Que Sera, Sera. -ケセラセラ-
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「まだ黒尾にくっついてんの? しかもマネやって気を引いてるみたいじゃん」
これから何が始まるのかはよくわからない。先ほどの観客席から、女子更衣室に移動させられていた。
何があるかわからないから、咲良は先に帰した。……何もないと信じたい。
『別に気は引いてない。……黒尾に興味ない』
正直に答えたのだが、口に出してから、言葉を間違えたことを自覚する。
「はあ!? 気を引かなくても男が寄ってきますって?」
言い切る前に、ダン、とロッカーを殴る音がした。グーではなくパー。
「あんたのそのすました顔、昔から嫌いだった」
『……ごめん、』
「あー、そういう所もウザイ」
またも返答を間違えたらしい。というよりは、何を言っても睨まれるのかな。
答えなくてもダメだろうなあ。
この状況がおそらくヤバイということはわかる。でもそうだからこそ、頭の中はクリアだった。この人たちに対する感情に蓋をしているというのもあるのかもしれない。
「倉木って、感情あるの?」
「ないんじゃない? 怪我したときだって真面目にリハビリしてたし、トス上がんないときも、泣くことも怒ることもしなかったし」
「ああ、確かに。全然動じなかったよね」
「でも幼馴染には、さすがに泣きついたんじゃない?」
「てつろー、プレー中にぶつかられたー。頑張って戻ったのに、誰もトス上げてくれない~」
あはははは、と笑う二人の横で。
言葉の意味をもう一度考える。違和感は気のせいではないと思う。
『……トスを上げてもらえなかったのは、あんたたちのせい?』
中2の試合で、プレー中に接触、転倒した。よくあると言えばよくある事故。
でも、その接触で、私は全治9か月の怪我を負った。
運が悪かった、接触してしまった自分が悪い。接触したもう一人に怪我がなくてよかった。そう割り切って、”絶対復帰するんだ”ってリハビリを続けた。
悔しい気持ちは見なかったふりをして、憤りは筋トレの活力に変えた。
トームメイトが試合で活躍する話を聞きながら、焦る気持ちを、乾いた笑みでやり過ごして。
そうしてようやく、中学最後の試合で復帰を果たした。
正直、走るのも飛ぶのも怪我する前とは感覚が違ってしんどかった。リハビリしても完璧には元には戻らないって言われていたから、これは付き合っていくしかないのだと、いろんな感情を呑み込むしかなくて。
それでもまた試合に出れた、それが嬉しかったし、誇らしかった。
そんな気持ちで臨んだ試合で、しかし私の出番はなかった。
何度トスを呼んでも、誰も上げてはくれなくて。そのうち、呼ぶことも苦しくなって、立ち尽くすしかできなくて。ベンチに下げられて、それ以降出してもらえることはなくて。
「大怪我してほとんど練習参加してないくせにさあ。最後の試合だけ出られると思ってるとかムシが良すぎるでしょ」
ザワザワした感情が少しずつ大きくなっていく。
『……ケガしたの、私のせいじゃ、ない』
「へえ。じゃあ、誰のせいなの?」
『運が、悪かった、』
あの日の光景が今でも鮮明に思い出されて、そのときの感情もしっかり覚えていて。運が悪かった思い出とするには、まだ時間が足りない。
悔しさをやり過ごすのに、両方の拳を固く握りしめた。
「ほんっっと、相変わらずお人よしよね」
「あれは、あんたをこらしめようとわざとやったのよ。って言ったら?」
紡がれた言葉に、一瞬理解が追い付かなかった。
『今、なんて、』
「わざとよ、わざと」
『……は?』
あれが、わざと?
