15 y ago
name
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階段を下り、長く伸びる廊下に足を踏み出した時、ようやく夕陽の余熱も遠のいていた。艶のある黒い床にはまだ濡れた靴の痕がぽつぽつと続いている。歩くたびに、衣擦れと、時折ぽたっと音を立てる雫。濡れた髪の先から滴るそれは、冷たいというよりも、今や鬱陶しさに近い。
「……ロシーのせいだからな、まじで」
nameはぶつぶつと文句を垂れながら、だがどこか口元は緩んでいる。濡れた白いコートは肩から外して抱えられ、シャツもまだ身体に張り付いたまま。コートの襟元のもふもふはすっかりしぼんで、元のふわりとした威厳も、今は見る影もない。
隣を歩くロシナンテは、相変わらずメモを手の中に抱えたまま。nameの不満も一応聞き流してはいるようだが、歩幅を合わせ、濡れたnameに風が当たらぬよう少し前を歩いて庇っている。さりげない気遣いが癖になっているのが、逆に少しむかつく。
角を曲がった先、ちょうど壁に寄りかかって談笑していた幹部たちの姿があった。
「おーいおいおい……見ろよ、誰かと思ったら水難事故の被害者じゃねぇか」
声を上げたのはディアマンテだ。やけに楽しそうに口元を吊り上げ、nameの頭から足元までを視線でなぞる。その隣でグラディウスは眉間をひくつかせ、しかし鼻で笑っている。
「……これでまた廊下がびちゃびちゃになるな」
「うっさいなー!掃除しとくよ、ちゃんと!」
nameは即座に言い返しながらも、背筋をしゃんと伸ばし、堂々と通り過ぎようとする。だが濡れたシャツ越しにうっすら肌の色が透け、首元から鎖骨にかけてのラインが艶かしく見えてしまっているのを、本人だけが意識していない。
「……っていうか、見すぎじゃない?もしかしてそういう趣味?」
軽口を飛ばしながら、片方の眉を吊り上げるようにして挑発的な笑みを浮かべる。ロシナンテは呆れたように小さく肩をすくめながら、メモにささっと走り書きをする。
【着替えさせるから、構わなくていい】
「おお、さすが保護者殿!しっかりしてんなぁ!」
ディアマンテがケラケラと笑い、グラディウスはため息混じりに「くだらねぇ」と吐き捨てたが、どちらも咎めるつもりはないらしい。
「……もう!俺が濡れてるのはロシーのせいって、ちゃんと言ってよ!」
【言ってる】
メモをひらひらと見せられて、nameはまたむぐっと唇を噛んだ。脱がせてもらえるのが楽しみでうっかり怒れない自分がいるのも腹立たしい。背中に感じる幹部たちの笑い声を尻目に、二人は再び歩き出す。
ロシナンテの部屋はもうすぐそこ。ドフラミンゴの部屋の熱気とは異なり、少し肌寒いその部屋で、ようやく着替えと、そして――少しの報いを受けさせる番だと、nameは密かに思っていた。唇の端が、ゆっくりと悪戯めいて上がる。
ずぶ濡れのまま、濡れ衣を着せられた男が、今日もまたロシナンテの部屋に転がり込む。けれどそれが、いつもの、変わらぬ夜の始まりだった。
部屋の扉が閉まると同時に、わずかにこもった湿度と石鹸の香りが鼻をくすぐった。重厚な木製の床は濡れた足跡を嫌ってか、いつも以上に冷たく、nameは思わず肩をすくめる。
「……ってか、ロシー、ちょっとは申し訳ないと思ってんの?」
「思ってる。でもそれ、今言うか?」
低く掠れた声で返されて、nameはむうっと口を尖らせた。脱いだコートをラックにかける暇もなく、手を引かれて振り返ると、視線の先にはロシナンテの冷ややかな顔。
「おい、濡れたまま入ってくな。部屋がカビる」
「やだ〜、えっち!いきなり脱がすなんて、ちょっと……」
わざと艶っぽく声を伸ばすと、ロシナンテは心底呆れたようにため息を吐いた。
「お前が放っといたら絶対そのままベッドに倒れ込むって知ってるから、先に脱がせるだけだ。変な意味じゃない」
