Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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最初は、研磨と同じく、幼馴染に対するソレだと思っていた。
小学校の登下校も、バレークラブの練習も試合も。暇なときに一緒にバレーの練習をするのも、サチと研磨が相手だった。
一緒にいることが当たり前、困ったときには助け合う、そういう関係。
同じクラスにこそならなかったものの、小学校・中学校・と同じ学校で、とくに学年が一緒だったサチとは、忘れ物をしたら貸し借りして、休みの時は配布物を届けた。
よく、好きになったきっかけは?と聞かれるが、正直きっかけと言えるようなことはなかった。
気が付けば隣にいることが当たり前で、気が付けばサチが困った時に何よりも優先するようになっていて、気が付けばサチの世話ばかり焼いていた。
サチ以外と会話していても、サチならこういう返答しただろうなあ、と考えていたし、街を歩いていても、サチに似合いそうな服だなあとか、最近はまっているというキャラクターを見れば、買って帰ろうかなあ、とか。
それだけわかりやすくサチのことばかり考えていたのに、当時はそれが、幼馴染だからだろう、と深く考えることはしなかった。
気づけば好きになっていたわけだが、あえてきっかけを作るとするならば、あの時だと思う。
中学の3年くらいだっただろうか。ありがたいことに告白されることは多々あり、その中の一人から言われた。そこそこ楽しくやっていたクラスメイトだった。
好きです付き合って下さい。
ごめん、今はバレーが楽しいから。
そんな決まり文句の後、きっぱり断ったせいか、清々しいくらいの笑顔で会話が続く。
「やっぱり、倉木さんのことが好きなの?」
「え? 倉木? なんで?」
「倉木さんを見る目が、なんか他の人と違うから」
「……倉木は、ただの幼馴染ですよー。それ以上でも以下でもない」
「そっか。自覚ナシか」と言いながら、はーあ、と盛大なため息。
「黒尾はたぶん、倉木さんことが好きなんだよ」
「は? んなわけねーだろ、」
「幼馴染って関係を盾にして、いつまでも一緒にいれると思わない方がいいよ。倉木さんに好きな人ができたら? 倉木さんに彼氏ができたら? 黒尾との時間は減るというかなくなるけど、我慢できる?」
「いや、そりゃあ―――」
「この前も、倉木さんが落ち込んでるって言って、クラスのイベントも遊ぶ約束も全部すっぽかしてたけどさあ。倉木さんに彼氏ができたら、その立場は黒尾のものではなくて、彼氏のものだよ。それ、我慢できる?」
告白されていたはずなのに、いつの間にか尋問みたく詰められていた。そして返答できずにいると、満足したようにあっけらかんと笑うクラスメイト。
「……自覚して、片思いの苦しみを味わえばいい。倉木さんは黒尾のことは眼中にないようだし、ぞんざいに扱われる黒尾を見て楽しんでやる」
呪いのような言葉を残し、じゃ、と帰る姿は颯爽としていた。告白することよりも俺と付き合うことよりも、最後の一言を言いたかっただけなのではないか、とも思える後ろ姿であった。
そしてその呪いは、確かに俺を苦しめることとなった。
―――倉木さんに彼氏ができたら、その立場は黒尾のものではなくて、彼氏のものだよ
それは、サチとの関係性やサチに対する思いを考え直すには十分な一言で、そして俺が答えを見つけるには大して時間はかからなかった。
幸いなことがあるとすれば、サチはバレーしか眼中になく、恋愛事には縁がないように思われた。誰かから告白されたとかも聞かないし、サチが誰かを好きというのも聞かなかった。
その安寧から変化の兆しが見られたのは、高校に入学してから。
「倉木さんってカワイイよな」
「黒尾、倉木さん紹介して。幼馴染なんだろ」
「付き合って……はないよな?」
毎日、誰かしらがサチの話をする。
なぜ中学から高校に上がるだけで、これだけ人気が出るのか。
それは、サチと高校で初めて会った人が増えたからかもしれない。黙っていればキレイ系女子のサチさんである。
他の女子よりも背が高く、中学であればサチに身長で負けていた野郎も、高校に入るまでか、もしくは現在進行形で身長が伸び、サチを見上げる必要はなくなっていたことも、理由の一つかもしれない。
しかし相変わらず、俺とサチのクラスは一緒にならないし、サチは高校ではバレーボールを続けないとか言う。これではサチとの時間は減る一方だ―――中学の頃は、何度か部活帰りが重なって一緒に帰ることもあった。
