06.polar tank
name
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海上からの夜風が、船体にぶつかり細かく軋ませていた。水面に半ば沈むその鉄の巨体――ハートの海賊団の潜水艦。その甲板に、駆け込むように姿を現したのは、血気と汗と硝煙の残り香を纏った男たち。そしてその腕に抱かれたひとりの女。
「開けろ、すぐ沈むぞ!」
ローの怒声が響くと同時、潜水艦のハッチが開く。ペンギンは腕の中の女を抱え直しながら駆け込むが、その小さな体はまるで生き物のように暴れ続けていた。
「っ、やだっ、放してっ……!」
しゃがれた悲鳴。力任せに腕を蹴り、手の甲を爪で引っかく。意識は朧でも、本能的に必死だった。まともな力ではない。だが、芯に何か焦げついたままの強さがあった。
「おい、暴れんなって!うわっ、やべ……!」
ペンギンの腕から、ずるりと滑り落ちる。
その拍子に甲板へ叩きつけられたnameの体が、小さく跳ねた。
衝撃で乱れた服の裾が、むき出しの腰を晒す。その肌に、燦然と輝く金色の刻印。太陽の意匠。
「おいっ……!逃がすな、捕まえとけって船長に言われてんだろ!」
「けど、これ……本当に人間か?なんか、ヤバイもん仕込まれてんじゃ……!」
「うるせぇ!いいから抑えろって!」
床を這うように、nameは逃げ出そうとする。
まるで追い詰められた獣。
焦点の合わない目がちらつき、口から漏れる呼吸は荒く、喉が潰れたように掠れていた。
「……っ、っひ……いやっ……、触らないで……っ!」
誰かの手が伸びるたびに、弓なりに背を反らせ、爪を立てる。掠れた声で拒み、涙とも汗ともつかない滴が頬を伝う。
「このままじゃ……あいつ、自分で壊れちまうぞ」
「……見てろ、俺が抑える」
そう言って、一人のクルーが背後から飛びかかる。
が、次の瞬間。
「やめてください……っ……ッ、さわらないで、そんなっ、また……また……っ……!」
nameの口から漏れた声は、かつての痛みと恐怖に彩られた断片だった。
喉の奥で押し殺すような叫び。
触れる手があるだけで、記憶のなかの何かがぶり返す。
それでも、クルーは迷うことができなかった。――「逃がすな」と言われた以上、それは命令。
「お前っ……お願いだから、おとなしく……っ!」
彼女の細い手首を掴んだとたん、全身が跳ねた。ひと際強く震え、刹那、目を見開く。
口元に、微かに滲む赤。唇を強く噛みすぎていた。
「……な、なんだよこれ……」
クルーたちは困惑しながらも、倒れたnameの体を囲むようにして、動きを封じる。
その場の空気が、異様な緊張を孕み始めた――
まるで何かを引き裂く前兆のような、重たく湿った気配が、艦内の照明の下に充満していく。
その只中、少女の肌には冷や汗が滲み、肩がひくひくと痙攣していた。
「……キャプテン……これ、まずいかもしれないぞ……」
誰かが小さく、息を吐くように呟いた。
答えはなかった。
その代わりに、船の奥から、確かな足音が響き始めた。冷たい規則のように、鋭く、静かに。
艦内の空気が変わったのは、扉が軋みを上げて開いた瞬間だった。
静かに、けれど確かな足取りでローが現れる。薄暗い廊下の向こうから現れたその姿に、数人のクルーは思わず背筋を伸ばした。
「……何逃がそうとしてんだ、まったく」
言葉とは裏腹に、その口元には呆れと共にわずかに上がった笑み。
飄々とした態度の中に、底の読めない愉しさが潜む。
ローの視線は、床に抑え込まれている女――nameへとすぐに向かう。
彼女はなおも必死に身をよじり、混濁する意識の中で抵抗の姿勢を崩していなかった。
髪は乱れ、汗と涙が混じった頬が赤く火照り、肩は激しく上下していた。
「ちょっと見せてみろ」
そう言って膝をつき、nameの顔へと手を伸ばしたロー。
その瞬間――
「……ッ、やめて……!」
ぱしん、と手の甲を弾かれる。小さく、けれど鋭い拒絶の動き。
ローは驚く様子もなく、面白そうに口角を引き上げた。
「へぇ、まだその程度の気力はあるんだな」
頬にかかる髪を指先でそっと払う仕草に、どこか観察者の余裕が滲む。
