Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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「あれ、サチ先輩、今日なんかあるんですか?」
『え、なんで?』
「いや、だってほら。なんかウキウキしてません?」
いやいや、ウキウキなんてしてない。
『してません』
きっぱりと言い切ったのだが、かえってニヤニヤとされる。
女子更衣室にて、咲良との会話である。
確かに今日は、黒尾と寄り道をしてから帰る。でもそれは、夜久の誕生日が明日であることを昨日思い出し、今日の帰り、慌ててプレゼントを用意する流れになったからであって、ウキウキする理由は何一つない。
「えー、だって、サチ先輩、お気に入りのシュシュつけてるし、なんか念入りに体ふいてません?」
お気に入りのシュシュというのは、以前、黒尾からプレゼントされた青い色のシュシュのことだと思う。普段使いにどうぞ、とか言われたのだけども、夏休み中ではほぼつけることはなかった。だって学校と家との行き来の中で、つける必要ある?
だから、今日は買い物へ行くというのでつけてみた。それだけ。
あと、夏のくそ暑い日の部活終わり、買い物へ行くともなれば、汗臭い体を念入りにふくのはごくごく自然のことだと思う。
『別に、お気に入りではない。もらったからつけてるだけ。そして夜久の誕プレを買いに行くだけ、黒尾と』
「いいなあ、幼馴染からのプレゼント!」
『あら。じゃあ今度咲良にも買ってあげてって言っとくよ。黒尾に』
そんな返答をすれば、急に動きを止めて怖い顔でこちらをにらむ。
「サチ先輩。それは、それだけは言っちゃダメですよ」
『え、なんで?』
「そりゃあ、黒尾先輩が心を込めて選んだわけで、」
『そお? 私が青が好きだから青にしただけだよ』
「そうなんですけど、そうじゃなくて、」
あーもう。あんて悪態をつくものだから、よくわからないけど面白い。
「とにかく。今日は黒尾先輩とデート楽しんできてください」
『ちょっと待って、デートではない』
「デートでしょ」
『なんでそうなるのよ。夜久の誕プレを―――』
「はいはいわかりました。早くしないと黒尾先輩待ってるんじゃないですか」
言いつつ咲良が更衣室から外を見に行き、「やっぱりもう待ってますよ」とか言いながらこちらにやってきた。
「早く早く。一秒でも早くしてください」
よくわからないが、あれよあれよと荷物をまとめられ、更衣室からポイされた。私も私の荷物も。
咲良の方が、なんだか張り切っているなあ、と。
『ええ、全然決まんない』
駅直結のショッピングセンターに来ていた。
夜久の誕生日プレゼントを買うためにこうしてやってきたわけだが、誕生日ということに気が付いたのが昨日で、とりあえず買い出しにやってきただけで、なんの下調べもしていない。もちろん何を買うのかも決まっていない。
決まっているとすれば、だいたいの予算くらいだろうか。
スポーツショップ、雑貨屋、本屋、文房具屋、CDショップ、といろんな店を見て回ったが、なかなかこれというものが見つからない。さすがに疲れたので、休憩がてら、階段横にあるソファに腰かけて、第一声がさっきのそれである。
黒尾は、都合よく隣にあった自動販売機で飲み物を買っている。店側の策略にしっかりはまっている。そして私も、黒尾が買ったら策略にはまろうと思う。
「まあまあ。これでも飲みながらゆっくりしてくださいよ」
しかしはまるのは黒尾だけでよかったらしい。
私の分まで買ってくれていた。しかも私の好きなリンゴジュース。さすが黒尾である。
『わーい』
素直に喜んで受け取ると、黒尾も気をよくしたらしい、「何にしましょうかねえ」とか言いながら、隣に座る。
二人掛け用のソファだからか、黒尾が座ったとたん、黒尾の方に少し傾く。ので、少し座りなおした。
「もう今見た中から決めようぜ。何がよかったか3つあげよ」
『えー、んー。考える時間をください』
「3分な」
ぼけーっと道行く人を見ながら、今日もいい匂いがするなあ、と考える。
咲良がジャグをぶちまけた日、黒尾からTシャツを借りたのはよかったのだけど、その日はずっと黒尾の匂いがして落ち着かなかった。
そして今日もその匂い。そわそわするけど、でも嫌ではない。そわそわするけど、落ち着くのである。そんな矛盾があっていいのだろうか。
