Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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初戦の梟谷は、データとか言う前によく知っている。だからあまり私の出る幕はない。
そしてもし梟谷に勝てたなら、優勝か準優勝ということで、春高の出場権は獲得できるわけで。
もし、梟谷に負けたなら。3位決定戦に勝った方が春高へ行ける。負けた方は4位という称号は得られるけど、春高には行けない。
選手が目の前の試合に集中できるように、データを集めて、解析して、当日のプレイを見ながらアップデートして、そして対策を考える。今の私が、チームの勝利に貢献できる最大限。
そして。明日が試合当日というこの日に。
梟谷のデータはいらない。だってよく知ってるから。
井闥山のデータはあってもいい。おそらく決勝戦に駒を進めるから。
戸美のデータはないとダメだ。おそらく、三位決定戦であたるから。
初戦に絶対勝つ、そういう心構えも大事だし、選手ならそうすべきだと思う。
でも私は選手ではない。マネージャーとして、彼らの勝利に貢献したい。
ともするならば、私の選択肢は一つしかない。
最後の1枠をかけた争いになったときに、勝率を1%でもあげられるように。
戸美学園の過去の試合データを何度も見返して、いろんなデータを作った。
気づいたら空がうっすら明るくなっていた。
ああ、今日も徹夜だったなあ、と思いながら、でも少しだけ寝たい。一睡でもできればそれは、徹夜とは言わない。
そんな覚悟にも似た思いで寝る準備をし、しかしベッドに入ったら寝過ごしてしまいそうだったので、床に座布団を敷いて仮眠をとったのだった。
さすがは私。
本日、1試合目が終わった。結果は、梟谷にストレート負け。
いやしかし、さすがにストレートで負けるとは思っていなかった。木兎がとても好調だった。というか、木兎をしょぼくれモードにさせなかった赤葦の手腕がさすがである。
「ねえ、アレ、なんとかして」
次の試合までの休憩時間に、研磨がため息まじりにそうつぶやく。
視線の先にはリエーフ。夜久曰く、いいとこなしでいじけているのだそう。めんどくさーい。
私の気持ちとは裏腹に、鉄朗はその人に近づいていくので、やはり世話好きなんだな、と思う。いや、主将だから頑張らないといけないのか。まあ、どちらも同じようなもんか。
「俺はもっと、バシバシ点獲って、ブロック決めて、観客席からワーキャー言われる男なんです!」
すなおー。鉄朗も私と同じ顔をしている。
が、そこで見放さず、先輩として主将として、しっかり答えるのが、鉄朗なのである。
そんな彼らを横目で眺めながら。
鉄朗の口数が少ないなあ、と。
たぶん、研磨も、それで鉄朗に話を振ったのだろうなあ、と思う。
梟谷のときは楽しそうだったけど。
やっぱりプレッシャーとかあるのかな。
『てつ、……黒尾、』
幼馴染の名前を呼ぶと、いつものニヤニヤ顔はなくて、ん?と真面目モード。
『さっきの試合で、戸美のエース4番がケガした。たぶん、今回も12番で来ると思う。1年』
「マジ!? サチさんよく見てたね」
『まあねー。それが私の仕事なので』
「それはそれは、心強い」
知りえている情報を鉄朗に伝える。
1年ということで、言うほどのデータはないけど、先ほどの試合での活躍ぶりからして、1年ではあるものの、3年エースの代わりを務めるだけのことはある。
『結局は試合やってみないとわかんないけどね』
「いや、十分。サンキューな」
『……鉄朗』
背を向けて歩き出す幼馴染を、思わず呼び止めた。
「はーい?」
ツカツカと近づいて、ユニフォームからたまに顔を出す磁器ネックレスをつまむ。
私も一緒に戦っているよ、とそう言いたかった。
「ん?」
『大丈夫、負けない。必要な情報は、私が処理する』
伝わっただろうか?
