Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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6月初めの土曜日。
音駒高校では体育祭が開催されている。
「サチ、肩じゃなくて腰に手を回せ」
『……なんでそんな本気なの』
「あのねえ。体育祭でしょーが、高校生活最後の。少しは、頑張ろうとかなりません?」
『なりませーん』と律儀に返ってきた。そういうヤツだというのは知っているので、想定内の返事である。
「午前中、3年が一番負けてるんすよねェ」
うちの学校は、学年対抗で体育祭が開かれる。
そして俺たちは、1年・2年と連続優勝しており、今年も優勝すれば3年連続優勝だ。まだ点差はそこまで大きくないから、挽回はできるハズだ。
『1・2年のが若いんだからしょうがないでしょ。私たち3年生』
「1、2歳の違いでしょうが! サチさんも十分若いですよー」
『えー。そんな当然のこと言われてもやる気にはなりませーん』
そんな言い合いをしているうちに、順番は刻一刻と迫ってくる。
「わかったわかった。じゃあ、今日のサチさんが出る種目で1位が取れたら、何かおごりますよ」
『何かって?』
「お申しつけのものなんでも」
『え、上限なし?』
「なしなし。焼き肉でも行く?」
『焼肉かあ、悪くないなあ』
先日、学生限定割引の知らせを見つけていたのだが、それは伝えなくてもいいだろう。
「よーし、じゃあ取引成立な。打倒1・2年」
『わかった。焼き肉には代えられない』
「ってことで、足結びますよー」
臨むのは二人三脚。
各クラス男女2人ずつ出さなければならないのだが、人気がなくて最後まで立候補がなく残っていた。そんな余りものなので体育委員がやることになり、成り行きで体育委員になった俺とサチとで出場する運びとなり、現在に至る。
もちろん、練習なんてやってない。ぶっつけ本番である。
サチとの身長差はおおよそ20㎝ほど。
肩と肩ではバランスが悪いので、腰に手を回すように指示を出した次第だ。
毎年、学校行事には適当に参加するサチだが、焼き肉は効果てきめんである。ほかの行事でもなんか物で釣ろう、等と考えながら、スタートラインに着く。
「どっちからにする?」
『んー外側』
「りょうかい」
―――パン
スターターピストルの音が響いた。
外側から一歩を繰り出し、内側、外側、と繰り返す。
練習していないはずなのに、案外調子よく進むのがなんだか心地よい。
「ちょっとずつ早くしましょうか」
『……私に合わせてよ、黒尾に合わせるのはムリ』
「へいへい」
一歩二歩、と歩を進めるごとに少しずつスピードが上がる。
しかし速度が上がるにつれて、微妙に異なる歩幅が違和感となって走りづらさを助長する。隣で走るサチを見やれば、少し体が斜めになっていた。
ので、グイ、とサチの肩を引き寄せて、体を密着させる。この方が走りやすい。
というのは口実で、競技を口実に周囲に「幼馴染」という関係性を学校中に見せつけるのには丁度良い。
先日のバスケ部主将の告白の一件もあるし、これくらいはしておかないと、ね。
「あんまり離れると、走りづらいデショ」
言い訳のようにそう口にして、「ラスト半分」と続けた。
『焼肉のためだ、我慢しよう』
なんて返ってきたので、焼き肉パワーおそるべしだな、と。
しかし、歩を進めるにつれて、サチと接している側を意識せざるを得なくなる。
普段、バレー部の男たちとばかり接しているせいか、抱き寄せたサチの肩はびっくりするくらい薄くて頼りないし、触れている部分は男のかくかくした感じとはまったく違う。なんというか、全体的にやらかい。
早く終われ、二人三脚。
そんな葛藤の中走り続けて、ゴールテープを切ったときには、後ろは大きく離れていた。
