15 y ago
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
煌めくシャンデリアの下、二人は壁際でグラスを傾け続けている。弦楽器の旋律に合わせ、ざわめく会話と笑い声が絶え間なく流れていく。その中で――表面的には、まるで親密な逢瀬のように見える光景が繰り広げられていた。
「それで、ブラン嬢は……こういう場にはよく?」
クザンはゆるやかな声で問いかける。半眼に落ちる瞳は酔いもせず、どこか飄々としている。nameはわざとらしく肩を竦め、伏し目で微笑んだ。
「ふふ……どうでしょう。けれど今夜はとても愉快ですわ。こうして素敵なお相手に巡り会えたのですもの」
甘やかに転がした声は、周囲の目には“楽しげな会話”として映る。けれど内心では舌を巻いていた。
(……結局、大した情報は出さなかったなー。こいつ……ただの口説きに見せかけて、肝心な部分は全部濁してる。面倒な相手)
とはいいつつもそろそろ時間が気になる。予定通りなら、もう時期ロシーが戻る頃――。nameはグラスを持つ手に力を込め、さりげなく出口側へと視線を走らせる。
「……?」
その仕草を見逃さなかったのか、クザンの指先がふいに伸び、顎をすっと持ち上げてきた。視線が強制的に絡む。冷たさと探る色を帯びた瞳。
「目を逸らすなんて……まだ俺の話に飽きたってわけじゃないよな?」
囁く声が耳に触れ、nameの胸に微かな鼓動が跳ねた。わずかにどきりとしながらも、すぐに微笑みで覆い隠す。
「ふふ……そんなことありませんわ。ただ……そろそろ連れが心配なだけで」
唇に笑みを宿したまま、やんわりと距離を作る。布越しに感じる相手の熱を払いのけるように、一歩引いた。
(……危な。今のはちょっと心臓に悪い……。けど、これ以上深入りすると厄介だな)
外から見れば、二人のやり取りは艶めいた戯れのように見えるだろう。だがnameの心中はすでに次の段取りを思案していた。
ロシナンテの影が戻るまで、これ以上の絡みは避けたい。タイミングを見極めながら、nameは甘やかな声で切り出した。
「……楽しいお話を、ありがとうございました。ですが、私もそろそろ連れの様子を見に行かないと」
微笑みと共に揺らしたドレスの裾は、断りの意思を優雅に包み込んでいた。
仮面の下、彼の瞳はもう――冷静な役者の光を取り戻していた。
グラスを卓に戻した瞬間、視界の向こうに見慣れた背が揺れる。黒いコートの長身――ロシナンテ。人々の間を縫うようにして戻ってくる姿を捉えたnameの胸に、わずかに安堵が広がった。
「……向こうの方にいるようでしたので、それでは、失礼いたしますわ」
甘やかに微笑み、ドレスの裾を摘んで淑やかに一礼する。有無を言わさず、そのまま背を向け、会場のざわめきに身を溶かそうとした刹那――
「これはこれは……お久しぶりでございます、中将」
耳に届いた声が、冷水のように背筋を打った。
中将。
足が止まりそうになるのを必死に堪える。
(……中将?ってことは……海軍!?)
脳裏に瞬時に火花のような緊張が走る。視線を伏せたまま足を進めようとしたが、どうしても振り返らずにいられなかった。ほんの一瞬だけ、肩越しに目を向ける。
金色の灯りに浮かぶ青年――クザンと名乗った男。
彼の瞳と、真正面から視線が絡んだ。
刹那、心臓が喉に張り付く。
動揺を必死に覆い隠したつもりでも、その微かな震えを、彼は確かに見抜いたようだった。わずかに片眉が上がり、口元に皮肉げな笑みが浮かぶ。
「……」
彼が足を踏み出す。こちらへ近づこうとする、その気配に、nameの全身の神経が鋭敏に跳ねた。
(やば……絶対に追及されたくない……!)
