寂しがり少女
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「アキナ、こんな時間に病院来ても大丈夫なのか?」
「うん。むしろ、少しサッカーの事ちょっと忘れたかったし。デモーニオの事教えてくれたアルデナさんには感謝しかないな」
イナズマジャパンの宿舎を出て、私が訪れたのはセントラルエリアにある病院だった。
そこには先日私が行くように説得したデモーニオが入院をしていて、面会が大丈夫だと教えてくれたのはアルデナさんだった。
―『デモーニオ、治療も終わって今は面会も大丈夫だって。彼と友人である君にちゃんと教えたくて』
デモーニオがイタリア出身だからイタリア代表の友人と思った医者から連絡が入ったらしい。そしてアルデナさんはわざわざ私に電話でそのことを教えてくれた。
それから今日の練習が中止なのをいいことに病院へと向かえば、病院服ではあるものの元気そうな様子のデモーニオが迎え入れてくれた。
「治療は順調だ。アキナが病院を急かしてくれたおかげで後遺症も残らないって」
「そっか……よかった」
「まぁ、プログラムの副作用が治まった時にサッカーしたって言ったらめちゃくちゃ怒られたけどな。あれは驚いた」
「分かる。大人に怒鳴られるのビビるよね」
理由は違えど、私と同じような体験をしているデモーニオに私は思わず笑ってしまった。
何でもプログラムというものが未知なものなので、しばらくは検査のためまだ病院にはいるらしい。退院次第母国のイタリアに帰るとか。とりあえず帰る前に会いに来るようには伝えておいた。寂しいので。
「そういえばサッカー忘れなくちゃいけないって……今日のイタリア対イギリスの試合が関係あるのか?」
しばらく話していると、ふと思い出したかのようにデモーニオはその話を出した。
「まぁ、多少は。……デモーニオも試合見たの?」
「ああ……ミスターKの指導の腕はやはり凄いな」
試合の時の事を思い出しているのか、遠くを見て笑みを浮かべるデモーニオ。……その様子はどこか切なそうだったものの彼に対する憎しみはちっとも感じない。
それが面白くなくて私は備え付けの椅子から立ち上がって、デモーニオが座るベットの上へと腰掛けた。
「アキナ?」
「関係ない。どうでもいいよ影山の事なんて。向こうだって私の事とっくに覚えていないだろうし」
影山によって歪まされた境遇は同じはずなのに、私はデモーニオのように素直に影山へ賞賛はできずについぶっきらぼうな口調になる。
「…………それはどうだろうな」
「は?」
それに対して、デモーニオは目を伏せたかと思えば私の顔を見てそんなことを言い出した。
「……あの時……俺はよく分からない連中に連れてかれそうになったお前を助けただろ」
話に出たのは私がデモーニオを信じられたきっかけの事で。
「その時の俺の行動はミスターKには筒抜けだった。お前の姿を見た瞬間、咄嗟に体が動いた事も知られていた。だけど……」
―ミスターKは何も言わなかったんだ。
「…………は?」
デモーニオのその言葉に私は呆然としてしまった。
彼の行動が影山に知られている事は理解できる。
その中で助けてくれたデモーニオの優しさも。
それを知っていながら何もしなかった影山の存在だけが、私の中で唯一不可解だった。
「わ、私なんか眼中になかったんだろ。……影山の目的は私の兄の鬼道有人なんだから…………」
私はジャージのポケットに手を突っ込みながら吐き捨てる。
「本当にどうでもいいのなら、助けようとしたオレに静止をかけるはずだ。その方がイタリア代表選考試合も人数が減って、ミスターKにも都合がいいだろうしな」
その言葉は自分を無理矢理納得させるものだと、デモーニオにはお見通しのようで。
確かに。それにデモーニオが影山の静止を振り切ろうものなら罰だって受けるはず。……だけど、それもないということは……
「……ミスターKがアキナを守ることを由とした。それは紛れもない事実なんだ」
真っ直ぐとした―私が取り戻したくて頑張った―瞳が私を射抜く。
「…………意味、分かんない……」
影山が、私に対してそんな判断をした……?
