Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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「ふぁ~、疲れた」
赤くなった両腕をさすりながら体育館の端に腰掛ける。かおり先輩が得点板をやっていたから、変わろうと思ったのだけど、休憩してからでいいよと断られた。
時は森然合宿の真っただ中、”バースデイマッチforサチ”の最中である。
主には音駒メンバーが参加しているのだが、早々に離脱した研磨さんの穴を埋めるため、赤葦さんが参加し、うずうずしていた木兎さんと私が交代した流れである。
「サチさん」
赤葦さんの声とともに、高いトスが上がった。
音駒1・2年生の守備力向上という名目なこともあり、試合は1・2年生対3年生という形式になっている。
3年チームには、サチ先輩、黒尾先輩、海先輩、夜久先輩、木兎さん、赤葦さん(2年だけど)。
1・2年チームは、山本さん、福永さん、リエーフ、犬岡、芝山、手白。
ダン、と力強く撃ち込まれたスパイクは、まっすぐにリエーフの方へと向かう。リエーフの腕に当たったボールはしかし、セッターへは帰らず、変な方向へと飛んで行った。
「何本目だ、リエーフ!」
黒尾先輩と夜久先輩からダブルで檄を飛ばされて、少しリエーフが可哀そうだなあとか思ったり。
「うわあ、さっちー本当に上手だねえ」
審判をしているかおり先輩が感心する。体育館の隅で試合を見ている研磨さんはそれに答えるはずもないので、代わりに私が相手をする。
「ほんとに、ほれぼれしちゃいますよね」
「さっちーの試合している姿、見てみたかったなあ」
2セット目に突入しているゲームは、1セット目、3年生チームが勝った。
スパイクもレシーブも、サチ先輩は攻守ともに活躍していた。
「選手の頃は、どこのポジションだったんだろ」
「エースっぽいし、レフトじゃないんですか」
「んー、でもさあ、さっちー左利きじゃなかった?」
「確かに! じゃあ、レフトよりはライト側の方が有利ですよね、」
そんな会話をしていたせいか、研磨さんが小さな声で教えてくれる。
「サチは、オポジットで試合に出ることが多かったよ」
ポジションについては絶賛勉強中である。オポジットってどこだっけな、と思考回路をめぐらすと、「音駒でいうと海君のポジションだよ」とかおり先輩が教えてくれる。
「ああ! セッター対角ってヤツですね」
いつだったか忘れたがいつの日か叩き込んだ知識をここぞとばかりに披露する。セッター対角だから何だというのはまだ履修前なので触れないでほしい。
「試合ですかっ!!」
そこへ、楽しい空気をかぎつけて、烏野の人がやってきた。よくみんながちびちゃん、と呼ぶ、烏野10番くんである。
「バースデイマッチやってるんだよ」
かおり先輩が説明しているところへ、10番くんに続いて烏野のメンバーが続々とやってくる。どうやら、自主練が終わってみんなで食堂へ向かう途中のようだ。
「え、マネの子がやってる…」
「うまいな、」
烏野3年生ズである。
お相手は同じく3年生であるかおり先輩にお任せするとして、視線をコートの中のサチ先輩に戻す。
リエーフの放つスパイクをやすやすとセッターへAパスで返し、バックアタックで得点をする。大活躍のその人が、すごく自然に、すごく明るく、すごく大きな口を開けて笑っている。いつもは、ちょっと困ったような笑い方か、笑っていないかそんな感じの人なのに。
なんだかこちらがドキドキする。
「サチさーんっ!!」
「笑顔が眩しいっす!!」
そんな激レアな表情をゲットした、こちらはおそらく烏野2年生のレギュラーメンバーさんたちに、内心ざわつく。いかん、サチ先輩に変な虫がついてしまう!
