Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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家に帰ると、意気揚々とした母親が待ち構えていた。
「ほらほら。浴衣準備するわよ」
『ええ、面倒だからイヤ』
「いいじゃないの。他の子も浴衣なんでしょ」
『そうだけど』
しばらくの押し問答の末、「お父さんに似合ってるって言われた浴衣なの」という発言で一機に押しやられた。お父さんの話を持ち出すのはずるいと思う。
緑というには鮮やかさがなくて、浅葱色とでもいえばいいだろうか。そんな色に、萩の花が白抜きで入っている。
浴衣を一目見て、派手過ぎないところが気に入った。
『仕方ないなあ』
しばらく黙っていると、手際よく浴衣を着せられていく。あっという間に帯まで締め終わって、そこで時間を確認する母。
「うん、まだ大丈夫そうね。じゃあ髪とお化粧もやりましょうか」
『ええ、まだやるの』
「いいじゃないの。一回やってみたかったのよ」
ノリノリな母に、もうなるようになれ、と母のドレッサーの前で神妙になった。
「んん、ちょっと華が足りない気もするけど」
『いい、十分すぎるくらい華やか』
最後まで気に入らなかったのはアップでまとめた髪に飾る髪飾りだったようで、母親が結婚式で使うものの中から選んだからか、浴衣にベストマッチとまではいかない。
でも私からは見えることはないので、あまり気にはならないし、なんなら髪飾りなどなくてもよい。
そういえば、シュシュを付けていこうと思っていたのだけど。
しかしほとんど出来上がった髪型に、今更シュシュをねじ込むすきはないので、あきらめることとする。
「まったく。少しは、おしゃれにも興味を持ちなさいよ」
『はいはーい。じゃあ行ってくる』
玄関の扉を開けると、向かいの公園に、黒尾と研磨がいた。二人とも思い切り普段着である。
『なんで私だけ浴衣着ないといけないのよ』
いきなり文句を垂れたせいか、黒尾からも研磨からも返事がない。
無視するな。
黒尾の足を思い切り蹴飛ばそうかと思ったのだけど、浴衣のせいで足が開かず、不発に終わる。
「似合ってるよ」
『そりゃあどうも』
申し訳程度に研磨がそういうので、こちらもそれなりの返事をして会場へと向かうことにした。
「うわぁあああああサチ先輩キ"レ"イ"~」
『咲良うるさーい』
集合場所には、すでに全員がそろっていて、何人かは浴衣姿である。咲良もその一人で、華やかな柄の浴衣があたり一面を明るくしている。
顔立ちも華やかな感じだから、華やかな浴衣はとても似合う。
「サチ先輩は大人な感じで素敵です」
『お母さんのお古だもん、しょうがないでしょ』
「サチ先輩のお母さんもきっとキレイな方なんでしょうね」
『はいはい』
そんな感じでスタートした音駒男バレ夏祭りは、花火が始まるまでは学年ごとで回るらしい。確かにこんな大所帯で動き回るのは結構大変だろうと思う。
『咲良どうする?』
男子の中に一人女子だと嫌かな、と考えての発言だったのだが、「いえ! 私は1年生で回りますのでっ!」と妙に張り切った返事をもらった。何か企んでいるのだろう。失敗しないといいいけど。
『じゃまた後でね』
1・2年生を送り出し、その場には3年生4人だけが残る。
「で、今年は何しますか」
「去年は金魚すくいしたっけか?」
「あの金魚、まだ生きてる?」
「生きてる、生きてる。うちでしっかり肥えてるよ」
「お、じゃあ今年は後輩を…」
「いや、あれだけいたらしばらくはいらない」
黒尾と夜久、海の会話である。この会話から、昨年はみんなで金魚すくいをやり、すべての金魚が海の家に押し付けられたことがわかった。音駒3年のいつもの構図だったので、思わずぷっと笑ってしまう。
「でサチさんは? なんかやりたいことないの?」
『夏祭りのイメージがわかない』
「人込み苦手だもんね」
「じゃあとりあえず、プラプラしてみますか」
