Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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サチ先輩にバレーボールを教えてもらったり、他の部員さんに教えてもらったりしながら、今日を迎えた。森然高校での夏合宿である。
なぜバレーボールを教えてもらったのか、それはサチ先輩バースデイマッチに私も参加するためなのだけど、サチ先輩にはまだ言えない。明日のバースデー会が今から楽しみだ。ニマニマが止まらない。
『咲良ー、顔にやけてる』
「おっといけない」
『何考えてるんだか。他校で洗剤をぶちまけるようなことはしないでよー』
ぐぬぬ。
先日、他所の部活の洗剤を使った挙句、洗濯機周辺にまき散らしてしまったことをいまだに言われ続けている。
確かに、後片付けが大変だったので、何も言い返せない。
「気を付けます」
負けを認めたところで、遠くから声がした。梟谷の所のかおり先輩である。
「さっちー、咲良ぁ、泊まる所こっちー。準備あるから手伝ってー」
「はーい」
私が返事をすると、サチ先輩は返事の代わりに右手を振った。わかりましたの合図である。
サチ先輩が黒尾先輩に、あれはどこにあってこれはどこにあって、と簡単に説明をしている。そんな接点でもうれしいのか、黒尾先輩の顔はどこか優し気である。またもニヤニヤする顔を引き締めなければならなかった。
マネージャーチームは二手に分かれて、練習準備班と宿泊準備班に分かれた。私とサチ先輩は宿泊準備班で、森然のマネさんは練習準備の方に入っているので、実質の指示係はサチ先輩となっている。
使う教室の片付け、布団を各教室に割り振り、選手が持ち寄った米を調理室にまとめ、トイレ掃除に風呂掃除、使う教室にどこの学校が使うのか貼り紙、風呂に入る順番の割り振り。
きっとまだまだやることはある。準備が終わるまでは先が長いらしい。ちなみにご飯を作るのは、梟谷グループの保護者でローテらしいので、マネがご飯作るという憧れシチュはない。ちょっと悲しい。(料理の腕はそこまでよくないことはまた別の話)
どうにか宿泊準備を終え、練習風景を眺めて、あっという間に夜になった。
今日は、初めての学校ということもあり、一日中サチ先輩にひっついていた。夜ご飯も引っ付いていたが、頼れる先輩はどうやら夏バテ気味らしい。昼間にあれだけ、重い布団を教室に運ぶ往復をしたのだから当たり前といえば当たり前である。晩ご飯を多くは食べなかったその人は、夜、『アイス食べたい』と言い出す。
「さっちーのアイス食べたい病が始まった~」
梟谷のかおり先輩が笑いながら、「合宿名物だから」とか説明してくれる。サチ先輩アイス好きなんだな、と初めて知った情報を脳内メモをする。明日のケーキ、アイスケーキにすればよかったかな、とか今さらである。
『……ダメだ、我慢できない』
「我慢したことないだろ」
『買いに行かねば』
「はいはい、行ってらっしゃーい。余力があれば、箱アイス買ってきて~」
『おっけー』
マネージャー3年生陣は、サチ先輩の扱いも慣れているらしい。愛想は何もないサチ先輩だけど、雑に扱った方が仲良くなれる。と最近気が付いたので、私の対応も雑になりつつある。
「って、サチ先輩一人で行くんですか?」
『え、うん。さすがにここからコンビニは道覚えた』
「ああ、そういえば方向音痴でしたっけ。以外な弱点」
『うるさーい』
「……じゃなくて! もう夜ですよ、結構遅い時間! 一人じゃ危ないです」
『大丈夫、大丈夫。今まで一人だった』
いやいやいや。今まで一人だったというのも問題だろう。
「絶っっ対ダメです。これを許したら、黒尾先輩になんていわれるか」
『でもアイスクリーム今食べたい』
「……我慢」
『むり~』
「……わかりました、一緒に行きます。準備するので少し待ってください」
半袖でもいいが、少し肌寒い。薄い羽織を上にかけて、財布とスマホを手に取る。
サチ先輩は、財布だけ手に持っている。携帯電話はどこに置いてきたのやら。
欠伸を噛み殺しながらサチ先輩の後ろを歩いていると、後ろから何やら声がする。振り返ればどこから湧いて出たのか黒尾先輩である。少し息が切れているから、走ってやってきたのだろう。
「こんな夜更けにどちらまで?」
