Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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文化祭が終わり、早1週間。
今日と明日の二日間は、生川高校にて梟谷グループ+烏野で合宿が開催される。予定では今シーズン最後の合宿である。
そんな貴重な日に。音駒高校男子バレーボール部はまったくもって調子が上がらない。
「集中!」
「レシーブ丁寧に!」
なんて、いつもは聞かないような掛け声もあがるほどに。
でも、原因はわかっている。
主将、黒尾鉄朗の不調。そして、マネージャー倉木サチとの超絶不協和音。
これまで―――私が入部してから今日まで―――この二人が口を利かないことなどなかった。それが、珍しく冷戦期間に突入しているのだ。
夜久先輩曰く、黒尾先輩が何やらやらかしたらしい。それ以降、黒尾先輩は不調というより元気がない。そして黒尾先輩がそういうときには、いつもならサチ先輩がうまくとりなしているようで、しかし今回は徹底してかかわらないようにしているのがまた問題らしい。
その結果、今、音駒のすべてがうまく回らない。
「音駒、今日はどうした?」
「梟谷とか烏野が崩れるのはよくあるけど。安定の音駒が崩れるとか、珍しい」
「新手の作戦じゃねーか?」
他校の人は気楽でいいものだ。こちらの状況を笑ってみてられるのだから。
でも音駒内では、結構死活問題。
「サチ先輩? 今日のチーム、どう思―――」
『自分たちで考えるでしょ』
私はマネージャーの仕事をするだけだからー。そういって颯爽と体育館を後にするその人。
黒尾先輩はなんだか気まずそうに、押し黙っているものだから、見ているこちらも調子が狂うというもので。
「おい、研磨」
夜久先輩が何度目かわからない要求を研磨先輩にする。
「あいつら、どうにかしろよ。幼馴染だろ」
「……高校生なんだし、自分たちでどうにかするんじゃない」
正直なところ、私たちでとれる手段はすべてとっている。文化祭終わって3日目あたりから、さすがにやばいということで、黒尾先輩とサチ先輩以外の部員総出で、会議を開催した。3度も。そしてそこで出た案は、どんな些細なことでも試した。
例えば、同じクラスの夜久先輩が、授業中のグループ活動をうまく使って、2人が話をするきっかけを作る。
思い出してほしいのだけど、サチ先輩はクラスでは空気になるらしい。そうして何も言葉をかわさないまま、失敗に終わる。
例えば、海先輩が、サチ先輩の話を聞く。
「黒尾となんかあったの」『べつにー。黒尾が何と言おうと、私には関係ない』ツンとした態度はいまだ頑なで、失敗に終わる。
例えば、研磨先輩が二人の仲を取り持つ。
これは、どちらかといえば研磨先輩が面倒くさがって、「自分たちでどうにかするんじゃない。外野が何を言っても、どうしようもないでしょ」と。ということで失敗に終わる。
もうお手上げだ。
一体黒尾先輩はサチ先輩に何をしたのだろう。
「咲良ぁ。もしかして黒尾、さっちーにキスでもしたんじゃない?」
とは、隣で得点板をつけている、かおり先輩である。
「え、さすがにそれは、」
「でもさあ。さっちーって、愛想はよくないけど、人に興味はないから、あそこまで怒ることはそうそうないよ」
「……たしかに、そうですよねえ」
サチ先輩とは、4、5か月ほどの短い付き合いではあるが、怒りの感情をあらわにしたのは、インハイ予選の1度きりだ。怒りの感情からは程遠い人だと思う。いや、怒りだけではなく、喜怒哀楽としておく。
「あーあ。最後の合宿だってのに、なーんだか、ねえ」
ピーとホイッスルが鳴った。試合終了の合図である。もちろん、総崩れの音駒がペナルティ。体育館の隅をフライングする。
いつもなら、黒尾先輩がなんか励ましたり煽ったりして、ペナルティでさえも楽しそうなのに、今日はなんだかぎこちない。
こういう時、気の利いた言葉とか行動とかできたらいいんだけど。
でも、私が何かしたところで、この空気は変わらない。ということはわかる。
「大丈夫ですかね、」
もう1週間になる。文化祭前の楽しかった部活動が、なんだか懐かしい。
「このまま破局、なんてことはないと思うけど……ないと思いたい」
「それはそうなんですけど、破局もなにもまだ付き合ってませんよ」
もう付き合っているのではないかという関係性だけど、一応訂正をいれておいた。