プツンと切れた音がした。
『なんで? 私、何かした!? 何の権利があって、私からバレーボールを奪ったの!?』
掴みかかる勢いで詰め寄ると、同じくらいの勢いで胸倉をつかまれて、ダンと先ほどよりも大きな音がなった。胸倉をつかまれたまま、後ろのロッカーにたたきつけられていた。
「他よりちょっと背が高いってだけで1年レギュラーで。他よりもちょっとキレイだからってちやほやされて。両親からも愛されて何の不自由もない生活をして。こっちがいくら嫌味を言っても、鈍感すぎてまったくきかないし。そんなの、むかつくに決まってんでしょ!?」
『そ……んな、理由で?』
―――悔しい。
ぽろぽろと涙があふれて、ため込んできた感情が一気に出ていく。
『返してよ』
私だってもっとバレーボールしたかった。
黒尾たちみたいに、自分の思うように体をあやつって、対戦相手と駆け引きして、中学も高校もその先も、バレーボールをしたかった。
『あんたたちがバレーボールやれた時間、私に返しなさいよ』
ようやく最近、バレーボールを見ても苦しくなくなったのに。
男子バレー部のマネージャーとして、携われるようになったのに。
自然に笑えるようになったのに。
また、プレイヤーへの未練が大きくなる。
『っ、』
高ぶる感情をどう吐き出せばいいのかわからなくて、固く握ったこぶしを、何度もロッカーにたたきつけた。
ダン、ダン、ダン―――。
「血、出てる」
何度目かわからない殴打は、誰かの声とともに大きな手に包まれる形で遮られた。
「さっちー、何があったの?」
大きな手の持ち主は、梟谷の木兎だった。
『ぼくと、』
「うん、そう。黒尾、呼ぼうか?」
なんで木兎が女子更衣室にいるのとか、どこから聞いてたのとか。そういう考えは一瞬湧いて出てきたけど、それどころではなくてすぐにどこかへ行った。
木兎の言葉も、聞くことはできても、処理ができない。思考が停止してしまっているようだった。
『わかんない、』
そのうち、立っているのがつらくなって、じわじわとその場にしゃがみこんでいた。
木兎が隣で何か言っている気がするけど、ついに聞くこともできない。
なんか苦しい。
「あ、倉木さん、気づきました?」
目を開けると、見たことある顔があった。しばらくして、梟谷の2年セッター赤葦だと認識する。
『なんで、』
赤葦がいるの。そう続けようとして、直前の記憶が押し寄せてきて、最後に木兎が近くにいたことを思い出す。
赤葦は木兎とセットのような感じだから、いるのだろう。
「倉木さん、過呼吸気味だったので、木兎さんがここに連れてきて―――って、大丈夫ですか?」
どれくらい時間が経ったのかはわからないけど、先ほどの話を思い出して、また息が苦しくなる。無意識に左手で首元の服を握りしめたところ、左手が少し痛い。ロッカーを殴打した際の怪我であることが思い出されて、夢ではなかったことが裏付けられる。ああ、嫌だなあ。
「サチ!」
ああ、この声は知っている。昔からずっと聞いてきた声。
名前を読んだら、驚いたようにこちらを見る幼馴染。
「苦しいな、大丈夫、ゆっくり息吐いて」
いつにもまして優しい声が、なんだかくすぐったい。
でもこの時は、自分を取り繕うのに疲れていて、もういいやって。
いつもなら口に出す言葉は頭の中で反芻してから表に出すんだけど、今日はもう疲れた。鉄朗しか聞いてないからいいかな。
「痛い、よな」
ズキズキと痛んでいた左手が、鉄朗の両手に包まれている。
さっきは木兎の手だったけど、鉄朗の手も大きいな。あと落ち着く。
「気が済むまでこうしておきますよ」
気が済むまでって、いつまでだろう。
10分? 30分? 1時間?
鉄朗ってそんなに暇な人だったっけ。あれ今日何しに来たんだっけ。
鉄朗、バレーボールやってるじゃん。
自分のことに、巻き込んだらダメでしょ。
それに、マネージャーの仕事は? 次の試合終わるまであと何分? みんなアップしてる? 黒尾がここでこんなことしている暇は? 次の対戦相手は優勝候補で―――。
「サチさーん。よそ見しないで、こっち見て」
『……、』
「見たな。じゃあゆっくり深呼吸、3回」
まっすぐ見つめてくる黒尾の指示はすんなり頭に入ってきて、素直に深呼吸を3回繰り返した。
「試合にはまだ時間がある。次は強豪だけど、さっきサチからの情報はもらった。……一緒に打ち合わせしたの覚えてるか?」
お昼時に短くだが、二人で話したことを覚えている。頷くと、「よし、」と頭をぐちゃぐちゃにされた。
