Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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体育館へ近づくにつれて、バレー部の掛け声とかキュッキュッというシューズと床のこすれる音とかが大きくなってきて、それに比例して私の心臓もドキドキと高鳴った。
今日も含めれば6日も部活を休んだことになる。しかも無断欠席。しかもみんなの練習止めてバレーやらせてーと入るのだから、我ながら無責任で迷惑だ。でも、どうしてももう一度、バレーをやりたかった。バレーして、満足して、受験勉強に専念する―――頭は良い方ではないが、大学進学を考えているので、至極まっとうな考えであると思う。
体育館の扉に手をかけて、自分を落ち着かせるために深呼吸をしていると、扉を開ける前に後ろから名前を呼ばれた。
「サチ?」
バレー部で私のことをサチと呼ぶのは、黒尾と研磨しかいない。そしてこの声は前者である。
『ごめん、無断欠席した』
どう話し出せばいいかわからず、とりあえず謝罪から入れば、黒尾は安堵したように息をついた。「もう戻ってこないかと思った」と、ボソリ。
何で私の考えていることがわかるのかなあ、とあきれてしまう。
『うん、辞める』
「は!?」
『でもその前に、もう一回だけバレーやろうかと思って。ちょっと混ざってもいい?』
こちらの要件を一方的に伝えると、それには答えず、「携帯見た?」と質問で返ってくる。まだ電源すら入れていないので首を振ると、軽いため息とともに腕をつかまれた。
「ちょっとこっち、ゆっくり話でもしましょうか」
立ち話で辞める話はまずいのかな、と黒尾の後ろを引っ張られていくと、バレー部の部室へと誘導された。古いわりに、キレイに整頓されている。一応私の棚もあって、置き勉用に使っているので、辞める時に片さないとなあ、と上の空で考える。
「まあ、座りなさいよ」という言葉とともに、年季の入ったイスを差し出される。地面はコンクリートで冷たいので、お言葉に甘えて椅子に腰かけると、黒尾もイスを引っ張り出してきて隣に腰かけた。
「で、なんで辞めちゃうの?」
いきなり始まる尋問に、先ほど考えていたことを思い出しながら口に出す。
『1年マネも入ったから、私はお役御免だなあ、と思って』
「……それだけ?」
『え、うん。あ、あと、インハイ予選終わって区切りのいいタイミングだなあ、とか?』
「うんうん、それで?」
『一応進学希望だし、勉強に専念しないとなあ、とか?』
考え得る理由をすべて出したところ、「サチさんが受験勉強に専念するねえ、」とか独りごちられる。失礼な。
「で結局のところ、なんでそう思ったの? お役御免だなって。部員に何か言われた?」
『いえ何も』
「ですよねー。携帯も見てないんだから、たとえ何か言われてても見てないよねえ」
なんか馬鹿にされているようで、でも口では黒尾には敵わないことはわかっているので、とりあえず鋭く睨んでおく。
「インハイ予選のことが関係してるんじゃないの?」
『……べつに、』
「この前盛大に甘えたんだから、もう隠し事しなくてもいいじゃない」
『あ、甘えてはない―――』
「あーほら。また話を逸らす。なんでお役御免なの?」
黒尾にまっすぐに見つめられると、真面目に答えないといけない気がして、いつも負ける。いつも話をさせられる。
とても強引で、お節介で、……優しい。
『中学では、引き際を間違えた。だから、次は間違えない。1年が入った、インハイ予選は区切りがいい。マネは1人いれば十分回るし』
「その引き際とは?」
本当に尋問のようだ。一言一句も見逃してはくれない。
でも、こういう黒尾にいつも助けられるから、黒尾がこうやってぶつかってくるときは、素直に答えようと思う。
『中学の時、怪我をした時点で試合復帰を考えなければよかった、と思う。そういうのは、みんなに頼られて、早く戻ってきてって言われるような人しかダメなヤツ。でも私はそうじゃなかった。怪我をした時が、私の引き際だった』
もっと周囲と自分との溝を感じ取れていたら。
もっと周りと仲良くできていれば。……でも人間関係は難しい。いまだによくわからない。だから、周りと仲良くっていうのは、難しいかな。
「だから今度は間違えないって?」
『そう。お役御免だから、いつまでも居座るのはダメでしょ』
自分の役割がなくなった時点で、私がこのチームにいる意味はない。いつまでも居座って、また厄介者になるのは避けたい。試合中、一度もトスを上げてもらえないようなことは、もう経験したくない。
「じゃあ、サチは続けたいんだ?」
今までの会話聞いてた?という方向からの問いに、一瞬返答に詰まった。