「コンビニです、サチ先輩が」
「もしかしてアイス?」
黙って頷くと、はあ、とため息をつきつつ、首の後ろをかくその人。
「サチさーん、夜道はダメだって前に言いませんでした?」
『……今日は一人じゃない』
言われたことは覚えているらしい。居心地の悪そうなサチ先輩の返事が裏付けている。私がついて行くと言わなければ一人で行くつもりだったでしょ、とは可哀そうなので口には出さない。
「女の子2人じゃ、1人と大して変わりません」
『じゃあアイス食べたいときはどうするんですかー』
「俺を呼べばいいでしょ。何のための幼馴染ですか」
『ああ、その手があったか』
楽しそうなんだよなあ、とサチ先輩を見ながら思う。
黒尾先輩の片思いという構図ではあるのだが、2人で話している様子は、互いに楽しそうな雰囲気だ。
そんな先輩2人の雰囲気をもう少し眺めていたかったのだが、欠伸が止まらない。ので、黒尾先輩のお楽しみの邪魔をしても悪いし、サチ先輩を任せることにする。
「ほら。咲良、眠そうじゃねーか」
『わ、ごめん。アイスのことしか考えてなかった』
「……黒尾先輩、サチ先輩のことは頼みました」
「おう、頼まれた。わりいな、気を付けて帰れよ」
学校の敷地内だったので、そのまま幼馴染2人組と分かれて教室へと帰ったのだった。
「慣れない合宿で疲れている後輩を連れ出すもんじゃないでしょーが」
コンビニまでの道を二人で歩く。いつぞやのGW合宿を思い出す。宮城の知らない土地で、地図もなしにコンビニへ行こうとしていた。
『ごめんごめん。次からは黒尾を呼び出します』
「よろしい」
大袈裟だなあ、とか言っているのは聞き流しておく。
『でもなんでわかったの? 黒尾も買い物?』
「いんや? 雀田から連絡もらった」
『あー、そういうことか』
あいかわらずの危機感のなさに、研磨とは違う手のかかりようだ。
最近、梟谷グルームのマネたちが何やら協力的である。裏があるのかもしれないが、今の所害はないというか非常に助かるので、ありがたく好意として受け取っている。
「そういや、サチさん今回は道具一式持ってきてるんだよな?」
明後日のバースデイ試合で、サチに道具を準備させるため、練習に付き合ってもらうから準備しておくように言っておいた。シューズにサポーターなどなど。
『持ってきた。リエーフの守備、あいかわらずだもんね』
たまに練習に付き合ってもらっているので、何の疑いもないらしい。バースデイ試合も、目的でいえば守備強化にあたるので、名目もあながち間違いではない。
『でもせっかく合同合宿なんだから、他校と練習した方がいいんじゃないの』
「いやあ、それぞれ自分の練習があるから、うちの守備のために付き合ってくれないんじゃないかな、と思いまして」
『まあ、それもそっか』
さすがにサチも疲れているのか、会話のテンションは低いまま、コンビニに到着した。
「ごゆっくりー」
『……なんかいる?』
「んーじゃあサチと同じヤツで」
少しむっとされた。たぶん高級アイスを買う予定だったらしい。別になんでもよかったのだが、何も言わずにコンビニへ入っていったので、訂正はしなくていいだろう。
しばらく待っていると、ビニール袋を提げたサチが出てきた。
「何買ったの?」
『値段と味のバランスの優れた物』
差し出された袋をのぞけば、高級アイスクリームの姿は見当たらない。律儀に同じアイスクリームが2つ入っていた。あと箱アイス。これはマネたちへの土産だろうか。
「じゃ、溶ける前に帰りますか」
手を差し出して、袋を持つつもりだった。しかし返ってきたのは、人肌のぬくもりで、思わず自分の手を見下ろすとサチの手が握られていた。
「ん?」
『間違えた』
そして何事もなかったかのように手を離されて、袋が置かれた。
『はいよろしく』
「……」
何が起きたのかを理解して、手をつないだ事実に赤面しないくらいには幼いころからつなぎ慣れていた。代わりにでたのは、ぶはっという笑い声。
「ちょっとお姉さん。何さらっと間違えてんの」
『うるさい』
「小学生にでも戻った?」
『うるさいっ。手をつなげたことを嬉しく思え』
横暴かつ気まずそうなサチを横目に、しかし笑いが収まらない。しばらく笑いながら歩いていると、『もうアイス上げないよ』と聞こえてきたので、どうにか笑いを収める。