鉄朗を見上げると、いつもの胡散臭い顔で笑っている。
「はは、サチさん、もしかして元気づけてくれてる?」
『うん、まあ。口数少ないから、思い詰めてるなあ、と思って』
ネックレスから手を放すと、代わりに鉄朗の顔が耳元へと振ってきた。
「元気出た。……また不安になったら、ネックレス触る」
『プレゼントした甲斐がある』
「シュシュ、似合ってマスね」
鉄朗の長い手が、私のシュシュに触れたのがわかった。
照れくさいが、それを顔に出したら負けな気がして、『まあねー』となんでもないように答えてみる。
音駒の赤。
誕生日に鉄朗からもらったシュシュのうち、赤いものをつけている。音駒のユニフォームと同じ色、と言って渡された。次の試合はセカンドユニフォームだから、白がメインだけれども。
そうこうしているうちに、女子の試合が終わった。
いよいよだ。
私が試合に出るわけではないのに、心臓がすごく痛い。
中学で試合に出たときのことを思い出す。
音駒のみんなに勝ってほしい。
いや、一緒に勝つ。
相変わらず無口な主将の背中を、思い切りバシンと叩いた。
『春高行くよ』
鉄朗は一度だけその背中を振り返り、ニカっと笑ってから、コートへ向かった。音駒高校では主将の代名詞である「1」を背負って、コートまでの道のりを踏みしめていた。
1セット目は、戸美リードで進んでいる。音駒にとってはこれが普通であるので、別に問題はない。
ただ、なんというかちょっと、戸美の空気感って感じ。
『……』
ま、研磨が何とかするでしょう。
私は私のするべきことを。
相手コートを俯瞰しながら、今日のデータをとりながら、少しずつ見えてくる違和感。
今日、レフトのクロスが多い。
12番はほとんどデータないからわからないけど、1番は確実に多い。
データのない12番だって、相対的には見れないが、打数でいうとクロスが多い。というかストレートほぼない。
何か作戦?
いや違う。
何だろう、なんか違和感。どこに―――!
ガタ、と隣に座るコーチと監督が席を立つ音で我に返る。
何が起きたのだろうかと、コートに目をやると、全員が同じ方向を向いている。そしてそちらに目をむければ、夜久が右足をかばって歩いていた。
『っ、』
捻挫かな。たぶんギャラリーに突っ込んだときにやったのだろう。ボールを深追いしすぎたかな。
この試合中に戻れるだろうか―――いや、無理っぽい。
そんなことを考えながら、救急箱をベンチの方へ用意する。
直井コーチが手当するようなので、ひとまず夜久のことは放置することにした。
この状況を打破するべく、鉄朗と研磨の元へ急ぐ。
タイムアウトを取ってはいたが、みんなどこか暗いというか、顔が引きつっている。音駒の守り神が不在となるのだから、しょうがないとは思う。でも、それで負けるわけにもいかない。
「ねえ、サチ。向こうの1番、いつもああだっけ?」
研磨も同じことを思っていたらしい。いつもと変わらないようすで―――明るくもなく、暗くもない、事実を淡々と述べる感じで―――、話題を振られる。
『いや。今日はクロスが多い。ちなみに12番も』
「なんか意図があるのかな、」
『たぶんない。セッターに違和感。ケガがまだ完治してないっぽい』
何度も見た映像と、フォームというか姿勢が少し違う。
『トスがアンテナまで伸びないから、打ち分けしづらいんだと思う。……手首、いや、肩、かな』
そこまで伝えると、研磨がニヤリと笑う。人はそれを、不敵な笑み、という。
「ダイジョブなんじゃない?」
研磨の―――事実しか言わない研磨の言葉に、それまで暗かった雰囲気が一気に明るくなったのがわかった。
「芝山、後衛ではリエーフとだけ替わって」
研磨の提案に、一瞬シン、となる。
おい主将、なんか言え。そんな気持ちでその人の背中をグーで殴った。
