Short Novel
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Adiantum -アジアンスタム-
「家まで送って行くって! 具合悪いんでしょ!?」
『……大丈夫です、一人で帰れますから』
「いやいや、強がんなくてもいいよ。今、俺のほかにサークルのメンバーいないし、」
『強がりじゃなく、事実です。本当に大丈夫なので』
男女の会話が駅構内から近づいてくる。
大きな声ではなかったが、閑散とした駅前、しかもこちらは一人で待ち人中であったこともあり、会話は嫌でも耳に入った。オブラートに包んで言うならば、随分と一方的な好意の押し付けである。
「でも心配だからさあ」
『迷惑です』
「またまた。素直じゃないんだから。……そういう強気の態度、俺にだけしかとらないって知ってるぞ」
会話を聞く限り、男の方が先輩なのだろう。そしてこの会話だけで判断するのであれば、超ポジティブな先輩男子である。
しかし明らかに女性の方は嫌がっている。凛とした態度をとっているが、男の自信過剰な気遣いは方向転換することはなさそうだ。
声をかけようかと顔をあげて当事者たちを見ると、女性の方は見覚えがあった。一度しか会ったことはないが、おそらくそうだ。鈴井ナマエ。烏野高校の関係者―――どういう関係なのかまでは把握できていない。
なぜここに? という疑問はひとまず横にどけて、ツカツカと静かに二人に歩み寄る。
黒尾のことを覚えていると願いたいが、取りあえずはこちらの意図に気づいてくれることを願う。でなければ、黒尾がイタイ男になってしまう。
「こんなとこにいたの? 探したんだけど」
ナマエが年上なのか年下なのかも定かではない。こういう時の役回りは、彼氏といったところだろう。漫然と彼氏面をして自分よりも背の低い男を見下ろした。
『……あー、ごめんごめん。ちょっと、ね』
ナマエの方も急な黒尾の登場に一瞬驚きつつも、話を合わせる。相性は悪くないようだ。そして言い寄っていた先輩男には、もう愛想もなにもいらないと考えているらしい。言い終えた後、背筋の凍るような冷たい視線を男に向けた。
「な、なんだお前はっ」
一方の男は、そんなナマエの凍える視線をひらりと躱し、愛想もくそもない黒尾の冷めた顔を見上げていた。
男の身長は、180㎝前後だろうか。黒尾の身長は4月時点で187.7㎝で、正直大差はないが、それでも多少なりは男を見下ろすことができた。
180㎝にもなると、自分より背が高い存在というのは日本ではあまりいないだろから、威嚇にはなるのではないか、という推測だったが、効果はあったようだ。
「そっちこそ、どちら様っすか?」
「お、俺は、―――」
「ナマエ。どういう関係?」
嫌われてもいいようだったので、男の言葉を遮り、あえてナマエに説明を求めた。
『同じ大学の先輩。サークルが一緒。それだけ』
(おおっと、この人も先輩だったか。名前呼び捨て+敬語不使用のことは後で謝ろう)
「へえ。それで、ナマエに付きまとってんの? 嫌がってたのわかんなかった?」
「……付き合っているヤツがいるとは知らなかったんだ。だいたい、そいつが思わせぶりなことをするから悪いんだろ。もう俺に言いよって来るなよ」
こちらとしては、黒尾とナマエの関係性について特に言及していなかったのだが、文脈から勝手に黒尾のことを彼氏と勘違いしてくれたらしい。
捨て台詞をはいて、男は駅ホーム内へと戻っていく。
「どうにかなった、か」
『……ふあ~、助かった、ありがとう』
へなへなとその場にしゃがみこむナマエに、慌てて駆け寄る。
「大丈夫っすか?」
『うん、大丈夫。ちょっと緊張がとけただけ』
「……あー、すみません、いろいろと」
『何が?』
「いきなり名前呼び捨て、敬語不使用、あとは、勝手に彼氏みたいなマネして」
思いつく限りの罪状を述べると、先ほどまでの凍えるような視線を生成していた人物とは思えないほどの、可憐な微笑みを向けられた。
『そんなのはいいよー、助けてもらったんだし。しかも、黒尾くん、彼氏って言ってないしね』
”黒尾くん”という言葉にピクリと反応する。
(俺のこと、認知はしていてくれたみたいだな)
『それにしても、』
言いつつ、ナマエがゆっくり立ち上がる。立ち上がりざま、右手が伸びてきたので何事かと様子をうかがっていると、頭の上に何かが触れた。それがナマエの右手だと気が付くのに少し時間がかかったのは、日常生活で誰かに頭を撫でられるような低身長ではないから、だろう。
『相変わらず大きいねえ』
「いや、バレーやってる身としては、さして高くはないですけど」
(というか、ナマエさんの方が、女子にしては高いのでは?)
