15 y ago
name
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朝の光はもう随分と高く昇っていたが、塔の奥の部屋に差し込むことはなかった。厚く重いカーテンに包まれた空間は、あえて時間の感覚を遮るように設計されている。壁際の数本の燭台が淡く揺れ、闇と光の境界をぼかしていた。
ドフラミンゴの部屋。
その中央、豪奢な肘掛け椅子にもたれかかるようにして座る男の姿があった。膝を広げ、指先には煙草。唇に笑み、だがその目だけは、微かに細めたまま何もかもを見透かすような光を宿している。
「――で?」
その視線の先、壁際に立つnameは、眠たげな瞼の奥に熱を隠しながら、淡々と声を紡いでいた。
「参加してたのは東の港を縄張りにしてる細かい連中ばっかだったよ。あとは、“あの商会”がバックについてた。たぶん資金提供だけじゃなくて、サンプルの供給も……いくつか、初見の薬あったもん」
ロシナンテが隣で椅子に腰掛け、無言で膝にノートを開く。すでに書き溜められた記録の上から、新たな文字が走った。
【商品名に“θ”の記号があったやつは、旧海軍研究所系の開発ルート。副作用は強め、意識飛ばす系】
nameはそれをちらと見やってから、言葉を継ぐ。
「“θ”、たぶん合成系の麻酔剤だと思う。最初の一発で身体の緊張ぜんぶ抜けたし。呼吸も浅くなるタイプ。強制的に受容モードに切り替えるやつで……声も出ないし、意思の発露がかなり抑制されるっぽいよ」
「へぇ、楽しそうじゃねェか。そんだけぐずぐずにされて、よくもまあ冷静に見てたモンだなァ、name?」
ドフラミンゴが愉快そうに言葉を差し込む。nameは肩をすくめるようにして鼻で笑った。
「楽しくはなかったけどね。ただ、身体がバカになってるときほど、周りの雑音がよく聞こえるし。あいつらの会話とか、どうせ聞こえてないと思ってるから気が緩んでてさ。どの港に流通させるかとか、金の回し方とか、思い出せる範囲では全部記録してきたよ。ロシーのメモと照らせば、だいたい形になると思う」
指先で煙草の灰を落とすと、ドフラミンゴはフッフッフと喉を鳴らして笑った。
「まったく、“使えるペット”ってのはこういうのを言うんだなァ。たっぷり薬漬けにされて抱かれながら、冷静に耳立ててたってか……どこのスパイ映画だよ。感心感心……で、結末は?」
nameは視線をロシナンテへと投げる。男は静かにペンを走らせ、【全員殺した】の文字を綴った。
「……だってさ」
「フッフッフ……!」
低く甲高く笑い声が部屋に響く。ドフラミンゴは椅子を揺らしながら、背を仰け反らせた。
「さっすがは“聖人”ロシナンテ!慈悲はねェってか。で、お前は無事にnameを連れて戻ってきた。そんでこうして報告まで。完璧じゃねェか!」
「俺にとっては全然完璧じゃなかったけどね。二度とやりたくないしー」
「ま、だろうなァ。でも、報告できるってだけで上等だ。……お前はほんと、潰しが効くよ。name」
皮肉混じりの褒め言葉に、nameは目を細める。
「そういう言い方、ほんと好きだよな……ドフィ」
「事実だろ?フッフッフ…褒めてんだよ……それで?」
唐突に投げられた問いに、nameは眉をひくりと動かす。
「……で?」
「身体は……もう抜けたのか?」
その言い方、そしてにやりと口角を上げた目線に、nameは片眉を上げたまま、肩をすくめる。
「さあね。とりあえず、“ここ”には何も感じないくらいには落ち着いたかな」
軽く股間を指でなぞってみせれば、ロシナンテが不機嫌そうにノートに書き殴る。
【余計なこと言うな】
「はは、ごめんごめん」
気怠げに笑ってはいるが、どこか底に黒いものを溶かし込んだような、鈍い光がnameの眼差しの奥で揺れていた。薄ら笑いと軽口の下に、抑え込んだ苛立ちと倦怠が滲んでいる。
