15 y ago
name
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陽射しは容赦なく降り注ぎ、舗道の石畳がじりじりと焼ける音が聞こえてきそうな昼下がり。賑わう市場通りには、果物や布、香辛料の匂いが混ざり合い、熱気とともに揺らめいていた。日傘もささずに歩くnameは、手で額の汗を拭いながら、通りに並ぶ屋台をきょろきょろと見回していた。
「ロシー……暑い……このままじゃ干からびる……アイスどこ……」
後ろを歩いていたロシナンテが、無言でくいっとシャツの襟元を引っ張って日陰をつくってくれる。nameはへらりと笑って「ありがとう〜」とだけ言って、さらに一歩前に出た。ふたりで並んで歩くこの街中、それも昼間というのは、どれくらいぶりだろう。ロシナンテの背の高さが目立ちすぎて、どう見てもふつうの客には見えないのに、誰もそれを気にしていないのが不思議だった。
「……ってかさ」
ふと、nameが歩を緩める。その表情には笑みがあるものの、視線は真っ直ぐにロシナンテの肩口を見ていた。
「……前に撃たれたとこ、ほんとに平気?」
言葉は軽いが、瞳の奥には微かな緊張が潜んでいた。ロシナンテは立ち止まり、ポケットから取り出したメモにさらさらと文字を書く。
【もう痛まない。ちゃんと治ってる】
それを見せられても、nameの顔にはまだすっきりしない色が残ったままだった。ちらりと、少しだけ唇を噛む。それでも、あまり深くは踏み込まない。
「ふーん……なら、いいけどさ。……あれ以来、あんま気が抜けないんだよ、こっちは」
そう言って、小さく肩を竦める。けれど、口元は緩んでいた。いつもの調子に戻すかのように、わざと明るく言葉を続ける。
「ってかさー、俺らふたりでさ、真っ昼間の街歩くとか……似合わなくない?ねぇロシー、夜の裏路地の方がしっくりくるよねぇ?」
そんな冗談に、ロシナンテは小さく肩を揺らして笑ったあと、またメモをひらく。
【でも、今日のお前は昼の光でもちゃんと見えてる】
その言葉に、nameは一瞬だけ目を見開いて、それから――ふっと目を細めた。まぶしそうに空を仰ぎながら、手の甲で額の汗を拭い、笑う。
「うわ……どんな口説き文句だよ」
照れ隠しのようにぼやくと、視線は屋台の奥にある看板へ。
色とりどりのアイスキャンデーが並ぶ屋台がようやく見えて、nameは嬉しそうに声を上げた。
「あっ!見っけ!アイスアイス!ロシー、早くいこっ!」
ロシナンテの手をぐいっと引いて、屋台へと駆け出すname。その後ろ姿を、ロシナンテは緩やかな歩調で追いながら、そっと笑う。
昼の光のなかでも、笑える時間が、たしかにそこにあった。それは儚くても、まるで幻のようでも――今だけは確かに、本物だった。
「うーん……どれにしよう……」
屋台の前で足を止めたnameは、ガラス越しにずらりと並ぶアイスキャンデーを前に、腕を組んで真剣な顔をしていた。鮮やかな色合いがずらりと並ぶ冷凍棚の中には、果物を模したもの、ラムネ玉が詰まったもの、甘いだけじゃなく刺激的なスパイス入りのものまで、目移りしそうなほど種類があった。
「これも捨てがたい……けど、こっちの色……いや、でも……」
額に手を当てて唸る様は、まるで作戦会議でもしているよう。隣で立つロシナンテは、帽子の影の奥で目を細めて微笑みながら、ポケットからメモを取り出す。ぺら、とめくったページには、あらかじめ書いていたのかのように、簡単なひと言。
【奢り、だからな?】
それをちらりと見せられて、nameはぱっと顔を上げた。
「そ、そうだよ!?ロシーが今日は買ってくれるって言ったんじゃん!」
そう主張しつつ、口元はわずかに緩んでいる。そのまま両手を後ろに組み、首を傾けながら、アイスのケースをのぞきこむ。
「……じゃあ、せっかくだしちょっと高いやつにしよっかな。……あ、でも二本食べるとかじゃないからね?一応、遠慮の美徳ってことで」
ちら、とロシナンテを見上げて、からかうように笑った。ロシナンテは目を細めて小さく肩をすくめると、アイスの陳列に視線を落とす。nameに促されて、彼自身もゆっくりと選び始める。
――静かな時間だった。
