15 y ago
name
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昼を過ぎたばかりの陽射しが、アジトの窓枠をぼんやりと照らしていた。
ドン・キホーテファミリーの内部――喧騒と秩序と狂気が共存するあの建物の中で、唯一と言っていいほど“静寂”の似合う場所。
コラソン――ドンキホーテ・ロシナンテの部屋だった。
その主の姿は、今この空間にはない。
だが、ひとりだけ、その部屋に我が物顔で入りびたる者がいた。
男。名前をname。
ソファの背にもたれかかることさえ面倒くさがって、横になったまま脚を肘掛に引っかけている。
片手には飲みかけのグラス。もう片手で、ソファの布地を無意識に撫でる。とくに何をするでもなく、何かを考えているようで、何も考えてはいない。緩やかな時間のなかに、ただ、溶けるように在る――そんな男だった。
ロシナンテの部屋は、彼の性格を反映するかのようにきちんと整っていた。無駄なものは置かれていない。けれど、妙に人間臭さを感じさせる部分が確かにある。綺麗に折り畳まれた上着。机に立てかけられた読みかけの本。ふとした拍子に、外の騒がしさを断ち切る“沈黙”の空間。nameはその沈黙のなかに身を委ね、欠伸ひとつ。
「……ロシー、またいないし」
文句めいた声にも、熱はない。
どこか馴染んでしまった日常の一幕のように、nameは気だるげに背を伸ばした。窓から差し込む光が横顔を撫でる。端整すぎるとさえ言われるその顔も、今は眠気と退屈と、ほんの僅かな満足感に満ちていた。
彼は――コラソンの“相棒”だった。
ドン・キホーテファミリーの中でも珍しく、直属の命令で動く存在。他の幹部ですら、口を出すことは少ない。その立ち位置にいる理由を、ファミリーの多くは知らない。だが、事実として、彼はロシナンテの“傍”にいた。その目は、何も見ていないようで全てを見透かしていて。笑っていても、どこか醒めているような。
ロシナンテの部屋だけは――彼にとって、本当に気を抜ける唯一の場所だった。
壁にかかったジャケット。テーブルの端に置かれた火のついていない煙草。そのどれもがロシナンテという男の“匂い”を孕んでいて、nameはそれを深く吸い込むように、ソファの上で寝返りを打った。
「ん……戻ってきたら、何かくれんのかな……アイスでも、キスでも……どっちでもいーや」
気怠げな呟きに、誰も応えない。けれどそれでいい。何もないから、逆に全てが許される。
――だってnameは知っている。
この部屋の主が、何者で、何を隠して、何を演じているか。そして、沈黙という名の能力で、誰よりも多くの“嘘”を覆い隠していることも。
だからこそ、何も聞かず、何も問わず、ただここにいる。ぐうたらと寝転び、だらしなく笑いながら、今日もロシナンテの帰りを待っている。
その沈黙のなかに、あの男の温度が残っていることを、誰よりも知っているから。熱を、音を、鼓動を、言葉を――すべて呑み込んだ静寂の部屋。
その中心で、nameはまどろみながら、いつか戻ってくるその“音”を、心のどこかで待っていた。
ドアが静かに開く音がしたのは、nameがソファの上で惰性のように足をぶらつかせていた頃だった。
ふわりと微かな風が室内に入り、沈黙を少しだけ揺らす。nameはその音に反応するでもなく、ただ身体を一段深くソファに沈めると、頭まで被っていた“それ”をふわっと持ち上げて顔だけを覗かせた。ロシナンテのコート――あの大きくて、厚くて、黒いふわふわなコート。それが今はぐしゃりと乱れて、nameの全身を包み込んでいる。
裸ではないものの、だらしなく首元は開き、熱の残滓を纏うような肌が見え隠れしていた。
乱れた髪、上気した頬、潤みの残った目元――すべてが、昼間の熱に引きずられたような微かな“発情”を含んでいた。
「……あ。おかえり、ロシー……」
眠たげな声に艶が混じる。
nameは身体を起こしもせず、そのままごろんと寝返りを打って、コートの裾を引きずったままロシナンテを見上げた。
ロシナンテは、半開きの扉の向こうで立ち止まる。扉を閉めず、荷物も下ろさず、しばしその光景を眺めて――ため息混じりに低く言った。
「……また勝手に俺のコートとりだしてんのかよ……」
「だってロシーの匂いがするから……落ち着くんだよねぇ……あったかいし、ちょっと苦しいけど……」