幼馴染ににらまれる横で、短い着信音が鳴る。メールが来たようだ。携帯を開くと、暗い夜道に画面の光が際立った。
〈 いつまでイチャイチャしてんだ 〉
いわずもがなやっくんである。
そういや、雀田からの電話の後、ほとんど何も言わずに部屋を出てきたなあ、と思い出した。サチ関連だということはわかってもらえているらしい。
〈 帰り足ですー 〉
返信して、携帯を閉じる。いつの間にか、隣から鼻歌が聞こえる。先ほどのメールの着信音と同じだから、引っ張られたのだろ。単純である。
『誰から?』
「やっくん」
『へえ。仲良し』
全く興味のなさそうな返答があり、すぐにもう一度携帯が鳴った。今度は雀田からだ。
〈 仲良くやってるー? さっちーに、先にお風呂入ってるって伝えておいて~ 〉
何故俺に連絡が来るのか。
答えは、サチが携帯を持ってきていないから。充電が入っているかどうかも怪しい。
「雀田から。先に風呂入ってるってよ」
『はいはーい。じゃあ、帰ったら広いお風呂を独り占めだ』
「ってか、携帯、ちゃんと持ち歩きなさいよ」
『はいはい』
絶対聞き流している。明日もどうせ持ち歩かないだろう。何のための携帯電話だろうか。サチの母であるゆきさんのため息が聞こえてくるようである。
そんなところで、森然高校の校舎が見えてきた。
会話の終わりが見えてきたせいか、先日研磨からのメールを思い出した。〈サチが寂しいってさ〉と入っていた。
「そういや、俺が不在で、寂しかったんだって? サチさん」
『え? んー別に?』
「いやいやいや。研磨に寂しいって言ったんでしょ」
『……あー、なんか言ったかも』
「たまには正直になりなさいよ。寂しかったんでしょ」
『別に』
”寂しかった”と直接聞きたかったが、それは叶わぬ夢らしい。
意味のない応酬で校舎についてしまったので、潔くあきらめることとする。
「じゃまあ、また明日」
『んー』
何事もなかったかのように帰っていくサチの後ろ姿を見送っていると、『あ』という声とともに、サチがこちらを振り返った。
『黒尾、ありがと』
笑った。屈託のない笑顔で。
たまにしか見れないそれは、ドクンと胸を高鳴らせるのには十分で、「ああ、」と気のない返事をしてしばらくその場に突っ立っていることとなった。
21何のための幼馴染ですか
夜久「倉木とデートは終わったのか?」
黒尾「まあねー」
海 「いたくご満悦のようで」
なぜバレーボールを教えてもらったのか、それはサチ先輩バースデイマッチに私も参加するためなのだけど、サチ先輩にはまだ言えない。明日のバースデー会が今から楽しみだ。ニマニマが止まらない。
『咲良ー、顔にやけてる』
「おっといけない」
『何考えてるんだか。他校で洗剤をぶちまけるようなことはしないでよー』
ぐぬぬ。
先日、他所の部活の洗剤を使った挙句、洗濯機周辺にまき散らしてしまったことをいまだに言われ続けている。
確かに、後片付けが大変だったので、何も言い返せない。
「気を付けます」
負けを認めたところで、遠くから声がした。梟谷の所のかおり先輩である。
「さっちー、咲良ぁ、泊まる所こっちー。準備あるから手伝ってー」
「はーい」
私が返事をすると、サチ先輩は返事の代わりに右手を振った。わかりましたの合図である。
サチ先輩が黒尾先輩に、あれはどこにあってこれはどこにあって、と簡単に説明をしている。そんな接点でもうれしいのか、黒尾先輩の顔はどこか優し気である。またもニヤニヤする顔を引き締めなければならなかった。
マネージャーチームは二手に分かれて、練習準備班と宿泊準備班に分かれた。私とサチ先輩は宿泊準備班で、森然のマネさんは練習準備の方に入っているので、実質の指示係はサチ先輩となっている。
使う教室の片付け、布団を各教室に割り振り、選手が持ち寄った米を調理室にまとめ、トイレ掃除に風呂掃除、使う教室にどこの学校が使うのか貼り紙、風呂に入る順番の割り振り。
きっとまだまだやることはある。準備が終わるまでは先が長いらしい。ちなみにご飯を作るのは、梟谷グループの保護者でローテらしいので、マネがご飯作るという憧れシチュはない。ちょっと悲しい。(料理の腕はそこまでよくないことはまた別の話)
どうにか宿泊準備を終え、練習風景を眺めて、あっという間に夜になった。