少なくともチームKとの試合では一切感じなかったそんな話が信じられなくてポケットに入れた手に力が入る。
「試合中だって、一度も私を見なかったのに……無視したくせに…………」
無視したくせに、なんて……なんで今更傷ついているんだろう。
「…………アキナがイタリアエリアに来たのは、ミスターKも予想外だったと思う」
「……予想外…………?」
混乱して回らない頭に追い打ちをかけるかのようにデモーニオは話を始めた。
「キドウやサクマは俺がイタリアエリアに来るように誘い込んだ。そして彼らの態度に疑問を抱いたエンドウも来るとミスターKは読んでいた。ただ……自力でイタリアエリアに辿り着いたアキナは別だ」
デモーニオはそこで一度小さく息を吐いて、再び口を開いた。
「俺は、アキナがイナズマジャパンにいる事を……あの路地裏で姿を見るまで知らなかった。
知らなかったからこそ、俺が反射的にアキナを助ける。そうミスターKは読んでいたんじゃないのか?」
「……………………」
「確かにミスターKのキドウへの執着心は本物だ。……だけど、きっとアキナのことだって、」
「そんな訳ないだろ……!!」
堪らず、私はベットから立ち上がって声を上げてしまう。
分からない。その気持ちが弾けてしまった。
デモーニオが話すのはあくまで彼の主観による話だ。
だってそうだろう。一度捨てた“二流品”のために影山が何かするなんて考えられない。
あいつは私とはもう何もない、ただの他人なんだから……!!
「ッ……ごめん、いきなり怒鳴って」
「アキナ……いや、俺の方こそごめん」
高ぶる感情を何とか押さえつけて私は大きく息を吐く。
病院で怒鳴るなんて……私は口元を抑えながら俯いてデモーニオに謝れば、彼もぽつりと謝罪を零した。
顔を上げれば、彼の表情がどこか苦し気な事に気づく。
「こんな事言って、お前を困らせるって事は分かってた……だけど…………関係ない、なんてそんな寂しそうに呟くアキナをこのままにしたくなかったんだ」
言うか言わないか、ギリギリまで迷っていたんだろう。そして自分が寂しそうな顔をしていた、なんて初めて知った。
笑えていると思ってたのに……ああ、だから春奈も驚いていたんだ。
「デモーニオは悪くないよ。……まぁ、影山のことは…………また一人で考えてみる。帰り道の時とかにさ」
少なくとも私のために思って言ってくれたデモーニオの気持ちを無下にはできない。
とりあえず影山については後で考えようと思って冗談めいた口調で話しながら、そのまま備え付けの椅子に戻ろうとしたけれど。
「………………は?」
「え?」
ワントーン低い、チームKのキャプテンだった時のデモーニオの声が聞こえて思わず動きを止めた。
「……お前もしかして、病院に一人で来たのか?」
「そう、だけど……?」
「…………アキナ」
「な、なに…………」
デモーニオの質問にこくりと首を縦に振れば、彼は手で目元を覆ってしまった。
それから空いている方の手で手招きをされる。よく分からないけれど、従った方がいいと感じた私は椅子に座らずにデモーニオのすぐ近くに行って頭を近づける。
その結果。
シュンッ!!