そんな折、サチが『バレー以外のこと始めてみようかなあ』なんてつぶやいた。おそらく一瞬の気の迷いで、そんなことを言ったことすら、サチは覚えていない。
だが、俺は危機感を覚えた。
そしてその危機感は現実のものとなる。
高校1年の春。サチが告白された。
3年の先輩で、サッカー部だか野球部だかのレギュラメンバーだった。ポジション不明。
告白されたことは校内を光の速度くらいの速さで広まり、慌ててサチを探した。もちろん偶然を装って話しかける。
「お、モッテモテのサチさんじゃありませんか」
『倉木さん、でしょそこは。黒尾と仲良くしてると、女子のやっかみ受けるから勘弁して』
「いーじゃないの、幼馴染なんだしさ。ところで、モッテモテの方はスルーですか?」
『……物好きもいるもんだね』
「本当にねえ、」
サチの一体何を知って告白しているのだろうか。
入学してたった数か月、クラスも違えば学年も違う。もちろん部活動も違う。接点なんてないに等しいではないか。
『肯定するところじゃないでしょ、そこは』
「で、断ったの?」
『いや?』
「え、付き合うの!?」
『んー?』
「なんで? タイプだった? ってか、サチさんのタイプって?」
うろ覚えだった相手方の顔を思い出そうと試みるが、野球部かサッカー部か定かではない時点で無理な話だった。
『タイプではない。というか、タイプとかわからない』
「じゃなんで?」
『まだ悩んでる。でも毎日学校行くだけじゃ暇だし、恋愛ってどういうものか試してみるのもいいかなって』
つまりは、今まで打ち込んでいたバレーボルがなくなってしまったから、持て余した時間を消費するべく付き合ってみようという考えのようだ。
『サッカー部のマネージャーにも誘われてるし、丁度良いかも』
丁度良いとは、おそらく、バレー以外のこと始めてみようかなあとつぶやいたアレだ。
告白したのはサッカー部の方だったか。いや今はそんなことはどうでもいい。
一連の会話で、俺は冷汗をかいていた。
大丈夫、まだ悩んでいるだけ。返事はしてないし、入部もしていない。まだ間に合う。まだ、”サチが心配で駆け寄る権利”は幼馴染の俺のものだ。
「サチさんさあ、マネージャするならウチにしたら?」
『ええ、男バレ? なんで?』
「だってサチ、バレー好きじゃん」
『そりゃあ好きだけど……。プレイしたくなりそうじゃん。せっかく忘れたのに、また思い出しちゃいそう』
「マネやりながら練習見るってのはどうよ? 練習メニュー一緒に考えたり、他校の情報収集手伝ってくれたらとっても助かるなあ」
『それは……ちょっと楽しそう』
お、好感触。
そのあたりで昼休みが終わるチャイムが鳴る。
「今日見学でもどうです?」
膳は急げだ。
『わかった、行く』
「教室まで迎えに上がりますよ」
そんな成り行きで、音駒高校男子バレーボール部はマネージャーを獲得したのだった。
しかしそれだけでは、サチを独り占めするには足りなかった。
結局、告白は断ったようだったが、どこの誰かもわからない野郎からの好奇の目がなくなる代わりに、部内や梟谷グループからのソレは増えていった。
いっそ告白して付き合ってしまえばいいのでは?とも考えたが、今付き合ったところで、全国制覇を目標に掲げている手前、サチとの恋愛が中途半端になりそうでイヤだった。それに、サチ自信もマネージャー業務が楽しいようで、おそらく告白しても振られるだけだ。
だから、高校バレーが終わるまで。
使える手段はすべて使って、サチに変なムシがつかないように牽制をすることにした。
ただの幼馴染だからなんだと言うヤツもいたけど、じゃあ幼馴染でもないお前は何だ。と開き直った。
サチが困ったときには俺が助けてあげたいし、サチが喜んでいるときは隣でその笑顔を見ていたい。彼氏のいないサチのそのポジションは、幼馴染が務めたものだろう。
そんなわけで、1年終わり頃からコツコツと牽制行為をはじめ、今ようやく、他校のマネからも”黒尾がさっちーのこと好きなのはみんな知ってるけど”と言われるくらいの状況になった。
頑張ったなあ、俺。
視線の先には、嬉しそうにバレー用のシューズを履くサチ。
膝にはサポーターがつけてあり、髪には昨夜プレゼントした赤いシュシュが。
しばらく眺めていると、不意に目があう。
『早くやろ!』
笑った顔がキラキラしているように見える。
バレーしない、と乾いた笑みをする彼女ではなくて。
バレーやろう、とキラキラ笑う彼女をずっと見ていたい。
この先もサチと一緒にバレーをしたいな、と思う。
23幼馴染の特権
かおり「さっちー楽しそうじゃん良かったね」
