15 y ago
name
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夕暮れの港町を抜け、アジトの裏口へと戻った頃には、空の色はすでに紫と群青の境目を滲ませていた。熱と火薬の匂いはまだ鼻腔の奥に残っている。それでも、潮の香りと冷えた風が皮膚を撫でるたび、あの焦げつくような空気は少しずつ薄れていく。
nameは先に扉を開け、手慣れた足取りで建物の奥へと進んだ。廊下に足音がこだまする。ロシナンテの歩幅に合わせ、速度を落としながら振り返ると、やはり肩にはしっかりと包帯が巻かれていた。
「ロシー、痛むなら急がなくてもいいけど……もう着くよ」
返事はない。だが、ロシナンテの目が「わかってる」と言っていた。アジトの一室。重厚な扉の奥、昼間は出払っていたはずの男が、今はソファにもたれ、書類を手にしていた。金のフレームが光を反射し、薄く笑みを含んだ口元にかかった影が、その視線の鋭さを際立たせる。
ドフラミンゴは、二人の姿に視線を上げる。まず目に入ったのはロシナンテの肩口――白い布に滲む赤。細められた目に、わずかに緊張の光が浮かぶ。
「……ロシー、お前、撃たれたのか?」
ロシナンテは返事もせず、無言のまま懐からメモを取り出し、さらさらと数文字を記す。
【ドジった】
たったそれだけ。ドフラミンゴはそれを見て、鼻を鳴らす。
「チッ……で、そいつらは?」
「全滅〜。ていうか、さー、聞いてよドフィ。こっちはさっさと帰ろうって言ってたのに、海兵がわざわざ俺たちの事呼び止めてさー……」
nameはコートの裾を軽く払ってソファの端に腰を下ろしながら、肩をすくめて見せる。その仕草は軽薄さすら感じさせるが、その実、視線は常にロシナンテの容態を確認していた。
「てかさー、俺のがよっぽど怪しまれたんだよ。白いコート見ただけで“白い悪魔”だなんて失礼すぎでしょ。俺はこんなに清純で健気で、ええと、合法的な市民なのに〜」
言葉尻を伸ばしながらも、どこか棘を含んだ口調に、ドフラミンゴの眉が僅かに動いた。
「……つまり、任意の聴取のはずが、ドンパチになったってわけか」
「そ。最初は色仕掛けで丸めようと思ったのに、ロシーが撃たれた瞬間、俺がキレちゃってさぁ……ちょっと、ねぇ?」
ロシナンテがすかさずメモを掲げる。
【nameの方がよっぽどヤバかった】
「……あ〜〜〜それ言う?ねえ?ロシー?」
nameは膝に肘をつき、手のひらに頬を預けたまま、面白がるように片目を細めてロシナンテを見た。その横顔には笑みがあったが、瞳の奥にはうっすらと暗い熱が沈んでいる。
「ちゃんと数えてないけど、十人くらいは落としたかな。撃ったり刺したり踏んだり。ま、ドフィの顔に泥塗るのは嫌だったし。綺麗に片づけたつもりだけど」
ドフラミンゴは少しのあいだ二人を眺め、沈黙する。
そして――ふ、と短く笑う。
「……まあ、お前ららしいっちゃらしいな。ロシーはもっと身体大事にしろ。あんまり雑なことしてると、せっかく仕込んだnameが壊れる」
その一言に、nameは口角をわずかに引きつらせる。だが何も言い返さない。ただ静かに目を伏せた。
ロシナンテは、メモに何かを書こうとして、途中でやめる。指が止まり、ペン先が紙を軽く叩くだけになった。代わりに、わずかに頷いた。それだけで、ドフラミンゴは満足したように頬杖をつき直し、再び手元の書類に目を落とした。
「……報告は充分だ。下がれ」
nameとロシナンテは軽く会釈し、部屋を出ていく。廊下に出た瞬間、空気が緩んだ。背中合わせの無言の帰路。けれど――肩の布越しに、互いの熱は確かにそこにあった。
扉が閉まる音が、控えめな木の軋みとなって室内に溶けていった。
