15 y ago
name
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夜の帳が街を覆い、石畳の道にはガス灯の明かりがゆらめいていた。馬車の車輪が湿った地面をきしませ、目的の館へと向かう途中、車内には妙な沈黙が流れる。
nameは窓の外を眺めていたが、視線は風景を追っているようで、その実どこにも焦点を合わせてはいなかった。頭の奥に残響のように響いているのは、数時間前にドフラミンゴが低く吐いた言葉――「俺の隣に並ぶから選ばれてんだ」。
必要とされている。
そう言われてしまった事実が、どうにも胸の奥に絡みついて離れなかった。あの男にそう告げられても、素直に喜ぶ気にはなれないはずだった。けれど心臓の奥に針のような熱を落とされ、それが脈打つたびに疼く。
「……」
自分でも無意識に唇を噛んでいた。ドレスの裾を指先で摘み、緩やかに揺らす。生地の重みが膝に落ちる感覚で、ようやく思考を現実へと引き戻そうとする。だが瞼の裏に浮かぶのは、耳元で囁かれた声。嘲りと共に潜む“肯定”。それが不快なようでいて、どこか身体を熱くさせる要因だった
。
ロシナンテは正面の座席で、その様子をじっと観察していた。普段なら落ち着きなく喋り散らしているはずのnameが、今はただぼんやりと遠くを見ている。その変化が気がかりで、胸の奥に小さな棘を覚える。
『緊張してるのか?』
nameは一瞬だけ視線を落とし、次いでわざとらしく肩をすくめた。
「まさか。俺が緊張なんてするわけないでしょ。ちょっと眠かっただけ」
わざと軽口を叩く。けれどその声音には、先ほどまでの空白がほんのり残っていた。
『ならいい』
ロシナンテは視線を逸らした。安堵を隠すように瞳を閉じ、浅く呼吸を整える。馬車が揺れるたび、ドレスの裾が大げさに揺れ、胸元の布が小さく波を打つ。nameは自分の姿を改めて見下ろし、鼻で笑った。
「……女装だって、武器にしてやればいいんだ。俺はそういうの得意だからね」
自分に言い聞かせるような声。その瞳にはようやくいつもの色が戻り始めていた。鏡代わりに窓ガラスへ映り込む自分の顔を眺める。艶やかに塗られた唇、縁取られた瞳――違和感は拭えないが、それでも人を惑わす仮面になり得る。
「ほら、俺が笑えば、大抵の奴はころっといくんだよ。女でも男でも関係ない。……それを試すだけ」
頬を上げ、艶やかな笑みを作ってみせる。そこにあるのは羞恥と居直りが混ざった歪な覚悟。ロシナンテはその表情を見て、静かにメモを閉じた。
『お前らしい』
短く綴られた文字。それが何よりもの肯定になっていた。
館の明かりが近づき、豪奢な門扉の向こうに華やかな宴のざわめきが漂い始める。nameは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「よし……スイッチ入れ直した。俺は“役者”だからね。ちゃんとやってやるよ」
煌びやかな灯火の海へ踏み込むその瞬間、彼の瞳には再び余裕たっぷりの光が宿る。羞恥も諦めも、全てを武器に変えて――。
高い鉄門を抜け、石畳をゆっくりと進む。馬車から降り立った瞬間、夜気の冷たさよりも眩しいほどの光が肌を打つ。館の正面玄関は豪奢な灯火に照らされ、シャンデリアの光が窓越しに漏れて外まで溢れ出ている。笑い声や音楽の気配はすでに波のように押し寄せ、今宵の宴の規模を物語っていた。
白いドレスをまとったnameは、ロシナンテの腕に軽やかに手を添え、堂々とした足取りで階段を上る。つい先ほどまでの不満げな顔は消え失せ、今は仮面のような艶やかな微笑を口元に浮かべている。瞳の奥には自分がどう見られているかを計算した光が宿っていた。
「ふふ……ね?やっぱり俺が一番映えるんだから」
自分に言い聞かせるような囁き。すれ違う来賓の視線が自分に吸い寄せられているのを、nameは敏感に感じ取っていた。背筋を伸ばし、わざと裾を揺らしながら歩けば、男であることを疑う者は誰ひとりいない。むしろ「どこの令嬢か」と囁き合う声が耳に届き、そのたびに内心でにやりと笑った。
ロシナンテは口を閉ざしたまま無言でnameをエスコートする。背の高さと落ち着いた雰囲気は、無口な騎士のような役割を自然に与えていた。来賓の誰も彼に話しかけようとはしない。その沈黙を逆手に取り、代わりにnameが社交の場を掌握する。
「まぁ、今夜は華やかですねぇ。あちらの装飾、見事じゃない?」
「お招きいただけて光栄ですわ」
声音は甘やかに転じ、笑みは柔らかく、人々の輪の中心に溶け込む。軽口を叩くように次々と来賓へ声をかけ、自然と彼らの注意を惹きつけていた。nameはこうした場でこそ輝く。男でも女でもないその立ち位置が、むしろ不思議な魅力を放っていた。
人々が去った後、nameは横目でちらりとロシナンテを見上げる。
「……ねぇロシー、俺、ちゃんとやれてるでしょ」
返ってくるのは淡々とした文字。
『問題ない。人目を惹きすぎるくらいだ』
「惹きすぎる?それって褒め言葉だからね?」
