Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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夏祭りはつつがなく終わり、やっとこさ家へと帰ってきた。もちろん黒尾が家まで送ってくれた。途中までは研磨も一緒だった。
母から施されたメイクを、母のクレンジングを借りて適当に流し、浴衣を脱ぎ捨て、ベッドに倒れこんだ。
”今日、すっげーかわいいのな”
鉄朗の声が脳内で何度も再生されている。目を閉じてしまえば、あの時の鉄朗の顔も一緒に再生されてしまうので、なかなか寝付けない。体は疲れているはずなのに、なんだか落ち着かない。ナニコレ。
困った困った困った困った。
こういう経験は、今まで一度もない。
小学校や中学のバレーの試合前でも、こんな感覚ではなかった。試合前は、ドキドキするけど、どちらかというと楽しみなわくわくという方が近かった。
でも今は、少し苦しい。
ベッドの中でゴロゴロしていても眠れそうにないので、ノートパソコンを立ち上げることにした。今度の春高予選の対戦相手の研究でもやれば眠くなるだろう、と。
結局、2時間ほどしか寝れなかった。
眠い目をこすりながら、まだまだ暑い体育館の中で練習をこなす。
「今日はとことん眠そうだな」
『うん、ねむい』
「夜更かしでもしたか?」
『研究してたら朝になっていた』
夜久に白状すると、ほどほどにしろよーと黒尾が会話に入ってくる。
『うるさいなー、誰のせいだと思って―――』
「ん?」
『いやなんでもない』
黒尾の声と表情を脳内再生してました、とか言えない。本人に言えるわけない。すごく気持ち悪いヤツになってしまう。
「そ? つーか、サチ、俺たちの心配してくれるのはありがあいんだけど。そろそろ自分の心配もしてくださいね」
『自分の心配?』
「……もうすぐ、夏休み終わりますよー」
『ああ、そういえばそろそろ2学期始まるん―――』
「そう」
『……夏休み、あと何日だっけ』
やばい、充実しすぎて、夏休みが有限であることを忘れてしまっていた。
「大丈夫だ、あと1週間はある」
『いっしゅうかん、』
落ち着け。大丈夫、一週間はあるらしい。
「ったく、何が終わってねーの」
『……』
「全部、とか言わないよな? さすがに」
『そもそも、宿題って何出されてるんだっけ』
うわー。とは、夜久。
黒尾は宙を仰いでいる。
「まあ、1週間で計画的にやれば終わるよ」
海がフォローをしてくれているが、正直終わる気はしない。
『もう、潔く宿題の存在をもう一度忘れようかなあ』
そんなことを企てていたら、音駒3年でちょっとした騒ぎとなっていたためか、「どうしたんですか」と咲良が寄ってくる。
『夏休みの残りの期間を、対戦相手の研究に費やすか、宿題に費やすかを決めているところ』
「ええ、なんですかそれ」
「確かに潔いな。もうしなくていいんじゃないか、宿題」
「夜久ー。悪乗りするなー」
周りがざわざわし始めたので、そろそろ練習再開する時間だろう。
『あ~うまくいかなーい』
まだ練習が始まらないことをいいことに、体育館で四肢を投げ出してみる。
低くなったところからは、いつもに増して黒尾が大きく見えた。
「あのねえ。あんまり女の子が、そういうことをするもんじゃないでしょ」
『はいはい』
姿勢を変えず、黒尾の顔をまじまじと見つめる。
うん、大丈夫、昨日の夜みたいな変な感じはない。
『なんだ。ただの黒尾か』
「はあ?」
『宿題手伝って』
「最初からそう言いなさいよ」
じゃあ今日から家こいよー。と言い残された。
ちなみに毎年、遅かれ早かれこうしてお世話になっているのは、先輩の威厳を保つためにも咲良には言わないでおく。
メールを受信した音が鳴り、相手は梟谷高校のかおり先輩からだった。
〈 夏祭りはどうだったの? 〉
音駒高校で合宿をしていた際に、夏祭りに行く行かないで騒いでいたから、かおり先輩も気になっているのだろう。もう何日か前の話にはなるが、思い出すとニヤニヤしてしまう。