nameとロシナンテは、まるで呼吸を合わせた舞のように、無言のまま廊下を歩き続けていた。アジトの内部は深い静けさに包まれ、先ほどまでの喧騒がまるで夢だったかのようだ。足音ひとつ立てぬよう進んだその先、ロシナンテの部屋の前で自然と二人の足が止まる。nameが先に手を伸ばし、ノブを回す。油が差されたばかりの蝶番が滑らかに動き、開かれた先には、いつもの見慣れた静謐な空間が広がっていた。
ロシナンテが無言で先に入り、コートを脱いで椅子の背に掛ける。nameもそれに続いて部屋へ入り、ひとつ深く息を吐く。
「……ドフラミンゴってば、ほんと失礼しちゃうよね」
ぽつりと、nameの口から言葉がこぼれた。部屋の空気は、静かに揺れる。ロシナンテは傷のある肩を軽く動かしながら、薬箱の位置を確認するように視線をめぐらせた。だがその手を動かす前に、再びnameが言葉を継ぐ。
「ま、言い返せないのは……俺の方なんだけどさ」
声は軽い。だが、その響きには、押し殺した温度がにじんでいた。冗談を混ぜるような口調のなかに、どこか不満と、諦めと、それでも割り切ろうとする自己欺瞞が混ざっている。ロシナンテはその空気の変化を、敏感に察知していた。
「……ドフィは、ああいう言い方しかできねぇんだよ」
ぽつりと、静かに、口から落ちるように出た言葉。nameは振り返り、ロシナンテの顔をじっと見つめる。
「ロシー、かばってんの?」
「違う。かばう価値があるとも思ってねぇ。ただ……ドフィは、信用ってもんを、別の形でしか与えられないタイプだ」
ロシナンテは淡々と答えながらも、視線はnameの胸元へと向いていた。血はついていない。自分よりずっと乱暴に戦っていたくせに、どこも傷つけていないのは流石だった。
「信用って、そういうもんなの?」
「場合による。……お前には、黙って見てろって意味だったんだろ。ドフィなりに」
「……わかってるよ、そんなの」
nameは唇を噛む。その表情はどこか子供じみていて。無理に笑おうとした笑みが、上手く形にならないまま崩れていく。
「俺は、俺よりも、ロシーの体に傷が着くのが心配だったんだから」
「name」
「……冗談だよ」
肩をすくめ、ふっと笑って見せる。だがその笑みにも、ほんの少しだけ翳りがあった。ロシナンテは歩み寄り、指先でnameの額の髪をひと房、そっと避けた。
「お前が怒ると、ほんと手がつけられねぇな。あのまま一人にしてたら、町ひとつ壊してたんじゃねぇか?」
「さすがにそれはしないよー。……疲れたけど」
nameはふにゃ、と笑い、ロシナンテのソファへ倒れ込む。広げられた腕、乱れた髪。戦いの余熱をまだ抱えた身体は、柔らかなクッションに沈み、ようやくその輪郭をほどいていく。
「ロシー」
「なんだ」
「俺、悪い子じゃないよね?」
その言葉に、ロシナンテの手が一瞬止まった。
そして――小さく、確かに微笑んだ。
「……少なくとも、俺はnameのこと、悪いとは思ってねぇよ」
その声はあたたかく、どこか遠くを見つめるような響きを含んでいた。nameはそのまま目を閉じ、静かに息を吐く。
静けさが満ちる部屋のなか、時折聞こえるのはロシナンテが薬瓶の蓋を開ける音、包帯を引き出す布の擦れる音だけだった。無骨な指が慣れた手つきでガーゼを切り、血の滲んだシャツの袖をゆっくりとまくり上げていく。肩口に赤黒く残った銃創は深くはなかったが、弾がかすめてえぐった皮膚は、焼けたように赤く腫れていた。
ベッドに仰向けたまま転がるnameは、両手を頭の後ろで組みながら、その様子をぼんやりと眺めていた。視線はロシナンテの手元に向いているようで、焦点は定かではない。壁に反射したランプの光が、天井でゆるやかに揺れている。
「ねぇ、ロシー」
