Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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鼻歌を歌いながら近づいてくる女の子が一人。
「サチせんぱーい」
鼻歌に加えて、満面の笑みである。何がそんなに楽しいのか。
その疑問はすぐに答えが見つかる。
『あ、夏休みに入るからそんなに機嫌がいいのか?』
「まあ、それもありますけどー」
違うらしい。
体育館で、通常練習が終わり、自主練の時間帯のせいか、周りも少しゆったりっとした空気である。
「私も、バレーボールやってみたくて! サチ先輩教えてください!」
『……へえ?』
「へえ? じゃなくてっ! サチ先輩、バレー上手だって聞いたので、先輩に教えてもらいたいんです」
『誰から聞いた―――黒尾か』
「そうです、黒尾先輩から。あと研磨さんも言ってました」
研磨ともいつの間にか打ち解けたんだなあ、と感慨にふける。が、更けてばかりではいられないようで、無言でいると咲良から軽く睨まれた。
「夏休みに入るし、時間もできるからバレー教えてください!」
『わかったわかった。練習の後ならいいよー』
「やった! さっすがサチ先輩。バレーのことなら断られないって思ってました」
なんか一言余計な気がするけど、まいーか。
『でもなんでまたバレーを?』
「いやあ、見てたらやりたくなったってのと、マネージャー業務でも役立つかなって」
なかなか前向きな考えに、おやおやと感心してしまう。
『えらいえらい。それで、もう少し普段の仕事するときに落ち着きがあると、なお良い』
彼女は、基本、張り切りすぎるタイプだ。
やる気を出せば出すほど空回りしてしまう。
「サチ先輩ひどーい。そんなこと言わなくて、もっ」
言っているそばから、ガラガラガラと盛大な音が体育館内に響いた。洗ったばかりのコップの山をすべて落とした音である。もちろん咲良が。
『あー、言わんこっちゃない。早く片してー』
「ええ、手伝ってくださいよ~」
『そこ、気を付けて! コップ踏まないでー』
もう日常茶飯事なので、咲良以外は慌てることはない。日常すぎて、いちいち咲良のドジを覚えることもなくなってしまった。
『私は別の仕事があるのー』
アタフタしている咲良を近くにいた山本と福永に押し付けギプスの洗濯へと向かう。先日咲良に洗濯業務を押し付けたところ、他所の洗剤を勝手に使ってしまい、なおかつその洗剤を洗濯機の周りにぶちまけるという大惨事となってしまった。
なんて回想をしながら洗濯機を眺めていると。
「おーい。音駒高校男子バレー部の頼れるマネージャーさん」
『なんですかー。ここ最近、恋愛にうつつを抜かしている主将さん』
後ろから声がしたので、振り返らずに返事をした。聞きなれたというか、聞きなれすぎた声である。
「恋愛にうつつを抜かしてませんー」
『どうだか?』
「あのねえ―――」
『はいはい。冗談ですよー。何か用?』
説明が面倒くさくなりそうだったので慌てて会話の軌道修正を図る。
「……まいーや。今日は一緒に帰るからさ、―――ー」
『お。ついに振られた?』
「振られてねーよ。てか、―――」
『わかったわかった。恋愛じゃないんでしょ。わかってますよー』
黒尾の言葉を悉く遮ったせいか、少し機嫌を損ねたらしい。
『っ』
不意に頬をつねられた。本気ではないから、ちょっと刺激があったくらいなのだが、唐突すぎて変な声がでた。
『ちょっと、なにするの』
「人の話はちゃんと聞いてくださーい」
『だって黒尾の話長いんだもん』
逆側の頬をもれなくつねられる。
「はあ? お前が勝手に、恋愛沙汰に、つなげるからだろっ」
両側の頬を、上下左右に引っ張られ、さすがに幼馴染を睨みつけると、ようやく手を離した。
『クソ尾』
「うっせー」
ヒートアップした場を落ち着かせるためか、互いにしばらく黙りこくる。黒尾が珍しく、拗ねている。ほんの少しだけ、拗ねている。
『進展しなかったの?』
