08.dress rosa
name
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三日という時間は、数字で見ればあまりに小さく、曖昧で、さして意味を持たないような単位だ。
だがその三日間を、薄暗い鉄の箱の中で過ごすことになった者にとっては――
それは、身を削るほどの長さだった。
鳥籠から元の牢へと戻され、檻の格子に囲まれた静寂のなかで、nameはただじっと時間が過ぎるのを待っていた。
光の差さない室内。時折響く船の軋み。海の底で時間が凍りついたような閉ざされた空間。
食事は簡素なものが投げ入れられるだけで、誰とも会話らしい会話もなかった。
けれどそれはある意味、安息のようでもあった。ドフラミンゴが顔を出さないその時間だけは、自分の輪郭が自分のものとして保てていたのだから。
その沈黙を破ったのは、甲高く軋む扉の音。
ゆっくりと開かれた隙間から差し込む光の先に、見慣れた長身の影が立っていた。
淡い金の髪、奇抜な羽織、そしてあの、他人の心を覗き込むような眼。
「よう、まだ生きてたか」
冗談めかした声。
だがその言葉の奥にあるものは、まるで傷をなぞるような軽やかさ。
nameは立ち上がることもせず、ただ壁にもたれたまま、息を飲んだ。
顔色は悪く、目元にはくっきりと疲労の色が刻まれていた。
眠りも浅く、食も細く、何よりこの数日間に張り詰めた精神の糸が、じわじわとすり減っていた。
そんな様子を一瞥して、ドフラミンゴは声を立てて笑った。
「フッフ……いいツラしてんじゃねェか。ようやく“籠の鳥”らしくなってきたな」
靴音を響かせて近づいてくる。
そのたびに心が冷えていくような感覚に、nameは反射的に肩をすぼめた。
「ほら、立て。運ぶ手間は省きてェ」
動かないnameに対し、ドフラミンゴはため息混じりに腰をかがめる。
そして有無を言わせずその腕を引き、抱きかかえるようにして引きずり出す。
力の入らない身体は、抗うこともできず、そのまま持ち上げられた。
視界の端に、あの鳥籠が見えた。
また、そこに入れられる。
抗いたいという本能と、もはやそれに意味があるのかという諦念が、胸の内で交錯する。
「まだ抵抗すんのか?それとも……もう慣れたか?」
耳元で囁かれるような声に、喉が震える。
けれど返す言葉は、もう出てこなかった。
体温だけが伝わるその腕の中で、nameは再び、檻の中へと沈んでいった。
鳥籠に入れられ、鉄扉が閉まる音が静かに響く。
そのまま、ふたたび薄暗い船底から甲板へと、持ち運ばれる。
外の光はまぶしく、目を細めたnameの瞳に映ったのは――
すでに港に寄せられた石畳と、明るい陽光、そして眼前に広がる色彩と華やかさの街並み。
ドレスローザ――ドフラミンゴの支配する王国。
その地に、nameは“ドフラミンゴの所有物”として、足を踏み入れるのだった。
港のざわめきが遠のき、代わりに石畳を叩く靴音が規則的に響く。鳥籠の格子にかけられた分厚い布は、外の世界をほとんど遮っていた。nameが見えるのは、ほんの隙間から覗くかすかな光と、揺れながら移ろう景色の断片だけ。日の傾きも、空の色も、すべて布の向こう側。音と振動だけが、己がいま地を運ばれているという現実を知らせていた。
まるで荷物。いや、それ以下かもしれない。
抗うことも許されず、行き先を告げられることもなく、ただ目的地へと運ばれるだけの、無機物。
鳥籠を持ち上げる手の主は交代したようで、ドフラミンゴではなかった。淡々と運ばれていくその感覚に、己の存在の軽さが骨の奥に沁みる。
やがて停止する気配。布がばさりと剥がされ、目に飛び込んできたのは、整然と並んだ白と金の石造りの廊下。
空気がひんやりとしており、湿り気ひとつない、洗い流されたような無機質な清潔さがあった。
「こっちだ」
使用人らしき男の声。
鳥籠の扉が開かれ、何の説明もなく、引っ張るように手を伸ばしてくる。
そのまま従うように立たされ、促されるがまま、無言で連れて行かれる。
向かった先は、浴室だった。