「はい3分」
『え、早くない? 何も考えてない』
「でしょうね。ボケーっとしてるなあ、と思ってました」
『ちゃんと考えるからあと3分』
「もういいですー」
そして黒尾から3つの選択肢が与えられた。
「①スポーツショップにあったタオル」
『ああ、一番無難なやつね』
「②本。むずかしめなやつ」
『ああ、ネタで買うヤツ。絶対本読まなさそうだよね、夜久』
「③なんか面白そうな雑貨」
『最後だけ雑。決まってないじゃん』
さあ選べ。とでも言いたげな視線がこちらへ向けられる。
『タオル以外、具体的には決まってないじゃん』
「しょうがないでしょーが」
『んーじゃあ自分で買わなさそうな本』
「へいへい。じゃ、もう一回本屋行きましょうかね」
重たい腰を上げて、本屋へと足を踏み入れる。
真面目に選ぶべきか、黒尾のようにネタとして絶対読まなさそうな難しい本を選ぶべきか。
そんなことを考えながら、黒尾と並んで本屋を見て回る。端から端までなめるように見ている。
「お。これなんかどうよ。”ショートカットの女性たち”」
『どこから見つけてきたのよソレ。よくわからんからダメ』
「えーいいじゃねーの、ノリ」
『それならこっちの方がいいよ。”まだあきらめなくていい! 大きくなるには”』
「いやいやいや、身長の話は、やっくんにはNGだって」
『ええ、でもこれ、身長じゃなくて人間としてって話で、』
「いや失礼だろ。やっくんは人間として”は”でかい」
『いやそれも失礼』
「あー!」
本屋だというのに、黒尾の大きな声で会話が断ち切られる。
「月刊バリボーの新刊出てるぞ」
迷うことなく手に取る黒尾。ちなみに私も興味があるので、黒尾が呼んだあとに貸してもらうことで話が付いた。
『あ、懐かしい、この本。昔黒尾の家で読んだ』
ふと目線を上へ動かしたときに目に入った絵本だった。
思わず手に取ろうと腕を伸ばすが、思ったよりも上に置かれている。
なんで絵本をこんな高い場所に置くかな、なんて思いつつも、思い切り背伸びすれば届くかなあ(この身長で届かないものはほぼない)と考えていたら、後ろからにゅっと手が伸びてきた。そしていとも簡単に絵本を手に取る。
「まじだ、すげえ懐かしいな」
ほらこれ、という言葉と一緒に絵本が降ってくる。
『あ、りがと、』
思わずお礼を言ったけど。
私を見下ろせるのはバレー部の男子くらいで、中でもこんなに至近距離に入るのは黒尾だけだったりする。
なんだろう。なんかこう、うわーって。よくわからない感情が、うわーって。
「にしても、絵本をそんな所に置くかね。サチさんが届かないってよっぽど高いでしょ」
『いや、伸ばせば届いた』
「負けず嫌いか、」
うわーしか出てこない自分の語彙力にこめかみを抑える思いで、でも平静を装ってプレゼント探しを続けた。
しかし、数十分本屋をぐるぐるしても、まったく決まる気配がない。黒尾と話をするだけで時間が過ぎるだけである。
『だめだ。本は却下。雑貨にしよ』
「だな。あんま遅くなる前に決めたいし」
そうしてやってきた雑貨屋さん。
『見てみて、キリン柄の靴下がある』
「おいこれ、研磨に着せたら絶対面白いぞ」
『キャリアウーマン(サングラス着用)』
「ぶはっ。明日それつけてこいよ」
そんな感じで雑貨屋を一周してしまう。
「だめだ。本来の目的を忘れて楽しんでしまった」
『反省してます。もう一周しましょう』
しかし目的を意識して回ると、不思議なもので何にも出てこないのである。
どういうこっちゃ。
『はぁぁああ。疲れた』
盛大にため息をついたところに、「あれ、黒尾くん?」と声がした。
振り返れば、黒髪ロングでさらさらストレートのキレイ系女の子が立っていた。
「ん? ああ、久しぶり」
中学で一緒だった子らしい。私はクラスかぶっていないからよくわからないが、綺麗な人だと思う。
「元気にしてた?」
「まあな。そっちは?」
「ぼちぼちだよ。相変わらずバレー三昧なんでしょ?」
会話を聞くのも申し訳ないので、少し遠くで待つことにする。
が、しかしあれだなあ。お似合いだなあ。
女の子の方は、黒尾を見る目がキラキラしていて、一昔前の咲良を思い出した。もしかすると好きなのかもしれない、黒尾のことが。黒尾のヤツ、案外もてるな。
まあでも、いい奴だからなあ、黒尾は。とも思う。
