15 y ago
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部屋へ戻ると、シャワーの音は既に止んでいた。中からは、タオルの擦れる気配と、あー、と脱力したような声が聞こえる。ロシナンテは声をかけることなく、ソファの背に服の束をそっと置いた。その一番上に、白のコートを広げて乗せてやる。扉越しに響く、わずかに濡れた足音。
「……ロシー?戻った……?」
湿った髪をくしゃくしゃにしたまま顔を覗かせたnameの目に、積まれた服が映る。
「……あ。持ってきてくれたんだ……」
嬉しそうな、でもちょっと照れたような声。ロシナンテは黙って頷くと、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。まだ出発までには、少しだけ時間がある。
シャワー室の扉がゆっくりと開き、湯気と共に現れたのは、髪を濡らしたままのnameだった。肩にかけたタオルからはまだ水滴がぽたりと落ち、濃い蒸気の残り香が身体から漂っていた。ロシナンテの部屋の静けさの中、その足音だけが軽く響く。その音も、まるで服を着るのが億劫だと訴えるような、曖昧なリズムだった。
「……ふぅ……」
低く吐き出された溜息。用意されたシャツとズボンの束をひとつひとつ睨みながら、nameはまるで試験問題に取りかかるような顔つきでそれを広げる。
「……ん、もう……なんでこんなピシッとしたの着なきゃいけないんだよ、めんどくさー……」
口の中で文句を零しながら、シャツの袖を通す。一度濡れた髪が襟に引っかかり、顔をしかめる。その姿を、ロシナンテは斜め向かいの椅子に深く腰かけ、静かに眺めていた。長い脚を組み、背もたれに身体を預けた姿勢。無言ながら、目は確かにそこにあった。nameはシャツのボタンを留めながら、ふいにその視線に気づいて顔をしかめる。
「……そんなに見ても、面白くないでしょ、俺の着替えなんか」
乾いた声に、ロシナンテは少しだけ口元を緩めた。それでも何も言わず、ただ視線を逸らさずにいる。
「……っ、はー……ほんと変なやつ」
苦笑しながら、nameはズボンに足を通し、ゆっくりと腰を下ろす。まだ襟元は半分しか留めておらず、湿った髪は肩に貼りついたまま。ふと、彼はロシナンテのほうを見やった。
「……ってかロシーは俺より準備大変なのに、なんでそんな涼しい顔してんの。メイクとか、セットとか……あの顔、作るのも仕事でしょ?」
わざとらしく茶化すような声色。けれどそこには、どこかほんの少しだけ、労わりの気配が滲んでいた。ロシナンテは笑いながらもその声に応えず、立ち上がる。そのまま、nameの後ろに回り込むと、そっとタオルを取り上げた。
「……まだ髪、乾いてない」
「ん、わかってるけど……自分で拭くのめんどい……」
「やれやれ……」
低く呆れた声のまま、ロシナンテはゆっくりとnameの髪を包み込むようにタオルを押し当てた。指先が髪の根元に触れ、丁寧に水分を吸わせる。無駄のない動き。それでも、どこか柔らかい。nameは抵抗することもなく、ただぼんやりと前を見つめていた。肩越しに感じるロシナンテの体温。ごく僅かに息が髪にかかるたび、背筋に心地よい緊張が走る。
「……子ども扱い、されてる気分……」
「違う。放っておくと、風邪引くから」
「……やさし」
「俺が?」
「うん。……俺には、ね」
小さく笑ったnameの声に、ロシナンテはタオルを下ろしながら、ふと目を伏せた。
「……違う。お前が、甘い顔を引き出すのが上手いだけ」
その呟きに、nameは少しだけ驚いたように目を開いた。けれど、何も言わず。ロシナンテの手が最後に髪を梳いた瞬間、そのまま後ろへ振り返る。
距離は近い。襟を留めかけたままのシャツの奥、濡れた髪から一滴の水が滑り落ちて、床に落ちる音が微かに響く。
「……これで、よし」
ロシナンテが少しだけ頷いて椅子へ戻ると、ようやくnameも立ち上がる。胸元のボタンを止め直し、息をつくように呟いた。
「……ああー、もう……仕事、か」
静かな部屋に、緩やかな時間が流れていた。けれどその奥に、また別の“顔”が待っている。今はまだ、互いに背中を預ける前の、静かな幕間。それでも、何かを分け合っているような、温度だけがそこに残っていた。
「……ったく、まだ外寒いし、こんなピシッとした服で動くのも肩こるし……そもそも今日の任務、俺じゃなくてもよくない?」
