Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
インハイ予選は、優勝候補の強豪校に当たってしまい、結局負けてしまった。
倉木さんが不在で私がベンチに入った試合だった。
「……はあ」
何もできなかったなあ。
スコア付けもできず、しかも倉木さんが直前の試合までつけていたノートは、スコア付けだけではなくて両校のアタックとかサーブとかのデータまで細かく記載されていて。
ちらっと誰かから聞いたんだけど、家に帰ってからデータ化するらしい。
他にも、これから対戦する学校の動画とか確認して、事前に対策を考えているとか。
スコアつけながら飲み物もタオルも準備して、突き指した人のテーピング巻いて。知らないことは何もなくて、チームみんなの頼りにされている。
知れば知るほど、できないことを探す方が難しくなるなあ、なんて。
「どうした、元気ないじゃないの」
「く、ろお先輩」
そんな弱くなったところに、あこがれの人は声をかけてくれるから、敵わないのは痛感しているのに、好きの気持ちはどんどん大きくなる。
「ごめんな。ベンチ、居づらかっただろ」
「いえ、そんなことは……」
ごにょごにょ口ごもっている間に、よいしょ、とか言って黒尾先輩が隣に腰かけた。同じベンチに座っているのに、長い長い脚はとても窮屈そうだ。
「じゃあ、ため息の原因は?」
「えーと、」
「サチ先輩のこと?」
「……はい」
黒尾先輩はいろいろと聡い人だと思う。隠し事というか考え事というかは、お見通しされてしまう。
「なに、まーたサチ先輩みたいにできないって悩んでる?」
「それは、そうなんですけど。今日はそれじゃなくて、」
「あー、昼間の一件ですか」
いろいろ聞かれるかな、と覚悟したけど。黒尾先輩は何も聞いてこない。逆に、「サチ先輩は、」って話始めた。
「サチ先輩は、中学生の頃はバレーボールプレイしてたんだよねー」
それは、先ほどの小競り合いを聞いていたから知っていた。
「怪我が原因で、辞めた、んですよね」そう返せば、少し眉をひそめられた。
「それがわかんないんだよねぇ。サチ先輩、バレーボールめっちゃ好きだからさ、リハビリもめっちゃ頑張ってレギュラー復帰してさあ」
話している黒尾先輩が誇らしげ。誇らしげで、ちょっと寂し気。
「復帰したのに……もうプレイヤーは辞めるって。俺にはそれしか話してくれないんスよねぇ」
「……幼馴染なのに?」
「そう、幼馴染なのに。寂しいよね」
黒尾先輩とたくさん話ができて嬉しい、とか思えるほど、今明るい気持ちではなくて。
「倉木さん、強いんですね」
この話を聞く前からそう思っていた。
体育祭で、黒尾先輩と二人三脚で走る姿を見た。息ぴったりで、速くて、何よりもとてもきれいな人だと思った。その後もリレーで走る姿はとてもかっこよくて、黒尾先輩に守られる人ではなくて、ちゃんと自分で戦える人なんだな、と。強いなと思った。
でもそれ以上に、黒尾先輩の隣というのがうらやましくて。黒尾先輩の視線を独り占めできる位置に、私も立ちたいと思った。
幼馴染ってだけで、隣にいられるのはずるい。
そうではないとわかっていても、そう思ってしまう。
……私は、黒尾先輩が好きだけど、でも黒尾先輩が好きというよりは、倉木さんを見る黒尾先輩が好きなんだろうな、とふと思ってしまった。
「そう見える?」
倉木さんが強く見える?と。
「そう、見えます。というか、そうしか見えないというか、」
「……っだよねぇ」
はは、って笑っているのに、心はきっと笑っていない。
黒尾先輩は、本当に倉木さんばっかりだなあと実感する。
「でもさ。強いけど、あれは”強くいよう”って気を張ってるだけで、気が抜けたら、ただの女子高生よ?」
そうなんですか?
そう返そうとして、つい先ほどの光景を思い出した。
声を荒げたところなど、聞いたことがなかった。
短い付き合いではあるが、声を荒げるようなタイプではないと思う。
そんな倉木さんが、部屋の外にまで聞こえるような、怒気をはらんだ声で。
―――なんで? 私、何かした!? 何の権利があって、私からバレーボールを奪ったの!?