ドフラミンゴもそれを察してか、愉快そうに笑みだけを残し、口を噤んだ。
「――じゃ、報告は以上。あとの詳細はロシーに任せるから」
そう言って身を翻そうとしたnameの手首を、ロシナンテがそっと掴んだ。止めるというよりも、“今はまだ行くな”という意志だけを、静かに伝えるための圧。
nameは振り返り、扉の前でぴたりと足を止めた。
静寂の帳が一瞬だけ、細く裂け。
それは、紙の摩擦音。乾いた音とともに、ロシナンテが膝の上のノートをくるりと反転させる。赤いインクで走らされた文字は、大きく、はっきりとした意志を持ってそこに並んでいた。
――【今後は二人で行動する】
部屋の空気が、少しだけ変わった。
その一文に込められた“本気”が、容赦なく空間を切り分けたからだ。
「……は?」
その声は思ったより低く、乾いていた。
nameは振り返ることすらせず、斜め後ろにいるロシナンテの手元を視界の端に捉えたまま、小さく吐き捨てるように言った。
「無理だよ、今このファミリーの大事な時期に。あんな会合またあるかもしれないのに……下手すりゃみんなで抱えきれなくなる」
「フッフッフ……だとよ、ロシー」
ドフラミンゴは肘掛けにもたれながら、煙草の煙をふわりと吐き出した。唇の端を上げて、まるで余裕綽々の顔で。
「だけどまあ、いいんじゃねェか。どうせお前が納得しなさそうだし……なにより、」
彼は煙草の先端を灰皿にこすりつけ、くすくすと笑いながら続ける。
「“コイツが壊れなかった”って実績は、俺としても悪くねェよ。まさか、あれだけ薬ぶち込まれて、あれだけ突っ込まれて、それでも頭回して帰ってくるなんてなァ……お前、ほんと、何でできてんだ?」
その言葉に、nameの目尻がわずかに吊り上がる。
乾いた怒りでも、毒でもない。明確な“苛立ち”が混じった睨み。
「感心されても、嬉しくないけど……」
「そうかァ?俺はけっこう本気で感心してるけどなァ。フッフッフ……“壊れなかったペット”ってのは、今後の交渉材料としても価値が高いしな」
まるで、人の価値を札束のように数えるような口調。
nameの喉奥に、思わず笑いが滲む。
「……ホント、ドフィって、全部そうやって秤にかけるよね」
「当然だろ?」
即答。悪びれる素振りもない。
むしろ、それが世界の理だとでも言いたげに、ドフラミンゴは一つの笑みを携えたままだ。
「感情だけで動く奴は、早く死ぬ。俺は見てきたぜ、そういう馬鹿を何人もなァ。お前が“壊れなかった”のも、感情を殺してたからだろ?だったらもう、お前もこっち側の人間ってことだ」
「……冗談じゃないー」
淡く笑いながら、nameは首を振る。
だがその頬は、皮肉と倦怠に僅かに引き攣っていた。
ロシナンテのノートが、再び揺れた。
そこに記されたのは【仕事量は増える】という追い打ちのような予告。
「……あーあ」
ため息は、煙のように喉から漏れた。
「やっぱり地獄じゃん。せっかく生き延びて戻ってきたのに、今度は働かされるのか。壊れたふりでもしておけばよかったかも……」
「フッフッフ、それで俺の目は誤魔化せねェけどなァ?」
心底楽しげに笑うドフラミンゴ。
その喉の奥から転がるような笑声は、常にどこか暴力と紙一重の“余裕”を帯びていた。
ロシナンテが立ち上がり、nameの肩に手を置く。
その掌は温かいのに、不思議と“逃がさない”圧を持っていた。
言葉はない。けれどその無言の合図だけで、今この場に流れる方向性は決定されていた。
――お前は、まだ行くな。
――ここからが、始まりだ。
その手を、nameはすぐには振り払わなかった。目を伏せ、静かに息を吐く。
「あー……やっぱ、やだなあ」
呟きは、誰に向けられたものでもなかった。