「っ、そうだな、俺とは交替無し」
隣で研磨もコクコクと頷く。
「たまには主将にも、カッコイイ仕事、させてちょうだいよ」と芝山をフォローするのだけれど、いつもの余裕しゃくしゃくの笑顔は見えない。思い切り引きつった笑み。
鉄朗がだいぶまいっている。余裕がない感じ。
大丈夫だろうか。
「クロも夜久くんには及ばないまでも、レシーブ上手だし、」
研磨が鉄朗のフォローに回っている。うん、大丈夫だ、なんとかなる。
研磨が大丈夫と言っているし、勝ち筋見えてるっぽいし、なら大丈夫だろう。
あと、私ができることとすれば、夜久のケガの手当を手伝うことくらいだろうか。
話し合いの邪魔をしないようにそっとその場を抜け、夜久とコーチのもとへ戻ると、「いっ、」とか言っている。夜久が。
『うわあ、やっちゃったねー』
「凹んでるんだから、もう少し優しい言葉をかけろよ」
『研磨が大丈夫だって。だから早く治して、春高までにリエーフ鍛えて』
そういえば、少し安心したような顔をした。
「で、倉木はどんな秘策を預けてきたんだ?」
研磨と話していたことだろう。
『向こうのセッターが、たぶんケガ治ったばかりで、トス乱れてるって話』
「へえ、よくわかるな、そんなこと」
『まあねー。フォームが違うし、』
「……徹夜なんてしてないよな?」
『……してない』
ウソがばれないように、プイと違う方向を向けば、「したな」とか言われる。
『徹夜ではない。1時間は寝た』
「ほぼ徹夜じゃねーか。なんだよ1時間って」
『はいはい、これからは気を付けますー』
ウチには保護者がたくさんいて困る。
鉄朗も、夜久も、海もそう。3年生はみんな揃って保護者だった。
そんな夜久の隣で試合を眺める。
鉄朗のドシャットで同点
戸美1番のブロックアウトで1点ビハインド
鉄朗の速攻で同点
12番のスパイクで1点ビハインド
福永のスパイクで同点
リエーフのまぐれドシャットで1点リード
そして―――
『っ、』
鉄朗のバックアタックが決まった。
リエーフがパイプになっているので、敵ブロックも欺けたようだ。
セット終了のホイッスルが鳴る。
『きれー』
勝てる、とそう信じてはいたけど。やはりセットを取ると安堵感があるもので。その安堵感のせいで、口元が緩んでしまった。思わず心の声が漏れてしまい、夜久にばっちり聞かれた。
「んな見とれるくらいなら、付き合っちまえよ」
何の気なしの夜久の言葉に、昨日の出来事がアレコレ思い出され、顔が熱くなる。
「え、は、付き合ってんのか、お前ら」
『ちが―――付き合ってない、』
「じゃあなんで、そんな照れんだ、」
これ以上質問攻めにあう前に退散しようと立ち上がったところで、ゴツンと誰かにぶつかった。
『、』
「そんなに慌ててどちらまで?」
まったく余裕のない主将のお出ましだった。
「お前ら、付き合ってんのかよ」
「それよかやっくん、ケガ、大丈夫か?」
「おい、話逸らすな」
「……春高終わるまでは、バレー一筋デスよ」
じゃ、サチさん返してもらうねー、そう言い残して、鉄朗が私の腕をつかむ。そのまま選手陣の方へ引っ張られていった。
『鉄朗?』
「ちゃんと近くで応援しててくださーい」
見上げると、むすっとした顔がある。
これで主将が務まるのだから不思議だなあ、と。
不思議に思いつつ、セット感の空気を肌で感じ取る。
1セット目をとれた喜びと安堵。
夜久がいないことの不安というか焦り。
春高行きの切符を手に入れたいという欲望。
主将というプレッシャー。
後衛でリベロの芝山と交代しないとしたことで、体力的にもこれからしんどくなりそうだなあ、と、いつもよりも無口な主将を後ろから眺めていた。
相変わらず、ひどい寝ぐせだよなあ、と今更なことを思った。
43プレッシャー