どうしたものかと思案したところで、というか瞬間。
「サチっ」
体育館に声が響いた。どうやら、ファーストタッチがセッターである赤葦さんだったようで、ボールの近くにいたサチ先輩がフォローに入っており。そして、サチ先輩のトスを黒尾先輩が呼ぶ声が先ほどのそれであったようだ。
気づいたときには、ボールは相手コートに落ちていた。コートの真ん中を突っ切る、きれいな速攻だ。
一瞬の静寂ののち、
「うぉおお、すげー!」
「息ぴったり」
「さすが幼馴染」
「幼馴染無敵か!」
「サチさーんかっこいいっす!」
黒尾先輩がサチ先輩にハイタッチを要求していた。こちらの歓声は聞こえているはずだけど、そこはさすが黒尾先輩、大切な幼馴染を捕まえて離さない。
そしてサチ先輩もサチ先輩で、いつもなら、ひと悶着ありそうな一コマなのだけど、今日は素直にハイタッチがされる。さきほどまでその場にいた全員にふりまかれていたキラキラ笑顔は、今は黒尾先輩にだけ向けられている。
嬉しいような、悔しいような。
一つ言えることがあるとするならば、変な虫がつかないように、私が何かをする必要はなかったなあ、ということだろうか。
「見せつけてくれるなあ」
かおり先輩が、独り言ちる。でもそのかおり先輩もどこか嬉しそうで、そんな二人の関係も、黒尾先輩とサチ先輩の関係も、いいなあ、と思った今日この頃。
赤葦がファーストタッチで、ボールの先にはサチがいた。
サチがトスのモーションに入る。その瞬間、ぶわっと昔のことが思い出されて、思わずトスを呼んだ。
速攻なんて、もう何年も合わせていない。というか、小学生のころにやったっきりだ。
それでも、なんかうまくいきそうな感じがして、そしてその予感は、手の平に当たったボールの感触で、的中したことを認識した。ドンピシャ。
決まった瞬間、外野でサチをたたえる声が聞こえた。見れば、おそらく自主練を終えた烏野連中が観戦していた。もうそんな時間か、と頭の片隅で考えながら、サチへハイタッチを要求する。
「ナイストス」
『鉄朗も、ナイスキー』
眩しい笑顔と一緒に、俺よりもいくらか小さい両の手のひらが触れる。
「次もお願いしますよ」
『ジャンプサーブやりたい』
先ほどの鉄朗呼びといい、サチのテンションが珍しく高い。
「どうぞどうぞ。もうそろそろ試合終わりだし、ローテ回すか」
サチのための試合なので、極論を言えばサチがルールである。ネットだって女子基準だし、メンバーの都合上、リベロがリベロではなく普通に参加しているしで、本気のような遊びのような守備練習。終盤でローテを好きに回すことなど、造作もないのである。
「存分に暴れてください」
サチへボールを手渡せば、ニヤリという言葉がふさわしい顔をした。そんな顔も綺麗だと思ってしまうからずるい。
『よーし』
ダン、ダン、とボールを床に打ち付ける音が響く。ああ、そうだった。よくこうしてサーブを打っていたっけ。
中学の頃だからそんな昔の話ではないのに、それがずいぶん昔に感じられる。
サーブトスをする。
サチが高くジャンプをする。
左手にボールが当たる。
勢いよく相手コートへ直進するボール。
犬岡がボールをとらえる。いい位置取り。
しかし、しっかりととらえられたはずのボールは変な方向へと軌道を変える。
「サービスエース!」
夜久が実況のように叫ぶと、サチがまた屈託のない顔で笑う。ああ、眩しい。
次も頼むぞ、と夜久からのボールを受け取ったサチは、今度はリエーフの方へとボールを放つ。
先ほどよりも威力があがり、拾われることなく相手コートに落ちた。ノータッチエースである。
「さっちーすごいなっ!」
「まあな」
木兎のストレートな誉め言葉に、サチの代わりに返事をする。
『ちょっと。なんで鉄朗が嬉しそうにすんのよ』
「細かいことは、まあ気にしなさんな」
『細かくない』
「まあまあ。ところでサチさん。そろそろ試合終了のお時間っぽいんですけど」
『そっかあ、残念。じゃあ、ラスト一本だけ』
