Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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夜道を二人で歩く。
こういうのは別に初めてでもないし、今日は生川高校の敷地の中にある自販機へ向かうだけだから、特別なわけでもなく。
でもなぜか、すごく特別な気がした。
いつもと同じように、私が歩く歩幅に、鉄朗が合わせてくれる。
自販機につけば、鉄朗がお金をいれて、好きなのどうぞ、と目配せしてくれて。
至れり着くせりだなあ、と今更ながらに思う。
『ごちそうさまー』
言いながら、ペりぺりとアイスクリームの外装をはぎ取る。少し肌寒いこともあり、選んだのはチョコチップがちりばめられたアイスクリームだ。鉄朗も私の後で何か買っていた。一緒になって、ペりぺりする。
「いえいえ」
『あ。焼き肉はチャラにはしないから』
「んなことはわかってますー。黒尾さん、そんなせこくありませんー」
軽口をたたくのは、無言の時間の居心地が悪いから。いつもならそんなことはない。
でも今日は、なんだか居心地が悪い。
仲直りしたばかりだから、ではないと思う。もっと別の何か。
「さっき、橘から電話もらって」
へえ。ミズキと鉄朗って、電話する仲なんだあ、と考えていたら。
「文化祭の対価、聞きまして、ね」
『っ、』
購入していたのが飲み物だったら、間違いなく噴き出していただろう。アイスクリームでよかった。なんて謎の安心感を覚える。
『ミズキ、うわ、なんで、』
鉄朗には黙っていたかった。知られたくなかった。
だってなんか、恥ずかしい。
しかも、鉄朗のプレイする姿がキラキラしていて、とか、ミズキに言った気がする。あの人、どこまで鉄朗にしゃべったの?
『わ、忘れて。鉄朗には関係のない話で、』
慌てふためく私の隣で、鉄朗の声はどっしりとしていて。
「忘れないし、関係なくない」
芯のある声で、まっすぐに見つめられれば、もう慌てることもできなくて。言い逃れもできないと思う。
「すげー嬉しかった。ありがとう」
『……、』
優しく笑う顔が、月明かりに照らされて、より一層優しく思えた。
その表情に、心臓がはねる。少し呼吸がしづらい。
何も返事ができない。
「んで、そんなことも知らず、勝手にサチさんにひどいこと言って悪かった」
いつになく真剣なその人に、いつものおちゃらけたような、軽い感じはまったくなくて。
よく知る幼馴染のはずなのに、なんだか落ち着かない。心がそわそわしていた。
『別に、私が勝手にしたことで、鉄朗が知らないことは当たり前で。だから、謝られるのは……ってか、さっき謝ってもらった』
「いや。さっきのはそれ知らなかったから。……俺の器が小さいせいで、サチを傷つけた。ごめん」
じっとまっすぐに見つめられて、顔がみるみる熱くなるのがわかる。心臓もどんどん早くなっている。
さっきから、自分の体が言うことを聞かない。なんでこんなに乱されているのだろうか。
『別にもう怒ってないし、』
「知ってる」
『じゃあ、なんでわざわざ謝るような、』
「さっきの謝罪じゃ、足りないと思って。俺が、ちゃんと謝りたいと思ったから」
なおもまっすぐ見つめてくる鉄朗から目をそらす。目をそらすとようやく、息をつけた。
『ちょっと待って、ストップ。……アイス食べてて』
とりあえず鉄朗にそう指示を出して、深呼吸を繰り返す。
ただの黒尾じゃん。
これまでだって、鉄朗に謝られたことはあるし、二人きりで話をしたことだって散々あるし。
なんで今日はこんなに、苦しいのだろう。
指示通り、アイスクリームを食べながら猶予を与えてくれている鉄朗をそのままに、先ほどから続いている会話を思い返してみる。
なぜ私は今日、こんなに乱されているのか。
私がミズキに、鉄朗がバレーしている姿はキラキラしていて、他の人はしていないことを伝えた。
ミズキは、それが恋だと言った。
そして今日、ミズキは鉄朗に電話した。鉄朗は文化祭の対価を聞いたといったけど、他にも何か聞いているのかもしれない。
だから私は動揺している。
気持ちの整理がついてきたところで、少し呼吸にも余裕が出てくる。
動揺しているのはつまり、鉄朗に、キラキラしている云々の話を知られたかどうかで、別に知られていなければなんの問題もない。
よし、鉄朗に確認しよう。
『あのさ、』
いや、待て待て待て。
確認して? もし知ってたら? 知ってたら私、どうなる?
ってか、なんで知られたらまずいんだっけ。
別に知られてもよくない?