日陰ではあったが、陽射しの熱はじわりと空気を包んでいて、遠くでは船の汽笛が鳴っている。街のざわめきはどこか柔らかく、ふたりの周りだけが妙に静かで、まるで別の空気が流れているかのようだった。
「ロシーはどれにすんの?」
屈みこんだnameが、背後をちらりと振り返る。ロシナンテは棚をじっと見つめながら、もう一枚、別の紙を取り出して見せる。そこにはシンプルに――
【パイナップル】
「……わかる〜。夏っぽいもんね。爽やかで甘くて、ちょっと酸っぱくて……」
そう言いながら、nameもようやくひとつに決めたらしい。指差したのは、白と緑の縞模様が美しい、ミントライム味のキャンデーだった。
「これにする!俺、甘すぎるの苦手なんだよね。ちょっとスーッとするくらいが丁度いいの」
受け取ったアイスを眺めながら、嬉しそうに揺れる肩先。ロシナンテが支払いを済ませ、二人は並んで屋台を離れる。ほんの少し冷えた空気をまとったキャンデーの棒を口に含みながら、nameはくすくすと笑った。
「なーんか……昼間っぽいね、俺たち」
そう言うその声には、微かに名残惜しさと、ほんの少しの照れが混じっていた。ロシナンテは隣でキャンデーを口に運びながら、ただ静かに頷いた。この一瞬だけは、何者にも追われず、何者にも追い立てられず。ふたりだけの、甘く冷たい、束の間の昼下がりだった。
午後の陽射しは、アスファルトをゆるく照らしていた。舗道に落ちる木陰の下、ロシナンテとnameは並んで歩きながら、それぞれのアイスキャンデーを手にしていた。ミントライムの清涼感が舌先を心地よく刺激し、nameは肩を揺らして笑っていた。
「やっぱこれ正解だったなー……ん~、うま……」
街角の喧騒が遠くにあるまま、nameの声はどこか弾んでいた。年相応――むしろ、年下に見えるほど無邪気にアイスを頬張るその様子に、ロシナンテはふと口元を緩める。帽子の影から覗く優しい眼差しは、言葉よりも多くを語っていた。長く冷えた時間を生きてきた男の、それでも守りたくなるような温もりが、そこには確かにあった。
だが、nameはふいにその視線に気づいた。
「……なに?」
軽く睨むように見上げる。
自分がどんなふうに映っているのか、わかっていないほど鈍くもない。いや、むしろnameはそれを――わかっていて、煽るように仕掛けた。
「ロシーさ、さっきからなんかニヤけてない?」
ぴたりと足を止め、こちらに向き直る。
そして――わざとらしく、ゆっくりと、アイスキャンデーを舌で舐め上げた。先端を口の中に含んで吸い上げるようにしてから、にやりと笑う。
「……なーに想像したの?えっち」
わざと低く囁く声に、ロシナンテの表情がぴくりと動いた。呆れと困惑と、そしてほんの少しの火照りを滲ませた眉がわずかに寄る。だが怒るでもなく、筆談もせず、ただ帽子を少し深く被り直した。
「そっちが見てきたから、俺が悪いんじゃないもんね?」
nameは悪びれる様子もなく、さらに一歩進んでロシナンテの手元を指差す。
「それ、一口ちょーだい」
ロシナンテがほんのわずかにアイスを傾けて差し出すと、nameはそのキャンデーをじっと見つめながら、唇を寄せる――が、そのまま舌を這わせた。表面の氷の結晶を舐めとるように、ぬるくなりかけた甘さを口内へ招き入れ、目を細める。
「ん……こっちも悪くないじゃん」
わざと色を含ませた声でそう言い、ちらりと見上げたその目は、まるで猫科の獣のようだった。くすぐるように笑う口元。ロシナンテの表情がぐっと険しくなるのを楽しむように、もう一度舌を這わせる。
だが、ロシナンテは動じなかった。
手に持ったキャンデーを引っ込めることもせず、代わりに空いた手でnameの額をぱしりと軽く弾く。
「いったぁ……!」
おでこを押さえたnameは、泣き真似のような声をあげる。だがその目は楽しげで、どこか安堵すら滲ませていた。ふざけ合いのなかにある微細な距離感と、たしかな温度。ロシナンテがメモを取り出し、さらさらと書いて見せる。
【街中でやるな】
「えー、でもロシーの反応がかわいかったから」
ケラケラと笑いながら、また自分のアイスを口に含む。冷たさが舌を撫でる感覚すら、今日のnameには心地よかった。