「うっわ、冷たい。ひど〜……」
濡れたシャツの前ボタンをぷつりと外され、指先が胸元にかかる。思いのほか丁寧な手つきで、しかし躊躇いもなく、次々と布が剥がされていく。nameの肌に触れた冷気が、鳥肌のような波紋を走らせた。シャツが脱がされ、ズボンのファスナーにかかったところで、nameは小さく身をよじる。
「ロシー、そんなに焦らなくても……下着ぐらい自分で脱げるもん」
「お前の“自分でやる”は信用ならない。素直に脱げ」
「は〜い、はいはい。やだもう、えっちだな〜ロシーってば……」
ロシナンテは視線も合わせずに脱がせ終えると、すぐに脱衣かごを抱えて浴室へ向かおうとする。が、その前に、ぬるりと濡れたnameの腕を掴み、ぐっと引っ張る。
「ほら、シャワー浴びてこい。部屋、濡らすな」
「えー、ロシーも一緒に浴びてくれたら、部屋濡らさないよ?」
「お前がまともに身体洗わず遊びだすのが目に見えてる。行け」
ぽん、と背を押されると、nameは軽く笑って浴室の扉を開ける。
「あーもー……力抜けたロシーで遊ぶつもりだったのにー……次の服選んでおいてね〜、えっちなやつ〜」
扉が閉まる直前に投げかけられた声に、ロシナンテはようやく肩をすくめ、くつくつと喉の奥で笑う。
「……バカ」
呟くその声には、ほんの微かに、安堵と愛着が滲んでいた。濡れた床には、nameの素足の跡が点々と残り、彼が笑いながら浴室の中に消えていった証として、そこに静かに揺れていた。
シャワーを終えたnameが浴室の扉を引くと、ふわりと湯気が部屋へと溶け込んだ。肌に残る熱が一層の眠気と心地よさをもたらしていて、足元はすでに少しふらついていた。
濡れた髪から滴る水をタオルで拭いながら部屋の中央へ進むと、そこにはすでにロシナンテが準備していた大判のバスタオルと、彼自身のだぶだぶのシャツが置かれていた。広げてみると、それはやけに柔らかく、長い袖がnameの指先をすっぽりと包み隠す。肩も裾も落ち、まるで膝丈ほどのワンピースのようだ。
「ロシー……これ、もはや服っていうか布じゃん」
冗談交じりに言いながら袖をぶんぶん振ってみせると、ベッド脇の椅子に座っていたロシナンテが目を細めて笑い、手招きする。
「そこ、座れ。髪、乾かす」
「はぁい……ロシーの美容室、開店〜」
くたりと椅子に腰掛けると、まだ湯気の残る首筋にふわりと風が当たった。ロシナンテが立ち上がり、ドライヤーを手にしながら後ろに回り込む。ごう、と一定の風音が響き、その中に混じる指先の感触がやけに優しかった。
nameは半ば目を閉じ、ゆったりとしたまどろみのなかに身を預ける。くすぐったいような、気持ちいいような、首元をすべる指先が、しっとりと濡れた髪をやさしくほぐしていく。
「……なんかさ、ロシーってこういうの、ほんと上手いよね」
「うるさい。じっとしてろ」
「だってさ、これ、自分の男にやってもらうやつじゃん……あ、まさか俺らってそういう関係だった?今さらだけど、責任とってくれます?」
「バカ言ってねぇで前向け」
乾いた笑い声がnameの頭のすぐ後ろで響く。けれど、その声にはどこかあたたかい空気が含まれていた。あくまで事務的に、当然のように。だが、その指のひとつひとつは、nameの髪の絡まりを逃さず、丁寧に解いていく。
湯上がりの熱が少しずつ引き、首筋に当たる冷風に少し身をすくめる。下着だけの脚に布の裾がふわりと触れるたびに、寒さよりも妙な心地よさが湧いてくる。
「……ねぇロシー。こういうの、毎日やってくれてもいいよ?」
「毎日プールに落としていいってことか?」
「やだー、それは勘弁。着る服なくなっちゃう」
笑いながら身を捩ると、ロシナンテの指が頭頂をぐりぐりと押さえてきて、nameは子供のように「いだだだ」と声を上げた。