「……何が?」
『なんかご機嫌斜めだから、好きな人とうまくいかなかったのかな、と気を遣ってみた』
変な気を遣いなさんな。と小さくつぶやかれる。しかし言っているそばから、軽くため息。
「どっちかってと、進展ないというか、会える時間が減って寂しいというか」
こんなに毎日練習だらけで、「会える時間が減って」と言えるほど会っているのか。そんな人いる? 学校の人かな。……クラスで誰かそんな人いたっけ? 他クラスかな。
一瞬いろいろ考えを巡らせたけど、わかるはずもなく、思考を放棄する。
『……素直にどうも。そしてドンマイ』
「本当にそう思うなら、黒尾さん、慰めてほしいなあ」
『私が?』
「いいじゃないの、たまには幼馴染の面倒見てくださーい」
慰めることは別にいいのだが、どうやって慰めればいいのかがわからない。しばらく黙って眺めていると、こちらの考えを見抜いたらしい、要望が上がってきた。
「前にしてくれたヤツ。インハイ予選で」
『なんかやったっけ?』
「負けた時。医務室で、」
『んー?』
記憶を思い起こす。朧気だが、思い当たる行為が一つあった。
ちょっと拗ねた感じでこちらを見ているから、頭を撫でてくれとは言えないらしい。黒尾のくせにちょっとかわいい。
『屈んでくださーい』
そういえば、素直に屈む幼馴染。
ツンツン頭をつぶさないように―――これで身長をごまかしているのだとしたら悪いから―――ポンポンと頭を撫でた。
「ん。元気出た」
満足そうに笑った顔に、一瞬ドキリとした。
どうしてかはわからないので、ドキリとしたことは忘れることにする。うん、何も見てない。
『じゃ、練習に戻ってくださーい』
「えー、急に素っ気ない」
『私はいつも素っ気ない』
「確かに」
『そこは否定しなさい。せめて悩め』
へいへい、といつもの適当な返事を残し、長身の幼馴染は体育館へと戻っていった。
20黒尾のくせにちょっとかわいい
咲良「朗報です! なんかイチャイチャしてますっ」
夜久「おーおー、久しぶりに攻めてんな」
咲良「最近、誕生日プレゼントの件で絡めてなかったですからね!」
夜久「倉木、黒尾の髪をへし折ってやれ! 身長縮めろっ!」
「サチせんぱーい」
鼻歌に加えて、満面の笑みである。何がそんなに楽しいのか。
その疑問はすぐに答えが見つかる。
『あ、夏休みに入るからそんなに機嫌がいいのか?』
「まあ、それもありますけどー」
違うらしい。
体育館で、通常練習が終わり、自主練の時間帯のせいか、周りも少しゆったりっとした空気である。
「私も、バレーボールやってみたくて! サチ先輩教えてください!」
『……へえ?』
「へえ? じゃなくてっ! サチ先輩、バレー上手だって聞いたので、先輩に教えてもらいたいんです」
『誰から聞いた―――黒尾か』
「そうです、黒尾先輩から。あと研磨さんも言ってました」
研磨ともいつの間にか打ち解けたんだなあ、と感慨にふける。が、更けてばかりではいられないようで、無言でいると咲良から軽く睨まれた。
「夏休みに入るし、時間もできるからバレー教えてください!」
『わかったわかった。練習の後ならいいよー』
「やった! さっすがサチ先輩。バレーのことなら断られないって思ってました」
なんか一言余計な気がするけど、まいーか。
『でもなんでまたバレーを?』
「いやあ、見てたらやりたくなったってのと、マネージャー業務でも役立つかなって」
なかなか前向きな考えに、おやおやと感心してしまう。
『えらいえらい。それで、もう少し普段の仕事するときに落ち着きがあると、なお良い』
彼女は、基本、張り切りすぎるタイプだ。
やる気を出せば出すほど空回りしてしまう。
「サチ先輩ひどーい。そんなこと言わなくて、もっ」
言っているそばから、ガラガラガラと盛大な音が体育館内に響いた。洗ったばかりのコップの山をすべて落とした音である。もちろん咲良が。
『あー、言わんこっちゃない。早く片してー』
「ええ、手伝ってくださいよ~」
『そこ、気を付けて! コップ踏まないでー』