面倒見がいいし、めったに怒らないし、というか優しい。
今はバレーばっかりだけど、バレー終わったら、彼女でも作って楽しく過ごすのだろう。
黒尾と付き合う人は、とても大事にされて、冗談を言い合って、幸せになれる。
言い切れてしまうのが、なんか面白くて、内心でクスクスと笑ってしまう。
「サチさーん。何ニヤニヤしてんですかー」
いつの間にやら会話を終えた黒尾が目の前にいた。でかい。
『近すぎ、でかい。首が痛くなる』
「え、何急に。辛辣じゃないですか」
『早く決めて帰ろう、疲れた』
「へいへい」
いつかはこの関係性も終わってしまうのだろうな。
高校卒業して、さすがに大学は違うところだろう。そうしたら就職して、違う道を選んで。
ある日突然、結婚するよって挨拶にやってくるのだろう、黒尾は。
そう思うとなんかちょっと寂しいというか、いつまでもこの関係性でいたいというか。
でもいつまでも高校3年生じゃいられないし。私もそろそろ黒尾から卒業しないといけないのかなあ。
ん。黒尾から卒業ってなんだ。
どっちかっていうと、黒尾がくっついてくるのでは?
なんかよくわからない思考になってきたので、考えることはとりあえず放棄することにした。早く夜久の誕プレ決めよーっと。
ようやく買い物が終わり、散々時間を費やした挙句、結局無難なタオルで落ち着いた。いやあ疲れた。
『激しい運動したわけでもないのに、こういう買い物ってすごく疲れる』
「それな」
目の前にいるのは黒尾で、買い物終わりに、カフェでコーヒーを飲んでいる。
『結局タオルにするなら、悩んだ時間は何だったんだーって』
「まあまあ。やっくんに、いいプレゼントを上げようって悩んだんだから、いい時間だったんじゃないの」
『まあ、そういわれればそうだけど』
頼んだケーキが運ばれてきたところで、「そういや」と黒尾が口を開く。
「あげた髪飾り、つけてきてくれたのな」
『え、ああ、うん。せっかくお出かけだったし、気に入ってるし』
ニヤニヤする黒尾の顔と目が合って、余計なことを言ったことを自覚する。
「へえ。気に入ってるんだ」
『いいじゃん別に。黒尾にしては気の利いたものを買ってきたってだけ。喜びなさい』
「はは、何それいきなり女王様じゃん」
クツクツと黒尾が笑う。ギロリと睨むのだけど、まったく気にした風もなく、「すげー似合ってる」とかいう。
『は?』
「…だから、すげー似合ってる」
『急にどうした』
ストレートに褒められる経験はあまりないので、対応に困る。
プレゼントをもらった時にも、似合ってるとは言われたけど、改めて言われると照れてしまう。
おそらくあれだ、買い物で歩き回って疲れているんだ。きっとそう。いや100%そう。
「サチさんには、遠回しに表現してもわかってもらえないので、ストレートに言うことにしてるんです」
『へえ?』
「赤い方も似合ってるけど、やっぱ青が似合うのな」
なおも続く褒め褒め攻撃に、体温が高くなっていくのがわかった。
なにこれ。どういう状況。
『なんの罰ゲーム』
「罰ゲームじゃありませんって」
『そんな胡散臭い顔で言われても、信じられません』
「はあ。まだまだ道のりは長そうね」
照れ隠しのように、頼んだケーキを口に運ぶと、とてもとても甘い味がした。
26チョコレートケーキ
サチに貸していたTシャツ。
返してもらったのはいいけど、たった一回貸しただけで、すごくサチの匂いがした。
しばらく部屋に飾っていたら、さすがに変態だろうか。変態だな。やめよう。
『え、なんで?』
「いや、だってほら。なんかウキウキしてません?」
いやいや、ウキウキなんてしてない。
『してません』
きっぱりと言い切ったのだが、かえってニヤニヤとされる。
女子更衣室にて、咲良との会話である。
確かに今日は、黒尾と寄り道をしてから帰る。でもそれは、夜久の誕生日が明日であることを昨日思い出し、今日の帰り、慌ててプレゼントを用意する流れになったからであって、ウキウキする理由は何一つない。
「えー、だって、サチ先輩、お気に入りのシュシュつけてるし、なんか念入りに体ふいてません?」
お気に入りのシュシュというのは、以前、黒尾からプレゼントされた青い色のシュシュのことだと思う。普段使いにどうぞ、とか言われたのだけども、夏休み中ではほぼつけることはなかった。だって学校と家との行き来の中で、つける必要ある?