咲良「悔いはありません」
かおり「いやいやこれからが本番でしょ」
小学校の登下校も、バレークラブの練習も試合も。暇なときに一緒にバレーの練習をするのも、サチと研磨が相手だった。
一緒にいることが当たり前、困ったときには助け合う、そういう関係。
同じクラスにこそならなかったものの、小学校・中学校・と同じ学校で、とくに学年が一緒だったサチとは、忘れ物をしたら貸し借りして、休みの時は配布物を届けた。
よく、好きになったきっかけは?と聞かれるが、正直きっかけと言えるようなことはなかった。
気が付けば隣にいることが当たり前で、気が付けばサチが困った時に何よりも優先するようになっていて、気が付けばサチの世話ばかり焼いていた。
サチ以外と会話していても、サチならこういう返答しただろうなあ、と考えていたし、街を歩いていても、サチに似合いそうな服だなあとか、最近はまっているというキャラクターを見れば、買って帰ろうかなあ、とか。
それだけわかりやすくサチのことばかり考えていたのに、当時はそれが、幼馴染だからだろう、と深く考えることはしなかった。
気づけば好きになっていたわけだが、あえてきっかけを作るとするならば、あの時だと思う。
中学の3年くらいだっただろうか。ありがたいことに告白されることは多々あり、その中の一人から言われた。そこそこ楽しくやっていたクラスメイトだった。
好きです付き合って下さい。
ごめん、今はバレーが楽しいから。
そんな決まり文句の後、きっぱり断ったせいか、清々しいくらいの笑顔で会話が続く。
「やっぱり、倉木さんのことが好きなの?」
「え? 倉木? なんで?」
「倉木さんを見る目が、なんか他の人と違うから」
「……倉木は、ただの幼馴染ですよー。それ以上でも以下でもない」
「そっか。自覚ナシか」と言いながら、はーあ、と盛大なため息。
「黒尾はたぶん、倉木さんことが好きなんだよ」
「は? んなわけねーだろ、」
「幼馴染って関係を盾にして、いつまでも一緒にいれると思わない方がいいよ。倉木さんに好きな人ができたら? 倉木さんに彼氏ができたら? 黒尾との時間は減るというかなくなるけど、我慢できる?」
「いや、そりゃあ―――」
「この前も、倉木さんが落ち込んでるって言って、クラスのイベントも遊ぶ約束も全部すっぽかしてたけどさあ。倉木さんに彼氏ができたら、その立場は黒尾のものではなくて、彼氏のものだよ。それ、我慢できる?」
告白されていたはずなのに、いつの間にか尋問みたく詰められていた。そして返答できずにいると、満足したようにあっけらかんと笑うクラスメイト。
「……自覚して、片思いの苦しみを味わえばいい。倉木さんは黒尾のことは眼中にないようだし、ぞんざいに扱われる黒尾を見て楽しんでやる」
呪いのような言葉を残し、じゃ、と帰る姿は颯爽としていた。告白することよりも俺と付き合うことよりも、最後の一言を言いたかっただけなのではないか、とも思える後ろ姿であった。
そしてその呪いは、確かに俺を苦しめることとなった。
―――倉木さんに彼氏ができたら、その立場は黒尾のものではなくて、彼氏のものだよ
それは、サチとの関係性やサチに対する思いを考え直すには十分な一言で、そして俺が答えを見つけるには大して時間はかからなかった。
幸いなことがあるとすれば、サチはバレーしか眼中になく、恋愛事には縁がないように思われた。誰かから告白されたとかも聞かないし、サチが誰かを好きというのも聞かなかった。
その安寧から変化の兆しが見られたのは、高校に入学してから。
「倉木さんってカワイイよな」
「黒尾、倉木さん紹介して。幼馴染なんだろ」
「付き合って……はないよな?」
毎日、誰かしらがサチの話をする。
なぜ中学から高校に上がるだけで、これだけ人気が出るのか。
それは、サチと高校で初めて会った人が増えたからかもしれない。黙っていればキレイ系女子のサチさんである。
他の女子よりも背が高く、中学であればサチに身長で負けていた野郎も、高校に入るまでか、もしくは現在進行形で身長が伸び、サチを見上げる必要はなくなっていたことも、理由の一つかもしれない。
しかし相変わらず、俺とサチのクラスは一緒にならないし、サチは高校ではバレーボールを続けないとか言う。これではサチとの時間は減る一方だ―――中学の頃は、何度か部活帰りが重なって一緒に帰ることもあった。
そんな折、サチが『バレー以外のこと始めてみようかなあ』なんてつぶやいた。おそらく一瞬の気の迷いで、そんなことを言ったことすら、サチは覚えていない。
だが、俺は危機感を覚えた。