「ダントツで3年生ペアの優勝ですっ!」
放送部がそんなアナウンスを入れている。
「うぇーーーい」と軽いガッツポーズをして、密着していた体を離した。
隣ではサチが、足をつないでいた紐をほどいてくれている。固く結び過ぎたのか、解くのに手こずっている様子だったが、少しして窮屈だった足が解放された。
『固く結びすぎ』
「そお? そんな力入れたつもりなかったけど」
『握力どんだけあんのよ』
話しつつ、走り終わった列に並ぶと、「黒尾先輩お疲れ様ですっ!」と声がした。前に座る女子生徒で、ハチマキの色を見るに、1年である。……たぶん面識はない、はず。声をかけられる覚えがまったくないのだが、体育委員にいたのかな、と適当に判断して「おう、お疲れー」ととりあえず返しておく。
体育委員だとしたら、同じ委員であるサチには挨拶しないのが気になるが、『午前のリレー頑張るから、午後は別の人にしてよ。それか逆でも可』と隣でブツブツ言い始めるので、それどころではなくなった。
「いやいやいや、そこは頑張りましょうよー。散々練習したでしょーが。あとたった2回走ればいいんだし」
リレーというのはクラス対抗リレーのことで、午前中は学年別で走る予選で、上位2チームが午後の決勝にコマを進める。そのクラス対抗リレーのメンバーにサチも俺も選ばれていた。
「それに、焼き肉食べるんでしょ」
『……デザートもつけてほしい~アイスクリーム』
アイスはおそらく、今日の帰りに食べる分だろうなあ。
そのうち競技ごとに何やらをねだられそうだ、なんて思いつつ。
「へいへい。安いヤツね」
『えええ、けち尾』
「焼肉なくしてアイスにしてもいいんですよー」
『ちぇー』
二人三脚も全員が走り終わったようで、前から後ろまでざっと見た感じ、3年を示す赤色のハチマキが上位に目立つ。午前の点数を稼げる種目はこの二人三脚で終わりなので、まずまずの結果だな、とほっと一息ついた。
クラス対抗リレー予選は、力を抜いて走るサチにヒヤッとしたが、どうにか2位を勝ち取り決勝戦へコマを進める。競技終了後に声をかけると『だって4組のアンカーだったら黒尾の方が速いじゃん。それに2位は確実だったし。温存よ、温存。午後のために温存』とか言っていた。”4組のアンカーより黒尾の方が速い”と言い切られ、悪い気はしなかったのが少し悔しい。
昼休憩をはさんで午後からは、部活動紹介リレーを経て、そのノリで男子バレー部3年でむかで競争にも出場する。嫌がるサチをどうにか引き連れて、体育祭を目いっぱい楽しみ、あっという間に最後の種目であるクラス対抗リレーの決勝戦となった。
「なになに、緊張してるの? 倉木サン」
集合場所で、軽く準備運動をしているサチに声をかける。
『しませんー。走るだけだし。ただ、1年も2年も速かったから。本気で走らないとなあと思いまして』
「稀に見る真面目モード」
『焼肉が待っている。日程決めとこうよ、その方がやる気出る』
「来週末の練習後でどうですか? インハイ予選始まる前に澄ましちゃった方がいいでしょ」
『よし。じゃあ土曜日ね』
午前中までの気分が乗らない姿は鳴りを潜め、闘志は申し分なしだ。
まあたぶん、このリレーが終われば体育祭が終わるから、それも手伝っているとは思う。
でも。本気を出せば、短距離走は学年の中でも上位に入るはずだ。こうなると頼もしいことこの上ない。
現在の順位は、2年、3年、1年の順である。
しかしそれぞれの点数差は僅差。リレーの結果で逆転というのは大いにあり得る。
「逆転優勝目指して頑張りますか」
うわー。
体育祭の最後の種目である、クラス別対抗リレーの決勝戦。
1・2年生は結構速いチームが多く、勝つのは大変そうだな、とは思っていたけれども。現在第3走者が走っており、その時点で大差がついている。うちのチームは6チーム中4位である。
