15 y ago
name
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額に滲んだ汗が頬をつたって枕を濡らし、熱を帯びた皮膚にまとわりつく寝巻が妙に気持ち悪かった。喉も、焼けつくように乾いている。nameはゆっくりと瞼を開いた。霞がかった視界のなかで、天井の模様がゆっくりと揺れて見えた。
「……っ、あつ……」
微かに呻くように呟き、のろのろと身を起こす。汗で張りついたシャツが肌を引っ張る感触に眉をひそめるも、ふと、ソファに腰かけているロシナンテの姿が視界に入った。寝ているのかと思ったが、彼はすぐにこちらの動きに気づいて顔を上げる。
「起きたか、name。水、持ってくる」
そう言って、長い脚を折りたたむようにして立ち上がる。nameはぼんやりとその背を目で追い、ほどなくして差し出されたグラスを、両手で受け取った。
「……ありがと、ロシー……」
唇を湿らせるように少しずつ水を含む。喉を伝う冷たさが心地よく、nameはようやくほんの少しだけ息をつけた気がした。
「……俺、めっちゃ汗かいてない?気持ち悪……」
自分の胸元に視線を落としながら、顔をしかめてそう呟くと、ロシナンテは軽く頷いた。
「着替えさせてやる。身体も拭かねぇとな、これじゃ寝苦しいだろ」
「……んぇ……着替え、ありがと……でも……っ、ちょ、ロシー……」
濡れたシャツの裾を捲ろうとした彼の手に、慌てて片手を伸ばす。そのまま、少しふざけた調子で片目を細め、口元に薄く笑みを浮かべてから小声で囁いた。
「……えっちなことしないでよ?」
ロシナンテは一瞬だけ呆れたような顔をして、次に苦笑いを浮かべる。
「するかよ、バカ。病人に」
「いや~ロシー、目がちょっといやらしかったよ……?」
「そう見えるのは、お前の頭がいやらしいからだ」
あしらうように言いながらも、ロシナンテの声はどこか優しく、肩の力が抜けていた。そして、すでに用意してあった濡れタオルを手に、ベッドの端へと膝をつく。
「ほら、じっとしてろ。さっさと拭いて着替えて、もう一回寝ろ」
nameは観念したように小さく頷く。シャツを脱がせられると、ひんやりとした空気が火照った身体を撫で、思わず身をすくめた。
けれど次の瞬間には、タオル越しのロシナンテの手が、そっと首筋から鎖骨をなぞるように拭ってゆく。丁寧で、やさしい手つき。汗と熱の奥、浅く乱れる呼吸の向こうで、胸の奥がじんわりと疼いた。
「……ロシーの手、気持ちいい……」
ぽつりと漏れたその言葉に、ロシナンテの手が一瞬だけ止まり、すぐに再び動き出す。その微かな間が、どこかくすぐったく、nameはうっすらと笑みを浮かべながら、されるがまま身を委ねた。
ロシナンテの指先が、濡れたタオルを纏わせながらnameの首筋をゆっくりと撫でていく。額からこめかみ、耳の裏、そして鎖骨へと伝うその動きは、まるで何かを確かめるような慎重さを含んでいた。肌に触れる布の冷たさと、彼の指の体温が交錯し、熱に浮かされた身体はふわふわと揺れるような感覚に包まれる。
喉がごくりと鳴る。体温が高いせいだけではない、どこかざわついた感覚が、触れられている場所からじわりと広がっていく。nameは少しだけ目を開け、半分蕩けたような瞳でロシナンテを見る。
「……んっ……ロシー、優しすぎると……変な気分になっちゃうんだけど……」
言いながら、わざとらしく熱を帯びた息を吐き、頬を赤らめるようにして首をすくめてみせる。舌先で濡らした唇が艶を帯び、薄く笑んだその表情には、明らかに悪戯心が滲んでいた。ロシナンテはその顔をじっと見つめたまま、ぴたりと手を止める。
「……お前なぁ……」
呆れと困惑、それにほんのわずかな照れが混ざった声音。だが、すぐに肩をすくめ、苦笑交じりにタオルを持ち直すと、今度は淡々とした口調で返した。
