09.mary geois
name
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マリージョアの白く磨かれた大理石が、夏の陽に反射して眩しかった。
鳥籠の中で、薄布をかけられたnameは、揺れる視界のなかに遠ざかってゆく空の青さだけを見ていた。蒼穹の果ては遠く、まるで現実味がなかった。けれど、太腿を伝う熱と鈍い疼きが、それが夢ではないことを、容赦なく思い知らせてくる。
脚の付け根がじんと痺れ、昨夜の名残を押し出すように、ゆるく熱を帯びた感覚が下腹の奥から込み上げてくる。船での数日。狭いキャビンの中、どこであってもドフラミンゴの指と舌と、そして圧倒的なそれがnameを貫き続けた。
眠れず、食べられず、ただ抱かれていた。
――やっと着いた。
そう思ったのに、胸のどこかでふと疼くような失望があった。
視線をあげれば、鳥籠の格子の間からは、王宮の衛兵や、顔を伏せる高官、赤い絨毯に並ぶ神官たちがいた。彼らは誰もがドフラミンゴに一瞥をくれ、あるいは敬礼し、あるいは目を逸らす。だが、その手に下げられている“籠”を、あえて口にする者はいなかった。
nameはもはや慣れていた。誰も見ていないようにして、確実に見てくる視線に。
「はあ……」
吐息とも呻きともつかぬ息が漏れる。
もう数時間まともに身体を伸ばしていない。足枷の鎖がわずかに揺れるたび、鉄が擦れる音が籠のなかに響いた。
服は今朝、丁寧に着せられたものだった。
金の飾りをあしらった淡いラベンダー色のドレス。素肌の透ける薄布の袖。白磁のような肌が透けて見えるように仕立てられた、あまりにも“見せる”ことを前提とした服。指先には宝石のように艶のある赤を塗られ、首元には金のチョーカーがつけられていた。
「……疲れた……」
籠の中でnameは呟く。けれど声にならないような音だった。
目の奥がじんじんと痛む。熱が引かない。
一晩中、――いや昨晩も、だったか。
時間の感覚すらもう、曖昧だ。航海中、ドフラミンゴは“外”へ出ることなく、ただ寝台の上でnameを抱き潰した。食事の前後、眠る直前、目が覚めた瞬間でさえ。快楽の隙間でしか呼吸できない日々。
いま、こうして運ばれていることさえ、幻のようだった。
ドフラミンゴは何事もない顔で鳥籠を片手に持ち、堂々と進んでいく。
その横顔をnameは斜め上から見上げていた。いつもの笑み。余裕のある表情。だが、あの瞳の奥にある熱は、nameを夜毎抱くときと、寸分違わないままそこにあった。
ここがマリージョアだろうが、王たちの前であろうが、彼はきっと、変わらない。
この籠の中にいる女は、ただ“彼のもの”として、抱かれ、飾られ、差し出されるだけ。
鳥籠の扉がかすかに軋んだ。
たぶん気のせいだ。それでも肩が跳ねる。
無意識に脚が引き寄せられ、身体がちいさく丸まった。
――ドフラミンゴが笑ったら、夜は終わらない。
その言葉が、いつのまにか、心の奥に巣くっていた。
だから今日はまだ、日が高いうちに着いたのが、救いだった。
ほんの少しの間、眠れるかもしれない。
nameは視線を落とし、膝を抱えるように身を寄せた。
頬をかすめる風がやけに冷たく感じたのは、鳥籠の中に閉じ込められたままの体温が、もうずっと外気を知らなかったせいかもしれない。
目を閉じると、微かに波の音が耳の奥でこだました。
もう、海は見えないのに。
マリージョアの高くそびえる壁の中、光だけが遠かった。
陽の光がやわらかに差し込む、マリージョアの上層階。
天井まで届く白亜のカーテンが風に揺れ、まるで絹を撫でるような空気の動きが、空間を緩やかに満たしていた。装飾も豪奢すぎず、必要最低限に抑えられてはいるが、椅子のひとつ、照明の金具ひとつがどれも上質で、異質なほどの静けさが支配している。
重厚な扉が軋む音とともに開き、部屋の空気が一瞬かすかにざわめいた。
その手にぶら下げられた鳥籠――金属の格子の中で、小さな身体がゆっくりと揺れる。籠の下部には毛足の長い布が敷かれ、触れれば柔らかな絨毯のような感触があった。けれどその中にいる少女の身体は、緊張と疲労で硬直し、丸く縮こまっていた。
ドフラミンゴが片手で籠を軽々と床に置く。音ひとつ立てずに、それは静かに着地する。
「……着いたぞ」