―――あんたたちがバレーボールやれた時間、私に返しなさいよ
それだけバレーボールが好きで、向き合ってきたんだろうな。
私は今まで、声を荒げるほど真面目にひたむきに向き合って来たものがない。
そんな向き合ってきたことを奪われる気持ちは、どんなものだろうか。私には想像もできない。
倉木さん、大丈夫かな。
黒尾先輩の隣を明け渡してくれない人だったのが、いつの間にか気になる人になっていた。……憧れ、と言えばそうなのかもしれないが、まだその感情を認められるほどにはオトナではなかった。
でも、私が蒔いてしまった種だ。せめて、倉木さんの心が少しでも穏やかになるように、私にできることはやろう。
「黒尾先輩」
「ん?」
「さっきの、会話聞いてて、倉木さんの―――」
ポツポツと、倉木さんと元クラスメートたちの話を黒尾先輩に打ち明けた。
「サチさーん。そろそろ帰りますよ」
咲良から聞いた話は、思っていたよりもイヤな話で、医務室で眠っているサチの顔を見ながら、思わず頬に手を触れていた。
『……くろお、』
うっすら目を開けた幼馴染。声を聞けたことに少し安堵しつつ、頬に触れた指先から普段よりも高い体温を感知した。
「頭、触るぞ」一応断ってから(先に頬に触れていたことは気にしない)額に触れると、やはり熱がある。表情もどこか苦し気で、しんどそうだな、とその瞳を覗けば、逆に心配そうな瞳とぶつかる。
『……勝てなかった?』
先ほどの試合のことを言っているのだとはすぐにわかった。
早々に優勝候補に当たってしまったというのは言い訳にすぎない。インターハイ出場は叶わなかった。
「ああ。……帰ったらまた練習だな、」
心配させまいと笑ってそう口にしたが、しかしサチの右手が弱々しいながらも宙に浮いた。何事かとみていると、『ちょっと屈んで』とか言う。指示通りにすると、ポンポンと頭に何かが降れた。それが先ほどの弱々しく上げられたサチの手だということに気づくまで、少し時間がかかる。
「え?」
『大丈夫。次は負けない』
「サチ?」
『……なんか泣きそうな顔してるから、慰めてあげた』
自分がしんどいことは棚に上げて、俺の心配をしてくれたらしい。はは、と笑いがこみあげる。
「そりゃあ、ご親切にどうも」
『親切心じゃないから安心してください。ちゃんと後日請求をします』
「ええー、そこは冗談でも親切心にしてほしいなあ」
『私に親切心があると思う?』
「そうでした、サチさんですもんね」
その通り、とサチが力なく笑った。
この笑い方は知っている。あの時と一緒―――高校に入って、もうバレーはやらないと言って笑った時と。
「何があったのか、教えてくれない?」
咲良から話は聞いたけれども。
それはサチにとっては不本意なことで、自分から話してもらいたかった。
『ん?』
「サチが俺のこと心配してくれてるみたいに、俺も心配なんですけど」
『……私は心配なんかじゃなくて、営業だから、』
「はーい、話そらさない。……俺じゃ力不足?」
まっすぐ視線を合わせた。
サチが本心をすぐに話せないことはいつものことだし、照れ隠しで適当なことを言うのもいつものこと。そして、こうして真っ向勝負したら、逃げられないことも、いつものこと。
少しの沈黙は、サチが心の準備をするのに必要で、だからサチの準備ができるまで静かに待った。
髪さらさらだなとか、肌きれいだなとか、やっぱ痩せたなとか、目が潤んでるし調子悪いんだなとか。待っている間に考えることはサチのことばかりで、でもどれだけアピールしても全然伝わんないよなーと。
『中学の時の接触、わざとだったんだって』
心の準備を終えたサチの第一声。
一言話してしまったら、もう決心は揺るがないのか、ポツポツとゆっくりではあるが話は続く。
『黒尾には言ってなかったけど、バレーボール辞めたの、怪我のせいじゃないんだよね』
「うーん、そうだろうなあ、とは思ってたけれども。じゃあなんで辞めたの?」
『中学最後の試合で、レギュラーで出れたけど。……誰も私にトスを、あげてくれなくて』
「うん。観客席から見てた」
『……部活入っても、また上がらないのはイヤだなあって、思っちゃった』