「まぁ……それだけ余裕があるなら、熱も少しは下がってきたんだろうな」
「えー、なにそれ。さっきまであんなに看病してくれてたくせに……やっぱロシーってさ、そういうの冷たいとこあるよね」
「看病してる相手に色気づく奴がどこにいる」
即座に返され、nameはくすくすと笑う。けれど、その笑いの中には、どこか甘えるような響きもあった。
「でも、病人でも、俺とだったら……別にえっちなことしても、いいかなって……思わない?」
そう呟くように言いながら、タオルの合間から見える自分の胸元へ視線を落とす。薄い肌着越しに汗を吸った布が肌に貼り付き、濡れたような質感で浮き彫りになっていた鎖骨のライン。nameはそれをわざと意識するよう
に、ほんの少し胸を張ってみせる。ロシナンテは小さくため息をついた。
「……お前な」
そして、ふと視線を下げ、タオルをゆっくりと持ち上げる。そのまま、今度は右の脇腹へと滑り込ませるようにして拭いはじめた。
「……仕返し」
「えっ」
不意打ちのような言葉に、nameが瞬きしたその刹那――指先が、脇腹の柔らかい皮膚をなぞるようにくすぐる。
「ひゃ、っ……!ちょっ、や、ロシー、やめっ……っくすぐった……!」
笑いながら身をよじるname。タオル越しのくすぐったさは、思っていた以上に鋭く、指の動きに合わせてぴくんぴくんと身体が跳ねる。
「お前、ここ弱いの知ってんだよ」
「ず、ずるい、報復とか……子供かっ……!」
「悪ノリしたのはお前だろ」
ロシナンテは淡々とした声のまま、だがどこか楽しげな笑みを唇に乗せたまま、動きを止めようとはしない。その表情は、兄弟であるドフラミンゴとはまた別の意味で「意地悪」だった。
「……ん、あーっ……だめ、ほんとにっ……笑って苦しい……!」
「ほら、汗ひくどころか、余計熱くなってんじゃねぇか。全く……」
ようやく手を止め、nameの肩にタオルをかけると、ロシナンテは深く息をついた。
「でも、まぁ……それだけ動けるなら、もうちょっとで回復するな。安心した」
「……ふふ。心配してくれてたの?」
「当たり前だろ、バカ」
その一言が、やけに温かく胸に落ちる。nameはくしゃっと笑いながら、手を伸ばしてロシナンテのシャツの袖を軽くつまんだ。
「……じゃあ、もうちょっとだけ……わがまま言っても、いい?」
「……ああ。熱が下がるまでは、なんでも聞いてやるよ」
ぽつりと落ちたその言葉に、nameは小さく頷いて目を閉じる。くすぐったさの残る肌と、火照りの中に残る甘やかな空気。今だけは、誰にも邪魔されず、このぬくもりに包まれていたいと、そう、ただ願うように――。
午前中の柔らかな陽射しが、薄く雲のかかった天窓から差し込んでいた。熱の名残はもうどこにもなく、身体の節々も軽く感じる。nameは軽く伸びをしながら、ロシナンテと並んでアジトの廊下を歩いていた。歩調は自然とロシナンテに合わせている。彼の歩幅は大きく、いつもよりゆったりとしたそれは、どこか優しさの名残を感じさせた。
「……やっぱロシーと寝たら治るんだよなぁ、風邪……」
そう呟くように言えば、隣で歩くロシナンテが無言のまま、小さく片眉を上げた。
【誤解されるような言い方】
咎めるような視線。けれど、どこか照れたように目線はすぐ逸らされる。少ない言葉でも、表情で全てが伝わってくるのがこの男の不思議なところだった。
広間へと続く扉を押し開けると、そこにはすでに数人の幹部たちがソファに腰を下ろしていた。その中央、陽射しを背にして足を組んでいる男――ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
「……あれ?ドフィ……いるの、珍しい」
