Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
期末テストが近いため部活動の時間も制限されており、いつもなら体育館で自主練をしている時間帯に、部屋で教科書を開いていると、メールの受信音が鳴った。
〈倉木さん、大丈夫ですか?〉
メールの受信ボックスを開けば梟谷の赤葦からで、先日インハイ予選で、木兎とともにサチを医務室まで送り届けてくれた恩人でもある。
〈あれから学校も部活も来てない。こっちのメールも見てないっぽいんだよねー〉
絵文字もつけず、愛想もなにもない返信をすると、すぐに着信音が鳴った。赤葦かと思いきや木兎である。一緒にいるのだろう、仲良しか。
「なんですかー」
「くろーさあ、さっちーの話聞いてあげてんの?」
「言われなくても、この前ちゃんと聞きましたー」
「じゃあなんで休んでんの?」
「あの後熱も出てたし、体調不良ってことらしいけど―――」
「ええ、熱!? 1週間も治らないってしんどいじゃん」
インハイ予選から5日が立ち、今日は金曜日である。揚げ足をとるならば、まだ1週間は経っていない。とは、心の中に留め置く。
「熱は下がってるっぽいけども。……まだ、心の整理がつかないんじゃないかなーと思いまして、ね」
テスト範囲やら宿題やら配布物やらをサチの家まで毎日届けに行っているのだが、その時にゆきさん(サチの母親)から話を聞いていた。サチ本人には、あれ以降会えていない。
「中学のってヤツ? よくわかんないけど、今度の合宿、さっちー連れてきてよ?」
「今度? あー、来月のか」
期末テストの翌週末は、梟谷グループの合宿が予定されている。会場は梟谷学園だ。
「でもなんでサチ?」
「かおりんの誕生日が当日なんだと。七夕」
「あー、そういうことね。何かすんの?」
全員の誕生日を祝っているわけではないのだが、合宿中に誕生日が重なるメンバーにはその年のテンションで祝い事をやっている。ケーキだったりプレゼントだったり、ドッキリだったり。
まあ、一緒に祝うというだけで、全員から集金をするわけではないから、何をするにも結局は同じ学校の部員が準備することとなる。
「花火がしたいって言うからさあ、赤葦と今度買いに行く」
「おお、それって全員分?」
「予算が足りないからマネ優先。まあちょっとはできると思うけど。だから、さっちーにも来てもらわないと。かおりんがマネ全員で花火やるって言ってるからさあ」
合宿に来るときは弁当持ってきてね、ってノリだ。
でも正直、学校にもこなけりゃ、携帯も見ない、家に行っても出てきてくれないと来れば、手詰まりだ。サチの気持ちが回復するまで気長に待つしかない。
「まあ頑張ってみますよ」
誕生日と言えば、サチの誕生日は7月末で、森然の合宿期間といつも重なるんだよなあ、とカレンダーを見る。もちろん今年も重なっている。
1年の時は、普通に忘れていて本人も何も言わないからスルー。
2年の時は、ああいう性格なので、欲しいものを用意した方がいいかなということで、事前にサチに確認したところ要らないと即答。ただ、梟谷の猿杙がサチの4日後に誕生日を迎えるため、サチの誕生日を祝わないわけにもいかず。とりあえずケーキとプレゼントを用意して。夕食の後にサプライズバーズデーを行った。……反応は、まあご想像にお任せします。
「そういや日曜、頑張れよ」
先週ウチは負けてしまったが、梟谷は今週末にコマを進めている。今週末のインハイ予選で決勝戦まで勝ち越せば、インターハイへの切符が手に入る。インターハイの出場枠は2校だ。
「おう。音駒の仇、取ってくるから心配すんな!」
そのまま会話を終え、通話を切る。勉強中だったこともあり静かな室内だったので、木兎の張りのある声がしばらく耳に残った。
インハイ予選以降、学校にも行かず部活にも行かず。気が付けば土曜日である。
そろそろ学校行かないとなあ。火曜日からは期末テスト始まるし。期末テストって休んだらどうなるんだろ? やっぱり0点になるのかなあ。体調不良なら何かしらの救済措置ないかな。んでも、私今、体調不良と言えるのだろうか。……言えないなあ。
