Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2012年の11月。
俺たちは、念願の春高への切符を手にした。
それは、様々な工夫を凝らしていろんな戦術を身に着けた成果であり、しかしその戦術を身に着けられたのは、毎日のキツイ練習をこなして基礎力があったからともいえるわけで。つまりは、コツコツ練習を頑張ってきたからなわけだけど。
でも、それだけでは掴めなかったチャンスだと、そう思う。
家族の支え。そして監督やコーチ、顧問の協力。信頼できる仲間たち。
その一つ一つがなければ、つかめなかった。
そしてもう一つ、音駒には欠かせない人がいたのだと、戸美戦で気づかされた。
右足を捻挫して、悔しい思いを内に秘めながら、コートから少し離れたところで様子を見守った。
始めはボールばかり追っていた。試合の行く末を見ていた。
そのうちに、選手一人ひとりの動きに目が行った。
黒尾が、プレッシャーを感じているのか、なんだかぎこちない。
プレイはそこまで目立たない。ただ、口数が少ないというか、他との絡みが少ないというか。
黒尾は音駒の主将であった。
試合中、リベロは主将を務められないので、必然的に黒尾か海がその座につかなければならないわけで、海は表立って部を引っ張るよりは、陰から支えるタイプだろ? だから、俺らの代の主将が黒尾であることは、決まっていることのようだった。
そして黒尾はよくやっていた。
幼馴染という研磨とか倉木とかの面倒を見ながら、後輩たちの面倒も見て。相手によって、褒めたり煽てたりして、うまーく部を調整していく。そういう、気遣いをするヤツだった。
ごくたまに、黒尾の調子が悪いときは、よくできたもので幼馴染たちが面倒を見ていたが、それも本当にたまにで。そんで、あの2人以外がその異変を察知することはなかなかできなくて。それくらいの機微だから、特に問題視していなかったのだが。
コートの外から見たら、黒尾の違和感はよくわかった。
そして、その黒尾を支えるべく、研磨と倉木が必死に立ち回っていることも、よくわかった。
いつもは口数少ない研磨が、積極的に会話を組み立てていたし、倉木もノートを見返したり、相手チームに対する推論をしたり、救急箱を持ったりと、献身的だったと思う。
こいつらは、こうしてバレーをしてきたのだな、と思った。
そしてもっと見ていたら、マネージャーとしての倉木が、黒尾だけではなくてチーム全員に献身的であることがわかった。
休憩時は、落ち込み気味の選手に話しかけ、何やらノートを見せていた。後から聞いたのだが、普段のスパイクの成功率とかコース打ち分けとか、そういうのを見せられて、今日も同じくらい調子がいいよとか、いつもよりストレートが好調だね、とかそういう話をしてくれるらしい。
そんな話をしながらも、飲み物の準備やテーピング、相手チームの情報処理、そうしたことを、まるで何事もないかのようにこなしていた。
それに気づいたとき、なんというか、鳥肌がたった。
これまで俺たちは、この倉木サチというマネージャーの献身的サポートの上で、不自由なくバレーボールをやっていたのだな、と。
俺は、仲間に恵まれた。信頼できる仲間たちだ。
その仲間のなかには倉木や咲良ももちろん入っていて、彼女たちがいなければ、これまでの成功も失敗もなかったのだろうと、思った。
だから、残り少ない高校生活を、彼女らにとって楽しいものにしてあげたいな、なんて使命感のようなものを勝手に感じていた。
「サチさんて本当に、霊感あるんですかね」
そんな問いかけで、長い思考からふと我に返る。問いかけてきたのは、先日研磨から冗談を吹っ掛けられた山本で、いまだにそれに騙されているかわいいヤツだ。
かわいいヤツなので、このままだます方向でいこう、と悪戯心がぬぐえない。
「倉木が早く帰る日があるだろ? あれ、除霊を頼まれてるからだぞ」
知らなかったのか、と言えば、「ひぇ、」とか返ってきた。けらけらけら、と笑っていたら、リエーフも会話に加わる。
「サチさんと言えば、今日はなんで休みなんですか?」
昨日が春高の二次予選で、今日は月曜日である。
倉木は本日、学校を休んでいる。
「体調不良だと。まあ、ここ最近の無理が祟ったんだろ」
1時間睡眠とか2時間睡眠とか、何日続けたことやら。
その支えがあってこその、勝利だったわけなのだけども。もう少し、自分の体も大切にしてほしい、とは思う。黒尾の気持ちが少しわかる気がした。