それでも、その何気ないやりとりが、妙に心地よくて。ふたりの間を流れる空気は、いつもより少しだけ、やわらかく、あたたかかった。
椅子に座ったまま、nameは乾ききった髪を揺らして頭を傾ける。湯上がりの肌はほんのりと紅潮し、目元には眠気と甘さが滲んでいた。ロシナンテはタオルを片付けながらも、彼の仕草を見逃してはいない。
「ねぇ、ロシー……」
首を仰ぎ、いたずらっぽい笑みを浮かべたnameが、小さく囁く。
「仕上げのチュー、くれないの?」
その言い回しはふざけていた。媚びるように長く伸ばされた語尾、唇を少し尖らせた表情――。けれど、name自身もそれが本当に叶うとは思っていなかった。きっとロシナンテは呆れて笑って、いつものようにおどけて流すだろう。そう思っていた。
だから、その一瞬、ロシナンテが無言のまま動いたことに、思わず身体が強張った。
「……っ」
喉元に添えられた大きな手が、ぐいと顔を固定するようにして顎を引き上げる。笑い飛ばすような気配は、どこにもなかった。唇が触れる寸前、nameの呼吸が止まりかける。
そして――。
柔らかな感触が触れたと思う間もなく、その奥へと熱が流れ込んできた。
唇だけでは済まされない、明らかに侵入と呼ぶべき深さ。舌先がゆっくりと、しかし迷いなくnameの口内を探り、味わい、犯していく。奥歯に触れ、喉の近くまで押し込まれた感覚に、思わず背筋が震えた。
「ん、……ぁ……っ」
息が漏れる。鼻腔にかかるロシナンテの吐息、髪に触れる手のひらの熱。逃れようにも、喉元に添えられた手はしっかりとnameの体を固定しており、唇の隙間すら与えない。
まるで何もかも奪うような、深く、重く、圧倒的な口づけ。時間の感覚が曖昧になる。ゆっくりと、舌が絡む。甘く、ぬるく、粘膜同士が擦れ合い、唾液が混ざり、喉の奥をくすぐる感覚が続いていく。
やがてようやく、名残惜しげに舌が引かれた。唇が離れた瞬間、ふたりのあいだには銀糸のような糸がたゆたう。
nameは目を見開いたまま、言葉を失っていた。頬は朱に染まり、唇はじっとりと濡れて開いている。身体の芯までとろけてしまいそうな余韻が、全身を支配していた。ロシナンテは微かに目を細め、口角だけで笑う。
「……その顔、してくれないと思ってたって言ってるようなもんだぞ」
その低い声に、nameはわずかに瞳を瞬かせる。やがてゆっくりと、首をすくめるように笑いを含ませた。
「……だって、ロシー、俺がおねだりしてもなかなかくれないじゃーん……」
ぺろりと唇をいたずらに舐め取り。胸の奥に触れたものを、言葉にはできずに。ただ唇の熱を、忘れまいとするように――nameはそっと、また目を閉じた。
nameの視線は、艶を帯びた挑発そのものだった。乾きかけた濡れ髪を肩に垂らし、オーバーサイズのシャツの襟元をわざと緩め、ちらつく鎖骨を指先でなぞる。その動作ひとつひとつが、甘く湿った誘いのようにロシナンテの目を射抜いてくる。
「ねぇ、ロシー……あんなキスしておいて、もう終わり?」
nameの声は囁くように掠れ、どこか焦らすような甘さを含んでいる。
ふわりと脚を組みかえた拍子に、シャツの裾がめくれ、下着だけの太腿が露わになる。nameはそれに気づいていながら、気にする素振りも見せず、むしろそのまま両手で椅子の肘掛けに触れ、首を傾けてロシナンテを見上げる。
「…続き、してくれてもいいんだよ?」
にや、と悪戯に笑うその顔。けれど目元は潤んで、熱を含んでいた。ロシナンテの喉がごくりと鳴る。その音を聞き逃すnameではない。そっと手を伸ばして、ロシナンテの指先に触れた。
「ね?ロシーの手、俺大好きなんだよねぇ…どこから触りたい?」
そのまま、からめるようにして指を這わせ、爪先で手の甲をくすぐる。ロシナンテはその手を見下ろしながら、ふっと鼻で笑った。
そして――
「……悪い顔するようになったな、お前も」