低く、笑いを含んだ声が部屋に溶け込む。
しばらくして、カチリと鍵が回される音。
鳥籠の扉がゆっくりと開けられた。そこに籠められていた少女――nameは、一瞬、動くことをためらったように固まる。けれど目を伏せ、そろりと身体をずらし、外へ這い出た。
張り詰めた筋肉が、空気に触れてほどけていく。
長く折りたたまれていた脚を、慎重に、けれど確かに伸ばしていく。
脚先が床に触れ、じわじわと感覚が戻るように。
その仕草がまるで巣籠もりの鳥のようで、ドフラミンゴはふっと喉を鳴らして笑った。
「ずいぶん窮屈だったか?」
返事を促すようにしゃがみ込むと、彼はその脚先へと視線を落とす。
nameの足には、まだ何も巻かれていない。
日常の習慣から、次に足枷が来るだろうと自然に思っていた――その予感が外れた。
彼の手は枷には伸びなかった。
代わりに、するりと伸びた指先が、nameの足首を軽く撫でる。
くすぐるように、なぞるように。その仕草に思わず身体が震えるが、彼はどこか満足そうだった。
「……今日は、ナシでいい」
ぽつりと呟くその声は、気まぐれで、どこか退屈を紛らわすようでもあった。
けれどその実、強い確信が滲んでいた――“こいつは、逃げねェ”。
いや、“逃げられねェ”とでも言うように。
nameの視線は俯いたまま。足枷がつけられないことへの違和感よりも、ただどこか拍子抜けしたような、奇妙な無力感が胸に沈んでいた。
自分の意思など、もうここでは関係がない。
逃げないのではなく、逃げられない。
だからこそ――鎖は不要。
ドフラミンゴの手が、今度は足から滑るように腿へ、そして背中へと移る。
乾いた掌が、けれど妙に熱を帯びている。
服の上からでもその熱は伝わって、nameは小さく息を詰めた。
「イイコにしてろよ、……シャワーでも浴びて、少し寝とけ。」
その言葉に、nameはこくりと頷くことしかできなかった。
ゆっくりとベッドへと導かれる。まるで獣が従順に横たわるように。
白いシーツの上に横たわった彼女の顔を、ドフラミンゴは一瞥し、そして何事もなかったように立ち上がる。
窓の外には、天竜人たちが行き交う広場の影がちらついていた。
この地において、誰も逆らうことはできない。
逃げ場など、最初から存在しないのだ。
だからこそ、nameの脚に今夜も鎖はない。
その無言の事実が、何より重く、深く、彼女の心を縛っていた。
ぬるい湯の粒が、頭上からぽたぽたと降り落ちてくる。
マリージョアに割り当てられた部屋のシャワールーム。
豪奢すぎるその装飾も、磨き抜かれた床の冷たさも、今のnameにはただの静物にすぎなかった。
身体を支える脚は震えていて、壁に手をついたまま、何分、そうしていたのかもわからない。湯に濡れた髪が頬を伝い、首を伝い、胸の谷間を滴って落ちていく。
そのあとを追うように、背中や太腿にも、同じような筋が無数にできていた。
視線を落とせば、うっすらと赤黒い痕が皮膚の上に点在している。指の跡、口づけの跡、爪の跡――夜のたびにつけられた、名もなき印たち。最初の頃はそれを見るたびに、うまく息ができなくなっていたのに。今はただ、ぼんやりと「またか」と思うだけ。
流れていく湯に、罪のような重みはなかった。痛みも、羞恥も、もうずっと前に擦り切れていた。
髪を撫でるように指を通し、ようやくシャワーの水を止めた。静けさが戻ると、耳の奥で鼓動だけが響いている。ゆっくりとタオルを取って、濡れた体を拭きながら、nameは深く、浅く、ため息をついた。
――ようやく、眠れるかもしれない。
そんな言葉が、心の底から浮かんできたのはいつぶりだろうか。あの方が会議に行っている今だけは、誰にも見られず、触れられずに横になれる。
身体の奥に残る熱も、ふわふわとする頭も、無理に無視しようとせず、ただ横たわればいい。ただ、目を閉じていればいい。
その事実だけが、救いのようだった。
バスローブに身を包み、湿った足で部屋に戻る。やや乱れたシーツに手をかけ、音も立てず、nameは静かにその上へ身体を滑らせた。背中に布が触れた瞬間、涙が出そうになるほどの安堵が押し寄せた。
――寝たい。何も考えずに、何も感じずに。
目を閉じた。どこからか風がカーテンを揺らす音がした。けれどそれすらも、まるで夢の中のことのように、意識はゆっくりと深いところへ沈んでいった。