そんなことを考えながら、数学やら日本史やらの教科書を開いてみるが、まったく頭に入ってこない。
『はあ、あ』
シャープペンを持ったまま、ベットに倒れ込む。
勉強のやる気もなければ、部活へ行く気もなく。何なら携帯電話の応答をするのさえも億劫だ―――だからあの日以降、携帯を見てなくて、電池切れになっていた。とりあえず充電だけして、でも一度落ちた電源を入れずに今日まで放置している。
理由はわかりきっていて、中学の真相が今頃になって明るみになったものだから、せっかく折り合いをつけてマネージャー業務にいそしんでいたのに、また折り合いがつかなくなってしまった。
中学の時、チームメイトとうまくいっているとは思っていなかった。でも、親友とかではないというだけで、友人くらいにはなっていると勝手に感じていた。
バレーボールが楽しくて、暇さえあればバレーボールをやることに何の疑問も持っていなくて。今思えば、バレーボールに対する熱量が、次第に私とチームメイトとの壁となっていたのだと思う。
接触事故の後、どうにかリハビリを頑張って、やっと出れた公式試合は、中学最後の大会で。レギュラーの座を獲得して試合に臨んだはずなのに、私には1本もボールはあがらなかった。私がベンチに下がったときの方が、チームとしてのまとまりは確かにあった。
―――大怪我してほとんど練習参加してないくせにさあ。最後の試合だけ出られると思ってるとかムシが良すぎるでしょ
先日、元チームメイトが口にした。
その通りだな、とも思う。
私からしたら、リハビリ頑張って、レギュラー勝ち取って、やっと復帰した中学最後の試合。でもほかの人からしたら、中学3年間頑張ってきたのに、いきなり部活に帰ってきてレギュラー取られた、納得のいかない最後の試合。
怪我の原因の接触が、わざとだと言われたときはちょっと動揺したけど。でも思い返せば、私もボールを追いすぎていたことは確かだし、私のボールでしょ、と変なプライドも邪魔して、声掛けとかそういうのもできていなかった。それに、向こうも捨て身でぶつかってきたということで、結果的に私が怪我をしたけど、相手も怪我する可能性は大いにあった。だから、両成敗な気がする、喧嘩両成敗。だから、やりきれない。
ふと、その日の幼馴染を思い出した。
私よりも大きな腕としっかりとした胸板に包まれて、でもそれは嫌ではなくて、ほっとした。
あの日は、なぜかどうしようもなく動揺して、一人ではたぶんどうにもできなかったと思う。認めたくはないが、黒尾がいてくれて助かった。
出会ったころは身長、同じくらいだったのになあ。
いつの間にか私よりもだいぶ大きくなっていたのに気づいたのは、高校に入ってから。たぶんそれまでは黒尾のことはあまり見てなかった。
そういえば部活は大丈夫だろうか。
結果的に、今日まで咲良を一人にしてしまった。……まあ、みんな優しいから面倒見てくれるか。もしかしたら、もう私の仕事全部覚えて、お役御免になってるかも。
……それならそれで、インハイ予選も終わって区切りがいいし、私だけ引退するのもアリなのかな。というか、1年マネも見つかったし、寧ろその方がいいのでは? 引き際を間違えれば、中学の二の舞になりかねない。
そう思うと、すとんと落ちた。
ああ、ここが引き際なのだろう。部内で存在価値がある黒尾や海や夜久とは違う。マネが1人入った今、部内での私の存在価値はない。……今度は間違えない。
でも、それだったら。最後にもう一度だけ、バレーボールをしたい。区切りをつけるために。
時計を見れば、そろそろ部活が終わる時間帯だ。これから用意して体育館へ行けば、自主練の時間にはどうにか間に合う。テスト期間で短くなってはいるが、少しくらいなら大丈夫だろう。
ジャージに着替え、電源の入っていない、フル充電の携帯を一応カバンに入れて。久しぶりに外へと繰り出した。
13引き際について考えてみた
夜久「おい研磨ー。黒尾どうにかして」
研磨「どうにかって?」