だから、今日は買い物へ行くというのでつけてみた。それだけ。
あと、夏のくそ暑い日の部活終わり、買い物へ行くともなれば、汗臭い体を念入りにふくのはごくごく自然のことだと思う。
『別に、お気に入りではない。もらったからつけてるだけ。そして夜久の誕プレを買いに行くだけ、黒尾と』
「いいなあ、幼馴染からのプレゼント!」
『あら。じゃあ今度咲良にも買ってあげてって言っとくよ。黒尾に』
そんな返答をすれば、急に動きを止めて怖い顔でこちらをにらむ。
「サチ先輩。それは、それだけは言っちゃダメですよ」
『え、なんで?』
「そりゃあ、黒尾先輩が心を込めて選んだわけで、」
『そお? 私が青が好きだから青にしただけだよ』
「そうなんですけど、そうじゃなくて、」
あーもう。あんて悪態をつくものだから、よくわからないけど面白い。
「とにかく。今日は黒尾先輩とデート楽しんできてください」
『ちょっと待って、デートではない』
「デートでしょ」
『なんでそうなるのよ。夜久の誕プレを―――』
「はいはいわかりました。早くしないと黒尾先輩待ってるんじゃないですか」
言いつつ咲良が更衣室から外を見に行き、「やっぱりもう待ってますよ」とか言いながらこちらにやってきた。
「早く早く。一秒でも早くしてください」
よくわからないが、あれよあれよと荷物をまとめられ、更衣室からポイされた。私も私の荷物も。
咲良の方が、なんだか張り切っているなあ、と。
『ええ、全然決まんない』
駅直結のショッピングセンターに来ていた。
夜久の誕生日プレゼントを買うためにこうしてやってきたわけだが、誕生日ということに気が付いたのが昨日で、とりあえず買い出しにやってきただけで、なんの下調べもしていない。もちろん何を買うのかも決まっていない。
決まっているとすれば、だいたいの予算くらいだろうか。
スポーツショップ、雑貨屋、本屋、文房具屋、CDショップ、といろんな店を見て回ったが、なかなかこれというものが見つからない。さすがに疲れたので、休憩がてら、階段横にあるソファに腰かけて、第一声がさっきのそれである。
黒尾は、都合よく隣にあった自動販売機で飲み物を買っている。店側の策略にしっかりはまっている。そして私も、黒尾が買ったら策略にはまろうと思う。
「まあまあ。これでも飲みながらゆっくりしてくださいよ」
しかしはまるのは黒尾だけでよかったらしい。
私の分まで買ってくれていた。しかも私の好きなリンゴジュース。さすが黒尾である。
『わーい』
素直に喜んで受け取ると、黒尾も気をよくしたらしい、「何にしましょうかねえ」とか言いながら、隣に座る。
二人掛け用のソファだからか、黒尾が座ったとたん、黒尾の方に少し傾く。ので、少し座りなおした。
「もう今見た中から決めようぜ。何がよかったか3つあげよ」
『えー、んー。考える時間をください』
「3分な」
ぼけーっと道行く人を見ながら、今日もいい匂いがするなあ、と考える。
咲良がジャグをぶちまけた日、黒尾からTシャツを借りたのはよかったのだけど、その日はずっと黒尾の匂いがして落ち着かなかった。
そして今日もその匂い。そわそわするけど、でも嫌ではない。そわそわするけど、落ち着くのである。そんな矛盾があっていいのだろうか。
「はい3分」
『え、早くない? 何も考えてない』
「でしょうね。ボケーっとしてるなあ、と思ってました」
『ちゃんと考えるからあと3分』
「もういいですー」
そして黒尾から3つの選択肢が与えられた。
「①スポーツショップにあったタオル」
『ああ、一番無難なやつね』
「②本。むずかしめなやつ」
『ああ、ネタで買うヤツ。絶対本読まなさそうだよね、夜久』