山本「サチさんって、人間の体を透視できるんですか?」
黒尾「研磨ー、山本がバカ言ってるー」
研磨「サチは、幽霊とか見えるんだって(大嘘)」
山本「はっ!?」
黒尾「ぶっ」
そしてもし梟谷に勝てたなら、優勝か準優勝ということで、春高の出場権は獲得できるわけで。
もし、梟谷に負けたなら。3位決定戦に勝った方が春高へ行ける。負けた方は4位という称号は得られるけど、春高には行けない。
選手が目の前の試合に集中できるように、データを集めて、解析して、当日のプレイを見ながらアップデートして、そして対策を考える。今の私が、チームの勝利に貢献できる最大限。
そして。明日が試合当日というこの日に。
梟谷のデータはいらない。だってよく知ってるから。
井闥山のデータはあってもいい。おそらく決勝戦に駒を進めるから。
戸美のデータはないとダメだ。おそらく、三位決定戦であたるから。
初戦に絶対勝つ、そういう心構えも大事だし、選手ならそうすべきだと思う。
でも私は選手ではない。マネージャーとして、彼らの勝利に貢献したい。
ともするならば、私の選択肢は一つしかない。
最後の1枠をかけた争いになったときに、勝率を1%でもあげられるように。
戸美学園の過去の試合データを何度も見返して、いろんなデータを作った。
気づいたら空がうっすら明るくなっていた。
ああ、今日も徹夜だったなあ、と思いながら、でも少しだけ寝たい。一睡でもできればそれは、徹夜とは言わない。
そんな覚悟にも似た思いで寝る準備をし、しかしベッドに入ったら寝過ごしてしまいそうだったので、床に座布団を敷いて仮眠をとったのだった。
さすがは私。
本日、1試合目が終わった。結果は、梟谷にストレート負け。
いやしかし、さすがにストレートで負けるとは思っていなかった。木兎がとても好調だった。というか、木兎をしょぼくれモードにさせなかった赤葦の手腕がさすがである。
「ねえ、アレ、なんとかして」
次の試合までの休憩時間に、研磨がため息まじりにそうつぶやく。
視線の先にはリエーフ。夜久曰く、いいとこなしでいじけているのだそう。めんどくさーい。
私の気持ちとは裏腹に、鉄朗はその人に近づいていくので、やはり世話好きなんだな、と思う。いや、主将だから頑張らないといけないのか。まあ、どちらも同じようなもんか。
「俺はもっと、バシバシ点獲って、ブロック決めて、観客席からワーキャー言われる男なんです!」
すなおー。鉄朗も私と同じ顔をしている。
が、そこで見放さず、先輩として主将として、しっかり答えるのが、鉄朗なのである。
そんな彼らを横目で眺めながら。
鉄朗の口数が少ないなあ、と。
たぶん、研磨も、それで鉄朗に話を振ったのだろうなあ、と思う。
梟谷のときは楽しそうだったけど。
やっぱりプレッシャーとかあるのかな。
『てつ、……黒尾、』
幼馴染の名前を呼ぶと、いつものニヤニヤ顔はなくて、ん?と真面目モード。
『さっきの試合で、戸美のエース4番がケガした。たぶん、今回も12番で来ると思う。1年』
「マジ!? サチさんよく見てたね」
『まあねー。それが私の仕事なので』
「それはそれは、心強い」
知りえている情報を鉄朗に伝える。
1年ということで、言うほどのデータはないけど、先ほどの試合での活躍ぶりからして、1年ではあるものの、3年エースの代わりを務めるだけのことはある。
『結局は試合やってみないとわかんないけどね』
「いや、十分。サンキューな」
『……鉄朗』
背を向けて歩き出す幼馴染を、思わず呼び止めた。
「はーい?」
ツカツカと近づいて、ユニフォームからたまに顔を出す磁器ネックレスをつまむ。
私も一緒に戦っているよ、とそう言いたかった。
「ん?」
『大丈夫、負けない。必要な情報は、私が処理する』
伝わっただろうか?
