Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝練のために体育館に向かっていると、他校の制服の女子2人組が声をかけてきた。
研磨はまだ部室で準備中だ。
「黒尾! 久しぶり」
「元気してた? 明日の二次予選、残ってるんでしょ?」
ああ、あれだ。
サチの元チームメイトたち。サチの話からすると、インハイ予選でもめた相手である。
「久しぶりー」
正直、会話する必要性を感じなかった。無視してこの場を立ち去るか、それともサチが傷ついた分、嫌みの一つや二つ、言ってやろうか。そんなことを考えたのだが、俺の感情でこいつらをどうにかして、サチにまた被害が行くのは避けたかった。
そんな思いから、得意のポーカーフェイスで当たり障りなく対応しようと思っていたのに。
「あれ、倉木さん、マネ辞めたの?」
クスクス、と笑いながら話す態度に、なけなしの他人行儀は崩落した。
「あんたらに会わせたくないんでね。ウチのサチさんに、これ以上関わらないでもらえます?」
俺に好意を寄せていることは、態度というか視線というかでなんとなくわかる。まあ、どこまで本気かはわからないが。別にどうだっていい。興味もなにもわかなかった。
「……前から思ってたんだけどさ。倉木のどこがいいわけ? 黒尾に釣り合わなくない?」
適当にあしらったのが尺に触ったのか、顔を真っ赤にして、目を吊り上げている。
サチは俺には釣り合わず、自分たちなら釣り合うという自信が、どこから来ているのか、まったくもってわからない。
「いいとこしかなくない? 逆にあんたらは、あいつのどこに勝てると思ってるわけ?」
「っ、」
女子相手に、ここまで容赦ない言葉を投げかけるのは、正直気が引けるが、しかし、サチを思うとこれでも足りないくらいだ。
「頼むからさ。俺らのことは放っておいてくんない?」
うるうると目頭がうるんでいる様子がわかったが、彼女らをその場に残し、体育館へ歩を進めた。
「サチさん、ちょっといい」
朝練が終わるころに体育館にやってきたサチに声をかけると、『うわー』とか言ってそうな顔をされた。
『何ですかー。ご機嫌斜めの黒尾さん』
俺の機嫌の悪さなど、誰も悟らないようなことを、この幼馴染は悟ってしまう。でもそれが嬉しいと思うのは、相手がサチだからなのだろう。
「あ、やっぱバレちゃう?」
『まあねー。で、何』
これでも、まわりからは、ポーカーフェイスとか策士と言われ続け、自分でもそれをこなせている自信はあるのだけれども。それを見破るこいつは、それが当たり前かのように、見破ったことを華麗に聞き流す。
とはいえ、そんなことは日常茶飯事なので、いちいち凹んでいられない。
「今日はさ、中の仕事メインでやってほしいなーと思いまして」
外に出れば、サチの元チームメイトたちにまた絡まれるかもしれない。
先ほど、ついつい自分の感情に負けてしまい、散々に突き放してきてしまった。その腹いせに、サチへ嫌がらせなどされたらたまったものではない。
あいつらに会わせなければいい。
そんな考えから、サチに指示を出した。
『別、に、いいけど』
そのあと2,3会話を交わしたが、不思議そうな表情の彼女はしかし、それ以上理由を問い詰めることはしなかった。
そういうところは、察しが良くて助かる―――そういうところ以外は、目も当てられないほどの鈍さなのだが。
練習は順調に進み、練習後半、試合形式でフォーメーションの確認をしていた時に。
運悪くテーピングがなくなった。替えは部室にあるらしい。サチの代わりに取りに行くことを打診したのだが、さすがに不自然だったらしく、断られた。
「……寄り道せずに戻ってきなさいよ」
とは言ったものの、部室へと向かうサチの後ろ姿に、なんだか嫌な予感がして。
5分たっても戻らないマネージャーの姿を探すべく、気づいたら体育館を飛び出していた。
部室の方へと歩いていると、ちょっとした広場になっているところで、サチと、そして今朝方牽制しておいたはずの女子2人が言い合いをしていた。慌てて近づこうとしたのだが、『大した努力もしないヤツが、知ったような口を利かないで』というサチの声が聞こえてくる。サチにしては珍しく怒気をはらんだ声に、思わず足を止める。