温められた湯の香り、漂う花油の匂い。だがそれは癒しでも歓迎でもない。
黙々と与えられる清拭。脱がされ、洗われ、流される。
まるで表面を磨かれるように。
皮膚の奥に染みついたものまでは剥がれないというのに、そんなことには誰も頓着しない。
一言も発せられない。
必要最低限の動作。
機械のような手。
顔を見ようともしない視線。
清められた後、渡された衣服は、上質な絹のワンピースだった。身体の線を無遠慮に浮き立たせる薄布。
裸よりも裸のようなその服をまとわされ、濡れた髪を粗雑に拭われる。
手順通り。感情はどこにもない。
そこに居るのは“人”ではなく、“仕上げられる対象”。
そして、ひととおり終わるとまた、鳥籠へ。
歩かされることもなく、まるで精巧な装飾品を戻すように、指示一つで収められる。
「大人しくしてろ」
ぽつりと吐かれたその言葉に、身体が反応する。
胸がきゅうと縮む。
それでも、逆らえない。
天井のない空間の中で、またも揺られ始める鳥籠。
どこに運ばれるかは、もう分かっていた。
それでも、何もできない。
――王の間。ドフラミンゴの“居場所”。
鳥のさえずる陽だまりの檻などではない。
そこは、天夜叉の棲む玉座。
そして彼女を“面白がる”男の、手のひらの中心だった。
がしゃり、と鈍い金属音を響かせて、鳥籠の底が床から離れた。天井から伸びた太い鎖が、軋みながら巻き上げられ、わずかに揺れるその揺動が、籠の中にいる者の平衡感覚をじわじわと狂わせる。
吊り上げられた鳥籠は、ちょうど部屋の中心より少し奥。
広く、装飾の多い執務室の天井からぶら下げられたそれは、まるで意図的に“見せ物”としてそこに設置されたようだった。
床から一メートルと少しの高さ。座れば籠の格子に頭をぶつけることはないが、立ち上がれば天井に押し付けられる。
逃げ道のない空間。呼吸すら、どこか浅くなる。
部屋は異様なほど静かだった。
先ほどまでnameを運んできていた使用人たちは、設置が終わると無言で立ち去り、重厚な扉が“閉じる”音だけが残された。
独り。籠のなか、天井から吊るされ、何も語るもののない空間にただ浮いている。
窓は高く、白いカーテンが風にゆれる。
その隙間から漏れる光が、金細工の家具に反射し、部屋を仄かに照らしていた。
遠くに見えるのは、陽に照らされたドレスローザの街並み。
カラフルな屋根、踊るように並ぶ建物。人々の笑い声や、風に乗った音楽の気配。
なのにこの部屋は――異様に、静かだった。
nameは鳥籠の中で膝を抱え、窓の外に目を向ける。
透明な空に雲ひとつなく、明るすぎるほどの日差しが城壁を染めていた。
(……眩しい……)
まるで、自分には無縁の光景のようだった。
そこに自由があるのなら、自分のいる場所はまるで――影。
ふと、指が触れる格子の冷たさに現実へと引き戻される。
金属の匂い、薄くついた油の臭気。
さっきまで風呂で洗い清められていた身体に、それが妙にそぐわない。
ドフラミンゴはまだ来ない。
けれどそれが、逆に彼の存在を強く意識させる。
――どのくらい待つのだろう。
――いま何をしているのだろう。
――“あの人”は、この部屋に入ってくるだろうか。
ゆっくりと胸が締めつけられるような感覚。
この時間ですら、彼の支配の内にあるのだと、理解する。
鳥籠の中。
金属の格子の向こう。
風は通るが、自由はない。
それでも、nameは外を見つめ続ける。
まるで、何かを忘れないためのように。
それとも、まだ“誰か”が見つけてくれることを、微かに信じているかのように。
カチリ。
乾いた金属音が部屋に響いた。
天井から吊るされていた鳥籠の扉が、ドフラミンゴの手によってゆっくりと開かれる。冷たい鉄の格子が軋む音とともに、室内の空気がわずかに揺れた。
「出ろよ。……もう、籠の中に入れて見るのには飽きちまった」
軽く笑いながら伸ばされた手は、獲物をつまみあげるような気軽さで、nameの細い腕を掴む。抵抗はしない。ただ、まぶたを伏せて静かに従う。けれど、身体は想像以上に鈍っていた。ずっと鳥籠の中、まともに足を伸ばすことも、立ち上がることすらできなかった日々の代償。