口を開いた声は、いつもより少し低く、眠気と熱が混じったような濁りを帯びていた。
「もしさ……今日、俺の方が撃たれてたら……どうしてた?」
言いながら、軽く笑った。冗談めかしているようで、笑みに力はない。唇の端だけが持ち上がって、目元はどこか翳っていた。ロシナンテの手がわずかに止まる。指先に掴んでいた包帯がゆっくりとほどけ、膝の上に落ちた。nameは視線を逸らさないまま、ぐるりと寝返り、肘を立てて横向きになった。そのまま頬を手にのせ、ロシナンテの背をじっと見つめる。
「ロシーはさ、俺が死にそうでも、また笑って誤魔化す?」
その声音には、ふわりとした軽さの中に、確かに混ざっていた。――試すような、問うような、あるいはただ、確かめたかっただけのような、そんな熱。ロシナンテは振り向かない。そのかわりに、ゆっくりと息を吐いたあと、ぽつりと答えた。
「……誤魔化さねぇよ」
低い声。静かに、けれど確かにそこにあるものとして。
「笑うのは、俺が怖い時だ。……name、お前が傷つくのは、怖い」
手の中の包帯を巻きなおしながら、ロシナンテはようやくその肩越しにnameの方を振り返った。灯りの中で、その顔は陰になって見えなかった。
「俺は……お前が自分で命を軽く扱うのが、一番怖いんだよ」
nameの睫毛がわずかに震える。表情は変わらず、無邪気に寝そべっているように見えて、どこか張り詰めたものがそこにあった。
「へぇ……そっか。……うん、うれしい」
短く、そう言って、また仰向けに戻る。枕を抱え込むようにして顔を半分埋め、片目だけでちらりとロシナンテを盗み見る。
「じゃあ……ちゃんと守ってよね、ロシー。俺のこと」
「……言われなくても、そうしてる」
「今日はドジってたけどね」
「…そういう日もある」
その声に、ようやくほんの少しだけnameの口元がほころんだ。包帯が静かに肩に巻かれていく音だけが、部屋の中に続いていた。
それはまるで、今夜だけの静かな契約のように。言葉にならぬ何かが、ふたりの間でゆっくりと結び直されていく、そんな夜の空気だった。
nameは先に扉を開け、手慣れた足取りで建物の奥へと進んだ。廊下に足音がこだまする。ロシナンテの歩幅に合わせ、速度を落としながら振り返ると、やはり肩にはしっかりと包帯が巻かれていた。
「ロシー、痛むなら急がなくてもいいけど……もう着くよ」
返事はない。だが、ロシナンテの目が「わかってる」と言っていた。アジトの一室。重厚な扉の奥、昼間は出払っていたはずの男が、今はソファにもたれ、書類を手にしていた。金のフレームが光を反射し、薄く笑みを含んだ口元にかかった影が、その視線の鋭さを際立たせる。
ドフラミンゴは、二人の姿に視線を上げる。まず目に入ったのはロシナンテの肩口――白い布に滲む赤。細められた目に、わずかに緊張の光が浮かぶ。
「……ロシー、お前、撃たれたのか?」
ロシナンテは返事もせず、無言のまま懐からメモを取り出し、さらさらと数文字を記す。
【ドジった】
たったそれだけ。ドフラミンゴはそれを見て、鼻を鳴らす。
「チッ……で、そいつらは?」
「全滅〜。ていうか、さー、聞いてよドフィ。こっちはさっさと帰ろうって言ってたのに、海兵がわざわざ俺たちの事呼び止めてさー……」
nameはコートの裾を軽く払ってソファの端に腰を下ろしながら、肩をすくめて見せる。その仕草は軽薄さすら感じさせるが、その実、視線は常にロシナンテの容態を確認していた。
「てかさー、俺のがよっぽど怪しまれたんだよ。白いコート見ただけで“白い悪魔”だなんて失礼すぎでしょ。俺はこんなに清純で健気で、ええと、合法的な市民なのに〜」
言葉尻を伸ばしながらも、どこか棘を含んだ口調に、ドフラミンゴの眉が僅かに動いた。