『悔しいなら、もっとちゃんと練習すればいいじゃない。ひたむきにがむしゃらに。そんな努力もしないで、知ったような口をきいて、あんたたちはいったい何を知っているわけ?』
その声は、姿は、これまでの、対人関係を面倒くさいと放棄していたサチのソレではなかった。インハイ予選以降、不愛想、不器用なりに、人と関わろうとしてきたサチの、思いやり、だった。
「何よ。ちょっとバレーがうまいくらいで、」
そんな嫉妬じみた言葉では、もうサチは揺らがないのだと。
彼女の背中から、そんなことを読み取れた。
『謝って』
「は?」
『ウチのチームに謝って。明日、勝って全国に行くんだから』
サチの言葉に、思わず目を見張る。
”勝って全国に行く”、その言葉ももちろん嬉しい。
でもそれよりなにより、サチが、”ウチのチーム”と言った。脈絡的に、ウチのチームとは俺たち男子バレー部のことで、サチがちゃんと、チームの一員であると自覚していることが、そう思ってくれていることが、どうしようもなく嬉しかった。
「何でも持ってるやつに、うちらの気持ちがわかるはずない」
「バレーボールのセンスも、身体能力も、守ってくれる幼馴染も、」
違う。サチは何でも持っているわけではない。
それに、俺はサチが幼馴染だから守りたいわけではない。
サチは俺がいなくても、一人で立っていけるヤツなのだと思う。
弱音なんて吐きはしないし、格好悪いところなんて見せてくれはしない。放っておけば、あてもなく、でもどこかしらへと進んでいくようなヤツで。
そんな彼女だからこそ、支えたいと思うのだ。
『……人を貶めるよりも、自分の力を磨く方がいいじゃん。自分にないものばかり数えるんじゃなくて。今持っているものをふやしていきなよ』
サチとは、昔からそういうヤツだった。
他人に興味はない。それは悪い面ももちろんあるが、他人が持っているものに対して自分を卑下しない、自分は自分という、信念をもっているということで。
そういうブレないところが、彼女を彼女たらしめる所以であり、魅力なのだと思うから。この幼馴染が、どうしようもなく好きなのだろう。せめて俺の隣では、精一杯甘やかしてやりたいのだと思う。
けれども、元チームメイトたちがいなくなると、先ほどまで頼もしかった背中が、急に小刻みに震え始める。顔をゴシゴシとしていることから、彼女の心境も思いやられて。
気づいたら、着ていたジャージを、サチの頭にそっとかぶせていた。
泣いてる顔を誰にも見られないように。
強くありたいと思っているサチが、強いままでいられるように。
『てつろ、』
泣きながらこちらを見上げるサチに、どうしようもない感情がこみあげてくる。
この気持ちを、なんと形容すればいいのだろうか。少なくとも今の俺は、これをうまく表現できる言葉を知らない。
「んー?」
わからないから、本能の赴くままに、ジャージ越しに、サチをそっと抱き寄せた。頭をなでると、少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑う。
何だろう、これまでとは違う気がする。
サチとの距離が、”幼馴染”ではなくなった気がする。
『こういうことは、私じゃなくて、好きな子にやるもんでしょ』
ジャージはそのままに、腕の中から逃げ出される。
『……幼馴染と恋人の境界線、ちゃんとしないと勘違いされちゃうよ』
ああ、やっぱり。
自然と笑みがこぼれてしまっていた。
サチの準備ができた。サチのバレーボールへの熱意の片隅に、俺の入る余地ができたのだ。
ようやく、幼馴染から解放されるのだと思うと。
はやる気持ちは抑えられなかった。
「サチさんにしかやりません。こういうことは」
言い終える前に、逃げ出した幼馴染をもう一度腕の中に引き寄せる。
『え、』と固まるサチは、今はまだ幼馴染。
だけれども。
「春高終わったら、ちゃんと告白するから。待ってて」
サチは今、どんな顔をしているのだろうか。