「ん?」
鉄朗がキラキラしている。
それが恋らしい。
恋が鉄朗にバレる。
それはなんか恥ずかしい。
「どうかしたか?」
うつむいている私の顔を覗き込んでくる鉄朗。
『わ、』
特別な顔でもなんでもないのに、言葉と同時に心臓がまたはねる。
さっきよりも顔が赤くなっているかもしれない。
なんか、おかしい。
鉄朗の顔がまともに見れない。
『ごめ、ちょっとよくわかんないけど。帰らないと』
「へ?」
『息が、うまく、ってか、顔が、いや、帰る』
意味の分からない説明のまま、その場を後にする。
後ろで鉄朗が、どんな顔をしていたのかは、わからない。
『かおりん、聞いて今すぐ。なんか変なの。ねえ』
先ほど、黒尾と一緒にどこかへ行った音駒のマネ―ジャーが、慌てふためいて帰ってきた。普段はクールな様子なので、その慌てようはとてもとても珍しい。
「どうしたどうした、さっちーにしては珍しく動揺しているじゃない」
『やばい。どうしよう。頭の中がごちゃごちゃで、ちょっと息と顔がね、』
そして説明も意味がわからないときた。
ははーん、とは、心の中で。
これはもしかして、黒尾がさっちーについに告白した? なんてニヤニヤしつつ、まずはおいしい話を聞かせてもらうべく、さっちーを落ち着かせる。
「ストップストップ。さっちー一回落ち着いて。……ちょっと向こうで話しましょうか」
隣には、ちょっとした広めのスペースがあり、談話室というらしい。
そこにさっちーを座らせ、コップに入れた麦茶を飲ませると、ようやく一息つけたようだ。
「で? 何があったの? 告白でもされた?」
『告白? いやそんな話じゃなくて、』
なんだ残念。
黙っていると、さっちーがぽつぽつと話し出す。
『クラスの友達とね、この前話してて』
文化祭の主役をはったのは、黒尾と夜久にバレーボールに専念してもらうためで。
じゃあなんでそんなことをしたのか。黒尾がバレーボールをしているところがキラキラしていて好きだな、と思ったから。
他の人は、黒尾のようにキラキラはしていない。
大まかには、そんなことを話したという。
『で、友達が言うには、そのキラキラしたのが恋なんだって。ちょっと新しい概念が出てきて、よくわかんない』
「ほお」
『そしたらさ。さっき、黒尾と二人で話をしてたんだけど。まっすぐ目を見て、真剣に話されて、そしたら息ができなくて顔も見れなくて、困ったから逃げてきた』
うんうん。
そう聞き流そうとして、「ええ!?」と思い切り驚いた。
「えっと、さっちーが?」
『ほかにだれがいるのよ。ちょっとよくわかんなくて、鉄朗放っぽって走って帰ってきちゃった』
「わお」
ひとまず、黒尾には連絡を入れておいてあげよう。もしかすると、さっちーのことを探してるかもしれないし。
〈 さっちーはマネ部屋にいるよ。なんかよくわからないけど、黒尾のせいではないので、気にせず寝てください 〉
まあ、気にはするだろうけども。連絡しないよりはましでしょう。
メールを打ちながら、さっちーに対峙する。
「んー。とりあえず、どこから手をつければいいかな。……さっちーは、黒尾と話していて、ドキドキして、息苦しくなった?」
『そお』
「どんな話してたの?」
『その、文化祭の対価の話で。黒尾がありがとうって言ってた』
「ははーん。そんな感じね。で、それで?」
『まっすぐ見つめてくるから、顔近いし、なんかドキドキしてきて、』
ちょっとこれは急展開なのでは。
そんなところに、黒尾からの返信がやってくる。
〈 わり、ちょっと俺もよくわかんなくて。大丈夫そ? 俺話に行ってもいい感じ? 〉
〈 だめだめ。ちょっと今日は無理っぽい。たぶん会話にならない。気持ちの整理が必要 〉
〈 わかった。サチさんよろしく頼みます 〉
よし、こっちはひとまずOK。あとはさっちーの心の整理。
「さっちー深呼吸してー」
深呼吸している横で、なんと伝えるべきかなあ、とあれこれ考えていたけど。
いっそ、ショック療法的な? ストレートに話した方が後々いいかな、と。
「よし。さっちー、それ、恋」
『どれ?』
「その、ドキドキとか息苦しさとか、そういうヤツ全部」
『ええ。私、誰に恋してるの』
「いやいやいや。どう見たって、”鉄朗”くんじゃない?」
声にならない声をあげているさっちーの横で、今日は長い夜になるぞ、と覚悟を決めた。
周囲は少しずつ静けさを増していて、コイバナをするにはとても良い環境であった。
37それ、恋