低く、呆れたような声音。けれど、その手を払いもせず、むしろ指を絡め返してくる。その大きな掌が、そっとnameの頬へと触れる。親指で下唇をなぞるその動きに、nameの背筋がぴくりと震えた。
「……っ」
すぐにその指が喉元へと滑り、項を掴むようにして顔を引き寄せる。体勢が崩れたまま、椅子の背もたれに軽く押し付けられるようになり、唇が重なった。熱い、深い、咥内の奥まで抉るようなキス。舌先が絡まり、呼吸もままならないほどに、意識が蕩けていく。濡れたような音が室内に滲み、肌の奥からじわじわと熱が立ち昇った。
「……ロシー……っ、ん……ふ、」
肩に置かれた手がほんの少し、指先を滑らせる。その気配にnameの腰が、自然と椅子の上で落ち着きなく揺れた。
「……いいよ、ロシー。もっとして……いいよ……」
甘えるように、囁くように、誘うように。nameの手はロシナンテのシャツの裾に触れ、服越しに腹筋の硬さを確かめるように撫でる。
そのときだった。
「……っ、ひゅっ……ちゅんっ!」
突然の小さなくしゃみ。思わず身をすくめるname。
室内の熱気が、ほんのわずかにしぼむ。
「……あっ……い、いや、ちが……くしゃみとか、ただの気のせい、いや、その……っ」
慌てて弁解を試みるnameだったが、ロシナンテは片眉をあげたまま、じっと彼を見下ろしていた。唇の端が、わずかに引きつっている。
「ばか、あっためた意味、どこいった?」
呆れたようにぽつりと呟く。そのまま、ふぅっとため息をついて、nameの額に手をあてる。
「……ああ、やっぱちょっと熱い。だめ。今日は、な」
「えっ……や、ちょ……だってロシーだって、さっき……その……」
「バカは風邪ひかないけど、お前はバカすぎてひくんだよ」
真顔で言われた一言に、nameは目をしばたたき、そして頬を膨らませて舌打ちまがいに「ちぇっ」と言った。
「せっかくその気になってたのに……ロシーのばか」
それに対する返事はなかった。けれどロシナンテの大きな手は、そっとnameの頭を撫でたまま離れなかった。そのやわらかな掌に、nameは何も言えず、ただ、身を預けるだけだった。
「……ロシーのせいだからな、まじで」
nameはぶつぶつと文句を垂れながら、だがどこか口元は緩んでいる。濡れた白いコートは肩から外して抱えられ、シャツもまだ身体に張り付いたまま。コートの襟元のもふもふはすっかりしぼんで、元のふわりとした威厳も、今は見る影もない。
隣を歩くロシナンテは、相変わらずメモを手の中に抱えたまま。nameの不満も一応聞き流してはいるようだが、歩幅を合わせ、濡れたnameに風が当たらぬよう少し前を歩いて庇っている。さりげない気遣いが癖になっているのが、逆に少しむかつく。
角を曲がった先、ちょうど壁に寄りかかって談笑していた幹部たちの姿があった。
「おーいおいおい……見ろよ、誰かと思ったら水難事故の被害者じゃねぇか」
声を上げたのはディアマンテだ。やけに楽しそうに口元を吊り上げ、nameの頭から足元までを視線でなぞる。その隣でグラディウスは眉間をひくつかせ、しかし鼻で笑っている。
「……これでまた廊下がびちゃびちゃになるな」
「うっさいなー!掃除しとくよ、ちゃんと!」
nameは即座に言い返しながらも、背筋をしゃんと伸ばし、堂々と通り過ぎようとする。だが濡れたシャツ越しにうっすら肌の色が透け、首元から鎖骨にかけてのラインが艶かしく見えてしまっているのを、本人だけが意識していない。
「……っていうか、見すぎじゃない?もしかしてそういう趣味?」
軽口を飛ばしながら、片方の眉を吊り上げるようにして挑発的な笑みを浮かべる。ロシナンテは呆れたように小さく肩をすくめながら、メモにささっと走り書きをする。
【着替えさせるから、構わなくていい】
「おお、さすが保護者殿!しっかりしてんなぁ!」