(……こうしてると、俺たち普通の人間みたいだ)
そう思った瞬間、胸の奥に小さな痛みが走る。でも、それでも笑っていた。真夏の陽射しの下で、氷のように淡く儚い、そんな午後の戯れだった。
「ロシー……暑い……このままじゃ干からびる……アイスどこ……」
後ろを歩いていたロシナンテが、無言でくいっとシャツの襟元を引っ張って日陰をつくってくれる。nameはへらりと笑って「ありがとう〜」とだけ言って、さらに一歩前に出た。ふたりで並んで歩くこの街中、それも昼間というのは、どれくらいぶりだろう。ロシナンテの背の高さが目立ちすぎて、どう見てもふつうの客には見えないのに、誰もそれを気にしていないのが不思議だった。
「……ってかさ」
ふと、nameが歩を緩める。その表情には笑みがあるものの、視線は真っ直ぐにロシナンテの肩口を見ていた。
「……前に撃たれたとこ、ほんとに平気?」
言葉は軽いが、瞳の奥には微かな緊張が潜んでいた。ロシナンテは立ち止まり、ポケットから取り出したメモにさらさらと文字を書く。
【もう痛まない。ちゃんと治ってる】
それを見せられても、nameの顔にはまだすっきりしない色が残ったままだった。ちらりと、少しだけ唇を噛む。それでも、あまり深くは踏み込まない。
「ふーん……なら、いいけどさ。……あれ以来、あんま気が抜けないんだよ、こっちは」
そう言って、小さく肩を竦める。けれど、口元は緩んでいた。いつもの調子に戻すかのように、わざと明るく言葉を続ける。
「ってかさー、俺らふたりでさ、真っ昼間の街歩くとか……似合わなくない?ねぇロシー、夜の裏路地の方がしっくりくるよねぇ?」
そんな冗談に、ロシナンテは小さく肩を揺らして笑ったあと、またメモをひらく。
【でも、今日のお前は昼の光でもちゃんと見えてる】
その言葉に、nameは一瞬だけ目を見開いて、それから――ふっと目を細めた。まぶしそうに空を仰ぎながら、手の甲で額の汗を拭い、笑う。
「うわ……どんな口説き文句だよ」
照れ隠しのようにぼやくと、視線は屋台の奥にある看板へ。
色とりどりのアイスキャンデーが並ぶ屋台がようやく見えて、nameは嬉しそうに声を上げた。
「あっ!見っけ!アイスアイス!ロシー、早くいこっ!」
ロシナンテの手をぐいっと引いて、屋台へと駆け出すname。その後ろ姿を、ロシナンテは緩やかな歩調で追いながら、そっと笑う。
昼の光のなかでも、笑える時間が、たしかにそこにあった。それは儚くても、まるで幻のようでも――今だけは確かに、本物だった。
「うーん……どれにしよう……」
屋台の前で足を止めたnameは、ガラス越しにずらりと並ぶアイスキャンデーを前に、腕を組んで真剣な顔をしていた。鮮やかな色合いがずらりと並ぶ冷凍棚の中には、果物を模したもの、ラムネ玉が詰まったもの、甘いだけじゃなく刺激的なスパイス入りのものまで、目移りしそうなほど種類があった。
「これも捨てがたい……けど、こっちの色……いや、でも……」
額に手を当てて唸る様は、まるで作戦会議でもしているよう。隣で立つロシナンテは、帽子の影の奥で目を細めて微笑みながら、ポケットからメモを取り出す。ぺら、とめくったページには、あらかじめ書いていたのかのように、簡単なひと言。
【奢り、だからな?】
それをちらりと見せられて、nameはぱっと顔を上げた。
「そ、そうだよ!?ロシーが今日は買ってくれるって言ったんじゃん!」
そう主張しつつ、口元はわずかに緩んでいる。そのまま両手を後ろに組み、首を傾けながら、アイスのケースをのぞきこむ。
「……じゃあ、せっかくだしちょっと高いやつにしよっかな。……あ、でも二本食べるとかじゃないからね?一応、遠慮の美徳ってことで」
ちら、とロシナンテを見上げて、からかうように笑った。ロシナンテは目を細めて小さく肩をすくめると、アイスの陳列に視線を落とす。nameに促されて、彼自身もゆっくりと選び始める。
――静かな時間だった。
日陰ではあったが、陽射しの熱はじわりと空気を包んでいて、遠くでは船の汽笛が鳴っている。街のざわめきはどこか柔らかく、ふたりの周りだけが妙に静かで、まるで別の空気が流れているかのようだった。
