07.marine ford
name
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深海から現れたハートの海賊団の潜水艦は、あらかじめ設定された潮流の隙を突くようにして、轟音もなく水面に顔を出す。ドーム状のハッチが開いた瞬間、外気が一気に流れ込み、艦内の空気に金属の熱と血の匂いを含んだ潮風が混じった。
――マリンフォード。
そこはもはや“港”ではなく、“戦場”だった。
砕けた氷、立ち込める蒸気、燃えさかる軍艦の残骸。遠くで炸裂する砲撃音と、破壊された地面に渦巻く破片。空を舞う鳥さえいない。大気は灰と煙と、何よりも死の気配を孕んでいた。
潜水艦の甲板には、クルーたちが手際よく動いている。誰もが手元の作業に集中し、外の惨状には目を向けない。だがその緊張感は明らかだった。これは、戦争という名の熱に巻き込まれる覚悟の上の沈黙。
「“麦わら”を引き受ける!!」
ローの怒鳴るような声が、開かれたハッチの向こうから轟いた。船内で待機していたクルーたちの間にざわめきが広がる。命令が次々に飛び交い、怪我人を乗せる準備が始まる。
その混乱の中――
一人、別の行動を取っている者がいた。
name。
命令されていたのは、“部屋に引っ込んでろ”だった。だが彼女は、すでに決めていた。恐怖も警戒も、すべて飲み込んだ上で、この目で見なければならないものがあると。
最低限の荷物だけを手に、小さな鞄を背負い、足音を殺して通路を抜けてきた。手の中には、まだ封の開けられていない抑制剤。胸ポケットには、ライターの重み。
ハッチの縁に身を寄せ、甲板の死角からそっと外を覗く。爆風の音に混じって、誰かが笑っていた。
「ハハハ!こいつが“麦わらのルフィ”だぁ!」
赤い鼻、派手な衣装、騒がしさすら吹き飛ばす存在感。その男が誰か、nameには知らない。だが彼の隣に担がれるようにして運ばれてきた少年の姿を、彼女は知っていた。
ルフィ。――あの“麦わら”が、ここで、血を流して運ばれてきている。
その姿に、思わず心がざわめいた。小さく息を呑む。これが、“英雄”の姿だったのか。これが、世界を巻き込んだ戦争の中心で闘っていた者の現実なのか。
あまりに生々しく、無防備で、酷く痛々しい。
だが、立ち止まってはいられない。ローに見つかればすべてが台無しになる。急げ、と自分に言い聞かせ、nameは甲板の外縁を静かに走る。視線はあくまで下に、だが耳は騒音のなかから何かを拾おうと研ぎ澄まされていた。
銃声。叫び。何か巨大なものが地を叩く音。命が失われていく気配。
ここは“時代の終わり”の真ん中だった。そうローが言っていた。その言葉の意味を、今まさに肌で理解していた。
ただ、nameの視線が捉えることはなかった。彼女が今も“インペルダウンにいる”と信じてやまない、砂を纏う男の姿が、この戦場のどこかにいるという現実を――まだ、知らなかった。
風が唸るように甲板を撫でていた。瓦礫と焼けた煙の匂いが混ざり、遠くで大砲が咆哮を上げる。戦争の空が、灰色に濁っていた。
バギーは派手な身なりを風にたなびかせながら、浮遊する胴体のままゆったりと空を進んでいた。先ほど、麦わらのルフィをローの潜水艦へと受け渡したばかり。喧騒と混乱を尻目に、彼は再びマリンフォードの中心部へと舞い戻ろうとしていた。
その足元を見上げる小さな影があった。nameだ。
「……待って!お願いします、戻るなら、私を、そこへ連れてってくれませんか…!」
抑えた声に切迫が滲む。甲板の端で身を乗り出すようにして、空を移動しようとする男を見つめていた。バギーは一瞬、飛ぶ姿勢のままきょとんと振り返る。派手な鼻をひくつかせ、眉をひそめた。
「はあ?誰だテメェ……って、なに?何の用だよこのクソ忙しいときに!」
「今じゃないと、もう会えないかもしれないんです……お願いします、私を――」
言葉を遮るように、バギーの浮遊する足がくるくると回る。
「ダメダメ!そんなモン背負ってったらややこしいことになんだろがッ!」
