寂しがり少女
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幼い頃は未知の世界だった中学生生活、実際に迎えてみれば何の変哲もないただ勉学を他人と一緒にやるという小学校と変わらないものだった。
お父さんから命じられた事を淡々とこなしていく生活も変わらない。強いて言うなら帝国学園サッカー部の活動をより詳しく見る機会が増えたぐらいだ。より近くで兄のサッカーを見れる。少し前の私なら喜んでいただろう。
だけど、兄に切り捨てられ忘れられた日から彼を意識しないようにしていた私は、いつしか彼のデータも一選手と変わらない感情で見るようになっていた。
それは帝国学園が雷門中学校と練習試合をした時も、その雷門と再びFFの地区予選決勝で戦う時になっても同じだった。
試合前に鉄骨が落ちてくる“不運な事故”が起きたくせに、怪我人はいないからかグラウンド整備された後に試合は再開されるという実況を聞きながら私は自室のテレビの生中継画面を見ていた。
試合が始まり、雷門はGKの調子が悪いのか動きが悪く得点はないものの、帝国リードで進んでいく中で鬼道さんは雷門のエースストライカーー確か名前は豪炎寺修也―とのボール押し合いに負けて負傷したようで、彼の治療のためかボールは一度外に出された。
フィールドの外で足の具合を確かめる鬼道さんの元へ救急箱を片手に駆け寄ったのは帝国の選手ではなく、何故か雷門のマネージャーで……
「春奈……?」
カメラ越しではあるけれど、見間違えるはずがない。
私の双子の妹であり今は音無家にいる音無春奈がそこにいた。……雷門サッカー部のマネージャーだったのか。選手はともかくマネージャーは見てなかったな。
鬼道さんに駆け寄る姿を見て心配になった。彼女は私と同じように鬼道家の事情を分かってないはずだ。冷たく突き放されて傷つかないといいけれど…………
「…………え」
だけど、予想に反して鬼道さんは春奈の治療を受けていて、その表情は戸惑いこそあれど私の時のような冷徹さはなくなっていて…………
「な、んで……」
私の時はあんなに素っ気なかったのに…………
それからも二人はどこか会話を交わしている様子まで見受けられて、だけどサッカー中継じゃフィールドの会話の内容なんて当然分からず。
続けて再開された試合の内容はまるで頭に入らず、気づけば私は部屋を飛び出し試合会場である帝国学園へ走っていた。
帝国学園にたどり着き、観客席からフィールドを見れば2-1で雷門サッカー部が勝っていて選手それぞれ整列しているところだった。
40年間無敗だった帝国学園が負けた瞬間だというのに、帝国サッカー部の面々の顔は悔しそうにしながらもどこか清々しい顔をして。そのことが癪に障りつい舌打ちを溢しながら私は選手控室を探すために観客席を後にした。
兄に会いたい理由はただ一つ、私と春奈で扱いが違う!と一言文句を言ってやりたかった。
鬼道家についてとか、接触禁止についてとか忘れた訳では決してない。だけど、あの時私は本気で傷ついた。文句一言言うぐらい許してほしい。
……そして早く話をして、安心したい。この冷たくなった手をどうにかしたい。
少し迷った後に歩いてくる帝国サッカー部の面々が見えたので、彼らが歩いてきた方向に向かってみれば赤色のマントが見えた。
兄ちゃん!と声を掛けようとして、
「ありがとう、お兄ちゃん!」
できなかった。
嬉しそうに抱きつく春奈とそんな春奈を受け止めて大切そうに背中に腕を回す兄ちゃん。
そんな光景を見て私が出来た事は漏れそうになる声を口ごと手で押さえこんで彼らの死角の通路へ隠れることぐらい。
あれ……?あれ??なんで私隠れてるんだろう。だって、施設にいた時もよくあった光景じゃん。春奈が兄ちゃんに抱っこをせがんで、それを仕方ないなって兄ちゃんが抱っこして私はそんな光景を見守って笑いあう。よくしていたことだ。
兄ちゃんが春奈に優しいなんて、昔からの事なんだから、不自然な事なんて何も…………
何とか平常心に戻ろうと色んな事を考えるけれど心臓の動きがいまだ早いままで、背中に伝うのは冷たい汗だった。
意味が分からない。
なんで、私には冷たかったのに、春奈には優しいの?抱きしめるの?