ここから逆転というのは難しいのではないか。
あきらめたくなる気持ちを、しかし直前に決めた焼肉の日程を思いだして踏みとどまる。勝てば土曜日、焼き肉。勝てば今日の帰りにアイスクリーム。どちらもタダ。それにこれが終われば、後は部活をして帰るだけ。アイスは購買にも売ってるから、部活の前に買ってもらおう。
前の走者がバトンを受け取り、順に走りだす。先ほどよりも、3位との差が縮まっている気がする。いい流れ。
内側から3番目のトラックに立ち、再度ふくらはぎやら太ももやらをしっかり伸ばす。
半周先、つまりトラックの反対側には男子が並んでおり、校庭を半周ずつ、男女交互に走る決まりである。そして私は女子のアンカー。男子のアンカーは黒尾である。
男子走者が団子になってこちらにやってくる。順位は変わっていない。でも、先ほどより確実に間は詰まっている。よし、これならどうにかなる。段々と近づいてくるクラスメートに、手を挙げて名前を呼んだ。驚いたような顔でこちらを見るクラスメートだったが、それに構っている暇はないので、練習通りに走り出して、バトンを受け取る。
「行けっ」
大して話したことはなかったけど、とても短い会話とともに受け取ったバトンを、左手に持ち変えながら、少しずつギアを上げる。3位・2位の子はすぐ目の前を走っている。2年と3年のチームである。
ぐんぐんと迫り、外側からその両チームを抜き、しかしさすがに1位には届かないか。
「サチー!」
しんどくなってきたところで、黒尾の声が聞こえた。
少し先で黒尾が手を振っている。あそこまでなら頑張れる。
再度力を入れて、黒尾の所まで全速力で駆け、そしてバドンをつないだ。
急激に上がった息を整えるため、しばらくトラックの中を歩きながら黒尾を見守る。長い脚を存分に生かしたのびのびとした走りで、踏み出すたび加速するような力強さも兼ねそろえている。なんというか、キレイだなと感じてしまう。
そんな気持ちに気づいて、いやいや黒尾だよ?と自分で自分をいさめる。
1位を走る1年生にぐんぐんと追いつき、最後まで接戦だったのだが、最後の最後で、黒尾が一歩リードし、―――ゴールテープを切った。
わぁっ、と自分たちのクラスの方から歓声が上がり、続けて3年テント全体に歓喜が広がっていくのがわかった。黒尾の後、1年生がゴールしたが、その後ろは3年チームが入っているので、3年生で1位と3位に入ったことになる。リレーで点数がいくつ入るのかはわからないが、逆転優勝の可能性が高くなったことに違いない。
「サチ」
トラック内がわちゃわちゃとしている中で、黒尾が近寄ってくる。右手にはまだバトンを持ったままである。
『アイスクリームは部活前に購買で買ってほしい』
「……」
お前ってやつは。そんな声が聞こえた気がした。
すぐ目の前まで近づいてきた黒尾を見上げれば、持っていたバトンで軽く頭をたたかれる。コツンと音がした。
『ん?』
「いやあ。相変わらず、かわいいなと思いまして」
『え。からかってるの?』
「いえいえ、本心ですけど?」
『うわあ。ちゃらい』
「……安いアイスクリームを格上げして高級アイスにしようと思ってたんだけどなあ。そんなひどいこと言うなら、格上げしなくていいかなぁ」
『え、ウソウソ。さすが黒尾さん、太っ腹~。やっさしい、かっこいい~』
慌てて黒尾を持ち上げると、やれやれと顔をしかめる幼馴染。
もう一押し必要かな、と言葉を考えていたのだけど、「くろおー」と叫びながらクラスの男子がこちらに走ってくる。
黒尾はクラスの中心。私はその中には入れない。というかあまり入りたくない。
『じゃ、あとでアイスよろしく~』
その場から逃げるようにそう言い置くと、「……はいよ~」と返ってきた。
逃げたいときに逃がしてくれるところ、相変わらずいいヤツだな、と。
05音駒高校の体育祭
かっこいいは言い過ぎたかな?