人込みの多い場所は避けつつ、のんびりと歩いてくれているのがわかる。私が立ち止まるとみんな適当に立ち止まってくれるので、なんというか過保護な3年ズである。同級生というか保護者という感じ。
「なにニヤニヤしてんの」
射的の景品が気になり立ち止まったところで、夜久から声を掛けられる。黒尾は射的に覚えがあるのか、意気揚々と挑んでいる最中である。
『なんかみんな過保護だなって』
「そりゃあ、いつも過保護なバレーやってますからね」
『ああ、確かに。セッターを動かさないバレーね』
「黒尾がなんかあてたみたいだよ」
海の視線の先には、景品を持った黒尾。
それはまさしく私の目を引いた景品であり、一言も言ってないのになんでわかるんだ、と視線で訴える。
「黒尾さんにかかれば朝飯前デス」
ずい、と差し出される。男子高校生がもつには可愛すぎるソレは、私のために取ってくれたことがよくわかる。
サで始まる会社のポチャという言葉が付くキャラクターのお人形。
『わざわざどうも』
しぶしぶ受け取れば、「さすが幼馴染」と茶化される。
「イチャイチャするのは学校だけにしろー」
「うるせー悔しいなら幼馴染連れて来い」
「んなもん、いませんー」
黒尾と夜久の言い合いの横で、海から「それ好きなの」と聞かれる。
『ん、まあね』
「よかったね」
にこにこしている海に、なんだろう、ちょっと照れる。
黒尾の優しさというか面倒見の良さというかはいつものことなんだけど、こういう時に発動されると、どういう顔で受け取ればいいのか悩んでしまう。
「そろそろ歩いてるだけも疲れたし、なんかやろーぜ」
「金魚すくい、はダメか。じゃあ、あれなんてどうだ」
「ヨーヨー釣りね。そう来るとおもった」
男子のノリというのは、こういうものか。
なんかやってないとダメなのかね。なんてあきれ顔で、後ろからついていく。
水風船なんて、祭り終わったら捨てるだけじゃん!
そんな内心をよそに、「はいどーぞ」と海にこよりを渡される。
『いや、私はべつに―――』
「つべこべ言わずにやろうぜ」
「一番多くとれたヤツには、好きな食べ物をおごるってことで」
『そういうことならやる気出てきた』
誰かが言った、よーいどん、で年齢も忘れて本気ヨーヨー釣り。
といっても、結果は黒尾が一番だったのだけれども。
『えええ、器用すぎ』
「へっへーん」
「ってか倉木、2本OKにしたのに、1個も取れないってなんだよ」
『しょうがないじゃん、やった記憶がほぼない』
「逆に、黒尾はなんでそんなに取れるの」
そんな調子でがやがやと祭りを楽しみ。
優勝者の黒尾に、イカ焼きをプレゼントしたところで、異変に気が付く。
『あれ、みんなは?』
黒尾以外の二人の姿が見当たらない。
「どっか行ったな、こりゃ」
『なんで』
「変な気を使ったんじゃない。あいつら二人にしておこーぜ、的なヤツ」
『うわあ、変な気遣い』
「まいーや。戻ってくるまで適当に過ごしましょうか。食べる?」
『いらなーい』
ひとまず黒尾がイカ焼きを食べ終わるのを待ち、どこへ行くでもなくぶらぶらと歩を進める。先ほどよりも、もっとゆっくりな足取りになって、どんどん気が抜けてしまう。
『甘いの食べたい』
「甘いのねえ。わたあめ、りんご飴、かき氷。向こうにチョコバナナもありそうだけど。どれにする?」
『チョコバナナ』
「じゃ行きますか」
その道すがらに、キラキラとしたものが目に留まり、思わず立ち止まる。
『、』
色とりどりのアクセサリーがならび、中でも浴衣にあうような華やかな髪飾りが異彩を放っていた。
「今日のサチさんの浴衣にピッタリですね」
『鉄朗もそう思う?』
「記念に一つ、選んでみたら」
『んー』
せっかく買うなら、なんか今日にちなんだものがいいかな。
そんな考えと、今日着ている浴衣の色合いによく合うものがマッチした。
『これ、よさそう』
「たしかに。今日の思い出にもなるな」
数個のヨーヨーが下げられている簪。大きさやヨーヨーの柄はマチマチなのだが、青系で統一されているので、気に入った。
お金を払おうと、慣れない巾着袋を手にもたついているわきで、鉄朗がさらっと会計を済ませてしまう。