そしてその危機感は現実のものとなる。
高校1年の春。サチが告白された。
3年の先輩で、サッカー部だか野球部だかのレギュラメンバーだった。ポジション不明。
告白されたことは校内を光の速度くらいの速さで広まり、慌ててサチを探した。もちろん偶然を装って話しかける。
「お、モッテモテのサチさんじゃありませんか」
『倉木さん、でしょそこは。黒尾と仲良くしてると、女子のやっかみ受けるから勘弁して』
「いーじゃないの、幼馴染なんだしさ。ところで、モッテモテの方はスルーですか?」
『……物好きもいるもんだね』
「本当にねえ、」
サチの一体何を知って告白しているのだろうか。
入学してたった数か月、クラスも違えば学年も違う。もちろん部活動も違う。接点なんてないに等しいではないか。
『肯定するところじゃないでしょ、そこは』
「で、断ったの?」
『いや?』
「え、付き合うの!?」
『んー?』
「なんで? タイプだった? ってか、サチさんのタイプって?」
うろ覚えだった相手方の顔を思い出そうと試みるが、野球部かサッカー部か定かではない時点で無理な話だった。
『タイプではない。というか、タイプとかわからない』
「じゃなんで?」
『まだ悩んでる。でも毎日学校行くだけじゃ暇だし、恋愛ってどういうものか試してみるのもいいかなって』
つまりは、今まで打ち込んでいたバレーボルがなくなってしまったから、持て余した時間を消費するべく付き合ってみようという考えのようだ。
『サッカー部のマネージャーにも誘われてるし、丁度良いかも』
丁度良いとは、おそらく、バレー以外のこと始めてみようかなあとつぶやいたアレだ。
告白したのはサッカー部の方だったか。いや今はそんなことはどうでもいい。
一連の会話で、俺は冷汗をかいていた。
大丈夫、まだ悩んでいるだけ。返事はしてないし、入部もしていない。まだ間に合う。まだ、”サチが心配で駆け寄る権利”は幼馴染の俺のものだ。
「サチさんさあ、マネージャするならウチにしたら?」
『ええ、男バレ? なんで?』
「だってサチ、バレー好きじゃん」
『そりゃあ好きだけど……。プレイしたくなりそうじゃん。せっかく忘れたのに、また思い出しちゃいそう』
「マネやりながら練習見るってのはどうよ? 練習メニュー一緒に考えたり、他校の情報収集手伝ってくれたらとっても助かるなあ」
『それは……ちょっと楽しそう』
お、好感触。
そのあたりで昼休みが終わるチャイムが鳴る。
「今日見学でもどうです?」
膳は急げだ。
『わかった、行く』
「教室まで迎えに上がりますよ」
そんな成り行きで、音駒高校男子バレーボール部はマネージャーを獲得したのだった。
しかしそれだけでは、サチを独り占めするには足りなかった。
結局、告白は断ったようだったが、どこの誰かもわからない野郎からの好奇の目がなくなる代わりに、部内や梟谷グループからのソレは増えていった。
いっそ告白して付き合ってしまえばいいのでは?とも考えたが、今付き合ったところで、全国制覇を目標に掲げている手前、サチとの恋愛が中途半端になりそうでイヤだった。それに、サチ自信もマネージャー業務が楽しいようで、おそらく告白しても振られるだけだ。
だから、高校バレーが終わるまで。
使える手段はすべて使って、サチに変なムシがつかないように牽制をすることにした。
ただの幼馴染だからなんだと言うヤツもいたけど、じゃあ幼馴染でもないお前は何だ。と開き直った。
サチが困ったときには俺が助けてあげたいし、サチが喜んでいるときは隣でその笑顔を見ていたい。彼氏のいないサチのそのポジションは、幼馴染が務めたものだろう。
そんなわけで、1年終わり頃からコツコツと牽制行為をはじめ、今ようやく、他校のマネからも”黒尾がさっちーのこと好きなのはみんな知ってるけど”と言われるくらいの状況になった。
頑張ったなあ、俺。
視線の先には、嬉しそうにバレー用のシューズを履くサチ。
膝にはサポーターがつけてあり、髪には昨夜プレゼントした赤いシュシュが。
しばらく眺めていると、不意に目があう。
『早くやろ!』
笑った顔がキラキラしているように見える。
バレーしない、と乾いた笑みをする彼女ではなくて。
バレーやろう、とキラキラ笑う彼女をずっと見ていたい。
この先もサチと一緒にバレーをしたいな、と思う。
23幼馴染の特権
かおり「さっちー楽しそうじゃん良かったね」
咲良「悔いはありません」
かおり「いやいやこれからが本番でしょ」
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