コートの襟を引き寄せて頬に押し当てながら、nameはくす、と笑う。表情はどこか潤んでいて、ソファの上でくるまる姿は猫のように気ままで、気怠げで――けれど、確かに、わずかに色気を含んでいた。
ロシナンテはやれやれといった様子で扉を閉め、部屋に入る。足元に散らばった紙くずや服の端を避けるようにして、ソファに近づく。
「ドフィから連絡あった。……仕事だ、行くぞ」
低く、しかし淡々とした声。
それは命令ではなく、事実の通知。
けれど、nameの返事は当然――
「……えぇぇぇぇぇぇ」
その場にうずくまって身体を小さくし、ソファの上で転がるように背を向けた。
膝を抱えてコートにくるまり、顔を半分だけ覗かせる。
「やだよ、動きたくない……寒いし、ロシーいない間ひとりでお留守番してたし……」
「人の部屋で寝っ転がってコート着てただけだろうが……」
「そうだよ。それが正解だよ……」
答えながら、くく、と喉の奥で笑う。冗談と甘えと、本音の境界が溶けていくような声だった。
「……でも、ロシーがちゅーしてくれたら、……動ける、かも……?」
くるりと振り向いたnameは、コートの襟を指でつまんだまま、いたずらっぽく笑う。
半分ふざけている。けれど、瞳の奥には確かに熱があった。
それが、わかっているからこそ、ロシナンテはまたひとつ、深く息を吐いた。
「……お前ってやつは、ほんと……」
呆れた声。
けれど、ロシナンテはその場にしゃがみこみ、ソファに寝そべるnameの顔を手で軽く支え――
あっけなく、唇を重ねた。
一瞬。けれど、しっかりと。
nameが驚いたように目を丸くして、それからふにゃりと笑った。
「……え、……優しくされると逆に照れるんだけど」
「……じゃあやっぱりやめとくか」
「待って待って、うそうそ、今のアリ……すごくアリ……」
ふたりの間に笑いが溶けていく。
空気は柔らかく、甘く、ナギナギの静寂よりも優しい温度で部屋を満たしていた。
コートを脱ぐのはもう少し先でもいい――
そう思いながら、nameは重たい身体をようやく起こす。その隣には、いつものように、変わらぬロシナンテの背があった。寡黙で、不器用で、けれど確かに隣にいてくれる相棒の、それは何より確かな“日常”だった。
ドン・キホーテファミリーの内部――喧騒と秩序と狂気が共存するあの建物の中で、唯一と言っていいほど“静寂”の似合う場所。
コラソン――ドンキホーテ・ロシナンテの部屋だった。
その主の姿は、今この空間にはない。
だが、ひとりだけ、その部屋に我が物顔で入りびたる者がいた。
男。名前をname。
ソファの背にもたれかかることさえ面倒くさがって、横になったまま脚を肘掛に引っかけている。
片手には飲みかけのグラス。もう片手で、ソファの布地を無意識に撫でる。とくに何をするでもなく、何かを考えているようで、何も考えてはいない。緩やかな時間のなかに、ただ、溶けるように在る――そんな男だった。
ロシナンテの部屋は、彼の性格を反映するかのようにきちんと整っていた。無駄なものは置かれていない。けれど、妙に人間臭さを感じさせる部分が確かにある。綺麗に折り畳まれた上着。机に立てかけられた読みかけの本。ふとした拍子に、外の騒がしさを断ち切る“沈黙”の空間。nameはその沈黙のなかに身を委ね、欠伸ひとつ。
「……ロシー、またいないし」
文句めいた声にも、熱はない。
どこか馴染んでしまった日常の一幕のように、nameは気だるげに背を伸ばした。窓から差し込む光が横顔を撫でる。端整すぎるとさえ言われるその顔も、今は眠気と退屈と、ほんの僅かな満足感に満ちていた。
彼は――コラソンの“相棒”だった。
ドン・キホーテファミリーの中でも珍しく、直属の命令で動く存在。他の幹部ですら、口を出すことは少ない。その立ち位置にいる理由を、ファミリーの多くは知らない。だが、事実として、彼はロシナンテの“傍”にいた。その目は、何も見ていないようで全てを見透かしていて。笑っていても、どこか醒めているような。
ロシナンテの部屋だけは――彼にとって、本当に気を抜ける唯一の場所だった。
壁にかかったジャケット。テーブルの端に置かれた火のついていない煙草。そのどれもがロシナンテという男の“匂い”を孕んでいて、nameはそれを深く吸い込むように、ソファの上で寝返りを打った。
「ん……戻ってきたら、何かくれんのかな……アイスでも、キスでも……どっちでもいーや」