『え、お金』
「日頃の感謝の気持ちってことで」
『ええ、』
「つけていい?」
ふわって笑うので、思わず心臓がはねた。ことは内緒にしておく。
黙ってうなずけば、今度はクスリと笑いながら、大事なものでも扱うように、そっと簪が刺される。その力加減が、照れくさい。
「痛くない?」
『痛くない。……落ちない?』
「んー、正直わからん。つけたことないし」
『あんなに慣れた感じを醸し出しておいて?』
「しょうがねーだろ」
照れくささを隠す意味合いもあって、どうでもいい会話をする。いつもより口数が多くなっている気がするが、いたって黒尾のせいである。
目的のチョコバナナを買い、適当な段差に腰かけてそれを食べる。
こちらを見る鉄朗の目がなんだかこそばゆい。
『見られながら食べるの、疲れるから見ないで』
「減るもんじゃないし、いいでしょ」
『減る』
そこまで言えば、ようやくあきらめたように隣に腰かける。夏のせいか、隣に鉄朗が腰かけるだけで、温度が上がったように思えた。
「そういやさ」
『ん?』
チョコバナナが浴衣につかないように食べるのが大変だな、とか思いながら鉄朗の話に耳を傾ける。
残り一口か二口か。おしとやかに行くなら二口だけど、食べづらいな。一口で食べたら、汚さず食べきれるかな、一緒にいるのは鉄朗だけだし、おしとやかじゃなくともいいだろう、と大きく口を開けたところ。
「今日、すっげーかわいいのな」
なんか聞きなれない言葉が紡ぎだされて、残りのチョコバナナを一口で食べるべく、大きく開けていた口を、慌てて閉じた。いきなり何をぶっこんでくるのだろう。
『聞き間違いかな』
「んなわけないでしょ」
『なんか企んでる?』
「企んでませんー」
『夏祭りの空気にあてられたか』
「……それは、なくもない」
『じゃあ恥ずかしくなる前に撤回しなさい。チャンスを与える』
チョコバナナ越しに鉄朗を見ていたら、肩ひじをついてこちらを眺める鉄朗が、すごく優し気な顔をした。
「浴衣似合ってますよ、サチさん」
えっと。
さすがに反応に困って、何も返事できないし、一口で行くはずだったチョコバナナを、それまでにないほどの小さなお口で食べるはめになった。
『そういうこと、平気で、』
「だってサチさんにはストレートに表現しないと、ねえ」
『……ちゃらい』
顔が赤くなったのは、しばらく治りそうにない。
28 夏祭り
こういうことさらっとするから、モテるんだろうなあ、と。
心臓に悪いから、私にはそういうのやめてほしい。いつものおバカな感じでよろしくどうぞ。
「ほらほら。浴衣準備するわよ」
『ええ、面倒だからイヤ』
「いいじゃないの。他の子も浴衣なんでしょ」
『そうだけど』
しばらくの押し問答の末、「お父さんに似合ってるって言われた浴衣なの」という発言で一機に押しやられた。お父さんの話を持ち出すのはずるいと思う。
緑というには鮮やかさがなくて、浅葱色とでもいえばいいだろうか。そんな色に、萩の花が白抜きで入っている。
浴衣を一目見て、派手過ぎないところが気に入った。
『仕方ないなあ』
しばらく黙っていると、手際よく浴衣を着せられていく。あっという間に帯まで締め終わって、そこで時間を確認する母。
「うん、まだ大丈夫そうね。じゃあ髪とお化粧もやりましょうか」
『ええ、まだやるの』
「いいじゃないの。一回やってみたかったのよ」
ノリノリな母に、もうなるようになれ、と母のドレッサーの前で神妙になった。
「んん、ちょっと華が足りない気もするけど」
『いい、十分すぎるくらい華やか』
最後まで気に入らなかったのはアップでまとめた髪に飾る髪飾りだったようで、母親が結婚式で使うものの中から選んだからか、浴衣にベストマッチとまではいかない。
でも私からは見えることはないので、あまり気にはならないし、なんなら髪飾りなどなくてもよい。
そういえば、シュシュを付けていこうと思っていたのだけど。
しかしほとんど出来上がった髪型に、今更シュシュをねじ込むすきはないので、あきらめることとする。
「まったく。少しは、おしゃれにも興味を持ちなさいよ」