気配を察したのか、ドフラミンゴが軽く顎をあげてこちらを見やる。サングラスの奥、瞳の動きまではわからない。けれど、その口元が、ほんのわずかに緩んでいた。
「もう平気かァ?寝込みやがって、ガキみてぇだったなァ」
「え、珍しく優しいじゃん……ドフィってば……」
nameはくすりと笑いながら、ずかずかと近づくと、そのままソファに腰掛けていたドフラミンゴの脚の間にするりと身体を滑り込ませた。まるで帰る場所にでも戻るような自然さで。ドフラミンゴは一瞬目を細めたが、特に避けようともしなかった。
「あ〜……あったかい……ドフィもしかして、ずっとここで俺のこと待っててくれたの?」
「調子に乗るなよ、クソガキ」
そう言いながらも、nameを押しのけることはせず、むしろ腰のあたりに腕をまわして安定させるように抱える仕草をする。その手つきがどこか優しくて、気のせいか、胸の奥がくすぐったくなった。
「……も〜、ツンデレかよ……でも俺、弱ってる時の記憶って、なんか曖昧で……ロシーがずっと拭いてくれててさ、……すっごく気持ちよくて……もう夢かと思ってたよ……」
言葉の終わりに、ちらりと視線を送る。ロシナンテは壁際でそれを聞いていた。片手でメモを取り出し、カリカリと書いた文字を掲げて見せる。
【お前な、そういうことを人前で言うな】
そこにはやや大きめの文字で、呆れ半分、注意半分の怒りが込められていた。nameはそれを見てくすくす笑う。
「だって事実じゃん……ね、ドフィ?」
そう言って甘えるように身体を預ける。熱が引いたとは思えぬほど体温が高く感じたのは、たぶん彼の腕のせいだ。
「ふ、ふふ……元気じゃねェか。まったくよォ、手間かけさせやがって」
鼻で笑ったドフラミンゴの声が、喉の奥で低く響く。
そのまま、nameの後頭部に指を差し入れ、撫でるように髪をとかす。
指先が肌に触れるたび、ぴくんと震えが走る。
「今度寝込んだら、そのまま食っちまうからなァ?」
「……ん、それも悪くないかも……あ、でも……ロシーが怒るか……」
振り返った視線の先。ロシナンテは腕を組んでじっとこちらを見ていた。声はないが、呆れ果てたようなため息が、その仕草だけで伝わってくる。
そしてもう一度、メモを取り出し――。
【次は面倒みないぞ】
nameは肩をすくめて笑った。その笑顔に、誰も怒鳴ることはできなかった。広間には緩やかな沈黙が流れる。誰も咎めることなく、ただその空気を許していた。そしてnameは思う。
この場所が、こんなにも温かいと思えるなんて――熱が下がった身体の芯に、ほんのわずかに残る火照りとともに、その事実だけが、ゆっくりと染み込んでいた。
広間の一角、窓辺に置かれたテーブルの上には、湯気の立つマグカップが静かに置かれていた。ロシナンテは無言のままそこに腰を下ろし、コートの襟を少し正しながら、熱のこもるカップにゆっくりと唇を寄せる。会話には加わらない。けれど、その存在は常に視界の端にある。空気の一部のように。
その背後、ドフラミンゴの膝の上で半ば丸まるように身を預けたnameは、彼が広げた新聞の端をつまんで顔を覗き込む。
「……ねえ、ドフィ。新聞ってほんと面白いこと載ってないよね……あ、これ、海軍の人たちだ。なんか昇進してる」
無邪気な口調に、ドフラミンゴは鼻で笑った。手にしていた新聞のページを軽く捲り、無言のまま視線を走らせる。nameの声など届いていないようにも見えたが――その口元には、うっすらと笑みの痕があった。
「……今日も仕事サボっちゃったなぁ。明日もこのままダラダラしてたい……ロシーがごはん持ってきてくれて、ドフィが新聞読んでて……なんか、こういうのって、幸せってやつじゃない?」
冗談めかしながらも、ぽつりと落とされたその言葉に、ドフラミンゴの指が新聞を折り曲げる音が重なった。彼はゆっくりとそれを膝に置き、サングラスの奥でnameの顔を見据える。