「③なんか面白そうな雑貨」
『最後だけ雑。決まってないじゃん』
さあ選べ。とでも言いたげな視線がこちらへ向けられる。
『タオル以外、具体的には決まってないじゃん』
「しょうがないでしょーが」
『んーじゃあ自分で買わなさそうな本』
「へいへい。じゃ、もう一回本屋行きましょうかね」
重たい腰を上げて、本屋へと足を踏み入れる。
真面目に選ぶべきか、黒尾のようにネタとして絶対読まなさそうな難しい本を選ぶべきか。
そんなことを考えながら、黒尾と並んで本屋を見て回る。端から端までなめるように見ている。
「お。これなんかどうよ。”ショートカットの女性たち”」
『どこから見つけてきたのよソレ。よくわからんからダメ』
「えーいいじゃねーの、ノリ」
『それならこっちの方がいいよ。”まだあきらめなくていい! 大きくなるには”』
「いやいやいや、身長の話は、やっくんにはNGだって」
『ええ、でもこれ、身長じゃなくて人間としてって話で、』
「いや失礼だろ。やっくんは人間として”は”でかい」
『いやそれも失礼』
「あー!」
本屋だというのに、黒尾の大きな声で会話が断ち切られる。
「月刊バリボーの新刊出てるぞ」
迷うことなく手に取る黒尾。ちなみに私も興味があるので、黒尾が呼んだあとに貸してもらうことで話が付いた。
『あ、懐かしい、この本。昔黒尾の家で読んだ』
ふと目線を上へ動かしたときに目に入った絵本だった。
思わず手に取ろうと腕を伸ばすが、思ったよりも上に置かれている。
なんで絵本をこんな高い場所に置くかな、なんて思いつつも、思い切り背伸びすれば届くかなあ(この身長で届かないものはほぼない)と考えていたら、後ろからにゅっと手が伸びてきた。そしていとも簡単に絵本を手に取る。
「まじだ、すげえ懐かしいな」
ほらこれ、という言葉と一緒に絵本が降ってくる。
『あ、りがと、』
思わずお礼を言ったけど。
私を見下ろせるのはバレー部の男子くらいで、中でもこんなに至近距離に入るのは黒尾だけだったりする。
なんだろう。なんかこう、うわーって。よくわからない感情が、うわーって。
「にしても、絵本をそんな所に置くかね。サチさんが届かないってよっぽど高いでしょ」
『いや、伸ばせば届いた』
「負けず嫌いか、」
うわーしか出てこない自分の語彙力にこめかみを抑える思いで、でも平静を装ってプレゼント探しを続けた。
しかし、数十分本屋をぐるぐるしても、まったく決まる気配がない。黒尾と話をするだけで時間が過ぎるだけである。
『だめだ。本は却下。雑貨にしよ』
「だな。あんま遅くなる前に決めたいし」
そうしてやってきた雑貨屋さん。
『見てみて、キリン柄の靴下がある』
「おいこれ、研磨に着せたら絶対面白いぞ」
『キャリアウーマン(サングラス着用)』
「ぶはっ。明日それつけてこいよ」
そんな感じで雑貨屋を一周してしまう。
「だめだ。本来の目的を忘れて楽しんでしまった」
『反省してます。もう一周しましょう』
しかし目的を意識して回ると、不思議なもので何にも出てこないのである。
どういうこっちゃ。
『はぁぁああ。疲れた』
盛大にため息をついたところに、「あれ、黒尾くん?」と声がした。
振り返れば、黒髪ロングでさらさらストレートのキレイ系女の子が立っていた。
「ん? ああ、久しぶり」
中学で一緒だった子らしい。私はクラスかぶっていないからよくわからないが、綺麗な人だと思う。
「元気にしてた?」
「まあな。そっちは?」
「ぼちぼちだよ。相変わらずバレー三昧なんでしょ?」
会話を聞くのも申し訳ないので、少し遠くで待つことにする。
が、しかしあれだなあ。お似合いだなあ。