抱き寄せた腕の中で、俺がかぶせたジャージの中で、うつむいたまま、しかし確かに、こくりと頷いたのがわかった。
41幼馴染からの解放
研磨はまだ部室で準備中だ。
「黒尾! 久しぶり」
「元気してた? 明日の二次予選、残ってるんでしょ?」
ああ、あれだ。
サチの元チームメイトたち。サチの話からすると、インハイ予選でもめた相手である。
「久しぶりー」
正直、会話する必要性を感じなかった。無視してこの場を立ち去るか、それともサチが傷ついた分、嫌みの一つや二つ、言ってやろうか。そんなことを考えたのだが、俺の感情でこいつらをどうにかして、サチにまた被害が行くのは避けたかった。
そんな思いから、得意のポーカーフェイスで当たり障りなく対応しようと思っていたのに。
「あれ、倉木さん、マネ辞めたの?」
クスクス、と笑いながら話す態度に、なけなしの他人行儀は崩落した。
「あんたらに会わせたくないんでね。ウチのサチさんに、これ以上関わらないでもらえます?」
俺に好意を寄せていることは、態度というか視線というかでなんとなくわかる。まあ、どこまで本気かはわからないが。別にどうだっていい。興味もなにもわかなかった。
「……前から思ってたんだけどさ。倉木のどこがいいわけ? 黒尾に釣り合わなくない?」
適当にあしらったのが尺に触ったのか、顔を真っ赤にして、目を吊り上げている。
サチは俺には釣り合わず、自分たちなら釣り合うという自信が、どこから来ているのか、まったくもってわからない。
「いいとこしかなくない? 逆にあんたらは、あいつのどこに勝てると思ってるわけ?」
「っ、」
女子相手に、ここまで容赦ない言葉を投げかけるのは、正直気が引けるが、しかし、サチを思うとこれでも足りないくらいだ。
「頼むからさ。俺らのことは放っておいてくんない?」
うるうると目頭がうるんでいる様子がわかったが、彼女らをその場に残し、体育館へ歩を進めた。
「サチさん、ちょっといい」
朝練が終わるころに体育館にやってきたサチに声をかけると、『うわー』とか言ってそうな顔をされた。
『何ですかー。ご機嫌斜めの黒尾さん』
俺の機嫌の悪さなど、誰も悟らないようなことを、この幼馴染は悟ってしまう。でもそれが嬉しいと思うのは、相手がサチだからなのだろう。
「あ、やっぱバレちゃう?」
『まあねー。で、何』
これでも、まわりからは、ポーカーフェイスとか策士と言われ続け、自分でもそれをこなせている自信はあるのだけれども。それを見破るこいつは、それが当たり前かのように、見破ったことを華麗に聞き流す。
とはいえ、そんなことは日常茶飯事なので、いちいち凹んでいられない。
「今日はさ、中の仕事メインでやってほしいなーと思いまして」
外に出れば、サチの元チームメイトたちにまた絡まれるかもしれない。
先ほど、ついつい自分の感情に負けてしまい、散々に突き放してきてしまった。その腹いせに、サチへ嫌がらせなどされたらたまったものではない。
あいつらに会わせなければいい。
そんな考えから、サチに指示を出した。
『別、に、いいけど』
そのあと2,3会話を交わしたが、不思議そうな表情の彼女はしかし、それ以上理由を問い詰めることはしなかった。
そういうところは、察しが良くて助かる―――そういうところ以外は、目も当てられないほどの鈍さなのだが。
練習は順調に進み、練習後半、試合形式でフォーメーションの確認をしていた時に。
運悪くテーピングがなくなった。替えは部室にあるらしい。サチの代わりに取りに行くことを打診したのだが、さすがに不自然だったらしく、断られた。
「……寄り道せずに戻ってきなさいよ」
とは言ったものの、部室へと向かうサチの後ろ姿に、なんだか嫌な予感がして。
5分たっても戻らないマネージャーの姿を探すべく、気づいたら体育館を飛び出していた。
部室の方へと歩いていると、ちょっとした広場になっているところで、サチと、そして今朝方牽制しておいたはずの女子2人が言い合いをしていた。慌てて近づこうとしたのだが、『大した努力もしないヤツが、知ったような口を利かないで』というサチの声が聞こえてくる。サチにしては珍しく怒気をはらんだ声に、思わず足を止める。