白いドレスの裾を翻し、あたかも人混みに導かれるかのように身体を滑り込ませる。グラスを持つ男、笑いさざめく貴婦人、給仕の間をすり抜け、ひらりとその影を撒く。顔には微笑を貼り付けたまま。だが胸の奥では冷や汗がじわりと滲んでいた。
(中将……!こんなとこでひとりであんな奴に捕まったら洒落にならないっての……)
振り返ることなく、nameはさらに奥の人混みへと消えていく。その背を、どこか愉快そうな視線が追っていたことに――彼はまだ気づいていなかった。
会場のざわめきを背に、nameは人混みを抜けていった。胸元に冷や汗が流れているのを感じながら、遠目に捉えた黒い背へとすり寄る。
「……ロシー!」
声を抑えて呼ぶと、振り返ったロシナンテの瞳が驚きに揺れる。白いドレスの裾を踏みそうになりながら駆け寄ってきたnameは、珍しく焦りを隠せずにいた。
メモを開こうとする彼の腕を制し、nameは短く告げる。
「……海軍の中将がいた。やばい、早く出よう」
その言葉にロシナンテの表情がわずかに硬くなる。問いただそうとする仕草を見せたが、nameはヒールの踵を鳴らしながら先を急ぐ。けれど焦るほどに裾が絡まり、歩調は乱れるばかりだった。
「っ……ちょっと歩きづら……」
ドレスの重みと靴の高さが、逃げの足取りを鈍らせる。せかせかと進むその様は、いつもの余裕ある姿とは程遠い。
人目の少ない回廊に差し掛かった瞬間、ロシナンテは立ち止まり、深く息を吐くと迷いなく腕を伸ばした。
「……っわ!」
次の瞬間、nameの身体はふわりと持ち上げられていた。胸元から背にかけて確かな力が支え、視界が一気に高くなる。
「ロシー……!助かるー……!」
腕にしがみつき、思わず肩に額を預ける。心臓の速さがようやく少し落ち着いていくのを感じた。抱き上げられる安堵感は、焦燥を溶かすようにじんわりと胸に広がっていく。
回廊の先に冷たい夜気が流れ込む。外の庭園へ抜けたところで、ロシナンテはようやく足を止め、nameを下ろした。石畳に置かれたヒールの音が、夜風に混じって小さく響く。
「……どういうことだ?」
今度は口で問いかけられる。その声は低く、鋭さを帯びていた。nameはドレスの裾を握りしめながら、苦笑を浮かべる。
「ほんと偶然。俺が女役してる間に、あっちから来たんだよ。クザ……いや、中将って呼ばれてた。俺、完全に“女”だと思われてたから助かったけど……さすがにヒヤッとした」
吐き出す息は冷たく震えていたが、瞳の奥には少しずつ余裕が戻りつつある。抱き上げられた時に得た安堵が、彼を現実へ引き戻していた。
「とりあえず、離れよう。……ロシーがいて助かった」
そう言って肩を竦める笑みは、かすかに強がりを含みながらも、いつもの調子を取り戻しつつあった。夜風がドレスを揺らし、遠くで馬車の蹄の音が響く。二人は足を止めることなく、闇へと歩みを進めていった。
夜の風を切って走る馬車の中。揺れるランプの灯りが木枠の壁を淡く照らし、影を揺らしていた。外のざわめきは遠ざかり、耳に届くのは蹄の規則的な音と、わずかな軋みだけ。
nameはドレスの裾を乱したまま座席に沈み込み、深く息を吐いた。まだ胸の奥には冷や汗が残っている。向かいのロシナンテは沈黙のままnameを見据えていたが、その眼差しは先ほどの会場よりも明らかに鋭い。
「……で?」
短く落とされた声。問いかけるまでもなく、nameが口を開くのを待っていた。
「ん……俺の方も、とくに変わった情報は拾えなかったよ。ただ……」
グラスを回す仕草のように、無意識に指でスカートの裾を弄びながら続ける。
「クザンって名乗った男に絡まれた。最初はただの口説きかと思ったけど――別の男が“中将”って呼んでた。間違いない、海軍だった」
その一言に、ロシナンテの表情が僅かに動いた。眉がぴくりと揺れ、背筋に影を落とす。
「……クザン」
噛み締めるように名を反芻する。声に出すのは一度きりだったが、明らかな驚きが含まれていた。
「知ってるの?」