「昨日の試合の話、したかったんですけど、」
「試合の話?」
「いつもやってくれるヤツですよ。今回の試合は、どこが良くて、課題はこれでってヤツ」
初耳だ。少なくとも、俺はそんな話を、倉木としたことはない。
「いつもそんなことやってたのか?」
問えば、頷くのは1年ばかりで、どうやら後輩育成ということで1年へ向けてやっていたらしい。マネージャー育成もかねて、咲良にも話を聞かせていたようである。ぬかりない。
その咲良だって、夏に入ったときにはルールも知らないド素人だったはずなのに、昨日の試合の感想を問えば、「研磨先輩と黒尾先輩の速攻って安定感ありますよね」とか言っていた。「リエーフのブロックがまだまだ黒尾さんには及ばないこともわかりました」とも言っていたなあ。ものすごい成長スピードである。
「あ、じゃあ今なら。……昨日、なんか見てはいけないものを見ちゃったんですけど、」
おそるおそる手を挙げたのは犬岡。周りに黒尾がいないことを確かめるためか、少しきょろきょろとする。
「なんだ?」
「あのー。……クロさんとサチさんが、なんか、その、いつもにまして、仲良さげだったと言いますか、」
ものすごーく言いづらそうにそんなことを言う。
「どんな感じ?」
あいつらは大抵いつも、本人たちが思っている以上に仲良さげなので、どのくらいのレベルなのかを確認する必要がある。
「なんか、サチさんがクロさんの首の辺りを触っていて、そしたらクロさんが、サチさんの髪に触れて、」
言いながら、犬岡の顔がみるみる赤くなる。初心だなあ、と思いつつ、
そのほかの1,2年も彼らの変化にはなんとなく気が付いているようで、しょうがないので勝手に種明かしをする。
「黒尾がつけてた黒いヒモ、倉木からの誕生日プレゼントらしいぞ」
磁器ネックレス、としゃれたことを黒尾は言っていたが、なんかムカつくのでヒモでいいだろう。
「ガ―ッ! じゃあ、つ、ついに、二人はつ、つ、つ、付き合っている、と?」
カミカミしながら山本。悔しそうな、羨ましそうな、よくわからない表情。
「それがなあ。春高終わったら告白するって、告白予告をしたらしい」
俺の言葉で、その場にいた全員が、「?」を浮かべたのがわかった。
そのうち、ハイ、と芝山が手を挙げる。
「はい、芝山」
「……その、告白予告とは、何でしょう」
「俺にもわからん。そういうのは研磨に聞け」
「おれもわかんないよ。あの二人の世界って、なんか特殊だから」
すると次から次に質問のみが続く。
「付き合うのに、そんな段階ありましたっけ?」
「サチさんは何と返事をしたのでしょう」
「今のお二人の関係とは?」
「予告ということは、今ならまだチャンスはあるんでしょうか」
「というか、サチさんはバレーボール以外に興味があるんですか」
普段なら言葉にすらできないことも、ここぞとばかりに口に出される。
ちなみに先ほどから不在の黒尾は、何やら進路のことで職員室に呼び出しをくらっている。必要書類がなんとか、とか言っていたから、まだ時間はかかるのかもしれない。
「まあ、告白するのは自由だと思うけど、今更勝ち目はないんじゃないか」
告白してみないとわからないこともたくさんある。
たくさんあるが、今回のあの二人に関しては、もう、早く付き合えよ、状態なのである。
正直、昨日の戸美戦の、倉木の必死な顔を見たら、邪魔なんてしてやるな、とそう思う。
しかし当人たちも、決して本気ではないようで、「まあそうですよねえ」と誰かが言うと、みな結局は、同じ結論をたどる。
「あの二人には、幸せになってもらいたいですよね」
「サチさんも、なんだかんだクロさんのこと大事にしてますもんね」
「早くくっついてくれればいいのに」
はあ、というため息の後。本音をもらしたのはもちろん山本。
「あーあ! サチさんの笑顔を独り占めするなんてずるい!」
うんうん、と周りが頷き、それに調子をよくしたのか、「でも、」と山本が続ける。
「でも、サチさんを笑顔にできるのはクロさんだけだし、というかクロさんには日ごろからお世話になっているし、だからもう、早く幸せになってほしい、って思うしかない、か」
一人で本音を漏らし、一人で自分の心を納得させる。さすが、音駒のエースを2年生で務める男である。
そうしていつもの、二人の仲を温かく見守る音駒に戻ったところで、機を狙ったかのように主将が体育館へやってきた。
「お、間に合ったな」
いつも通りの胡散臭い顔はすがすがしい。
それが、春高出場枠を手に入れたからなのか、それとも倉木に告白予約をしたからなのかは定かではない。