だから、プレイヤーはもういいかな。そう続けて、寂しそうに笑った。
「トスが上がらなかったのは、何か理由が?」
『……私が、少し背が高いだけで1年レギュラーになったとか、他よりもキレイだからチヤホヤされてるとか、両親から愛されて何の不自由もない生活をしてるとか。あとは、怪我して練習に参加してないくせに、3年の最後の試合に出るのはムシがいいらしいよ』
要するに、周りの奴らの僻み、なのだろう。
思い返しても、サチがレギュラーの座を勝ち取ったのは、身長が高かったからだけではないと思う。朝も夜も自主練は欠かさずやっていたし、家にいる間も動画を見たり対策を立てたりとバレー一筋だった。
あと、これは幼馴染だから色眼鏡で見ているというわけとかではないと思うが、サチの運動神経は抜群である。オベンキョウの方はイマイチだけど、運動神経だけはトップクラス。
まあ、他にもいろいろ物申したい内容はあるけども。
のそのそと気だるそうに医務室のベッドから起きだす幼馴染を―――ただ事実だけを淡々と述べて、自分の感情を吐き出せない幼馴染を―――、ゆっくりと腕の中に引き寄せた。言葉では、伝わらないと思った。
『くろ、お、』
「泣きないなら泣けばいいし、怒りたいなら怒ればいい。……サチさんは、一人で抱え込みすぎデス」
『、』
返事はないのだが、腕の中で、強張っていた体から少しずつ力が抜けるのがわかった。ので、頭を撫でてみる。
『……なった』
「うん?」
『努力してレギュラーなった。リハビリしんどかった。……バレーボールやりたかったっ』
言葉と一緒に、グーで胸を殴られた。もちろん全く痛くはなく、むしろサチから本音を聞けたことに安堵した。
しばらくそのまま頭を撫でていると、控えめに嗚咽も混じって、しかし泣くまいと必死にこらえていることがわかって。
「黒尾さん、なーんも見えてないから、泣いてもわかんないよ? だから、我慢しないで泣きなさいよ」
さらさらの髪を優しく撫でながら、落ち着くのを待った。
12幼馴染のお決まり事
「サチさん、これってお姫様抱っこのチャンスじゃない?」
『絶対そうじゃないし、そうだとしても絶対ヤダ。断固拒否』
倉木さんが不在で私がベンチに入った試合だった。
「……はあ」
何もできなかったなあ。
スコア付けもできず、しかも倉木さんが直前の試合までつけていたノートは、スコア付けだけではなくて両校のアタックとかサーブとかのデータまで細かく記載されていて。
ちらっと誰かから聞いたんだけど、家に帰ってからデータ化するらしい。
他にも、これから対戦する学校の動画とか確認して、事前に対策を考えているとか。
スコアつけながら飲み物もタオルも準備して、突き指した人のテーピング巻いて。知らないことは何もなくて、チームみんなの頼りにされている。
知れば知るほど、できないことを探す方が難しくなるなあ、なんて。
「どうした、元気ないじゃないの」
「く、ろお先輩」
そんな弱くなったところに、あこがれの人は声をかけてくれるから、敵わないのは痛感しているのに、好きの気持ちはどんどん大きくなる。
「ごめんな。ベンチ、居づらかっただろ」
「いえ、そんなことは……」
ごにょごにょ口ごもっている間に、よいしょ、とか言って黒尾先輩が隣に腰かけた。同じベンチに座っているのに、長い長い脚はとても窮屈そうだ。
「じゃあ、ため息の原因は?」
「えーと、」
「サチ先輩のこと?」
「……はい」
黒尾先輩はいろいろと聡い人だと思う。隠し事というか考え事というかは、お見通しされてしまう。
「なに、まーたサチ先輩みたいにできないって悩んでる?」
「それは、そうなんですけど。今日はそれじゃなくて、」
「あー、昼間の一件ですか」
いろいろ聞かれるかな、と覚悟したけど。黒尾先輩は何も聞いてこない。逆に、「サチ先輩は、」って話始めた。
「サチ先輩は、中学生の頃はバレーボールプレイしてたんだよねー」
それは、先ほどの小競り合いを聞いていたから知っていた。
「怪我が原因で、辞めた、んですよね」そう返せば、少し眉をひそめられた。
「それがわかんないんだよねぇ。サチ先輩、バレーボールめっちゃ好きだからさ、リハビリもめっちゃ頑張ってレギュラー復帰してさあ」