もう日常茶飯事なので、咲良以外は慌てることはない。日常すぎて、いちいち咲良のドジを覚えることもなくなってしまった。
『私は別の仕事があるのー』
アタフタしている咲良を近くにいた山本と福永に押し付けギプスの洗濯へと向かう。先日咲良に洗濯業務を押し付けたところ、他所の洗剤を勝手に使ってしまい、なおかつその洗剤を洗濯機の周りにぶちまけるという大惨事となってしまった。
なんて回想をしながら洗濯機を眺めていると。
「おーい。音駒高校男子バレー部の頼れるマネージャーさん」
『なんですかー。ここ最近、恋愛にうつつを抜かしている主将さん』
後ろから声がしたので、振り返らずに返事をした。聞きなれたというか、聞きなれすぎた声である。
「恋愛にうつつを抜かしてませんー」
『どうだか?』
「あのねえ―――」
『はいはい。冗談ですよー。何か用?』
説明が面倒くさくなりそうだったので慌てて会話の軌道修正を図る。
「……まいーや。今日は一緒に帰るからさ、―――ー」
『お。ついに振られた?』
「振られてねーよ。てか、―――」
『わかったわかった。恋愛じゃないんでしょ。わかってますよー』
黒尾の言葉を悉く遮ったせいか、少し機嫌を損ねたらしい。
『っ』
不意に頬をつねられた。本気ではないから、ちょっと刺激があったくらいなのだが、唐突すぎて変な声がでた。
『ちょっと、なにするの』
「人の話はちゃんと聞いてくださーい」
『だって黒尾の話長いんだもん』
逆側の頬をもれなくつねられる。
「はあ? お前が勝手に、恋愛沙汰に、つなげるからだろっ」
両側の頬を、上下左右に引っ張られ、さすがに幼馴染を睨みつけると、ようやく手を離した。
『クソ尾』
「うっせー」
ヒートアップした場を落ち着かせるためか、互いにしばらく黙りこくる。黒尾が珍しく、拗ねている。ほんの少しだけ、拗ねている。
『進展しなかったの?』
「……何が?」
『なんかご機嫌斜めだから、好きな人とうまくいかなかったのかな、と気を遣ってみた』
変な気を遣いなさんな。と小さくつぶやかれる。しかし言っているそばから、軽くため息。
「どっちかってと、進展ないというか、会える時間が減って寂しいというか」
こんなに毎日練習だらけで、「会える時間が減って」と言えるほど会っているのか。そんな人いる? 学校の人かな。……クラスで誰かそんな人いたっけ? 他クラスかな。
一瞬いろいろ考えを巡らせたけど、わかるはずもなく、思考を放棄する。
『……素直にどうも。そしてドンマイ』
「本当にそう思うなら、黒尾さん、慰めてほしいなあ」
『私が?』
「いいじゃないの、たまには幼馴染の面倒見てくださーい」
慰めることは別にいいのだが、どうやって慰めればいいのかがわからない。しばらく黙って眺めていると、こちらの考えを見抜いたらしい、要望が上がってきた。
「前にしてくれたヤツ。インハイ予選で」
『なんかやったっけ?』
「負けた時。医務室で、」
『んー?』
記憶を思い起こす。朧気だが、思い当たる行為が一つあった。
ちょっと拗ねた感じでこちらを見ているから、頭を撫でてくれとは言えないらしい。黒尾のくせにちょっとかわいい。
『屈んでくださーい』
そういえば、素直に屈む幼馴染。
ツンツン頭をつぶさないように―――これで身長をごまかしているのだとしたら悪いから―――ポンポンと頭を撫でた。
「ん。元気出た」
満足そうに笑った顔に、一瞬ドキリとした。
どうしてかはわからないので、ドキリとしたことは忘れることにする。うん、何も見てない。
『じゃ、練習に戻ってくださーい』
「えー、急に素っ気ない」
『私はいつも素っ気ない』
「確かに」
『そこは否定しなさい。せめて悩め』
へいへい、といつもの適当な返事を残し、長身の幼馴染は体育館へと戻っていった。
20黒尾のくせにちょっとかわいい
咲良「朗報です! なんかイチャイチャしてますっ」
夜久「おーおー、久しぶりに攻めてんな」
咲良「最近、誕生日プレゼントの件で絡めてなかったですからね!」
夜久「倉木、黒尾の髪をへし折ってやれ! 身長縮めろっ!」