『いや、私のが続けたいとか続けたくないとかの話じゃなくて、』と会話の方向性を正そうとして、でも全部言い切る前に黒尾が遮ってくる。
「サチさーん? サチさんの意志は大事よ? マネ続けたいのか、続けたくないのか、まずはそこでしょうが」
『私の意志、必要?』
「そりゃあ、ねえ。サチが続けたいなら、続けていくためにどうするか考えるし、続けたくないなら、なんでそう思ったのか確認するし」
コツン、と頭の上を軽く叩かれた。
「まずは当人の意志確認。それから、意志を尊重するために互いに譲歩できるところを探して、補い合う。それがチームじゃない?」
私に足りなかったのは、意志の後か。
バレーボール辞めたくない、チームに戻りたい。その思いをみんなにぶつけずに、自分だけで完結していた。大怪我して、辛いリハビリを乗り越えたらチームに復帰できると一方通行で、周りの意志を確認しなかった。
『私に足りてない部分が、なんとなくわかった』
素直に述べると、黒尾がニシシと笑う。
「じゃあ、サチさんの意志は?」
『……続けたい。わがまま言っていいなら』
「素直でよろしい。ま、辞めたいって言っても、辞めさせないケド」
『なんか言った?』
「いんや? じゃ、携帯電話の充電を入れましょうか」
『え、なんでいきなり携帯?』
「つべこべ言わずに電源を入れる」
有無を言わせない圧があったので、仕方なくカバンの中をあさる。学校へ来るまでに底の方へ追いやられていた携帯電話をようやく見つけ、電源を入れてしばらくすると、ブー、ブーと次から次にメールやら着信履歴やらの通知が来た。
『うわあ、たくさん来てる』
「ちゃんと全部見なさいよ。サチさんを心配してる連絡なんだから」
『そうなの?』
メールを開けてみれば、確かにほとんどが〈バレー部〉の受信ボックスに分類されていた。ざっと見ると半分以上は黒尾からなのだが、その間におそらく部員全員からのメールが入っていた。黒尾のメールは量が多いので、部員からのメールにざっと目を通す。
初め、早く元気になってください系の内容が多かったのだが、そのうち〈日誌のつけ方がわかりません〉とか〈梟谷へは電車かバスどっちですか〉とか、質問系へと移行した。そして極めつけは〈強豪校の試合動画入手したぞ〉と。それは電話案件でしょ、とツッコミを入れ、しかしそもそも電源が入っていなかったから電話でも気づかなかったか、と少し反省をする。
「辞めてほしいなら、みんなメール送らないですよー」
『そう、か』
「そうそう」
少し照れくさくて、でも嬉しくて、ニマニマしてしまう顔を見られまいと、携帯電話の着信履歴を開けた。10件くらいたまっていて、発信元は黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾。はは、と笑いは自然と漏れた。
「ところで、サチさんなんで俺のメールだけ見ないの?」
『え、多いし目の前にいるから、見なくてもいいかなって』
「えー、せっかくたくさん送ったんだから、ちゃんと見てよ」
『どんなこと書いたの?』
「テスト範囲送ったり、ノート見せますよとか、」
『ただの業務連絡じゃん』
な、と詰まる黒尾が面白くて、また笑いがこみあげる。
声を大にして笑ったのは、一体いつぶりだろうか。黒尾が嬉しそうにしている意味はよくわからないけど、自分の送ったメールを見てもらえないのを喜ぶのだから、あれだ、ドエムというヤツだ。
「じゃ、自主練行きましょうか。みんな待ってるし」
黒尾の合図で、整理整頓された部室を後にする。
道すがら、自主練メニューと確認をすると、サーブ練習とのこと。
『じゃボール拾いするよ、』
「いやいや、サチさんバレーやりたいんでしょ? 混ざってやんなさいよ」
『え、いいの』
そんな話をしながら、黒尾が体育館の扉を開ける。開けたと同時に、「お待ちかね、サチさんの復帰でーす」とか言う。
「サチさーん!」
「やっと戻ってきたかー」
「サチさん返信ないから、心配してました」
全員で何事かを口にしながらこちらに近付いてくるので、誰が何を言ったのかは定かではないが、歓迎してもらっていることは私でも感じ取れた。くすぐったい。
そんなお祭り騒ぎのような中で、バタン、と何かが床に落ちた音がして、咄嗟にそちらに目をやると、咲良がいた。どうやら持っていたモップを落としたようだ。
『咲良、』
結果的に、教えられていない部分もあるまま、1週間ほど放置をしてしまった。まあ、みんな優しいから大丈夫だったとは思うが、申し訳ない気持ちはぬぐえない。しかもこれまでの会話から、あまり好かれていないことはわかる。
だから、どうしようと身構えたのだけど。
「サチ゛せ゛ん゛は゛い゛っ!!!」
そんな声とともに全速力でこちらにかけてきて、思い切り抱き着かれた。
え、ナニコレ、どういう展開?