女の子の方は、黒尾を見る目がキラキラしていて、一昔前の咲良を思い出した。もしかすると好きなのかもしれない、黒尾のことが。黒尾のヤツ、案外もてるな。
まあでも、いい奴だからなあ、黒尾は。とも思う。
面倒見がいいし、めったに怒らないし、というか優しい。
今はバレーばっかりだけど、バレー終わったら、彼女でも作って楽しく過ごすのだろう。
黒尾と付き合う人は、とても大事にされて、冗談を言い合って、幸せになれる。
言い切れてしまうのが、なんか面白くて、内心でクスクスと笑ってしまう。
「サチさーん。何ニヤニヤしてんですかー」
いつの間にやら会話を終えた黒尾が目の前にいた。でかい。
『近すぎ、でかい。首が痛くなる』
「え、何急に。辛辣じゃないですか」
『早く決めて帰ろう、疲れた』
「へいへい」
いつかはこの関係性も終わってしまうのだろうな。
高校卒業して、さすがに大学は違うところだろう。そうしたら就職して、違う道を選んで。
ある日突然、結婚するよって挨拶にやってくるのだろう、黒尾は。
そう思うとなんかちょっと寂しいというか、いつまでもこの関係性でいたいというか。
でもいつまでも高校3年生じゃいられないし。私もそろそろ黒尾から卒業しないといけないのかなあ。
ん。黒尾から卒業ってなんだ。
どっちかっていうと、黒尾がくっついてくるのでは?
なんかよくわからない思考になってきたので、考えることはとりあえず放棄することにした。早く夜久の誕プレ決めよーっと。
ようやく買い物が終わり、散々時間を費やした挙句、結局無難なタオルで落ち着いた。いやあ疲れた。
『激しい運動したわけでもないのに、こういう買い物ってすごく疲れる』
「それな」
目の前にいるのは黒尾で、買い物終わりに、カフェでコーヒーを飲んでいる。
『結局タオルにするなら、悩んだ時間は何だったんだーって』
「まあまあ。やっくんに、いいプレゼントを上げようって悩んだんだから、いい時間だったんじゃないの」
『まあ、そういわれればそうだけど』
頼んだケーキが運ばれてきたところで、「そういや」と黒尾が口を開く。
「あげた髪飾り、つけてきてくれたのな」
『え、ああ、うん。せっかくお出かけだったし、気に入ってるし』
ニヤニヤする黒尾の顔と目が合って、余計なことを言ったことを自覚する。
「へえ。気に入ってるんだ」
『いいじゃん別に。黒尾にしては気の利いたものを買ってきたってだけ。喜びなさい』
「はは、何それいきなり女王様じゃん」
クツクツと黒尾が笑う。ギロリと睨むのだけど、まったく気にした風もなく、「すげー似合ってる」とかいう。
『は?』
「…だから、すげー似合ってる」
『急にどうした』
ストレートに褒められる経験はあまりないので、対応に困る。
プレゼントをもらった時にも、似合ってるとは言われたけど、改めて言われると照れてしまう。
おそらくあれだ、買い物で歩き回って疲れているんだ。きっとそう。いや100%そう。
「サチさんには、遠回しに表現してもわかってもらえないので、ストレートに言うことにしてるんです」
『へえ?』
「赤い方も似合ってるけど、やっぱ青が似合うのな」
なおも続く褒め褒め攻撃に、体温が高くなっていくのがわかった。
なにこれ。どういう状況。
『なんの罰ゲーム』
「罰ゲームじゃありませんって」
『そんな胡散臭い顔で言われても、信じられません』
「はあ。まだまだ道のりは長そうね」
照れ隠しのように、頼んだケーキを口に運ぶと、とてもとても甘い味がした。
26チョコレートケーキ
サチに貸していたTシャツ。
返してもらったのはいいけど、たった一回貸しただけで、すごくサチの匂いがした。
しばらく部屋に飾っていたら、さすがに変態だろうか。変態だな。やめよう。