「サチさんは、次の試合は心配だから、ここで休ませてもらいなさい」
『え、』
相手のデータ取っておきたかった。咲良はまだスコア付けもままならないし、データ取るまではお願いできそうにない。
「顔、真っ青でしょうが。そんなんじゃ、ベンチには座らせられませーん」
『でも』
「サチさんには、その次の試合の作戦を一緒に考えてもらわないといけないんでね。そのためにも、休んで顔色を戻す。その間に俺達は勝つ。だから、少しでもいいから寝なさいよ」
言い返そうと口を開いたが、「はいはい起きたら聞きまーす」と先手を打たれ、抵抗する前に目元を手でふさがれた。たぶん片手で両目ともきれいに塞がれているのがなんか腹が立つ。
『黒尾、』
「休むと約束するまで、手はどけませんー」
『休むからどけてクソ尾』
ようやく解放された目をあけると、変わらず微笑む黒尾の顔が最初に見えた。
SYURABAと小休憩
「相変わらず幼馴染やってんなー」
「俺たちのこと、忘れてるんでしょうね」
「後でなんかおごってもらおうぜ」
これから何が始まるのかはよくわからない。先ほどの観客席から、女子更衣室に移動させられていた。
何があるかわからないから、咲良は先に帰した。……何もないと信じたい。
『別に気は引いてない。……黒尾に興味ない』
正直に答えたのだが、口に出してから、言葉を間違えたことを自覚する。
「はあ!? 気を引かなくても男が寄ってきますって?」
言い切る前に、ダン、とロッカーを殴る音がした。グーではなくパー。
「あんたのそのすました顔、昔から嫌いだった」
『……ごめん、』
「あー、そういう所もウザイ」
またも返答を間違えたらしい。というよりは、何を言っても睨まれるのかな。
答えなくてもダメだろうなあ。
この状況がおそらくヤバイということはわかる。でもそうだからこそ、頭の中はクリアだった。この人たちに対する感情に蓋をしているというのもあるのかもしれない。
「倉木って、感情あるの?」
「ないんじゃない? 怪我したときだって真面目にリハビリしてたし、トス上がんないときも、泣くことも怒ることもしなかったし」
「ああ、確かに。全然動じなかったよね」
「でも幼馴染には、さすがに泣きついたんじゃない?」
「てつろー、プレー中にぶつかられたー。頑張って戻ったのに、誰もトス上げてくれない~」
あはははは、と笑う二人の横で。
言葉の意味をもう一度考える。違和感は気のせいではないと思う。
『……トスを上げてもらえなかったのは、あんたたちのせい?』
中2の試合で、プレー中に接触、転倒した。よくあると言えばよくある事故。
でも、その接触で、私は全治9か月の怪我を負った。
運が悪かった、接触してしまった自分が悪い。接触したもう一人に怪我がなくてよかった。そう割り切って、”絶対復帰するんだ”ってリハビリを続けた。
悔しい気持ちは見なかったふりをして、憤りは筋トレの活力に変えた。
トームメイトが試合で活躍する話を聞きながら、焦る気持ちを、乾いた笑みでやり過ごして。
そうしてようやく、中学最後の試合で復帰を果たした。
正直、走るのも飛ぶのも怪我する前とは感覚が違ってしんどかった。リハビリしても完璧には元には戻らないって言われていたから、これは付き合っていくしかないのだと、いろんな感情を呑み込むしかなくて。
それでもまた試合に出れた、それが嬉しかったし、誇らしかった。
そんな気持ちで臨んだ試合で、しかし私の出番はなかった。
何度トスを呼んでも、誰も上げてはくれなくて。そのうち、呼ぶことも苦しくなって、立ち尽くすしかできなくて。ベンチに下げられて、それ以降出してもらえることはなくて。
「大怪我してほとんど練習参加してないくせにさあ。最後の試合だけ出られると思ってるとかムシが良すぎるでしょ」
ザワザワした感情が少しずつ大きくなっていく。
『……ケガしたの、私のせいじゃ、ない』
「へえ。じゃあ、誰のせいなの?」
『運が、悪かった、』
あの日の光景が今でも鮮明に思い出されて、そのときの感情もしっかり覚えていて。運が悪かった思い出とするには、まだ時間が足りない。
悔しさをやり過ごすのに、両方の拳を固く握りしめた。
「ほんっっと、相変わらずお人よしよね」
「あれは、あんたをこらしめようとわざとやったのよ。って言ったら?」
紡がれた言葉に、一瞬理解が追い付かなかった。
『今、なんて、』
「わざとよ、わざと」
『……は?』
あれが、わざと?