苛立ちと面倒臭さが全身から滲み出ている。だがnameは、少しも退かない。喉の奥で心臓が脈打つのを感じながら、ポーチの内側に手を滑らせ、小さな袋を取り出した。袋の口を開くと、中にはギラリと光る硬貨の束。
「……お金ならあります。お願いします……連れてってくれるだけでいいんです!」
バギーの目がぴくりと動いた。
金。その響きにはやはり抗えない。
「……チッ……ちょっとだけだからな?すぐ降りろよ!?俺様に迷惑かけんなよ!?」
呆れと欲が入り混じったような顔で、バギーは浮かぶ胴体をnameの横へと近づけた。彼女の腕を掴み、軽々と持ち上げる。
「ほれ、しっかり掴まれ!」
その瞬間だった。
「――name」
鋭い、冷えた声が風を裂いた。
振り返ると、艦の開かれたハッチの先に、ローが立っていた。戦場の影に包まれた白衣が、逆光に滲んでいる。怒りが輪郭に宿っている。
「……なにやってんだテメェ……誰の許可で出歩いてやがる」
その声音に、甲板の空気が一気に凍りついた。ベポやシャチたちも、声を出せずに動きを止めていた。
nameの心臓が一度、脈を打つのをやめたような錯覚に陥る。
「ローさん……!」
「戻れ。今すぐだ」
命令ではなく、咆哮に近い声だった。だがバギーの胴体は、すでにふわりと浮き上がり始めていた。
「うわっ!?なんかやべぇ空気……!俺様は関係ないぞ!?こっちは金もらっただけだ!」
「待て、バギー!」
ローが一歩前へ出た刹那、nameの指がバギーの服を掴み、身体をぎゅっと縮めた。
「お願い、お願い、お願い、行かせて……!」
空気が切り裂かれるような風圧。次の瞬間には、バギーの能力によってnameの身体がふわりと甲板から浮かび、ローの手がほんの寸前で届かなかった。
「ッ……!」
怒りを押し殺すように歯を食いしばる音が、艦内に響く。だが、ルフィの処置に人手が割かれている今、ローはその場を離れられない。
「クソが……!」
医者の瞳に、明確な怒気が宿った。冷静さを超えて、これは明らかな“怒り”だった。
だがnameは、背後の気配を振り返る余裕もなく、ただ金属の海と地獄の匂いが立ち込める空へと舞い上がっていった。
胸元で、クロコダイルのライターがコツ、と音を立てた。
“間に合うかもしれない”。その一縷の想いだけを握りしめて――nameはマリンフォードの炎の只中へと向かっていた。
――マリンフォード。
そこはもはや“港”ではなく、“戦場”だった。
砕けた氷、立ち込める蒸気、燃えさかる軍艦の残骸。遠くで炸裂する砲撃音と、破壊された地面に渦巻く破片。空を舞う鳥さえいない。大気は灰と煙と、何よりも死の気配を孕んでいた。
潜水艦の甲板には、クルーたちが手際よく動いている。誰もが手元の作業に集中し、外の惨状には目を向けない。だがその緊張感は明らかだった。これは、戦争という名の熱に巻き込まれる覚悟の上の沈黙。
「“麦わら”を引き受ける!!」
ローの怒鳴るような声が、開かれたハッチの向こうから轟いた。船内で待機していたクルーたちの間にざわめきが広がる。命令が次々に飛び交い、怪我人を乗せる準備が始まる。
その混乱の中――
一人、別の行動を取っている者がいた。
name。
命令されていたのは、“部屋に引っ込んでろ”だった。だが彼女は、すでに決めていた。恐怖も警戒も、すべて飲み込んだ上で、この目で見なければならないものがあると。
最低限の荷物だけを手に、小さな鞄を背負い、足音を殺して通路を抜けてきた。手の中には、まだ封の開けられていない抑制剤。胸ポケットには、ライターの重み。
ハッチの縁に身を寄せ、甲板の死角からそっと外を覗く。爆風の音に混じって、誰かが笑っていた。
「ハハハ!こいつが“麦わらのルフィ”だぁ!」
赤い鼻、派手な衣装、騒がしさすら吹き飛ばす存在感。その男が誰か、nameには知らない。だが彼の隣に担がれるようにして運ばれてきた少年の姿を、彼女は知っていた。
ルフィ。――あの“麦わら”が、ここで、血を流して運ばれてきている。
その姿に、思わず心がざわめいた。小さく息を呑む。これが、“英雄”の姿だったのか。これが、世界を巻き込んだ戦争の中心で闘っていた者の現実なのか。
あまりに生々しく、無防備で、酷く痛々しい。
