Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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暗くなった夜道を、いつもとは違う人と帰る。
いつもなら黒尾と研磨と一緒に帰る道のり。すぐに家に帰り着くはずなのに、今日はなんだかとても長く感じる。やっぱり一人で帰ればよかったかなー。と少しだけ後悔。
「あー倉木。……今日は突然ごめんな、時間作ってくれてありがとう」
『いいよお礼は。丁度予定あったから、自主練が始まるまでに帰るタイミング探してて。むしろ助かった』
とりあえず、心にもないことを並べておく。社交辞令というスキルをこの何年かで身に着けていた。
「いつも自主練付き合ってるの?」
『んー用事があったら先に帰るけど、なかったら付き合ってる』
「マネ1人しかいないんだもんな。大変だよな」
大変。
その言葉は少しひっかかる。
『好きでやってるし、やりがいを感じている。……一人でも事足りてるけど、来年のためにマネは探さないとな、とは思うよ』
こんなこと、バレー部のみんなには照れくさくて言えないけど。とくに黒尾には。
”へえ、そんなにバレー部のこと思ってくれてんだ?”とか言われそう。なんかむかつく。
「はは。倉木は変わんないのな。向上心のカタマリ」
『ん? 向上心? カタマリ?』
意図がわからず眉をひそめる。暗いからひそめた眉まではわからないはずだけど、榛名が説明するように語りだす。
「1年の時さ、怪我でバスケができなくて落ち込んでた俺に、倉木が助言してくれたじゃん」
『あれ、そうだっけ?』
「そうだよ。……怪我をしたからこそ、わかることもあるんじゃないの、ってさ」
そんなことを言った覚えは、しかも榛名相手に言った覚えは、正直ない。覚えていない。でも、それを言われた記憶はある。明確に覚えている。
ただ、今それを言うのはダメな気がする。その言葉は誰かの請け負いで、あなたに言ったことは忘れました、とは。
「その言葉で、俺は今主将やってる。あの時の倉木のおかげ」
ありがとう。と続けられた。
でも。これは受け取っていいありがとうではない、と思う。
『違うよ。私、向上心のカタマリではない。むしろ、まだ全然立ち直れてない』
「え?」
『”怪我をしたからこそ、わかることもあるんじゃない”ってのは、正直自分に言い聞かせてた言葉で、今でも言い聞かせてる。何がわかるのかは、まだわかんない』
こんなこと、以前クラスメートだっただけ、のような榛名に言っても仕方のないことなのだけど。でもありがとうを受け取る資格はない、それだけは正したくて。
「……怪我のこと、倉木と同中のヤツに聞いた。バレー部のマネやってるの、割り切ってるのかと思ってた。よく聞きもしないで、勝手な妄想押し付けてごめん」
『いや、言ってなかったし。謝んなくていいよ』
「もし、倉木が嫌じゃなかったら、その、今度は俺が、倉木が立ち直れるように、手伝いたい」
少しだけ前を歩いていた榛名が、ゆっくりと歩を止め、こちらに向き直った。
「俺じゃ、ダメ?」
整った顔が、二重のぱっちりとした目でこちらを見ている。
目の前で起きていることのはずなのに、きれいな顔立ちだなあとか、もてるんだろうなあとか、そんなことを思っていた。
『んー。恋愛は、今のとこ興味ない。付き合って何するのかもわからないし、今はバレーと向き合いたいって気持ちだけ。だから榛名とは付き合えない』
正直な気持ちを伝えれば、はは、と榛名は人好きのする笑みを浮かべた。
「うん、そうだと思ってた」
『え、そうなの?』
「うん。倉木は、バレー一筋だろなってさ」
『……そんな言われるほど、バレーバレーってわけじゃないよ』
少なくとも中学の頃よりは。そう心の中で付け加えた。
「やっぱ、倉木は向上心のカタマリだよ」
『何それ、話聞いてた?』
「聞いてた。……じゃあ、部活終わったら、俺の入る余地はある?」
『えーわかんない、なってみないと。でもたぶん、今とあんまり変わんないんじゃないかな。恋愛ってワカラナイよね』
「じゃあ黒尾は?」と変な質問が投げられる。
なぜ今ここで黒尾の名前が出てくるのだろう。
『黒尾?』
「部活終わった後、黒尾から告白されたらどうするの?」
『……ありえない仮定話にも、ちゃんと考えないといけない? ありえないし、考える時間、ムダだと思う』
