントされた水色のパーカーだった。
よしよし、実兄の太鼓判を押されたしきっと夕香ちゃんも気に入るだろう。
それから服も決まったことだしと、二人の所へ合流をすれば、
「くまさんは好きだけど、服にかかれてるのは違うのー!」
「………お姉ちゃん。夕香ちゃんはもう小学生の女の子なんだよ?」
「「…………」」
お互い妹達に散々な評価を貰ってしまった。
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