ブツブツと絶え間なく続く不満の声が、部屋の壁にこだまする。けれど、その口調とは裏腹に――立ち上がったnameの姿は、見違えるほど整っていた。濡れていた髪はすでに乾かされ、無造作に流した前髪の隙間から鋭い視線が覗く。襟元まできちんとボタンを留めた白いシャツは、身体にぴたりと沿っており、ズボンの折り目は端正そのもの。装飾らしいものは何ひとつない。だがその潔さが、逆に彼の冷たさを際立たせていた。薄く微笑んだ口元の奥に何を考えているか分からない、そういう顔。表情の影に感情を隠して、徹底して“役割”を演じる顔。
“白い悪魔”――そう呼ばれる所以は、実際の冷酷さではなく、この見目と空気の鋭さゆえだった。部屋の隅に座っていたロシナンテは、腕を組みながらそんなnameの姿を見上げ、静かに息をついた。
「……見た目だけは、完璧なんだよな。ほんとに」
その声に、nameはぴたりと歩みを止める。振り返り、眉をわずかに上げながら口角を吊り上げた。
「……それ、褒めてるようでバカにしてない?」
ロシナンテは肩をすくめ、わざとらしく視線を外す。
「どうだろうな。中身も伴ってれば完璧なんだけど」
「……あーもう、やっぱりバカにしてるじゃん!」
nameは少し拗ねたように口を尖らせるが、すぐに笑いに変わる。その頬の揺らぎを見逃さず、ロシナンテはまた、目を細めた。
「でも――」
と、nameがふいに声を落とす。真っ白なシャツの袖をゆっくりと折り返しながら、背筋を伸ばす。
「……ちゃんと仕事の顔くらい、持ってるよ。ロシーの隣でヘラヘラしてたら、足引っ張るだけだし」
その言葉はどこか照れ隠しのようで、けれど本音でもあった。普段の砕けた言葉遣いの奥で、nameの“責任感”が垣間見えるとき――ロシナンテは決まって、何も言わずにただ頷く。
今回もそうだった。
立ち上がり、コートを手に取ると、彼はnameの横をすっとすり抜ける。
その肩がすれ違いざまにわずかに触れたとき、低く一言だけ返した。
「……見た目だけじゃないって、ちゃんと知ってる」
その一言に、nameは一瞬だけ、目を見開いた。そしてすぐ、肩をすくめて呟く。
「……やだ、今のちょっとズルい」
ドアの向こうには、任務の時間が迫っている。
白と黒のコントラストが、暗がりに消えていく直前――
足元に残ったのは、ただふたり分の熱だけだった。
「……ロシー?戻った……?」
湿った髪をくしゃくしゃにしたまま顔を覗かせたnameの目に、積まれた服が映る。
「……あ。持ってきてくれたんだ……」
嬉しそうな、でもちょっと照れたような声。ロシナンテは黙って頷くと、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。まだ出発までには、少しだけ時間がある。
シャワー室の扉がゆっくりと開き、湯気と共に現れたのは、髪を濡らしたままのnameだった。肩にかけたタオルからはまだ水滴がぽたりと落ち、濃い蒸気の残り香が身体から漂っていた。ロシナンテの部屋の静けさの中、その足音だけが軽く響く。その音も、まるで服を着るのが億劫だと訴えるような、曖昧なリズムだった。
「……ふぅ……」
低く吐き出された溜息。用意されたシャツとズボンの束をひとつひとつ睨みながら、nameはまるで試験問題に取りかかるような顔つきでそれを広げる。
「……ん、もう……なんでこんなピシッとしたの着なきゃいけないんだよ、めんどくさー……」
口の中で文句を零しながら、シャツの袖を通す。一度濡れた髪が襟に引っかかり、顔をしかめる。その姿を、ロシナンテは斜め向かいの椅子に深く腰かけ、静かに眺めていた。長い脚を組み、背もたれに身体を預けた姿勢。無言ながら、目は確かにそこにあった。nameはシャツのボタンを留めながら、ふいにその視線に気づいて顔をしかめる。
「……そんなに見ても、面白くないでしょ、俺の着替えなんか」
乾いた声に、ロシナンテは少しだけ口元を緩めた。それでも何も言わず、ただ視線を逸らさずにいる。
「……っ、はー……ほんと変なやつ」
苦笑しながら、nameはズボンに足を通し、ゆっくりと腰を下ろす。まだ襟元は半分しか留めておらず、湿った髪は肩に貼りついたまま。ふと、彼はロシナンテのほうを見やった。
「……ってかロシーは俺より準備大変なのに、なんでそんな涼しい顔してんの。メイクとか、セットとか……あの顔、作るのも仕事でしょ?」