榛名が返す前に、『ウチ、この近くだから』とこちらから切り出す。
告白にはちゃんと答えたし、質問にも誠心誠意答えたし、今日はしっかり社交活動ができたなあ。
「そっか。……今日はホントありがと。また、話しかけてもいい?」
『私に? いいけど、物好きだね』
私あんまり好かれないよ、人から。
そう続けようとして、自分で言っていてむなしいから、口に出すのは辞めた。
「よかった。じゃあまた」
さっそうと帰る背中は、少し肌寒そうな感じがした。
家の前は、小さな公園になっていて、黒尾とか研磨とかと遊ぶときは、その公園で集まるのが暗黙のルールとなっていた。
朝家を出ると、その公園に見慣れた姿があった。研磨が「あれは寝ぐせらしいよ」とか言っていた独特の髪型をした黒尾である。
『朝からどうしたの』
「なんか話したくなって。一緒に登校でもしませんか」
『えー。イヤって言っても、方向同じじゃん』
「はは、ご名答~」
少し、元気がなさそうなのは気のせいだろか。
『なに、元気ないの?』
「あれ、気づいちゃう? 慰めてくれる?」
あ、いつも通りだ。元気がないのは気のせいだった。
慌てて会話の方向転換を図る。
『えー面倒。それは研磨の役目』
「えー。それって、彼氏できたから?」
あー、話したかったこととはコレか。
昨日榛名と一緒に帰ったから。黒尾の行動に合点がいったので、会話の中身に急に興味がなくなる。
『そうかもねー』
「え、付き合うの?」
『さあねー。それよりさあ、昨日動画見てたんだけど、今度当たる高校のセッターさ、―――』
「ああいうヤツがタイプだったの? 爽やかノッポイケメン?」
『え、別に。タイプではない』
「じゃあ何、告白されたから付き合うってヤツ? いつの間に恋愛するようになったの、おねーさん」
話が変な方向に行くので、適当に返事する方が面倒だな、と。
『付き合いませーン。恋愛にも興味ありませーン』
「……」
しばらくの無言の後。「デスヨネー」と返ってきた。
『なに、馬鹿にしてんの?』
「してないしてない。ほっとしてるの」
『私のこと見下してばかりじゃ、黒尾さんもいつまでたっても彼女できませんよー』
「はあ。サチの、そういう、朴念仁な感じ、嫌いじゃないよ」
いつも通りの胡散臭い顔で黒尾がニヤリとした。
04黒尾さんは人参らしい
『ニンジン?』
「ボクネンジン」
『僕、人参?』
いつもなら黒尾と研磨と一緒に帰る道のり。すぐに家に帰り着くはずなのに、今日はなんだかとても長く感じる。やっぱり一人で帰ればよかったかなー。と少しだけ後悔。
「あー倉木。……今日は突然ごめんな、時間作ってくれてありがとう」
『いいよお礼は。丁度予定あったから、自主練が始まるまでに帰るタイミング探してて。むしろ助かった』
とりあえず、心にもないことを並べておく。社交辞令というスキルをこの何年かで身に着けていた。
「いつも自主練付き合ってるの?」
『んー用事があったら先に帰るけど、なかったら付き合ってる』
「マネ1人しかいないんだもんな。大変だよな」
大変。
その言葉は少しひっかかる。
『好きでやってるし、やりがいを感じている。……一人でも事足りてるけど、来年のためにマネは探さないとな、とは思うよ』
こんなこと、バレー部のみんなには照れくさくて言えないけど。とくに黒尾には。
”へえ、そんなにバレー部のこと思ってくれてんだ?”とか言われそう。なんかむかつく。
「はは。倉木は変わんないのな。向上心のカタマリ」
『ん? 向上心? カタマリ?』
意図がわからず眉をひそめる。暗いからひそめた眉まではわからないはずだけど、榛名が説明するように語りだす。
「1年の時さ、怪我でバスケができなくて落ち込んでた俺に、倉木が助言してくれたじゃん」
『あれ、そうだっけ?』
「そうだよ。……怪我をしたからこそ、わかることもあるんじゃないの、ってさ」
そんなことを言った覚えは、しかも榛名相手に言った覚えは、正直ない。覚えていない。でも、それを言われた記憶はある。明確に覚えている。
ただ、今それを言うのはダメな気がする。その言葉は誰かの請け負いで、あなたに言ったことは忘れました、とは。
「その言葉で、俺は今主将やってる。あの時の倉木のおかげ」
ありがとう。と続けられた。
でも。これは受け取っていいありがとうではない、と思う。
『違うよ。私、向上心のカタマリではない。むしろ、まだ全然立ち直れてない』
「え?」