「ロシーはどれにすんの?」
屈みこんだnameが、背後をちらりと振り返る。ロシナンテは棚をじっと見つめながら、もう一枚、別の紙を取り出して見せる。そこにはシンプルに――
【パイナップル】
「……わかる〜。夏っぽいもんね。爽やかで甘くて、ちょっと酸っぱくて……」
そう言いながら、nameもようやくひとつに決めたらしい。指差したのは、白と緑の縞模様が美しい、ミントライム味のキャンデーだった。
「これにする!俺、甘すぎるの苦手なんだよね。ちょっとスーッとするくらいが丁度いいの」
受け取ったアイスを眺めながら、嬉しそうに揺れる肩先。ロシナンテが支払いを済ませ、二人は並んで屋台を離れる。ほんの少し冷えた空気をまとったキャンデーの棒を口に含みながら、nameはくすくすと笑った。
「なーんか……昼間っぽいね、俺たち」
そう言うその声には、微かに名残惜しさと、ほんの少しの照れが混じっていた。ロシナンテは隣でキャンデーを口に運びながら、ただ静かに頷いた。この一瞬だけは、何者にも追われず、何者にも追い立てられず。ふたりだけの、甘く冷たい、束の間の昼下がりだった。
午後の陽射しは、アスファルトをゆるく照らしていた。舗道に落ちる木陰の下、ロシナンテとnameは並んで歩きながら、それぞれのアイスキャンデーを手にしていた。ミントライムの清涼感が舌先を心地よく刺激し、nameは肩を揺らして笑っていた。
「やっぱこれ正解だったなー……ん~、うま……」
街角の喧騒が遠くにあるまま、nameの声はどこか弾んでいた。年相応――むしろ、年下に見えるほど無邪気にアイスを頬張るその様子に、ロシナンテはふと口元を緩める。帽子の影から覗く優しい眼差しは、言葉よりも多くを語っていた。長く冷えた時間を生きてきた男の、それでも守りたくなるような温もりが、そこには確かにあった。
だが、nameはふいにその視線に気づいた。
「……なに?」
軽く睨むように見上げる。
自分がどんなふうに映っているのか、わかっていないほど鈍くもない。いや、むしろnameはそれを――わかっていて、煽るように仕掛けた。
「ロシーさ、さっきからなんかニヤけてない?」
ぴたりと足を止め、こちらに向き直る。
そして――わざとらしく、ゆっくりと、アイスキャンデーを舌で舐め上げた。先端を口の中に含んで吸い上げるようにしてから、にやりと笑う。
「……なーに想像したの?えっち」
わざと低く囁く声に、ロシナンテの表情がぴくりと動いた。呆れと困惑と、そしてほんの少しの火照りを滲ませた眉がわずかに寄る。だが怒るでもなく、筆談もせず、ただ帽子を少し深く被り直した。
「そっちが見てきたから、俺が悪いんじゃないもんね?」
nameは悪びれる様子もなく、さらに一歩進んでロシナンテの手元を指差す。
「それ、一口ちょーだい」
ロシナンテがほんのわずかにアイスを傾けて差し出すと、nameはそのキャンデーをじっと見つめながら、唇を寄せる――が、そのまま舌を這わせた。表面の氷の結晶を舐めとるように、ぬるくなりかけた甘さを口内へ招き入れ、目を細める。
「ん……こっちも悪くないじゃん」
わざと色を含ませた声でそう言い、ちらりと見上げたその目は、まるで猫科の獣のようだった。くすぐるように笑う口元。ロシナンテの表情がぐっと険しくなるのを楽しむように、もう一度舌を這わせる。
だが、ロシナンテは動じなかった。
手に持ったキャンデーを引っ込めることもせず、代わりに空いた手でnameの額をぱしりと軽く弾く。
「いったぁ……!」
おでこを押さえたnameは、泣き真似のような声をあげる。だがその目は楽しげで、どこか安堵すら滲ませていた。ふざけ合いのなかにある微細な距離感と、たしかな温度。ロシナンテがメモを取り出し、さらさらと書いて見せる。
【街中でやるな】
「えー、でもロシーの反応がかわいかったから」
ケラケラと笑いながら、また自分のアイスを口に含む。冷たさが舌を撫でる感覚すら、今日のnameには心地よかった。
(……こうしてると、俺たち普通の人間みたいだ)
そう思った瞬間、胸の奥に小さな痛みが走る。でも、それでも笑っていた。真夏の陽射しの下で、氷のように淡く儚い、そんな午後の戯れだった。