ラスト一本ももちろんサチからのサーブなのだけど。
先ほどまで強打で打ち抜いていたサーブを、しかし今度はふわりと前へと落とした。
「ふう、容赦ないね」
「さっすが鬼コーチ」
『誰が鬼コーチだ』
「いいぞーもっとやれー」
音駒3年で軽い言い合いをしながらボールの行方を見守る。
前に落とされたボールは、まず芝山がどうにか拾う。手白がトスをあげ、最後はレフト山本に託された。
「ブロック3枚っ!」
誰かが叫ぶが、きっちりブロックにつかまり、ドシャット。試合終了である。
3年生チームの圧勝であった。
「どうでしたか、サチさん」
悔しそうにする1・2年生チームをよそに、幼馴染に話しかけると、眩しいお顔は継続中のようだった。
『すごく楽しかった。ありがとう』
不意に差し出された握りこぶし。こちらもそれにあわせてこぶしを握る。
弱くもなく強くもない力で、こぶしを合わせる。
「またいつでもやりますよ」
『いつでもは、いいかな。ネッとの高さもあるし』
「んーまあ、そうね」
『……卒業するときにまたやりたい』
素直なお願いに、自然と笑みは漏れた。
「了解です」
春高・ゴミ捨て場の決戦を実現するという目標の、次の目標ができたな。
そんなことを考えながら、離れていくサチを目で追う。
『咲良。楽しかったよ、ありがと』
咲良が嬉しさのあまり泣き出したことは、想像に難くないだろう。
「サチせんぱーい。朝ですよー」
『知ってる~』
珍しく起きてこないサチ先輩を布団まで起こしに行くと、しかし普通に起きているようだった。
「朝ごはん終わりますよー」
『んー』
「何して、るん、です、かっ」
夏用布団を引っぺがすが、サチ先輩が動く気配はない。
『今日はずっとこうしていたい』
「なんでです?」
『私にも都合というものがある』
「いやいや、合宿中、マネに都合なんてありません」
『殊勝な志。育ったねえ』
適当なことを言っているサチ先輩の腕を問答無用で引っ張り上げると、いてて、とか言う。
「ん?」
『……全身筋肉痛です』
「あははは、昨日は楽しんでましたもんね」
昨日。バースデイマッチを実行した。
サーブにレシーブにスパイクに、攻守ともに活躍していたから、全身筋肉痛と言われてもうなずける。
「今日も仕事はたくさんです。まずは朝ごはん行きましょう」
『えええ、さぼりたい』
なんて言いつつ、ノロノロと後ろをついてくるのだから、本気でさぼることはしないだろう。
サチ先輩の少し前を歩きながら、昨日のバースデイマッチを振り返る。
昨日の夜からもう何度も思い出しているのだけど、何度思い出しても鳥肌が立つほどに、かっこよくて、楽しい時間だった。
でもなんといっても、黒尾先輩とのコンビネーションには感嘆した。
いつも研磨さんと黒尾先輩のそれを見ていたけど、その二人とは違う息の合い方というかなんというか。
「お。大活躍だったマネージャーさんじゃないですか」
『おはよー』
噂をすれば黒尾先輩である。男子はすでに食べ始めていて、しかし黒尾先輩の横の席が一つ空いている。彼の斜め向かいもあいているので、おそらく私たちの席を取っておいてくれたのだろう。
「遅かったじゃないの。どうかした?」
「筋肉痛ですって」
「ああ。昨日はしゃいでたもんねえ」
朝食をとって席へつくと、うう、とか言いながら椅子に腰かける。
「サチ先輩、座ったら立てなくなりそう」
『言わないで』
昨日あれだけふりまいていた笑顔はどこへ?と思いたくなるような嫌そうな顔でにらまれる。
その様子に、音駒のメンバーがくくく、と笑うので、なんだか日常だなあ、とか思ったり。
ほそぼそと朝ごはんを食べるサチ先輩の隣で、それを優しく見守る黒尾先輩の顔が、なんだかとてもあたたかい。
きっと黒尾先輩も、サチ先輩のプレイする姿が見られて、嬉しかったんだろうなあ。
朝食を食べ終えて練習前に。私が一人でいるところへ、黒尾先輩がやってきた。
「咲良、ありがとうな。サチのあんな様子見るの、ほんとに久しぶりで。いい息抜きにいなったと思う」