夜久「心ここにあらずな感じ、使えるように」
研磨「あれはどうにもならないでしょ。サチが来ないことには」
夜久「はあ。面倒くさいヤツだな」
〈倉木さん、大丈夫ですか?〉
メールの受信ボックスを開けば梟谷の赤葦からで、先日インハイ予選で、木兎とともにサチを医務室まで送り届けてくれた恩人でもある。
〈あれから学校も部活も来てない。こっちのメールも見てないっぽいんだよねー〉
絵文字もつけず、愛想もなにもない返信をすると、すぐに着信音が鳴った。赤葦かと思いきや木兎である。一緒にいるのだろう、仲良しか。
「なんですかー」
「くろーさあ、さっちーの話聞いてあげてんの?」
「言われなくても、この前ちゃんと聞きましたー」
「じゃあなんで休んでんの?」
「あの後熱も出てたし、体調不良ってことらしいけど―――」
「ええ、熱!? 1週間も治らないってしんどいじゃん」
インハイ予選から5日が立ち、今日は金曜日である。揚げ足をとるならば、まだ1週間は経っていない。とは、心の中に留め置く。
「熱は下がってるっぽいけども。……まだ、心の整理がつかないんじゃないかなーと思いまして、ね」
テスト範囲やら宿題やら配布物やらをサチの家まで毎日届けに行っているのだが、その時にゆきさん(サチの母親)から話を聞いていた。サチ本人には、あれ以降会えていない。
「中学のってヤツ? よくわかんないけど、今度の合宿、さっちー連れてきてよ?」
「今度? あー、来月のか」
期末テストの翌週末は、梟谷グループの合宿が予定されている。会場は梟谷学園だ。
「でもなんでサチ?」
「かおりんの誕生日が当日なんだと。七夕」
「あー、そういうことね。何かすんの?」
全員の誕生日を祝っているわけではないのだが、合宿中に誕生日が重なるメンバーにはその年のテンションで祝い事をやっている。ケーキだったりプレゼントだったり、ドッキリだったり。
まあ、一緒に祝うというだけで、全員から集金をするわけではないから、何をするにも結局は同じ学校の部員が準備することとなる。
「花火がしたいって言うからさあ、赤葦と今度買いに行く」
「おお、それって全員分?」
「予算が足りないからマネ優先。まあちょっとはできると思うけど。だから、さっちーにも来てもらわないと。かおりんがマネ全員で花火やるって言ってるからさあ」
合宿に来るときは弁当持ってきてね、ってノリだ。
でも正直、学校にもこなけりゃ、携帯も見ない、家に行っても出てきてくれないと来れば、手詰まりだ。サチの気持ちが回復するまで気長に待つしかない。
「まあ頑張ってみますよ」
誕生日と言えば、サチの誕生日は7月末で、森然の合宿期間といつも重なるんだよなあ、とカレンダーを見る。もちろん今年も重なっている。
1年の時は、普通に忘れていて本人も何も言わないからスルー。
2年の時は、ああいう性格なので、欲しいものを用意した方がいいかなということで、事前にサチに確認したところ要らないと即答。ただ、梟谷の猿杙がサチの4日後に誕生日を迎えるため、サチの誕生日を祝わないわけにもいかず。とりあえずケーキとプレゼントを用意して。夕食の後にサプライズバーズデーを行った。……反応は、まあご想像にお任せします。
「そういや日曜、頑張れよ」
先週ウチは負けてしまったが、梟谷は今週末にコマを進めている。今週末のインハイ予選で決勝戦まで勝ち越せば、インターハイへの切符が手に入る。インターハイの出場枠は2校だ。
「おう。音駒の仇、取ってくるから心配すんな!」
そのまま会話を終え、通話を切る。勉強中だったこともあり静かな室内だったので、木兎の張りのある声がしばらく耳に残った。
インハイ予選以降、学校にも行かず部活にも行かず。気が付けば土曜日である。
そろそろ学校行かないとなあ。火曜日からは期末テスト始まるし。期末テストって休んだらどうなるんだろ? やっぱり0点になるのかなあ。体調不良なら何かしらの救済措置ないかな。んでも、私今、体調不良と言えるのだろうか。……言えないなあ。
そんなことを考えながら、数学やら日本史やらの教科書を開いてみるが、まったく頭に入ってこない。