「黒尾と倉木、なんか聞いてる?」
これは、クロとサチがおかしくなって、まだ日が浅いころ。海くん。「さあ」と返事した。
「研磨。幼馴染なら、アレをどうにかしろ」
これは水曜日あたりかな? 「何があったか知らないし。夜久くんの方が同じクラスじゃん」って返した。
「研磨ー! クロさん、調子悪いの?」
これは虎から。ようやくクロの様子に気づいたらしく、同じく水曜日。
「研磨さーん。サチさん、なんだか元気ないですよね」
これはリエーフだったかな。木曜日。
正直、困っている。
なんでクロとサチがぎくしゃくしているからって、全部俺に話がくるのだろうか。小学生じゃあるまいし、いちいち仲裁に入らなくたっていいでしょ。
そんな気持ちで、右から左へ聞き流していたけど。
「……悪い」
クロの調子がすこぶる悪い。文化祭前から不調な感じはしたが、ここまでではなかった。今日は何というか、心配になるレベル。
スパイクがアウトになったり、トスが合わなかったり、ブロック乱れたり。別にそれ自体は、誰にだって不調はあるしそこまで問題じゃないけど。その度に、疲弊した表情で作り笑いして謝られるのは、こっちも気力を削られる。
試合終了のホイッスルが鳴る。体育館の外側をフライングで1周したら、次は1試合お休みのターンだ。
「どうしたの。珍しいね」
何が、とは言わなかった。自覚あると思うし。バレーボールが不調なのが珍しいのか、それともサチとぎくしゃくしているのが珍しいのか。
クロは、前者をとった。
「悪いねえ。俺、ぜっんぜん使えねーな」
「……うん、まあ」
「いや、そこは、そんなことないよ、くらいは言いなさいよ。黒尾さんも傷つきますよ」
カラ元気はあるようだ。
まあ実際、ポーカーフェイスは取り繕えているわけで、でもクロのまとう空気が、なんだか暗いって話。
「サチと何があったの」
何かがあったのは、文化祭前日だとはうすうす気づいてはいた。
ここ最近、サチの文化祭練習の関係で、サチとは一緒に帰れていなかった。その日は、部活もないし文化祭準備を一緒にやるから、そのまま一緒に帰るものだと思っていたら、サチは別で帰る、という。
ただ、大抵の場合、サチがいじけていたらクロが折れるし、クロがどうにかなってもサチがサポートするから、2人でどうにかできる。というわけで、あまり心配はしていなかった。
それが、今回は1週間もぎくしゃくしている。
「……いやあ、ちょっとやらかしまして、ね」
「何を? サチがあんなに頑ななのも珍しいよね」
素直に感想を述べると、う、と顔をゆがませた。クロ自信、だいぶやらかした自覚があるらしい。おそらく、二人がぎくしゃくしたままなのは、これが原因なのだろう。クロが責任を感じて消極的になっている。
「情けない話、ちょっと余裕がなくってですね。サチさんに”無理に部活来なくたっていい”と言ってしまいまして」
言うや否や、はあ、と遠いところを見ながらため息をつく。
いつも、サチのことを最優先で考えてるクロがそんなこと言うくらいだから、だいぶ余裕がなかったんだな、と。
「別に、クロにだって余裕ないときがあっていいし、間違いだってするでしょ、誰でも。謝ればいいじゃん」
「……言った時の、サチの表情が、さ。あんな顔、初めて見たから」
「そりゃあ、サチにとったら、大好きなバレーボールだからね。そんなこと言われたら傷つくよ」
「その通りです、ネ」
俺が言わなくとも自分でそう反省しているようだ。やけにしおらしい。
こりゃあ、こっち側だけじゃ埒があかないかな、と判断する。
ちょうどサチが、体育館に戻ってきた。
「サチに話聞いてくるから」
手がかかるなあ、と考えながら、体育館の蒸し暑さも手伝って、だらだらと歩を進めた。
「サチ」
呼び止めると、困ったような顔でこちらを見た。その表情から、サチの心境を想像する。『なにー』となんでもないように帰ってきたが、サチも結構まいっているようだった。
「……言いたいことがあるなら、言えばいいじゃん。今さら、サチのこと見放すような人じゃないでしょ」
こちらはこちらで、気持ちに蓋がかかっているような気がした。
いつもなら、サチはクロにズバズバものをいう。そこに遠慮はない。でも今回は、サチも言えずにいるみたいだ。クロも消極的だし、サチも何も言わないし、どおりで停滞状態が続いているわけである。
『……鉄朗が不調なのはわかってたし。余裕ないのもわかるし、』