「……つまり、任意の聴取のはずが、ドンパチになったってわけか」
「そ。最初は色仕掛けで丸めようと思ったのに、ロシーが撃たれた瞬間、俺がキレちゃってさぁ……ちょっと、ねぇ?」
ロシナンテがすかさずメモを掲げる。
【nameの方がよっぽどヤバかった】
「……あ〜〜〜それ言う?ねえ?ロシー?」
nameは膝に肘をつき、手のひらに頬を預けたまま、面白がるように片目を細めてロシナンテを見た。その横顔には笑みがあったが、瞳の奥にはうっすらと暗い熱が沈んでいる。
「ちゃんと数えてないけど、十人くらいは落としたかな。撃ったり刺したり踏んだり。ま、ドフィの顔に泥塗るのは嫌だったし。綺麗に片づけたつもりだけど」
ドフラミンゴは少しのあいだ二人を眺め、沈黙する。
そして――ふ、と短く笑う。
「……まあ、お前ららしいっちゃらしいな。ロシーはもっと身体大事にしろ。あんまり雑なことしてると、せっかく仕込んだnameが壊れる」
その一言に、nameは口角をわずかに引きつらせる。だが何も言い返さない。ただ静かに目を伏せた。
ロシナンテは、メモに何かを書こうとして、途中でやめる。指が止まり、ペン先が紙を軽く叩くだけになった。代わりに、わずかに頷いた。それだけで、ドフラミンゴは満足したように頬杖をつき直し、再び手元の書類に目を落とした。
「……報告は充分だ。下がれ」
nameとロシナンテは軽く会釈し、部屋を出ていく。廊下に出た瞬間、空気が緩んだ。背中合わせの無言の帰路。けれど――肩の布越しに、互いの熱は確かにそこにあった。
扉が閉まる音が、控えめな木の軋みとなって室内に溶けていった。
nameとロシナンテは、まるで呼吸を合わせた舞のように、無言のまま廊下を歩き続けていた。アジトの内部は深い静けさに包まれ、先ほどまでの喧騒がまるで夢だったかのようだ。足音ひとつ立てぬよう進んだその先、ロシナンテの部屋の前で自然と二人の足が止まる。nameが先に手を伸ばし、ノブを回す。油が差されたばかりの蝶番が滑らかに動き、開かれた先には、いつもの見慣れた静謐な空間が広がっていた。
ロシナンテが無言で先に入り、コートを脱いで椅子の背に掛ける。nameもそれに続いて部屋へ入り、ひとつ深く息を吐く。
「……ドフラミンゴってば、ほんと失礼しちゃうよね」
ぽつりと、nameの口から言葉がこぼれた。部屋の空気は、静かに揺れる。ロシナンテは傷のある肩を軽く動かしながら、薬箱の位置を確認するように視線をめぐらせた。だがその手を動かす前に、再びnameが言葉を継ぐ。
「ま、言い返せないのは……俺の方なんだけどさ」
声は軽い。だが、その響きには、押し殺した温度がにじんでいた。冗談を混ぜるような口調のなかに、どこか不満と、諦めと、それでも割り切ろうとする自己欺瞞が混ざっている。ロシナンテはその空気の変化を、敏感に察知していた。
「……ドフィは、ああいう言い方しかできねぇんだよ」
ぽつりと、静かに、口から落ちるように出た言葉。nameは振り返り、ロシナンテの顔をじっと見つめる。
「ロシー、かばってんの?」
「違う。かばう価値があるとも思ってねぇ。ただ……ドフィは、信用ってもんを、別の形でしか与えられないタイプだ」
ロシナンテは淡々と答えながらも、視線はnameの胸元へと向いていた。血はついていない。自分よりずっと乱暴に戦っていたくせに、どこも傷つけていないのは流石だった。
「信用って、そういうもんなの?」
「場合による。……お前には、黙って見てろって意味だったんだろ。ドフィなりに」
「……わかってるよ、そんなの」
nameは唇を噛む。その表情はどこか子供じみていて。無理に笑おうとした笑みが、上手く形にならないまま崩れていく。