本当に、思われているんだなあ、と。
「私も、サチ先輩の嬉しそうな顔が見れて、嬉しかったです! またやりましょう!」
私も、こんな風に思われてみたいな、なんて。
24バースデイマッチ
かおり「はぁぁぁ。やばかったいろいろ」
マネ「バースデイマッチ?」
かおり「そうそう。さっちーの笑顔が、終始眩しいのなんのって」
マネ「黒尾もさぞ嬉しかったことでしょうねえ」
かおり「そりゃあもう。ずーとニヤニヤでしたよ」
赤くなった両腕をさすりながら体育館の端に腰掛ける。かおり先輩が得点板をやっていたから、変わろうと思ったのだけど、休憩してからでいいよと断られた。
時は森然合宿の真っただ中、”バースデイマッチforサチ”の最中である。
主には音駒メンバーが参加しているのだが、早々に離脱した研磨さんの穴を埋めるため、赤葦さんが参加し、うずうずしていた木兎さんと私が交代した流れである。
「サチさん」
赤葦さんの声とともに、高いトスが上がった。
音駒1・2年生の守備力向上という名目なこともあり、試合は1・2年生対3年生という形式になっている。
3年チームには、サチ先輩、黒尾先輩、海先輩、夜久先輩、木兎さん、赤葦さん(2年だけど)。
1・2年チームは、山本さん、福永さん、リエーフ、犬岡、芝山、手白。
ダン、と力強く撃ち込まれたスパイクは、まっすぐにリエーフの方へと向かう。リエーフの腕に当たったボールはしかし、セッターへは帰らず、変な方向へと飛んで行った。
「何本目だ、リエーフ!」
黒尾先輩と夜久先輩からダブルで檄を飛ばされて、少しリエーフが可哀そうだなあとか思ったり。
「うわあ、さっちー本当に上手だねえ」
審判をしているかおり先輩が感心する。体育館の隅で試合を見ている研磨さんはそれに答えるはずもないので、代わりに私が相手をする。
「ほんとに、ほれぼれしちゃいますよね」
「さっちーの試合している姿、見てみたかったなあ」
2セット目に突入しているゲームは、1セット目、3年生チームが勝った。
スパイクもレシーブも、サチ先輩は攻守ともに活躍していた。
「選手の頃は、どこのポジションだったんだろ」
「エースっぽいし、レフトじゃないんですか」
「んー、でもさあ、さっちー左利きじゃなかった?」
「確かに! じゃあ、レフトよりはライト側の方が有利ですよね、」
そんな会話をしていたせいか、研磨さんが小さな声で教えてくれる。
「サチは、オポジットで試合に出ることが多かったよ」
ポジションについては絶賛勉強中である。オポジットってどこだっけな、と思考回路をめぐらすと、「音駒でいうと海君のポジションだよ」とかおり先輩が教えてくれる。
「ああ! セッター対角ってヤツですね」
いつだったか忘れたがいつの日か叩き込んだ知識をここぞとばかりに披露する。セッター対角だから何だというのはまだ履修前なので触れないでほしい。
「試合ですかっ!!」
そこへ、楽しい空気をかぎつけて、烏野の人がやってきた。よくみんながちびちゃん、と呼ぶ、烏野10番くんである。
「バースデイマッチやってるんだよ」
かおり先輩が説明しているところへ、10番くんに続いて烏野のメンバーが続々とやってくる。どうやら、自主練が終わってみんなで食堂へ向かう途中のようだ。
「え、マネの子がやってる…」
「うまいな、」
烏野3年生ズである。
お相手は同じく3年生であるかおり先輩にお任せするとして、視線をコートの中のサチ先輩に戻す。
リエーフの放つスパイクをやすやすとセッターへAパスで返し、バックアタックで得点をする。大活躍のその人が、すごく自然に、すごく明るく、すごく大きな口を開けて笑っている。いつもは、ちょっと困ったような笑い方か、笑っていないかそんな感じの人なのに。
なんだかこちらがドキドキする。
「サチさーんっ!!」
「笑顔が眩しいっす!!」
そんな激レアな表情をゲットした、こちらはおそらく烏野2年生のレギュラーメンバーさんたちに、内心ざわつく。いかん、サチ先輩に変な虫がついてしまう!