『悔しいなら、もっとちゃんと練習すればいいじゃない。ひたむきにがむしゃらに。そんな努力もしないで、知ったような口をきいて、あんたたちはいったい何を知っているわけ?』
その声は、姿は、これまでの、対人関係を面倒くさいと放棄していたサチのソレではなかった。インハイ予選以降、不愛想、不器用なりに、人と関わろうとしてきたサチの、思いやり、だった。
「何よ。ちょっとバレーがうまいくらいで、」
そんな嫉妬じみた言葉では、もうサチは揺らがないのだと。
彼女の背中から、そんなことを読み取れた。
『謝って』
「は?」
『ウチのチームに謝って。明日、勝って全国に行くんだから』
サチの言葉に、思わず目を見張る。
”勝って全国に行く”、その言葉ももちろん嬉しい。
でもそれよりなにより、サチが、”ウチのチーム”と言った。脈絡的に、ウチのチームとは俺たち男子バレー部のことで、サチがちゃんと、チームの一員であると自覚していることが、そう思ってくれていることが、どうしようもなく嬉しかった。
「何でも持ってるやつに、うちらの気持ちがわかるはずない」
「バレーボールのセンスも、身体能力も、守ってくれる幼馴染も、」
違う。サチは何でも持っているわけではない。
それに、俺はサチが幼馴染だから守りたいわけではない。
サチは俺がいなくても、一人で立っていけるヤツなのだと思う。
弱音なんて吐きはしないし、格好悪いところなんて見せてくれはしない。放っておけば、あてもなく、でもどこかしらへと進んでいくようなヤツで。
そんな彼女だからこそ、支えたいと思うのだ。
『……人を貶めるよりも、自分の力を磨く方がいいじゃん。自分にないものばかり数えるんじゃなくて。今持っているものをふやしていきなよ』
サチとは、昔からそういうヤツだった。
他人に興味はない。それは悪い面ももちろんあるが、他人が持っているものに対して自分を卑下しない、自分は自分という、信念をもっているということで。
そういうブレないところが、彼女を彼女たらしめる所以であり、魅力なのだと思うから。この幼馴染が、どうしようもなく好きなのだろう。せめて俺の隣では、精一杯甘やかしてやりたいのだと思う。
けれども、元チームメイトたちがいなくなると、先ほどまで頼もしかった背中が、急に小刻みに震え始める。顔をゴシゴシとしていることから、彼女の心境も思いやられて。
気づいたら、着ていたジャージを、サチの頭にそっとかぶせていた。
泣いてる顔を誰にも見られないように。
強くありたいと思っているサチが、強いままでいられるように。
『てつろ、』
泣きながらこちらを見上げるサチに、どうしようもない感情がこみあげてくる。
この気持ちを、なんと形容すればいいのだろうか。少なくとも今の俺は、これをうまく表現できる言葉を知らない。
「んー?」
わからないから、本能の赴くままに、ジャージ越しに、サチをそっと抱き寄せた。頭をなでると、少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑う。
何だろう、これまでとは違う気がする。
サチとの距離が、”幼馴染”ではなくなった気がする。
『こういうことは、私じゃなくて、好きな子にやるもんでしょ』
ジャージはそのままに、腕の中から逃げ出される。
『……幼馴染と恋人の境界線、ちゃんとしないと勘違いされちゃうよ』
ああ、やっぱり。
自然と笑みがこぼれてしまっていた。
サチの準備ができた。サチのバレーボールへの熱意の片隅に、俺の入る余地ができたのだ。
ようやく、幼馴染から解放されるのだと思うと。
はやる気持ちは抑えられなかった。
「サチさんにしかやりません。こういうことは」
言い終える前に、逃げ出した幼馴染をもう一度腕の中に引き寄せる。
『え、』と固まるサチは、今はまだ幼馴染。
だけれども。
「春高終わったら、ちゃんと告白するから。待ってて」
サチは今、どんな顔をしているのだろうか。
抱き寄せた腕の中で、俺がかぶせたジャージの中で、うつむいたまま、しかし確かに、こくりと頷いたのがわかった。
41幼馴染からの解放