「……ふふ、何言ってやがる。お前の仕事、山積みだぞ?」
「……やだ、怖……なにそれ、今の言い方……やけに“それっぽく”言うじゃん」
nameの肩がびくりとわずかに揺れる。冗談めいた笑みの裏に、含みのある言い方。「お前しかできない仕事」――そう言外に伝わるものがあった。
「あー……はいはい……わかってますよ、俺が“体張って”くるやつでしょ……」
ソファにうつ伏せるようにしながら、クッションに顔を半分埋めて不貞腐れるname。その姿を見下ろしながら、ドフラミンゴの口元がさらに愉しげに歪む。
「……お前みたいなヤツはなァ、たまに寝込んで可愛くなったかと思えば、調子に乗って怠け始める……鞭入れねェとな?」
「わ、鞭はやだ……前、ほんとに痕残ったじゃん……てか、あれ、仕事っていうか……プレイだよね?」
ぼやくような声に、ロシナンテがくすりと笑った気配がした。彼は手元のコーヒーを飲みながら、視線を外へ向けたまま、それには一切関与しない。
二人の会話に深入りしない、それが彼なりの距離感だった。
「ダラけてんじゃねェよ、クソガキ。明日の朝には支度しとけ。次は“北”だ。……例の商会との話、詰めてこい」
「あ〜〜……やっぱそうなるよね……誰か他の奴じゃダメなのかなぁ……ドフィは俺しかダメって言うけどさ、ほんと、俺のこと便利に使ってるよねぇ〜……」
そう言いながらも、nameは文句を言うだけで逆らおうとはしない。この男の命令は、決して“拒否”という選択肢を許さない。それを理解しているからこそ、こうしてわざと甘えたように愚痴るしかないのだ。
「……嫌がる顔、見てるだけで十分楽しいからなァ」
ドフラミンゴがそう言って喉を鳴らすように笑えば、nameはさらに顔をソファに埋める。ロシナンテは静かにカップを置き、背もたれに身を預ける。
この空気が当たり前になっていくことに、どこか寂しさを感じながらも、それを誰にも言葉にできないまま。陽射しはますます穏やかに室内を包んでいた。小さな静けさと、皮肉な笑い声と、コーヒーの香り。すべてが絡み合い、彼らだけの午前を、ゆっくりと染め上げていった。
「……っ、あつ……」
微かに呻くように呟き、のろのろと身を起こす。汗で張りついたシャツが肌を引っ張る感触に眉をひそめるも、ふと、ソファに腰かけているロシナンテの姿が視界に入った。寝ているのかと思ったが、彼はすぐにこちらの動きに気づいて顔を上げる。
「起きたか、name。水、持ってくる」
そう言って、長い脚を折りたたむようにして立ち上がる。nameはぼんやりとその背を目で追い、ほどなくして差し出されたグラスを、両手で受け取った。
「……ありがと、ロシー……」
唇を湿らせるように少しずつ水を含む。喉を伝う冷たさが心地よく、nameはようやくほんの少しだけ息をつけた気がした。
「……俺、めっちゃ汗かいてない?気持ち悪……」
自分の胸元に視線を落としながら、顔をしかめてそう呟くと、ロシナンテは軽く頷いた。
「着替えさせてやる。身体も拭かねぇとな、これじゃ寝苦しいだろ」
「……んぇ……着替え、ありがと……でも……っ、ちょ、ロシー……」
濡れたシャツの裾を捲ろうとした彼の手に、慌てて片手を伸ばす。そのまま、少しふざけた調子で片目を細め、口元に薄く笑みを浮かべてから小声で囁いた。
「……えっちなことしないでよ?」
ロシナンテは一瞬だけ呆れたような顔をして、次に苦笑いを浮かべる。
「するかよ、バカ。病人に」
「いや~ロシー、目がちょっといやらしかったよ……?」
「そう見えるのは、お前の頭がいやらしいからだ」
あしらうように言いながらも、ロシナンテの声はどこか優しく、肩の力が抜けていた。そして、すでに用意してあった濡れタオルを手に、ベッドの端へと膝をつく。
「ほら、じっとしてろ。さっさと拭いて着替えて、もう一回寝ろ」
