Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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「さっちー、連行されたね」
「されましたね」
「咲良は黒尾狙ってるんじゃないの?」
「あ~。それはもう昔の話です。……あんな黒尾さん見たら、敵わないなあと思いまして」
それよりもサチ先輩を追いかける方が、今の私には重要になりつつある。サチ先輩みたいな人になりたい。
「そうなんだよねえ。黒尾のアレは、もうずっとなんだけど、黒尾もかわいそうだよねえ。相手が悪いよねえ」
「確かにそうですね。あれだけわかりやすく態度が違うのに、サチ先輩はまったく気が付きませんもんねえ。まっっっったく」
「そうそう。もうずっとあんな感じだからさあ、事の成り行きを見守ることにしてるんだけど、黒尾が不憫すぎてたまに手助けしちゃうもん」
「あ。それちょっとわかるかもしれません。ついつい、黒尾先輩とサチ先輩が一緒になるように、調整しちゃうときあります」
「……咲良、あんたってかわいいだけじゃなく、イイヤツ」
言い終わるや否否や、かおり先輩は私の頭をグシャグシャにする。
夜、学校の校庭で花火をしている、いつもとは違う雰囲気だからか、他校のマネの距離も近い。
「なになに、何の話~?」
花火の在庫もなくなったのか、離れたところで楽しんでいたマネさんたちが会話に加わる。
「あれ。長期見守り案件の話」
「あ~、どうりでさっちーいないわけね」
「さっき、黒尾が手を握って連行してたよ」
「今日も頑張ってるねえ、黒尾さんは」
どうやら、「長期見守り案件」で、黒尾先輩とサチ先輩のことだとは伝わるらしい。なんとも面白い隠語である。
「いつになったら、くっついてくれるんだか」
「もう卒業してもあのままかもよ」
「ええ。それは不憫すぎる。」
「でも、黒尾の牽制は効いているわけだし、くっつかなくてもくっついているようなもんじゃない?」
まだ顔と名前が一致していない人もいるが、おおむね全員、同じような感想らしい。今回から一緒に練習するようになったという烏野のマネ2人は、途中で”黒尾”、”さっちー”と名前が出ることから、誰のことかは予想がついたようだ。
「いやあ、そこは黒尾がちゃんとしたいんじゃない?」
「確かに。ああ見えて、なんかちゃんとしてるもんね」
「えー、でもさあ、ちゃんとしたいんなら、今の関係から進めない黒尾ってどうなの?」
「牽制するだけで、告白とかはないもんねえ」
「いやあ、だってさっちーだよ? 告白しても、興味ないってなるでしょ、あれだと」
最後のかおり先輩の一言に、満場一致でみなこめかみを抑える。”そうだったーさっちー恋愛に興味ないバレー馬鹿だったー”と聞こえてきそうな勢いだ。
「ともかく。森然合宿はさっちーの誕生日重なるから、ちょっと作戦を練ろう」
そこで、サチ先輩ファンとしては聞き捨てならない情報が飛び出る。
「え!? サチ先輩誕生日なんですか!?」
「そうそう。さっちー、誕生日とか自分の情報、なーんも開示しないよね」
「1年生の時は、みんなさっちーの誕生日知らなくて、たぶん黒尾も忘れててさあ。気が付いた時には1か月以上過ぎてて、黒尾の顔が真っ青でさあ」
「あの時は、おもしろかったねえ。主に黒尾」
3年マネ'sがははは、と笑う。真っ青な顔の黒尾先輩は純粋に見たかった。今の彼からはそんな姿は想像できない。
「あの。黒尾先輩はいつからサチ先輩のことが……?」
おそるおそる質問すると、しかし全員そこは確証はないらしい。
「1年の時は、”そうなのかな?”くらいだったよねえ。誕生日忘れてるし」
「確かにねえ。でも2年になったらもう、びっくりするくらいべったりだったよね、黒尾がさっちーに」
「それって、1年生の時に何かがあった、ということですか?」
「そう言われると、そうなのかも。なんか気になってきた」
「今度黒尾のこと呼び出ししようよ」
「ええ、答えてくれないでしょ」