ほめ過ぎると調子に乗っちゃうからなあ。
音駒高校では体育祭が開催されている。
「サチ、肩じゃなくて腰に手を回せ」
『……なんでそんな本気なの』
「あのねえ。体育祭でしょーが、高校生活最後の。少しは、頑張ろうとかなりません?」
『なりませーん』と律儀に返ってきた。そういうヤツだというのは知っているので、想定内の返事である。
「午前中、3年が一番負けてるんすよねェ」
うちの学校は、学年対抗で体育祭が開かれる。
そして俺たちは、1年・2年と連続優勝しており、今年も優勝すれば3年連続優勝だ。まだ点差はそこまで大きくないから、挽回はできるハズだ。
『1・2年のが若いんだからしょうがないでしょ。私たち3年生』
「1、2歳の違いでしょうが! サチさんも十分若いですよー」
『えー。そんな当然のこと言われてもやる気にはなりませーん』
そんな言い合いをしているうちに、順番は刻一刻と迫ってくる。
「わかったわかった。じゃあ、今日のサチさんが出る種目で1位が取れたら、何かおごりますよ」
『何かって?』
「お申しつけのものなんでも」
『え、上限なし?』
「なしなし。焼き肉でも行く?」
『焼肉かあ、悪くないなあ』
先日、学生限定割引の知らせを見つけていたのだが、それは伝えなくてもいいだろう。
「よーし、じゃあ取引成立な。打倒1・2年」
『わかった。焼き肉には代えられない』
「ってことで、足結びますよー」
臨むのは二人三脚。
各クラス男女2人ずつ出さなければならないのだが、人気がなくて最後まで立候補がなく残っていた。そんな余りものなので体育委員がやることになり、成り行きで体育委員になった俺とサチとで出場する運びとなり、現在に至る。
もちろん、練習なんてやってない。ぶっつけ本番である。
サチとの身長差はおおよそ20㎝ほど。
肩と肩ではバランスが悪いので、腰に手を回すように指示を出した次第だ。
毎年、学校行事には適当に参加するサチだが、焼き肉は効果てきめんである。ほかの行事でもなんか物で釣ろう、等と考えながら、スタートラインに着く。
「どっちからにする?」
『んー外側』
「りょうかい」
―――パン
スターターピストルの音が響いた。
外側から一歩を繰り出し、内側、外側、と繰り返す。
練習していないはずなのに、案外調子よく進むのがなんだか心地よい。
「ちょっとずつ早くしましょうか」
『……私に合わせてよ、黒尾に合わせるのはムリ』
「へいへい」
一歩二歩、と歩を進めるごとに少しずつスピードが上がる。
しかし速度が上がるにつれて、微妙に異なる歩幅が違和感となって走りづらさを助長する。隣で走るサチを見やれば、少し体が斜めになっていた。
ので、グイ、とサチの肩を引き寄せて、体を密着させる。この方が走りやすい。
というのは口実で、競技を口実に周囲に「幼馴染」という関係性を学校中に見せつけるのには丁度良い。
先日のバスケ部主将の告白の一件もあるし、これくらいはしておかないと、ね。
「あんまり離れると、走りづらいデショ」
言い訳のようにそう口にして、「ラスト半分」と続けた。
『焼肉のためだ、我慢しよう』
なんて返ってきたので、焼き肉パワーおそるべしだな、と。
しかし、歩を進めるにつれて、サチと接している側を意識せざるを得なくなる。
普段、バレー部の男たちとばかり接しているせいか、抱き寄せたサチの肩はびっくりするくらい薄くて頼りないし、触れている部分は男のかくかくした感じとはまったく違う。なんというか、全体的にやらかい。
早く終われ、二人三脚。
そんな葛藤の中走り続けて、ゴールテープを切ったときには、後ろは大きく離れていた。
「ダントツで3年生ペアの優勝ですっ!」
放送部がそんなアナウンスを入れている。
「うぇーーーい」と軽いガッツポーズをして、密着していた体を離した。