nameは観念したように小さく頷く。シャツを脱がせられると、ひんやりとした空気が火照った身体を撫で、思わず身をすくめた。
けれど次の瞬間には、タオル越しのロシナンテの手が、そっと首筋から鎖骨をなぞるように拭ってゆく。丁寧で、やさしい手つき。汗と熱の奥、浅く乱れる呼吸の向こうで、胸の奥がじんわりと疼いた。
「……ロシーの手、気持ちいい……」
ぽつりと漏れたその言葉に、ロシナンテの手が一瞬だけ止まり、すぐに再び動き出す。その微かな間が、どこかくすぐったく、nameはうっすらと笑みを浮かべながら、されるがまま身を委ねた。
ロシナンテの指先が、濡れたタオルを纏わせながらnameの首筋をゆっくりと撫でていく。額からこめかみ、耳の裏、そして鎖骨へと伝うその動きは、まるで何かを確かめるような慎重さを含んでいた。肌に触れる布の冷たさと、彼の指の体温が交錯し、熱に浮かされた身体はふわふわと揺れるような感覚に包まれる。
喉がごくりと鳴る。体温が高いせいだけではない、どこかざわついた感覚が、触れられている場所からじわりと広がっていく。nameは少しだけ目を開け、半分蕩けたような瞳でロシナンテを見る。
「……んっ……ロシー、優しすぎると……変な気分になっちゃうんだけど……」
言いながら、わざとらしく熱を帯びた息を吐き、頬を赤らめるようにして首をすくめてみせる。舌先で濡らした唇が艶を帯び、薄く笑んだその表情には、明らかに悪戯心が滲んでいた。ロシナンテはその顔をじっと見つめたまま、ぴたりと手を止める。
「……お前なぁ……」
呆れと困惑、それにほんのわずかな照れが混ざった声音。だが、すぐに肩をすくめ、苦笑交じりにタオルを持ち直すと、今度は淡々とした口調で返した。
「まぁ……それだけ余裕があるなら、熱も少しは下がってきたんだろうな」
「えー、なにそれ。さっきまであんなに看病してくれてたくせに……やっぱロシーってさ、そういうの冷たいとこあるよね」
「看病してる相手に色気づく奴がどこにいる」
即座に返され、nameはくすくすと笑う。けれど、その笑いの中には、どこか甘えるような響きもあった。
「でも、病人でも、俺とだったら……別にえっちなことしても、いいかなって……思わない?」
そう呟くように言いながら、タオルの合間から見える自分の胸元へ視線を落とす。薄い肌着越しに汗を吸った布が肌に貼り付き、濡れたような質感で浮き彫りになっていた鎖骨のライン。nameはそれをわざと意識するよう
に、ほんの少し胸を張ってみせる。ロシナンテは小さくため息をついた。
「……お前な」
そして、ふと視線を下げ、タオルをゆっくりと持ち上げる。そのまま、今度は右の脇腹へと滑り込ませるようにして拭いはじめた。
「……仕返し」
「えっ」
不意打ちのような言葉に、nameが瞬きしたその刹那――指先が、脇腹の柔らかい皮膚をなぞるようにくすぐる。
「ひゃ、っ……!ちょっ、や、ロシー、やめっ……っくすぐった……!」
笑いながら身をよじるname。タオル越しのくすぐったさは、思っていた以上に鋭く、指の動きに合わせてぴくんぴくんと身体が跳ねる。
「お前、ここ弱いの知ってんだよ」
「ず、ずるい、報復とか……子供かっ……!」
「悪ノリしたのはお前だろ」
ロシナンテは淡々とした声のまま、だがどこか楽しげな笑みを唇に乗せたまま、動きを止めようとはしない。その表情は、兄弟であるドフラミンゴとはまた別の意味で「意地悪」だった。
「……ん、あーっ……だめ、ほんとにっ……笑って苦しい……!」
「ほら、汗ひくどころか、余計熱くなってんじゃねぇか。全く……」
ようやく手を止め、nameの肩にタオルをかけると、ロシナンテは深く息をついた。
「でも、まぁ……それだけ動けるなら、もうちょっとで回復するな。安心した」
「……ふふ。心配してくれてたの?」