話している黒尾先輩が誇らしげ。誇らしげで、ちょっと寂し気。
「復帰したのに……もうプレイヤーは辞めるって。俺にはそれしか話してくれないんスよねぇ」
「……幼馴染なのに?」
「そう、幼馴染なのに。寂しいよね」
黒尾先輩とたくさん話ができて嬉しい、とか思えるほど、今明るい気持ちではなくて。
「倉木さん、強いんですね」
この話を聞く前からそう思っていた。
体育祭で、黒尾先輩と二人三脚で走る姿を見た。息ぴったりで、速くて、何よりもとてもきれいな人だと思った。その後もリレーで走る姿はとてもかっこよくて、黒尾先輩に守られる人ではなくて、ちゃんと自分で戦える人なんだな、と。強いなと思った。
でもそれ以上に、黒尾先輩の隣というのがうらやましくて。黒尾先輩の視線を独り占めできる位置に、私も立ちたいと思った。
幼馴染ってだけで、隣にいられるのはずるい。
そうではないとわかっていても、そう思ってしまう。
……私は、黒尾先輩が好きだけど、でも黒尾先輩が好きというよりは、倉木さんを見る黒尾先輩が好きなんだろうな、とふと思ってしまった。
「そう見える?」
倉木さんが強く見える?と。
「そう、見えます。というか、そうしか見えないというか、」
「……っだよねぇ」
はは、って笑っているのに、心はきっと笑っていない。
黒尾先輩は、本当に倉木さんばっかりだなあと実感する。
「でもさ。強いけど、あれは”強くいよう”って気を張ってるだけで、気が抜けたら、ただの女子高生よ?」
そうなんですか?
そう返そうとして、つい先ほどの光景を思い出した。
声を荒げたところなど、聞いたことがなかった。
短い付き合いではあるが、声を荒げるようなタイプではないと思う。
そんな倉木さんが、部屋の外にまで聞こえるような、怒気をはらんだ声で。
―――なんで? 私、何かした!? 何の権利があって、私からバレーボールを奪ったの!?
―――あんたたちがバレーボールやれた時間、私に返しなさいよ
それだけバレーボールが好きで、向き合ってきたんだろうな。
私は今まで、声を荒げるほど真面目にひたむきに向き合って来たものがない。
そんな向き合ってきたことを奪われる気持ちは、どんなものだろうか。私には想像もできない。
倉木さん、大丈夫かな。
黒尾先輩の隣を明け渡してくれない人だったのが、いつの間にか気になる人になっていた。……憧れ、と言えばそうなのかもしれないが、まだその感情を認められるほどにはオトナではなかった。
でも、私が蒔いてしまった種だ。せめて、倉木さんの心が少しでも穏やかになるように、私にできることはやろう。
「黒尾先輩」
「ん?」
「さっきの、会話聞いてて、倉木さんの―――」
ポツポツと、倉木さんと元クラスメートたちの話を黒尾先輩に打ち明けた。
「サチさーん。そろそろ帰りますよ」
咲良から聞いた話は、思っていたよりもイヤな話で、医務室で眠っているサチの顔を見ながら、思わず頬に手を触れていた。
『……くろお、』
うっすら目を開けた幼馴染。声を聞けたことに少し安堵しつつ、頬に触れた指先から普段よりも高い体温を感知した。
「頭、触るぞ」一応断ってから(先に頬に触れていたことは気にしない)額に触れると、やはり熱がある。表情もどこか苦し気で、しんどそうだな、とその瞳を覗けば、逆に心配そうな瞳とぶつかる。
『……勝てなかった?』
先ほどの試合のことを言っているのだとはすぐにわかった。
早々に優勝候補に当たってしまったというのは言い訳にすぎない。インターハイ出場は叶わなかった。
「ああ。……帰ったらまた練習だな、」
心配させまいと笑ってそう口にしたが、しかしサチの右手が弱々しいながらも宙に浮いた。何事かとみていると、『ちょっと屈んで』とか言う。指示通りにすると、ポンポンと頭に何かが降れた。それが先ほどの弱々しく上げられたサチの手だということに気づくまで、少し時間がかかる。
「え?」
『大丈夫。次は負けない』
「サチ?」
『……なんか泣きそうな顔してるから、慰めてあげた』
自分がしんどいことは棚に上げて、俺の心配をしてくれたらしい。はは、と笑いがこみあげる。