「梟谷グループと烏野のマネが全面的に協力しますよって対価があったら教えてくれるんじゃない?」
勝手に全面協力することになっているが、それに対しては誰も不服はないらしい。
「じゃあ、黒尾への交渉も含めて、これからの作戦を練ろう」
こうして、マネージャーたちの長い夜が始まる。
この日から、梟谷グループおよび烏野高校の男子バレー部マネージャー(サチを除く)の集まりは、長期案件見守り隊となったのだった。
幼馴染の腕をつかみ、半ば強引に花火会場を連れ出した。
雀田のいう、マネ全員で花火がしたいという希望はかなっているし、サチを連れ出すのは特に問題ないだろう。そもそもサチは、手持ち花火があまり好きではない―――煙たいかららしい。
先ほどまで、後ろでブツブツ文句を言っていたが、いつの間にか何も言わずただ後ろをついてくるだけとなった。
掴んだ腕は、俺の指では余るくらいの細さで、校庭から宿舎に入るところでようやく、つかむ力が強いのではないか、という疑問が浮かぶ。
「、わりい、痛かったか?」
慌てて謝り手を離したのだが、腕の色は白いままで、赤くはなっていないので一安心する。
『別に。……なんかあった?』
淡白な返事は相変わらずで、この状況でそれであれば、俺は異性としては全く意識されていないということが強調されれているようで少し悲しい。
「ん~あったと言えばあった」
だからだろうか。少しだけ、その評価を覆してみたくなった。好きとまではいかずとも、俺のことを幼馴染ではなく、男として見てほしい、と。
『なに?』
「サチさんさあ。俺のことモテないって思ってるでしょ」
『え、うん。思ってるも何も、モテないでしょ? 事実だよ』
「いやいやいや。好青年、高身長の黒尾さんがモテないわけないでしょ」
何言ってるんだ、コイツ とでも言いたげな目で冷たい視線を送られた。無言なところがその気持ちを裏付けている。
念のため言っておくが、普段はこんな自慢のようなことは言わない。言っても意味ないし。
「ちょっとそんな目で見なさんなよ。信用できないなら、やっくんでも呼んで証人してもらいますけど?」
『夜久はなんか加担しそうだから、そこは海で』
「いや、証人呼ぶんかーい。そんなに信用できません? 黒尾さん、サチさんに嘘をついた記憶はないんだけどなあ」
『……わかったわかった。で、自称モテる黒尾さんが、私に何の用ですか?』
花火を終えて、強制的に宿舎の方へ引っ張ってきたので、用があると思ったらしい。
実際は、烏野の誰かがサチに声をかける機会をうかがっているという話が流れてきたので、牽制する意味も込めて突っ走ってきたというだけなのだが。
しかしそこで、頭をフル回転して用を作り出すのが黒尾品質である。
「あーほら。夏休みの練習メニュー、そろそろ考えないとと思いまして。まだ時間あるし、これからどう?」
『わかった。お風呂入ってからでもいい? 汗かいたし、煙の臭いついてるし、どうにかしたい』
バレーボールの話であれば前向きになるのが、数あるサチのカワイイ所の一つである。
集合時間と集合場所を決めて、一先ず解散となった。
風呂から上がり、お湯を拭いていると、何やら外が騒がしい。ざわざわと話が盛り上がっている様子だ。
何だろうなあ、と思っていると、「黒尾大変だぞ」と全然大変そうな態度ではない夜久。その証拠に顔はニヤニヤ笑っている。
「なーにが大変なんだか。にやけてるぞ」
「そんな余裕ぶっこいてていいのかー?」
ネタによっぽど自信があるらしい。先を促さずとも、ニヤニヤしながら暴露してくれた。
「外で、お前の大事な”サチ”がナンパされてる」
「はぁ!?」
それは早く言え。とは言葉には出さず、水気を拭き取るのはあきらめ、とりあえず服を着て脱衣所を出た。
「すげー! サチさん、何でも知ってるんですね!」
そこには、サチと話す烏野10番 、そして横で片肘をついている研磨がいた。
おそらくナンパではないと判断し、少しテンションを下げる。
「やあやあちびちゃん。こんなところで何してるの? 烏野の風呂時間はもう少し後じゃないの?」