「当たり前だろ、バカ」
その一言が、やけに温かく胸に落ちる。nameはくしゃっと笑いながら、手を伸ばしてロシナンテのシャツの袖を軽くつまんだ。
「……じゃあ、もうちょっとだけ……わがまま言っても、いい?」
「……ああ。熱が下がるまでは、なんでも聞いてやるよ」
ぽつりと落ちたその言葉に、nameは小さく頷いて目を閉じる。くすぐったさの残る肌と、火照りの中に残る甘やかな空気。今だけは、誰にも邪魔されず、このぬくもりに包まれていたいと、そう、ただ願うように――。
午前中の柔らかな陽射しが、薄く雲のかかった天窓から差し込んでいた。熱の名残はもうどこにもなく、身体の節々も軽く感じる。nameは軽く伸びをしながら、ロシナンテと並んでアジトの廊下を歩いていた。歩調は自然とロシナンテに合わせている。彼の歩幅は大きく、いつもよりゆったりとしたそれは、どこか優しさの名残を感じさせた。
「……やっぱロシーと寝たら治るんだよなぁ、風邪……」
そう呟くように言えば、隣で歩くロシナンテが無言のまま、小さく片眉を上げた。
【誤解されるような言い方】
咎めるような視線。けれど、どこか照れたように目線はすぐ逸らされる。少ない言葉でも、表情で全てが伝わってくるのがこの男の不思議なところだった。
広間へと続く扉を押し開けると、そこにはすでに数人の幹部たちがソファに腰を下ろしていた。その中央、陽射しを背にして足を組んでいる男――ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
「……あれ?ドフィ……いるの、珍しい」
気配を察したのか、ドフラミンゴが軽く顎をあげてこちらを見やる。サングラスの奥、瞳の動きまではわからない。けれど、その口元が、ほんのわずかに緩んでいた。
「もう平気かァ?寝込みやがって、ガキみてぇだったなァ」
「え、珍しく優しいじゃん……ドフィってば……」
nameはくすりと笑いながら、ずかずかと近づくと、そのままソファに腰掛けていたドフラミンゴの脚の間にするりと身体を滑り込ませた。まるで帰る場所にでも戻るような自然さで。ドフラミンゴは一瞬目を細めたが、特に避けようともしなかった。
「あ〜……あったかい……ドフィもしかして、ずっとここで俺のこと待っててくれたの?」
「調子に乗るなよ、クソガキ」
そう言いながらも、nameを押しのけることはせず、むしろ腰のあたりに腕をまわして安定させるように抱える仕草をする。その手つきがどこか優しくて、気のせいか、胸の奥がくすぐったくなった。
「……も〜、ツンデレかよ……でも俺、弱ってる時の記憶って、なんか曖昧で……ロシーがずっと拭いてくれててさ、……すっごく気持ちよくて……もう夢かと思ってたよ……」
言葉の終わりに、ちらりと視線を送る。ロシナンテは壁際でそれを聞いていた。片手でメモを取り出し、カリカリと書いた文字を掲げて見せる。
【お前な、そういうことを人前で言うな】
そこにはやや大きめの文字で、呆れ半分、注意半分の怒りが込められていた。nameはそれを見てくすくす笑う。
「だって事実じゃん……ね、ドフィ?」
そう言って甘えるように身体を預ける。熱が引いたとは思えぬほど体温が高く感じたのは、たぶん彼の腕のせいだ。
「ふ、ふふ……元気じゃねェか。まったくよォ、手間かけさせやがって」
鼻で笑ったドフラミンゴの声が、喉の奥で低く響く。
そのまま、nameの後頭部に指を差し入れ、撫でるように髪をとかす。
指先が肌に触れるたび、ぴくんと震えが走る。
「今度寝込んだら、そのまま食っちまうからなァ?」
「……ん、それも悪くないかも……あ、でも……ロシーが怒るか……」
振り返った視線の先。ロシナンテは腕を組んでじっとこちらを見ていた。声はないが、呆れ果てたようなため息が、その仕草だけで伝わってくる。