部屋の中で一人の時でよかった。
ニヤニヤを隠すこともせず、返信の文面を考える。
〈 メールには書ききれないので、お茶でもしませんか? 〉
考えた結果、書ききらなかったので、そう返信をすると、すぐにOKの返事がきた。ちょうど中間あたりの駅で待ち合わせをして、駅ビルの中の喫茶店に入る。
「で、何がどうだったの?」
「さっちーかわいかった?」
「黒尾は? なんかあの二人に進展あった?」
注文するや否や、かおり先輩からの質問攻めにあう。
「ふふふ。いやあ、とりあえずこの写真をご覧ください」
スマホで隠し撮りした、先輩二人の姿を見せる。
サチ先輩がチョコバナナを持ちつつ動揺したように照れていて、その隣では、肩ひじをついた黒尾先輩がすごく優しそうな顔をしてサチ先輩を見ている。
我ながら、すごくいい写真が撮れた、と思う。
「うっわあ。甘い。甘すぎる」
「ですよね! もう、隠れてたのに、叫び声をあげそうになりました」
「黒尾も甘いけど、さっちーが確実に照れてる。そして浴衣姿が尊い」
「そうなんですよっ! すごく似合ってますよね。そして大人びてみえる」
「さっちーも黒尾も身長高いから、歩く姿もお似合いよね」
「あ、それなら、」
またスマホを何度か操作して、帰り道、二人で歩く姿を後ろから撮影した写真を見せる。
「研磨さんからもらった、というか事前にめちゃくちゃお願いして撮ってもらいました」
「はああ。青春。青春を感じる」
手をつないでこそいないけど、距離感は恋人のそれのような、付き合う一歩手前のような。もどかしい距離で歩く二人。
「いやあ。幸せな時間でした。私が」
「黒尾とかさっちーとかじゃなくて、咲良が幸せだったのね」
「もうおなかいっぱいでしたもん。屋台、ほとんど食べてないです、」
盛り上がっていたところに、頼んでいたケーキセットが届いたので、ひとまずクールダウン。アイスティにガムシロップを入れて、ヒートアップしていた喉を潤す。元気百倍だ。これでまたたくさん話ができる。
「写真たくさん撮ったので見てください」
「みるみる!」
スマホをテーブルに置いて、祭りの日の最初に撮った写真に合わせる。
サチ先輩の浴衣姿の全身。
一年生で回っていたときにとった学年写真
途中で三年生集団と遭遇した時に撮った、三年生全員集合写真
そして黒尾先輩とサチ先輩が二人でイチャイチャしている写真がたくさん。
髪飾りを選んでいるところとか、サチ先輩につけてあげているところとか、激アツである。
「ちょっと待ってよ。もしかして、咲良、さっちーを尾行してた?」
「いえいえいえ、そんな野暮なことはしません」
「それにしては、写真多すぎじゃない?」
「三年生集団と偶然出会うまでは、純粋に楽しんでましたよ、夏祭り」
「うんうん」
「でも、夜久先輩と海先輩が、二人を置いて抜け出してきたって一年に混ざってきて、しばらくしてから夜久先輩が”様子見てくるぞ”っていうから」
「あ~。夜久が黒幕か」
「そうです。私ではありません」
「まいーや。ごちそうさまな写真たくさん見れたし」
ケーキを食べ終え、アイスティをちまちま飲む。かおり先輩はまた最初から写真を見返している。
「さっちーがなあ。惜しいところまできてるんだけど、なかなか鈍感だから」
「ほんとですよね。この距離感で、何も感じないなんて」
「まあ、さっちーだからねえ」
「そういえば、今日は黒尾先輩の家で、宿題をするようですよ」
「ああ、毎年恒例のヤツね」
驚かれると思いきや、いつもの感じのようだったので、ちょっと拍子抜けする。
「黒尾が毎年、さっちーの宿題の面倒見てんのよ。前は合宿でやってたけど、さっちーが疲れてねむっちゃうしやる気もないから、背水の陣的な感じで、追い込まれてからやることにしたらしい」
「いいんだか悪いんだか、ですね」
「まあ、黒尾にとっては2人きりでいられるデートみたいなもんでしょうね」
アイスティがそろそろなくなる。今日はもうお開きかなあ、なんてちょっと寂しく思っていると、「お代わり、する?」と。