先日宮城で見たときには、遠かったこともあり、もっと小柄な人かと思っていたのだが。おそらく研磨よりも身長はある。バレー経験者なのかもしれない。それか烏野の元マネージャー?
『そ? じゃあ、このツンツン髪型で、大きく見せてるのかしら?』
悪戯な笑みを浮かべて、大変失礼なことを言う。冷たい視線を投げたり、可憐な笑顔だったり、はたまた悪戯っぽい顔をして、天真爛漫とはこういう人を言うのだろうか。
ほぼ初対面のはずなのだが、他人行儀という黒尾の装甲は一気にはがされた。
「違いますー、ファッションの一貫ですー。大きく見せるためじゃありませんーっ!」
言い返すと、今度は声を大にして『あはは』と笑うその人。ひとしきり笑った後で、『嘘だよ、ごめんごめん』と軽く謝られた。
「く、ろ、さーんっ」
そんな折、黒尾の当の目的であった、待ち人たちがやってくる。音駒高校のバレー部員のご一行である。
『あ、お友達だね。……今日はホントにありがとね。また改めてお礼させてね。じゃ』
「いや、べつに、」
お礼をされるほどではない、と続けようとしたが、ナマエは颯爽と駅ホームの方へと姿を消していた。
「黒尾さん誰としゃべってたんですか?」と言いながら近づいてくる後輩たちに、もう少しナマエと話していたかったなあ、と恨みがましく思ってしまうのは、子供じみているのだろうか。
「家まで送って行くって! 具合悪いんでしょ!?」
『……大丈夫です、一人で帰れますから』
「いやいや、強がんなくてもいいよ。今、俺のほかにサークルのメンバーいないし、」
『強がりじゃなく、事実です。本当に大丈夫なので』
男女の会話が駅構内から近づいてくる。
大きな声ではなかったが、閑散とした駅前、しかもこちらは一人で待ち人中であったこともあり、会話は嫌でも耳に入った。オブラートに包んで言うならば、随分と一方的な好意の押し付けである。
「でも心配だからさあ」
『迷惑です』
「またまた。素直じゃないんだから。……そういう強気の態度、俺にだけしかとらないって知ってるぞ」
会話を聞く限り、男の方が先輩なのだろう。そしてこの会話だけで判断するのであれば、超ポジティブな先輩男子である。
しかし明らかに女性の方は嫌がっている。凛とした態度をとっているが、男の自信過剰な気遣いは方向転換することはなさそうだ。
声をかけようかと顔をあげて当事者たちを見ると、女性の方は見覚えがあった。一度しか会ったことはないが、おそらくそうだ。鈴井ナマエ。烏野高校の関係者―――どういう関係なのかまでは把握できていない。
なぜここに? という疑問はひとまず横にどけて、ツカツカと静かに二人に歩み寄る。
黒尾のことを覚えていると願いたいが、取りあえずはこちらの意図に気づいてくれることを願う。でなければ、黒尾がイタイ男になってしまう。
「こんなとこにいたの? 探したんだけど」
ナマエが年上なのか年下なのかも定かではない。こういう時の役回りは、彼氏といったところだろう。漫然と彼氏面をして自分よりも背の低い男を見下ろした。
『……あー、ごめんごめん。ちょっと、ね』
ナマエの方も急な黒尾の登場に一瞬驚きつつも、話を合わせる。相性は悪くないようだ。そして言い寄っていた先輩男には、もう愛想もなにもいらないと考えているらしい。言い終えた後、背筋の凍るような冷たい視線を男に向けた。
「な、なんだお前はっ」
一方の男は、そんなナマエの凍える視線をひらりと躱し、愛想もくそもない黒尾の冷めた顔を見上げていた。
男の身長は、180㎝前後だろうか。黒尾の身長は4月時点で187.7㎝で、正直大差はないが、それでも多少なりは男を見下ろすことができた。
