寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
笛が鳴った時にフィールドには立っている人間は1人もいなくて、唯一無事なのは負傷してベンチにいた鬼道有人だけ。
40年間無敗の帝国学園が惨敗した瞬間だった。
「あっけないの」
そんな試合を観客席から見ていた私は、帽子を被り直しながら、率直な感想を呟き敗者に成り下がった鬼道さんへ背を向けた。
せっかくお父さんのお気に入りだったのに、くだらない正義感で離れるからこうなるんだ。
私が帝国学園へ入学をしたのはこのZ計画ともう一つ水面下で動いているものを円滑にこなすためなのだろうと最近になって分かった。欲しかったデータは手に入ったし、お父さんも手放したあの学園に用はないから少し前に転校手続きをしたのだけど。
「初試合、どうでしたか?」
「とても動きやすかったよ。明奈ちゃん」
「それはよかった」
ニコリと優雅に微笑む金髪の美青年に私も下手ながらに笑みを作って返してみる。
「君のデータの取り方は随分アナログだね」
「……癖なもので」
正直、愛想振りまくのも慣れてないので他の選手みたく、さっさと控室を出ていってほしい。
なんて思いながら試合時の選手についてノートに書きこみつつ、帝国学園を負かした世宇子中のキャプテンであるアフロディさんの相手をする。……パソコン等を碌に使いこなせないから、なんてわざわざ言う必要はないのでそのことは伏せておく。
私は“神のアクア”使用前後での能力の上昇値を見比べ、お父さんが予測しているよりも高い数値が出ている事に安堵する。
神のアクアとは人の身体的能力を強化する飲み物。……スポーツをするものとして禁忌と言われるドーピングアイテムだった。欠点としては定期的に飲まなくては効果がなくなることぐらいだろう。
Z計画とは神のアクアで強化された世宇子中でFFで完璧なる勝利を治めるというお父さんの考えたものだった。
“不当に”逮捕されたお父さんも帰ってきたし、FF本戦開始までに調整が間に合ってよかった。世宇子中の選手達の元の能力も低くなかったことも幸いした結果だろう。
「ハーフタイムに飲めば……いや、個人差もあるし定期的にボールを外に出すべきか」
神のアクアの持続時間の短さの扱いをデータを見ながら考えていたけれど、どうしても視線を感じて小さくため息をつきながら視線の正体であるアフロディさんを見る。
「……なんですか」
「ん?明奈ちゃん、珍しいもの身に付けているなって」
「は?……ああ」
アフロディさんの視線は私の胸元にあるペンダントに向けられていた。紫色の石のペンダント。
……服の下に隠していたのにいつの間にか出てしまったらしい。
「……私も女の子なのでオシャレでもしようかと」
「女の子のオシャレにしてはずいぶん素朴なペンダントだね」
見られたことに舌打ちしたい気持ちを押さえつけて笑みを作れば、軽い調子でそう指摘された。……女子のオシャレなんて知らないけれど、そういうものらしい。
「何を付けようが私の勝手でしょう」
止まらない彼の追究に、結局私は愛想笑いを止めてペンダントを服の中に隠しながらノートを持って立ち上がる。
「初戦で勝ったぐらいで浮かれないでください。もっと強くなってもらわないと影山総帥が力を与えた意味がなくなるので」
控え室から出る際にアフロディさんに向けて告げて彼の返事も待たずに廊下へと出た。
これでいい。私はお父さんの命令通りの強い選手を作る存在なんだ。その選手とわざわざ必要以上に馴れあう義理はない。
私は小さく息を吐いて、それからズボンのポケットに入れた携帯電話を取り出した。……パソコンと同じく使いこなしているわけではないけれど、最低限写真を見るぐらいはできる。
そこには数人の顔写真と名前が記載された紙が映っていた。これから私が作るチームの一員になる……予定の人達だ。
一流の選手を集めるように命じられている、万が一世宇子中が負けた時の次の手段。
私はそのチームのキャプテンに抜擢され、お父さんに指定された選手以外の人選は私に任されていた。
その計画は公式大会とは関係ないから、私がキャプテンとして選ばれただけの話かもしれない。そうだとしても、私にとって初めてのサッカーチームとしてお父さんの期待に応えられる強いチームを作らなければいけない。
誰にも負けない、勝つためならどんな手段を選ばない、そんな人間を集めたチーム。
「……舐められないようにしないと」
そんなチームだとしたら、話し方とか見た目とかもっと厳つくするべきかな。