まだまだ女子会は終わりそうにない。
カリカリとシャーペンがノートに走る音と、時計の針が動く音がするだけで、静かな室内。
勉強するときはたいてい黒尾の部屋でやる。なぜかといえば、私の部屋には誘惑がいっぱいあるからだ。主に私にとっての。
「また集中してませんけどー」
『ちょっと休憩』
「20分前にやりましたー。……どうせわかんないんだろ。どれ」
なんでもお見通しの幼馴染に、少しだけむっとする。なんで私のことそんなにわかるんだ。いやまて、黒尾は私以外のことに対してもだいたいわかるじゃん。
じゃあ黒尾がすごいヤツか。……それはそれでなんか悔しい。
『これとこれとこれとこれ』
「3問目からわかってないじゃないの。早く言いなさいよ」
『黒尾の邪魔しないようにしてあげてるんでしょ』
「そりゃあどうも。ちなみに俺は宿題は終わってる」
『うへえ。優等生かよ。バレーもできて勉強もできるなんて』
「その、優等生鉄朗くんの恩恵にあずかっているのは、どこのどなたですかー」
軽口をたたきながらも、問題を読んで、何やら図を書き始める幼馴染。
「これは、ほら。この公式を使うの」
『そんな公式あったっけ』
「ありました。覚えなさいよ。センターに絶対でるから」
『はぁああ』
xやらyやらよくわからん。
適当に黒尾の書いた公式を書き写しながら、よくもまああの練習量をこなしながら勉強ができるもんだなあ、と素直に感心した。心の中でだけ。態度には一切出しません。
『でもさあ、二学期始まったら、春高二次予選もあるじゃん』
「そうだな」
『そっちの方もそろそろ対策しないと』
「二次予選よりも、先に宿題提出が来るだろ」
『けち尾』
「なんでもいいから早く終わらせなさい」
んなことを言われたって。
やる気にならないものはならない。
やる気にならないときって、動いているものに目が行くのはなぜだろう。たぶん、私というより人間の習性というか、動物の習性なんだと思う。
宿題は終わったという幼馴染は、しかしシャープペンシルをカリカリしている。何やら自主的に勉強をしているらしい。
シャーペンのカリカリが止まる。眉をひそめた。左手であごを触る。しばらくして、シャーペンを持ったままの右手が後頭部をガシガシして―――目があう。
「なんですかー」
『いやあ、勉強してるんだなあ、と思って』
「……なんでだと思う?」
変なことを聞く。
『大学に行きたいから、とか?』
ほかに理由なんてないだろ。でもとりあえず、語尾に「?」をつけてみる。
「ぶー」
『えー。じゃあ、モテるため、とか』
いつだったか、告白されても、「好きな人がいる」と断っていると聞いたことがある。黒尾が言うには、成功する盛大な作戦があるらしいが、どうにもその作戦を実行している素振りは見えないので、実は好きな人などいないかまたは既に振られているのではないかとか一瞬思った。
「ピンポーン」
『……へえ』
「急に興味をなくすな」
『わあ、そうなんだー。勉強する黒尾くんかっこいい―(棒読み)』
「華麗なる棒読みで、どうも」
『どういたしまして』
でも本当に興味がないので、仕方なく目の前の宿題に集中しようと試みたところで、黒尾の方はまだ会話が続いていたらしい。
「そいつが、すげー勉強できないから、教えるために勉強してたらできるようになってた」
『何それ、黒尾らしすぎる』
昔から人一倍面倒見がいい黒尾である。そんな理由にも納得がいく。
『じゃあ、私はラッキーだな。ついでに教えてもらえるし。おこぼれ、みたいな感じか』
「まあ、そういうこったなー」
『ってことで、今日はお開きに…』
「ばか言え。まだ一時間もやってないし、宿題5問しか終わってねーだろ」
『ええ。もう疲れた。黒尾の好きな人の方を面倒見てあげなよー。私じゃなくて』
「うっせー。早く宿題終わらせて、春高予選の対策ねるんだろ」
結局その後もお開きにはさせてもらえず、暗くなるまで延々と宿題をやらされたのだった。
29 なんだ。ただの黒尾か