「ちょっと探検してたら研磨を見つけて、そしたらサチさんが来て、動画解説してくれてた!…んです!」
「へえ? それは珍しい。何見てんの?」
わざとらしく、サチの顔の後ろから画面をのぞき込む。距離を詰めることを忘れない―――この場でその意味に気づいたのは研磨くらいだろうが。
研磨のタブレットを自分の物のように使っているサチが見ていたのは、先日のVリーグの試合だった。研磨が横でつまらなさそうに片肘をついているのは、サチが強制的にタブレットを分捕ったのだろう。おおかた研磨はゲーム実況でも見ていたといったところか。
『日向がブロックに捕まるって話してたから、対ブロックの駆け引きでもと思って』
言いつつ、サチが立ち上がる。
風呂上りでそのままここにいたらしい。髪はまだ少し水気を帯びていて、いつもポニーテールにされているのが、今は下ろされていた。しかも風呂の湯で火照っているのか、いつも白い頬はほんのり赤い。首回りが広いゆるっとした寝間着を着ているのはさすがにいただけない。
こんな気の抜けた格好で、何分ここに居座ったのだろうか。と、少しむっとする。
『じゃ、後は二人で楽しんでね』
そう言い残して、その場を後にするサチ。風呂上りの珍しい姿を見たせいか、呆けてその場にたたずんでいると、珍しくサチが振り返ってこちらを睨んだ。
『ちょっと黒尾。打ち合わせするんでしょ。早く行こ』
どうやら、風呂上りに俺のことを待っていてくれたようだった。
先ほどムッとしてしまった気持ちはすぐにどこかへ行き、変わりにニヤニヤとする顔を引き締めなければならなくなった。
「ちょい待ち。荷物取ってくる」
とりあえずナンパを止めるために慌てて出てきていたので、荷物はすべて脱衣所の中だ。荷物を取るついでに、やっくんに一言言っておこうと踵を返す。
何がナンパだ、となじるべきか。あの無防備な姿でいることを教えてくれてありがとうと感謝するべきか。
17長期案件見守り隊
サチ「ねえねえ、夜久。黒尾ってモテるの?」
夜久「あ~無駄に背が高いからな。モテなくはない」
サチ「じゃなんで付き合わないんだろ。彼女欲しいんじゃなかったっけ?」
海「好きな人がいるからって断ってるらしいよ」
「されましたね」
「咲良は黒尾狙ってるんじゃないの?」
「あ~。それはもう昔の話です。……あんな黒尾さん見たら、敵わないなあと思いまして」
それよりもサチ先輩を追いかける方が、今の私には重要になりつつある。サチ先輩みたいな人になりたい。
「そうなんだよねえ。黒尾のアレは、もうずっとなんだけど、黒尾もかわいそうだよねえ。相手が悪いよねえ」
「確かにそうですね。あれだけわかりやすく態度が違うのに、サチ先輩はまったく気が付きませんもんねえ。まっっっったく」
「そうそう。もうずっとあんな感じだからさあ、事の成り行きを見守ることにしてるんだけど、黒尾が不憫すぎてたまに手助けしちゃうもん」
「あ。それちょっとわかるかもしれません。ついつい、黒尾先輩とサチ先輩が一緒になるように、調整しちゃうときあります」
「……咲良、あんたってかわいいだけじゃなく、イイヤツ」
言い終わるや否否や、かおり先輩は私の頭をグシャグシャにする。
夜、学校の校庭で花火をしている、いつもとは違う雰囲気だからか、他校のマネの距離も近い。
「なになに、何の話~?」
花火の在庫もなくなったのか、離れたところで楽しんでいたマネさんたちが会話に加わる。
「あれ。長期見守り案件の話」
「あ~、どうりでさっちーいないわけね」
「さっき、黒尾が手を握って連行してたよ」
「今日も頑張ってるねえ、黒尾さんは」
どうやら、「長期見守り案件」で、黒尾先輩とサチ先輩のことだとは伝わるらしい。なんとも面白い隠語である。
「いつになったら、くっついてくれるんだか」
「もう卒業してもあのままかもよ」
「ええ。それは不憫すぎる。」
「でも、黒尾の牽制は効いているわけだし、くっつかなくてもくっついているようなもんじゃない?」