身長差のせいで、私の腰のあたりに手を回して抱き着かれ、おそらく泣いているような感じなので無下に引っぺがすこともできず。でもなんで泣いているのかわからないので黒尾にヘルプを求めるのだが、母のようなまなざしでこちらを見ている。お母さんか、というツッコミを入れる暇はない。
『えーと、咲良?』
「もう、帰って、っこないか、と、思って、」
『それ、で、泣いてるの?』
うん、と咲良が頷いた。そして「よかったあ、」と。
かわいいとは、こういう子を言うのだろうなあ、と他人事のように思った。
「話したいことがあるんだと。サチ先輩が部活に来るのをずっと待ってたんだよな」
黒尾の助け舟にも、こくりと頷くだけで、まだ涙が引っ込みそうにないらしい。
黒尾にあこがれて入部した咲良が、黒尾に頭を撫でられてもなお、顔を上げずにいるのに少し驚く。
『じゃ、じゃあ、飲み物でも買いに行きがてら、話、する?』
と提案するも、咲良は2人きりは嫌かな、と思い直し『黒尾も一緒に、』と付け加えたところ、そこでやっと顔をあげて、「2人がいいです!」と。
「あ、ついに黒尾振られたな」
「うるせ! マネ同士の友情、ほほえましいじゃないの」
「ほらほら、あんまり聞き耳立ててるのも悪いよ。みんな練習続けよう」
空気を呼んでくれた3年ズ、特に海に心の中で感謝をしつつ、自販機のある場所まで2
人で歩いた。
14私に足りなかったのは、
From 山本
咲良の面倒は見るので、ゆっくり体調治してください(黒尾監修)
From 福永
ラブレターが破れたー
From 研磨
クロが寂しがってるよ。
今日も含めれば6日も部活を休んだことになる。しかも無断欠席。しかもみんなの練習止めてバレーやらせてーと入るのだから、我ながら無責任で迷惑だ。でも、どうしてももう一度、バレーをやりたかった。バレーして、満足して、受験勉強に専念する―――頭は良い方ではないが、大学進学を考えているので、至極まっとうな考えであると思う。
体育館の扉に手をかけて、自分を落ち着かせるために深呼吸をしていると、扉を開ける前に後ろから名前を呼ばれた。
「サチ?」
バレー部で私のことをサチと呼ぶのは、黒尾と研磨しかいない。そしてこの声は前者である。
『ごめん、無断欠席した』
どう話し出せばいいかわからず、とりあえず謝罪から入れば、黒尾は安堵したように息をついた。「もう戻ってこないかと思った」と、ボソリ。
何で私の考えていることがわかるのかなあ、とあきれてしまう。
『うん、辞める』
「は!?」
『でもその前に、もう一回だけバレーやろうかと思って。ちょっと混ざってもいい?』
こちらの要件を一方的に伝えると、それには答えず、「携帯見た?」と質問で返ってくる。まだ電源すら入れていないので首を振ると、軽いため息とともに腕をつかまれた。
「ちょっとこっち、ゆっくり話でもしましょうか」
立ち話で辞める話はまずいのかな、と黒尾の後ろを引っ張られていくと、バレー部の部室へと誘導された。古いわりに、キレイに整頓されている。一応私の棚もあって、置き勉用に使っているので、辞める時に片さないとなあ、と上の空で考える。
「まあ、座りなさいよ」という言葉とともに、年季の入ったイスを差し出される。地面はコンクリートで冷たいので、お言葉に甘えて椅子に腰かけると、黒尾もイスを引っ張り出してきて隣に腰かけた。
「で、なんで辞めちゃうの?」
いきなり始まる尋問に、先ほど考えていたことを思い出しながら口に出す。
『1年マネも入ったから、私はお役御免だなあ、と思って』
「……それだけ?」
『え、うん。あ、あと、インハイ予選終わって区切りのいいタイミングだなあ、とか?』
「うんうん、それで?」
『一応進学希望だし、勉強に専念しないとなあ、とか?』
考え得る理由をすべて出したところ、「サチさんが受験勉強に専念するねえ、」とか独りごちられる。失礼な。
「で結局のところ、なんでそう思ったの? お役御免だなって。部員に何か言われた?」
『いえ何も』
「ですよねー。携帯も見てないんだから、たとえ何か言われてても見てないよねえ」