To:かおり先輩
From:咲良
そういえば、二学期に入ったら文化祭があるので、良かったら見に来てください♪
母から施されたメイクを、母のクレンジングを借りて適当に流し、浴衣を脱ぎ捨て、ベッドに倒れこんだ。
”今日、すっげーかわいいのな”
鉄朗の声が脳内で何度も再生されている。目を閉じてしまえば、あの時の鉄朗の顔も一緒に再生されてしまうので、なかなか寝付けない。体は疲れているはずなのに、なんだか落ち着かない。ナニコレ。
困った困った困った困った。
こういう経験は、今まで一度もない。
小学校や中学のバレーの試合前でも、こんな感覚ではなかった。試合前は、ドキドキするけど、どちらかというと楽しみなわくわくという方が近かった。
でも今は、少し苦しい。
ベッドの中でゴロゴロしていても眠れそうにないので、ノートパソコンを立ち上げることにした。今度の春高予選の対戦相手の研究でもやれば眠くなるだろう、と。
結局、2時間ほどしか寝れなかった。
眠い目をこすりながら、まだまだ暑い体育館の中で練習をこなす。
「今日はとことん眠そうだな」
『うん、ねむい』
「夜更かしでもしたか?」
『研究してたら朝になっていた』
夜久に白状すると、ほどほどにしろよーと黒尾が会話に入ってくる。
『うるさいなー、誰のせいだと思って―――』
「ん?」
『いやなんでもない』
黒尾の声と表情を脳内再生してました、とか言えない。本人に言えるわけない。すごく気持ち悪いヤツになってしまう。
「そ? つーか、サチ、俺たちの心配してくれるのはありがあいんだけど。そろそろ自分の心配もしてくださいね」
『自分の心配?』
「……もうすぐ、夏休み終わりますよー」
『ああ、そういえばそろそろ2学期始まるん―――』
「そう」
『……夏休み、あと何日だっけ』
やばい、充実しすぎて、夏休みが有限であることを忘れてしまっていた。
「大丈夫だ、あと1週間はある」
『いっしゅうかん、』
落ち着け。大丈夫、一週間はあるらしい。
「ったく、何が終わってねーの」
『……』
「全部、とか言わないよな? さすがに」
『そもそも、宿題って何出されてるんだっけ』
うわー。とは、夜久。
黒尾は宙を仰いでいる。
「まあ、1週間で計画的にやれば終わるよ」
海がフォローをしてくれているが、正直終わる気はしない。
『もう、潔く宿題の存在をもう一度忘れようかなあ』
そんなことを企てていたら、音駒3年でちょっとした騒ぎとなっていたためか、「どうしたんですか」と咲良が寄ってくる。
『夏休みの残りの期間を、対戦相手の研究に費やすか、宿題に費やすかを決めているところ』
「ええ、なんですかそれ」
「確かに潔いな。もうしなくていいんじゃないか、宿題」
「夜久ー。悪乗りするなー」
周りがざわざわし始めたので、そろそろ練習再開する時間だろう。
『あ~うまくいかなーい』
まだ練習が始まらないことをいいことに、体育館で四肢を投げ出してみる。
低くなったところからは、いつもに増して黒尾が大きく見えた。
「あのねえ。あんまり女の子が、そういうことをするもんじゃないでしょ」
『はいはい』
姿勢を変えず、黒尾の顔をまじまじと見つめる。
うん、大丈夫、昨日の夜みたいな変な感じはない。
『なんだ。ただの黒尾か』
「はあ?」
『宿題手伝って』
「最初からそう言いなさいよ」
じゃあ今日から家こいよー。と言い残された。
ちなみに毎年、遅かれ早かれこうしてお世話になっているのは、先輩の威厳を保つためにも咲良には言わないでおく。
メールを受信した音が鳴り、相手は梟谷高校のかおり先輩からだった。
〈 夏祭りはどうだったの? 〉
音駒高校で合宿をしていた際に、夏祭りに行く行かないで騒いでいたから、かおり先輩も気になっているのだろう。もう何日か前の話にはなるが、思い出すとニヤニヤしてしまう。
部屋の中で一人の時でよかった。
ニヤニヤを隠すこともせず、返信の文面を考える。
〈 メールには書ききれないので、お茶でもしませんか? 〉