わざとらしく茶化すような声色。けれどそこには、どこかほんの少しだけ、労わりの気配が滲んでいた。ロシナンテは笑いながらもその声に応えず、立ち上がる。そのまま、nameの後ろに回り込むと、そっとタオルを取り上げた。
「……まだ髪、乾いてない」
「ん、わかってるけど……自分で拭くのめんどい……」
「やれやれ……」
低く呆れた声のまま、ロシナンテはゆっくりとnameの髪を包み込むようにタオルを押し当てた。指先が髪の根元に触れ、丁寧に水分を吸わせる。無駄のない動き。それでも、どこか柔らかい。nameは抵抗することもなく、ただぼんやりと前を見つめていた。肩越しに感じるロシナンテの体温。ごく僅かに息が髪にかかるたび、背筋に心地よい緊張が走る。
「……子ども扱い、されてる気分……」
「違う。放っておくと、風邪引くから」
「……やさし」
「俺が?」
「うん。……俺には、ね」
小さく笑ったnameの声に、ロシナンテはタオルを下ろしながら、ふと目を伏せた。
「……違う。お前が、甘い顔を引き出すのが上手いだけ」
その呟きに、nameは少しだけ驚いたように目を開いた。けれど、何も言わず。ロシナンテの手が最後に髪を梳いた瞬間、そのまま後ろへ振り返る。
距離は近い。襟を留めかけたままのシャツの奥、濡れた髪から一滴の水が滑り落ちて、床に落ちる音が微かに響く。
「……これで、よし」
ロシナンテが少しだけ頷いて椅子へ戻ると、ようやくnameも立ち上がる。胸元のボタンを止め直し、息をつくように呟いた。
「……ああー、もう……仕事、か」
静かな部屋に、緩やかな時間が流れていた。けれどその奥に、また別の“顔”が待っている。今はまだ、互いに背中を預ける前の、静かな幕間。それでも、何かを分け合っているような、温度だけがそこに残っていた。
「……ったく、まだ外寒いし、こんなピシッとした服で動くのも肩こるし……そもそも今日の任務、俺じゃなくてもよくない?」
ブツブツと絶え間なく続く不満の声が、部屋の壁にこだまする。けれど、その口調とは裏腹に――立ち上がったnameの姿は、見違えるほど整っていた。濡れていた髪はすでに乾かされ、無造作に流した前髪の隙間から鋭い視線が覗く。襟元まできちんとボタンを留めた白いシャツは、身体にぴたりと沿っており、ズボンの折り目は端正そのもの。装飾らしいものは何ひとつない。だがその潔さが、逆に彼の冷たさを際立たせていた。薄く微笑んだ口元の奥に何を考えているか分からない、そういう顔。表情の影に感情を隠して、徹底して“役割”を演じる顔。
“白い悪魔”――そう呼ばれる所以は、実際の冷酷さではなく、この見目と空気の鋭さゆえだった。部屋の隅に座っていたロシナンテは、腕を組みながらそんなnameの姿を見上げ、静かに息をついた。
「……見た目だけは、完璧なんだよな。ほんとに」
その声に、nameはぴたりと歩みを止める。振り返り、眉をわずかに上げながら口角を吊り上げた。
「……それ、褒めてるようでバカにしてない?」
ロシナンテは肩をすくめ、わざとらしく視線を外す。
「どうだろうな。中身も伴ってれば完璧なんだけど」
「……あーもう、やっぱりバカにしてるじゃん!」
nameは少し拗ねたように口を尖らせるが、すぐに笑いに変わる。その頬の揺らぎを見逃さず、ロシナンテはまた、目を細めた。
「でも――」
と、nameがふいに声を落とす。真っ白なシャツの袖をゆっくりと折り返しながら、背筋を伸ばす。
「……ちゃんと仕事の顔くらい、持ってるよ。ロシーの隣でヘラヘラしてたら、足引っ張るだけだし」
その言葉はどこか照れ隠しのようで、けれど本音でもあった。普段の砕けた言葉遣いの奥で、nameの“責任感”が垣間見えるとき――ロシナンテは決まって、何も言わずにただ頷く。
今回もそうだった。
立ち上がり、コートを手に取ると、彼はnameの横をすっとすり抜ける。
その肩がすれ違いざまにわずかに触れたとき、低く一言だけ返した。
「……見た目だけじゃないって、ちゃんと知ってる」
その一言に、nameは一瞬だけ、目を見開いた。そしてすぐ、肩をすくめて呟く。
「……やだ、今のちょっとズルい」
ドアの向こうには、任務の時間が迫っている。
白と黒のコントラストが、暗がりに消えていく直前――
足元に残ったのは、ただふたり分の熱だけだった。