けれど、それがこの部屋の三人の中で、最も“人間らしい音”だった。
――時間の止まった部屋の中、微かにロウソクの炎が揺れた。
その揺らぎすらも、この先の“熱”を予感させるかのように。
ドフラミンゴの部屋。
その中央、豪奢な肘掛け椅子にもたれかかるようにして座る男の姿があった。膝を広げ、指先には煙草。唇に笑み、だがその目だけは、微かに細めたまま何もかもを見透かすような光を宿している。
「――で?」
その視線の先、壁際に立つnameは、眠たげな瞼の奥に熱を隠しながら、淡々と声を紡いでいた。
「参加してたのは東の港を縄張りにしてる細かい連中ばっかだったよ。あとは、“あの商会”がバックについてた。たぶん資金提供だけじゃなくて、サンプルの供給も……いくつか、初見の薬あったもん」
ロシナンテが隣で椅子に腰掛け、無言で膝にノートを開く。すでに書き溜められた記録の上から、新たな文字が走った。
【商品名に“θ”の記号があったやつは、旧海軍研究所系の開発ルート。副作用は強め、意識飛ばす系】
nameはそれをちらと見やってから、言葉を継ぐ。
「“θ”、たぶん合成系の麻酔剤だと思う。最初の一発で身体の緊張ぜんぶ抜けたし。呼吸も浅くなるタイプ。強制的に受容モードに切り替えるやつで……声も出ないし、意思の発露がかなり抑制されるっぽいよ」
「へぇ、楽しそうじゃねェか。そんだけぐずぐずにされて、よくもまあ冷静に見てたモンだなァ、name?」
ドフラミンゴが愉快そうに言葉を差し込む。nameは肩をすくめるようにして鼻で笑った。
「楽しくはなかったけどね。ただ、身体がバカになってるときほど、周りの雑音がよく聞こえるし。あいつらの会話とか、どうせ聞こえてないと思ってるから気が緩んでてさ。どの港に流通させるかとか、金の回し方とか、思い出せる範囲では全部記録してきたよ。ロシーのメモと照らせば、だいたい形になると思う」
指先で煙草の灰を落とすと、ドフラミンゴはフッフッフと喉を鳴らして笑った。
「まったく、“使えるペット”ってのはこういうのを言うんだなァ。たっぷり薬漬けにされて抱かれながら、冷静に耳立ててたってか……どこのスパイ映画だよ。感心感心……で、結末は?」
nameは視線をロシナンテへと投げる。男は静かにペンを走らせ、【全員殺した】の文字を綴った。
「……だってさ」
「フッフッフ……!」
低く甲高く笑い声が部屋に響く。ドフラミンゴは椅子を揺らしながら、背を仰け反らせた。
「さっすがは“聖人”ロシナンテ!慈悲はねェってか。で、お前は無事にnameを連れて戻ってきた。そんでこうして報告まで。完璧じゃねェか!」
「俺にとっては全然完璧じゃなかったけどね。二度とやりたくないしー」
「ま、だろうなァ。でも、報告できるってだけで上等だ。……お前はほんと、潰しが効くよ。name」
皮肉混じりの褒め言葉に、nameは目を細める。
「そういう言い方、ほんと好きだよな……ドフィ」
「事実だろ?フッフッフ…褒めてんだよ……それで?」
唐突に投げられた問いに、nameは眉をひくりと動かす。
「……で?」
「身体は……もう抜けたのか?」
その言い方、そしてにやりと口角を上げた目線に、nameは片眉を上げたまま、肩をすくめる。
「さあね。とりあえず、“ここ”には何も感じないくらいには落ち着いたかな」
軽く股間を指でなぞってみせれば、ロシナンテが不機嫌そうにノートに書き殴る。
【余計なこと言うな】
「はは、ごめんごめん」
気怠げに笑ってはいるが、どこか底に黒いものを溶かし込んだような、鈍い光がnameの眼差しの奥で揺れていた。薄ら笑いと軽口の下に、抑え込んだ苛立ちと倦怠が滲んでいる。
ドフラミンゴもそれを察してか、愉快そうに笑みだけを残し、口を噤んだ。
「――じゃ、報告は以上。あとの詳細はロシーに任せるから」