「クロが好調だったらなんて言いたかったの」
『私がいないくらいでいじけるな、アホ』
さすがサチ、容赦がない。思わず笑ってしまう。
『でもそもそも、鉄朗が好調なら、そんなこと言わない』
「”無理に部活来なくたっていい”って?」
『うん』
「なんだ、わかってるんじゃん。クロはそんなこと思ってないよね」
『何年幼馴染やってると思ってるの。クロの本心くらいわかる』
「……じゃあ、一体なにに意固地になってるの」
『だって、』
このタイミングで、片方の試合が終わったらしい。体育館の中が少し静かになる。
サチは、自分の気持ちを言葉にするか否か、逡巡しているようだったので、しばらくだらりとしながら返答を待つ。
待っている間、遠いところからの視線というか興味というかを感じた。おそらく音駒高校の面々だろうなあ、と。だってずっと、二人の仲裁を頼まれてきていたし。
サチの覚悟が決まったらしい。サチが口を開く。
体育館は、もう一つのコートもサーブ前の8秒にあたったらしく、すごいタイミングで、より一層静かになった。
だから、サチの声が意図せず体育館中に響いてしまった。
『だって、鉄朗が謝ってくれないんだもん』
静かな体育館で、サチの澄んだ声は必要以上に浸透している。試合しながら聞き耳を立てていることがよくわかるし、試合に入っていない人たちも、こちらに耳だけ傾けている。
そりゃあ、普段あれだけイチャイチャしている二人が、急によそよそしくしていた原因なんだから、知りたいよね。
『謝ってくれれば、私だって水に流そうと思ってたのに。なんか自分の方が傷ついているような顔してるし。違うじゃん、言われたのは私。鉄朗は言った方。加害者』
まだ少し怒り気味みたいだ。
でも、もう十分でしょ。
「だってさ、クロ。……サチのクレーム対応、よろしくね」
振り返れば、クロとばっちり目があった。
そこには、取り繕ったような笑みではなくて、ただただ気まずそうな、申し訳なさそうな、そんな顔をしたクロが立っていた。
34手がかかるなあ。
咲良「研磨先輩が、頼もしい…!」
夜久「たまーに、2人じゃどうしようもないときは、研磨が動くしかないんだよなー」
咲良「だからみなさん、研磨先輩に仲裁役をお願いしていたんですね」
海 「でも研磨は、本当にどうしようもないときしか動かないからねえ」
今日と明日の二日間は、生川高校にて梟谷グループ+烏野で合宿が開催される。予定では今シーズン最後の合宿である。
そんな貴重な日に。音駒高校男子バレーボール部はまったくもって調子が上がらない。
「集中!」
「レシーブ丁寧に!」
なんて、いつもは聞かないような掛け声もあがるほどに。
でも、原因はわかっている。
主将、黒尾鉄朗の不調。そして、マネージャー倉木サチとの超絶不協和音。
これまで―――私が入部してから今日まで―――この二人が口を利かないことなどなかった。それが、珍しく冷戦期間に突入しているのだ。
夜久先輩曰く、黒尾先輩が何やらやらかしたらしい。それ以降、黒尾先輩は不調というより元気がない。そして黒尾先輩がそういうときには、いつもならサチ先輩がうまくとりなしているようで、しかし今回は徹底してかかわらないようにしているのがまた問題らしい。
その結果、今、音駒のすべてがうまく回らない。
「音駒、今日はどうした?」
「梟谷とか烏野が崩れるのはよくあるけど。安定の音駒が崩れるとか、珍しい」
「新手の作戦じゃねーか?」
他校の人は気楽でいいものだ。こちらの状況を笑ってみてられるのだから。
でも音駒内では、結構死活問題。
「サチ先輩? 今日のチーム、どう思―――」
『自分たちで考えるでしょ』
私はマネージャーの仕事をするだけだからー。そういって颯爽と体育館を後にするその人。
黒尾先輩はなんだか気まずそうに、押し黙っているものだから、見ているこちらも調子が狂うというもので。
「おい、研磨」
夜久先輩が何度目かわからない要求を研磨先輩にする。
「あいつら、どうにかしろよ。幼馴染だろ」
「……高校生なんだし、自分たちでどうにかするんじゃない」
正直なところ、私たちでとれる手段はすべてとっている。文化祭終わって3日目あたりから、さすがにやばいということで、黒尾先輩とサチ先輩以外の部員総出で、会議を開催した。3度も。そしてそこで出た案は、どんな些細なことでも試した。
例えば、同じクラスの夜久先輩が、授業中のグループ活動をうまく使って、2人が話をするきっかけを作る。