そしてもう一度、メモを取り出し――。
【次は面倒みないぞ】
nameは肩をすくめて笑った。その笑顔に、誰も怒鳴ることはできなかった。広間には緩やかな沈黙が流れる。誰も咎めることなく、ただその空気を許していた。そしてnameは思う。
この場所が、こんなにも温かいと思えるなんて――熱が下がった身体の芯に、ほんのわずかに残る火照りとともに、その事実だけが、ゆっくりと染み込んでいた。
広間の一角、窓辺に置かれたテーブルの上には、湯気の立つマグカップが静かに置かれていた。ロシナンテは無言のままそこに腰を下ろし、コートの襟を少し正しながら、熱のこもるカップにゆっくりと唇を寄せる。会話には加わらない。けれど、その存在は常に視界の端にある。空気の一部のように。
その背後、ドフラミンゴの膝の上で半ば丸まるように身を預けたnameは、彼が広げた新聞の端をつまんで顔を覗き込む。
「……ねえ、ドフィ。新聞ってほんと面白いこと載ってないよね……あ、これ、海軍の人たちだ。なんか昇進してる」
無邪気な口調に、ドフラミンゴは鼻で笑った。手にしていた新聞のページを軽く捲り、無言のまま視線を走らせる。nameの声など届いていないようにも見えたが――その口元には、うっすらと笑みの痕があった。
「……今日も仕事サボっちゃったなぁ。明日もこのままダラダラしてたい……ロシーがごはん持ってきてくれて、ドフィが新聞読んでて……なんか、こういうのって、幸せってやつじゃない?」
冗談めかしながらも、ぽつりと落とされたその言葉に、ドフラミンゴの指が新聞を折り曲げる音が重なった。彼はゆっくりとそれを膝に置き、サングラスの奥でnameの顔を見据える。
「……ふふ、何言ってやがる。お前の仕事、山積みだぞ?」
「……やだ、怖……なにそれ、今の言い方……やけに“それっぽく”言うじゃん」
nameの肩がびくりとわずかに揺れる。冗談めいた笑みの裏に、含みのある言い方。「お前しかできない仕事」――そう言外に伝わるものがあった。
「あー……はいはい……わかってますよ、俺が“体張って”くるやつでしょ……」
ソファにうつ伏せるようにしながら、クッションに顔を半分埋めて不貞腐れるname。その姿を見下ろしながら、ドフラミンゴの口元がさらに愉しげに歪む。
「……お前みたいなヤツはなァ、たまに寝込んで可愛くなったかと思えば、調子に乗って怠け始める……鞭入れねェとな?」
「わ、鞭はやだ……前、ほんとに痕残ったじゃん……てか、あれ、仕事っていうか……プレイだよね?」
ぼやくような声に、ロシナンテがくすりと笑った気配がした。彼は手元のコーヒーを飲みながら、視線を外へ向けたまま、それには一切関与しない。
二人の会話に深入りしない、それが彼なりの距離感だった。
「ダラけてんじゃねェよ、クソガキ。明日の朝には支度しとけ。次は“北”だ。……例の商会との話、詰めてこい」
「あ〜〜……やっぱそうなるよね……誰か他の奴じゃダメなのかなぁ……ドフィは俺しかダメって言うけどさ、ほんと、俺のこと便利に使ってるよねぇ〜……」
そう言いながらも、nameは文句を言うだけで逆らおうとはしない。この男の命令は、決して“拒否”という選択肢を許さない。それを理解しているからこそ、こうしてわざと甘えたように愚痴るしかないのだ。
「……嫌がる顔、見てるだけで十分楽しいからなァ」
ドフラミンゴがそう言って喉を鳴らすように笑えば、nameはさらに顔をソファに埋める。ロシナンテは静かにカップを置き、背もたれに身を預ける。
この空気が当たり前になっていくことに、どこか寂しさを感じながらも、それを誰にも言葉にできないまま。陽射しはますます穏やかに室内を包んでいた。小さな静けさと、皮肉な笑い声と、コーヒーの香り。すべてが絡み合い、彼らだけの午前を、ゆっくりと染め上げていった。