『はいはーい。じゃあ行ってくる』
玄関の扉を開けると、向かいの公園に、黒尾と研磨がいた。二人とも思い切り普段着である。
『なんで私だけ浴衣着ないといけないのよ』
いきなり文句を垂れたせいか、黒尾からも研磨からも返事がない。
無視するな。
黒尾の足を思い切り蹴飛ばそうかと思ったのだけど、浴衣のせいで足が開かず、不発に終わる。
「似合ってるよ」
『そりゃあどうも』
申し訳程度に研磨がそういうので、こちらもそれなりの返事をして会場へと向かうことにした。
「うわぁあああああサチ先輩キ"レ"イ"~」
『咲良うるさーい』
集合場所には、すでに全員がそろっていて、何人かは浴衣姿である。咲良もその一人で、華やかな柄の浴衣があたり一面を明るくしている。
顔立ちも華やかな感じだから、華やかな浴衣はとても似合う。
「サチ先輩は大人な感じで素敵です」
『お母さんのお古だもん、しょうがないでしょ』
「サチ先輩のお母さんもきっとキレイな方なんでしょうね」
『はいはい』
そんな感じでスタートした音駒男バレ夏祭りは、花火が始まるまでは学年ごとで回るらしい。確かにこんな大所帯で動き回るのは結構大変だろうと思う。
『咲良どうする?』
男子の中に一人女子だと嫌かな、と考えての発言だったのだが、「いえ! 私は1年生で回りますのでっ!」と妙に張り切った返事をもらった。何か企んでいるのだろう。失敗しないといいいけど。
『じゃまた後でね』
1・2年生を送り出し、その場には3年生4人だけが残る。
「で、今年は何しますか」
「去年は金魚すくいしたっけか?」
「あの金魚、まだ生きてる?」
「生きてる、生きてる。うちでしっかり肥えてるよ」
「お、じゃあ今年は後輩を…」
「いや、あれだけいたらしばらくはいらない」
黒尾と夜久、海の会話である。この会話から、昨年はみんなで金魚すくいをやり、すべての金魚が海の家に押し付けられたことがわかった。音駒3年のいつもの構図だったので、思わずぷっと笑ってしまう。
「でサチさんは? なんかやりたいことないの?」
『夏祭りのイメージがわかない』
「人込み苦手だもんね」
「じゃあとりあえず、プラプラしてみますか」
人込みの多い場所は避けつつ、のんびりと歩いてくれているのがわかる。私が立ち止まるとみんな適当に立ち止まってくれるので、なんというか過保護な3年ズである。同級生というか保護者という感じ。
「なにニヤニヤしてんの」
射的の景品が気になり立ち止まったところで、夜久から声を掛けられる。黒尾は射的に覚えがあるのか、意気揚々と挑んでいる最中である。
『なんかみんな過保護だなって』
「そりゃあ、いつも過保護なバレーやってますからね」
『ああ、確かに。セッターを動かさないバレーね』
「黒尾がなんかあてたみたいだよ」
海の視線の先には、景品を持った黒尾。
それはまさしく私の目を引いた景品であり、一言も言ってないのになんでわかるんだ、と視線で訴える。
「黒尾さんにかかれば朝飯前デス」
ずい、と差し出される。男子高校生がもつには可愛すぎるソレは、私のために取ってくれたことがよくわかる。
サで始まる会社のポチャという言葉が付くキャラクターのお人形。
『わざわざどうも』
しぶしぶ受け取れば、「さすが幼馴染」と茶化される。
「イチャイチャするのは学校だけにしろー」
「うるせー悔しいなら幼馴染連れて来い」
「んなもん、いませんー」
黒尾と夜久の言い合いの横で、海から「それ好きなの」と聞かれる。
『ん、まあね』
「よかったね」
にこにこしている海に、なんだろう、ちょっと照れる。
黒尾の優しさというか面倒見の良さというかはいつものことなんだけど、こういう時に発動されると、どういう顔で受け取ればいいのか悩んでしまう。
「そろそろ歩いてるだけも疲れたし、なんかやろーぜ」
「金魚すくい、はダメか。じゃあ、あれなんてどうだ」
「ヨーヨー釣りね。そう来るとおもった」
男子のノリというのは、こういうものか。
なんかやってないとダメなのかね。なんてあきれ顔で、後ろからついていく。
水風船なんて、祭り終わったら捨てるだけじゃん!