どうしたものかと思案したところで、というか瞬間。
「サチっ」
体育館に声が響いた。どうやら、ファーストタッチがセッターである赤葦さんだったようで、ボールの近くにいたサチ先輩がフォローに入っており。そして、サチ先輩のトスを黒尾先輩が呼ぶ声が先ほどのそれであったようだ。
気づいたときには、ボールは相手コートに落ちていた。コートの真ん中を突っ切る、きれいな速攻だ。
一瞬の静寂ののち、
「うぉおお、すげー!」
「息ぴったり」
「さすが幼馴染」
「幼馴染無敵か!」
「サチさーんかっこいいっす!」
黒尾先輩がサチ先輩にハイタッチを要求していた。こちらの歓声は聞こえているはずだけど、そこはさすが黒尾先輩、大切な幼馴染を捕まえて離さない。
そしてサチ先輩もサチ先輩で、いつもなら、ひと悶着ありそうな一コマなのだけど、今日は素直にハイタッチがされる。さきほどまでその場にいた全員にふりまかれていたキラキラ笑顔は、今は黒尾先輩にだけ向けられている。
嬉しいような、悔しいような。
一つ言えることがあるとするならば、変な虫がつかないように、私が何かをする必要はなかったなあ、ということだろうか。
「見せつけてくれるなあ」
かおり先輩が、独り言ちる。でもそのかおり先輩もどこか嬉しそうで、そんな二人の関係も、黒尾先輩とサチ先輩の関係も、いいなあ、と思った今日この頃。
赤葦がファーストタッチで、ボールの先にはサチがいた。
サチがトスのモーションに入る。その瞬間、ぶわっと昔のことが思い出されて、思わずトスを呼んだ。
速攻なんて、もう何年も合わせていない。というか、小学生のころにやったっきりだ。
それでも、なんかうまくいきそうな感じがして、そしてその予感は、手の平に当たったボールの感触で、的中したことを認識した。ドンピシャ。
決まった瞬間、外野でサチをたたえる声が聞こえた。見れば、おそらく自主練を終えた烏野連中が観戦していた。もうそんな時間か、と頭の片隅で考えながら、サチへハイタッチを要求する。
「ナイストス」
『鉄朗も、ナイスキー』
眩しい笑顔と一緒に、俺よりもいくらか小さい両の手のひらが触れる。
「次もお願いしますよ」
『ジャンプサーブやりたい』
先ほどの鉄朗呼びといい、サチのテンションが珍しく高い。
「どうぞどうぞ。もうそろそろ試合終わりだし、ローテ回すか」
サチのための試合なので、極論を言えばサチがルールである。ネットだって女子基準だし、メンバーの都合上、リベロがリベロではなく普通に参加しているしで、本気のような遊びのような守備練習。終盤でローテを好きに回すことなど、造作もないのである。
「存分に暴れてください」
サチへボールを手渡せば、ニヤリという言葉がふさわしい顔をした。そんな顔も綺麗だと思ってしまうからずるい。
『よーし』
ダン、ダン、とボールを床に打ち付ける音が響く。ああ、そうだった。よくこうしてサーブを打っていたっけ。
中学の頃だからそんな昔の話ではないのに、それがずいぶん昔に感じられる。
サーブトスをする。
サチが高くジャンプをする。
左手にボールが当たる。
勢いよく相手コートへ直進するボール。
犬岡がボールをとらえる。いい位置取り。
しかし、しっかりととらえられたはずのボールは変な方向へと軌道を変える。
「サービスエース!」
夜久が実況のように叫ぶと、サチがまた屈託のない顔で笑う。ああ、眩しい。
次も頼むぞ、と夜久からのボールを受け取ったサチは、今度はリエーフの方へとボールを放つ。
先ほどよりも威力があがり、拾われることなく相手コートに落ちた。ノータッチエースである。
「さっちーすごいなっ!」
「まあな」
木兎のストレートな誉め言葉に、サチの代わりに返事をする。
『ちょっと。なんで鉄朗が嬉しそうにすんのよ』
「細かいことは、まあ気にしなさんな」
『細かくない』
「まあまあ。ところでサチさん。そろそろ試合終了のお時間っぽいんですけど」
『そっかあ、残念。じゃあ、ラスト一本だけ』
ラスト一本ももちろんサチからのサーブなのだけど。
先ほどまで強打で打ち抜いていたサーブを、しかし今度はふわりと前へと落とした。
「ふう、容赦ないね」
「さっすが鬼コーチ」
『誰が鬼コーチだ』
「いいぞーもっとやれー」