まだ顔と名前が一致していない人もいるが、おおむね全員、同じような感想らしい。今回から一緒に練習するようになったという烏野のマネ2人は、途中で”黒尾”、”さっちー”と名前が出ることから、誰のことかは予想がついたようだ。
「いやあ、そこは黒尾がちゃんとしたいんじゃない?」
「確かに。ああ見えて、なんかちゃんとしてるもんね」
「えー、でもさあ、ちゃんとしたいんなら、今の関係から進めない黒尾ってどうなの?」
「牽制するだけで、告白とかはないもんねえ」
「いやあ、だってさっちーだよ? 告白しても、興味ないってなるでしょ、あれだと」
最後のかおり先輩の一言に、満場一致でみなこめかみを抑える。”そうだったーさっちー恋愛に興味ないバレー馬鹿だったー”と聞こえてきそうな勢いだ。
「ともかく。森然合宿はさっちーの誕生日重なるから、ちょっと作戦を練ろう」
そこで、サチ先輩ファンとしては聞き捨てならない情報が飛び出る。
「え!? サチ先輩誕生日なんですか!?」
「そうそう。さっちー、誕生日とか自分の情報、なーんも開示しないよね」
「1年生の時は、みんなさっちーの誕生日知らなくて、たぶん黒尾も忘れててさあ。気が付いた時には1か月以上過ぎてて、黒尾の顔が真っ青でさあ」
「あの時は、おもしろかったねえ。主に黒尾」
3年マネ'sがははは、と笑う。真っ青な顔の黒尾先輩は純粋に見たかった。今の彼からはそんな姿は想像できない。
「あの。黒尾先輩はいつからサチ先輩のことが……?」
おそるおそる質問すると、しかし全員そこは確証はないらしい。
「1年の時は、”そうなのかな?”くらいだったよねえ。誕生日忘れてるし」
「確かにねえ。でも2年になったらもう、びっくりするくらいべったりだったよね、黒尾がさっちーに」
「それって、1年生の時に何かがあった、ということですか?」
「そう言われると、そうなのかも。なんか気になってきた」
「今度黒尾のこと呼び出ししようよ」
「ええ、答えてくれないでしょ」
「梟谷グループと烏野のマネが全面的に協力しますよって対価があったら教えてくれるんじゃない?」
勝手に全面協力することになっているが、それに対しては誰も不服はないらしい。
「じゃあ、黒尾への交渉も含めて、これからの作戦を練ろう」
こうして、マネージャーたちの長い夜が始まる。
この日から、梟谷グループおよび烏野高校の男子バレー部マネージャー(サチを除く)の集まりは、長期案件見守り隊となったのだった。
幼馴染の腕をつかみ、半ば強引に花火会場を連れ出した。
雀田のいう、マネ全員で花火がしたいという希望はかなっているし、サチを連れ出すのは特に問題ないだろう。そもそもサチは、手持ち花火があまり好きではない―――煙たいかららしい。
先ほどまで、後ろでブツブツ文句を言っていたが、いつの間にか何も言わずただ後ろをついてくるだけとなった。
掴んだ腕は、俺の指では余るくらいの細さで、校庭から宿舎に入るところでようやく、つかむ力が強いのではないか、という疑問が浮かぶ。
「、わりい、痛かったか?」
慌てて謝り手を離したのだが、腕の色は白いままで、赤くはなっていないので一安心する。
『別に。……なんかあった?』
淡白な返事は相変わらずで、この状況でそれであれば、俺は異性としては全く意識されていないということが強調されれているようで少し悲しい。
「ん~あったと言えばあった」
だからだろうか。少しだけ、その評価を覆してみたくなった。好きとまではいかずとも、俺のことを幼馴染ではなく、男として見てほしい、と。
『なに?』
「サチさんさあ。俺のことモテないって思ってるでしょ」
『え、うん。思ってるも何も、モテないでしょ? 事実だよ』
「いやいやいや。好青年、高身長の黒尾さんがモテないわけないでしょ」
何言ってるんだ、コイツ とでも言いたげな目で冷たい視線を送られた。無言なところがその気持ちを裏付けている。
念のため言っておくが、普段はこんな自慢のようなことは言わない。言っても意味ないし。
「ちょっとそんな目で見なさんなよ。信用できないなら、やっくんでも呼んで証人してもらいますけど?」
『夜久はなんか加担しそうだから、そこは海で』