春奈だって、なんで兄ちゃんに突き放されてないの?兄妹として笑いあえているの?
まるで…………
まるで私なんか最初からいなかったみたいだ。
「………………ぁ」
上手くまとまらなかった思考が、ようやく噛み合った。
「そっか…………」
それから私は学園の出口を目指して歩き出した。その時にはあれ程うるさかった心臓の鼓動も落ち着き、手の体温も通常時に戻っていた。
要塞のような学園から出れば空は快晴だった。
「ははっ」
私の心情とはあまりにも真逆な天気に思わず笑ってしまう。
……いや、あの帝国学園に勝った雷門サッカー部の皆様や、仲直りができた鬼道さんと音無さんからすればぴったりの天気なのかな。ああ、天候すら彼らの味方なんだ。
やっぱり、
「私はいらないんだぁ」
兄ちゃんは私と春奈を切り離したんじゃない。私だけだったんだ。
私だけが不必要だったんだ。
春奈だって、兄ちゃんとあんなに幸せそうに笑いあえている。そこに私が入る隙なんてない。
そりゃあ、私は春奈に比べたら可愛げない自覚はあるし、兄ちゃんに比べたら頼りないから仕方ない。あんな綺麗な兄妹としての姿を見せられたら文句なんて引っ込んでしまう。
不動家の人と同じようなもんだ。これは、仕方ないことなんだ。
「あはっ」
晴れているはずなのに頬は何故か濡れていた。
よくわからないけれど、通り雨でも降ったんだろう。
家に帰ったら『Z計画』の最終調整、私もちゃんと手伝おう。それに“あれ”の力だって身をもって体験しないといけない。
不思議だな、未知の存在だから触れるのが怖くてお父さんに強要されないことをいい事に遠ざけていたものだったのに今は欲しくて仕方ない。
むしろ、どうして強くなれる手段を自ら遠ざけていたんだと不思議に思う。
お父さんの役に立つのなら何だってできる。そのはずだ。
だって、私が強くなればなるほど、お父さんは私を一人にしないんだから!!
「私、頑張るからお父さんも早く帰ってきてね」
ああ、今日が快晴でよかった!
お父さんから命じられた事を淡々とこなしていく生活も変わらない。強いて言うなら帝国学園サッカー部の活動をより詳しく見る機会が増えたぐらいだ。より近くで兄のサッカーを見れる。少し前の私なら喜んでいただろう。
だけど、兄に切り捨てられ忘れられた日から彼を意識しないようにしていた私は、いつしか彼のデータも一選手と変わらない感情で見るようになっていた。
それは帝国学園が雷門中学校と練習試合をした時も、その雷門と再びFFの地区予選決勝で戦う時になっても同じだった。
試合前に鉄骨が落ちてくる“不運な事故”が起きたくせに、怪我人はいないからかグラウンド整備された後に試合は再開されるという実況を聞きながら私は自室のテレビの生中継画面を見ていた。
試合が始まり、雷門はGKの調子が悪いのか動きが悪く得点はないものの、帝国リードで進んでいく中で鬼道さんは雷門のエースストライカーー確か名前は豪炎寺修也―とのボール押し合いに負けて負傷したようで、彼の治療のためかボールは一度外に出された。
フィールドの外で足の具合を確かめる鬼道さんの元へ救急箱を片手に駆け寄ったのは帝国の選手ではなく、何故か雷門のマネージャーで……
「春奈……?」
カメラ越しではあるけれど、見間違えるはずがない。
私の双子の妹であり今は音無家にいる音無春奈がそこにいた。……雷門サッカー部のマネージャーだったのか。選手はともかくマネージャーは見てなかったな。
鬼道さんに駆け寄る姿を見て心配になった。彼女は私と同じように鬼道家の事情を分かってないはずだ。冷たく突き放されて傷つかないといいけれど…………
「…………え」
だけど、予想に反して鬼道さんは春奈の治療を受けていて、その表情は戸惑いこそあれど私の時のような冷徹さはなくなっていて…………
「な、んで……」
私の時はあんなに素っ気なかったのに…………
それからも二人はどこか会話を交わしている様子まで見受けられて、だけどサッカー中継じゃフィールドの会話の内容なんて当然分からず。