『”怪我をしたからこそ、わかることもあるんじゃない”ってのは、正直自分に言い聞かせてた言葉で、今でも言い聞かせてる。何がわかるのかは、まだわかんない』
こんなこと、以前クラスメートだっただけ、のような榛名に言っても仕方のないことなのだけど。でもありがとうを受け取る資格はない、それだけは正したくて。
「……怪我のこと、倉木と同中のヤツに聞いた。バレー部のマネやってるの、割り切ってるのかと思ってた。よく聞きもしないで、勝手な妄想押し付けてごめん」
『いや、言ってなかったし。謝んなくていいよ』
「もし、倉木が嫌じゃなかったら、その、今度は俺が、倉木が立ち直れるように、手伝いたい」
少しだけ前を歩いていた榛名が、ゆっくりと歩を止め、こちらに向き直った。
「俺じゃ、ダメ?」
整った顔が、二重のぱっちりとした目でこちらを見ている。
目の前で起きていることのはずなのに、きれいな顔立ちだなあとか、もてるんだろうなあとか、そんなことを思っていた。
『んー。恋愛は、今のとこ興味ない。付き合って何するのかもわからないし、今はバレーと向き合いたいって気持ちだけ。だから榛名とは付き合えない』
正直な気持ちを伝えれば、はは、と榛名は人好きのする笑みを浮かべた。
「うん、そうだと思ってた」
『え、そうなの?』
「うん。倉木は、バレー一筋だろなってさ」
『……そんな言われるほど、バレーバレーってわけじゃないよ』
少なくとも中学の頃よりは。そう心の中で付け加えた。
「やっぱ、倉木は向上心のカタマリだよ」
『何それ、話聞いてた?』
「聞いてた。……じゃあ、部活終わったら、俺の入る余地はある?」
『えーわかんない、なってみないと。でもたぶん、今とあんまり変わんないんじゃないかな。恋愛ってワカラナイよね』
「じゃあ黒尾は?」と変な質問が投げられる。
なぜ今ここで黒尾の名前が出てくるのだろう。
『黒尾?』
「部活終わった後、黒尾から告白されたらどうするの?」
『……ありえない仮定話にも、ちゃんと考えないといけない? ありえないし、考える時間、ムダだと思う』
榛名が返す前に、『ウチ、この近くだから』とこちらから切り出す。
告白にはちゃんと答えたし、質問にも誠心誠意答えたし、今日はしっかり社交活動ができたなあ。
「そっか。……今日はホントありがと。また、話しかけてもいい?」
『私に? いいけど、物好きだね』
私あんまり好かれないよ、人から。
そう続けようとして、自分で言っていてむなしいから、口に出すのは辞めた。
「よかった。じゃあまた」
さっそうと帰る背中は、少し肌寒そうな感じがした。
家の前は、小さな公園になっていて、黒尾とか研磨とかと遊ぶときは、その公園で集まるのが暗黙のルールとなっていた。
朝家を出ると、その公園に見慣れた姿があった。研磨が「あれは寝ぐせらしいよ」とか言っていた独特の髪型をした黒尾である。
『朝からどうしたの』
「なんか話したくなって。一緒に登校でもしませんか」
『えー。イヤって言っても、方向同じじゃん』
「はは、ご名答~」
少し、元気がなさそうなのは気のせいだろか。
『なに、元気ないの?』
「あれ、気づいちゃう? 慰めてくれる?」
あ、いつも通りだ。元気がないのは気のせいだった。
慌てて会話の方向転換を図る。
『えー面倒。それは研磨の役目』
「えー。それって、彼氏できたから?」
あー、話したかったこととはコレか。
昨日榛名と一緒に帰ったから。黒尾の行動に合点がいったので、会話の中身に急に興味がなくなる。
『そうかもねー』
「え、付き合うの?」
『さあねー。それよりさあ、昨日動画見てたんだけど、今度当たる高校のセッターさ、―――』
「ああいうヤツがタイプだったの? 爽やかノッポイケメン?」
『え、別に。タイプではない』
「じゃあ何、告白されたから付き合うってヤツ? いつの間に恋愛するようになったの、おねーさん」
話が変な方向に行くので、適当に返事する方が面倒だな、と。
『付き合いませーン。恋愛にも興味ありませーン』
「……」
しばらくの無言の後。「デスヨネー」と返ってきた。
『なに、馬鹿にしてんの?』
「してないしてない。ほっとしてるの」
『私のこと見下してばかりじゃ、黒尾さんもいつまでたっても彼女できませんよー』
「はあ。サチの、そういう、朴念仁な感じ、嫌いじゃないよ」
いつも通りの胡散臭い顔で黒尾がニヤリとした。
04黒尾さんは人参らしい
『ニンジン?』
「ボクネンジン」
『僕、人参?』