夜久〈 黒尾と何話したんだ? 〉
橘 〈 文化祭、さっちーが一肌脱いだんだよって、告げ口してた 〉
夜久〈 ちょっと今度、詳しく聞かせてくれ 〉
こういうのは別に初めてでもないし、今日は生川高校の敷地の中にある自販機へ向かうだけだから、特別なわけでもなく。
でもなぜか、すごく特別な気がした。
いつもと同じように、私が歩く歩幅に、鉄朗が合わせてくれる。
自販機につけば、鉄朗がお金をいれて、好きなのどうぞ、と目配せしてくれて。
至れり着くせりだなあ、と今更ながらに思う。
『ごちそうさまー』
言いながら、ペりぺりとアイスクリームの外装をはぎ取る。少し肌寒いこともあり、選んだのはチョコチップがちりばめられたアイスクリームだ。鉄朗も私の後で何か買っていた。一緒になって、ペりぺりする。
「いえいえ」
『あ。焼き肉はチャラにはしないから』
「んなことはわかってますー。黒尾さん、そんなせこくありませんー」
軽口をたたくのは、無言の時間の居心地が悪いから。いつもならそんなことはない。
でも今日は、なんだか居心地が悪い。
仲直りしたばかりだから、ではないと思う。もっと別の何か。
「さっき、橘から電話もらって」
へえ。ミズキと鉄朗って、電話する仲なんだあ、と考えていたら。
「文化祭の対価、聞きまして、ね」
『っ、』
購入していたのが飲み物だったら、間違いなく噴き出していただろう。アイスクリームでよかった。なんて謎の安心感を覚える。
『ミズキ、うわ、なんで、』
鉄朗には黙っていたかった。知られたくなかった。
だってなんか、恥ずかしい。
しかも、鉄朗のプレイする姿がキラキラしていて、とか、ミズキに言った気がする。あの人、どこまで鉄朗にしゃべったの?
『わ、忘れて。鉄朗には関係のない話で、』
慌てふためく私の隣で、鉄朗の声はどっしりとしていて。
「忘れないし、関係なくない」
芯のある声で、まっすぐに見つめられれば、もう慌てることもできなくて。言い逃れもできないと思う。
「すげー嬉しかった。ありがとう」
『……、』
優しく笑う顔が、月明かりに照らされて、より一層優しく思えた。
その表情に、心臓がはねる。少し呼吸がしづらい。
何も返事ができない。
「んで、そんなことも知らず、勝手にサチさんにひどいこと言って悪かった」
いつになく真剣なその人に、いつものおちゃらけたような、軽い感じはまったくなくて。
よく知る幼馴染のはずなのに、なんだか落ち着かない。心がそわそわしていた。
『別に、私が勝手にしたことで、鉄朗が知らないことは当たり前で。だから、謝られるのは……ってか、さっき謝ってもらった』
「いや。さっきのはそれ知らなかったから。……俺の器が小さいせいで、サチを傷つけた。ごめん」
じっとまっすぐに見つめられて、顔がみるみる熱くなるのがわかる。心臓もどんどん早くなっている。
さっきから、自分の体が言うことを聞かない。なんでこんなに乱されているのだろうか。
『別にもう怒ってないし、』
「知ってる」
『じゃあ、なんでわざわざ謝るような、』
「さっきの謝罪じゃ、足りないと思って。俺が、ちゃんと謝りたいと思ったから」
なおもまっすぐ見つめてくる鉄朗から目をそらす。目をそらすとようやく、息をつけた。
『ちょっと待って、ストップ。……アイス食べてて』
とりあえず鉄朗にそう指示を出して、深呼吸を繰り返す。
ただの黒尾じゃん。
これまでだって、鉄朗に謝られたことはあるし、二人きりで話をしたことだって散々あるし。
なんで今日はこんなに、苦しいのだろう。
指示通り、アイスクリームを食べながら猶予を与えてくれている鉄朗をそのままに、先ほどから続いている会話を思い返してみる。
なぜ私は今日、こんなに乱されているのか。
私がミズキに、鉄朗がバレーしている姿はキラキラしていて、他の人はしていないことを伝えた。
ミズキは、それが恋だと言った。
そして今日、ミズキは鉄朗に電話した。鉄朗は文化祭の対価を聞いたといったけど、他にも何か聞いているのかもしれない。
だから私は動揺している。
気持ちの整理がついてきたところで、少し呼吸にも余裕が出てくる。
動揺しているのはつまり、鉄朗に、キラキラしている云々の話を知られたかどうかで、別に知られていなければなんの問題もない。
よし、鉄朗に確認しよう。
『あのさ、』
いや、待て待て待て。
確認して? もし知ってたら? 知ってたら私、どうなる?
ってか、なんで知られたらまずいんだっけ。
別に知られてもよくない?