そのまま、夢も見ずに眠ってしまえたらと、ただ、願っていた。
鳥籠の中で、薄布をかけられたnameは、揺れる視界のなかに遠ざかってゆく空の青さだけを見ていた。蒼穹の果ては遠く、まるで現実味がなかった。けれど、太腿を伝う熱と鈍い疼きが、それが夢ではないことを、容赦なく思い知らせてくる。
脚の付け根がじんと痺れ、昨夜の名残を押し出すように、ゆるく熱を帯びた感覚が下腹の奥から込み上げてくる。船での数日。狭いキャビンの中、どこであってもドフラミンゴの指と舌と、そして圧倒的なそれがnameを貫き続けた。
眠れず、食べられず、ただ抱かれていた。
――やっと着いた。
そう思ったのに、胸のどこかでふと疼くような失望があった。
視線をあげれば、鳥籠の格子の間からは、王宮の衛兵や、顔を伏せる高官、赤い絨毯に並ぶ神官たちがいた。彼らは誰もがドフラミンゴに一瞥をくれ、あるいは敬礼し、あるいは目を逸らす。だが、その手に下げられている“籠”を、あえて口にする者はいなかった。
nameはもはや慣れていた。誰も見ていないようにして、確実に見てくる視線に。
「はあ……」
吐息とも呻きともつかぬ息が漏れる。
もう数時間まともに身体を伸ばしていない。足枷の鎖がわずかに揺れるたび、鉄が擦れる音が籠のなかに響いた。
服は今朝、丁寧に着せられたものだった。
金の飾りをあしらった淡いラベンダー色のドレス。素肌の透ける薄布の袖。白磁のような肌が透けて見えるように仕立てられた、あまりにも“見せる”ことを前提とした服。指先には宝石のように艶のある赤を塗られ、首元には金のチョーカーがつけられていた。
「……疲れた……」
籠の中でnameは呟く。けれど声にならないような音だった。
目の奥がじんじんと痛む。熱が引かない。
一晩中、――いや昨晩も、だったか。
時間の感覚すらもう、曖昧だ。航海中、ドフラミンゴは“外”へ出ることなく、ただ寝台の上でnameを抱き潰した。食事の前後、眠る直前、目が覚めた瞬間でさえ。快楽の隙間でしか呼吸できない日々。
いま、こうして運ばれていることさえ、幻のようだった。
ドフラミンゴは何事もない顔で鳥籠を片手に持ち、堂々と進んでいく。
その横顔をnameは斜め上から見上げていた。いつもの笑み。余裕のある表情。だが、あの瞳の奥にある熱は、nameを夜毎抱くときと、寸分違わないままそこにあった。
ここがマリージョアだろうが、王たちの前であろうが、彼はきっと、変わらない。
この籠の中にいる女は、ただ“彼のもの”として、抱かれ、飾られ、差し出されるだけ。
鳥籠の扉がかすかに軋んだ。
たぶん気のせいだ。それでも肩が跳ねる。
無意識に脚が引き寄せられ、身体がちいさく丸まった。
――ドフラミンゴが笑ったら、夜は終わらない。
その言葉が、いつのまにか、心の奥に巣くっていた。
だから今日はまだ、日が高いうちに着いたのが、救いだった。
ほんの少しの間、眠れるかもしれない。
nameは視線を落とし、膝を抱えるように身を寄せた。
頬をかすめる風がやけに冷たく感じたのは、鳥籠の中に閉じ込められたままの体温が、もうずっと外気を知らなかったせいかもしれない。
目を閉じると、微かに波の音が耳の奥でこだました。
もう、海は見えないのに。
マリージョアの高くそびえる壁の中、光だけが遠かった。
陽の光がやわらかに差し込む、マリージョアの上層階。
天井まで届く白亜のカーテンが風に揺れ、まるで絹を撫でるような空気の動きが、空間を緩やかに満たしていた。装飾も豪奢すぎず、必要最低限に抑えられてはいるが、椅子のひとつ、照明の金具ひとつがどれも上質で、異質なほどの静けさが支配している。
重厚な扉が軋む音とともに開き、部屋の空気が一瞬かすかにざわめいた。
その手にぶら下げられた鳥籠――金属の格子の中で、小さな身体がゆっくりと揺れる。籠の下部には毛足の長い布が敷かれ、触れれば柔らかな絨毯のような感触があった。けれどその中にいる少女の身体は、緊張と疲労で硬直し、丸く縮こまっていた。
ドフラミンゴが片手で籠を軽々と床に置く。音ひとつ立てずに、それは静かに着地する。
「……着いたぞ」
低く、笑いを含んだ声が部屋に溶け込む。
しばらくして、カチリと鍵が回される音。