鉄朗を見上げると、いつもの胡散臭い顔で笑っている。
「はは、サチさん、もしかして元気づけてくれてる?」
『うん、まあ。口数少ないから、思い詰めてるなあ、と思って』
ネックレスから手を放すと、代わりに鉄朗の顔が耳元へと振ってきた。
「元気出た。……また不安になったら、ネックレス触る」
『プレゼントした甲斐がある』
「シュシュ、似合ってマスね」
鉄朗の長い手が、私のシュシュに触れたのがわかった。
照れくさいが、それを顔に出したら負けな気がして、『まあねー』となんでもないように答えてみる。
音駒の赤。
誕生日に鉄朗からもらったシュシュのうち、赤いものをつけている。音駒のユニフォームと同じ色、と言って渡された。次の試合はセカンドユニフォームだから、白がメインだけれども。
そうこうしているうちに、女子の試合が終わった。
いよいよだ。
私が試合に出るわけではないのに、心臓がすごく痛い。
中学で試合に出たときのことを思い出す。
音駒のみんなに勝ってほしい。
いや、一緒に勝つ。
相変わらず無口な主将の背中を、思い切りバシンと叩いた。
『春高行くよ』
鉄朗は一度だけその背中を振り返り、ニカっと笑ってから、コートへ向かった。音駒高校では主将の代名詞である「1」を背負って、コートまでの道のりを踏みしめていた。
1セット目は、戸美リードで進んでいる。音駒にとってはこれが普通であるので、別に問題はない。
ただ、なんというかちょっと、戸美の空気感って感じ。
『……』
ま、研磨が何とかするでしょう。
私は私のするべきことを。
相手コートを俯瞰しながら、今日のデータをとりながら、少しずつ見えてくる違和感。
今日、レフトのクロスが多い。
12番はほとんどデータないからわからないけど、1番は確実に多い。
データのない12番だって、相対的には見れないが、打数でいうとクロスが多い。というかストレートほぼない。
何か作戦?
いや違う。
何だろう、なんか違和感。どこに―――!
ガタ、と隣に座るコーチと監督が席を立つ音で我に返る。
何が起きたのだろうかと、コートに目をやると、全員が同じ方向を向いている。そしてそちらに目をむければ、夜久が右足をかばって歩いていた。
『っ、』
捻挫かな。たぶんギャラリーに突っ込んだときにやったのだろう。ボールを深追いしすぎたかな。
この試合中に戻れるだろうか―――いや、無理っぽい。
そんなことを考えながら、救急箱をベンチの方へ用意する。
直井コーチが手当するようなので、ひとまず夜久のことは放置することにした。
この状況を打破するべく、鉄朗と研磨の元へ急ぐ。
タイムアウトを取ってはいたが、みんなどこか暗いというか、顔が引きつっている。音駒の守り神が不在となるのだから、しょうがないとは思う。でも、それで負けるわけにもいかない。
「ねえ、サチ。向こうの1番、いつもああだっけ?」
研磨も同じことを思っていたらしい。いつもと変わらないようすで―――明るくもなく、暗くもない、事実を淡々と述べる感じで―――、話題を振られる。
『いや。今日はクロスが多い。ちなみに12番も』
「なんか意図があるのかな、」
『たぶんない。セッターに違和感。ケガがまだ完治してないっぽい』
何度も見た映像と、フォームというか姿勢が少し違う。
『トスがアンテナまで伸びないから、打ち分けしづらいんだと思う。……手首、いや、肩、かな』
そこまで伝えると、研磨がニヤリと笑う。人はそれを、不敵な笑み、という。
「ダイジョブなんじゃない?」
研磨の―――事実しか言わない研磨の言葉に、それまで暗かった雰囲気が一気に明るくなったのがわかった。
「芝山、後衛ではリエーフとだけ替わって」
研磨の提案に、一瞬シン、となる。
おい主将、なんか言え。そんな気持ちでその人の背中をグーで殴った。
「っ、そうだな、俺とは交替無し」
隣で研磨もコクコクと頷く。