考えた結果、書ききらなかったので、そう返信をすると、すぐにOKの返事がきた。ちょうど中間あたりの駅で待ち合わせをして、駅ビルの中の喫茶店に入る。
「で、何がどうだったの?」
「さっちーかわいかった?」
「黒尾は? なんかあの二人に進展あった?」
注文するや否や、かおり先輩からの質問攻めにあう。
「ふふふ。いやあ、とりあえずこの写真をご覧ください」
スマホで隠し撮りした、先輩二人の姿を見せる。
サチ先輩がチョコバナナを持ちつつ動揺したように照れていて、その隣では、肩ひじをついた黒尾先輩がすごく優しそうな顔をしてサチ先輩を見ている。
我ながら、すごくいい写真が撮れた、と思う。
「うっわあ。甘い。甘すぎる」
「ですよね! もう、隠れてたのに、叫び声をあげそうになりました」
「黒尾も甘いけど、さっちーが確実に照れてる。そして浴衣姿が尊い」
「そうなんですよっ! すごく似合ってますよね。そして大人びてみえる」
「さっちーも黒尾も身長高いから、歩く姿もお似合いよね」
「あ、それなら、」
またスマホを何度か操作して、帰り道、二人で歩く姿を後ろから撮影した写真を見せる。
「研磨さんからもらった、というか事前にめちゃくちゃお願いして撮ってもらいました」
「はああ。青春。青春を感じる」
手をつないでこそいないけど、距離感は恋人のそれのような、付き合う一歩手前のような。もどかしい距離で歩く二人。
「いやあ。幸せな時間でした。私が」
「黒尾とかさっちーとかじゃなくて、咲良が幸せだったのね」
「もうおなかいっぱいでしたもん。屋台、ほとんど食べてないです、」
盛り上がっていたところに、頼んでいたケーキセットが届いたので、ひとまずクールダウン。アイスティにガムシロップを入れて、ヒートアップしていた喉を潤す。元気百倍だ。これでまたたくさん話ができる。
「写真たくさん撮ったので見てください」
「みるみる!」
スマホをテーブルに置いて、祭りの日の最初に撮った写真に合わせる。
サチ先輩の浴衣姿の全身。
一年生で回っていたときにとった学年写真
途中で三年生集団と遭遇した時に撮った、三年生全員集合写真
そして黒尾先輩とサチ先輩が二人でイチャイチャしている写真がたくさん。
髪飾りを選んでいるところとか、サチ先輩につけてあげているところとか、激アツである。
「ちょっと待ってよ。もしかして、咲良、さっちーを尾行してた?」
「いえいえいえ、そんな野暮なことはしません」
「それにしては、写真多すぎじゃない?」
「三年生集団と偶然出会うまでは、純粋に楽しんでましたよ、夏祭り」
「うんうん」
「でも、夜久先輩と海先輩が、二人を置いて抜け出してきたって一年に混ざってきて、しばらくしてから夜久先輩が”様子見てくるぞ”っていうから」
「あ~。夜久が黒幕か」
「そうです。私ではありません」
「まいーや。ごちそうさまな写真たくさん見れたし」
ケーキを食べ終え、アイスティをちまちま飲む。かおり先輩はまた最初から写真を見返している。
「さっちーがなあ。惜しいところまできてるんだけど、なかなか鈍感だから」
「ほんとですよね。この距離感で、何も感じないなんて」
「まあ、さっちーだからねえ」
「そういえば、今日は黒尾先輩の家で、宿題をするようですよ」
「ああ、毎年恒例のヤツね」
驚かれると思いきや、いつもの感じのようだったので、ちょっと拍子抜けする。
「黒尾が毎年、さっちーの宿題の面倒見てんのよ。前は合宿でやってたけど、さっちーが疲れてねむっちゃうしやる気もないから、背水の陣的な感じで、追い込まれてからやることにしたらしい」
「いいんだか悪いんだか、ですね」
「まあ、黒尾にとっては2人きりでいられるデートみたいなもんでしょうね」
アイスティがそろそろなくなる。今日はもうお開きかなあ、なんてちょっと寂しく思っていると、「お代わり、する?」と。
まだまだ女子会は終わりそうにない。
カリカリとシャーペンがノートに走る音と、時計の針が動く音がするだけで、静かな室内。