『はあ、あ』
シャープペンを持ったまま、ベットに倒れ込む。
勉強のやる気もなければ、部活へ行く気もなく。何なら携帯電話の応答をするのさえも億劫だ―――だからあの日以降、携帯を見てなくて、電池切れになっていた。とりあえず充電だけして、でも一度落ちた電源を入れずに今日まで放置している。
理由はわかりきっていて、中学の真相が今頃になって明るみになったものだから、せっかく折り合いをつけてマネージャー業務にいそしんでいたのに、また折り合いがつかなくなってしまった。
中学の時、チームメイトとうまくいっているとは思っていなかった。でも、親友とかではないというだけで、友人くらいにはなっていると勝手に感じていた。
バレーボールが楽しくて、暇さえあればバレーボールをやることに何の疑問も持っていなくて。今思えば、バレーボールに対する熱量が、次第に私とチームメイトとの壁となっていたのだと思う。
接触事故の後、どうにかリハビリを頑張って、やっと出れた公式試合は、中学最後の大会で。レギュラーの座を獲得して試合に臨んだはずなのに、私には1本もボールはあがらなかった。私がベンチに下がったときの方が、チームとしてのまとまりは確かにあった。
―――大怪我してほとんど練習参加してないくせにさあ。最後の試合だけ出られると思ってるとかムシが良すぎるでしょ
先日、元チームメイトが口にした。
その通りだな、とも思う。
私からしたら、リハビリ頑張って、レギュラー勝ち取って、やっと復帰した中学最後の試合。でもほかの人からしたら、中学3年間頑張ってきたのに、いきなり部活に帰ってきてレギュラー取られた、納得のいかない最後の試合。
怪我の原因の接触が、わざとだと言われたときはちょっと動揺したけど。でも思い返せば、私もボールを追いすぎていたことは確かだし、私のボールでしょ、と変なプライドも邪魔して、声掛けとかそういうのもできていなかった。それに、向こうも捨て身でぶつかってきたということで、結果的に私が怪我をしたけど、相手も怪我する可能性は大いにあった。だから、両成敗な気がする、喧嘩両成敗。だから、やりきれない。
ふと、その日の幼馴染を思い出した。
私よりも大きな腕としっかりとした胸板に包まれて、でもそれは嫌ではなくて、ほっとした。
あの日は、なぜかどうしようもなく動揺して、一人ではたぶんどうにもできなかったと思う。認めたくはないが、黒尾がいてくれて助かった。
出会ったころは身長、同じくらいだったのになあ。
いつの間にか私よりもだいぶ大きくなっていたのに気づいたのは、高校に入ってから。たぶんそれまでは黒尾のことはあまり見てなかった。
そういえば部活は大丈夫だろうか。
結果的に、今日まで咲良を一人にしてしまった。……まあ、みんな優しいから面倒見てくれるか。もしかしたら、もう私の仕事全部覚えて、お役御免になってるかも。
……それならそれで、インハイ予選も終わって区切りがいいし、私だけ引退するのもアリなのかな。というか、1年マネも見つかったし、寧ろその方がいいのでは? 引き際を間違えれば、中学の二の舞になりかねない。
そう思うと、すとんと落ちた。
ああ、ここが引き際なのだろう。部内で存在価値がある黒尾や海や夜久とは違う。マネが1人入った今、部内での私の存在価値はない。……今度は間違えない。
でも、それだったら。最後にもう一度だけ、バレーボールをしたい。区切りをつけるために。
時計を見れば、そろそろ部活が終わる時間帯だ。これから用意して体育館へ行けば、自主練の時間にはどうにか間に合う。テスト期間で短くなってはいるが、少しくらいなら大丈夫だろう。
ジャージに着替え、電源の入っていない、フル充電の携帯を一応カバンに入れて。久しぶりに外へと繰り出した。
13引き際について考えてみた
夜久「おい研磨ー。黒尾どうにかして」
研磨「どうにかって?」
夜久「心ここにあらずな感じ、使えるように」
研磨「あれはどうにもならないでしょ。サチが来ないことには」
夜久「はあ。面倒くさいヤツだな」