「だぁっ!!?」
素早い手刀が私の頭に振り落とされた。予想外の痛みに私はその場にうずくまった。
「な、にすんだよ……!!」
「一人でここに来たお前が悪い」
痛みに呻いた後、すぐに立ち上がって怒鳴りつけるもデモーニオは素知らぬ態度だ。何ならちょっと怒っていて睨みつけられた。
「……アキナ。お前、一人でいる時に連れ去られそうになってたよな?」
「え?うん……」
「一人で、いる時に、な」
「…………」
そう強調して付け足すデモーニオに彼の怒りの理由は分かったものの、こっちの言い分を一切聞かないのもどうかと思って私は口を開く。
「……ちゃんと大通り歩いたし、周りには気を遣ったから大丈夫だよ」
「アキナ」
「っそもそも、あいつらの狙いだって無差別かもしれないだろ……!うちのマネージャーには一人にならないように伝えたから大丈夫だとは思うけれど」
「その注意を自分にも向けろよ……!!」
「っだ、だって……!」
デモーニオの意見も分かる。
だけど、私はマネージャー達と比べればそんな立場ではなくて、少し迷ったけれど、結局彼に打ち明けた。
「……デモーニオには言ってなかったけど……いや、いつか話すつもりではあったけど…………その、この大会の予選で私はチームメイトにいっぱい迷惑をかけたから。……だからこんなところでも迷惑はかけれなくて」
決して不信という訳ではない。チームメイトとの距離だって縮まっているし、先日との試合で兄ともより仲良くなれた自覚もある。
けれど、サッカーに関係すること以外に関しての話になると……どうしても尻込みしてしまう。
「迷惑って……そんなこと言ってる場合かよ……いやうん、そうだな…………アキナはそういう奴だな。自分に厳しく人に甘い…………変わってなくて安心したよ」
そんな私を呆れたように見ていたデモーニオだったけれど、大きなため息をついてから何か考え込むようにぶつぶつと呟いていた。
「……幻滅した?」
「いいや。……ただアキナに必要なもの考えていた」
少し不安になって恐る恐る尋ねるも、デモーニオはすぐに首を横に振って、笑いかけてくれながらそんなこと言い出す。
「私に必要なもの?……あっ、もしかしてスタンガンとか、警棒とかの防犯グッズとか」
「Principe 」
……………………
「…………はぁ?」
どうしよう、デモーニオがおかしくなった。
「そんな露骨に嫌そうな顔するなよ…………。わりと言い得て妙だと思うけどな」
私の表情にデモーニオは肩をすくめるも、さっきとは打って変わって楽しそうに笑って腕を伸ばした。手刀の時とは違って今度は優しく頭を撫でる。
「アキナを守ってくれて、アキナだって素直に甘えられるような王子様」
「私を守る……?」
デモーニオはそんな事を言いながら微笑むけれど、私はいまいち乗り切れない。だって……
「……なんかデモーニオの言ってる王子、王子様っていうより僕 って感じがする」
結局王子様(仮)の善意を体よく使っているだけなのでは?と彼の語る王子様像に思わず呟けば、デモーニオは目をパチリと瞬かせた後に苦笑した。
「…………アキナはまず恋が先だな」
「恋って……なんでおとぎ話からそんな話になるの…………」
「そこはほら……イタリアは愛の国だし」
「えぇ?」
『愛の国』なんて、確かにそう言われてるらしいけれど、デモーニオと遊んだ過去でそんな事思ったことなかったので、急にそんなことを笑顔で言い出すデモーニオがただただ不思議で首を傾げる。
「アキナも誰かを好きになったこと、あるだろ?」
「…………恋、ねぇ」
久々に再会した友達と恋バナをするなんて思ってもみなかった私は返答にどうしようか困っていると、
「失礼するよ、デモーニオ」
「わぁっ!?」
「フィディオ」
突然の第三者の声に思わず声を上げる私と正反対に、デモーニオは平然とその相手の名前を呼んだ。
「やあ、声だけならさっきぶりだね、フドウ」
「あ、アルデナさん……?」
そこにいたのは、昼過ぎに電話をしたアルデナさんで。彼は病室に入りながら笑顔で手を振った。
「君の事だから、教えた日にすぐ病院に行くと思ったんだ。会えてよかったよ」
「はぁ……?」
そしてすぐ私の隣に来てにこりと微笑むアルデナさん。
前に会った時はミスターKとの問題により硬い表情ばかり浮かべていたので、少しだけ新鮮に感じる。
「……アキナ。帰りはフィディオに送ってもらったらどうだ」
「えっ!?」
突然のデモーニオの提案に驚いたものの「面会時間そろそろ終わるし」と言われて初めて私が病院に来てからそれなりの時間が経っていることに気付いた。