今日は、初めての学校ということもあり、一日中サチ先輩にひっついていた。夜ご飯も引っ付いていたが、頼れる先輩はどうやら夏バテ気味らしい。昼間にあれだけ、重い布団を教室に運ぶ往復をしたのだから当たり前といえば当たり前である。晩ご飯を多くは食べなかったその人は、夜、『アイス食べたい』と言い出す。
「さっちーのアイス食べたい病が始まった~」
梟谷のかおり先輩が笑いながら、「合宿名物だから」とか説明してくれる。サチ先輩アイス好きなんだな、と初めて知った情報を脳内メモをする。明日のケーキ、アイスケーキにすればよかったかな、とか今さらである。
『……ダメだ、我慢できない』
「我慢したことないだろ」
『買いに行かねば』
「はいはい、行ってらっしゃーい。余力があれば、箱アイス買ってきて~」
『おっけー』
マネージャー3年生陣は、サチ先輩の扱いも慣れているらしい。愛想は何もないサチ先輩だけど、雑に扱った方が仲良くなれる。と最近気が付いたので、私の対応も雑になりつつある。
「って、サチ先輩一人で行くんですか?」
『え、うん。さすがにここからコンビニは道覚えた』
「ああ、そういえば方向音痴でしたっけ。以外な弱点」
『うるさーい』
「……じゃなくて! もう夜ですよ、結構遅い時間! 一人じゃ危ないです」
『大丈夫、大丈夫。今まで一人だった』
いやいやいや。今まで一人だったというのも問題だろう。
「絶っっ対ダメです。これを許したら、黒尾先輩になんていわれるか」
『でもアイスクリーム今食べたい』
「……我慢」
『むり~』
「……わかりました、一緒に行きます。準備するので少し待ってください」
半袖でもいいが、少し肌寒い。薄い羽織を上にかけて、財布とスマホを手に取る。
サチ先輩は、財布だけ手に持っている。携帯電話はどこに置いてきたのやら。
欠伸を噛み殺しながらサチ先輩の後ろを歩いていると、後ろから何やら声がする。振り返ればどこから湧いて出たのか黒尾先輩である。少し息が切れているから、走ってやってきたのだろう。
「こんな夜更けにどちらまで?」
「コンビニです、サチ先輩が」
「もしかしてアイス?」
黙って頷くと、はあ、とため息をつきつつ、首の後ろをかくその人。
「サチさーん、夜道はダメだって前に言いませんでした?」
『……今日は一人じゃない』
言われたことは覚えているらしい。居心地の悪そうなサチ先輩の返事が裏付けている。私がついて行くと言わなければ一人で行くつもりだったでしょ、とは可哀そうなので口には出さない。
「女の子2人じゃ、1人と大して変わりません」
『じゃあアイス食べたいときはどうするんですかー』
「俺を呼べばいいでしょ。何のための幼馴染ですか」
『ああ、その手があったか』
楽しそうなんだよなあ、とサチ先輩を見ながら思う。
黒尾先輩の片思いという構図ではあるのだが、2人で話している様子は、互いに楽しそうな雰囲気だ。
そんな先輩2人の雰囲気をもう少し眺めていたかったのだが、欠伸が止まらない。ので、黒尾先輩のお楽しみの邪魔をしても悪いし、サチ先輩を任せることにする。
「ほら。咲良、眠そうじゃねーか」
『わ、ごめん。アイスのことしか考えてなかった』
「……黒尾先輩、サチ先輩のことは頼みました」
「おう、頼まれた。わりいな、気を付けて帰れよ」
学校の敷地内だったので、そのまま幼馴染2人組と分かれて教室へと帰ったのだった。
「慣れない合宿で疲れている後輩を連れ出すもんじゃないでしょーが」
コンビニまでの道を二人で歩く。いつぞやのGW合宿を思い出す。宮城の知らない土地で、地図もなしにコンビニへ行こうとしていた。
『ごめんごめん。次からは黒尾を呼び出します』
「よろしい」
大袈裟だなあ、とか言っているのは聞き流しておく。
『でもなんでわかったの? 黒尾も買い物?』
「いんや? 雀田から連絡もらった」
『あー、そういうことか』
あいかわらずの危機感のなさに、研磨とは違う手のかかりようだ。
最近、梟谷グルームのマネたちが何やら協力的である。裏があるのかもしれないが、今の所害はないというか非常に助かるので、ありがたく好意として受け取っている。
「そういや、サチさん今回は道具一式持ってきてるんだよな?」
明後日のバースデイ試合で、サチに道具を準備させるため、練習に付き合ってもらうから準備しておくように言っておいた。シューズにサポーターなどなど。
『持ってきた。リエーフの守備、あいかわらずだもんね』