nameが覗き込むように尋ねると、ロシナンテは目を伏せ、深く息を吐いた。
「……ああ。一方的に、だけどな。青キジ――いや、とにかく、本部でも知られた存在だ。頭も切れるし、力も桁違いだ。時期大将候補とも言われている。そんな奴が、なんでこんな場に……」
言葉が途切れ、沈黙が落ちる。蹄の音だけが夜道に響き続ける。nameは腕を組み、ため息混じりに天井を仰いだ。
「はは……やっぱ大物だったんだ。それは俺も運悪いなー。一応俺のことは完全に女だと思ってたっぽいし、名前も聞けたけど……だあー、深入りされなくてよかった」
自嘲気味の笑みを浮かべ、髪飾りを外して膝の上に置く。ロシナンテは真剣な眼差しでnameを見据えた。
「……動揺を隠せてたつもりだろうが、見抜かれたかもしれない。あいつの目は鋭い」
「……だよね」
苦笑を浮かべ、窓の外に流れる夜景へ視線をやった。鼓動はまだ完全には落ち着いていない。けれど、馬車の狭い空間に漂うロシナンテの重みのある沈黙が、不思議と安心を与えていた。
「ま、でもさ……助かったのは事実だし。ロシーが戻る前に完全にバレてたら、俺もうここにいなかったかも」
ランプの灯りが揺れ、二人の影が重なった。海軍中将という名を抱えた影と、それをすり抜けた偶然。それらがじわじわと現実味を増しながら、馬車は夜の闇をさらに奥へと進んでいった。
「それで、ブラン嬢は……こういう場にはよく?」
クザンはゆるやかな声で問いかける。半眼に落ちる瞳は酔いもせず、どこか飄々としている。nameはわざとらしく肩を竦め、伏し目で微笑んだ。
「ふふ……どうでしょう。けれど今夜はとても愉快ですわ。こうして素敵なお相手に巡り会えたのですもの」
甘やかに転がした声は、周囲の目には“楽しげな会話”として映る。けれど内心では舌を巻いていた。
(……結局、大した情報は出さなかったなー。こいつ……ただの口説きに見せかけて、肝心な部分は全部濁してる。面倒な相手)
とはいいつつもそろそろ時間が気になる。予定通りなら、もう時期ロシーが戻る頃――。nameはグラスを持つ手に力を込め、さりげなく出口側へと視線を走らせる。
「……?」
その仕草を見逃さなかったのか、クザンの指先がふいに伸び、顎をすっと持ち上げてきた。視線が強制的に絡む。冷たさと探る色を帯びた瞳。
「目を逸らすなんて……まだ俺の話に飽きたってわけじゃないよな?」
囁く声が耳に触れ、nameの胸に微かな鼓動が跳ねた。わずかにどきりとしながらも、すぐに微笑みで覆い隠す。
「ふふ……そんなことありませんわ。ただ……そろそろ連れが心配なだけで」
唇に笑みを宿したまま、やんわりと距離を作る。布越しに感じる相手の熱を払いのけるように、一歩引いた。
(……危な。今のはちょっと心臓に悪い……。けど、これ以上深入りすると厄介だな)
外から見れば、二人のやり取りは艶めいた戯れのように見えるだろう。だがnameの心中はすでに次の段取りを思案していた。
ロシナンテの影が戻るまで、これ以上の絡みは避けたい。タイミングを見極めながら、nameは甘やかな声で切り出した。
「……楽しいお話を、ありがとうございました。ですが、私もそろそろ連れの様子を見に行かないと」
微笑みと共に揺らしたドレスの裾は、断りの意思を優雅に包み込んでいた。
仮面の下、彼の瞳はもう――冷静な役者の光を取り戻していた。
グラスを卓に戻した瞬間、視界の向こうに見慣れた背が揺れる。黒いコートの長身――ロシナンテ。人々の間を縫うようにして戻ってくる姿を捉えたnameの胸に、わずかに安堵が広がった。
「……向こうの方にいるようでしたので、それでは、失礼いたしますわ」
甘やかに微笑み、ドレスの裾を摘んで淑やかに一礼する。有無を言わさず、そのまま背を向け、会場のざわめきに身を溶かそうとした刹那――
「これはこれは……お久しぶりでございます、中将」
耳に届いた声が、冷水のように背筋を打った。
中将。
足が止まりそうになるのを必死に堪える。
(……中将?ってことは……海軍!?)