プツンと切れた音がした。
『なんで? 私、何かした!? 何の権利があって、私からバレーボールを奪ったの!?』
掴みかかる勢いで詰め寄ると、同じくらいの勢いで胸倉をつかまれて、ダンと先ほどよりも大きな音がなった。胸倉をつかまれたまま、後ろのロッカーにたたきつけられていた。
「他よりちょっと背が高いってだけで1年レギュラーで。他よりもちょっとキレイだからってちやほやされて。両親からも愛されて何の不自由もない生活をして。こっちがいくら嫌味を言っても、鈍感すぎてまったくきかないし。そんなの、むかつくに決まってんでしょ!?」
『そ……んな、理由で?』
―――悔しい。
ぽろぽろと涙があふれて、ため込んできた感情が一気に出ていく。
『返してよ』
私だってもっとバレーボールしたかった。
黒尾たちみたいに、自分の思うように体をあやつって、対戦相手と駆け引きして、中学も高校もその先も、バレーボールをしたかった。
『あんたたちがバレーボールやれた時間、私に返しなさいよ』
ようやく最近、バレーボールを見ても苦しくなくなったのに。
男子バレー部のマネージャーとして、携われるようになったのに。
自然に笑えるようになったのに。
また、プレイヤーへの未練が大きくなる。
『っ、』
高ぶる感情をどう吐き出せばいいのかわからなくて、固く握ったこぶしを、何度もロッカーにたたきつけた。
ダン、ダン、ダン―――。
「血、出てる」
何度目かわからない殴打は、誰かの声とともに大きな手に包まれる形で遮られた。
「さっちー、何があったの?」
大きな手の持ち主は、梟谷の木兎だった。
『ぼくと、』
「うん、そう。黒尾、呼ぼうか?」
なんで木兎が女子更衣室にいるのとか、どこから聞いてたのとか。そういう考えは一瞬湧いて出てきたけど、それどころではなくてすぐにどこかへ行った。
木兎の言葉も、聞くことはできても、処理ができない。思考が停止してしまっているようだった。
『わかんない、』
そのうち、立っているのがつらくなって、じわじわとその場にしゃがみこんでいた。
木兎が隣で何か言っている気がするけど、ついに聞くこともできない。
なんか苦しい。
「あ、倉木さん、気づきました?」
目を開けると、見たことある顔があった。しばらくして、梟谷の2年セッター赤葦だと認識する。
『なんで、』
赤葦がいるの。そう続けようとして、直前の記憶が押し寄せてきて、最後に木兎が近くにいたことを思い出す。
赤葦は木兎とセットのような感じだから、いるのだろう。
「倉木さん、過呼吸気味だったので、木兎さんがここに連れてきて―――って、大丈夫ですか?」
どれくらい時間が経ったのかはわからないけど、先ほどの話を思い出して、また息が苦しくなる。無意識に左手で首元の服を握りしめたところ、左手が少し痛い。ロッカーを殴打した際の怪我であることが思い出されて、夢ではなかったことが裏付けられる。ああ、嫌だなあ。
「サチ!」
ああ、この声は知っている。昔からずっと聞いてきた声。
名前を読んだら、驚いたようにこちらを見る幼馴染。
「苦しいな、大丈夫、ゆっくり息吐いて」
いつにもまして優しい声が、なんだかくすぐったい。
でもこの時は、自分を取り繕うのに疲れていて、もういいやって。
いつもなら口に出す言葉は頭の中で反芻してから表に出すんだけど、今日はもう疲れた。鉄朗しか聞いてないからいいかな。
「痛い、よな」
ズキズキと痛んでいた左手が、鉄朗の両手に包まれている。
さっきは木兎の手だったけど、鉄朗の手も大きいな。あと落ち着く。
「気が済むまでこうしておきますよ」
気が済むまでって、いつまでだろう。
10分? 30分? 1時間?
鉄朗ってそんなに暇な人だったっけ。あれ今日何しに来たんだっけ。
鉄朗、バレーボールやってるじゃん。
自分のことに、巻き込んだらダメでしょ。
それに、マネージャーの仕事は? 次の試合終わるまであと何分? みんなアップしてる? 黒尾がここでこんなことしている暇は? 次の対戦相手は優勝候補で―――。
「サチさーん。よそ見しないで、こっち見て」
『……、』
「見たな。じゃあゆっくり深呼吸、3回」
まっすぐ見つめてくる黒尾の指示はすんなり頭に入ってきて、素直に深呼吸を3回繰り返した。
「試合にはまだ時間がある。次は強豪だけど、さっきサチからの情報はもらった。……一緒に打ち合わせしたの覚えてるか?」
お昼時に短くだが、二人で話したことを覚えている。頷くと、「よし、」と頭をぐちゃぐちゃにされた。
「サチさんは、次の試合は心配だから、ここで休ませてもらいなさい」
『え、』
相手のデータ取っておきたかった。咲良はまだスコア付けもままならないし、データ取るまではお願いできそうにない。
「顔、真っ青でしょうが。そんなんじゃ、ベンチには座らせられませーん」
『でも』
「サチさんには、その次の試合の作戦を一緒に考えてもらわないといけないんでね。そのためにも、休んで顔色を戻す。その間に俺達は勝つ。だから、少しでもいいから寝なさいよ」
言い返そうと口を開いたが、「はいはい起きたら聞きまーす」と先手を打たれ、抵抗する前に目元を手でふさがれた。たぶん片手で両目ともきれいに塞がれているのがなんか腹が立つ。
『黒尾、』
「休むと約束するまで、手はどけませんー」
『休むからどけてクソ尾』
ようやく解放された目をあけると、変わらず微笑む黒尾の顔が最初に見えた。
SYURABAと小休憩
「相変わらず幼馴染やってんなー」
「俺たちのこと、忘れてるんでしょうね」
「後でなんかおごってもらおうぜ」