たまに練習に付き合ってもらっているので、何の疑いもないらしい。バースデイ試合も、目的でいえば守備強化にあたるので、名目もあながち間違いではない。
『でもせっかく合同合宿なんだから、他校と練習した方がいいんじゃないの』
「いやあ、それぞれ自分の練習があるから、うちの守備のために付き合ってくれないんじゃないかな、と思いまして」
『まあ、それもそっか』
さすがにサチも疲れているのか、会話のテンションは低いまま、コンビニに到着した。
「ごゆっくりー」
『……なんかいる?』
「んーじゃあサチと同じヤツで」
少しむっとされた。たぶん高級アイスを買う予定だったらしい。別になんでもよかったのだが、何も言わずにコンビニへ入っていったので、訂正はしなくていいだろう。
しばらく待っていると、ビニール袋を提げたサチが出てきた。
「何買ったの?」
『値段と味のバランスの優れた物』
差し出された袋をのぞけば、高級アイスクリームの姿は見当たらない。律儀に同じアイスクリームが2つ入っていた。あと箱アイス。これはマネたちへの土産だろうか。
「じゃ、溶ける前に帰りますか」
手を差し出して、袋を持つつもりだった。しかし返ってきたのは、人肌のぬくもりで、思わず自分の手を見下ろすとサチの手が握られていた。
「ん?」
『間違えた』
そして何事もなかったかのように手を離されて、袋が置かれた。
『はいよろしく』
「……」
何が起きたのかを理解して、手をつないだ事実に赤面しないくらいには幼いころからつなぎ慣れていた。代わりにでたのは、ぶはっという笑い声。
「ちょっとお姉さん。何さらっと間違えてんの」
『うるさい』
「小学生にでも戻った?」
『うるさいっ。手をつなげたことを嬉しく思え』
横暴かつ気まずそうなサチを横目に、しかし笑いが収まらない。しばらく笑いながら歩いていると、『もうアイス上げないよ』と聞こえてきたので、どうにか笑いを収める。
幼馴染ににらまれる横で、短い着信音が鳴る。メールが来たようだ。携帯を開くと、暗い夜道に画面の光が際立った。
〈 いつまでイチャイチャしてんだ 〉
いわずもがなやっくんである。
そういや、雀田からの電話の後、ほとんど何も言わずに部屋を出てきたなあ、と思い出した。サチ関連だということはわかってもらえているらしい。
〈 帰り足ですー 〉
返信して、携帯を閉じる。いつの間にか、隣から鼻歌が聞こえる。先ほどのメールの着信音と同じだから、引っ張られたのだろ。単純である。
『誰から?』
「やっくん」
『へえ。仲良し』
全く興味のなさそうな返答があり、すぐにもう一度携帯が鳴った。今度は雀田からだ。
〈 仲良くやってるー? さっちーに、先にお風呂入ってるって伝えておいて~ 〉
何故俺に連絡が来るのか。
答えは、サチが携帯を持ってきていないから。充電が入っているかどうかも怪しい。
「雀田から。先に風呂入ってるってよ」
『はいはーい。じゃあ、帰ったら広いお風呂を独り占めだ』
「ってか、携帯、ちゃんと持ち歩きなさいよ」
『はいはい』
絶対聞き流している。明日もどうせ持ち歩かないだろう。何のための携帯電話だろうか。サチの母であるゆきさんのため息が聞こえてくるようである。
そんなところで、森然高校の校舎が見えてきた。
会話の終わりが見えてきたせいか、先日研磨からのメールを思い出した。〈サチが寂しいってさ〉と入っていた。
「そういや、俺が不在で、寂しかったんだって? サチさん」
『え? んー別に?』
「いやいやいや。研磨に寂しいって言ったんでしょ」
『……あー、なんか言ったかも』
「たまには正直になりなさいよ。寂しかったんでしょ」
『別に』
”寂しかった”と直接聞きたかったが、それは叶わぬ夢らしい。
意味のない応酬で校舎についてしまったので、潔くあきらめることとする。
「じゃまあ、また明日」
『んー』
何事もなかったかのように帰っていくサチの後ろ姿を見送っていると、『あ』という声とともに、サチがこちらを振り返った。
『黒尾、ありがと』
笑った。屈託のない笑顔で。
たまにしか見れないそれは、ドクンと胸を高鳴らせるのには十分で、「ああ、」と気のない返事をしてしばらくその場に突っ立っていることとなった。
21何のための幼馴染ですか
夜久「倉木とデートは終わったのか?」
黒尾「まあねー」
海 「いたくご満悦のようで」