鳥籠の扉がゆっくりと開けられた。そこに籠められていた少女――nameは、一瞬、動くことをためらったように固まる。けれど目を伏せ、そろりと身体をずらし、外へ這い出た。
張り詰めた筋肉が、空気に触れてほどけていく。
長く折りたたまれていた脚を、慎重に、けれど確かに伸ばしていく。
脚先が床に触れ、じわじわと感覚が戻るように。
その仕草がまるで巣籠もりの鳥のようで、ドフラミンゴはふっと喉を鳴らして笑った。
「ずいぶん窮屈だったか?」
返事を促すようにしゃがみ込むと、彼はその脚先へと視線を落とす。
nameの足には、まだ何も巻かれていない。
日常の習慣から、次に足枷が来るだろうと自然に思っていた――その予感が外れた。
彼の手は枷には伸びなかった。
代わりに、するりと伸びた指先が、nameの足首を軽く撫でる。
くすぐるように、なぞるように。その仕草に思わず身体が震えるが、彼はどこか満足そうだった。
「……今日は、ナシでいい」
ぽつりと呟くその声は、気まぐれで、どこか退屈を紛らわすようでもあった。
けれどその実、強い確信が滲んでいた――“こいつは、逃げねェ”。
いや、“逃げられねェ”とでも言うように。
nameの視線は俯いたまま。足枷がつけられないことへの違和感よりも、ただどこか拍子抜けしたような、奇妙な無力感が胸に沈んでいた。
自分の意思など、もうここでは関係がない。
逃げないのではなく、逃げられない。
だからこそ――鎖は不要。
ドフラミンゴの手が、今度は足から滑るように腿へ、そして背中へと移る。
乾いた掌が、けれど妙に熱を帯びている。
服の上からでもその熱は伝わって、nameは小さく息を詰めた。
「イイコにしてろよ、……シャワーでも浴びて、少し寝とけ。」
その言葉に、nameはこくりと頷くことしかできなかった。
ゆっくりとベッドへと導かれる。まるで獣が従順に横たわるように。
白いシーツの上に横たわった彼女の顔を、ドフラミンゴは一瞥し、そして何事もなかったように立ち上がる。
窓の外には、天竜人たちが行き交う広場の影がちらついていた。
この地において、誰も逆らうことはできない。
逃げ場など、最初から存在しないのだ。
だからこそ、nameの脚に今夜も鎖はない。
その無言の事実が、何より重く、深く、彼女の心を縛っていた。
ぬるい湯の粒が、頭上からぽたぽたと降り落ちてくる。
マリージョアに割り当てられた部屋のシャワールーム。
豪奢すぎるその装飾も、磨き抜かれた床の冷たさも、今のnameにはただの静物にすぎなかった。
身体を支える脚は震えていて、壁に手をついたまま、何分、そうしていたのかもわからない。湯に濡れた髪が頬を伝い、首を伝い、胸の谷間を滴って落ちていく。
そのあとを追うように、背中や太腿にも、同じような筋が無数にできていた。
視線を落とせば、うっすらと赤黒い痕が皮膚の上に点在している。指の跡、口づけの跡、爪の跡――夜のたびにつけられた、名もなき印たち。最初の頃はそれを見るたびに、うまく息ができなくなっていたのに。今はただ、ぼんやりと「またか」と思うだけ。
流れていく湯に、罪のような重みはなかった。痛みも、羞恥も、もうずっと前に擦り切れていた。
髪を撫でるように指を通し、ようやくシャワーの水を止めた。静けさが戻ると、耳の奥で鼓動だけが響いている。ゆっくりとタオルを取って、濡れた体を拭きながら、nameは深く、浅く、ため息をついた。
――ようやく、眠れるかもしれない。
そんな言葉が、心の底から浮かんできたのはいつぶりだろうか。あの方が会議に行っている今だけは、誰にも見られず、触れられずに横になれる。
身体の奥に残る熱も、ふわふわとする頭も、無理に無視しようとせず、ただ横たわればいい。ただ、目を閉じていればいい。
その事実だけが、救いのようだった。
バスローブに身を包み、湿った足で部屋に戻る。やや乱れたシーツに手をかけ、音も立てず、nameは静かにその上へ身体を滑らせた。背中に布が触れた瞬間、涙が出そうになるほどの安堵が押し寄せた。
――寝たい。何も考えずに、何も感じずに。
目を閉じた。どこからか風がカーテンを揺らす音がした。けれどそれすらも、まるで夢の中のことのように、意識はゆっくりと深いところへ沈んでいった。
そのまま、夢も見ずに眠ってしまえたらと、ただ、願っていた。