思い出してほしいのだけど、サチ先輩はクラスでは空気になるらしい。そうして何も言葉をかわさないまま、失敗に終わる。
例えば、海先輩が、サチ先輩の話を聞く。
「黒尾となんかあったの」『べつにー。黒尾が何と言おうと、私には関係ない』ツンとした態度はいまだ頑なで、失敗に終わる。
例えば、研磨先輩が二人の仲を取り持つ。
これは、どちらかといえば研磨先輩が面倒くさがって、「自分たちでどうにかするんじゃない。外野が何を言っても、どうしようもないでしょ」と。ということで失敗に終わる。
もうお手上げだ。
一体黒尾先輩はサチ先輩に何をしたのだろう。
「咲良ぁ。もしかして黒尾、さっちーにキスでもしたんじゃない?」
とは、隣で得点板をつけている、かおり先輩である。
「え、さすがにそれは、」
「でもさあ。さっちーって、愛想はよくないけど、人に興味はないから、あそこまで怒ることはそうそうないよ」
「……たしかに、そうですよねえ」
サチ先輩とは、4、5か月ほどの短い付き合いではあるが、怒りの感情をあらわにしたのは、インハイ予選の1度きりだ。怒りの感情からは程遠い人だと思う。いや、怒りだけではなく、喜怒哀楽としておく。
「あーあ。最後の合宿だってのに、なーんだか、ねえ」
ピーとホイッスルが鳴った。試合終了の合図である。もちろん、総崩れの音駒がペナルティ。体育館の隅をフライングする。
いつもなら、黒尾先輩がなんか励ましたり煽ったりして、ペナルティでさえも楽しそうなのに、今日はなんだかぎこちない。
こういう時、気の利いた言葉とか行動とかできたらいいんだけど。
でも、私が何かしたところで、この空気は変わらない。ということはわかる。
「大丈夫ですかね、」
もう1週間になる。文化祭前の楽しかった部活動が、なんだか懐かしい。
「このまま破局、なんてことはないと思うけど……ないと思いたい」
「それはそうなんですけど、破局もなにもまだ付き合ってませんよ」
もう付き合っているのではないかという関係性だけど、一応訂正をいれておいた。
「黒尾と倉木、なんか聞いてる?」
これは、クロとサチがおかしくなって、まだ日が浅いころ。海くん。「さあ」と返事した。
「研磨。幼馴染なら、アレをどうにかしろ」
これは水曜日あたりかな? 「何があったか知らないし。夜久くんの方が同じクラスじゃん」って返した。
「研磨ー! クロさん、調子悪いの?」
これは虎から。ようやくクロの様子に気づいたらしく、同じく水曜日。
「研磨さーん。サチさん、なんだか元気ないですよね」
これはリエーフだったかな。木曜日。
正直、困っている。
なんでクロとサチがぎくしゃくしているからって、全部俺に話がくるのだろうか。小学生じゃあるまいし、いちいち仲裁に入らなくたっていいでしょ。
そんな気持ちで、右から左へ聞き流していたけど。
「……悪い」
クロの調子がすこぶる悪い。文化祭前から不調な感じはしたが、ここまでではなかった。今日は何というか、心配になるレベル。
スパイクがアウトになったり、トスが合わなかったり、ブロック乱れたり。別にそれ自体は、誰にだって不調はあるしそこまで問題じゃないけど。その度に、疲弊した表情で作り笑いして謝られるのは、こっちも気力を削られる。
試合終了のホイッスルが鳴る。体育館の外側をフライングで1周したら、次は1試合お休みのターンだ。
「どうしたの。珍しいね」
何が、とは言わなかった。自覚あると思うし。バレーボールが不調なのが珍しいのか、それともサチとぎくしゃくしているのが珍しいのか。
クロは、前者をとった。
「悪いねえ。俺、ぜっんぜん使えねーな」
「……うん、まあ」
「いや、そこは、そんなことないよ、くらいは言いなさいよ。黒尾さんも傷つきますよ」
カラ元気はあるようだ。
まあ実際、ポーカーフェイスは取り繕えているわけで、でもクロのまとう空気が、なんだか暗いって話。
「サチと何があったの」
何かがあったのは、文化祭前日だとはうすうす気づいてはいた。
ここ最近、サチの文化祭練習の関係で、サチとは一緒に帰れていなかった。その日は、部活もないし文化祭準備を一緒にやるから、そのまま一緒に帰るものだと思っていたら、サチは別で帰る、という。
ただ、大抵の場合、サチがいじけていたらクロが折れるし、クロがどうにかなってもサチがサポートするから、2人でどうにかできる。というわけで、あまり心配はしていなかった。