気怠げな呟きに、誰も応えない。けれどそれでいい。何もないから、逆に全てが許される。
――だってnameは知っている。
この部屋の主が、何者で、何を隠して、何を演じているか。そして、沈黙という名の能力で、誰よりも多くの“嘘”を覆い隠していることも。
だからこそ、何も聞かず、何も問わず、ただここにいる。ぐうたらと寝転び、だらしなく笑いながら、今日もロシナンテの帰りを待っている。
その沈黙のなかに、あの男の温度が残っていることを、誰よりも知っているから。熱を、音を、鼓動を、言葉を――すべて呑み込んだ静寂の部屋。
その中心で、nameはまどろみながら、いつか戻ってくるその“音”を、心のどこかで待っていた。
ドアが静かに開く音がしたのは、nameがソファの上で惰性のように足をぶらつかせていた頃だった。
ふわりと微かな風が室内に入り、沈黙を少しだけ揺らす。nameはその音に反応するでもなく、ただ身体を一段深くソファに沈めると、頭まで被っていた“それ”をふわっと持ち上げて顔だけを覗かせた。ロシナンテのコート――あの大きくて、厚くて、黒いふわふわなコート。それが今はぐしゃりと乱れて、nameの全身を包み込んでいる。
裸ではないものの、だらしなく首元は開き、熱の残滓を纏うような肌が見え隠れしていた。
乱れた髪、上気した頬、潤みの残った目元――すべてが、昼間の熱に引きずられたような微かな“発情”を含んでいた。
「……あ。おかえり、ロシー……」
眠たげな声に艶が混じる。
nameは身体を起こしもせず、そのままごろんと寝返りを打って、コートの裾を引きずったままロシナンテを見上げた。
ロシナンテは、半開きの扉の向こうで立ち止まる。扉を閉めず、荷物も下ろさず、しばしその光景を眺めて――ため息混じりに低く言った。
「……また勝手に俺のコートとりだしてんのかよ……」
「だってロシーの匂いがするから……落ち着くんだよねぇ……あったかいし、ちょっと苦しいけど……」
コートの襟を引き寄せて頬に押し当てながら、nameはくす、と笑う。表情はどこか潤んでいて、ソファの上でくるまる姿は猫のように気ままで、気怠げで――けれど、確かに、わずかに色気を含んでいた。
ロシナンテはやれやれといった様子で扉を閉め、部屋に入る。足元に散らばった紙くずや服の端を避けるようにして、ソファに近づく。
「ドフィから連絡あった。……仕事だ、行くぞ」
低く、しかし淡々とした声。
それは命令ではなく、事実の通知。
けれど、nameの返事は当然――
「……えぇぇぇぇぇぇ」
その場にうずくまって身体を小さくし、ソファの上で転がるように背を向けた。
膝を抱えてコートにくるまり、顔を半分だけ覗かせる。
「やだよ、動きたくない……寒いし、ロシーいない間ひとりでお留守番してたし……」
「人の部屋で寝っ転がってコート着てただけだろうが……」
「そうだよ。それが正解だよ……」
答えながら、くく、と喉の奥で笑う。冗談と甘えと、本音の境界が溶けていくような声だった。
「……でも、ロシーがちゅーしてくれたら、……動ける、かも……?」
くるりと振り向いたnameは、コートの襟を指でつまんだまま、いたずらっぽく笑う。
半分ふざけている。けれど、瞳の奥には確かに熱があった。
それが、わかっているからこそ、ロシナンテはまたひとつ、深く息を吐いた。
「……お前ってやつは、ほんと……」
呆れた声。
けれど、ロシナンテはその場にしゃがみこみ、ソファに寝そべるnameの顔を手で軽く支え――
あっけなく、唇を重ねた。
一瞬。けれど、しっかりと。
nameが驚いたように目を丸くして、それからふにゃりと笑った。
「……え、……優しくされると逆に照れるんだけど」
「……じゃあやっぱりやめとくか」
「待って待って、うそうそ、今のアリ……すごくアリ……」
ふたりの間に笑いが溶けていく。
空気は柔らかく、甘く、ナギナギの静寂よりも優しい温度で部屋を満たしていた。
コートを脱ぐのはもう少し先でもいい――
そう思いながら、nameは重たい身体をようやく起こす。その隣には、いつものように、変わらぬロシナンテの背があった。寡黙で、不器用で、けれど確かに隣にいてくれる相棒の、それは何より確かな“日常”だった。
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