勉強するときはたいてい黒尾の部屋でやる。なぜかといえば、私の部屋には誘惑がいっぱいあるからだ。主に私にとっての。
「また集中してませんけどー」
『ちょっと休憩』
「20分前にやりましたー。……どうせわかんないんだろ。どれ」
なんでもお見通しの幼馴染に、少しだけむっとする。なんで私のことそんなにわかるんだ。いやまて、黒尾は私以外のことに対してもだいたいわかるじゃん。
じゃあ黒尾がすごいヤツか。……それはそれでなんか悔しい。
『これとこれとこれとこれ』
「3問目からわかってないじゃないの。早く言いなさいよ」
『黒尾の邪魔しないようにしてあげてるんでしょ』
「そりゃあどうも。ちなみに俺は宿題は終わってる」
『うへえ。優等生かよ。バレーもできて勉強もできるなんて』
「その、優等生鉄朗くんの恩恵にあずかっているのは、どこのどなたですかー」
軽口をたたきながらも、問題を読んで、何やら図を書き始める幼馴染。
「これは、ほら。この公式を使うの」
『そんな公式あったっけ』
「ありました。覚えなさいよ。センターに絶対でるから」
『はぁああ』
xやらyやらよくわからん。
適当に黒尾の書いた公式を書き写しながら、よくもまああの練習量をこなしながら勉強ができるもんだなあ、と素直に感心した。心の中でだけ。態度には一切出しません。
『でもさあ、二学期始まったら、春高二次予選もあるじゃん』
「そうだな」
『そっちの方もそろそろ対策しないと』
「二次予選よりも、先に宿題提出が来るだろ」
『けち尾』
「なんでもいいから早く終わらせなさい」
んなことを言われたって。
やる気にならないものはならない。
やる気にならないときって、動いているものに目が行くのはなぜだろう。たぶん、私というより人間の習性というか、動物の習性なんだと思う。
宿題は終わったという幼馴染は、しかしシャープペンシルをカリカリしている。何やら自主的に勉強をしているらしい。
シャーペンのカリカリが止まる。眉をひそめた。左手であごを触る。しばらくして、シャーペンを持ったままの右手が後頭部をガシガシして―――目があう。
「なんですかー」
『いやあ、勉強してるんだなあ、と思って』
「……なんでだと思う?」
変なことを聞く。
『大学に行きたいから、とか?』
ほかに理由なんてないだろ。でもとりあえず、語尾に「?」をつけてみる。
「ぶー」
『えー。じゃあ、モテるため、とか』
いつだったか、告白されても、「好きな人がいる」と断っていると聞いたことがある。黒尾が言うには、成功する盛大な作戦があるらしいが、どうにもその作戦を実行している素振りは見えないので、実は好きな人などいないかまたは既に振られているのではないかとか一瞬思った。
「ピンポーン」
『……へえ』
「急に興味をなくすな」
『わあ、そうなんだー。勉強する黒尾くんかっこいい―(棒読み)』
「華麗なる棒読みで、どうも」
『どういたしまして』
でも本当に興味がないので、仕方なく目の前の宿題に集中しようと試みたところで、黒尾の方はまだ会話が続いていたらしい。
「そいつが、すげー勉強できないから、教えるために勉強してたらできるようになってた」
『何それ、黒尾らしすぎる』
昔から人一倍面倒見がいい黒尾である。そんな理由にも納得がいく。
『じゃあ、私はラッキーだな。ついでに教えてもらえるし。おこぼれ、みたいな感じか』
「まあ、そういうこったなー」
『ってことで、今日はお開きに…』
「ばか言え。まだ一時間もやってないし、宿題5問しか終わってねーだろ」
『ええ。もう疲れた。黒尾の好きな人の方を面倒見てあげなよー。私じゃなくて』
「うっせー。早く宿題終わらせて、春高予選の対策ねるんだろ」
結局その後もお開きにはさせてもらえず、暗くなるまで延々と宿題をやらされたのだった。
29 なんだ。ただの黒尾か
To:かおり先輩
From:咲良
そういえば、二学期に入ったら文化祭があるので、良かったら見に来てください♪
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