脳裏に瞬時に火花のような緊張が走る。視線を伏せたまま足を進めようとしたが、どうしても振り返らずにいられなかった。ほんの一瞬だけ、肩越しに目を向ける。
金色の灯りに浮かぶ青年――クザンと名乗った男。
彼の瞳と、真正面から視線が絡んだ。
刹那、心臓が喉に張り付く。
動揺を必死に覆い隠したつもりでも、その微かな震えを、彼は確かに見抜いたようだった。わずかに片眉が上がり、口元に皮肉げな笑みが浮かぶ。
「……」
彼が足を踏み出す。こちらへ近づこうとする、その気配に、nameの全身の神経が鋭敏に跳ねた。
(やば……絶対に追及されたくない……!)
白いドレスの裾を翻し、あたかも人混みに導かれるかのように身体を滑り込ませる。グラスを持つ男、笑いさざめく貴婦人、給仕の間をすり抜け、ひらりとその影を撒く。顔には微笑を貼り付けたまま。だが胸の奥では冷や汗がじわりと滲んでいた。
(中将……!こんなとこでひとりであんな奴に捕まったら洒落にならないっての……)
振り返ることなく、nameはさらに奥の人混みへと消えていく。その背を、どこか愉快そうな視線が追っていたことに――彼はまだ気づいていなかった。
会場のざわめきを背に、nameは人混みを抜けていった。胸元に冷や汗が流れているのを感じながら、遠目に捉えた黒い背へとすり寄る。
「……ロシー!」
声を抑えて呼ぶと、振り返ったロシナンテの瞳が驚きに揺れる。白いドレスの裾を踏みそうになりながら駆け寄ってきたnameは、珍しく焦りを隠せずにいた。
メモを開こうとする彼の腕を制し、nameは短く告げる。
「……海軍の中将がいた。やばい、早く出よう」
その言葉にロシナンテの表情がわずかに硬くなる。問いただそうとする仕草を見せたが、nameはヒールの踵を鳴らしながら先を急ぐ。けれど焦るほどに裾が絡まり、歩調は乱れるばかりだった。
「っ……ちょっと歩きづら……」
ドレスの重みと靴の高さが、逃げの足取りを鈍らせる。せかせかと進むその様は、いつもの余裕ある姿とは程遠い。
人目の少ない回廊に差し掛かった瞬間、ロシナンテは立ち止まり、深く息を吐くと迷いなく腕を伸ばした。
「……っわ!」
次の瞬間、nameの身体はふわりと持ち上げられていた。胸元から背にかけて確かな力が支え、視界が一気に高くなる。
「ロシー……!助かるー……!」
腕にしがみつき、思わず肩に額を預ける。心臓の速さがようやく少し落ち着いていくのを感じた。抱き上げられる安堵感は、焦燥を溶かすようにじんわりと胸に広がっていく。
回廊の先に冷たい夜気が流れ込む。外の庭園へ抜けたところで、ロシナンテはようやく足を止め、nameを下ろした。石畳に置かれたヒールの音が、夜風に混じって小さく響く。
「……どういうことだ?」
今度は口で問いかけられる。その声は低く、鋭さを帯びていた。nameはドレスの裾を握りしめながら、苦笑を浮かべる。
「ほんと偶然。俺が女役してる間に、あっちから来たんだよ。クザ……いや、中将って呼ばれてた。俺、完全に“女”だと思われてたから助かったけど……さすがにヒヤッとした」