ディアマンテがケラケラと笑い、グラディウスはため息混じりに「くだらねぇ」と吐き捨てたが、どちらも咎めるつもりはないらしい。
「……もう!俺が濡れてるのはロシーのせいって、ちゃんと言ってよ!」
【言ってる】
メモをひらひらと見せられて、nameはまたむぐっと唇を噛んだ。脱がせてもらえるのが楽しみでうっかり怒れない自分がいるのも腹立たしい。背中に感じる幹部たちの笑い声を尻目に、二人は再び歩き出す。
ロシナンテの部屋はもうすぐそこ。ドフラミンゴの部屋の熱気とは異なり、少し肌寒いその部屋で、ようやく着替えと、そして――少しの報いを受けさせる番だと、nameは密かに思っていた。唇の端が、ゆっくりと悪戯めいて上がる。
ずぶ濡れのまま、濡れ衣を着せられた男が、今日もまたロシナンテの部屋に転がり込む。けれどそれが、いつもの、変わらぬ夜の始まりだった。
部屋の扉が閉まると同時に、わずかにこもった湿度と石鹸の香りが鼻をくすぐった。重厚な木製の床は濡れた足跡を嫌ってか、いつも以上に冷たく、nameは思わず肩をすくめる。
「……ってか、ロシー、ちょっとは申し訳ないと思ってんの?」
「思ってる。でもそれ、今言うか?」
低く掠れた声で返されて、nameはむうっと口を尖らせた。脱いだコートをラックにかける暇もなく、手を引かれて振り返ると、視線の先にはロシナンテの冷ややかな顔。
「おい、濡れたまま入ってくな。部屋がカビる」
「やだ〜、えっち!いきなり脱がすなんて、ちょっと……」
わざと艶っぽく声を伸ばすと、ロシナンテは心底呆れたようにため息を吐いた。
「お前が放っといたら絶対そのままベッドに倒れ込むって知ってるから、先に脱がせるだけだ。変な意味じゃない」
「うっわ、冷たい。ひど〜……」
濡れたシャツの前ボタンをぷつりと外され、指先が胸元にかかる。思いのほか丁寧な手つきで、しかし躊躇いもなく、次々と布が剥がされていく。nameの肌に触れた冷気が、鳥肌のような波紋を走らせた。シャツが脱がされ、ズボンのファスナーにかかったところで、nameは小さく身をよじる。
「ロシー、そんなに焦らなくても……下着ぐらい自分で脱げるもん」
「お前の“自分でやる”は信用ならない。素直に脱げ」
「は〜い、はいはい。やだもう、えっちだな〜ロシーってば……」
ロシナンテは視線も合わせずに脱がせ終えると、すぐに脱衣かごを抱えて浴室へ向かおうとする。が、その前に、ぬるりと濡れたnameの腕を掴み、ぐっと引っ張る。
「ほら、シャワー浴びてこい。部屋、濡らすな」
「えー、ロシーも一緒に浴びてくれたら、部屋濡らさないよ?」
「お前がまともに身体洗わず遊びだすのが目に見えてる。行け」
ぽん、と背を押されると、nameは軽く笑って浴室の扉を開ける。
「あーもー……力抜けたロシーで遊ぶつもりだったのにー……次の服選んでおいてね〜、えっちなやつ〜」
扉が閉まる直前に投げかけられた声に、ロシナンテはようやく肩をすくめ、くつくつと喉の奥で笑う。
「……バカ」
呟くその声には、ほんの微かに、安堵と愛着が滲んでいた。濡れた床には、nameの素足の跡が点々と残り、彼が笑いながら浴室の中に消えていった証として、そこに静かに揺れていた。
シャワーを終えたnameが浴室の扉を引くと、ふわりと湯気が部屋へと溶け込んだ。肌に残る熱が一層の眠気と心地よさをもたらしていて、足元はすでに少しふらついていた。
濡れた髪から滴る水をタオルで拭いながら部屋の中央へ進むと、そこにはすでにロシナンテが準備していた大判のバスタオルと、彼自身のだぶだぶのシャツが置かれていた。広げてみると、それはやけに柔らかく、長い袖がnameの指先をすっぽりと包み隠す。肩も裾も落ち、まるで膝丈ほどのワンピースのようだ。
「ロシー……これ、もはや服っていうか布じゃん」
