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【凪茨】愛される覚悟をしておいて

「……ねえ、茨。私は茨のこと、好きになってしまったみたい」


夕食のあと、次のオフの日程の話をしている時のこと。その日は茨もオフだと言うから一緒にどこかへでかけないかと尋ねれば、少しの逡巡の後、その首を縦に振った。前後のスケジュールを調整する為にとPCへ目を落としキーボードを打ち始めた茨に、伝えるなら今が良いかと思い、いつからか胸の内にわだかまっていた想いを伝えた。
数秒の後、茨はゆっくりとPCから顔を上げると笑顔で「ありがとうございます!閣下に好意を持って頂けるなど身に余る幸福ですな~!」なんていつもの調子で右から左へと受け流そうとする。…うん。残念だけど、ここまでは予想通り。

「……茨も私のこと、好き?」
「…ええ、それは勿論。ですが…っ!?」

同意の声を聴き終えたのなら、そこから喧しく反証を並べ立てそうな口は物理的に塞いでおいた。…あ、思っていたよりも柔らかくてあったかい。
トクンと脈拍の上昇と共に胸の内に温かなものが広がっていくのを感じながら、唇の感触を堪能してそっと離れる。様子を窺うように見遣れば、そこには目をまんまるに見開き硬直した茨の姿があった。…えっと、これはちょっと予想外かもしれない。

「……茨?大丈夫…?」

思わず目の前で手を振りつつ呼びかけると、次第に現状を理解し始めたようでじわじわと顔色を紅潮させていき唇がわなわなと震えだした。初めて見る茨の表情に、次は何が飛び出してくるのだろうと少しわくわくしてしまう自分がいる。

「~~~っ、閣下!!いったいどういう御積もりですか!?」
「……茨も好きだって言ったから。…両想いなら問題ないよね?」
「好意を持っているということをお伝えしましたが、それは恋愛感情という意味ではなく」
「それは嘘。……だって私の告白に、君は一度キーボードを叩く手を不自然に止めたよね。その後のタイピング音は乱れていた。…その画面、まともに文章打ててないでしょ?それに何より…その顔が答えだと思うのだけど。……違う?」

そういって瞳を覗き込めば、何かを言いたげに口を開きつつも次の言葉に困っているようで眉を顰めると視線から逃れるように俯いてしまった。顔が見えなくなってしまったことを残念に思いながらもその形の良い頭へと手を伸ばし、そっと撫でる。茨はびくりと肩を揺らしたが拒みはしなった。

「……ごめんね、茨を困らせたかな。でも、せっかく久しぶりに茨と2人きりで出かけられるのだから、伝えておきたくて。私は茨と“デート”がしたかったから。……すぐに関係性を変えろとは言わないけど、私の気持ちは知っておいて欲しい。私は茨を愛おしく思っているから……同じ気持ちがあるのなら、愛される覚悟をしておいて?」

茨はまだ俯いたままで、髪の隙間から少しだけ見える表情は何かと葛藤しているように険しい。…う~ん、やっぱり簡単には頷いてくれないみたいだ。けれど、その表情は私に対する情があることを物語っている。
茨の中の天秤が一日でも早く、私の方へと傾いてくれることを願いながら、今日の所は飽きるまでその髪を撫で続けた。



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