隣ではサチが、足をつないでいた紐をほどいてくれている。固く結び過ぎたのか、解くのに手こずっている様子だったが、少しして窮屈だった足が解放された。
『固く結びすぎ』
「そお? そんな力入れたつもりなかったけど」
『握力どんだけあんのよ』
話しつつ、走り終わった列に並ぶと、「黒尾先輩お疲れ様ですっ!」と声がした。前に座る女子生徒で、ハチマキの色を見るに、1年である。……たぶん面識はない、はず。声をかけられる覚えがまったくないのだが、体育委員にいたのかな、と適当に判断して「おう、お疲れー」ととりあえず返しておく。
体育委員だとしたら、同じ委員であるサチには挨拶しないのが気になるが、『午前のリレー頑張るから、午後は別の人にしてよ。それか逆でも可』と隣でブツブツ言い始めるので、それどころではなくなった。
「いやいやいや、そこは頑張りましょうよー。散々練習したでしょーが。あとたった2回走ればいいんだし」
リレーというのはクラス対抗リレーのことで、午前中は学年別で走る予選で、上位2チームが午後の決勝にコマを進める。そのクラス対抗リレーのメンバーにサチも俺も選ばれていた。
「それに、焼き肉食べるんでしょ」
『……デザートもつけてほしい~アイスクリーム』
アイスはおそらく、今日の帰りに食べる分だろうなあ。
そのうち競技ごとに何やらをねだられそうだ、なんて思いつつ。
「へいへい。安いヤツね」
『えええ、けち尾』
「焼肉なくしてアイスにしてもいいんですよー」
『ちぇー』
二人三脚も全員が走り終わったようで、前から後ろまでざっと見た感じ、3年を示す赤色のハチマキが上位に目立つ。午前の点数を稼げる種目はこの二人三脚で終わりなので、まずまずの結果だな、とほっと一息ついた。
クラス対抗リレー予選は、力を抜いて走るサチにヒヤッとしたが、どうにか2位を勝ち取り決勝戦へコマを進める。競技終了後に声をかけると『だって4組のアンカーだったら黒尾の方が速いじゃん。それに2位は確実だったし。温存よ、温存。午後のために温存』とか言っていた。”4組のアンカーより黒尾の方が速い”と言い切られ、悪い気はしなかったのが少し悔しい。
昼休憩をはさんで午後からは、部活動紹介リレーを経て、そのノリで男子バレー部3年でむかで競争にも出場する。嫌がるサチをどうにか引き連れて、体育祭を目いっぱい楽しみ、あっという間に最後の種目であるクラス対抗リレーの決勝戦となった。
「なになに、緊張してるの? 倉木サン」
集合場所で、軽く準備運動をしているサチに声をかける。
『しませんー。走るだけだし。ただ、1年も2年も速かったから。本気で走らないとなあと思いまして』
「稀に見る真面目モード」
『焼肉が待っている。日程決めとこうよ、その方がやる気出る』
「来週末の練習後でどうですか? インハイ予選始まる前に澄ましちゃった方がいいでしょ」
『よし。じゃあ土曜日ね』
午前中までの気分が乗らない姿は鳴りを潜め、闘志は申し分なしだ。
まあたぶん、このリレーが終われば体育祭が終わるから、それも手伝っているとは思う。
でも。本気を出せば、短距離走は学年の中でも上位に入るはずだ。こうなると頼もしいことこの上ない。
現在の順位は、2年、3年、1年の順である。
しかしそれぞれの点数差は僅差。リレーの結果で逆転というのは大いにあり得る。
「逆転優勝目指して頑張りますか」
うわー。
体育祭の最後の種目である、クラス別対抗リレーの決勝戦。
1・2年生は結構速いチームが多く、勝つのは大変そうだな、とは思っていたけれども。現在第3走者が走っており、その時点で大差がついている。うちのチームは6チーム中4位である。
ここから逆転というのは難しいのではないか。