「そりゃあ、ご親切にどうも」
『親切心じゃないから安心してください。ちゃんと後日請求をします』
「ええー、そこは冗談でも親切心にしてほしいなあ」
『私に親切心があると思う?』
「そうでした、サチさんですもんね」
その通り、とサチが力なく笑った。
この笑い方は知っている。あの時と一緒―――高校に入って、もうバレーはやらないと言って笑った時と。
「何があったのか、教えてくれない?」
咲良から話は聞いたけれども。
それはサチにとっては不本意なことで、自分から話してもらいたかった。
『ん?』
「サチが俺のこと心配してくれてるみたいに、俺も心配なんですけど」
『……私は心配なんかじゃなくて、営業だから、』
「はーい、話そらさない。……俺じゃ力不足?」
まっすぐ視線を合わせた。
サチが本心をすぐに話せないことはいつものことだし、照れ隠しで適当なことを言うのもいつものこと。そして、こうして真っ向勝負したら、逃げられないことも、いつものこと。
少しの沈黙は、サチが心の準備をするのに必要で、だからサチの準備ができるまで静かに待った。
髪さらさらだなとか、肌きれいだなとか、やっぱ痩せたなとか、目が潤んでるし調子悪いんだなとか。待っている間に考えることはサチのことばかりで、でもどれだけアピールしても全然伝わんないよなーと。
『中学の時の接触、わざとだったんだって』
心の準備を終えたサチの第一声。
一言話してしまったら、もう決心は揺るがないのか、ポツポツとゆっくりではあるが話は続く。
『黒尾には言ってなかったけど、バレーボール辞めたの、怪我のせいじゃないんだよね』
「うーん、そうだろうなあ、とは思ってたけれども。じゃあなんで辞めたの?」
『中学最後の試合で、レギュラーで出れたけど。……誰も私にトスを、あげてくれなくて』
「うん。観客席から見てた」
『……部活入っても、また上がらないのはイヤだなあって、思っちゃった』
だから、プレイヤーはもういいかな。そう続けて、寂しそうに笑った。
「トスが上がらなかったのは、何か理由が?」
『……私が、少し背が高いだけで1年レギュラーになったとか、他よりもキレイだからチヤホヤされてるとか、両親から愛されて何の不自由もない生活をしてるとか。あとは、怪我して練習に参加してないくせに、3年の最後の試合に出るのはムシがいいらしいよ』
要するに、周りの奴らの僻み、なのだろう。
思い返しても、サチがレギュラーの座を勝ち取ったのは、身長が高かったからだけではないと思う。朝も夜も自主練は欠かさずやっていたし、家にいる間も動画を見たり対策を立てたりとバレー一筋だった。
あと、これは幼馴染だから色眼鏡で見ているというわけとかではないと思うが、サチの運動神経は抜群である。オベンキョウの方はイマイチだけど、運動神経だけはトップクラス。
まあ、他にもいろいろ物申したい内容はあるけども。
のそのそと気だるそうに医務室のベッドから起きだす幼馴染を―――ただ事実だけを淡々と述べて、自分の感情を吐き出せない幼馴染を―――、ゆっくりと腕の中に引き寄せた。言葉では、伝わらないと思った。
『くろ、お、』
「泣きないなら泣けばいいし、怒りたいなら怒ればいい。……サチさんは、一人で抱え込みすぎデス」
『、』
返事はないのだが、腕の中で、強張っていた体から少しずつ力が抜けるのがわかった。ので、頭を撫でてみる。
『……なった』
「うん?」
『努力してレギュラーなった。リハビリしんどかった。……バレーボールやりたかったっ』
言葉と一緒に、グーで胸を殴られた。もちろん全く痛くはなく、むしろサチから本音を聞けたことに安堵した。
しばらくそのまま頭を撫でていると、控えめに嗚咽も混じって、しかし泣くまいと必死にこらえていることがわかって。
「黒尾さん、なーんも見えてないから、泣いてもわかんないよ? だから、我慢しないで泣きなさいよ」
さらさらの髪を優しく撫でながら、落ち着くのを待った。
12幼馴染のお決まり事
「サチさん、これってお姫様抱っこのチャンスじゃない?」
『絶対そうじゃないし、そうだとしても絶対ヤダ。断固拒否』