45リベロの独白
俺たちは、念願の春高への切符を手にした。
それは、様々な工夫を凝らしていろんな戦術を身に着けた成果であり、しかしその戦術を身に着けられたのは、毎日のキツイ練習をこなして基礎力があったからともいえるわけで。つまりは、コツコツ練習を頑張ってきたからなわけだけど。
でも、それだけでは掴めなかったチャンスだと、そう思う。
家族の支え。そして監督やコーチ、顧問の協力。信頼できる仲間たち。
その一つ一つがなければ、つかめなかった。
そしてもう一つ、音駒には欠かせない人がいたのだと、戸美戦で気づかされた。
右足を捻挫して、悔しい思いを内に秘めながら、コートから少し離れたところで様子を見守った。
始めはボールばかり追っていた。試合の行く末を見ていた。
そのうちに、選手一人ひとりの動きに目が行った。
黒尾が、プレッシャーを感じているのか、なんだかぎこちない。
プレイはそこまで目立たない。ただ、口数が少ないというか、他との絡みが少ないというか。
黒尾は音駒の主将であった。
試合中、リベロは主将を務められないので、必然的に黒尾か海がその座につかなければならないわけで、海は表立って部を引っ張るよりは、陰から支えるタイプだろ? だから、俺らの代の主将が黒尾であることは、決まっていることのようだった。
そして黒尾はよくやっていた。
幼馴染という研磨とか倉木とかの面倒を見ながら、後輩たちの面倒も見て。相手によって、褒めたり煽てたりして、うまーく部を調整していく。そういう、気遣いをするヤツだった。
ごくたまに、黒尾の調子が悪いときは、よくできたもので幼馴染たちが面倒を見ていたが、それも本当にたまにで。そんで、あの2人以外がその異変を察知することはなかなかできなくて。それくらいの機微だから、特に問題視していなかったのだが。
コートの外から見たら、黒尾の違和感はよくわかった。
そして、その黒尾を支えるべく、研磨と倉木が必死に立ち回っていることも、よくわかった。
いつもは口数少ない研磨が、積極的に会話を組み立てていたし、倉木もノートを見返したり、相手チームに対する推論をしたり、救急箱を持ったりと、献身的だったと思う。
こいつらは、こうしてバレーをしてきたのだな、と思った。
そしてもっと見ていたら、マネージャーとしての倉木が、黒尾だけではなくてチーム全員に献身的であることがわかった。
休憩時は、落ち込み気味の選手に話しかけ、何やらノートを見せていた。後から聞いたのだが、普段のスパイクの成功率とかコース打ち分けとか、そういうのを見せられて、今日も同じくらい調子がいいよとか、いつもよりストレートが好調だね、とかそういう話をしてくれるらしい。
そんな話をしながらも、飲み物の準備やテーピング、相手チームの情報処理、そうしたことを、まるで何事もないかのようにこなしていた。
それに気づいたとき、なんというか、鳥肌がたった。
これまで俺たちは、この倉木サチというマネージャーの献身的サポートの上で、不自由なくバレーボールをやっていたのだな、と。
俺は、仲間に恵まれた。信頼できる仲間たちだ。
その仲間のなかには倉木や咲良ももちろん入っていて、彼女たちがいなければ、これまでの成功も失敗もなかったのだろうと、思った。
だから、残り少ない高校生活を、彼女らにとって楽しいものにしてあげたいな、なんて使命感のようなものを勝手に感じていた。
「サチさんて本当に、霊感あるんですかね」
そんな問いかけで、長い思考からふと我に返る。問いかけてきたのは、先日研磨から冗談を吹っ掛けられた山本で、いまだにそれに騙されているかわいいヤツだ。
かわいいヤツなので、このままだます方向でいこう、と悪戯心がぬぐえない。
「倉木が早く帰る日があるだろ? あれ、除霊を頼まれてるからだぞ」
知らなかったのか、と言えば、「ひぇ、」とか返ってきた。けらけらけら、と笑っていたら、リエーフも会話に加わる。
「サチさんと言えば、今日はなんで休みなんですか?」
昨日が春高の二次予選で、今日は月曜日である。
倉木は本日、学校を休んでいる。
「体調不良だと。まあ、ここ最近の無理が祟ったんだろ」
1時間睡眠とか2時間睡眠とか、何日続けたことやら。
その支えがあってこその、勝利だったわけなのだけども。もう少し、自分の体も大切にしてほしい、とは思う。黒尾の気持ちが少しわかる気がした。
「昨日の試合の話、したかったんですけど、」
「試合の話?」