だがその“愉しげ”な態度に、周囲のクルーたちは目をそらし気味になる。
「出たよ……まただ」
「キャプテンの悪い癖……」
「絶対これ面白がってるよな」
ぼそり、ぼそりと囁かれる声。
誰もが心の中で「関わりたくない」と思いながらも、状況は待ってはくれなかった。
「――連れていく。医務室に」
ローの言葉が告げられた瞬間、クルーたちは溜め息まじりに動き出した。
小柄なnameを持ち上げ、暴れる身体をなんとか運び出す。
だが、部屋の明かりに照らされた“それ”を見た瞬間、nameの反応が一変した。
「……っ、や……いや、やめてください……!」
医務室の台の傍に置かれていた注射器。
それを見た瞬間、nameは悲鳴を上げて大暴れし始めた。
「やだっ、注射は、やめて……ッ!!」
声が掠れ、泣き叫び、爪を立てる。
泣き声はもはや理性では抑えられず、まるで過去の恐怖が再現されているかのようだった。
「……これは、ひどいな」
ローが眉をひそめたのは一瞬。
だが次の瞬間には無表情に注射器を手に取り、薬液の気泡を抜く。
「押さえろ、首に打つ」
「マジかよ……この状態でか?」
「いいからやれ。手際悪いと怪我するぞ」
躊躇うクルーたちがnameの手足を押さえつける。
彼女の細い体が何度も跳ね、喉から上がる嗚咽と悲鳴は痛々しいほどだった。
「やだ、いやっ……ッ、やめて……お願い、やめてください……ッ!」
涙で濡れた睫毛が震え、目を見開いたまま首を反らす。
だがローは迷わなかった。
「動くな、少しだけだから」
そう呟いた彼が、冷たい金属を首筋へと当てる。
――刹那、nameの体がびくりと跳ねた。
薬液が注入された瞬間、全身から力が抜ける。
震える唇が最後に何かを言おうと動いたが、それは声にならなかった。
まぶたが、静かに降りる。睫毛が濡れた頬に触れた。
ローは静かに注射器を引き抜き、手元のガーゼで針痕を押さえる。
「……これで、しばらくは大人しくなる」
その声に誰かが小さく息を吐いた。
緊張の糸がようやく緩む空気のなか、眠るように静かになったnameの身体が、ローの影に覆われていた。
「さて、ここからだな。……お前の“素性”と“記憶”、ゆっくり見せてもらおうか」
そう呟いた彼の瞳は、医師のそれとは思えないほどに鋭く、そして深く、何かを覗き込む者の色を宿していた。
「開けろ、すぐ沈むぞ!」
ローの怒声が響くと同時、潜水艦のハッチが開く。ペンギンは腕の中の女を抱え直しながら駆け込むが、その小さな体はまるで生き物のように暴れ続けていた。
「っ、やだっ、放してっ……!」
しゃがれた悲鳴。力任せに腕を蹴り、手の甲を爪で引っかく。意識は朧でも、本能的に必死だった。まともな力ではない。だが、芯に何か焦げついたままの強さがあった。
「おい、暴れんなって!うわっ、やべ……!」
ペンギンの腕から、ずるりと滑り落ちる。
その拍子に甲板へ叩きつけられたnameの体が、小さく跳ねた。
衝撃で乱れた服の裾が、むき出しの腰を晒す。その肌に、燦然と輝く金色の刻印。太陽の意匠。
「おいっ……!逃がすな、捕まえとけって船長に言われてんだろ!」
「けど、これ……本当に人間か?なんか、ヤバイもん仕込まれてんじゃ……!」
「うるせぇ!いいから抑えろって!」
床を這うように、nameは逃げ出そうとする。
まるで追い詰められた獣。
焦点の合わない目がちらつき、口から漏れる呼吸は荒く、喉が潰れたように掠れていた。
「……っ、っひ……いやっ……、触らないで……っ!」
誰かの手が伸びるたびに、弓なりに背を反らせ、爪を立てる。掠れた声で拒み、涙とも汗ともつかない滴が頬を伝う。
「このままじゃ……あいつ、自分で壊れちまうぞ」
「……見てろ、俺が抑える」
そう言って、一人のクルーが背後から飛びかかる。
が、次の瞬間。
「やめてください……っ……ッ、さわらないで、そんなっ、また……また……っ……!」
nameの口から漏れた声は、かつての痛みと恐怖に彩られた断片だった。
喉の奥で押し殺すような叫び。
触れる手があるだけで、記憶のなかの何かがぶり返す。
それでも、クルーは迷うことができなかった。――「逃がすな」と言われた以上、それは命令。