だが、立ち止まってはいられない。ローに見つかればすべてが台無しになる。急げ、と自分に言い聞かせ、nameは甲板の外縁を静かに走る。視線はあくまで下に、だが耳は騒音のなかから何かを拾おうと研ぎ澄まされていた。
銃声。叫び。何か巨大なものが地を叩く音。命が失われていく気配。
ここは“時代の終わり”の真ん中だった。そうローが言っていた。その言葉の意味を、今まさに肌で理解していた。
ただ、nameの視線が捉えることはなかった。彼女が今も“インペルダウンにいる”と信じてやまない、砂を纏う男の姿が、この戦場のどこかにいるという現実を――まだ、知らなかった。
風が唸るように甲板を撫でていた。瓦礫と焼けた煙の匂いが混ざり、遠くで大砲が咆哮を上げる。戦争の空が、灰色に濁っていた。
バギーは派手な身なりを風にたなびかせながら、浮遊する胴体のままゆったりと空を進んでいた。先ほど、麦わらのルフィをローの潜水艦へと受け渡したばかり。喧騒と混乱を尻目に、彼は再びマリンフォードの中心部へと舞い戻ろうとしていた。
その足元を見上げる小さな影があった。nameだ。
「……待って!お願いします、戻るなら、私を、そこへ連れてってくれませんか…!」
抑えた声に切迫が滲む。甲板の端で身を乗り出すようにして、空を移動しようとする男を見つめていた。バギーは一瞬、飛ぶ姿勢のままきょとんと振り返る。派手な鼻をひくつかせ、眉をひそめた。
「はあ?誰だテメェ……って、なに?何の用だよこのクソ忙しいときに!」
「今じゃないと、もう会えないかもしれないんです……お願いします、私を――」
言葉を遮るように、バギーの浮遊する足がくるくると回る。
「ダメダメ!そんなモン背負ってったらややこしいことになんだろがッ!」
苛立ちと面倒臭さが全身から滲み出ている。だがnameは、少しも退かない。喉の奥で心臓が脈打つのを感じながら、ポーチの内側に手を滑らせ、小さな袋を取り出した。袋の口を開くと、中にはギラリと光る硬貨の束。
「……お金ならあります。お願いします……連れてってくれるだけでいいんです!」
バギーの目がぴくりと動いた。
金。その響きにはやはり抗えない。
「……チッ……ちょっとだけだからな?すぐ降りろよ!?俺様に迷惑かけんなよ!?」
呆れと欲が入り混じったような顔で、バギーは浮かぶ胴体をnameの横へと近づけた。彼女の腕を掴み、軽々と持ち上げる。
「ほれ、しっかり掴まれ!」
その瞬間だった。
「――name」
鋭い、冷えた声が風を裂いた。
振り返ると、艦の開かれたハッチの先に、ローが立っていた。戦場の影に包まれた白衣が、逆光に滲んでいる。怒りが輪郭に宿っている。
「……なにやってんだテメェ……誰の許可で出歩いてやがる」
その声音に、甲板の空気が一気に凍りついた。ベポやシャチたちも、声を出せずに動きを止めていた。
nameの心臓が一度、脈を打つのをやめたような錯覚に陥る。
「ローさん……!」
「戻れ。今すぐだ」
命令ではなく、咆哮に近い声だった。だがバギーの胴体は、すでにふわりと浮き上がり始めていた。
「うわっ!?なんかやべぇ空気……!俺様は関係ないぞ!?こっちは金もらっただけだ!」
「待て、バギー!」
ローが一歩前へ出た刹那、nameの指がバギーの服を掴み、身体をぎゅっと縮めた。
「お願い、お願い、お願い、行かせて……!」
空気が切り裂かれるような風圧。次の瞬間には、バギーの能力によってnameの身体がふわりと甲板から浮かび、ローの手がほんの寸前で届かなかった。
「ッ……!」
怒りを押し殺すように歯を食いしばる音が、艦内に響く。だが、ルフィの処置に人手が割かれている今、ローはその場を離れられない。
「クソが……!」
医者の瞳に、明確な怒気が宿った。冷静さを超えて、これは明らかな“怒り”だった。
だがnameは、背後の気配を振り返る余裕もなく、ただ金属の海と地獄の匂いが立ち込める空へと舞い上がっていった。
胸元で、クロコダイルのライターがコツ、と音を立てた。
“間に合うかもしれない”。その一縷の想いだけを握りしめて――nameはマリンフォードの炎の只中へと向かっていた。