吐き出す息は冷たく震えていたが、瞳の奥には少しずつ余裕が戻りつつある。抱き上げられた時に得た安堵が、彼を現実へ引き戻していた。
「とりあえず、離れよう。……ロシーがいて助かった」
そう言って肩を竦める笑みは、かすかに強がりを含みながらも、いつもの調子を取り戻しつつあった。夜風がドレスを揺らし、遠くで馬車の蹄の音が響く。二人は足を止めることなく、闇へと歩みを進めていった。
夜の風を切って走る馬車の中。揺れるランプの灯りが木枠の壁を淡く照らし、影を揺らしていた。外のざわめきは遠ざかり、耳に届くのは蹄の規則的な音と、わずかな軋みだけ。
nameはドレスの裾を乱したまま座席に沈み込み、深く息を吐いた。まだ胸の奥には冷や汗が残っている。向かいのロシナンテは沈黙のままnameを見据えていたが、その眼差しは先ほどの会場よりも明らかに鋭い。
「……で?」
短く落とされた声。問いかけるまでもなく、nameが口を開くのを待っていた。
「ん……俺の方も、とくに変わった情報は拾えなかったよ。ただ……」
グラスを回す仕草のように、無意識に指でスカートの裾を弄びながら続ける。
「クザンって名乗った男に絡まれた。最初はただの口説きかと思ったけど――別の男が“中将”って呼んでた。間違いない、海軍だった」
その一言に、ロシナンテの表情が僅かに動いた。眉がぴくりと揺れ、背筋に影を落とす。
「……クザン」
噛み締めるように名を反芻する。声に出すのは一度きりだったが、明らかな驚きが含まれていた。
「知ってるの?」
nameが覗き込むように尋ねると、ロシナンテは目を伏せ、深く息を吐いた。
「……ああ。一方的に、だけどな。青キジ――いや、とにかく、本部でも知られた存在だ。頭も切れるし、力も桁違いだ。時期大将候補とも言われている。そんな奴が、なんでこんな場に……」
言葉が途切れ、沈黙が落ちる。蹄の音だけが夜道に響き続ける。nameは腕を組み、ため息混じりに天井を仰いだ。
「はは……やっぱ大物だったんだ。それは俺も運悪いなー。一応俺のことは完全に女だと思ってたっぽいし、名前も聞けたけど……だあー、深入りされなくてよかった」
自嘲気味の笑みを浮かべ、髪飾りを外して膝の上に置く。ロシナンテは真剣な眼差しでnameを見据えた。
「……動揺を隠せてたつもりだろうが、見抜かれたかもしれない。あいつの目は鋭い」
「……だよね」
苦笑を浮かべ、窓の外に流れる夜景へ視線をやった。鼓動はまだ完全には落ち着いていない。けれど、馬車の狭い空間に漂うロシナンテの重みのある沈黙が、不思議と安心を与えていた。
「ま、でもさ……助かったのは事実だし。ロシーが戻る前に完全にバレてたら、俺もうここにいなかったかも」
ランプの灯りが揺れ、二人の影が重なった。海軍中将という名を抱えた影と、それをすり抜けた偶然。それらがじわじわと現実味を増しながら、馬車は夜の闇をさらに奥へと進んでいった。