「いつもやってくれるヤツですよ。今回の試合は、どこが良くて、課題はこれでってヤツ」
初耳だ。少なくとも、俺はそんな話を、倉木としたことはない。
「いつもそんなことやってたのか?」
問えば、頷くのは1年ばかりで、どうやら後輩育成ということで1年へ向けてやっていたらしい。マネージャー育成もかねて、咲良にも話を聞かせていたようである。ぬかりない。
その咲良だって、夏に入ったときにはルールも知らないド素人だったはずなのに、昨日の試合の感想を問えば、「研磨先輩と黒尾先輩の速攻って安定感ありますよね」とか言っていた。「リエーフのブロックがまだまだ黒尾さんには及ばないこともわかりました」とも言っていたなあ。ものすごい成長スピードである。
「あ、じゃあ今なら。……昨日、なんか見てはいけないものを見ちゃったんですけど、」
おそるおそる手を挙げたのは犬岡。周りに黒尾がいないことを確かめるためか、少しきょろきょろとする。
「なんだ?」
「あのー。……クロさんとサチさんが、なんか、その、いつもにまして、仲良さげだったと言いますか、」
ものすごーく言いづらそうにそんなことを言う。
「どんな感じ?」
あいつらは大抵いつも、本人たちが思っている以上に仲良さげなので、どのくらいのレベルなのかを確認する必要がある。
「なんか、サチさんがクロさんの首の辺りを触っていて、そしたらクロさんが、サチさんの髪に触れて、」
言いながら、犬岡の顔がみるみる赤くなる。初心だなあ、と思いつつ、
そのほかの1,2年も彼らの変化にはなんとなく気が付いているようで、しょうがないので勝手に種明かしをする。
「黒尾がつけてた黒いヒモ、倉木からの誕生日プレゼントらしいぞ」
磁器ネックレス、としゃれたことを黒尾は言っていたが、なんかムカつくのでヒモでいいだろう。
「ガ―ッ! じゃあ、つ、ついに、二人はつ、つ、つ、付き合っている、と?」
カミカミしながら山本。悔しそうな、羨ましそうな、よくわからない表情。
「それがなあ。春高終わったら告白するって、告白予告をしたらしい」
俺の言葉で、その場にいた全員が、「?」を浮かべたのがわかった。
そのうち、ハイ、と芝山が手を挙げる。
「はい、芝山」
「……その、告白予告とは、何でしょう」
「俺にもわからん。そういうのは研磨に聞け」
「おれもわかんないよ。あの二人の世界って、なんか特殊だから」
すると次から次に質問のみが続く。
「付き合うのに、そんな段階ありましたっけ?」
「サチさんは何と返事をしたのでしょう」
「今のお二人の関係とは?」
「予告ということは、今ならまだチャンスはあるんでしょうか」
「というか、サチさんはバレーボール以外に興味があるんですか」
普段なら言葉にすらできないことも、ここぞとばかりに口に出される。
ちなみに先ほどから不在の黒尾は、何やら進路のことで職員室に呼び出しをくらっている。必要書類がなんとか、とか言っていたから、まだ時間はかかるのかもしれない。
「まあ、告白するのは自由だと思うけど、今更勝ち目はないんじゃないか」
告白してみないとわからないこともたくさんある。
たくさんあるが、今回のあの二人に関しては、もう、早く付き合えよ、状態なのである。
正直、昨日の戸美戦の、倉木の必死な顔を見たら、邪魔なんてしてやるな、とそう思う。
しかし当人たちも、決して本気ではないようで、「まあそうですよねえ」と誰かが言うと、みな結局は、同じ結論をたどる。
「あの二人には、幸せになってもらいたいですよね」
「サチさんも、なんだかんだクロさんのこと大事にしてますもんね」
「早くくっついてくれればいいのに」
はあ、というため息の後。本音をもらしたのはもちろん山本。
「あーあ! サチさんの笑顔を独り占めするなんてずるい!」
うんうん、と周りが頷き、それに調子をよくしたのか、「でも、」と山本が続ける。
「でも、サチさんを笑顔にできるのはクロさんだけだし、というかクロさんには日ごろからお世話になっているし、だからもう、早く幸せになってほしい、って思うしかない、か」
一人で本音を漏らし、一人で自分の心を納得させる。さすが、音駒のエースを2年生で務める男である。
そうしていつもの、二人の仲を温かく見守る音駒に戻ったところで、機を狙ったかのように主将が体育館へやってきた。
「お、間に合ったな」
いつも通りの胡散臭い顔はすがすがしい。
それが、春高出場枠を手に入れたからなのか、それとも倉木に告白予約をしたからなのかは定かではない。
45リベロの独白