180㎝にもなると、自分より背が高い存在というのは日本ではあまりいないだろから、威嚇にはなるのではないか、という推測だったが、効果はあったようだ。
「そっちこそ、どちら様っすか?」
「お、俺は、―――」
「ナマエ。どういう関係?」
嫌われてもいいようだったので、男の言葉を遮り、あえてナマエに説明を求めた。
『同じ大学の先輩。サークルが一緒。それだけ』
(おおっと、この人も先輩だったか。名前呼び捨て+敬語不使用のことは後で謝ろう)
「へえ。それで、ナマエに付きまとってんの? 嫌がってたのわかんなかった?」
「……付き合っているヤツがいるとは知らなかったんだ。だいたい、そいつが思わせぶりなことをするから悪いんだろ。もう俺に言いよって来るなよ」
こちらとしては、黒尾とナマエの関係性について特に言及していなかったのだが、文脈から勝手に黒尾のことを彼氏と勘違いしてくれたらしい。
捨て台詞をはいて、男は駅ホーム内へと戻っていく。
「どうにかなった、か」
『……ふあ~、助かった、ありがとう』
へなへなとその場にしゃがみこむナマエに、慌てて駆け寄る。
「大丈夫っすか?」
『うん、大丈夫。ちょっと緊張がとけただけ』
「……あー、すみません、いろいろと」
『何が?』
「いきなり名前呼び捨て、敬語不使用、あとは、勝手に彼氏みたいなマネして」
思いつく限りの罪状を述べると、先ほどまでの凍えるような視線を生成していた人物とは思えないほどの、可憐な微笑みを向けられた。
『そんなのはいいよー、助けてもらったんだし。しかも、黒尾くん、彼氏って言ってないしね』
”黒尾くん”という言葉にピクリと反応する。
(俺のこと、認知はしていてくれたみたいだな)
『それにしても、』
言いつつ、ナマエがゆっくり立ち上がる。立ち上がりざま、右手が伸びてきたので何事かと様子をうかがっていると、頭の上に何かが触れた。それがナマエの右手だと気が付くのに少し時間がかかったのは、日常生活で誰かに頭を撫でられるような低身長ではないから、だろう。
『相変わらず大きいねえ』
「いや、バレーやってる身としては、さして高くはないですけど」
(というか、ナマエさんの方が、女子にしては高いのでは?)
先日宮城で見たときには、遠かったこともあり、もっと小柄な人かと思っていたのだが。おそらく研磨よりも身長はある。バレー経験者なのかもしれない。それか烏野の元マネージャー?
『そ? じゃあ、このツンツン髪型で、大きく見せてるのかしら?』
悪戯な笑みを浮かべて、大変失礼なことを言う。冷たい視線を投げたり、可憐な笑顔だったり、はたまた悪戯っぽい顔をして、天真爛漫とはこういう人を言うのだろうか。
ほぼ初対面のはずなのだが、他人行儀という黒尾の装甲は一気にはがされた。
「違いますー、ファッションの一貫ですー。大きく見せるためじゃありませんーっ!」
言い返すと、今度は声を大にして『あはは』と笑うその人。ひとしきり笑った後で、『嘘だよ、ごめんごめん』と軽く謝られた。
「く、ろ、さーんっ」
そんな折、黒尾の当の目的であった、待ち人たちがやってくる。音駒高校のバレー部員のご一行である。
『あ、お友達だね。……今日はホントにありがとね。また改めてお礼させてね。じゃ』
「いや、べつに、」
お礼をされるほどではない、と続けようとしたが、ナマエは颯爽と駅ホームの方へと姿を消していた。
「黒尾さん誰としゃべってたんですか?」と言いながら近づいてくる後輩たちに、もう少しナマエと話していたかったなあ、と恨みがましく思ってしまうのは、子供じみているのだろうか。
END
(できれば続き書きたい)
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