アルデナさんもデモーニオの面会に来たんじゃないか?と思って帰り支度をしながら彼を見ればデモーニオと話していた。
「ありがとう、デモーニオ」
「……あんまり、アキナの負担になるような事は言わないでくれよ」
「ああ、もちろん!」
話す内容を聞くのは失礼なので軽く見るだけに留めたけれど、どこか真剣な表情でやり取りをしている2人だったけれど、最後には互いに笑顔を浮かべて笑っていた。
そんな親し気な様子に過去の確執は一切感じなくて、それが嬉しくてつい頬が緩んだ。
「うん。むしろ、少しサッカーの事ちょっと忘れたかったし。デモーニオの事教えてくれたアルデナさんには感謝しかないな」
イナズマジャパンの宿舎を出て、私が訪れたのはセントラルエリアにある病院だった。
そこには先日私が行くように説得したデモーニオが入院をしていて、面会が大丈夫だと教えてくれたのはアルデナさんだった。
―『デモーニオ、治療も終わって今は面会も大丈夫だって。彼と友人である君にちゃんと教えたくて』
デモーニオがイタリア出身だからイタリア代表の友人と思った医者から連絡が入ったらしい。そしてアルデナさんはわざわざ私に電話でそのことを教えてくれた。
それから今日の練習が中止なのをいいことに病院へと向かえば、病院服ではあるものの元気そうな様子のデモーニオが迎え入れてくれた。
「治療は順調だ。アキナが病院を急かしてくれたおかげで後遺症も残らないって」
「そっか……よかった」
「まぁ、プログラムの副作用が治まった時にサッカーしたって言ったらめちゃくちゃ怒られたけどな。あれは驚いた」
「分かる。大人に怒鳴られるのビビるよね」
理由は違えど、私と同じような体験をしているデモーニオに私は思わず笑ってしまった。
何でもプログラムというものが未知なものなので、しばらくは検査のためまだ病院にはいるらしい。退院次第母国のイタリアに帰るとか。とりあえず帰る前に会いに来るようには伝えておいた。寂しいので。
「そういえばサッカー忘れなくちゃいけないって……今日のイタリア対イギリスの試合が関係あるのか?」
しばらく話していると、ふと思い出したかのようにデモーニオはその話を出した。
「まぁ、多少は。……デモーニオも試合見たの?」
「ああ……ミスターKの指導の腕はやはり凄いな」
試合の時の事を思い出しているのか、遠くを見て笑みを浮かべるデモーニオ。……その様子はどこか切なそうだったものの彼に対する憎しみはちっとも感じない。
それが面白くなくて私は備え付けの椅子から立ち上がって、デモーニオが座るベットの上へと腰掛けた。
「アキナ?」
「関係ない。どうでもいいよ影山の事なんて。向こうだって私の事とっくに覚えていないだろうし」
影山によって歪まされた境遇は同じはずなのに、私はデモーニオのように素直に影山へ賞賛はできずについぶっきらぼうな口調になる。
「…………それはどうだろうな」
「は?」
それに対して、デモーニオは目を伏せたかと思えば私の顔を見てそんなことを言い出した。
「……あの時……俺はよく分からない連中に連れてかれそうになったお前を助けただろ」
話に出たのは私がデモーニオを信じられたきっかけの事で。
「その時の俺の行動はミスターKには筒抜けだった。お前の姿を見た瞬間、咄嗟に体が動いた事も知られていた。だけど……」
―ミスターKは何も言わなかったんだ。
「…………は?」
デモーニオのその言葉に私は呆然としてしまった。
彼の行動が影山に知られている事は理解できる。
その中で助けてくれたデモーニオの優しさも。
それを知っていながら何もしなかった影山の存在だけが、私の中で唯一不可解だった。
「わ、私なんか眼中になかったんだろ。……影山の目的は私の兄の鬼道有人なんだから…………」
私はジャージのポケットに手を突っ込みながら吐き捨てる。
「本当にどうでもいいのなら、助けようとしたオレに静止をかけるはずだ。その方がイタリア代表選考試合も人数が減って、ミスターKにも都合がいいだろうしな」
その言葉は自分を無理矢理納得させるものだと、デモーニオにはお見通しのようで。
確かに。それにデモーニオが影山の静止を振り切ろうものなら罰だって受けるはず。……だけど、それもないということは……
「……ミスターKがアキナを守ることを由とした。それは紛れもない事実なんだ」
真っ直ぐとした―私が取り戻したくて頑張った―瞳が私を射抜く。
「…………意味、分かんない……」
影山が、私に対してそんな判断をした……?