あきらめたくなる気持ちを、しかし直前に決めた焼肉の日程を思いだして踏みとどまる。勝てば土曜日、焼き肉。勝てば今日の帰りにアイスクリーム。どちらもタダ。それにこれが終われば、後は部活をして帰るだけ。アイスは購買にも売ってるから、部活の前に買ってもらおう。
前の走者がバトンを受け取り、順に走りだす。先ほどよりも、3位との差が縮まっている気がする。いい流れ。
内側から3番目のトラックに立ち、再度ふくらはぎやら太ももやらをしっかり伸ばす。
半周先、つまりトラックの反対側には男子が並んでおり、校庭を半周ずつ、男女交互に走る決まりである。そして私は女子のアンカー。男子のアンカーは黒尾である。
男子走者が団子になってこちらにやってくる。順位は変わっていない。でも、先ほどより確実に間は詰まっている。よし、これならどうにかなる。段々と近づいてくるクラスメートに、手を挙げて名前を呼んだ。驚いたような顔でこちらを見るクラスメートだったが、それに構っている暇はないので、練習通りに走り出して、バトンを受け取る。
「行けっ」
大して話したことはなかったけど、とても短い会話とともに受け取ったバトンを、左手に持ち変えながら、少しずつギアを上げる。3位・2位の子はすぐ目の前を走っている。2年と3年のチームである。
ぐんぐんと迫り、外側からその両チームを抜き、しかしさすがに1位には届かないか。
「サチー!」
しんどくなってきたところで、黒尾の声が聞こえた。
少し先で黒尾が手を振っている。あそこまでなら頑張れる。
再度力を入れて、黒尾の所まで全速力で駆け、そしてバドンをつないだ。
急激に上がった息を整えるため、しばらくトラックの中を歩きながら黒尾を見守る。長い脚を存分に生かしたのびのびとした走りで、踏み出すたび加速するような力強さも兼ねそろえている。なんというか、キレイだなと感じてしまう。
そんな気持ちに気づいて、いやいや黒尾だよ?と自分で自分をいさめる。
1位を走る1年生にぐんぐんと追いつき、最後まで接戦だったのだが、最後の最後で、黒尾が一歩リードし、―――ゴールテープを切った。
わぁっ、と自分たちのクラスの方から歓声が上がり、続けて3年テント全体に歓喜が広がっていくのがわかった。黒尾の後、1年生がゴールしたが、その後ろは3年チームが入っているので、3年生で1位と3位に入ったことになる。リレーで点数がいくつ入るのかはわからないが、逆転優勝の可能性が高くなったことに違いない。
「サチ」
トラック内がわちゃわちゃとしている中で、黒尾が近寄ってくる。右手にはまだバトンを持ったままである。
『アイスクリームは部活前に購買で買ってほしい』
「……」
お前ってやつは。そんな声が聞こえた気がした。
すぐ目の前まで近づいてきた黒尾を見上げれば、持っていたバトンで軽く頭をたたかれる。コツンと音がした。
『ん?』
「いやあ。相変わらず、かわいいなと思いまして」
『え。からかってるの?』
「いえいえ、本心ですけど?」
『うわあ。ちゃらい』
「……安いアイスクリームを格上げして高級アイスにしようと思ってたんだけどなあ。そんなひどいこと言うなら、格上げしなくていいかなぁ」
『え、ウソウソ。さすが黒尾さん、太っ腹~。やっさしい、かっこいい~』
慌てて黒尾を持ち上げると、やれやれと顔をしかめる幼馴染。
もう一押し必要かな、と言葉を考えていたのだけど、「くろおー」と叫びながらクラスの男子がこちらに走ってくる。
黒尾はクラスの中心。私はその中には入れない。というかあまり入りたくない。
『じゃ、あとでアイスよろしく~』
その場から逃げるようにそう言い置くと、「……はいよ~」と返ってきた。
逃げたいときに逃がしてくれるところ、相変わらずいいヤツだな、と。
05音駒高校の体育祭
かっこいいは言い過ぎたかな?
ほめ過ぎると調子に乗っちゃうからなあ。