なんか馬鹿にされているようで、でも口では黒尾には敵わないことはわかっているので、とりあえず鋭く睨んでおく。
「インハイ予選のことが関係してるんじゃないの?」
『……べつに、』
「この前盛大に甘えたんだから、もう隠し事しなくてもいいじゃない」
『あ、甘えてはない―――』
「あーほら。また話を逸らす。なんでお役御免なの?」
黒尾にまっすぐに見つめられると、真面目に答えないといけない気がして、いつも負ける。いつも話をさせられる。
とても強引で、お節介で、……優しい。
『中学では、引き際を間違えた。だから、次は間違えない。1年が入った、インハイ予選は区切りがいい。マネは1人いれば十分回るし』
「その引き際とは?」
本当に尋問のようだ。一言一句も見逃してはくれない。
でも、こういう黒尾にいつも助けられるから、黒尾がこうやってぶつかってくるときは、素直に答えようと思う。
『中学の時、怪我をした時点で試合復帰を考えなければよかった、と思う。そういうのは、みんなに頼られて、早く戻ってきてって言われるような人しかダメなヤツ。でも私はそうじゃなかった。怪我をした時が、私の引き際だった』
もっと周囲と自分との溝を感じ取れていたら。
もっと周りと仲良くできていれば。……でも人間関係は難しい。いまだによくわからない。だから、周りと仲良くっていうのは、難しいかな。
「だから今度は間違えないって?」
『そう。お役御免だから、いつまでも居座るのはダメでしょ』
自分の役割がなくなった時点で、私がこのチームにいる意味はない。いつまでも居座って、また厄介者になるのは避けたい。試合中、一度もトスを上げてもらえないようなことは、もう経験したくない。
「じゃあ、サチは続けたいんだ?」
今までの会話聞いてた?という方向からの問いに、一瞬返答に詰まった。
『いや、私のが続けたいとか続けたくないとかの話じゃなくて、』と会話の方向性を正そうとして、でも全部言い切る前に黒尾が遮ってくる。
「サチさーん? サチさんの意志は大事よ? マネ続けたいのか、続けたくないのか、まずはそこでしょうが」
『私の意志、必要?』
「そりゃあ、ねえ。サチが続けたいなら、続けていくためにどうするか考えるし、続けたくないなら、なんでそう思ったのか確認するし」
コツン、と頭の上を軽く叩かれた。
「まずは当人の意志確認。それから、意志を尊重するために互いに譲歩できるところを探して、補い合う。それがチームじゃない?」
私に足りなかったのは、意志の後か。
バレーボール辞めたくない、チームに戻りたい。その思いをみんなにぶつけずに、自分だけで完結していた。大怪我して、辛いリハビリを乗り越えたらチームに復帰できると一方通行で、周りの意志を確認しなかった。
『私に足りてない部分が、なんとなくわかった』
素直に述べると、黒尾がニシシと笑う。
「じゃあ、サチさんの意志は?」
『……続けたい。わがまま言っていいなら』
「素直でよろしい。ま、辞めたいって言っても、辞めさせないケド」
『なんか言った?』
「いんや? じゃ、携帯電話の充電を入れましょうか」
『え、なんでいきなり携帯?』
「つべこべ言わずに電源を入れる」
有無を言わせない圧があったので、仕方なくカバンの中をあさる。学校へ来るまでに底の方へ追いやられていた携帯電話をようやく見つけ、電源を入れてしばらくすると、ブー、ブーと次から次にメールやら着信履歴やらの通知が来た。
『うわあ、たくさん来てる』
「ちゃんと全部見なさいよ。サチさんを心配してる連絡なんだから」
『そうなの?』
メールを開けてみれば、確かにほとんどが〈バレー部〉の受信ボックスに分類されていた。ざっと見ると半分以上は黒尾からなのだが、その間におそらく部員全員からのメールが入っていた。黒尾のメールは量が多いので、部員からのメールにざっと目を通す。
初め、早く元気になってください系の内容が多かったのだが、そのうち〈日誌のつけ方がわかりません〉とか〈梟谷へは電車かバスどっちですか〉とか、質問系へと移行した。そして極めつけは〈強豪校の試合動画入手したぞ〉と。それは電話案件でしょ、とツッコミを入れ、しかしそもそも電源が入っていなかったから電話でも気づかなかったか、と少し反省をする。