少なくともチームKとの試合では一切感じなかったそんな話が信じられなくてポケットに入れた手に力が入る。
「試合中だって、一度も私を見なかったのに……無視したくせに…………」
無視したくせに、なんて……なんで今更傷ついているんだろう。
「…………アキナがイタリアエリアに来たのは、ミスターKも予想外だったと思う」
「……予想外…………?」
混乱して回らない頭に追い打ちをかけるかのようにデモーニオは話を始めた。
「キドウやサクマは俺がイタリアエリアに来るように誘い込んだ。そして彼らの態度に疑問を抱いたエンドウも来るとミスターKは読んでいた。ただ……自力でイタリアエリアに辿り着いたアキナは別だ」
デモーニオはそこで一度小さく息を吐いて、再び口を開いた。
「俺は、アキナがイナズマジャパンにいる事を……あの路地裏で姿を見るまで知らなかった。
知らなかったからこそ、俺が反射的にアキナを助ける。そうミスターKは読んでいたんじゃないのか?」
「……………………」
「確かにミスターKのキドウへの執着心は本物だ。……だけど、きっとアキナのことだって、」
「そんな訳ないだろ……!!」
堪らず、私はベットから立ち上がって声を上げてしまう。
分からない。その気持ちが弾けてしまった。
デモーニオが話すのはあくまで彼の主観による話だ。
だってそうだろう。一度捨てた“二流品”のために影山が何かするなんて考えられない。
あいつは私とはもう何もない、ただの他人なんだから……!!
「ッ……ごめん、いきなり怒鳴って」
「アキナ……いや、俺の方こそごめん」
高ぶる感情を何とか押さえつけて私は大きく息を吐く。
病院で怒鳴るなんて……私は口元を抑えながら俯いてデモーニオに謝れば、彼もぽつりと謝罪を零した。
顔を上げれば、彼の表情がどこか苦し気な事に気づく。
「こんな事言って、お前を困らせるって事は分かってた……だけど…………関係ない、なんてそんな寂しそうに呟くアキナをこのままにしたくなかったんだ」
言うか言わないか、ギリギリまで迷っていたんだろう。そして自分が寂しそうな顔をしていた、なんて初めて知った。
笑えていると思ってたのに……ああ、だから春奈も驚いていたんだ。
「デモーニオは悪くないよ。……まぁ、影山のことは…………また一人で考えてみる。帰り道の時とかにさ」
少なくとも私のために思って言ってくれたデモーニオの気持ちを無下にはできない。
とりあえず影山については後で考えようと思って冗談めいた口調で話しながら、そのまま備え付けの椅子に戻ろうとしたけれど。
「………………は?」
「え?」
ワントーン低い、チームKのキャプテンだった時のデモーニオの声が聞こえて思わず動きを止めた。
「……お前もしかして、病院に一人で来たのか?」
「そう、だけど……?」
「…………アキナ」
「な、なに…………」
デモーニオの質問にこくりと首を縦に振れば、彼は手で目元を覆ってしまった。
それから空いている方の手で手招きをされる。よく分からないけれど、従った方がいいと感じた私は椅子に座らずにデモーニオのすぐ近くに行って頭を近づける。
その結果。
シュンッ!!