脚を踏み出そうとした瞬間――
その足は床にきちんと重さを乗せることができず、膝がわずかに折れる。
支えのない身体は、床に投げ出されるように、音を立てて崩れた。
「……っ」
着地の際、擦れた膝からは薄く血がにじんだ。
nameは唇を噛む。声は上げない。
だが、耐えるその様子は、却って相手の愉悦に拍車をかけるだけだった。
ドフラミンゴはその様子を見下ろしながら、面白そうに目を細める。
「フッフ……まるで生まれたての小鹿だな。いや、こりゃあ“鳥籠育ちのお姫様”ってとこか?」
茶化すような口調。けれど、その足取りはゆるがない。
ドフラミンゴはゆっくりとnameへと歩み寄ると、片膝をついて彼女の足首を掴んだ。
「……じっとしてろ」
カチャン
冷たい感触が、肌に触れる。
鈍く光る鉄の枷。nameの細い足首には、それがいささか重すぎた。
枷から延びた鎖は、床を這って、ベッドの柱へと続く。
見間違うはずもない。これは――逃げ出させないための、明確な“意志”の証。
「なァに、首輪ほどひどくはねェ。……オレの気分がよけりゃ、外すこともあるさ」
nameはなにも言わなかった。
枷の感触が、あまりにも現実的で。
鉄の冷たさが、今の自分の“立場”をいやというほど教えてくれる。
ドフラミンゴは立ち上がる。
nameを見下ろしたまま、足で鎖を軽く踏んだ。
チャリ……と鉄が鳴き、つながれているという感覚が、肌から骨へ、ゆっくりと染み込んでいく。
「ほら。……また“元の場所”に戻った気分か?」
囁くような声。
けれど、その声音に含まれるのは、過去を知っている者ならではの“悪意ある確信”だった。
nameは瞼を伏せたまま、静かに肩を震わせる。
何も言わず、何も否定せず――
ただ、鎖の重みを受け入れていた。
それが、いまの“自由”の代償なのだとでも言うように。
ベッドのシーツが、ゆっくりと軋んだ。
ドフラミンゴの手によって、nameの身体が持ち上げられ、そのまま静かに寝台へとあげられる。柔らかすぎるほどの敷布が、彼女の背を受け止めた瞬間、皮膚に染み込むような嫌な記憶が、どこか遠くで揺らいだ。
だがその三日間を、薄暗い鉄の箱の中で過ごすことになった者にとっては――
それは、身を削るほどの長さだった。
鳥籠から元の牢へと戻され、檻の格子に囲まれた静寂のなかで、nameはただじっと時間が過ぎるのを待っていた。
光の差さない室内。時折響く船の軋み。海の底で時間が凍りついたような閉ざされた空間。
食事は簡素なものが投げ入れられるだけで、誰とも会話らしい会話もなかった。
けれどそれはある意味、安息のようでもあった。ドフラミンゴが顔を出さないその時間だけは、自分の輪郭が自分のものとして保てていたのだから。
その沈黙を破ったのは、甲高く軋む扉の音。
ゆっくりと開かれた隙間から差し込む光の先に、見慣れた長身の影が立っていた。
淡い金の髪、奇抜な羽織、そしてあの、他人の心を覗き込むような眼。
「よう、まだ生きてたか」
冗談めかした声。
だがその言葉の奥にあるものは、まるで傷をなぞるような軽やかさ。
nameは立ち上がることもせず、ただ壁にもたれたまま、息を飲んだ。
顔色は悪く、目元にはくっきりと疲労の色が刻まれていた。
眠りも浅く、食も細く、何よりこの数日間に張り詰めた精神の糸が、じわじわとすり減っていた。
そんな様子を一瞥して、ドフラミンゴは声を立てて笑った。
「フッフ……いいツラしてんじゃねェか。ようやく“籠の鳥”らしくなってきたな」
靴音を響かせて近づいてくる。
そのたびに心が冷えていくような感覚に、nameは反射的に肩をすぼめた。
「ほら、立て。運ぶ手間は省きてェ」
動かないnameに対し、ドフラミンゴはため息混じりに腰をかがめる。
そして有無を言わせずその腕を引き、抱きかかえるようにして引きずり出す。
力の入らない身体は、抗うこともできず、そのまま持ち上げられた。
視界の端に、あの鳥籠が見えた。
また、そこに入れられる。
抗いたいという本能と、もはやそれに意味があるのかという諦念が、胸の内で交錯する。