冗談交じりに言いながら袖をぶんぶん振ってみせると、ベッド脇の椅子に座っていたロシナンテが目を細めて笑い、手招きする。
「そこ、座れ。髪、乾かす」
「はぁい……ロシーの美容室、開店〜」
くたりと椅子に腰掛けると、まだ湯気の残る首筋にふわりと風が当たった。ロシナンテが立ち上がり、ドライヤーを手にしながら後ろに回り込む。ごう、と一定の風音が響き、その中に混じる指先の感触がやけに優しかった。
nameは半ば目を閉じ、ゆったりとしたまどろみのなかに身を預ける。くすぐったいような、気持ちいいような、首元をすべる指先が、しっとりと濡れた髪をやさしくほぐしていく。
「……なんかさ、ロシーってこういうの、ほんと上手いよね」
「うるさい。じっとしてろ」
「だってさ、これ、自分の男にやってもらうやつじゃん……あ、まさか俺らってそういう関係だった?今さらだけど、責任とってくれます?」
「バカ言ってねぇで前向け」
乾いた笑い声がnameの頭のすぐ後ろで響く。けれど、その声にはどこかあたたかい空気が含まれていた。あくまで事務的に、当然のように。だが、その指のひとつひとつは、nameの髪の絡まりを逃さず、丁寧に解いていく。
湯上がりの熱が少しずつ引き、首筋に当たる冷風に少し身をすくめる。下着だけの脚に布の裾がふわりと触れるたびに、寒さよりも妙な心地よさが湧いてくる。
「……ねぇロシー。こういうの、毎日やってくれてもいいよ?」
「毎日プールに落としていいってことか?」
「やだー、それは勘弁。着る服なくなっちゃう」
笑いながら身を捩ると、ロシナンテの指が頭頂をぐりぐりと押さえてきて、nameは子供のように「いだだだ」と声を上げた。
それでも、その何気ないやりとりが、妙に心地よくて。ふたりの間を流れる空気は、いつもより少しだけ、やわらかく、あたたかかった。
椅子に座ったまま、nameは乾ききった髪を揺らして頭を傾ける。湯上がりの肌はほんのりと紅潮し、目元には眠気と甘さが滲んでいた。ロシナンテはタオルを片付けながらも、彼の仕草を見逃してはいない。
「ねぇ、ロシー……」
首を仰ぎ、いたずらっぽい笑みを浮かべたnameが、小さく囁く。
「仕上げのチュー、くれないの?」
その言い回しはふざけていた。媚びるように長く伸ばされた語尾、唇を少し尖らせた表情――。けれど、name自身もそれが本当に叶うとは思っていなかった。きっとロシナンテは呆れて笑って、いつものようにおどけて流すだろう。そう思っていた。
だから、その一瞬、ロシナンテが無言のまま動いたことに、思わず身体が強張った。
「……っ」
喉元に添えられた大きな手が、ぐいと顔を固定するようにして顎を引き上げる。笑い飛ばすような気配は、どこにもなかった。唇が触れる寸前、nameの呼吸が止まりかける。
そして――。
柔らかな感触が触れたと思う間もなく、その奥へと熱が流れ込んできた。
唇だけでは済まされない、明らかに侵入と呼ぶべき深さ。舌先がゆっくりと、しかし迷いなくnameの口内を探り、味わい、犯していく。奥歯に触れ、喉の近くまで押し込まれた感覚に、思わず背筋が震えた。
「ん、……ぁ……っ」
息が漏れる。鼻腔にかかるロシナンテの吐息、髪に触れる手のひらの熱。逃れようにも、喉元に添えられた手はしっかりとnameの体を固定しており、唇の隙間すら与えない。
まるで何もかも奪うような、深く、重く、圧倒的な口づけ。時間の感覚が曖昧になる。ゆっくりと、舌が絡む。甘く、ぬるく、粘膜同士が擦れ合い、唾液が混ざり、喉の奥をくすぐる感覚が続いていく。
やがてようやく、名残惜しげに舌が引かれた。唇が離れた瞬間、ふたりのあいだには銀糸のような糸がたゆたう。
nameは目を見開いたまま、言葉を失っていた。頬は朱に染まり、唇はじっとりと濡れて開いている。身体の芯までとろけてしまいそうな余韻が、全身を支配していた。ロシナンテは微かに目を細め、口角だけで笑う。