「いや、証人呼ぶんかーい。そんなに信用できません? 黒尾さん、サチさんに嘘をついた記憶はないんだけどなあ」
『……わかったわかった。で、自称モテる黒尾さんが、私に何の用ですか?』
花火を終えて、強制的に宿舎の方へ引っ張ってきたので、用があると思ったらしい。
実際は、烏野の誰かがサチに声をかける機会をうかがっているという話が流れてきたので、牽制する意味も込めて突っ走ってきたというだけなのだが。
しかしそこで、頭をフル回転して用を作り出すのが黒尾品質である。
「あーほら。夏休みの練習メニュー、そろそろ考えないとと思いまして。まだ時間あるし、これからどう?」
『わかった。お風呂入ってからでもいい? 汗かいたし、煙の臭いついてるし、どうにかしたい』
バレーボールの話であれば前向きになるのが、数あるサチのカワイイ所の一つである。
集合時間と集合場所を決めて、一先ず解散となった。
風呂から上がり、お湯を拭いていると、何やら外が騒がしい。ざわざわと話が盛り上がっている様子だ。
何だろうなあ、と思っていると、「黒尾大変だぞ」と全然大変そうな態度ではない夜久。その証拠に顔はニヤニヤ笑っている。
「なーにが大変なんだか。にやけてるぞ」
「そんな余裕ぶっこいてていいのかー?」
ネタによっぽど自信があるらしい。先を促さずとも、ニヤニヤしながら暴露してくれた。
「外で、お前の大事な”サチ”がナンパされてる」
「はぁ!?」
それは早く言え。とは言葉には出さず、水気を拭き取るのはあきらめ、とりあえず服を着て脱衣所を出た。
「すげー! サチさん、何でも知ってるんですね!」
そこには、サチと話す
おそらくナンパではないと判断し、少しテンションを下げる。
「やあやあちびちゃん。こんなところで何してるの? 烏野の風呂時間はもう少し後じゃないの?」
「ちょっと探検してたら研磨を見つけて、そしたらサチさんが来て、動画解説してくれてた!…んです!」
「へえ? それは珍しい。何見てんの?」
わざとらしく、サチの顔の後ろから画面をのぞき込む。距離を詰めることを忘れない―――この場でその意味に気づいたのは研磨くらいだろうが。
研磨のタブレットを自分の物のように使っているサチが見ていたのは、先日のVリーグの試合だった。研磨が横でつまらなさそうに片肘をついているのは、サチが強制的にタブレットを分捕ったのだろう。おおかた研磨はゲーム実況でも見ていたといったところか。
『日向がブロックに捕まるって話してたから、対ブロックの駆け引きでもと思って』
言いつつ、サチが立ち上がる。
風呂上りでそのままここにいたらしい。髪はまだ少し水気を帯びていて、いつもポニーテールにされているのが、今は下ろされていた。しかも風呂の湯で火照っているのか、いつも白い頬はほんのり赤い。首回りが広いゆるっとした寝間着を着ているのはさすがにいただけない。
こんな気の抜けた格好で、何分ここに居座ったのだろうか。と、少しむっとする。
『じゃ、後は二人で楽しんでね』
そう言い残して、その場を後にするサチ。風呂上りの珍しい姿を見たせいか、呆けてその場にたたずんでいると、珍しくサチが振り返ってこちらを睨んだ。
『ちょっと黒尾。打ち合わせするんでしょ。早く行こ』
どうやら、風呂上りに俺のことを待っていてくれたようだった。
先ほどムッとしてしまった気持ちはすぐにどこかへ行き、変わりにニヤニヤとする顔を引き締めなければならなくなった。
「ちょい待ち。荷物取ってくる」
とりあえずナンパを止めるために慌てて出てきていたので、荷物はすべて脱衣所の中だ。荷物を取るついでに、やっくんに一言言っておこうと踵を返す。
何がナンパだ、となじるべきか。あの無防備な姿でいることを教えてくれてありがとうと感謝するべきか。
17長期案件見守り隊
サチ「ねえねえ、夜久。黒尾ってモテるの?」
夜久「あ~無駄に背が高いからな。モテなくはない」
サチ「じゃなんで付き合わないんだろ。彼女欲しいんじゃなかったっけ?」
海「好きな人がいるからって断ってるらしいよ」