「まだ抵抗すんのか?それとも……もう慣れたか?」
耳元で囁かれるような声に、喉が震える。
けれど返す言葉は、もう出てこなかった。
体温だけが伝わるその腕の中で、nameは再び、檻の中へと沈んでいった。
鳥籠に入れられ、鉄扉が閉まる音が静かに響く。
そのまま、ふたたび薄暗い船底から甲板へと、持ち運ばれる。
外の光はまぶしく、目を細めたnameの瞳に映ったのは――
すでに港に寄せられた石畳と、明るい陽光、そして眼前に広がる色彩と華やかさの街並み。
ドレスローザ――ドフラミンゴの支配する王国。
その地に、nameは“ドフラミンゴの所有物”として、足を踏み入れるのだった。
港のざわめきが遠のき、代わりに石畳を叩く靴音が規則的に響く。鳥籠の格子にかけられた分厚い布は、外の世界をほとんど遮っていた。nameが見えるのは、ほんの隙間から覗くかすかな光と、揺れながら移ろう景色の断片だけ。日の傾きも、空の色も、すべて布の向こう側。音と振動だけが、己がいま地を運ばれているという現実を知らせていた。
まるで荷物。いや、それ以下かもしれない。
抗うことも許されず、行き先を告げられることもなく、ただ目的地へと運ばれるだけの、無機物。
鳥籠を持ち上げる手の主は交代したようで、ドフラミンゴではなかった。淡々と運ばれていくその感覚に、己の存在の軽さが骨の奥に沁みる。
やがて停止する気配。布がばさりと剥がされ、目に飛び込んできたのは、整然と並んだ白と金の石造りの廊下。
空気がひんやりとしており、湿り気ひとつない、洗い流されたような無機質な清潔さがあった。
「こっちだ」
使用人らしき男の声。
鳥籠の扉が開かれ、何の説明もなく、引っ張るように手を伸ばしてくる。
そのまま従うように立たされ、促されるがまま、無言で連れて行かれる。
向かった先は、浴室だった。
温められた湯の香り、漂う花油の匂い。だがそれは癒しでも歓迎でもない。
黙々と与えられる清拭。脱がされ、洗われ、流される。
まるで表面を磨かれるように。
皮膚の奥に染みついたものまでは剥がれないというのに、そんなことには誰も頓着しない。
一言も発せられない。
必要最低限の動作。
機械のような手。
顔を見ようともしない視線。
清められた後、渡された衣服は、上質な絹のワンピースだった。身体の線を無遠慮に浮き立たせる薄布。
裸よりも裸のようなその服をまとわされ、濡れた髪を粗雑に拭われる。
手順通り。感情はどこにもない。
そこに居るのは“人”ではなく、“仕上げられる対象”。
そして、ひととおり終わるとまた、鳥籠へ。
歩かされることもなく、まるで精巧な装飾品を戻すように、指示一つで収められる。
「大人しくしてろ」
ぽつりと吐かれたその言葉に、身体が反応する。
胸がきゅうと縮む。
それでも、逆らえない。
天井のない空間の中で、またも揺られ始める鳥籠。
どこに運ばれるかは、もう分かっていた。
それでも、何もできない。
――王の間。ドフラミンゴの“居場所”。
鳥のさえずる陽だまりの檻などではない。
そこは、天夜叉の棲む玉座。
そして彼女を“面白がる”男の、手のひらの中心だった。
がしゃり、と鈍い金属音を響かせて、鳥籠の底が床から離れた。天井から伸びた太い鎖が、軋みながら巻き上げられ、わずかに揺れるその揺動が、籠の中にいる者の平衡感覚をじわじわと狂わせる。
吊り上げられた鳥籠は、ちょうど部屋の中心より少し奥。
広く、装飾の多い執務室の天井からぶら下げられたそれは、まるで意図的に“見せ物”としてそこに設置されたようだった。
床から一メートルと少しの高さ。座れば籠の格子に頭をぶつけることはないが、立ち上がれば天井に押し付けられる。
逃げ道のない空間。呼吸すら、どこか浅くなる。
部屋は異様なほど静かだった。
先ほどまでnameを運んできていた使用人たちは、設置が終わると無言で立ち去り、重厚な扉が“閉じる”音だけが残された。
独り。籠のなか、天井から吊るされ、何も語るもののない空間にただ浮いている。
窓は高く、白いカーテンが風にゆれる。