「……その顔、してくれないと思ってたって言ってるようなもんだぞ」
その低い声に、nameはわずかに瞳を瞬かせる。やがてゆっくりと、首をすくめるように笑いを含ませた。
「……だって、ロシー、俺がおねだりしてもなかなかくれないじゃーん……」
ぺろりと唇をいたずらに舐め取り。胸の奥に触れたものを、言葉にはできずに。ただ唇の熱を、忘れまいとするように――nameはそっと、また目を閉じた。
nameの視線は、艶を帯びた挑発そのものだった。乾きかけた濡れ髪を肩に垂らし、オーバーサイズのシャツの襟元をわざと緩め、ちらつく鎖骨を指先でなぞる。その動作ひとつひとつが、甘く湿った誘いのようにロシナンテの目を射抜いてくる。
「ねぇ、ロシー……あんなキスしておいて、もう終わり?」
nameの声は囁くように掠れ、どこか焦らすような甘さを含んでいる。
ふわりと脚を組みかえた拍子に、シャツの裾がめくれ、下着だけの太腿が露わになる。nameはそれに気づいていながら、気にする素振りも見せず、むしろそのまま両手で椅子の肘掛けに触れ、首を傾けてロシナンテを見上げる。
「…続き、してくれてもいいんだよ?」
にや、と悪戯に笑うその顔。けれど目元は潤んで、熱を含んでいた。ロシナンテの喉がごくりと鳴る。その音を聞き逃すnameではない。そっと手を伸ばして、ロシナンテの指先に触れた。
「ね?ロシーの手、俺大好きなんだよねぇ…どこから触りたい?」
そのまま、からめるようにして指を這わせ、爪先で手の甲をくすぐる。ロシナンテはその手を見下ろしながら、ふっと鼻で笑った。
そして――
「……悪い顔するようになったな、お前も」
低く、呆れたような声音。けれど、その手を払いもせず、むしろ指を絡め返してくる。その大きな掌が、そっとnameの頬へと触れる。親指で下唇をなぞるその動きに、nameの背筋がぴくりと震えた。
「……っ」
すぐにその指が喉元へと滑り、項を掴むようにして顔を引き寄せる。体勢が崩れたまま、椅子の背もたれに軽く押し付けられるようになり、唇が重なった。熱い、深い、咥内の奥まで抉るようなキス。舌先が絡まり、呼吸もままならないほどに、意識が蕩けていく。濡れたような音が室内に滲み、肌の奥からじわじわと熱が立ち昇った。
「……ロシー……っ、ん……ふ、」
肩に置かれた手がほんの少し、指先を滑らせる。その気配にnameの腰が、自然と椅子の上で落ち着きなく揺れた。
「……いいよ、ロシー。もっとして……いいよ……」
甘えるように、囁くように、誘うように。nameの手はロシナンテのシャツの裾に触れ、服越しに腹筋の硬さを確かめるように撫でる。
そのときだった。
「……っ、ひゅっ……ちゅんっ!」
突然の小さなくしゃみ。思わず身をすくめるname。
室内の熱気が、ほんのわずかにしぼむ。
「……あっ……い、いや、ちが……くしゃみとか、ただの気のせい、いや、その……っ」
慌てて弁解を試みるnameだったが、ロシナンテは片眉をあげたまま、じっと彼を見下ろしていた。唇の端が、わずかに引きつっている。
「ばか、あっためた意味、どこいった?」
呆れたようにぽつりと呟く。そのまま、ふぅっとため息をついて、nameの額に手をあてる。
「……ああ、やっぱちょっと熱い。だめ。今日は、な」
「えっ……や、ちょ……だってロシーだって、さっき……その……」
「バカは風邪ひかないけど、お前はバカすぎてひくんだよ」
真顔で言われた一言に、nameは目をしばたたき、そして頬を膨らませて舌打ちまがいに「ちぇっ」と言った。
「せっかくその気になってたのに……ロシーのばか」
それに対する返事はなかった。けれどロシナンテの大きな手は、そっとnameの頭を撫でたまま離れなかった。そのやわらかな掌に、nameは何も言えず、ただ、身を預けるだけだった。