続けて再開された試合の内容はまるで頭に入らず、気づけば私は部屋を飛び出し試合会場である帝国学園へ走っていた。
帝国学園にたどり着き、観客席からフィールドを見れば2-1で雷門サッカー部が勝っていて選手それぞれ整列しているところだった。
40年間無敗だった帝国学園が負けた瞬間だというのに、帝国サッカー部の面々の顔は悔しそうにしながらもどこか清々しい顔をして。そのことが癪に障りつい舌打ちを溢しながら私は選手控室を探すために観客席を後にした。
兄に会いたい理由はただ一つ、私と春奈で扱いが違う!と一言文句を言ってやりたかった。
鬼道家についてとか、接触禁止についてとか忘れた訳では決してない。だけど、あの時私は本気で傷ついた。文句一言言うぐらい許してほしい。
……そして早く話をして、安心したい。この冷たくなった手をどうにかしたい。
少し迷った後に歩いてくる帝国サッカー部の面々が見えたので、彼らが歩いてきた方向に向かってみれば赤色のマントが見えた。
兄ちゃん!と声を掛けようとして、
「ありがとう、お兄ちゃん!」
できなかった。
嬉しそうに抱きつく春奈とそんな春奈を受け止めて大切そうに背中に腕を回す兄ちゃん。
そんな光景を見て私が出来た事は漏れそうになる声を口ごと手で押さえこんで彼らの死角の通路へ隠れることぐらい。
あれ……?あれ??なんで私隠れてるんだろう。だって、施設にいた時もよくあった光景じゃん。春奈が兄ちゃんに抱っこをせがんで、それを仕方ないなって兄ちゃんが抱っこして私はそんな光景を見守って笑いあう。よくしていたことだ。
兄ちゃんが春奈に優しいなんて、昔からの事なんだから、不自然な事なんて何も…………
何とか平常心に戻ろうと色んな事を考えるけれど心臓の動きがいまだ早いままで、背中に伝うのは冷たい汗だった。
意味が分からない。
なんで、私には冷たかったのに、春奈には優しいの?抱きしめるの?
春奈だって、なんで兄ちゃんに突き放されてないの?兄妹として笑いあえているの?
まるで…………
まるで私なんか最初からいなかったみたいだ。
「………………ぁ」
上手くまとまらなかった思考が、ようやく噛み合った。
「そっか…………」
それから私は学園の出口を目指して歩き出した。その時にはあれ程うるさかった心臓の鼓動も落ち着き、手の体温も通常時に戻っていた。
要塞のような学園から出れば空は快晴だった。
「ははっ」
私の心情とはあまりにも真逆な天気に思わず笑ってしまう。
……いや、あの帝国学園に勝った雷門サッカー部の皆様や、仲直りができた鬼道さんと音無さんからすればぴったりの天気なのかな。ああ、天候すら彼らの味方なんだ。
やっぱり、
「私はいらないんだぁ」
兄ちゃんは私と春奈を切り離したんじゃない。私だけだったんだ。
私だけが不必要だったんだ。
春奈だって、兄ちゃんとあんなに幸せそうに笑いあえている。そこに私が入る隙なんてない。
そりゃあ、私は春奈に比べたら可愛げない自覚はあるし、兄ちゃんに比べたら頼りないから仕方ない。あんな綺麗な兄妹としての姿を見せられたら文句なんて引っ込んでしまう。
不動家の人と同じようなもんだ。これは、仕方ないことなんだ。
「あはっ」
晴れているはずなのに頬は何故か濡れていた。
よくわからないけれど、通り雨でも降ったんだろう。
家に帰ったら『Z計画』の最終調整、私もちゃんと手伝おう。それに“あれ”の力だって身をもって体験しないといけない。
不思議だな、未知の存在だから触れるのが怖くてお父さんに強要されないことをいい事に遠ざけていたものだったのに今は欲しくて仕方ない。
むしろ、どうして強くなれる手段を自ら遠ざけていたんだと不思議に思う。
お父さんの役に立つのなら何だってできる。そのはずだ。
だって、私が強くなればなるほど、お父さんは私を一人にしないんだから!!
「私、頑張るからお父さんも早く帰ってきてね」
ああ、今日が快晴でよかった!