音駒3年で軽い言い合いをしながらボールの行方を見守る。
前に落とされたボールは、まず芝山がどうにか拾う。手白がトスをあげ、最後はレフト山本に託された。
「ブロック3枚っ!」
誰かが叫ぶが、きっちりブロックにつかまり、ドシャット。試合終了である。
3年生チームの圧勝であった。
「どうでしたか、サチさん」
悔しそうにする1・2年生チームをよそに、幼馴染に話しかけると、眩しいお顔は継続中のようだった。
『すごく楽しかった。ありがとう』
不意に差し出された握りこぶし。こちらもそれにあわせてこぶしを握る。
弱くもなく強くもない力で、こぶしを合わせる。
「またいつでもやりますよ」
『いつでもは、いいかな。ネッとの高さもあるし』
「んーまあ、そうね」
『……卒業するときにまたやりたい』
素直なお願いに、自然と笑みは漏れた。
「了解です」
春高・ゴミ捨て場の決戦を実現するという目標の、次の目標ができたな。
そんなことを考えながら、離れていくサチを目で追う。
『咲良。楽しかったよ、ありがと』
咲良が嬉しさのあまり泣き出したことは、想像に難くないだろう。
「サチせんぱーい。朝ですよー」
『知ってる~』
珍しく起きてこないサチ先輩を布団まで起こしに行くと、しかし普通に起きているようだった。
「朝ごはん終わりますよー」
『んー』
「何して、るん、です、かっ」
夏用布団を引っぺがすが、サチ先輩が動く気配はない。
『今日はずっとこうしていたい』
「なんでです?」
『私にも都合というものがある』
「いやいや、合宿中、マネに都合なんてありません」
『殊勝な志。育ったねえ』
適当なことを言っているサチ先輩の腕を問答無用で引っ張り上げると、いてて、とか言う。
「ん?」
『……全身筋肉痛です』
「あははは、昨日は楽しんでましたもんね」
昨日。バースデイマッチを実行した。
サーブにレシーブにスパイクに、攻守ともに活躍していたから、全身筋肉痛と言われてもうなずける。
「今日も仕事はたくさんです。まずは朝ごはん行きましょう」
『えええ、さぼりたい』
なんて言いつつ、ノロノロと後ろをついてくるのだから、本気でさぼることはしないだろう。
サチ先輩の少し前を歩きながら、昨日のバースデイマッチを振り返る。
昨日の夜からもう何度も思い出しているのだけど、何度思い出しても鳥肌が立つほどに、かっこよくて、楽しい時間だった。
でもなんといっても、黒尾先輩とのコンビネーションには感嘆した。
いつも研磨さんと黒尾先輩のそれを見ていたけど、その二人とは違う息の合い方というかなんというか。
「お。大活躍だったマネージャーさんじゃないですか」
『おはよー』
噂をすれば黒尾先輩である。男子はすでに食べ始めていて、しかし黒尾先輩の横の席が一つ空いている。彼の斜め向かいもあいているので、おそらく私たちの席を取っておいてくれたのだろう。
「遅かったじゃないの。どうかした?」
「筋肉痛ですって」
「ああ。昨日はしゃいでたもんねえ」
朝食をとって席へつくと、うう、とか言いながら椅子に腰かける。
「サチ先輩、座ったら立てなくなりそう」
『言わないで』
昨日あれだけふりまいていた笑顔はどこへ?と思いたくなるような嫌そうな顔でにらまれる。
その様子に、音駒のメンバーがくくく、と笑うので、なんだか日常だなあ、とか思ったり。
ほそぼそと朝ごはんを食べるサチ先輩の隣で、それを優しく見守る黒尾先輩の顔が、なんだかとてもあたたかい。
きっと黒尾先輩も、サチ先輩のプレイする姿が見られて、嬉しかったんだろうなあ。
朝食を食べ終えて練習前に。私が一人でいるところへ、黒尾先輩がやってきた。
「咲良、ありがとうな。サチのあんな様子見るの、ほんとに久しぶりで。いい息抜きにいなったと思う」
本当に、思われているんだなあ、と。
「私も、サチ先輩の嬉しそうな顔が見れて、嬉しかったです! またやりましょう!」
私も、こんな風に思われてみたいな、なんて。
24バースデイマッチ
かおり「はぁぁぁ。やばかったいろいろ」
マネ「バースデイマッチ?」
かおり「そうそう。さっちーの笑顔が、終始眩しいのなんのって」
マネ「黒尾もさぞ嬉しかったことでしょうねえ」
かおり「そりゃあもう。ずーとニヤニヤでしたよ」