「ん?」
鉄朗がキラキラしている。
それが恋らしい。
恋が鉄朗にバレる。
それはなんか恥ずかしい。
「どうかしたか?」
うつむいている私の顔を覗き込んでくる鉄朗。
『わ、』
特別な顔でもなんでもないのに、言葉と同時に心臓がまたはねる。
さっきよりも顔が赤くなっているかもしれない。
なんか、おかしい。
鉄朗の顔がまともに見れない。
『ごめ、ちょっとよくわかんないけど。帰らないと』
「へ?」
『息が、うまく、ってか、顔が、いや、帰る』
意味の分からない説明のまま、その場を後にする。
後ろで鉄朗が、どんな顔をしていたのかは、わからない。
『かおりん、聞いて今すぐ。なんか変なの。ねえ』
先ほど、黒尾と一緒にどこかへ行った音駒のマネ―ジャーが、慌てふためいて帰ってきた。普段はクールな様子なので、その慌てようはとてもとても珍しい。
「どうしたどうした、さっちーにしては珍しく動揺しているじゃない」
『やばい。どうしよう。頭の中がごちゃごちゃで、ちょっと息と顔がね、』
そして説明も意味がわからないときた。
ははーん、とは、心の中で。
これはもしかして、黒尾がさっちーについに告白した? なんてニヤニヤしつつ、まずはおいしい話を聞かせてもらうべく、さっちーを落ち着かせる。
「ストップストップ。さっちー一回落ち着いて。……ちょっと向こうで話しましょうか」
隣には、ちょっとした広めのスペースがあり、談話室というらしい。
そこにさっちーを座らせ、コップに入れた麦茶を飲ませると、ようやく一息つけたようだ。
「で? 何があったの? 告白でもされた?」
『告白? いやそんな話じゃなくて、』
なんだ残念。
黙っていると、さっちーがぽつぽつと話し出す。
『クラスの友達とね、この前話してて』
文化祭の主役をはったのは、黒尾と夜久にバレーボールに専念してもらうためで。
じゃあなんでそんなことをしたのか。黒尾がバレーボールをしているところがキラキラしていて好きだな、と思ったから。
他の人は、黒尾のようにキラキラはしていない。
大まかには、そんなことを話したという。
『で、友達が言うには、そのキラキラしたのが恋なんだって。ちょっと新しい概念が出てきて、よくわかんない』
「ほお」
『そしたらさ。さっき、黒尾と二人で話をしてたんだけど。まっすぐ目を見て、真剣に話されて、そしたら息ができなくて顔も見れなくて、困ったから逃げてきた』
うんうん。
そう聞き流そうとして、「ええ!?」と思い切り驚いた。
「えっと、さっちーが?」
『ほかにだれがいるのよ。ちょっとよくわかんなくて、鉄朗放っぽって走って帰ってきちゃった』
「わお」
ひとまず、黒尾には連絡を入れておいてあげよう。もしかすると、さっちーのことを探してるかもしれないし。
〈 さっちーはマネ部屋にいるよ。なんかよくわからないけど、黒尾のせいではないので、気にせず寝てください 〉
まあ、気にはするだろうけども。連絡しないよりはましでしょう。
メールを打ちながら、さっちーに対峙する。
「んー。とりあえず、どこから手をつければいいかな。……さっちーは、黒尾と話していて、ドキドキして、息苦しくなった?」
『そお』
「どんな話してたの?」
『その、文化祭の対価の話で。黒尾がありがとうって言ってた』
「ははーん。そんな感じね。で、それで?」
『まっすぐ見つめてくるから、顔近いし、なんかドキドキしてきて、』
ちょっとこれは急展開なのでは。
そんなところに、黒尾からの返信がやってくる。
〈 わり、ちょっと俺もよくわかんなくて。大丈夫そ? 俺話に行ってもいい感じ? 〉
〈 だめだめ。ちょっと今日は無理っぽい。たぶん会話にならない。気持ちの整理が必要 〉
〈 わかった。サチさんよろしく頼みます 〉
よし、こっちはひとまずOK。あとはさっちーの心の整理。
「さっちー深呼吸してー」
深呼吸している横で、なんと伝えるべきかなあ、とあれこれ考えていたけど。
いっそ、ショック療法的な? ストレートに話した方が後々いいかな、と。
「よし。さっちー、それ、恋」
『どれ?』
「その、ドキドキとか息苦しさとか、そういうヤツ全部」
『ええ。私、誰に恋してるの』
「いやいやいや。どう見たって、”鉄朗”くんじゃない?」
声にならない声をあげているさっちーの横で、今日は長い夜になるぞ、と覚悟を決めた。
周囲は少しずつ静けさを増していて、コイバナをするにはとても良い環境であった。
37それ、恋
夜久〈 黒尾と何話したんだ? 〉
橘 〈 文化祭、さっちーが一肌脱いだんだよって、告げ口してた 〉
夜久〈 ちょっと今度、詳しく聞かせてくれ 〉