「だぁっ!!?」
素早い手刀が私の頭に振り落とされた。予想外の痛みに私はその場にうずくまった。
「な、にすんだよ……!!」
「一人でここに来たお前が悪い」
痛みに呻いた後、すぐに立ち上がって怒鳴りつけるもデモーニオは素知らぬ態度だ。何ならちょっと怒っていて睨みつけられた。
「……アキナ。お前、一人でいる時に連れ去られそうになってたよな?」
「え?うん……」
「一人で、いる時に、な」
「…………」
そう強調して付け足すデモーニオに彼の怒りの理由は分かったものの、こっちの言い分を一切聞かないのもどうかと思って私は口を開く。
「……ちゃんと大通り歩いたし、周りには気を遣ったから大丈夫だよ」
「アキナ」
「っそもそも、あいつらの狙いだって無差別かもしれないだろ……!うちのマネージャーには一人にならないように伝えたから大丈夫だとは思うけれど」
「その注意を自分にも向けろよ……!!」
「っだ、だって……!」
デモーニオの意見も分かる。
だけど、私はマネージャー達と比べればそんな立場ではなくて、少し迷ったけれど、結局彼に打ち明けた。
「……デモーニオには言ってなかったけど……いや、いつか話すつもりではあったけど…………その、この大会の予選で私はチームメイトにいっぱい迷惑をかけたから。……だからこんなところでも迷惑はかけれなくて」
決して不信という訳ではない。チームメイトとの距離だって縮まっているし、先日との試合で兄ともより仲良くなれた自覚もある。
けれど、サッカーに関係すること以外に関しての話になると……どうしても尻込みしてしまう。
「迷惑って……そんなこと言ってる場合かよ……いやうん、そうだな…………アキナはそういう奴だな。自分に厳しく人に甘い…………変わってなくて安心したよ」
そんな私を呆れたように見ていたデモーニオだったけれど、大きなため息をついてから何か考え込むようにぶつぶつと呟いていた。
「……幻滅した?」
「いいや。……ただアキナに必要なもの考えていた」
少し不安になって恐る恐る尋ねるも、デモーニオはすぐに首を横に振って、笑いかけてくれながらそんなこと言い出す。
「私に必要なもの?……あっ、もしかしてスタンガンとか、警棒とかの防犯グッズとか」
「
……………………
「…………はぁ?」
どうしよう、デモーニオがおかしくなった。
「そんな露骨に嫌そうな顔するなよ…………。わりと言い得て妙だと思うけどな」
私の表情にデモーニオは肩をすくめるも、さっきとは打って変わって楽しそうに笑って腕を伸ばした。手刀の時とは違って今度は優しく頭を撫でる。
「アキナを守ってくれて、アキナだって素直に甘えられるような王子様」
「私を守る……?」
デモーニオはそんな事を言いながら微笑むけれど、私はいまいち乗り切れない。だって……
「……なんかデモーニオの言ってる王子、王子様っていうより
結局王子様(仮)の善意を体よく使っているだけなのでは?と彼の語る王子様像に思わず呟けば、デモーニオは目をパチリと瞬かせた後に苦笑した。
「…………アキナはまず恋が先だな」
「恋って……なんでおとぎ話からそんな話になるの…………」
「そこはほら……イタリアは愛の国だし」
「えぇ?」
『愛の国』なんて、確かにそう言われてるらしいけれど、デモーニオと遊んだ過去でそんな事思ったことなかったので、急にそんなことを笑顔で言い出すデモーニオがただただ不思議で首を傾げる。
「アキナも誰かを好きになったこと、あるだろ?」
「…………恋、ねぇ」
久々に再会した友達と恋バナをするなんて思ってもみなかった私は返答にどうしようか困っていると、
「失礼するよ、デモーニオ」
「わぁっ!?」
「フィディオ」
突然の第三者の声に思わず声を上げる私と正反対に、デモーニオは平然とその相手の名前を呼んだ。
「やあ、声だけならさっきぶりだね、フドウ」
「あ、アルデナさん……?」
そこにいたのは、昼過ぎに電話をしたアルデナさんで。彼は病室に入りながら笑顔で手を振った。
「君の事だから、教えた日にすぐ病院に行くと思ったんだ。会えてよかったよ」
「はぁ……?」
そしてすぐ私の隣に来てにこりと微笑むアルデナさん。
前に会った時はミスターKとの問題により硬い表情ばかり浮かべていたので、少しだけ新鮮に感じる。
「……アキナ。帰りはフィディオに送ってもらったらどうだ」
「えっ!?」
突然のデモーニオの提案に驚いたものの「面会時間そろそろ終わるし」と言われて初めて私が病院に来てからそれなりの時間が経っていることに気付いた。
アルデナさんもデモーニオの面会に来たんじゃないか?と思って帰り支度をしながら彼を見ればデモーニオと話していた。
「ありがとう、デモーニオ」
「……あんまり、アキナの負担になるような事は言わないでくれよ」
「ああ、もちろん!」
話す内容を聞くのは失礼なので軽く見るだけに留めたけれど、どこか真剣な表情でやり取りをしている2人だったけれど、最後には互いに笑顔を浮かべて笑っていた。
そんな親し気な様子に過去の確執は一切感じなくて、それが嬉しくてつい頬が緩んだ。