その隙間から漏れる光が、金細工の家具に反射し、部屋を仄かに照らしていた。
遠くに見えるのは、陽に照らされたドレスローザの街並み。
カラフルな屋根、踊るように並ぶ建物。人々の笑い声や、風に乗った音楽の気配。
なのにこの部屋は――異様に、静かだった。
nameは鳥籠の中で膝を抱え、窓の外に目を向ける。
透明な空に雲ひとつなく、明るすぎるほどの日差しが城壁を染めていた。
(……眩しい……)
まるで、自分には無縁の光景のようだった。
そこに自由があるのなら、自分のいる場所はまるで――影。
ふと、指が触れる格子の冷たさに現実へと引き戻される。
金属の匂い、薄くついた油の臭気。
さっきまで風呂で洗い清められていた身体に、それが妙にそぐわない。
ドフラミンゴはまだ来ない。
けれどそれが、逆に彼の存在を強く意識させる。
――どのくらい待つのだろう。
――いま何をしているのだろう。
――“あの人”は、この部屋に入ってくるだろうか。
ゆっくりと胸が締めつけられるような感覚。
この時間ですら、彼の支配の内にあるのだと、理解する。
鳥籠の中。
金属の格子の向こう。
風は通るが、自由はない。
それでも、nameは外を見つめ続ける。
まるで、何かを忘れないためのように。
それとも、まだ“誰か”が見つけてくれることを、微かに信じているかのように。
カチリ。
乾いた金属音が部屋に響いた。
天井から吊るされていた鳥籠の扉が、ドフラミンゴの手によってゆっくりと開かれる。冷たい鉄の格子が軋む音とともに、室内の空気がわずかに揺れた。
「出ろよ。……もう、籠の中に入れて見るのには飽きちまった」
軽く笑いながら伸ばされた手は、獲物をつまみあげるような気軽さで、nameの細い腕を掴む。抵抗はしない。ただ、まぶたを伏せて静かに従う。けれど、身体は想像以上に鈍っていた。ずっと鳥籠の中、まともに足を伸ばすことも、立ち上がることすらできなかった日々の代償。
脚を踏み出そうとした瞬間――
その足は床にきちんと重さを乗せることができず、膝がわずかに折れる。
支えのない身体は、床に投げ出されるように、音を立てて崩れた。
「……っ」
着地の際、擦れた膝からは薄く血がにじんだ。
nameは唇を噛む。声は上げない。
だが、耐えるその様子は、却って相手の愉悦に拍車をかけるだけだった。
ドフラミンゴはその様子を見下ろしながら、面白そうに目を細める。
「フッフ……まるで生まれたての小鹿だな。いや、こりゃあ“鳥籠育ちのお姫様”ってとこか?」
茶化すような口調。けれど、その足取りはゆるがない。
ドフラミンゴはゆっくりとnameへと歩み寄ると、片膝をついて彼女の足首を掴んだ。
「……じっとしてろ」
カチャン
冷たい感触が、肌に触れる。
鈍く光る鉄の枷。nameの細い足首には、それがいささか重すぎた。
枷から延びた鎖は、床を這って、ベッドの柱へと続く。
見間違うはずもない。これは――逃げ出させないための、明確な“意志”の証。
「なァに、首輪ほどひどくはねェ。……オレの気分がよけりゃ、外すこともあるさ」
nameはなにも言わなかった。
枷の感触が、あまりにも現実的で。
鉄の冷たさが、今の自分の“立場”をいやというほど教えてくれる。
ドフラミンゴは立ち上がる。
nameを見下ろしたまま、足で鎖を軽く踏んだ。
チャリ……と鉄が鳴き、つながれているという感覚が、肌から骨へ、ゆっくりと染み込んでいく。
「ほら。……また“元の場所”に戻った気分か?」
囁くような声。
けれど、その声音に含まれるのは、過去を知っている者ならではの“悪意ある確信”だった。
nameは瞼を伏せたまま、静かに肩を震わせる。
何も言わず、何も否定せず――
ただ、鎖の重みを受け入れていた。
それが、いまの“自由”の代償なのだとでも言うように。
ベッドのシーツが、ゆっくりと軋んだ。
ドフラミンゴの手によって、nameの身体が持ち上げられ、そのまま静かに寝台へとあげられる。柔らかすぎるほどの敷布が、彼女の背を受け止めた瞬間、皮膚に染み込むような嫌な記憶が、どこか遠くで揺らいだ。