「たまには主将にも、カッコイイ仕事、させてちょうだいよ」と芝山をフォローするのだけれど、いつもの余裕しゃくしゃくの笑顔は見えない。思い切り引きつった笑み。
鉄朗がだいぶまいっている。余裕がない感じ。
大丈夫だろうか。
「クロも夜久くんには及ばないまでも、レシーブ上手だし、」
研磨が鉄朗のフォローに回っている。うん、大丈夫だ、なんとかなる。
研磨が大丈夫と言っているし、勝ち筋見えてるっぽいし、なら大丈夫だろう。
あと、私ができることとすれば、夜久のケガの手当を手伝うことくらいだろうか。
話し合いの邪魔をしないようにそっとその場を抜け、夜久とコーチのもとへ戻ると、「いっ、」とか言っている。夜久が。
『うわあ、やっちゃったねー』
「凹んでるんだから、もう少し優しい言葉をかけろよ」
『研磨が大丈夫だって。だから早く治して、春高までにリエーフ鍛えて』
そういえば、少し安心したような顔をした。
「で、倉木はどんな秘策を預けてきたんだ?」
研磨と話していたことだろう。
『向こうのセッターが、たぶんケガ治ったばかりで、トス乱れてるって話』
「へえ、よくわかるな、そんなこと」
『まあねー。フォームが違うし、』
「……徹夜なんてしてないよな?」
『……してない』
ウソがばれないように、プイと違う方向を向けば、「したな」とか言われる。
『徹夜ではない。1時間は寝た』
「ほぼ徹夜じゃねーか。なんだよ1時間って」
『はいはい、これからは気を付けますー』
ウチには保護者がたくさんいて困る。
鉄朗も、夜久も、海もそう。3年生はみんな揃って保護者だった。
そんな夜久の隣で試合を眺める。
鉄朗のドシャットで同点
戸美1番のブロックアウトで1点ビハインド
鉄朗の速攻で同点
12番のスパイクで1点ビハインド
福永のスパイクで同点
リエーフのまぐれドシャットで1点リード
そして―――
『っ、』
鉄朗のバックアタックが決まった。
リエーフがパイプになっているので、敵ブロックも欺けたようだ。
セット終了のホイッスルが鳴る。
『きれー』
勝てる、とそう信じてはいたけど。やはりセットを取ると安堵感があるもので。その安堵感のせいで、口元が緩んでしまった。思わず心の声が漏れてしまい、夜久にばっちり聞かれた。
「んな見とれるくらいなら、付き合っちまえよ」
何の気なしの夜久の言葉に、昨日の出来事がアレコレ思い出され、顔が熱くなる。
「え、は、付き合ってんのか、お前ら」
『ちが―――付き合ってない、』
「じゃあなんで、そんな照れんだ、」
これ以上質問攻めにあう前に退散しようと立ち上がったところで、ゴツンと誰かにぶつかった。
『、』
「そんなに慌ててどちらまで?」
まったく余裕のない主将のお出ましだった。
「お前ら、付き合ってんのかよ」
「それよかやっくん、ケガ、大丈夫か?」
「おい、話逸らすな」
「……春高終わるまでは、バレー一筋デスよ」
じゃ、サチさん返してもらうねー、そう言い残して、鉄朗が私の腕をつかむ。そのまま選手陣の方へ引っ張られていった。
『鉄朗?』
「ちゃんと近くで応援しててくださーい」
見上げると、むすっとした顔がある。
これで主将が務まるのだから不思議だなあ、と。
不思議に思いつつ、セット感の空気を肌で感じ取る。
1セット目をとれた喜びと安堵。
夜久がいないことの不安というか焦り。
春高行きの切符を手に入れたいという欲望。
主将というプレッシャー。
後衛でリベロの芝山と交代しないとしたことで、体力的にもこれからしんどくなりそうだなあ、と、いつもよりも無口な主将を後ろから眺めていた。
相変わらず、ひどい寝ぐせだよなあ、と今更なことを思った。
43プレッシャー
山本「サチさんって、人間の体を透視できるんですか?」
黒尾「研磨ー、山本がバカ言ってるー」
研磨「サチは、幽霊とか見えるんだって(大嘘)」
山本「はっ!?」
黒尾「ぶっ」