それが、今回は1週間もぎくしゃくしている。
「……いやあ、ちょっとやらかしまして、ね」
「何を? サチがあんなに頑ななのも珍しいよね」
素直に感想を述べると、う、と顔をゆがませた。クロ自信、だいぶやらかした自覚があるらしい。おそらく、二人がぎくしゃくしたままなのは、これが原因なのだろう。クロが責任を感じて消極的になっている。
「情けない話、ちょっと余裕がなくってですね。サチさんに”無理に部活来なくたっていい”と言ってしまいまして」
言うや否や、はあ、と遠いところを見ながらため息をつく。
いつも、サチのことを最優先で考えてるクロがそんなこと言うくらいだから、だいぶ余裕がなかったんだな、と。
「別に、クロにだって余裕ないときがあっていいし、間違いだってするでしょ、誰でも。謝ればいいじゃん」
「……言った時の、サチの表情が、さ。あんな顔、初めて見たから」
「そりゃあ、サチにとったら、大好きなバレーボールだからね。そんなこと言われたら傷つくよ」
「その通りです、ネ」
俺が言わなくとも自分でそう反省しているようだ。やけにしおらしい。
こりゃあ、こっち側だけじゃ埒があかないかな、と判断する。
ちょうどサチが、体育館に戻ってきた。
「サチに話聞いてくるから」
手がかかるなあ、と考えながら、体育館の蒸し暑さも手伝って、だらだらと歩を進めた。
「サチ」
呼び止めると、困ったような顔でこちらを見た。その表情から、サチの心境を想像する。『なにー』となんでもないように帰ってきたが、サチも結構まいっているようだった。
「……言いたいことがあるなら、言えばいいじゃん。今さら、サチのこと見放すような人じゃないでしょ」
こちらはこちらで、気持ちに蓋がかかっているような気がした。
いつもなら、サチはクロにズバズバものをいう。そこに遠慮はない。でも今回は、サチも言えずにいるみたいだ。クロも消極的だし、サチも何も言わないし、どおりで停滞状態が続いているわけである。
『……鉄朗が不調なのはわかってたし。余裕ないのもわかるし、』
「クロが好調だったらなんて言いたかったの」
『私がいないくらいでいじけるな、アホ』
さすがサチ、容赦がない。思わず笑ってしまう。
『でもそもそも、鉄朗が好調なら、そんなこと言わない』
「”無理に部活来なくたっていい”って?」
『うん』
「なんだ、わかってるんじゃん。クロはそんなこと思ってないよね」
『何年幼馴染やってると思ってるの。クロの本心くらいわかる』
「……じゃあ、一体なにに意固地になってるの」
『だって、』
このタイミングで、片方の試合が終わったらしい。体育館の中が少し静かになる。
サチは、自分の気持ちを言葉にするか否か、逡巡しているようだったので、しばらくだらりとしながら返答を待つ。
待っている間、遠いところからの視線というか興味というかを感じた。おそらく音駒高校の面々だろうなあ、と。だってずっと、二人の仲裁を頼まれてきていたし。
サチの覚悟が決まったらしい。サチが口を開く。
体育館は、もう一つのコートもサーブ前の8秒にあたったらしく、すごいタイミングで、より一層静かになった。
だから、サチの声が意図せず体育館中に響いてしまった。
『だって、鉄朗が謝ってくれないんだもん』
静かな体育館で、サチの澄んだ声は必要以上に浸透している。試合しながら聞き耳を立てていることがよくわかるし、試合に入っていない人たちも、こちらに耳だけ傾けている。
そりゃあ、普段あれだけイチャイチャしている二人が、急によそよそしくしていた原因なんだから、知りたいよね。
『謝ってくれれば、私だって水に流そうと思ってたのに。なんか自分の方が傷ついているような顔してるし。違うじゃん、言われたのは私。鉄朗は言った方。加害者』
まだ少し怒り気味みたいだ。
でも、もう十分でしょ。
「だってさ、クロ。……サチのクレーム対応、よろしくね」
振り返れば、クロとばっちり目があった。
そこには、取り繕ったような笑みではなくて、ただただ気まずそうな、申し訳なさそうな、そんな顔をしたクロが立っていた。
34手がかかるなあ。
咲良「研磨先輩が、頼もしい…!」
夜久「たまーに、2人じゃどうしようもないときは、研磨が動くしかないんだよなー」
咲良「だからみなさん、研磨先輩に仲裁役をお願いしていたんですね」
海 「でも研磨は、本当にどうしようもないときしか動かないからねえ」