そんな内心をよそに、「はいどーぞ」と海にこよりを渡される。
『いや、私はべつに―――』
「つべこべ言わずにやろうぜ」
「一番多くとれたヤツには、好きな食べ物をおごるってことで」
『そういうことならやる気出てきた』
誰かが言った、よーいどん、で年齢も忘れて本気ヨーヨー釣り。
といっても、結果は黒尾が一番だったのだけれども。
『えええ、器用すぎ』
「へっへーん」
「ってか倉木、2本OKにしたのに、1個も取れないってなんだよ」
『しょうがないじゃん、やった記憶がほぼない』
「逆に、黒尾はなんでそんなに取れるの」
そんな調子でがやがやと祭りを楽しみ。
優勝者の黒尾に、イカ焼きをプレゼントしたところで、異変に気が付く。
『あれ、みんなは?』
黒尾以外の二人の姿が見当たらない。
「どっか行ったな、こりゃ」
『なんで』
「変な気を使ったんじゃない。あいつら二人にしておこーぜ、的なヤツ」
『うわあ、変な気遣い』
「まいーや。戻ってくるまで適当に過ごしましょうか。食べる?」
『いらなーい』
ひとまず黒尾がイカ焼きを食べ終わるのを待ち、どこへ行くでもなくぶらぶらと歩を進める。先ほどよりも、もっとゆっくりな足取りになって、どんどん気が抜けてしまう。
『甘いの食べたい』
「甘いのねえ。わたあめ、りんご飴、かき氷。向こうにチョコバナナもありそうだけど。どれにする?」
『チョコバナナ』
「じゃ行きますか」
その道すがらに、キラキラとしたものが目に留まり、思わず立ち止まる。
『、』
色とりどりのアクセサリーがならび、中でも浴衣にあうような華やかな髪飾りが異彩を放っていた。
「今日のサチさんの浴衣にピッタリですね」
『鉄朗もそう思う?』
「記念に一つ、選んでみたら」
『んー』
せっかく買うなら、なんか今日にちなんだものがいいかな。
そんな考えと、今日着ている浴衣の色合いによく合うものがマッチした。
『これ、よさそう』
「たしかに。今日の思い出にもなるな」
数個のヨーヨーが下げられている簪。大きさやヨーヨーの柄はマチマチなのだが、青系で統一されているので、気に入った。
お金を払おうと、慣れない巾着袋を手にもたついているわきで、鉄朗がさらっと会計を済ませてしまう。
『え、お金』
「日頃の感謝の気持ちってことで」
『ええ、』
「つけていい?」
ふわって笑うので、思わず心臓がはねた。ことは内緒にしておく。
黙ってうなずけば、今度はクスリと笑いながら、大事なものでも扱うように、そっと簪が刺される。その力加減が、照れくさい。
「痛くない?」
『痛くない。……落ちない?』
「んー、正直わからん。つけたことないし」
『あんなに慣れた感じを醸し出しておいて?』
「しょうがねーだろ」
照れくささを隠す意味合いもあって、どうでもいい会話をする。いつもより口数が多くなっている気がするが、いたって黒尾のせいである。
目的のチョコバナナを買い、適当な段差に腰かけてそれを食べる。
こちらを見る鉄朗の目がなんだかこそばゆい。
『見られながら食べるの、疲れるから見ないで』
「減るもんじゃないし、いいでしょ」
『減る』
そこまで言えば、ようやくあきらめたように隣に腰かける。夏のせいか、隣に鉄朗が腰かけるだけで、温度が上がったように思えた。
「そういやさ」
『ん?』
チョコバナナが浴衣につかないように食べるのが大変だな、とか思いながら鉄朗の話に耳を傾ける。
残り一口か二口か。おしとやかに行くなら二口だけど、食べづらいな。一口で食べたら、汚さず食べきれるかな、一緒にいるのは鉄朗だけだし、おしとやかじゃなくともいいだろう、と大きく口を開けたところ。
「今日、すっげーかわいいのな」
なんか聞きなれない言葉が紡ぎだされて、残りのチョコバナナを一口で食べるべく、大きく開けていた口を、慌てて閉じた。いきなり何をぶっこんでくるのだろう。
『聞き間違いかな』
「んなわけないでしょ」
『なんか企んでる?』
「企んでませんー」
『夏祭りの空気にあてられたか』
「……それは、なくもない」
『じゃあ恥ずかしくなる前に撤回しなさい。チャンスを与える』
チョコバナナ越しに鉄朗を見ていたら、肩ひじをついてこちらを眺める鉄朗が、すごく優し気な顔をした。
「浴衣似合ってますよ、サチさん」
えっと。
さすがに反応に困って、何も返事できないし、一口で行くはずだったチョコバナナを、それまでにないほどの小さなお口で食べるはめになった。
『そういうこと、平気で、』
「だってサチさんにはストレートに表現しないと、ねえ」
『……ちゃらい』
顔が赤くなったのは、しばらく治りそうにない。
28 夏祭り
こういうことさらっとするから、モテるんだろうなあ、と。
心臓に悪いから、私にはそういうのやめてほしい。いつものおバカな感じでよろしくどうぞ。