そう言って身を翻そうとしたnameの手首を、ロシナンテがそっと掴んだ。止めるというよりも、“今はまだ行くな”という意志だけを、静かに伝えるための圧。
nameは振り返り、扉の前でぴたりと足を止めた。
静寂の帳が一瞬だけ、細く裂け。
それは、紙の摩擦音。乾いた音とともに、ロシナンテが膝の上のノートをくるりと反転させる。赤いインクで走らされた文字は、大きく、はっきりとした意志を持ってそこに並んでいた。
――【今後は二人で行動する】
部屋の空気が、少しだけ変わった。
その一文に込められた“本気”が、容赦なく空間を切り分けたからだ。
「……は?」
その声は思ったより低く、乾いていた。
nameは振り返ることすらせず、斜め後ろにいるロシナンテの手元を視界の端に捉えたまま、小さく吐き捨てるように言った。
「無理だよ、今このファミリーの大事な時期に。あんな会合またあるかもしれないのに……下手すりゃみんなで抱えきれなくなる」
「フッフッフ……だとよ、ロシー」
ドフラミンゴは肘掛けにもたれながら、煙草の煙をふわりと吐き出した。唇の端を上げて、まるで余裕綽々の顔で。
「だけどまあ、いいんじゃねェか。どうせお前が納得しなさそうだし……なにより、」
彼は煙草の先端を灰皿にこすりつけ、くすくすと笑いながら続ける。
「“コイツが壊れなかった”って実績は、俺としても悪くねェよ。まさか、あれだけ薬ぶち込まれて、あれだけ突っ込まれて、それでも頭回して帰ってくるなんてなァ……お前、ほんと、何でできてんだ?」
その言葉に、nameの目尻がわずかに吊り上がる。
乾いた怒りでも、毒でもない。明確な“苛立ち”が混じった睨み。
「感心されても、嬉しくないけど……」
「そうかァ?俺はけっこう本気で感心してるけどなァ。フッフッフ……“壊れなかったペット”ってのは、今後の交渉材料としても価値が高いしな」
まるで、人の価値を札束のように数えるような口調。
nameの喉奥に、思わず笑いが滲む。
「……ホント、ドフィって、全部そうやって秤にかけるよね」
「当然だろ?」
即答。悪びれる素振りもない。
むしろ、それが世界の理だとでも言いたげに、ドフラミンゴは一つの笑みを携えたままだ。
「感情だけで動く奴は、早く死ぬ。俺は見てきたぜ、そういう馬鹿を何人もなァ。お前が“壊れなかった”のも、感情を殺してたからだろ?だったらもう、お前もこっち側の人間ってことだ」
「……冗談じゃないー」
淡く笑いながら、nameは首を振る。
だがその頬は、皮肉と倦怠に僅かに引き攣っていた。
ロシナンテのノートが、再び揺れた。
そこに記されたのは【仕事量は増える】という追い打ちのような予告。
「……あーあ」
ため息は、煙のように喉から漏れた。
「やっぱり地獄じゃん。せっかく生き延びて戻ってきたのに、今度は働かされるのか。壊れたふりでもしておけばよかったかも……」
「フッフッフ、それで俺の目は誤魔化せねェけどなァ?」
心底楽しげに笑うドフラミンゴ。
その喉の奥から転がるような笑声は、常にどこか暴力と紙一重の“余裕”を帯びていた。
ロシナンテが立ち上がり、nameの肩に手を置く。
その掌は温かいのに、不思議と“逃がさない”圧を持っていた。
言葉はない。けれどその無言の合図だけで、今この場に流れる方向性は決定されていた。
――お前は、まだ行くな。
――ここからが、始まりだ。
その手を、nameはすぐには振り払わなかった。目を伏せ、静かに息を吐く。
「あー……やっぱ、やだなあ」
呟きは、誰に向けられたものでもなかった。
けれど、それがこの部屋の三人の中で、最も“人間らしい音”だった。
――時間の止まった部屋の中、微かにロウソクの炎が揺れた。
その揺らぎすらも、この先の“熱”を予感させるかのように。