「お前っ……お願いだから、おとなしく……っ!」
彼女の細い手首を掴んだとたん、全身が跳ねた。ひと際強く震え、刹那、目を見開く。
口元に、微かに滲む赤。唇を強く噛みすぎていた。
「……な、なんだよこれ……」
クルーたちは困惑しながらも、倒れたnameの体を囲むようにして、動きを封じる。
その場の空気が、異様な緊張を孕み始めた――
まるで何かを引き裂く前兆のような、重たく湿った気配が、艦内の照明の下に充満していく。
その只中、少女の肌には冷や汗が滲み、肩がひくひくと痙攣していた。
「……キャプテン……これ、まずいかもしれないぞ……」
誰かが小さく、息を吐くように呟いた。
答えはなかった。
その代わりに、船の奥から、確かな足音が響き始めた。冷たい規則のように、鋭く、静かに。
艦内の空気が変わったのは、扉が軋みを上げて開いた瞬間だった。
静かに、けれど確かな足取りでローが現れる。薄暗い廊下の向こうから現れたその姿に、数人のクルーは思わず背筋を伸ばした。
「……何逃がそうとしてんだ、まったく」
言葉とは裏腹に、その口元には呆れと共にわずかに上がった笑み。
飄々とした態度の中に、底の読めない愉しさが潜む。
ローの視線は、床に抑え込まれている女――nameへとすぐに向かう。
彼女はなおも必死に身をよじり、混濁する意識の中で抵抗の姿勢を崩していなかった。
髪は乱れ、汗と涙が混じった頬が赤く火照り、肩は激しく上下していた。
「ちょっと見せてみろ」
そう言って膝をつき、nameの顔へと手を伸ばしたロー。
その瞬間――
「……ッ、やめて……!」
ぱしん、と手の甲を弾かれる。小さく、けれど鋭い拒絶の動き。
ローは驚く様子もなく、面白そうに口角を引き上げた。
「へぇ、まだその程度の気力はあるんだな」
頬にかかる髪を指先でそっと払う仕草に、どこか観察者の余裕が滲む。
だがその“愉しげ”な態度に、周囲のクルーたちは目をそらし気味になる。
「出たよ……まただ」
「キャプテンの悪い癖……」
「絶対これ面白がってるよな」
ぼそり、ぼそりと囁かれる声。
誰もが心の中で「関わりたくない」と思いながらも、状況は待ってはくれなかった。
「――連れていく。医務室に」
ローの言葉が告げられた瞬間、クルーたちは溜め息まじりに動き出した。
小柄なnameを持ち上げ、暴れる身体をなんとか運び出す。
だが、部屋の明かりに照らされた“それ”を見た瞬間、nameの反応が一変した。
「……っ、や……いや、やめてください……!」
医務室の台の傍に置かれていた注射器。
それを見た瞬間、nameは悲鳴を上げて大暴れし始めた。
「やだっ、注射は、やめて……ッ!!」
声が掠れ、泣き叫び、爪を立てる。
泣き声はもはや理性では抑えられず、まるで過去の恐怖が再現されているかのようだった。
「……これは、ひどいな」
ローが眉をひそめたのは一瞬。
だが次の瞬間には無表情に注射器を手に取り、薬液の気泡を抜く。
「押さえろ、首に打つ」
「マジかよ……この状態でか?」
「いいからやれ。手際悪いと怪我するぞ」
躊躇うクルーたちがnameの手足を押さえつける。
彼女の細い体が何度も跳ね、喉から上がる嗚咽と悲鳴は痛々しいほどだった。
「やだ、いやっ……ッ、やめて……お願い、やめてください……ッ!」
涙で濡れた睫毛が震え、目を見開いたまま首を反らす。
だがローは迷わなかった。
「動くな、少しだけだから」
そう呟いた彼が、冷たい金属を首筋へと当てる。
――刹那、nameの体がびくりと跳ねた。
薬液が注入された瞬間、全身から力が抜ける。
震える唇が最後に何かを言おうと動いたが、それは声にならなかった。
まぶたが、静かに降りる。睫毛が濡れた頬に触れた。
ローは静かに注射器を引き抜き、手元のガーゼで針痕を押さえる。
「……これで、しばらくは大人しくなる」
その声に誰かが小さく息を吐いた。
緊張の糸がようやく緩む空気のなか、眠るように静かになったnameの身体が、ローの影に覆われていた。
「さて、ここからだな。……お前の“素性”と“記憶”、ゆっくり見せてもらおうか」
そう呟いた彼の瞳は、医師のそれとは思えないほどに鋭く、そして深く、何かを覗き込む者の色を宿していた。