「俺は、俺よりも、ロシーの体に傷が着くのが心配だったんだから」
「name」
「……冗談だよ」
肩をすくめ、ふっと笑って見せる。だがその笑みにも、ほんの少しだけ翳りがあった。ロシナンテは歩み寄り、指先でnameの額の髪をひと房、そっと避けた。
「お前が怒ると、ほんと手がつけられねぇな。あのまま一人にしてたら、町ひとつ壊してたんじゃねぇか?」
「さすがにそれはしないよー。……疲れたけど」
nameはふにゃ、と笑い、ロシナンテのソファへ倒れ込む。広げられた腕、乱れた髪。戦いの余熱をまだ抱えた身体は、柔らかなクッションに沈み、ようやくその輪郭をほどいていく。
「ロシー」
「なんだ」
「俺、悪い子じゃないよね?」
その言葉に、ロシナンテの手が一瞬止まった。
そして――小さく、確かに微笑んだ。
「……少なくとも、俺はnameのこと、悪いとは思ってねぇよ」
その声はあたたかく、どこか遠くを見つめるような響きを含んでいた。nameはそのまま目を閉じ、静かに息を吐く。
静けさが満ちる部屋のなか、時折聞こえるのはロシナンテが薬瓶の蓋を開ける音、包帯を引き出す布の擦れる音だけだった。無骨な指が慣れた手つきでガーゼを切り、血の滲んだシャツの袖をゆっくりとまくり上げていく。肩口に赤黒く残った銃創は深くはなかったが、弾がかすめてえぐった皮膚は、焼けたように赤く腫れていた。
ベッドに仰向けたまま転がるnameは、両手を頭の後ろで組みながら、その様子をぼんやりと眺めていた。視線はロシナンテの手元に向いているようで、焦点は定かではない。壁に反射したランプの光が、天井でゆるやかに揺れている。
「ねぇ、ロシー」
口を開いた声は、いつもより少し低く、眠気と熱が混じったような濁りを帯びていた。
「もしさ……今日、俺の方が撃たれてたら……どうしてた?」
言いながら、軽く笑った。冗談めかしているようで、笑みに力はない。唇の端だけが持ち上がって、目元はどこか翳っていた。ロシナンテの手がわずかに止まる。指先に掴んでいた包帯がゆっくりとほどけ、膝の上に落ちた。nameは視線を逸らさないまま、ぐるりと寝返り、肘を立てて横向きになった。そのまま頬を手にのせ、ロシナンテの背をじっと見つめる。
「ロシーはさ、俺が死にそうでも、また笑って誤魔化す?」
その声音には、ふわりとした軽さの中に、確かに混ざっていた。――試すような、問うような、あるいはただ、確かめたかっただけのような、そんな熱。ロシナンテは振り向かない。そのかわりに、ゆっくりと息を吐いたあと、ぽつりと答えた。
「……誤魔化さねぇよ」
低い声。静かに、けれど確かにそこにあるものとして。
「笑うのは、俺が怖い時だ。……name、お前が傷つくのは、怖い」
手の中の包帯を巻きなおしながら、ロシナンテはようやくその肩越しにnameの方を振り返った。灯りの中で、その顔は陰になって見えなかった。
「俺は……お前が自分で命を軽く扱うのが、一番怖いんだよ」
nameの睫毛がわずかに震える。表情は変わらず、無邪気に寝そべっているように見えて、どこか張り詰めたものがそこにあった。
「へぇ……そっか。……うん、うれしい」
短く、そう言って、また仰向けに戻る。枕を抱え込むようにして顔を半分埋め、片目だけでちらりとロシナンテを盗み見る。
「じゃあ……ちゃんと守ってよね、ロシー。俺のこと」
「……言われなくても、そうしてる」
「今日はドジってたけどね」
「…そういう日もある」
その声に、ようやくほんの少しだけnameの口元がほころんだ。包帯が静かに肩に巻かれていく音だけが、部屋の中に続いていた。
それはまるで、今夜だけの静かな契約のように。言葉にならぬ何かが、ふたりの間でゆっくりと結び直されていく、そんな夜の空気だった。