「辞めてほしいなら、みんなメール送らないですよー」
『そう、か』
「そうそう」
少し照れくさくて、でも嬉しくて、ニマニマしてしまう顔を見られまいと、携帯電話の着信履歴を開けた。10件くらいたまっていて、発信元は黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾黒尾。はは、と笑いは自然と漏れた。
「ところで、サチさんなんで俺のメールだけ見ないの?」
『え、多いし目の前にいるから、見なくてもいいかなって』
「えー、せっかくたくさん送ったんだから、ちゃんと見てよ」
『どんなこと書いたの?』
「テスト範囲送ったり、ノート見せますよとか、」
『ただの業務連絡じゃん』
な、と詰まる黒尾が面白くて、また笑いがこみあげる。
声を大にして笑ったのは、一体いつぶりだろうか。黒尾が嬉しそうにしている意味はよくわからないけど、自分の送ったメールを見てもらえないのを喜ぶのだから、あれだ、ドエムというヤツだ。
「じゃ、自主練行きましょうか。みんな待ってるし」
黒尾の合図で、整理整頓された部室を後にする。
道すがら、自主練メニューと確認をすると、サーブ練習とのこと。
『じゃボール拾いするよ、』
「いやいや、サチさんバレーやりたいんでしょ? 混ざってやんなさいよ」
『え、いいの』
そんな話をしながら、黒尾が体育館の扉を開ける。開けたと同時に、「お待ちかね、サチさんの復帰でーす」とか言う。
「サチさーん!」
「やっと戻ってきたかー」
「サチさん返信ないから、心配してました」
全員で何事かを口にしながらこちらに近付いてくるので、誰が何を言ったのかは定かではないが、歓迎してもらっていることは私でも感じ取れた。くすぐったい。
そんなお祭り騒ぎのような中で、バタン、と何かが床に落ちた音がして、咄嗟にそちらに目をやると、咲良がいた。どうやら持っていたモップを落としたようだ。
『咲良、』
結果的に、教えられていない部分もあるまま、1週間ほど放置をしてしまった。まあ、みんな優しいから大丈夫だったとは思うが、申し訳ない気持ちはぬぐえない。しかもこれまでの会話から、あまり好かれていないことはわかる。
だから、どうしようと身構えたのだけど。
「サチ゛せ゛ん゛は゛い゛っ!!!」
そんな声とともに全速力でこちらにかけてきて、思い切り抱き着かれた。
え、ナニコレ、どういう展開?
身長差のせいで、私の腰のあたりに手を回して抱き着かれ、おそらく泣いているような感じなので無下に引っぺがすこともできず。でもなんで泣いているのかわからないので黒尾にヘルプを求めるのだが、母のようなまなざしでこちらを見ている。お母さんか、というツッコミを入れる暇はない。
『えーと、咲良?』
「もう、帰って、っこないか、と、思って、」
『それ、で、泣いてるの?』
うん、と咲良が頷いた。そして「よかったあ、」と。
かわいいとは、こういう子を言うのだろうなあ、と他人事のように思った。
「話したいことがあるんだと。サチ先輩が部活に来るのをずっと待ってたんだよな」
黒尾の助け舟にも、こくりと頷くだけで、まだ涙が引っ込みそうにないらしい。
黒尾にあこがれて入部した咲良が、黒尾に頭を撫でられてもなお、顔を上げずにいるのに少し驚く。
『じゃ、じゃあ、飲み物でも買いに行きがてら、話、する?』
と提案するも、咲良は2人きりは嫌かな、と思い直し『黒尾も一緒に、』と付け加えたところ、そこでやっと顔をあげて、「2人がいいです!」と。
「あ、ついに黒尾振られたな」
「うるせ! マネ同士の友情、ほほえましいじゃないの」
「ほらほら、あんまり聞き耳立ててるのも悪いよ。みんな練習続けよう」
空気を呼んでくれた3年ズ、特に海に心の中で感謝をしつつ、自販機のある場所まで2
人で歩いた。
14私に足りなかったのは、
From 山本
咲良の面倒は見るので、ゆっくり体調治してください(黒尾監修)
From 福永
ラブレターが破れたー
From 研磨
クロが寂しがってるよ。