唇に艶やかな笑みを貼りつけながら、囁くように返す。彼の瞳の奥にある緊張は消え、完全に“役”へと没入していた。羞恥も諦めも、全てを愉悦に塗り替え、自分の武器として振るう。
nameは窓の外を眺めていたが、視線は風景を追っているようで、その実どこにも焦点を合わせてはいなかった。頭の奥に残響のように響いているのは、数時間前にドフラミンゴが低く吐いた言葉――「俺の隣に並ぶから選ばれてんだ」。
必要とされている。
そう言われてしまった事実が、どうにも胸の奥に絡みついて離れなかった。あの男にそう告げられても、素直に喜ぶ気にはなれないはずだった。けれど心臓の奥に針のような熱を落とされ、それが脈打つたびに疼く。
「……」
自分でも無意識に唇を噛んでいた。ドレスの裾を指先で摘み、緩やかに揺らす。生地の重みが膝に落ちる感覚で、ようやく思考を現実へと引き戻そうとする。だが瞼の裏に浮かぶのは、耳元で囁かれた声。嘲りと共に潜む“肯定”。それが不快なようでいて、どこか身体を熱くさせる要因だった
。
ロシナンテは正面の座席で、その様子をじっと観察していた。普段なら落ち着きなく喋り散らしているはずのnameが、今はただぼんやりと遠くを見ている。その変化が気がかりで、胸の奥に小さな棘を覚える。
『緊張してるのか?』
nameは一瞬だけ視線を落とし、次いでわざとらしく肩をすくめた。
「まさか。俺が緊張なんてするわけないでしょ。ちょっと眠かっただけ」
わざと軽口を叩く。けれどその声音には、先ほどまでの空白がほんのり残っていた。
『ならいい』
ロシナンテは視線を逸らした。安堵を隠すように瞳を閉じ、浅く呼吸を整える。馬車が揺れるたび、ドレスの裾が大げさに揺れ、胸元の布が小さく波を打つ。nameは自分の姿を改めて見下ろし、鼻で笑った。
「……女装だって、武器にしてやればいいんだ。俺はそういうの得意だからね」
自分に言い聞かせるような声。その瞳にはようやくいつもの色が戻り始めていた。鏡代わりに窓ガラスへ映り込む自分の顔を眺める。艶やかに塗られた唇、縁取られた瞳――違和感は拭えないが、それでも人を惑わす仮面になり得る。
「ほら、俺が笑えば、大抵の奴はころっといくんだよ。女でも男でも関係ない。……それを試すだけ」
頬を上げ、艶やかな笑みを作ってみせる。そこにあるのは羞恥と居直りが混ざった歪な覚悟。ロシナンテはその表情を見て、静かにメモを閉じた。
『お前らしい』
短く綴られた文字。それが何よりもの肯定になっていた。
館の明かりが近づき、豪奢な門扉の向こうに華やかな宴のざわめきが漂い始める。nameは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「よし……スイッチ入れ直した。俺は“役者”だからね。ちゃんとやってやるよ」
煌びやかな灯火の海へ踏み込むその瞬間、彼の瞳には再び余裕たっぷりの光が宿る。羞恥も諦めも、全てを武器に変えて――。
高い鉄門を抜け、石畳をゆっくりと進む。馬車から降り立った瞬間、夜気の冷たさよりも眩しいほどの光が肌を打つ。館の正面玄関は豪奢な灯火に照らされ、シャンデリアの光が窓越しに漏れて外まで溢れ出ている。笑い声や音楽の気配はすでに波のように押し寄せ、今宵の宴の規模を物語っていた。
白いドレスをまとったnameは、ロシナンテの腕に軽やかに手を添え、堂々とした足取りで階段を上る。つい先ほどまでの不満げな顔は消え失せ、今は仮面のような艶やかな微笑を口元に浮かべている。瞳の奥には自分がどう見られているかを計算した光が宿っていた。
「ふふ……ね?やっぱり俺が一番映えるんだから」
自分に言い聞かせるような囁き。すれ違う来賓の視線が自分に吸い寄せられているのを、nameは敏感に感じ取っていた。背筋を伸ばし、わざと裾を揺らしながら歩けば、男であることを疑う者は誰ひとりいない。むしろ「どこの令嬢か」と囁き合う声が耳に届き、そのたびに内心でにやりと笑った。
ロシナンテは口を閉ざしたまま無言でnameをエスコートする。背の高さと落ち着いた雰囲気は、無口な騎士のような役割を自然に与えていた。来賓の誰も彼に話しかけようとはしない。その沈黙を逆手に取り、代わりにnameが社交の場を掌握する。
「まぁ、今夜は華やかですねぇ。あちらの装飾、見事じゃない?」
「お招きいただけて光栄ですわ」
声音は甘やかに転じ、笑みは柔らかく、人々の輪の中心に溶け込む。軽口を叩くように次々と来賓へ声をかけ、自然と彼らの注意を惹きつけていた。nameはこうした場でこそ輝く。男でも女でもないその立ち位置が、むしろ不思議な魅力を放っていた。
人々が去った後、nameは横目でちらりとロシナンテを見上げる。
「……ねぇロシー、俺、ちゃんとやれてるでしょ」
返ってくるのは淡々とした文字。
『問題ない。人目を惹きすぎるくらいだ』
「惹きすぎる?それって褒め言葉だからね?」
唇に艶やかな笑みを貼りつけながら、囁くように返す。彼の瞳の奥にある緊張は消え、完全に“役”へと没入していた。羞恥も諦めも、全てを愉悦に塗り替え、自分の武器として振るう。